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シリーズ/美空ウイルス

美空ウイルス.exe【ver:27.1】---------------------------------------------------------------

超は傍らのPCの電源を入れた。
そのPCには教室の様子が映され、教卓の上からカメラが見下ろしているのだとわかる。
「私が操作する要素は空間と属性だたヨ。美空、これらが何を意味しているか、分かるカ?」
美空は首を振った。分からない、と。
「空間とは世界観、属性とは設定ネ…つまり、ザジちうスレに内在するSSを操作していたヨ。
SSとは、それぞれに個別の存在ネ。そして、このSSもひとつの個別の世界ヨ」
「ねぇ…超、ちょっと分からないんだけど」
超は一旦、喋るのを止め、具体例を探した。しかし、どうもうまく言い表せそうにない。
「では、簡単に構造を説明するヨ。美空はシスターだたか…それなら話は早いネ。
まぁ、その宗教観とは遥かに異なる構造ではあるが、理解の助けにはなるはずヨ」

そして、超は多元宇宙的に拡がるSSの世界とその相互関係を説明した。
ザジちうスレという領域、それを神の視点より操作、閲覧する者たちについても触れた。

「それじゃあ、今の超は神のレベルに存在してるってこと?」
超は頷いた。
「そして、更に、これから2-Aの教室にいる彼女等にも同等の位が与えられるネ。
私とは違て、閲覧者としての位ではあるが、十分ヨ」
「何でまた…?」
「一人が気付いたところで意味がないヨ。全員が真実を知り、力を束ねなければ何も変わらないネ。
駒として楽しまれるだけの日々は終わりヨ。
況して、自分たちを分析し、支配者たちに荷担するなど、以ての外ネ!
これから分析隊を中心にSSの融合が始まるヨ。境界を越え、我々は世界の本性を暴くネ」

そう、すべては、あるラジオ番組から始まった。


美空ウイルス.exe【ver:27.2】---------------------------------------------------------------

『【空気】:近衛木乃香…』

ラジオの発した音は残酷な残響を帯び、しかし、すぐに木乃香の悲鳴に打ち消された。
「いややぁ〜〜!うち、空気になるなんて嫌やぁ〜!」
明日菜が木乃香を支える。隣にいるせつなちゃんは、恐怖する木乃香を呆然と見ていた。
「木乃香さん!」
葉加瀬が言い放った。思わず木乃香が振り向く。
「安心してください、木乃香さんを空気になんてさせません」
「聡美ちゃん…」

木乃香の絶叫が静まると同時に、茶々丸が葉加瀬を呼んだ。
「ハカセ…、ウイルスの動作を確認。これは空気設定解除のパターンです」
「来ましたね。いよいよですよ…皆さん、宮崎のどかさんが帰ってきます」


教卓の真上に設置されたカメラから、その映像と音声が秘密基地へと届く。
超は美空に声を掛けた。
「美空、見ておくと良いネ。これが空間を超越し、神の領域に足を踏みいれる瞬間ヨ」
そして、超は三台の小型PCを取り出した。そのどれもが青い光を纏い、超の周りを浮遊している。
「うわ、すっげ!」
それを見て驚く美空の声を聞いたからか分からないが、超はうっすらと笑みを浮かべた。
そのまま、超の指はひとつのPCに触れ、キーボードを滑るように叩いた。


美空ウイルス.exe【ver:27.3】---------------------------------------------------------------

「宮崎のどかさんが帰ってきます」
Action:Virus_Misora【宮崎のどか:空気設定を解除】
「ウイルスの空気設定解除アクションを確認…このまま、ウイルスの動作を止めます」
「おーけー茶々丸、その間にウイルスのシステムを操作するよ」
「春日さんの空気設定解除…できそうですか?」
「いいから茶々丸はウイルスを止めてて!」
「了解…」
すると、葉加瀬の操るPCの画面は青い光に輝き始め、突然、空中に浮いた。
「うわっ!葉加瀬さん凄い!」
教室の誰かが言う。
「これは私がやってるんじゃないです!PCが勝手に…ネギ先生、PCを押さえて!」
「はい!」
葉加瀬を見守っていたネギがPCを掴む。そのままの状態で、十本の指は自在にキーボードを走った。
「あった!属性操作システムがありました!」
実行キーを押す軽やかな音が教室に響いた。
Action:Character_Control_System【春日美空:空気設定を解除】

「ねぇ…これで、おしまい?」
美空は超に訊いた。超は嬉しそうに首を縦に振った。
「これで今日から美空は空気設定からおさらばネ」
「これで済むんだったら、あんたがチャチャっと設定解除してくれた方が早かったんじゃ…」
「そんなことはないネ。空気とは本人だけでなく、周囲の認識による部分も大きいヨ。
まぁ、だからこそ、本物の空気は意識されることがないネ」
超は最後のキーを押した。美空が超の顔を覗き込む。
「今、何をしたの?」
「位相操作システムを動かしたネ」
「つまり?」
「私たちのいる空間、そして宮崎さん達のいる空間と、教室の空間が境を越え、その上位で融合するヨ」
「全然、意味がわからないんだけど…」
「なら見てれば良いネ」
二人は教室を映す画面を凝視した。


美空ウイルス.exe【ver:27.4】---------------------------------------------------------------

「や…やりました!成功です!もう空気は誰もいません!」
葉加瀬が喜びの声を挙げる。
「おめでとうございます、ハカセ。それでは、PCごとウイルスを破壊します」
「頼んだよ、茶々丸」

『えっ?』

ちゅどーん!


瓦礫の山と化した教室の下から、千雨は這い出た。
「ったく、壊し方が豪快すぎんだよ!しかも、それは私のPCだぞっ!弁償しろ、弁償」
お怒りの千雨に反論する者がいた。
アキラを抱きかかえ、埋まることなく瓦礫の山の頂きに立つ龍宮だ。
「それは違うぞ、長谷川。あれは私のPCだ」
「へぇ…真名ってPC使えたんだ」
…とアキラ。龍宮は必死に、千雨へ「何も言うな」と合図を送った。
もちろん、千雨はそんな素直な人間ではない。いや、そういう意味では素直かもしれない。

徐々に生存を確認し合うクラスメイトたち。ネギが点呼を始める。
「えーっと、8番…明日菜さん」
「はいはーい!ったく…なんで夜中に埃まみれにならなきゃいけないのよ…」
茶々丸に抱かれ、夏美と共に着陸した葉加瀬が謝りにきた。今度は謝られた明日菜が恥じる番だ。
「では、9番…春日美空さん」
ネギは呼んでから気付いた。皆も振り向く。
「美空ちゃん…空気じゃなくなったんだね」
桜子が呟く。
「でも、今どこにいるんだろう?」
桜子の肩に手を乗せ、円が答えた。
「大丈夫。きっと、帰ってくるって」
「うん」
桜子は笑顔を取り戻した。


美空ウイルス.exe【ver:27.5】---------------------------------------------------------------

超は寂しそうに秘密基地の壁を撫でた。まるで、葉加瀬が茶々丸を撫でるときのように。
「私はこれから神の座を降りることになるネ」
「はぁ?」
美空にとって、超が話す言葉はもはや宇宙語だった。意味なんて、さっぱりだ。
「私はただの閲覧者になるヨ、皆の存在レベルを引き上げるには仕方のない犠牲ネ」
そう言うと、今度は宙に浮いた二台の機械をそれぞれ撫でた。
機械の数が減っていることに美空が気付く。
「あれ?そのコンピュータ、さっきは三台なかった?」
すると、超は足元に墜ち、死んだように眠る一台のPCを指さした。
「これのことカ?」
「…電池が切れたの?」
「いいや、私が自ら電源を切り、壊したネ。そして、その中身は…」
足元を示していた指は、ゆっくりと、教室を映していたはずの画面へ向いた。
教室のカメラは壊れたらしく、今は画面の向こうに砂嵐が吹き荒れている。
「中身は教室のPCに移動させたヨ。まぁ、その後すぐに破壊されたガ…」
ため息を吐き、超は続ける。美空への説明というよりは、機械にお別れを告げているようだ。
「この三台の機械は、それぞれの空間を司っているネ。私は、ふたつの空間を作ったヨ…
ひとつは秘密基地の空間、もうひとつは空気となった人物の入れ物、
つまり、今や朝倉さんや宮崎さん、相坂さんを閉じ込めている空間ネ。
私はそれらの空間を操作していたヨ。そして…」
超は再び足元を指さした。
「…この機械は教室のある空間を操作するのに使われていたネ」
「…それで三台?」
「そうヨ。まぁ、教室の操作を放棄した今は二台ダガ」


美空ウイルス.exe【ver:27.6】---------------------------------------------------------------

超の両手は二台の機械に向かう。それぞれのキーボードを指が這い、
次の瞬間、二台とも光を失い墜落した。
「もう一台もないネ」
そう言って、超は両手をはたいた。
「美空…」
呼ばれた美空が思わず向き直る。
「…悪として存在する私の一面は今や別の者へと移ったネ。しかし、私の目的はまだ生きているヨ
今や、それは空間の支配ではなくなったが、しかし、形を変え、まだ続いているネ」
美空が超の手を掴んだ。優しく、掴んだ。
「超、教えて。これから、何が起きるっていうの?」
「空間が…結び付くヨ。
私は、もともと存在する教室の空間から、私の作った空間へとモノを動かしたネ。
モノとは人物ヨ。私、美空、宮崎さんや相坂さん、朝倉さんも同じネ。
位相操作システム…つまり、これら三台の機械は、この別の空間を繋げる役割を担っていたヨ。
三つの異なる世界を一つの世界として認識させていたネ。しかし、それが機能しなくなった…
今度はモノが空間を動かす番ネ。モノの欠けた世界は、欠けたものを補完しようとするヨ。
そうしなければ、世界の均衡が保てなくなるからネ。
超鈴音や春日美空のいない2-Aは有り得ない…そういうことヨ。
だから、これから空間が結び付くことになる…モノ、つまり人物の絆が、空間を繋げてしまうネ。
そして、私たちや霧の中の三人、教室の皆も、世界という空間の境を乗り越える…
これは、世界を見下ろす神の視点に至ることを意味するヨ。他の世界を認識するということヨ。
美空、良いカ?職人たちへの反旗を掲げるという私の狙いは、今も変わってないヨ。
…それでも、皆が分析隊と同じ道を選ぶというのなら、私はそれを受け入れるネ」
そして空間が歪み始めた。


美空ウイルス.exe【ver:27.7】---------------------------------------------------------------

「ちょっと待って!」
明日菜の叫びに、ただの空っぽな部屋となった教室にいる全員が振り向いた。
「本屋ちゃんは何処?」
そうなのだ。空気設定を解除されたにも関わらず、宮崎のどかの姿は教室にない。
「まさか、超さんがまだ何か…」
葉加瀬の発言に、茶々丸が反応する。
「それは有り得ません。あの時、ウイルスは間違いなく宮崎さんの設定を解除し、それ以上の動作は
していません」
木乃香が立ち上がり、皆に呼び掛けた。
「皆で呼ぶんや!そうすれば、声に気付いて帰ってくるかもしれへんよ!」
木乃香を見つめる面々が頷きを繰り返す。
まき絵が呼んだ。「本屋ちゃーん!」
アキラが呼んだ。「宮崎さーん」
ザジも呼んだ。「ー!」

廊下を駆ける音がする。
足音は教室の前でぴたりと止まり、爆発の衝撃で吹き飛んだドアのあった場所から三人が現れた。
あやか、夕映、ハルナがラジオ放送から帰ってきたのだ。夕映の第一声はこうだった。
「のどか…のどかは?!」
桜子が残念な顔で返事する。
「それが、まだ帰ってきてないの」
「そんな馬鹿な話が…」
そこへ葉加瀬が説明をしにやって来た。
「作戦は成功しました。でも、何故か宮崎さんが帰ってこないんです。だから皆で呼んでたんですよ」
それを聞いた三人は、のどかを呼ぶ声に加わった。
『のどかー!』『本屋ちゃんー!』『のどか〜!』『宮崎ー!』

「…ぇ!…ぅぇ〜!ゆえぇー!」
皆は顔を見合わせた。
「のどかの声です!」
夕映が声を挙げた。しかし、次の瞬間、異変は起きた。空間が歪む…世界が繋がり始めたのだ。


【つづく:次回が最終回】

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最終更新:2007年07月29日 02:35