トラウマから来る、過呼吸。
それは、戦争の渦中に身を置いていた兵隊にとっては、極めて身近で、誰もが陥る可能性を秘めた発作である。
戦中での体験と記憶が、平和な日常を過ごしている最中に突如としてフラッシュバックを起こし、パニック障害などを引き起こす。
戦争と言う過酷極まる世界を生き抜いてきた兵士が、過酷とは無縁の平和な日常の中で、その精神を蝕まれるのだ。皮肉な結果以外の何物でもない。

 北上は、艦娘としての自負で、PTSD一歩手前のそのトラウマの発作を抑えていた。
抑えられたのが、奇跡だとすら思っていた。プライドは元々人並みだと思っていたが、それでも、あの瞬間だけは、北上は自分のメンタルの存外の強さを褒めてやりたかった。

 上落合のマンションで遭遇した、絶世の美貌を誇るアサシンとの不意の再会は、安定傾向にあった北上のメンタルを掻き乱すには十分過ぎる程のパワーがあった。
北上の語彙では、到底表現不可能――と言うより、人界の言葉では表象不可能な程である、あの美貌は、本来の意味とは全く異なる意味で、直視に堪えない。
見ようと決意するだけで、深海棲艦の跋扈する海域に突入する以上の覚悟が必要になる美貌など、凡そ、この世の物ではない。
そして、その美貌から繰り出される、艦娘の象徴である艤装は勿論、アレックスが操るサーヴァントとしての力すら及ばぬ、『不思議』以外の何物でもない殺しの技。
極め付けが、悪辣を極めるあの性格。艦娘の敵である所の、深海棲艦ですらが、個体によっては会話と交渉の余地がある程度には、良識と呼べるものが僅かながらにあった。
あの麗しい魔人には――それがない。あるのは徹底して、己のエゴと悪性だけ。悪逆を成す為だけに、この世に生を授かった、純然たる魔人。それが彼、浪蘭幻十と言うアサシンだった。

 そんな、恐るべき男に、北上もアレックスも、殺されかけた。
よくぞ、生きているものだと彼女は思う。判断一つ、しくじっていれば彼女らは本当にあのマンションで命を落としていたのだ。
それほどまでの激戦だった。尤も……、激戦と言うのは彼女らから見た場合であって、幻十から見れば、蟻でも蹴散らすかの如き一方的な蹂躙劇であったのだが。

 それ程まで痛い目をあわされた人物に出会ってしまえば、心が掻き乱されるのも、仕方の無い話であった。
況して絵画館で出くわした時は、アレックスと言う頼れる相棒が居なかったのだ。動揺を超えて戦慄・恐慌に近い状態にも、なろうと言う物だ。

「……なぁ、嬢ちゃん」

 絵画館の中を疾走しながら、塞は、後ろを追随する北上に対して言葉を投げかけた。
早く逃げねば、拙い。塞は、自身の予感を信頼している。良い方の、では無く、悪い方の予感の方をだ。そちらは嫌な話だが、良く当たるのだ。
尤も、塞でなくても容易に想像出来るかもしれない。この絵画館は、間違いなく、幻十の手によって戦場と化す。
それも、建物としての形が残っていれば良い方。最悪、建物の跡形もない程、壮絶な戦いが繰り広げられるだろうと言う予感すら彼にはあるのだ。
無論のこと、そんなのに巻き込まれれば一たまりも無い。逃げるが勝ち、という物だった。

「アンタ、あのアサシンの事……知ってたな?」

「……」

 どうして、そう思ったの? などと、北上は言えなかった。
シラを切って押し通す事が出来ないと、彼女は思ったからだ。故にこその、沈黙。そしてその行為は、自らがアサシン・浪蘭幻十の事を知っていた、と言う事を雄弁に語っていた。

 塞も、知らなかったと言う言葉を発させる事は許さない。状況証拠があそこまで揃っていれば、塞でなくとも馬鹿でも解る。
あの、思い出すだけで冷や汗が吹き出るような、恐ろしい美貌のアサシンを見た時の、異様な恐怖と震えが、証拠の一つ目。
と言っても、北上のこのリアクションは塞は責められない。彼自身ですら、戦慄と忌憚の念をあの美貌には隠しえなかったからだ。
況して異性である北上が、あの美しさを目の当たりにして無事でいられるだろうか? それを思えば、成程、北上のあの反応は、証拠として数えるのは無理があるのかもしれない。
だが――もう一つの証拠がそれを許さない。あの時北上は、確かにこのような旨の言葉を叫んだのだ。『あのアサシンと戦ってはいけない』……と。
これを聞けば、誰だって思うだろう。北上は過去に、あのアサシンとコンタクトを取っていたばかりか、交戦の経験すらあるのだ、と。
其処を、塞は疑らなかった。彼女の言葉を額面通りに受け取り、そして素直に解釈した。そしてその解釈は正しかった。正しすぎた、とも言う。
北上の言った通りだった。あのサーヴァントとは、戦っては行けなかった。此方側が有していた情報が余りにも少なかった為、
今更挑んでしまった事を悔いるのは非生産的だと言わざるを得ない。そうと解っていても、歯噛みせずにはいられない。
鈴仙の能力を歯牙にもかけない、奇妙な実力の持ち主だと解っていれば……早々に退散していたものを。

「悪いが、その気になった俺は、黙秘権なんて上品な考え方を遵守するつもりはない。質問が非難を飛び越えて、拷問に変わる前に答えて欲しいんだが……」

「知ってたって言うか……戦った事があります」

 やはりそうか、と塞と鈴仙。其処までは予想出来た。

「別に黙ってた訳じゃないよ。聞かれなかったからさ」

 それを言われると塞も弱い。何故なら塞は、同盟相手の過去の交戦記録の事を、軽んじていた傾向があったからだ。
無論、度外視していた訳じゃない。聞こうとは思っていたが、今回の、ジョナサン・ジョースターの退場と、遠坂凛の討伐を兼ねた作戦のセッティングで、聞く機会を逸していたと言うのも大きい。

 だが一番の問題は、塞自体の心に蟠っていた、自身が知っているサーヴァントの情報を秘そうとしていた気持ちである。
北上が従えるサーヴァント、アレックスは戦力的にも申し分ない存在なのだが、同時に、危うい面も多々見られる、おっかない爆弾だった。
強さと同じぐらい、抱える際の不安要素が大きい存在。それがアレックスだ。そんなサーヴァントを同盟相手として取り込むに辺り、
いつでも手を切れるように――この場合サーヴァントを消滅させる事と同義だ――考えていたのだ。
そのやり口の一つが、塞の知っているサーヴァントの知識を秘す、という物だった。手口を知っている敵と戦うのと、全くの初見の敵と戦うのとでは、
兵法のド素人が考えても後者の方が苦戦する率が高い事は自明である。小賢しい手だと言われれば返す言葉もないが、その賢しい一手が決め手にもなる。塞はそれを狙った。
仮に塞に対して誰か他の主従と戦った事があるか、と聞かれても彼はしらばっくれる手段を選んでいただろう。シラを切り通せる自信があるからだ。
何故なら塞はこの<新宿>での聖杯戦争に於いて、『実際に交戦した経験は今回が初めての事』だからだ。
紺珠の薬で予知した、あり得た未来での戦いにしても、それを完璧にフィードバック出来ているのは鈴仙だけなのだ。塞は本当に、交戦経験は幻十とのそれが初めてだ。
だから、語れない。知らないフリだって出来るのだ。何故ならば、サーヴァント同士の本気の戦いを目の当たりにした事は、実際問題本当になかったのだから。

 それが完全に裏目に出た。
自分の手札を晒す事を覚悟で、北上とジョナサンと情報共有するべきだったと臍をかむ思いだ。

「戦ってよく無事だったな、嬢ちゃん」

「無事じゃなかったよ……腕斬り落とされたし……。現に私の右腕、義手です」

「オイオイ、マジかよ……」

 形だけ驚くフリをするが、実際塞は、北上が過去に右腕が欠損された状態で活動していた事を情報筋から聞いて知っている。この場面でシラを切ったのは、その筋の詮索を避ける為である。

 絵画館の中を走りながら、塞は考える。今後の身の振り方、それについてだ。
塞自身の偽らざる本音を語るのなら、幻十は始末しておきたい。可能な限りではなく、是が非でもだ。
何故なら彼は現状に於いて唯一、鈴仙が如何なる原理の術を使うのか、理解している存在となるからだ。
幾度も述べた通り、鈴仙の強さの本質は、『何故強いのかと言うタネをその応用性の高さの故に理解させない』事にある。ために、タネが割れればその威力が損なわれる。
生かしておける、筈がない。では殺せるのか、と言われればそれもNO。あのアサシン、浪蘭幻十の強さは、余りにも底知れない。
認めるのも腹立たしいが、幻十の底はきっと、鈴仙のそれよりも深い。少なくとも、鈴仙の及ぶ相手ではないだろう。

 だからこそ、アレックスを回収しておく必要がある。
現状、北上を見捨てて塞と鈴仙だけで逃走すれば、確実に、幻十らから逃げ出す事は可能であろう。
だが、有用なコマは揃えて置きたい。アレックスはただ強いだけのサーヴァントではない。絵画館で自分達のピンチを――意図はしていないだろうが――救った、
旧知の間柄のサーヴァントを除けば唯一であろう、浪蘭幻十と交戦して生き残ったサーヴァントなのだ。
その交戦の結果が、どれ程無様で、手痛い敗北を喫したかなどは重要ではない。戦って、生き延びた。この事実が重要なのだ。
つまり、幻十と交戦した経験値があり、しかも強いサーヴァントなのだ。対幻十を見据えるのならば、これ程重要な手札はあるまい。
見捨てるには、惜しい。だから、アレックスと合流する腹積もりなのだ。これを達成すれば、すぐに、逃げる。手筈としてはそのつもりだった。

 ――だが、そう簡単に行かない事も、解っている。

【まだ戦ってるわよ、マスター】

 念話を飛ばしてくる鈴仙。
絵画館から脱出し、其処から百m程離れた地点に行ってからの事だった。

「すご、何アレ……」

 北上が目を瞠らせながら、彼方の模様を眺めている。
此処からでは距離的に、ゴマ粒程度の大きさにしか見えない何かが、文字通り目にも留まらぬ速さで縦横無尽に動き回っているのだ。
しかもその粒と粒が衝突する度に、拳銃の射程を優に越える程距離を離した此方側にまで、爆音と聞き間違える程の大音が響き渡るのだ。
あの粒がサーヴァントである事は、疑い様もない。遠くの物を見るスキルが艦娘には必須である都合上、この程度の距離ならば北上は、
人の顔の識別は勿論無造作に転がった針の一本ですら認識する事が出来るのだが……今回に限ってはそれが出来ない。
単純に、サーヴァント同士のスピードが速すぎるからだ。攻め手も対手も解らないレベルで、彼らは速く動いている。況や、行っている動作など言うに及ばず。

「と、言うか……。神宮球場、だっけか……? あの球場の名前。……影も形もないんだがな……」

 気付きたくない過失にでも気付いてしまったかのような、塞の言葉。
彼の言葉を認識した鈴仙と北上が、あっ、と声を上げる。ない。本当にない。絵画館付近にある建物の中で最も有名……いや。
人によっては絵画館の方がおまけと言う認識であろうレベルで有名な、あの球場が見当らないのだ。

 ……見当らない。その言い方は正しくない。それらしい物は、見付かるのだ。
『瓦礫と砂煙と鉄骨』、と言う形でだが。残骸、と言った方が語弊がないかもしれない。
戦いの余波で破壊されたと見て、間違いはないだろう。サーヴァントであってもあの規模の建築物、自らの意思で壊そうと思い立ち、
構造物の破壊を主眼に置いて力を振るわねば出来ないだろう。それを、サーヴァント個人を殺そうと言う事を目的とした活動……その余波で破壊せしめるなど、尋常の技ではない。ともすれば、彼らからしたら戦ってたら何か壊れてしまった……レベルの考えなのかも知れない。

 とてもではないが、割って入るどころの話ではない。
それどころか、近づくだけで命の危険がある壮絶な戦いぶりだ。<新宿>の市街地であの規模の戦いを繰り広げて、よく『建物の損壊だけ』で済んでいるものだ。
場所が場所なら、NPCの命など紙屑同然、酸鼻極まる血風山河が築きあがっている事だろう。そうなってないのは、戦っているサーヴァントの理性の強さの賜物であろうか。
何れにしても、アレックスとの合流は困難である事は間違いない。波長を用いた鈴仙の障壁にしても、限度がある。収まるのを待つか、と塞が考えていた時だった。
傍観など許さぬとでも言うように、彼は即断即決を余儀なくされた。命辛々幻十から逃げ出してきた、聖徳記念絵画館が崩落し始めた、その瞬間を目の当たりにして、だ。

「オイオイオイ!!」

 さしもの塞も焦る。無茶苦茶だ。
此処からでも、崩落の瞬間がよく見える。強い衝撃を受けて粉々になった、と言うよりは、建物そのものを果物だとか野菜だとかに見立てるように、綺麗に寸断。
斬られた破片が落ちて行く、と言う風な見え方がこの場合正解なのだろう。健在の切り口が、ヤスリやかんな掛けをしたように滑らかなのがその証拠だ。
およそ、人の技ではない。当たり前の話だが、建造物はスイカやメロンみたいに、簡単に斬れない。これを容易にやってのける技を如何して、人の技と言えるのか。

「ヤバ……!! 早く離れよう!! 離れた内にも入らないって、此処だと!!」

 塞や鈴仙としても北上と同意見だが、この艦娘の少女の場合、なまじ交戦した経験がある上手痛いダメージがあると言う事実がある為、意見が生々しい。
百や二百、どころか、km単位で距離を離したとて、幻十相手では安全ではないのだろう。そしてそれは事実その通り。
指先に乗る程度の極小さな糸球一個で、地球を一周してお釣りが来るレベルの長さが賄えるチタン妖糸を操るせつらや幻十にしてみれば、百mと言う肉眼で見える範囲など、机の上の鉛筆でも手に取るような容易さでカバーできてしまうのだから。

【能力を使って効率よく呼び寄せられないか?】

 鈴仙を頼ってみる塞。彼女が誇る、波長を操る力は応用性も然る事ながら、適用出来る範囲についても広大無辺。
念話可能範囲や、サーヴァントを知覚出来る範囲が向上している事からも、能力のカバー範囲はかなり広い。
前述の応用性と、カバー出来る範囲の広さを駆使すれば、此処にいながらにしてアレックスを呼び寄せられるのでは、と塞が思うのも無理はなかろう。

【出来るけど、問題ありね】

【何?】

【戦いで心が昂ぶってる相手には、効き目が薄いと言う事】

 此方から任意の振幅の波動を飛ばす事で、それが何かの意図を以って放たれた合図やサインだと認知させるテクニックは、ある。
現に月の世界から逃げ落ちる前の鈴仙はそれを行う司令塔の役割を担っていたし、幻想郷に落ち延びた時代でも、師である永琳とこのテクニックを駆使した訓練も行っている。
だがこの技を今回行うにあたり、問題が三つある。一つは、アレックスが鈴仙の波長に気付けるだけの知覚能力が備わっているかどうかだ。
しかしアレックスはどうも、鈴仙の波長については感じ取っているフシがある事に、彼女は気付いている。この点は、問題はないだろう。
あとの二つが問題だ。その内の一つが、今のアレックスが鈴仙の合図に気付くか如何かである。これは一つ目の問題点とは全く意味合いが異なる。
要するに、『戦闘でヒートアップしているアレックスが、その合図に気付けるのか?』、なのだ。
波長による合図は視覚や聴覚、嗅覚の訴求力を用いない。それはある意味で大きなメリットなのだが、今回はその、五感に訴えない部分が強いデメリットとなっていた。

 そして最大の問題は――鈴仙は、波長による合図やサインと言うのを、『アレックスと事前に打ち合わせしていない』のである。
前提として、合図やサインは、作戦実行前にこう言う意味である、と示し合わせるから意味があるのである。
世の中にはその事前の話し合いなしに、ぶっつけ本番でやってのける者もいるのだが、それはしかし、半身と形容されるレベルで通じ合った仲にのみ限る。
当然の事、鈴仙とアレックスは其処までの仲じゃない。鈴仙のサインに気付くのか如何か、余りにも微妙なラインだった。

【この位置から不精して波長を放っても、多分モデルマンも気付かないと思うわ。ある程度間近の位置にまで接近する必要がある】

【鉄火場にこっちから、か……。一応聞くが理由は?】

【波長の意味が解らなくても、流石に私達が明白に映る位置にまで行けば、向こうだってこっちの意図に気付くでしょうからね】

 成程それはその通りだ。
合図やサインの意味を事前に教えていなくとも、流石に鈴仙らが近場にまで接近すれば、アレックスも此方の狙いに気付く筈である。
……あのアレックスが苦戦を強いられるレベルの火事場に向かって行く、と言うリスクは凄まじいが、確度が高い作戦は現状、これしかなかろう。

「敗北を、認めねばならんか……」

 此方の手を汚す事無く、ジョニィとジョナサンの主従を脱落させ、そして、黒贄の主従を消耗させる。
それが理想であったが、現実の方はと言えば、看過出来ぬダメージを鈴仙が負ったばかりか、予期せぬ闖入者のせいでプランは滅茶苦茶に引っ掻き回される始末。
当初のプラン通りに事が運ぶ、などと言うのは、神秘や超常の世界の住民であるサーヴァントが跋扈する<新宿>では、それこそあり得ない話。
それを、痛い火傷で以って、塞は思い知らされる羽目になった。となれば、彼に出来る事は一つだ。傷口をこれ以上広げないよう、退散する事。それだけだ。

 ――メフィスト病院とやらで治療出来るのか、我が身で試す必要があるかも知れんな……――

 噂で聞いていた、その勇名。
どんな患者でも、タダ同然の値段で診療、治療する、聖者のアジールの如きあの病院の治療。
噂の程を、これから負うかも知れぬ手傷の診察を以って、体験する事になるかもしれないと。塞は、アレックスの下へと駆け出しながら、思うのであった。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 鈴仙の気配に気付いたのは、人修羅としての桁外れた知覚能力を持つアレックスだけじゃなかった。
と言うより、この場にいる全員が気付いていた。せつらと幻十の二名は、索敵の為に張り巡らせていた、戦闘以外の用途に用いる妖糸で。
マーガレットの方は、完全なる野生の勘と、ペルソナ能力によって向上している知覚能力の合わせ技で。波長を操り気配遮断の真似事をしている鈴仙の存在を看破した。

 鈴仙が波長を飛ばすまでもなかった。
サーヴァントが、自分以外のサーヴァントを感知出来る圏内に入るまで、まだ余裕があるだろう。鈴仙自身がそう踏んでいた所で、アレックスらは気付いたのだ。
嬉しくない誤算だった。下手すれば命に関わる、致命的なアクシデントである。それはそうだろう。何せ其処にいるのはアレックスだけではない。
と言うより、塞と鈴仙が当初いると認識していた人物が、ほぼ総代わりしていたのだ。ジョナサンがいない、ジョニィもいない。黒贄も、遠坂凛も見当らない。
其処にいるのは先ず、アレックス。次に、聖徳記念絵画館で鈴仙を襲撃した、秀麗美貌の容姿を誇る黒いアサシン・浪蘭幻十。
加えて、そのアサシンに匹敵する、雪降る夜の研ぎ澄まされた明けき月光に似た、怜悧な美貌を持った黒いコートのサーチャー・秋せつら
そして、幻十とせつら、どちらかのマスターと思しき、匂うような美女である、マーガレット。

 ――最悪……!!――

 鈴仙が思わず胸中で零した。
絵画館で幻十から自分達を逃したサーヴァントが、インバネスではない方のコートを着た、あのサーチャーである事に鈴仙は気付いている。
あの時彼女は、自分達に助け舟を出してくれたサーヴァントは、此方側に友好的な性格の人物であるのではと思い込んでいた。
だが、違う。断言しても良い。あのサーヴァントは此方に対して一切の友誼を築く気もないし、況して敵意など抱こうものなら一片の慈悲もなくこちらを葬る気概でいる。

 絵画館で戦っていた筈の両名が如何して、此処で戦っているのか? そんな疑問は、目の前に広がる確かな現実の前に、吹き飛んでしまっていた。
『雲に妖糸を巻き付けさせ、それを用いた超高速の振り子運動で鈴仙達に先んじてアレックスのところに向かっていた』、と言われても、彼女は最早驚かなかったろう。
目の前の現実に対してどう動けば、自分達は命を零さずに済むのか? その思案に、彼女は脳の全ての機能を費やしていると言っても過言じゃないのだから。

「前を見ないで!! 下を向いてて!!」

 一喝する鈴仙。その意味を推量するよりも早く、塞の方は目を素早く瞑って俯く事が出来た。北上の方も、同じ反応を取っていた。
敵を見ない、敵から目線を外す。それは命の取り合いにおいては自殺行為以外の何物でもなかろうが、今回のケースでは鈴仙は、全く間違った指示を下していない。
視界の先四十m先にいる敵が、幻十だけならば、鈴仙はこんな言葉を発さない。精神を安定させる波長を飛ばせば、幻十の美を直視した事で生じる、
塞と北上の精神的動揺は中和し打ち消す事が可能である。二人――せつらと共にいるのであれば、それはもう不可能となる。

 この世の美ではなかった。
目に焼きつく、と言うのは正にこの事を言うのであろう。子供でも知る慣用表現を、そのまま使わざるを得ない程に、幻十は、美しい。
網膜に焼き付いて消えないのだ。瞳を閉じても、瞼の裏側、光を拒絶した視界の只中に、あの男の輝かしい美貌が勝手に結ばれ始めるのだ。
幻十自身の人間性を加味すれば、アレは魔界の美、悪魔が人を蟲惑する為の美と表現するのが適切だろう。どちらにしても、人間の世界に在って良い美しさじゃない。
――それに匹敵する美貌の持ち主が、隣にいるのだ。無論誰かは言うまでもない。秋せつらである。
相手の容姿を、目の当たりにする。その行為は、精神に何らかの影響を大なり小なりの波を立たせるのだ。
際立って美しかったり醜いものを見れば、必然、それを見てしまった者の精神的なコンディションは、平時のそれとは逸脱したものになる。
妖糸を操る魔人の美は、鈴仙にですら正気を保たせるのに波長を操る力を駆使させねばならない程なのだ。それと同レベルの美しさの者が二人も、同じ空間に居並んでいる。常人が許容出来る、脳のキャパシティの限度を超えている。目で見れば、確実に精神に異常を来たす。それを考慮したが故の、『見るな』、と言う判断であった。

 ――チッ、そう言う事かよ……――

 北上が塞達の側にいるという都合上、勿論の事アレックスは、塞が北上を保護する為に此処から遠く離れた所で待機していた、と言う事実を知っている。
その本来の目的を忘れて、北上同伴で此処までやって来たと言う事は、要するに、そう言う事である。作戦は失敗、早く逃げろ。とでも言いたいのだろう。

 そんな要求呑めるか、と威勢よく突っぱねたい所であったが、アレックスはその欲求を押し殺した。
人修羅になる、と言う事は、バーサーカーの狂化のように、理性を捨ててしまう事ではないのだ。アレックスには、状況を的確に判断し、空気を読めるだけの理性があった。
この状況は、アレックスの方が圧倒的に不利だ。幻十一人だけならばまだアレックスでも喰らい付ける余地はあったが、此処にせつらがいるとなると、途端に旗色が悪くなる。
況してこちらは黒贄やパム達との連戦で、疲弊している状態。肉体的なコンディションの面でも、有利とは言えないのだ。
今現在の状況下で、幻十を下せるのか、と問われれば、アレックスは――心底不服だが――否と答える他ないのである。

 ――逃げるって言ってもよ……――

 此処から逃げ果せる、それは良い。だが一番の問題は、逃げられるのか、と言う点なのだ。 
今アレックスらの動向を注視しているのは、物言わぬ案山子などではない。
冥府(タルタロス)からの脱走者を逃がさなかったとされる、番犬ケルベロスよりも、抜け目も隙もあったものじゃない魔人達なのである。
隙を突いて逃げようにも、ナノマイクロのチタン糸は地面は勿論空中にすら張り巡らされており、基本的に気付かれずに逃走は不可能。
強行突破をしようにも、張り巡らされた妖糸はせつらと幻十の意思一つで、核爆発ですら防ぎきるシェルターですらベニヤの様に破断させる断線に変じるのだ。
ならば、チタン糸の繰り手を葬れば良いのかといえば、これを達成するのはチタン妖糸の大殺界から逃れる事よりも遥かに困難である。
せつらも幻十も、身体に纏わせたチタン妖糸で飛び道具の類は基本的に無効化。触れた瞬間、弾丸や、ガンドを初めとした魔術的な飛び道具は破壊されるからだ。
接近して殴ろうなどもっての外。拳が触れた瞬間、手首や肘、肩の付け根から、攻撃した側の腕が斬り飛ばされるからである。
無論そうする前段階で、妖糸が殺到すると言うおまけ付きである。それならばとマスターを狙おうにも、幻十のマスターに至っては贔屓目に見て幻十とほぼ互角の強さだ。
せつらのマスターについてはアレックスは知らないが、少なくとも、マーガレットを狙おう物なら、マーガレットの迎撃で苦戦している間に、幻十ないしせつらの追撃を受け、そのまま脱落するだろう。

 状況としてはかなり、詰みに近い。
聖杯戦争に於いて当然遵守するべきあらゆるセオリーが、この場面では封殺されているのだ。
サーヴァントを狙って葬る事は勿論、定石中の定石である、マスター狙いも困難。その状態から、比喩抜きで蟻の這い出る隙間もない程、
必殺のトラップが張り巡らされている場所からほぼ無傷に近い状態で逃げ果せるなど、一見すれば無理な話である事だろう。

 ――しかしそれは、『人修羅としての力を限定して使用した時の話』。
この力を、誰に憚るでも遠慮するでもなく、相手を葬る事のみに活用した時なら、今の場面、詰みの限りではないのだ。

 腰を低く落とし上体をやや捻るような体勢に移行するアレックス。
一瞬、ほんの一瞬の事だった。アレックスは、鈴仙の方向からでは口元が見えなくなるよう上半身を捻る、その前に。
唇だけの動きで、鈴仙にメッセージを伝えた。『死ぬなよ』。その短い言葉を鈴仙は――受け取った。冷や汗が、背筋を逆らって伝い上がる程の緊張感を、同時に、彼女は受け取ってもいたのだが。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 向き不向きの問題であるだとか、得手不得手の問題であるだとか、そう言う次元の問題を超えて、そもそもが人間と言う種族は戦闘に向いていない。
子供に聞いたとて解るだろう。人とチーターとではどちらが速いか? 人と熊とではどちらの膂力が上なのか? 人と猿とではどちらの握力が上なのか?
論ずるまでもなく、人は負ける。人はチーターより速く野を駆けられないし、人と熊が相撲を取ったとて容易く嬲り殺しにあうし、猿の握力は人の筋肉を容易く毟り取る。
人と言う種族はその生態からして、野生の世界でのレベルの闘争に全く向いていないのだ。無論、鍛錬と努力を重ねてゆけば、人は強くなれる。
だが、人がどれ程武術の鍛錬を積み重ねて行こうが、羆には人間は勝てない。武の何たるかも、武の字の書き方すら解らぬ羆に、人は絶対に、文明の利器の助けを借りねば勝てぬのだ。

 人修羅という種族は、人が人の形を維持したまま、その常態と生態を戦闘に特化したものに変質させる事にあると、アレックスは直感的に認識していた。
アレックスがまだ人間であった頃の、身体能力、そして魔術を発動する上でその威力の決め手となる、魔力の出力。その、桁が違う。
彼が知る上で、特に戦闘面で秀でている種族の代表と言えば、ドラゴンの類や魔王・魔神などに代表される悪魔の面々であるが……今の彼は、
その彼らをも軽快に上回る戦闘スペックを有するに至っていた。全く恐ろしい変化だと、今だってアレックスは思っている。
アレックスに施された人修羅への変化とは言ってしまえば、車のガワをそのままに、エンジンや下回り、シャシーにマフラーなど。
スペックの決め手となる全ての内部構造を入れ替えたようなものなのだ。こんなもの、通常罷り通る訳がない。
車のボディが、エンジンを筆頭とした内部構造のスペックに適するように計算された力学の賜物であるように、
人間の身体もまたそのスペックを大きく逸脱しないように精緻の妙なるを以って計算された賜物なのである。
極論を言えば、軽自動車のエンジンをF1カーに組み込まれるようなそれに変更したとて、最高のスペックが発揮出来る筈がないのだ。間違いなく、自壊する。
人の身体でもそれは同じで、例え人間にチーターよりも速い速度や熊以上の腕力、猿以上の握力を与えたとしても、その力に肉体の方が耐えられない筈なのだ。

 人修羅化には、そのあって然るべき自壊がない。デメリットが皆無なのだ。
人間としての身体と、保有していた意思をそのままに、圧倒的な出力を得る。そんな措置、誰が信じられようか。常識で考えれば、そんな上手い話、あり得ない。
そのあり得ないが、此処に体現されている。アレックスと言う体現者は、人修羅化の奇跡を、幻十やせつら、魔王パム黒贄礼太郎と渡り合っていた。そんな事実を以って、その素晴らしさと恐ろしさを如実に表していたのであった。

 ――デメリットらしいデメリットがあるとすれば……――

 それは、人修羅のスペックが『高すぎる』と言う点にあろうか。
人修羅の身体は、戦闘に特化し過ぎているのだ。寧ろ、それ以外に何か秀でているところがあるのか? と疑問に思うレベルで、戦闘しか想定していない。
殴る、蹴る、斬る、貫く、叩く、壊す、砕く、潰す、穿つ、皆殺しにする、殺戮する、蹂躙する、支配する。その為の力であるように、アレックスには思えてならない。
アレックスは、人修羅の力を、フルに発揮していない。発揮するには、<新宿>の舞台が余りにも小さすぎるからだ。東京の一区画など、容易く破壊してお釣りが来る。
フルスペックを発揮する事で、聖杯戦争の全てに決着が着くのなら、無論迷わずアレックスはそうしていた。が、彼に残っていた勇者としての矜持が。
そして、北上を慮る気持ちが。それを許さなかった。北上を思う理由は単純明快、彼女を初めとした、<新宿>は勿論その近隣の区に住まう住民も、巻き添えで死ぬからだった。

 その慮りを、アレックスは今は捨てた。
<新宿>を破壊しないレベルで……しかし、人修羅の力の何たるか目に焼き付けさせるレベルで広範に破壊を齎らすレベルで。
彼は今、己が身体に溜められた凄絶な力の一端を、解き放とうとしていた。

「む……」

 今までとは違う攻撃に、アレックスが移行していると最初に気付いたのはせつらだった。
アレックスの周りを取り巻く、力の本流。その変化を如実に、せつらの糸が感じ取ったのだ。
幻十もまた、気付く。気付いた速度はせつらに負けたが、幻十の場合、正真正銘本物の人修羅――それに真贋がある事は尤も、幻十もアレックスも知らない――と、
交戦した経験がある事から、せつらよりも早く事態の深刻さを理解した。無論それは、マーガレットにも、言えた事なのだが。

 ――アレックスが、動いた。
紫色の魔力剣を生み出し、その剣を、居合い抜きの要領で横一文字に振りぬく。それら一連の動作を、稲妻が閃くようなスピードで達成するアレックス。
この場にいる全てのサーヴァントは、迎撃する、と言う選択肢を頭から捨てていた。受け、防ぎ、躱す。無傷でやり過ごせるような手段を、この場で選んだ。
同じ武器を扱うと言う都合上、せつらと幻十が選んだ防御方法は全く同じ。妖糸を身体の周囲に展開させ、無類無敵の防御結界を構築すると言うもの。
但し幻十の場合、この場に守るべきマスターが存在する為に、その結界をマーガレットのほうにも張り巡らさねばならなかった。
そして鈴仙の方は、空間の波長を操り、任意の空間……つまり、鈴仙と塞、北上の周囲の空間に目には見えない波打ちを生じさせ、物理的に歪ませた。
其処に何らかの攻撃が叩き込まれれば、その波打ちの形に沿うように、攻撃が逸れて行くのだ。弾丸を放てば、意味不明の方向に跳ね返される。近づいて剣の一撃を叩き込もうにも、あらぬ方向に攻撃が滑り体勢が崩される。無敵に近い、防御法である。

 各人が、これは、と思ったその防御法が、紙みたいに切り裂かれた。
焦点温度数十万度に達するレーザー光線ですら焼き切れず、戦車の砲弾だって容易く絡め取った後に細切れにするチタン妖糸が、要点を切裂かれて糸屑に変貌する。
暴力的な加速による突破を逸らし、あらゆるものをも粉砕する瞬間的な圧力と衝撃も分散し無効化する空間の揺らぎが、木っ端めいて斬り刻まれる。
各々が防げる、と思った防御方法を、知らぬとばかりに乗り越えてきたものの正体は、空間中に生じた、紫色の光の筋であった。
引っ掛けるもの、固定するものの存在しない空間に、その光る紫色の筋は刻まれており、まるで、その空間に亀裂が生じ始めた風にも見える。
この場の面々は知らなかろうが、もしも、閻魔刀と言う刀を振るうアーチャーと面識があったのなら、次元斬と呼ばれる技を思い出すだろう。今アレックスが放った、『死亡遊戯』なる技には、その次元斬と良く似ていた。

 光の筋が、幻十とせつら、鈴仙の方に生じ始めている。その、光筋の本数はそれぞれの面子に対して一本づつ。合計、三本。
爆発的に、その紫の光の筋が増え始めた。増殖、と言う言葉すら最早生温いレベルで三名の周囲にその光筋は展開されて行く。
直撃してしまえば、空間にすら作用する術だって、紙程度の防御力も発揮しない強烈な斬撃エネルギーを秘めた光の筋が、敵や同盟相手の区別なく、無差別に生じているのだ!!

 この場から退避する、と言う結論を下す速度が速かったのは、幻十の方だった。
<新宿>における聖杯戦争の主催者、エリザベスなる女が従える方の人修羅との戦いで、その恐るべき強さを肌身で実感していたが故の、判断速度だった。
現状の自分では、人修羅と言う存在に対し有効的な一撃を加える事は難しい。彼はそう判断したのだ。故に、逃げる。
自分の身の回りで奥義・死亡遊戯によって発生した断裂の数が三本目に差し掛かった時の事だった。
幻十とせつら、この二名の糸使いは、体内にすらチタン妖糸を隠し持っている。口内は勿論、胃や大・小腸の中、果ては血管内にまで。
ナノマイクロサイズと言う極小のサイズをフルに用いて、体内の至る所に秘匿しているのだ。その体内の妖糸を操り、幻十は、神経系にその糸を巻き付かせた。
これも、幻十やせつらが、主に二通りの目的を以って使う方法である。一つは、拷問。神経や痛覚に直接糸を付着させ、常人ならばショック死、
縦しんば耐えられるだけの訓練を受けてきた者であっても泣いて命乞いをする程の激痛を与え、自白を強要させるという物。
そしてもう一つの使い方が、自己強化。自身の指の動きを光の速度で伝達するチタン妖糸を神経に巻きつかせる事で、自らの反射神経、運動神経を爆発的に向上させるのだ。

 この神業にも例えられる技術を以って、幻十は自らを強化。
その後に、大きくバックステップを刻み、アレックスから遠ざかり始めた。その速さたるや、宛ら突風だ。
マーガレットの施したヒートライザの魔術も相まった凄まじい移動速度。それは瞬きよりも速いスピードであり、死亡遊戯の殺界から彼はもう遠のいていた。
彼がアレックスから逃げ出していた時には、マーガレットの姿は、既に此処にない。空間転移を使えるのだ、馬鹿正直に走って逃げる必要性はない。技の範囲内までワープすれば、それで良いだけなのだ。

 幻十らは、アレックスから退散する道を選んだ。
だが、せつらの方は残る道を選んだ。厳密に言えば、残るのではなく、可能な限り抵抗し無理なら諦める、と言う程度のものであるが。
せつらの魔技の精髄を込めた必殺の断線が、絶妙な撓りを以ってアレックスの方へと迫る。
物質的な特性――硬い、柔らかい、熱い、冷たい、吸収しやすい、跳ね返す……。そう言った特質の全部を無視して万物を切断する、アレックスの放った死亡遊戯による空間切断。
その空間の切断現象自体を切裂きながら、せつらの魔糸が音を立てずしてアレックスへと近づいて行く、が。その空間切断を十回程斬り返した後、糸そのものが、
アレックスの技の威力に耐え切れなくなり、細切れに散らばってしまい、せつらの与えた魔法の全てが解けてしまった。

 これ以上の相手はしてられない、と思ったか。
せつらは黒いコートの表面に妖糸を電瞬の速度で葉脈状に這わせ、その後糸を張り巡らせたコートを翻す。
アレックスの放つ死亡遊戯の空間断裂が、軌道を変えられたレーザー光の如くに、コートにぶつかったその瞬間に跳ね返されてしまった。
その、翻す、と言う動作を幾度も繰り返しながら、せつらは、空中に飛び上がり、そのまま飛翔する。
雲に巻きつけた妖糸を伸縮させ空に飛び上がり、その最中に迫る空間の切断現象を、コートの翻しで捌きながら。
この美しい魔人は、漆黒の翼を羽ばたかせて空を我が物顔で飛行する大鴉のように、その場から簡単に逃げ去ってしまったのだった。

 こうしてこの場から、アレックスが殺すべき敵の姿は消えてなくなった。
ものの見事に、逃げられてしまった。歯噛みするアレックス。味方を巻き込む覚悟で放った攻撃ですらも、せつらと幻十の両名を殺しきるには、一手届かないのか。
あれが、今回の聖杯戦争に於いて最強レベルの鬼札に該当するサーヴァントであるのは間違いないだろう。
脱落する可能性も低いだろうし、アレックスが生き残っていればいるほど、再度ぶつかる未来だって当然起こりうる。
その間に、あの二人が消耗している事。そして、それまでの間に<新宿>の環境が煮詰まって行き、アレックスが本気を出しても問題がないレベルになっている事を、彼は祈った。

 ――事此処にいたって漸くアレックスは、自身が攻撃を放った存在が、せつらと幻十以外に居た事に気付いた。
厳密に言えば、敵と言うカテゴリーに分類される存在は上の二名だけだが、それ以外にも、結果的に攻撃範囲に巻き込んでしまった存在が居たではないか。
鈴仙・優曇華院・イナバ。彼女の存在を失念する程に、人修羅の持つ攻撃的な性情は、激しいのであろうか?

 恐る恐る、鈴仙の方に目線を向けるアレックス。
魔力反応から、生きている事は解る。が、実際にどの程度の状態で生きているのかがまだ未知なのだ。
同じ生きているは生きているでも、胴体が別れていたりだとか、両手両足がなくなっているでは、意味がない。それは死に掛けとか、風前の灯とか言う状態なのだから。

「ぜぇ……ぜぇ……!!」

 結論を述べるのなら、鈴仙は五体満足の状態で生きていた。
但し、目に見えて心労が伝わってくるレベルで、消耗しているらしい。自身の疲弊を、彼女は取り繕う事すらしなかった。
肩は大きく上下し、その口からは荒い息を喘がせて。眦にはたっぷりの涙を湛えている。余程、アレックスの死亡遊戯を逸らす事にプレッシャーがあったらしい。
それは、無理からぬ話であろう。何せ判断一つしくじれば、防御不能の必殺の断線が、鈴仙の知覚能力を遥かに超えた速度で叩き込まれるのだ。
此方に来るであろう空間切断現象、これがどのタイミングで、どんな軌道で放たれるのかを先読みし、それに応じた空間操作を行わねばならないのだ。
例え鈴仙と同じレベルで、これが出来る能力者であっても、全うな精神の持ち主なら間違いなく心労と緊張の極限に達し、精神その物が壊れ、気絶と言う形で現れる。
これを成し遂げられるのは最早奇跡でも起きない限り有り得ず――そして鈴仙は、その奇跡をモノにしたのだった。

「……無事だったか」

 そう呟く自分の言葉に、アレックスは、鈴仙の安否を気遣う様子が欠片もない事に気付いた
この言葉が誰の為に向けられた言葉なのか、といえば、それは彼女の背後に居る北上の方であった。
切断された空間は、程なくして戻る。永久に斬られたままではないのだ。こちらの側から見たら、風景が左右、上下にズレていても、
何秒かすればズレているラインから戻って行く。何故なら斬られているのは風景、空間を切断した斬線を通して見た遠方の光景に過ぎず、実際のものは斬られてないからだ。
が、その空間切断現象で、実際に実体を斬られたものならば話は別。実物が斬られている以上、当然、その斬られたものに自己修復機能がなければ斬られたままなのだ。
そしてその斬られたままの状態のものこそが、地面。巨人が、そのサイズ相応の定規を引いて滅茶苦茶に線を引いたみたいに、地面に刻まれた直線の深い溝。それこそが、アレックスの放った死亡遊戯の名残だった。

 刻まれた溝は、見事に鈴仙の佇む範囲までに滅茶苦茶に走っている。
明らかに鈴仙を巻き込んでいたであろうラインは、ザッと数えるだけでも数十本はある。アレックスは褒めた。鈴仙よりも、自分をだ。
よく、『この程度の本数で済んだものだ』、と。もしも自分の理性が少し、殺意の方向に強く振り切れていたのなら。鈴仙に降りかかっていた空間切断の数は倍加していた。
そして何よりも、アレックスの理性の強固さを物語るのが、空間切断が実際に起こった範囲である。地面の溝を見れば、それは明白だ。
鈴仙よりも後ろ。つまり、塞と北上が居る範囲には、全く刻まれていないのだ。これはアレックスが特に己に律していた、北上を巻き込まない。
その意思が反映されていたが故だった。……尤も、それにしたって、後二m程度切断現象がズレていたら、塞の方が五体をズタズタにされていたのだが。かなり、危ういラインであったようだ。

「二度と渡りたくない綱だったけどね……!!」

 当然過ぎる実感を込めて、鈴仙が言った。アレックスに対する恨み節すら、受け取る事が出来る。

「悪いな。結局誰も倒せないまま、傷だけを負っちまった」

「いや、気にするなよモデルマン。正直予想外の事態が重なり過ぎだ。これをアンタの責めに帰す訳には行かんよ」

 そもそもの目的が、黒贄礼太郎と遠坂凛の排除と、ジョナサンとジョニィの主従の排除――無論これは秘密である――であった。
誰に憚られる事なく水面下に黒贄達を倒せるかと思いきや、あれよあれよと言う間に横槍が増えて行き、挙句の果てには、遠くで待機していた塞達にも累が及ぶ。
こんなもの、予測が出来なくて当然だ。無論、乱入を想定していなかった塞ではない。ないが、多少なりの相手なら鈴仙は兎も角、アレックスなら捻じ伏せられると思っていた。
その、捻じ伏せられない相手が立て続けに来たのなら、それは、この場にいる誰の責任でもない。本当に、天運に恵まれなかった。それだけの話なのだろう。

「運が悪かった。そう思っとけよ、モデルマン」

「って言っても……何時までも運が悪かった、じゃ済ませられないんだよね」

 北上のこのネガティヴな言葉は当たり前の発言だった。一時の運の落ち込みが、この聖杯戦争に於いては致命傷になり得る。
それは、紺珠の薬を服用していなければ、この一日で二度も死亡の憂き目に合っていた未来を観測した鈴仙達以上に。
実際に運気の落ち込みで腕を切り落とされた北上だからこそ、重い発言だった。腕の一本で、済んだだけ北上は幸運だったとすら言える。
妖糸の繰り手に遭遇すれば、如何なる者も生きては帰れない。それが、魔界都市の住民の常識だった事を鑑みれば、今の北上の現況は、奇跡以外の何物でもないのだから。

 次に運が悪かった時は、死ぬ時かも知れない可能性が高いのだ。
況して聖杯戦争は消耗戦。リソースが目減りする事はあれど、回復する可能性など絶無に近い。
疲労、心理的ストレス、魔力の消耗に精神の磨耗など。体力的にも精神的にも落ち込んだ状態で襲撃にあえば、死ぬ確率の方が高いのは当たり前の話である。
それを、運が悪いでは切り捨てられない。本当に、命が懸かっている話なのだ。天運に見放されたから諦めろは、通用しない。

「あのアーチャー……ジョナサンさん達は如何するんですか?」

 北上が尤もな疑問を口にする。 
今回の戦いの第二目標を知らせていない以上、北上達のジョナサン達に対する認識は、同盟相手・仲間である。その無事を気にするのは、自然な成り行きだった。

「同じアーチャー……遠方のものを見る事、感じ取る手段が豊富な者どうしの連絡手段は、秘密裏に伝えている。そこに連絡が入るまで、今はこの二組で行動だ」

 大嘘だ。そんな物はない。
鈴仙の能力を使えばそう言うコンタクトを取る手段はない事もないが、範囲は有限なものの上、送り手は兎も角受け手がそのコンタクトの意図を掴めない可能性が高いメソッドである。やる意味もないし、やる気もない。そもそもあの主従には、早期脱落を願っているのだ。助け舟を出す筈もなかった。

「……無事で居ると良いな」

 それは暗に、塞の方針を北上が認めたに等しい発言でもあった。

「此処から離れよう。多分、人が集まってくる」

 これだけ派手にサーヴァントが暴れ、況して、<新宿>内でも取り分けて有名な施設が二つも消滅したのである。
人が集まらぬ筈がない。急いでこの場から退散する必要がある。その塞の提案に、北上とアレックスは頷いた。
鈴仙は、脂汗と冷や汗のハイブリッドとなった体液で、体中をグッショリとさせながら、光の波長を操って、ステルス処理を全員に施した。

 ――いなくなってみれば、この場に残るのは凄惨な破壊の爪痕。
形あるものがなにもなく、秩序だった地面が何処にもない。ただただ、耕された地面と、立ち込める石煙。元が何処を構築していたのか解らない程粉々になった、建材の瓦礫だけが。広がり散らばるカオスの坩堝が広がるだけの、都会の真ん中の都市<新宿>には似つかわしくない風景だった。





四ツ谷、信濃町方面(聖徳美術絵画館・神宮球場跡地)/1日目 午後4:20分】


【ジョナサン・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]肉体的損傷(大)、魔力消費
[令呪]残り二画
[契約者の鍵]有
[装備]不明
[道具]不明
[所持金]かなり少ない。
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を止める。
1.殺戮者(ロベルタ)を殺害する。
2.聖杯戦争を止めるため、願いを聖杯に託す者たちを説得する。
3.外道に対しては2.の限りではない。
4.黒贄礼太郎を殺す。
[備考]
  • 佐藤十兵衛がマスターであると知りました
  • 拠点は四ツ谷・信濃町方面(新宿御苑周辺)です。
  • ロベルタが聖杯戦争の参加者であり、当面の敵であると認識しました
  • 一ノ瀬志希とそのサーヴァントあるアーチャー(八意永琳)がサーヴァントであると認識しました
  • 塞&アーチャー(鈴仙・優曇華院・イナバ)の主従の存在を認識。塞と一応の同盟を組もうとは思っていますが、警戒は怠りません
  • 塞がライドウと十兵衛の主従と繋がりを持っている事を知りません
  • 北上&モデルマン(アレックス)と手を組んでいますが、モデルマンに起こった変化から、警戒をしています
  • 遠坂凜を追跡することに決めました。
  • 遠坂凛が魔術に通暁した者である事を理解しました
  • 現在魔王パムとマーガレットの戦いの余波で、かなり遠くまで吹っ飛ばされている状態です。何処まで飛ばされたのかは、後続の書き手様にお任せします

【アーチャー(ジョニィ・ジョースター)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]肉体的損傷(中)、魔力消費(中)、漆黒の意思(ロベルタ)
[装備]
[道具]ジョナサンが仕入れたカモミールを筆頭としたハーブ類
[所持金]マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を止める。
1.殺戮者(ロベルタ)を殺害する
2.マスターと自分の意思に従う
3.次にロベルタ或いは高槻涼と出会う時には、ACT4も辞さないかも知れません
4.黒贄礼太郎を殺す
[備考]
  • 佐藤十兵衛がマスターであると知りました。
  • 拠点は四ツ谷・信濃町方面(新宿御苑周辺)です。
  • ロベルタがマスターであると知り、彼の真名は高槻涼、或いはジャバウォックだと認識しました
  • 一ノ瀬志希とそのサーヴァントあるアーチャー(八意永琳)がサーヴァントであると認識しました
  • アレックスがランサー以外の何かに変質した事を理解しました
  • メフィスト病院については懐疑的です
  • 塞の主従についても懐疑的です
  • 現在ジョナサンと合流する為、彼を追跡中です

【塞@エヌアイン完全世界】
[状態]疲労(中)、魔力消費(中)
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]黒いスーツとサングラス
[道具]集めた情報の入ったノートPC、<新宿>の地図
[所持金]あらかじめ持ち込んでいた大金の残り(まだ賄賂をできる程度には残っている)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を獲り、イギリス情報局へ持ち帰る
1.無益な戦闘はせず、情報収集に徹する
2.集めた情報や噂を調査し、マスターをあぶり出す
3.『紺珠の薬』を利用して敵サーヴァントの情報を一方的に収集する
4.鈴仙とのコンタクトはできる限り念話で行う
5.正午までに、討伐令が出ている組の誰を狙うか決める
6.ジョナサンにはさっさと死んで頂く。……って言うか、くたばったのか? 
[備考]
  • 拠点は西新宿方面の京王プラザホテルの一室です。
  • <新宿>に関するありとあらゆる分野の情報を手に入れています(地理歴史、下水道の所在、裏社会の事情に天気情報など)
  • <新宿>のあらゆる噂を把握しています
  • <新宿>のメディア関係に介入しようとして失敗した何者かについて、心当たりがあるようです
  • 警察と新宿区役所に協力者がおり、そこから市民の知り得ない事件の詳細や、マスターと思しき人物の個人情報を得ています
  • その他、聞き込みなどの調査によってマスターと思しき人物にある程度目星をつけています。ジョナサンと佐藤以外の人物を把握しているかは後続の書き手にお任せします
  • バーサーカー(黒贄礼太郎)を確認、真名を把握しました。また、彼が凄まじいまでの戦闘続行能力と、不死に近しい生命力の持ち主である事も知りました
  • 遠坂凛が魔術師である事を知りました
  • ザ・ヒーローとバーサーカー(ヴァルゼライド)の存在を認識しました
  • セリュー・ユビキタスの主従の拠点の情報を警察内部から得ています
  • <新宿>の全ての中高生について、欠席者および体のどこかに痣があるのを確認された生徒の情報を十兵衛から得ています
  • <新宿>二丁目の辺りで、サーヴァント達が交戦していた事を把握しました
  • 佐藤十兵衛の主従と遭遇。セイバー(比那名居天子)の真名を把握しました。そして、そのスキルや強さも把握しました
  • 葛葉ライドウの主従と遭遇。佐藤十兵衛の主従と共に、共闘体制をとりました
  • セイバー(ダンテ)と、バーサーカー(ヴァルゼライド)の真名を把握しました
  • ルーラー(人修羅)の存在を認識しました。また、ルーラーはこちらから害を加えない限り、聖杯奪還に支障のない相手だと、朧げに認識しています
  • ジョナサン・ジョースター&アーチャー(ジョニィ・ジョースター)、北上&モデルマン(アレックス)の主従の存在を認識しました
  • 上記二組の主従と同盟を結ぼうとしていますが、ジョナサンの主従は早期に手を切り脱落して貰おうと考えています。また、彼らにはライドウと十兵衛とコネを持っている事は伝えていません
  • ジョナサンとアーチャー(ジョニィ)lを黒贄礼太郎に殺害させる計画を立てました。
  • 北上とモデルマンには自分たちと一緒に最後に残る組になって欲しいと思っています
  • 現在ジョナサンの主従と別れている状態です


【アーチャー(鈴仙・優曇華院・イナバ)@東方project】
[状態]疲労(極大)、精神的疲労(極大)、肉体的損傷(大)、魔力消費(中)、かなりの恐怖
[装備]黒のパンツスーツとサングラス
[道具]ルナティックガン及び自身の能力で生成する弾幕、『紺珠の薬』
[所持金]マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:サーヴァントとしての仕事を果たす
1.塞の指示に従って情報を集める
2.『紺珠の薬』はあまり使いたくないんだけど!!!!!!!!!!!!
3.黒贄礼太郎は恐ろしいサーヴァント
4.糸使い怖い怖い怖い怖い怖い
5.モデルマン絶対制御出来るサーヴァントじゃないと思う……
6.つらい。それはとても
[備考]
  • 念話の有効範囲は約2kmです(だいたい1エリアをまたぐ程度)
  • 未来視によりバーサーカー(黒贄礼太郎)を交戦、真名を把握しました。また、彼が凄まじいまでの戦闘続行能力と、不死に近しい生命力の持ち主である事も知りました
  • 遠坂凛が魔術師である事を知りました
  • ザ・ヒーローとバーサーカー(ヴァルゼライド)の存在を認識しました
  • この聖杯戦争に同郷の出身がいる事に、動揺を隠せません
  • セイバー(ダンテ)と、バーサーカー(ヴァルゼライド)の真名を把握しました
  • ルーラー(人修羅)の存在を認識しました。また、ルーラーはこちらから害を加えない限り、聖杯奪還に支障のない相手だと、朧げに認識しています
  • ダンテの宝具、魔剣・スパーダを一瞬だけ確認しました
  • アーチャー(ジョニィ・ジョースター)に強い警戒心を抱いています
  • アサシン(浪蘭幻十)とサーチャー(秋せつら)、マーガレットに対し非常に強い警戒心を抱いています

【北上@艦隊これくしょん(アニメ版)】
[状態]疲労(中)、精神的ダメージ(大)
[令呪]残り二画
[契約者の鍵]有
[装備]鎮守府時代の緑色の制服
[道具]艤装、61cm四連装(酸素)魚雷(どちらも現在アレックスの力で透明化させている)
[所持金]三千円程
[思考・状況]
基本行動方針:元の世界に帰還する
1.なるべくなら殺す事はしたくない
2.戦闘自体をしたくなくなった
[備考]
  • 14cm単装砲、右腕、令呪一画を失いました
  • 幻十の一件がトラウマになりました
  • 住んでいたマンションの拠点を失いました
  • 一ノ瀬志希&アーチャー(八意永琳)、ジョナサン・ジョースター&アーチャー(ジョニィ・ジョースター)、塞&アーチャー(鈴仙・優曇華院・イナバ)の存在を認識しました
  • 右腕に、本物の様に動く義腕をはめられました。また魔人(アレックス)の手により、艤装がNPCからは見えなくなりました


【“魔人”(アレックス)@VIPRPG】
[状態]肉体的損傷(小)、魔力消費(小)、人修羅化、思考が若干悪魔よりに傾いてきている
[装備]軽い服装、鉢巻
[道具]ドラゴンソード
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:北上を帰還させる
1.幻十に対する憎悪
2.聖杯戦争を絶対に北上と勝ち残る
3.力を……!!
[備考]
  • 交戦したアサシン(浪蘭幻十)に対して復讐を誓っています。その為ならば如何なる手段にも手を染めるようです
  • 右腕を一時欠損しましたが、現在は動かせる程度には回復しています。
  • 幻十の武器の正体に気付きました
  • バーサーカー(高槻涼)と交戦、また彼のマスターであるロベルタの存在を認識しました
  • 一ノ瀬志希&アーチャー(八意永琳)、メフィストのマスターであるルイ・サイファーの存在を認知しました
  • マガタマ、『シャヘル』の影響で人修羅の男になりました

魔人・アレックスのステータスは以下の通りです
(筋力:A 耐久:A 敏捷:A 魔力:A 幸運:A。魔術:B→A、魔力放出:Bと直感:B、勇猛:Bを獲得しました)

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 遠坂凛が、自分の使役するサーヴァントである黒贄礼太郎が戦っているだろうフィールドに赴いたのは、全部が終わった後の事だった。
つまり、鈴仙達が去り、ジョナサン達が吹っ飛ばされ、魔王パムがレイン・ポゥを連れて退散し、せつらと幻十とマーガレットが後を濁さずして消えた後の、
瓦礫だけが広がる神宮球場跡に、タイミングを見計らってやって来たのだ。

 当然の事、目的は黒贄礼太郎の回収である。
アレを野放しにするのは拙い、と言う当たり前の理屈だ。最早全てが敵に回っている凛にとって、あのサーヴァントは最後のセーフティだから、早く回収したいのだ。
そしてそれと同じ位、あの災厄を放置するのは危険なのだ。何せアレは放っておけば人を殺す。再現とか限度とか、そんなものはあの男には設定されていない。
上限を与えていなければ、億の人数だって殺し尽くすだろうあの男の手綱は、この手で握らねばならない。それは、堕ちきった凛の心に残った、僅かな理性と良心の発露でもあった。

 ――そして結論を述べるのなら、その理性と良心を完全に捨ててしまいそうな局面に、凛は直面する。

「あ、おーい凛さーん。こっちですよー」

 朗らかな笑みを浮べながら黒贄礼太郎は、凛の方に対して、『血で濡れたジュラルミン製のライオットシールドを持った側の手を振るっていた』。

 ……早い話が、手遅れだったと言う訳だ。
考えてみれば、当たり前の話だ。サーヴァント達がこれだけ野放図に暴れまわったのだ。NPCが集まるに決まっている。
これは凛や黒贄達が知らないのも無理からぬ話だが、鈴仙は自らの能力を用い、外部に戦闘によって生じた大音をシャットアウトする結界を展開させていたのだ。
それがなくなってから、なおも大暴れを続けていれば、遠くない内に野次馬が集まるに決まっているのである。
鈴仙やアレックス、幻十にせつらに魔王パム、そしてジョニィらは、その野次馬が集まる前にこの場から遠ざかっていた。

 ――黒贄だけは、NPCが集まり終えたその『後』に、のこのことこの場に戻ってきた。そして、うっかり衝動を爆発させた。
他区から応援にやって来ていた機動隊員の首を、拾った木の小枝を振るって撥ね飛ばした後で、その隊員が持っていたライオットシールドを奪い、大暴れ。
「たまには盾を武器にするのも悪くありませんな」などと言いながら、振るった盾の縁でNPCの首を圧し折り、大脳が飛び散る程の勢いで頭部を破壊し、胴体をグシャグシャに潰して回って、殺戮の時間を謳歌していた。

 時間にして、五分とちょっと。
それだけの時間で、この場に集まっていた総計七二九人のNPCを殺しつくして見せたのだ。
……結果的にの話になるが、今この場に於いて、凛と黒贄の姿を目撃しているNPCはいない。何故ならば黒贄礼太郎が、全てのNPCを殺してしまったからだ。

「……気絶したいわよ、もう」

 築かれた血の川、死体の大地を踏みつけながら、黒贄礼太郎は凛の所へ駆け寄って言った。
死体の放つ強烈な死臭に慣れてしまっている自分が居る。その事実を悲嘆する事すらしなくなった自分がいる事に、凛は、確かに気付いていたのだった。

【四ツ谷、信濃町方面(聖徳美術絵画館・神宮球場跡地)/1日目 午後4:40分】

英純恋子@悪魔のリドル】
[状態]意気軒昂、肉体的ダメージ(大)、魔力消費(中)、廃都物語(影響度:小)
[令呪]残り二画
[契約者の鍵]有
[装備]サイボーグ化した四肢
[道具]四肢に換装した各種の武器(現在マーガレットとの戦いで破壊され使用不能)
[所持金]天然の黄金律
[思考・状況]
基本行動方針:私は女王(魔王でも可)
1.願いはないが聖杯を勝ち取る
2.戦うに相応しい主従をもっと選ぶ
3.新生した自分の力を遠坂凛に示して勝つ
4.あの銀髪の美女……私の生涯最大の強敵……勝たなきゃ
[備考]
  • アーチャー(パム)と事実上の同盟を結びました
  • パムから、メフィスト病院でキャスター(メフィスト)がドリー・カドモンで何を行ったか、そして自分の出自を語られました
  • 遠坂凛&バーサーカー(黒贄礼太郎)、セリュー・ユビキタス&バーサーカー(バッター)の所在地を掴みました
  • メイド服のヤクザ殺し(ロベルタ)、UVM社の社長であるダガーの噂を知りました
  • 自分達と同じ様な手段で情報を集めている、塞と言う男の存在を認知しました
  • 現在<新宿>中に英財閥の情報部を散らばせています。時間が進めば、より精度の高い情報が集まるかもしれません
  • 遠坂凛が実は魔術師である事を知りました
  • 新国立競技場で新たに、セイバー(ダンテ)、アーチャー(バージル)、セイバー(チトセ・朧・アマツ)、アーチャー(八意永琳)、アーチャー(那珂)、ランサー(高城絶斗)の存在を認知しました
  • キャスター(タイタス1世)の産み出した魔将ク・ルームとの交戦及び、黒贄礼太郎に扮したタイタス10世をテレビ越しに目視した影響で、廃都物語の影響を受けました
  • 次はもっとうまくやろうと思っています
  • 口上と必殺技名を幾つか考えつきました
  • アーチャー(ジョニィ・ジョースター)とモデルマン(アレックス)の存在を認識しました。またジョナサン・ジョースターも認識しました
  • マーガレットに強い対抗意識を燃やしています
  • 現在拠点へと出戻り中です


【アサシン(レイン・ポゥ)@魔法少女育成計画Limited】
[状態]霊体化、肉体的ダメージ(中)、魔力消費(中)、エネルギーに変換すればパージされた極大の万里の長城に対して特攻しこれを破壊しうる程のストレス
[装備]魔法少女の服装
[道具]
[所持金]マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯獲得
1.マスターを狙って殺す。その為には情報が不可欠
2.天昇じゃなくて昇天しろ馬鹿共
3.ああああああああああもう休ませろよおおおおおおおおおおおおおおお
[備考]
  • 遠坂凛が実は魔術師である事を知りました
  • アーチャー(パム)と事実上の同盟を結びました。凄まじく不服のようです
  • パムから、メフィスト病院でキャスター(メフィスト)がドリー・カドモンで何を行ったか、そして自分の出自を語られました
  • ライドウに己の本性を見抜かれました(レイン・ポゥ自身は気付いておりません)
  • 魔王パムを召喚した者に極大の殺意
  • 現在拠点へと出戻り中です


【アーチャー(魔王パム)@魔法少女育成計画Limited】
[状態]肉体的ダメージ(中)、実体化、黒羽一枚Lost
[装備]魔法少女の服装
[道具]
[所持金]一応メフィストから不足がない程度の金額(1000万程度)を貰った
[思考・状況]
基本行動方針:戦闘をしたい
1.私を楽しませる存在めっちゃいる
2.聖杯も捨てがたい
3.神崎蘭子とかいうアイドルに逢ってみたい
4.あの女(マーガレット)……できる
5.あの男(アレックス)……次は遠慮なく戦いたい
[備考]
  • 英純恋子&アサシン(レイン・ポゥ)と事実上の同盟を結びました
  • 新国立競技場で新たに、セイバー(ダンテ)、アーチャー(バージル)、セイバー(チトセ・朧・アマツ)、アーチャー(八意永琳)、アーチャー(那珂)、ランサー(高城絶斗)の存在を認知しました
  • すごくテンションが上がっています
  • 口上と必殺技名を幾つか考えつきました
  • アーチャー(ジョニィ)のスタンド、タスクACT4により、宝具である黒羽を一枚破壊されました。聖杯戦争中、如何なる手段を用いても復活することはありません
  • 現在拠点へと出戻り中です

【マーガレット@PERSONA4】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]青色のスーツ
[道具]ペルソナ全書
[所持金]凄まじい大金持ち
[思考・状況]
基本行動方針:エリザベスを止める
1.エリザベスとの決着
2.浪蘭幻十との縁切り
3.令呪の獲得
[備考]
  • 浪蘭幻十と早く関係を切りたいと思っています
  • <新宿>の聖杯戦争主催者を理解しています。が、エリザベスの引き当てたサーヴァントが何者なのか理解しました
  • バーサーカー(ヴァルゼライド)とザ・ヒーローの主従を認識しました
  • 〈新宿〉の現状と地理と〈魔震〉以降の歴史について、ごく一般的な知識を得ました
  • 遠坂凛と接触し、悪人や狂人の類でなければ保護しようと思っています
  • バーサーカー(バッター)とセリュー・ユピキタスの動向を探る為に浪蘭幻十の一晩の実体化を許可しました
  • メフィスト病院について知りました。メフィストがサーヴァントかマスターかはまだ知りません
  • ザ・ヒーロー及び、クリスチファー・ヴァルゼライドを速やかに撃破したい思っています
  • 他の主従との同盟を考えています
  • 幻十がメフィスト病院に、緒方智絵里と三村かな子を誘導した事を知りました。両者の名前は知りません。
  • 幻十との付き合い方を修得しつつあります。
  • アレックスの変貌に気付いています
  • 現在神宮球場から離れた所に居ます。場所はどこかは、お任せします


【アサシン(浪蘭幻十)@魔界都市ブルース魔王伝】
[状態]魔力消費(極小)、疲労(小)
[装備]黒いインバネスコート
[道具]チタン妖糸を体内を含めた身体の様々な部位に
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:<新宿>聖杯戦争の主催者の殺害
1.せつらとの決着
2.那珂に対する報復
3.せつらめ……やはり一筋縄じゃいかないか
[備考]
  • 北上&モデルマン(アレックス)の主従と交戦しました
  • 交戦場所には、戦った形跡がしっかりと残されています(車体の溶けた自動車、北上の部屋の騒動)
  • バーサーカー(ヴァルゼライド)とザ・ヒーローの主従を認識しました
  • 〈新宿〉の現状と地理と〈魔震〉以降の歴史について、ごく一般的な知識を得ました
  • バーサーカー(バッター)とセリュー・ユピキタスの動向を探る為に一晩の実体化の許可を得ました。どこに糸を巡らせるかは後続の方にお任せします
  • 夜の間にマーガレットに無断で新宿駅の地下を糸で探ろうと思っています
  • メフィスト病院について知りました。メフィストがサーヴァントかマスターかはまだ知りません
  • メフィスト病院に、緒方智絵里と三村かな子を誘導しました。両者の名前は知りません。
  • 新国立競技場で新たに、セイバー(ダンテ)、セイバー(チトセ・朧・アマツ)、アーチャー(バージル)、アーチャー(八意永琳)、アーチャー(那珂)、アーチャー(パム)、ランサー(高城絶斗)、ライダー(大杉栄光)、アサシン(レイン・ポゥ)の存在を認知しました
  • アーチャー(那珂)以外は、大雑把な戦い方と声を把握しただけで、個人の識別には使えません。
  • ランサー(高城絶斗)は声しか知りませんが、魔糸を消したのはランサーだと推測しています。
  • アーチャー(那珂)の姿と戦い方を知りました。
  • アーチャー(那珂)に対して極大の殺意
  • 346所属のアイドルの中にマスターがいるかも知れないと推測しました。
  • 北上とアーチャー(那珂)の関係性に気付きました。
  • 一ノ瀬志希、雪村あかり、伊藤順平、英純恋子の四人のマスターの姿形と個人情報を把握しました。
  • アーチャー(鈴仙)と塞の存在を認識しました
  • アレックスの変貌に気付いています
  • 現在神宮球場から離れた所に居ます。場所はどこかは、お任せします

【サーチャー(秋せつら)@魔界都市ブルースシリーズ】
[状態]疲労(小)
[装備]黒いロングコート
[道具]チタン製の妖糸
[所持金]マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の探索
1.サーヴァントのみを狙う
2.ダメージを負ったらメフィストを利用してやるか
3.ロクでもない街だな
4.今の状態の幻十なら楽だが……どうせ宝具はアレだろうしな。面倒だから早く倒したい
[備考]
  • メフィスト病院に赴き、メフィストと話しました
  • 彼がこの世界でも、中立の医者の立場を貫く事を知りました
  • ルイ・サイファーの正体に薄々ながら気付き始めています
  • ウェザー&セイバー(シャドームーン)の主従の存在を知りました
  • 不律、ランサー(ファウスト)の主従の存在に気づいているかどうかはお任せ致します
  • 現在、メフィストの依頼を受けて、眠り病の呪いをかけるキャスター(タイタス1世(影))の存在を認識、そして何を行おうとしているのか凡そ理解しました。が、呪いの条件は未だに解りません
  • 眠り病の呪いをかけるキャスター(タイタス1世(影))の捜索をメフィストに依頼されれ、受けました。
  • 浪蘭幻十がサーヴァントとして召喚されていることをメフィストから知らされました。
  • 浪蘭幻十のクラスについて確信に近い推察をしました。
  • 討伐令に乗る気は有りません。機会があれば落ち首広いはするつもりです。
  • アーチャー(鈴仙)と塞、モデルマン(アレックス)と北上の存在を認識しました


【遠坂凛@Fate/stay night】
[状態]精神的疲労(極大)、肉体的ダメージ(中)、魔力消費(中)、疲労(大)、額に傷、絶望(中)
[令呪]残り一画
[契約者の鍵]有
[装備]いつもの服装(血濡れ)→現在は島村卯月@アイドルマスター シンデレラガールズの学校指定制服を着用しております
[道具]魔力の籠った宝石複数(現在3つ)
[所持金]遠坂邸に置いてきたのでほとんどない
[思考・状況]
基本行動方針:生き延びる
1.バーサーカー(黒贄)になんとか動いてもらう
2.バーサーカー(黒贄)しか頼ることができない
3.聖杯戦争には勝ちたいけど…
4.それと並行して、新たな拠点にも当たりをつけておきたい
[備考]
  • 遠坂凛とセリュー・ユビキタスの討伐クエストを認識しました
  • 豪邸には床が埋め尽くされるほどの数の死体があります
  • 魔力の籠った宝石の多くは豪邸のどこかにしまってあります。
  • 精神が崩壊しかけています(現在聖杯戦争に生き残ると言う気力のみで食いつないでる状態)
  • 英純恋子&アサシン(レイン・ポゥ)の主従を認識しました。
  • バーサーカー(クリストファー・ヴァルゼライド)が<新宿>衛生病院で宝具を放った時の轟音を聞きました
  • 今回の聖杯戦争が聖杯ではなく、アカシックレコードに纏わる操作権を求めて争うそれであると理解しました
  • 新国立競技場で新たに、ライダー(大杉栄光)の存在を認知しました。後でバーサーカー(黒贄礼太郎)から詳細に誰がいたか教えられるかもしれません
  • あかりが触手を操る人物である事を知りました
  • ジョナサンとアーチャー(ジョニィ・ジョースター)、モデルマン(アレックス)、アーチャー(魔王パム)の存在を認識しました
  • 黒贄礼太郎に対し、ジョニィ・ジョースター、アレックス、魔王パム。以上三騎のサーヴァントの攻撃は『絶対回避する』よう令呪を使いました


【バーサーカー(黒贄礼太郎)@殺人鬼探偵】
[状態]健康
[装備]『狂気な凶器の箱』
[道具]『狂気な凶器の箱』で出た凶器
[所持金]貧困律でマスターに影響を与える可能性あり
[思考・状況]
基本行動方針:殺人する
1.殺人する
2.聖杯を調査する
3.凛さんを護衛する
4.護衛は苦手なんですが…
5.そそられる方が多いですなぁ
6.幽霊は 本当に 無理なんです
[備考]
  • 不定期に周辺のNPCを殺害してその死体を持って帰ってきてました
  • アサシン(レイン・ポゥ)をそそる相手と認識しました
  • 百合子(リリス)とルイ・サイファーが人間以外の種族である事を理解しました
  • 現在の死亡回数は『2』です
  • 自身が吹っ飛ばした、美城に変身したアサシン(ベルク・カッツェ)がサーヴァントである事に気付いていません
  • ライダー(大杉栄光)が未だに幽霊ではないかと思っています
  • 現在、ジョニィ、アレックス、パムの攻撃は全部回避する状態です。



時系列順


投下順



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51:第一回<新宿>殺人鬼王決定戦-後編- ジョナサン・ジョースター 60:[[]]
アーチャー(ジョニィ・ジョースター)
51:第一回<新宿>殺人鬼王決定戦-後編- 60:[[]]
アーチャー(鈴仙・優曇華院・イナバ)
50:第一回<新宿>殺人鬼王決定戦-後編- 英純恋子 60:[[]]
アサシン(レイン・ポゥ)
56:第一回<新宿>殺人鬼王決定戦-後編- マーガレット 60:[[]]
アサシン(浪蘭幻十)
52:第一回<新宿>殺人鬼王決定戦-後編- 遠坂凛 60:[[]]
バーサーカー(黒贄礼太郎)
45:第一回<新宿>殺人鬼王決定戦-後編- サーチャー(秋せつら) 60:[[]]
51:第一回<新宿>殺人鬼王決定戦-後編- 北上 60:[[]]
魔人(アレックス)
50:第一回<新宿>殺人鬼王決定戦-後編- 黒のアーチャー(魔王パム) 60:[[]]

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最終更新:2021年03月31日 17:11