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 ザリ。と、その区に入ってしばらくしたところで老人は足を止めた。
 長い白髭の小柄な老人だった。迫力という言葉とは無縁で、強い風が吹くだけでも倒れてしまいそうなほどか弱く見える。

 そんな印象が、足を止めた瞬間にがらりと一変した。
 口にはニヤリとニヒルな笑みを浮かべ、傲岸さを隠そうともせずにぎらついた眼光を飛ばす。
 深夜の街にそんな老爺がひとり立っている絵面は妖怪、ぬらりひょんとかそういう類のものを思わせたが。
 この杉並に起きていることの全貌と、巣食っているモノの大きさを知れば、誰も彼になど注目していられなくなる筈だ。

「予想はしとったが、思った以上にエラいことになっとるのう。
 郷に入って郷に従うどころか、こっちの国を手前の郷に塗り替えよるとはな」

 陰陽師とは魔術師以上に地脈霊脈の流れ、土地の気というものに精通した人種だ。
 よってその極峰に達している彼――吉備真備には、今この街がどのように冒されているのかが手に取るように分かっていた。

 仮想とはいえ元世界のそれとほぼ違いない精度で再現された土地霊脈。
 何者かがそこに横溢している気の流れ、マナの性質を汚染して、自らの色で塗り潰している。
 公害による土壌汚染を霊的なやり方で、もっと大規模かつ深刻に行っているといえばイメージしやすいだろうか。
 少なくとも、現時点でさえもうここは"杉並区"と呼ぶべき土地ではなくなっていた。
 この領域の内側にあっては、たとえ神霊の類でさえも本来の実力差に胡座を掻くことはできないだろう。

 "侵食固有結界"。
 派手さでは王道のものに劣る分、気付かれなければ水面下で何処までも拡大していくのが悪辣だ。
 杉並の戦いで一旦の開帳を見せてくれたのは幸いだった。そうでなければ真備といえど、こうして実際足を踏み入れでもしない限り、異変を感知することさえできなかった筈だ。

「まずったのう、いつかの時点で気付くべきだったわ。これじゃ耄碌爺呼ばわりされても言い返せんわい。
 "青銅の発見者"が何を興したか、何を生み出したのか。ちょっと考えりゃあ厄ネタなことくらい想像付くじゃろうが阿呆」

 自罰する言葉とは裏腹に、真備の顔はますます愉快そうな笑みに染まっていく。
 こんこん、と中身を確認するように自分の頭を小突きながら。
 おもむろに足を振り上げ、そして靴底から振り下ろした。

 それと同時に、老人の周囲一帯を覆っていた異国の気配が風に流されたように薄れる。
 あくまで気休めだが、既にある王の国土と化した今の杉並でそれができた事実は無視できない。
 今真備が見せたのは、中国は道家に起源を持つ禹歩という技法だ。
 作法省略、我流改造済み。真備流に最適化されているので他の誰が真似しても無意味だが、彼が使う分には源流を完全に凌駕した効果をあげる。

 陰陽を調和させ邪気を祓うという神道の柏手のエッセンスを取り入れ、より簡潔かつ効果的に運用した一歩。
 しかし真備の意図は、この異界化された区を少しでもどうこうしようとか、そんな常識の物差しには収まらない。
 その証拠が、彼の前方数メートル先に生まれた、陽炎のような空間の歪み。
 そしてそこから姿を現す、白髪の老君の存在だった。


「誘うような真似をせずともよい。どの道、こちらから向かおうと思っていたのでな」


 重ねた年嵩で言えば、恐らく真備より更に上。
 なのに生命力の壮んさでさえまるで真備に劣っていない。
 研ぎ澄まし絞り上げられた筋肉は、痩せているのではなく引き締まっていて。
 瞳に揺らぐ王気の輝きは鈍く、それでいて鋭く相対する者を射貫く。

「わはははは。そりゃあ何より、勇み足で赴いたはいいがアテがなくてですなぁ。
 わざわざ一から探すというのもかったるいんでの、無礼は承知でひとつ誘いをかけてみた次第じゃ」
「よく言うものだ。我が領土に踏み入るなり、すぐさま粗相めいた魔力を撒き散らしていただろうが」
「歳を食っても悪戯坊主は治りませんでな。
 尊い御方のお膝元と知るとどうにも、少しからかってみたくなるのですよ。まあ勘弁してやってくださいや」
「呆れた男だ。貴様の要石はさぞや苦労しているのだろうな」

 老君、老獪、青銅の国にて相対す。
 真備はらしくもなく遜った態度を示していたが、それが諧謔の一環であることは言うまでもない。
 マスターも伴わず、キャスタークラスでありながら単身敵地に乗り込む不遜。
 これに対し王が示す反応は、こちらもやはり、言うまでもなくひとつだった。


「――――それで。死にに来た、ということでよいのだな?」


 王の名は老王カドモス。
 神の眷属たる泉の竜を殺し、栄光の国を興した英雄王。
 竜殺しの槍を片手に青銅の大地を踏み締める、嘆きの益荒男。
 王は不敬を赦さない。相手が誰であれ、彼の前で不躾を働いた者の末路は決まっている。
 堕ちた天星の嘶きさえ一蹴したテーバイの王を前にし殺意を浴びながら、しかし吉備真備は不変だった。

「確かに儂の国じゃ自害も美徳。されどそりゃ、切腹に限った場合の話でしてな。
 ましてや人様の国に我が物顔で陣を張り、ここは我が国ぞとほざく異人に介錯を頼んだとあっては先祖も子孫も報われませんわい」

 どっかりとその場に胡座を掻いて、懐から一杯の酒を取り出す。
 ガラス容器に包まれたそれを、自分とカドモスの間に置いて。
 そうして陰陽師は、吹き付けた殺意など何処吹く風で言ってのけた。

「儂は死にに来たわけじゃねえが、かと言ってあんたとドンパチやりに来たわけでもねえ。
 ――なぁに、相応の土産話は用意しとります。てなワケで一献どうですかのう、王様よ」



◇◇



 意識が、浮上する。
 泥のようにまとわりつく眠気を振り払って、雪村鉄志は目を開けた。
 気絶する前のコトがコトだ。激痛と苦悶を覚悟していたのだが、予想に反してその目覚めは清々しさすら感じさせるものだった。

「……、まき、な……?」

 正確に容態を把握できてたわけじゃないが、全身痛くない場所を探すほうが難しい有様だったのは確かだ。
 息をするだけでどろついた血が唾液に混ざり、肺は穴の空いたゴムボールみたいな音を立てていた。
 なのに今は痛みがないどころか、あのひどく重い疲労感すらほとんど完璧に消えている。
 信じがたいことだが、"清々しい朝"というやつだった。窓から見える外の景色は、明らかに深夜だったが。

「! ――ますた! 目が覚めたのですね、っ……!!」
「わぶぅっ!!」

 記憶を辿る――杉並での戦闘。
 このままリソースを注ぎ込み続ければ泥沼だと判断し、一瞬の隙を突いて逃げ出した。
 だが逃げた先で、白い、無数の機械虫達にその行く手を遮られたのだ。
 這々の体で手近な廃墟の窓をかち割り、文字通り転がり込んだのまでは覚えている。
 そこで線が切れたように力が抜けて、そして……と、思い出しが佳境に入ったところで胴体に衝撃が走った。

 ベッドに寝かされたままの鉄志の胴体に、マキナがびょーん!と飛び込んできたためだ。
 ここでおさらいしておこう。
 デウス・エクス・マキナの見た目はどこぞのベルゼブブ(偽)と然程変わらない実にミニマムなそれだが、彼女の手足は鋼鉄製の義肢だ。
 よって外見からは想像できないほどの重量がそこには宿っている。もっとデリカシーなく言おう、マキナは重いのだ。
 ロリィな体躯に搭載されたヘビィな体重が、全力の飛びつきで無防備な病人のボディに炸裂した。
 血を吐くかと思った。冗談抜きに白目を剥きかけた。三途の川の向こうで亡き妻が手を振ってるのが見えた。

「よかった、よかったです……! このまま目覚めなかったらどうしようかと、当機は、当機は、う、ぅ……!!」
「わ、悪かった! 心配かけてすまん! 謝るからとりあえずどいてくれ、こ、今度こそ死ぬ、ギブ、ギブ……!!」
「~~っっ! そ、そーりー。失礼しました、ますたー!!
 だ、大丈夫でしょうか……。せっかく戻った顔色が心なしかまた青く……、も、もしや、さっきの治療に不備が……!?」
「恐れおののきながらこっちを見るのやめてもらえませんか???」

 おろおろと慌てるマキナ、げほごほと咳き込む鉄志。
 が、はたと気付いた。マキナの言葉に対して、誰かの返事があったからだ。

「――――あんたが、助けてくれたのか?」
「ええ、まあ」

 声の主は、目を瞠るような美形の青年だった。
 黒い短髪は無駄なく整えられ、割れた窓ガラス越しの夜風を受けて自然に流れている。
 テレビの中から飛び出してきたかのような整った顔立ちは、人となりを知らなくても、あぁこいつモテるんだろうなと納得させるものがあった。

「そうです、ますた。この方がますたーを助けてくれたんです。
 当機も一部始終を見守っていましたが、ちょっと手を翳しただけであっという間に顔色がよくなっていって――」
「その割にすぐヤブ医者認定しようとしましたよね、今」
「そ、そそ、そんなことはありません。当機は礼節を重んじます。
 断じてそう、まずいと思って反射的に責任をなすりつけそうになっただとか、そんなことは……」
「はぁ……。スキンシップが激しいのは結構ですけど、二回目はやりませんからね絶対。僕としても、タダ働きとか趣味じゃないので」
「む……ぅ。気をつけます。ごめんなさい」
「わかればよろしい」

 漫才(やりとり)に淀みがない。どうやら自分が寝ている間に、ずいぶん色々あったようだ。
 半身を起こしてこめかみを叩きながら、鉄志は難しい顔で青年を見つめた。
 縋りついたままの格好でしゅんと萎れるマキナの頭を撫でてやりつつ、快気した探偵は口を開く。

「どういう風の吹き回しだ?」
「……いえ、ますたー。あの方は――」
「悪い、マキナ。ちょっと黙っててくれ」

 まずは礼を言うのが筋というのは鉄志も分かっているが、この街で行われてるのは聖杯戦争だ。
 誰が何を考えてるのか分からない以上、たとえ命の恩人だからってすぐには信用できない。
 というかそもそも、敵の命を助けるような真似をするのがまず不可解だ。
 治療の際に何か埋め込まれてはいないか。命を助けてやった恩を理由に、不平等な契約を持ちかけてくる手合いではないか。
 警戒すべきことは山のようにある。鉄志の発言は人としては仁義に悖るが、マスターとしては間違いなく正解だった。

 そんな鉄志に、青年は心底うんざりした様子で前髪をくしゃりと握って言う。

「ずいぶんな言い草ですね。言っときますけど、僕が助けてなかったらあなた今頃この世にいませんでしたよ?」
「かもな。けども魔術師から施される"無償の善意"ほど不気味なものはないのも事実だ。あんたも魔術師なら分かんだろ」
「――はあぁあぁあぁ……。僕だってねぇ、助けたくて助けたわけじゃないんですよ!
 ウチのサーヴァントが、あのクソジジイがやれって言うから仕方なく! し・か・た・な・く、死にかけの中年オヤジに救いの手を差し伸べてやったんです!!」
「……お、おう。まあ落ち着いてくれ。話なら聞くからよ」

 返ってきた返答があまりにやけっぱちだったものだから、鉄志も思わず毒気を抜かれてしまう。
 がんがんと苛立ちを堪えられない様子で机を叩く姿は、否応なしに苦労人というワードを連想させた。
 詰問から宥めモードに移行した鉄志を一瞥し、青年は腕組みして、もう一度深い溜息をつく。

「大体、僕は魔術師なんかじゃありません。内輪揉めと貴族ごっこが趣味な連中と一緒にしないでください」
「……魔術師じゃない? いやでも、あんたの治療はこりゃ完璧な手腕だぞ。
 俺もそれなりに魔術師の顔見知りはいるが、これだけやれる奴なんてそういない。魔術師じゃないってんならおたく、いったい何者だ?」
「陰陽師です。まあウチも、よそ様の悪口を言えるほど高尚な業界じゃあないですけどね」

 陰陽師。そう聞いて、鉄志は素直に驚いた。
 存在自体は有名だが、言葉を選ばずに言うなら、現代の陰陽道はその規模でも実情でも大きく魔術師の後塵を拝している。
 拝み屋や占い師に毛が生えた程度の技量で小銭稼ぎをやっているのが大半で、実力のある陰陽師はそもそも滅多に前線に出てこず重鎮気取りに明け暮れている……言ってしまえば腐敗した業界だ。
 舐めていたわけではないが、まさか現代の陰陽師にこれほど腕の立つ若者がいるとは思わなかった。
 そんな鉄志のリアクションを見て多少は溜飲が下がったのか、青年は彼に名を明かす。

「僕は香篤井希彦といいます。
 ああは言いましたが、不審な真似をしたのは承知の上なので疑うならどうぞご自由に」
「香篤井……? っていうとまさかお前――希豊さんのせがれか?」
「…………え。父を知ってるんですか?」

 今度は希彦が驚く番だった。
 確かに、彼の父は香篤井希豊という。希彦のような突出した才能は持たない、現代陰陽師の例に漏れず術の行使よりも金稼ぎの方が上手な男である。
 なので希彦は内心父を軽蔑していたが、彼も彼で、まさかこんなところで肉親の名を聞くとは思わなかったのだろう。
 さっきまでの擦れた態度はどこへやら。鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする希彦に、鉄志はいくらか警戒を緩めて言った。

「仕事で何度か世話になったんだ。魔術使いはたとえ末端でもガードが固いが、近代兵器然り、常識外のアプローチってやつに弱くてな。
 俺達じゃお手上げの魔術犯罪者でも、別分野の専門家から見ると実は意外とボロを出してたりするんだと。
 は~、懐かしいな……。元気してるか? あの人酒豪だろ、身体壊してないといいんだが」
「変わらず健康そのものですが――仕事、っていうのは?」
「あー……ま、もう守秘義務もクソもねえか。公安機動特務隊って言ってな、対魔術師用の秘密警察みたいなもんだよ」
「特務隊……、……というともしかして貴方、雪村さん?」
「お。もしかして親父さんから聞いてるか? ったく、特務隊はメンバー構成からして重要機密だってあれほど言ってたのになぁ」

 あわや一触即発の空気はどこへやら。
 予期せぬ知己(ではないが)の邂逅に、すっかり緊張は緩和されていた。

 希彦も、特務隊の存在については知っている。というかまさに、父・希豊からオフレコとして聞かされていたのだ。
 香篤井家は室町時代から続く名門だ。魔術界の外の知恵を欲した特務隊が頼る別分野の専門家としては、なるほど最適な人選だろう。
 金さえ払えば協力してくれるし、腕はそこまででも積み重ねてきた経験と知識は活かせる。
 希彦にしてみればそういう賢しらなところが気に入らないのだったが、現代最高峰の知識を持つ"専門家"を頼って公安の人間が仕事を持ってくるという話を、酔った父はよく自慢げに語っていた。

 曰く、魔術を悪用した犯罪者を制圧するために組織された秘密警察。
 基本は魔術使い以下の味噌っかすが相手だったというが、中にはそれなりに骨のある捜査対象もいたと聞く。
 そう考えると、治療の際に覚えた疑問にもいろいろと合点が行った。
 魔術師にしては鍛えすぎている。猪口才な肉体強化(ドーピング)ではなく、弛まぬ鍛錬で培われた肉体だ。希彦はそこが不可解だった。
 術と並行して身体も鍛えるというのは、物心ついた時から才能で困ったことがない希彦にはまったく分からない考えだ。実際、酔狂な魔術師もいるものだと思った。
 しかし、彼が特務隊の一員だというのならそれも納得だ。

「父がよく言ってましたよ、特務隊には骨のある奴がいるって」
「それ腕じゃなくて酒の強さのこと言ってねえか? 俺、あの人のせいで何回二日酔いになったか分かんねえよ」
「かもしれないですね。息子としては、その爪の垢でも煎じて飲めよって感じでしたけど」
「ははは。あの人ケチだったからなぁ。口開けばカネのことしか言わねえし、報酬の釣り上げでずいぶん難儀したよ」
「うわ、マジですか? 知りたくなかったなぁそれは……」

 マキナは鉄志と希彦の顔を交互に見ていた。
 ついさっきまでふたりがいつ揉め出すかと気が気でなかったものだから、この急激な穏和ムードについていけないのだろう。

「ま、ますた、ますた。希彦さんとお知り合いなのですか……?」
「直接の知り合いってわけじゃないが、ちょっと色々あってな。ありがとよ、マキナ。お前が頭下げてくれたんだろ?」
「ぅ…………」

 ぽふぽふ、と頭に手を置かれて、張り詰めていたものがいよいよ限界になったらしい。
 うるうると眼を潤ませるマキナを支えているのは、彼女が胸に抱くモットーだった。
 神は笑わない、神は怒らない、神は泣かない、神は怠けない。
 父の教えを寄る辺にいじらしく耐える少女をややばつ悪そうに見つめる希彦。さしものプレイボーイも、恋愛対象外の幼女には弱い。
 ごほん、と咳払いをして、彼は鉄志に問いかけた。

「――ところで、特務隊は解散されたと聞いていましたが……」
「……色々あってな。今は俺も無職だよ、紆余曲折あってこんなきな臭い街に呼ばれちゃいるが」
「なるほど。深くは聞きませんが、公僕が魔術の世界に踏み込んだならそうなっても不思議ではないですね」
「ま、そんなとこだ。ところで希彦くんよ、お前はこの聖杯戦争でどういう立場を取ってんだ?」

 緊張は和らいだが、それでもふたりの間柄が敵同士であることに変わりはない。
 聖杯戦争とは最後の一座を争うバトル・ロワイアル。自分以外、誰であろうと手放しに信用はできないのだ。

「僕は普通に乗ってますよ。僕なりに戦う理由があってここに立ってる。
 あなたを助けたことに他意はありませんが、決して味方ってわけではないですね」

 希彦の言葉に、緩んだ空気が多少締まる。
 そう、聖杯戦争とはそういうもの。
 希彦の発言は別に特別なものではない。むしろ、特殊な立場を取っている鉄志の方がおかしいのだ。
 確かに香篤井希彦は雪村鉄志を助けたが、だからと言って彼が鉄志にとって無害な人間であるとは限らない。
 その事実を改めて噛み締めた上で、鉄志は抱いていた疑問を口にした。

「だろうな。で、おたくのサーヴァントは何処にいるんだ?」
「…………、…………いません」
「え?」
「だーかーら! いないんですよ、今! あなたが目覚める前にひとりで出ていっちゃったんです!!」
「…………え、えぇ……?」

 英霊らしき気配がないことには、目覚めた時点から気付いていた。
 だが如何に助けた相手とはいえ、敵主従の前に自分のマスターをほっぽり出したまま席を外す英霊など普通に考えている筈がない。
 だから鉄志は、希彦のサーヴァントは気配遮断に秀でたアサシンか何かだろうと思っていたのだが……

「そういう奴なんです、僕のサーヴァントは。あなたを助けたのも、あいつが助けてやれって偉そうに命じ腐ったからですし」
「その結果命を救って貰った身で言うのもなんだが……アレだな。気苦労察するよ」
「ありがとうございます。この一ヶ月で初めてですよ、僕の苦労を分かってくれた人は」

 なんだか、思った以上に訳アリな主従らしい。
 鉄志としてはとりあえず話せそうな相手に救われたようでひと安心だったが、はてさて彼のサーヴァントはどこへ行ってしまったのか?

「いざとなったら令呪で呼び戻せ、とは言われてますけどね。
 それにしたって本当、我が下僕ながら正気とは思えないですよ。よりによって今の杉並にひとりで向かうなんて。
 戦闘向きの英霊でもない癖に、どっちが井の中の蛙なんだか……」
「――は? いや、おい待て。おたくのサーヴァント、杉並に行ったのか!?」
「そうですよ、あの杉並に行ったんです。……っと、その様子を見るに、やっぱりあなた達はあそこから逃げてきたんですね」

 杉並区。否応なしに先刻の出来事を思い出して、鉄志の顔が驚愕に染まる。
 ありえない。今あの街がどうなってるか分かった上で、ひとりで向かったというのか?
 だとしたら希彦の言う通り、本当に正気ではない。
 先ほど自分達を散々に脅かしてくれた青銅王の膝下に顔を出すなど、たとえ万全の備えを期していたとしても自殺行為だろうに。

「こりゃ驚きだな……。今日は敵も味方も、妙な奴らによく会うぜ」
「そんなボケ老人からの言伝てがひとつありましてね。
 儂が戻る前に情報交換を済ませておけ、ついでに議事録を簡潔に纏めて提出するように、だそうです。
 あの雪村さん、謝礼とか払うので一回あいつぶちのめして貰えませんか? 死なない程度にボコボコにするとかできません?」

 笑顔に青筋を立てながら言う希彦に、鉄志は改めて同情した。
 まだ顔も名前も知らない相手だが、どうやら彼は相当なキワモノを引き当ててしまったようだ。
 キワモノという点ではマキナを連れてる自分も人のことは言えないが、彼のところの"ボケ老人"に比べれば幾分マシなのは間違いあるまい。

「まあまあ、落ち着いてくれ。情報交換はウチも臨むところだ。というか、ぜひさせて貰いたい。
 ちょっといろいろあってな……同盟だの協定だの抜きにしても、いろんな人間の意見が欲しくてよ」
「その割には開口一番から棘を向けられましたけどね」
「悪かったって。職業病でな、素性の分からない相手のことはまず疑ってかかるようにしてんだ」
「冗談ですよ。ちょっとした皮肉ですから、本気にしないでください」

 窓辺のテーブル。希彦の対面の席に、鉄志が座る。
 ぴょこぴょことマキナも歩いてきて、その脇にちょんとしゃがんだ。
 サーヴァントとして自分だけ蚊帳の外というのは許せないのだろう。こういうところは実に健気だ。というか、勤勉なのだろう。

「――じゃあ始めましょうか。まず聞かせてほしいんですが、あなた達、杉並で一体何を見たんです」

 希彦の問いに、鉄志は沈黙した。
 答えるにしても、どう説明すればいいものか言葉を纏めている様子だ。
 やがてその口は開き、大袈裟でもなんでもない、"見てきた者"としての率直な感想を述べた。

「バケモノ共の乱痴気騒ぎだ。分かっちゃいたがこの聖杯戦争、どうも思った以上にきな臭え」



◇◇



 いつの間に用意したのか、ふたり分の器を並べて、そこにカップの酒を注ぐ。
 透明な液体からは、いかんせん王との会席にはそぐわない、遠慮のない酒臭さが漂っていた。
 まずは真備がそれを手に取り、口元へ運んで慣れた調子で嚥下する。
 ごきゅごきゅと飲み干し、かぁ~っ、と声をあげてみせる姿は傍から見ると酒飲みの老人そのものだ。

「ほれ王様、毒など入っちゃおりません。あんたもどうぞ一杯、ぐいっと」
「……、……」

 促され、カドモスもそれに続いた。
 吉備真備は間違いなく彼にとって処断すべき不敬者だが、こうも堂々踏み入られた挙げ句、差し出された酒を断れば王の恥になる。
 盃と呼ぶには無粋すぎる当代風の器を手に取り、ちび、と一口呑んだ。
 途端に眉間へ皺が寄る。苦虫を噛み潰したような顔とはまさにこのことか。

「酷い悪酒だ。味も何もあったものではない」
「これが当代風の味ですぞ、王よ。証拠にこの街の何処でも買えまする。疑うならばコンビニの一軒でも訪ねてみればよろしい」
「二口目は要らん。泥水でも呑んでいる方がマシだ」

 旨いのに……と真備がしょんぼり唇を尖らせる。
 全国のコンビニで、だいたいどこでも数百円で買える逸品である。
 真備もあれこれ酒の遍歴はある筈だが、一周回って今はこれが気に入っているらしい。
 もちろん異国の王族の口にはまったく合わなかったようだ。
 彼が王でさえなければ唾でも吐き捨てそうな勢いだった。
 今とは比べ物にならない銘酒、神酒が溢れていた時代の王族であるカドモスにしてみれば尚更、現代の"酔うための酒"という概念は理解できないのだろう。

「やれやれ。酒宴でいけずは嫌われますぞ」
「黙れ。貴様の国では宴の席でこれを出すのか?」
「今宵は天気が好いですなぁ。月見酒、月見酒っと」
「そうか。やはり貴様、死にたくて此処に来たのだな?」

 スチャ……と槍を取り出そうとするカドモス。
 どうどう、と宥める真備。
 今更言うまでもないが、事を始められて困るのは彼の方である。
 如何に真備が陰陽師の極峰のひとりであるとはいえ、敵方の陣地の内側で暴れるランサーと真っ向から喧嘩などすれば勝率は一割を下回る。
 それを分かった上でおちょくるような振る舞いをできるのが、彼の非凡な点であるのだったが――それはさておき。

「冗談ですわい。先にも言ったように、土産話を用意しておりましてな。具体的に言うと、二つほど」
「言葉は慎んで選べ。どちらが上でどちらが下かが分からぬほど蒙昧ではなかろう」
「ええ、ええ。よ~~く分かっておりますとも。ではさて、まずは貴殿が先ほど相見えた糞餓鬼の話から致しましょうか」

 カドモスの眉がぴくりと動いた。
 先ほどこの地に現れ、狼藉の限りを尽くした不敬者。

「アレは所謂〈人類悪〉です。ビースト、とも言えますな」
「……ほう。何故断言出来る?」
「職業柄ですね、臭いには敏感なのですよ。
 あの餓鬼はカマトトぶっちゃおりますが、真っ当な英霊と呼ぶには少々ケモノ臭すぎる。
 七つの人類悪か、何かしらのイレギュラーで生まれた番外位。まあ、ざっとそんなところでしょうなぁ」

 人類悪――それは人類愛を謳いながら、愛する人理を滅ぼすモノ。
 救いがたき獣性に憑かれた破滅の器、一が確定すれば七まで連なると謂われる、最も忌み嫌われたる生物。
 先に己が相対した存在が"そう"であると迷いなく断言されれば、さしものカドモスも無感ではいられなかった。
 物腰こそ静かだが、目に見えて食いついてきたのを感じて、真備は口角を更に歪める。

「カラクリ細工の娘にも会いましたかな?」
「会った。四肢を鋼に置き換えた小娘だな? 正当な英霊とは言い難い、大分奇怪な存在と見たが」
「なら話が早い。アレが恐らく、本来で言うところの冠位英霊に相当する役者の一柱です。殺さなかったのは賢明でしたな」

 続いて話に出したのは、デウス・エクス・マキナ……雪村鉄志のサーヴァント。
 ここに来る前、偶然杉並から逃げ果せてきた彼女と遭遇した、なんて経緯をもちろん真備は語らない。
 さながらあまねく距離と時空を超越する千里眼で見通しているかのように、何食わぬ顔で言い当ててみせる。
 無論カドモスはすんなり騙されるほど愚昧ではなかったが、それでもその堂々たる物腰は真備という英霊の確かな価値を示す。

 怯え、震えながら何やら進言する格下と。
 堂々胸を張り、虚勢交えながらそれを匂わせもせず貫き通す格下。どちらの言が傾聴に値するかは明白だろう。

「では、神寂祓葉という娘についてはご存知で?」
「名だけなら。だがそれ以前からも、妙な気配は感じ取っていた」
「ああ、はいはい。分かりますよ、分かりますとも。
 何しろ儂も貴殿と同じようにアレの存在を感知したクチですんでの」

 何か、道理の通じないモノが居る/在る。
 そのことは、カドモスもちゃんと感じ取っていた。
 喩えるならば、いちばん近いのは恐らく地震だ。
 定期的に揺れが訪れるものの、では何処のなにが引き起こしているかを突き止めるのは何も知らない身では至難。
 カドモスがずっと抱いてきた不可解のひとつに、此処で答えが示される。

「この舞台の黒幕は人類悪の餓鬼と、その祓葉っちゅう小娘です。
 言うなれば胴元が憚りもなくイカサマをしながら、ありったけの金貨をちらつかせてるような状況でしてな。
 儂もほとほと困り果てとるのですよ。手前で主催しておきながら実際は誰に勝たせる気もない、恥も外聞もない出来レースですわ」
「ふむ。大方そんなことだろうとは思っていたが……」

 納得を抱いた上で、カドモスは自らもそこに辿り着いていたと示す。
 テーバイの王は暗愚に非ず。神の気配を察知し、その上であの明らかに度外れた玩具を駆使する英霊を見れば推理のひとつも出来上がるのは当然だ。

「――それで? 貴様はこの儂に、神殺しの手伝いでもしろと言うつもりか?」
「そうまで直接的じゃありませんがね。まあ、頭の片隅にでも入れておいてくれりゃ万々歳って具合です。
 アレらを討たない限り何をどうやっても願いは叶わない、それどころか一寸も顧みられずに総取りされる。
 胴元が進んで横紙破りをやってるんです、せめてその話くらいは周知させておくのが、知った者の責務かと思いましてな。どうじゃ、誠実でしょう」
「よく言う。貴様の眼が語っているぞ、舌の浮くような白々しい科白を宣っていると」
「わははは、こりゃ手厳しい。猪口才な奸計は無駄のようですなぁ」

 実際、これは上手いやり方だった。
 示すのはあくまでただの事実。されどそこに、すべてが詰まっている。
 神寂祓葉とそのサーヴァントといういわば"主催陣営"が勝算を独占している以上、そこをどうにかしない限りは未来などありはしない。
 聖杯に縋ってでも叶えたい願いがあるのなら、その障害物は無視できないだろう? と。
 真備は遜りながらも示し、道を狭めているのだ。老王カドモスが選ぶべき道、討つべき敵を。

「ええ、いかにもそうですわい。儂はあんたに、あの餓鬼共を討つ助けをしてほしいと思っとる」
「それは――、貴様も聖杯に掲げる願いを持つ故か?」
「半々じゃな。半分は確かにそうですが、もう半分は純粋に先人としての最低限の責務ってやつです。
 儂はオルフィレウスにも、神寂祓葉にも"遭って"ますがな……奴らは真実、本当の意味でただの糞餓鬼ですわ。
 あんな砂利共に世界の覇権なんざ握らせたら、まずろくなことにならんのは明々白々。
 まだ学び切ってない教本を落書き塗れにされちゃ敵わんでしょう。理由としちゃこれで十分と思うんですがね」

 吉備真備は生前も死後たるイマも変わることなく探求者だ。
 だからこそ彼には、オルフィレウスの陰謀に刃向かう理由がある。
 彼はかの科学者の思惑の全貌を知らないが、だとしてもあの幼稚なふたりの陰謀に自分の愛する世界を汚されては敵わないと思っているのだ。
 汚され、歪められた世界地図を探求することにいったい何の価値があるのか。
 神の支配など不要、世界統一などますます不要――世はただあるがままに在ればいい。
 そう思うからこそ彼は粉骨砕身を惜しまない。その熱はおどけた殻の内側からでも、相対する老王へと伝わっていた。

「で、お返事は如何に? カドモス王よ」
「可能性のひとつとしては踏まえておこう。
 儂は聖杯を求めている。それを阻む謀があるのなら、この槍で打ち砕いて無に帰すのみだ」
「はっはっは、それでこそ。いやはやまったくテーバイは善き王を持った。神をも恐れぬ貴方が味方に着くというなら百人力です」

 真備の口にする言葉はすべてが皮肉だ。
 カドモスも、それを理解した上であえて今は怒らずにいる。
 これも真備の狡いところだ。牙を剥けば己の株を下げる状況というものを、一見無軌道な無作法めいた振る舞いの中で巧みに作り出している。
 カドモスは英雄王。故に格の縛りに逆らえない。それをすれば、己の国と子らすべての名誉を穢すと分かっているからだ。

「では、王の聡明を喜ばしく思いながら二つ目を。
 現在、ああまさに今頃でしょうな。新宿で大きな戦が起きている」
「見くびるな。とうに知っておるわ」
「ええ、承知で話しておりますよ。
 儂も自ら目で見て確認したわけじゃないですがの、戦いの大きさからして、祓葉もその取り巻き共も顔を出してるに違いありませんわ。
 つまりこれは最初の分水嶺。都市の真実たるモノ達が動き、殺し合う祭りになるわけです。
 どう転んでも役者の誰かしらは死ぬでしょうし、その死が後に残される我々に無関係であることはあり得ない」

 真備はそれを知っている。
 それが起こす事態も、後に残るだろう影響も把握している。
 その上で一枚噛むこともせず静観を選んでいる。
 何故か。その先にある混沌の果ての勝ちだけを狙っているからだ。

「で儂が思うに、あんたの小鳥はそっちに赴いてえっちらほっちら働いている。違いますかな?」
「――――」

 途端に強まる殺意。
 その桁は、これまでのとは一線を画する。
 ここにいるのが真備だからよかったが、そうでなければ腰を抜かすか、ともすれば即座に心臓発作を起こしていても不思議ではなかった。

「そう怒らんで下さいな、ただのちょっとした意趣返しですよ。
 何しろ儂とウチの要石へ最初に喧嘩を売ったのはあんたらの方じゃ。
 機会があればやり返そうと思ってたんです。しかしその反応を見るに――く、くく。弁慶の泣き所ってやつだったみたいですのう、王様?」
「貴様……」
「おっと、荒事は勘弁してくださいや。今のは確かに多少他意のある物言いでしたが、あくまで本意は親切心ですからな。
 このまま捨て置けばきっと事態はあんたの想定の外に出る。そうなっては神殺しを目指す我々としても面倒なんですわ。
 後になって嘆かれるくらいなら、いっそ起き得る最悪を阻止するため御大直々に足労願った方がいいかと思い、進言させて貰ってる次第ですよ」

 吉備真備は腕の一振りで岩を砕き、神をねじ伏せる豪傑ではない。
 彼にあるのは知恵と経験。探究心の赴くままに生き、大義の中にあっても我侭を見失わなかった男だからこそ、その視野と思考範囲は実に広い。
 だからこそ、彼は当然に見抜いていた。
 青銅の兵を率いる者というファクターからテーバイの国父カドモスの名を暴き、栄光と悲劇に呪われた男という情報を糧に、王の情念にまでも推理の網を届かせる。

 かつて自分達のもとに攻め入ってきた青銅兵、それを率いていた幼い少女の存在。
 それと王のバックボーンを重ね合わせた上で行った推論の結果――老王カドモスは、か弱い小鳥を見逃せない。
 そこまで分かった上で事のすべてを俎上に載せ、不敬承知で自分に利のある話を進めていくのだ。

「儂が見るに、あんたの小鳥は長生きできないでしょう」

 先の煽りと何が違うのかと思うような物言いだが、これは知見と人心理解に基づく的確な助言だった。
 真備は老獪だ。若者のバイタリティと宿老の見識を併せ持つことが彼という英霊の最大の強み。
 晴明とも道満とも違う、真備にしか選べない道というものがその眼前には常に存在している。

「なんたって眼が曇ってる。ありゃ過去に呪われ、痛みに縛られた者の眼じゃ。
 そういう顔をして戦場に立つ者の末路は決まっとります。
 なのでやり方は任せますが、あんたなりに助けてやりなされ。あの娘っ子に死なれると、儂らも困っちまうんでの」
「なるほど。では問おう」

 だからこそ、彼が行う助言には値千金以上の価値があった。
 逆鱗に触れる物言いをされたにも関わらず、カドモスが激昂していないのがその証拠だ。
 王には人を見極める眼が不可欠。遥かテーバイの王から見ても、この老術師の慧眼は類稀なるものだった。
 されど。それも続く彼の言動次第では、ここで終わる。

「その前にひとつ付け加えておく。
 今から儂がする質問に対し、わずかでも含みのある答えを返した場合、この先貴様らとの交渉には一切応じない」

 王はたとえ不敬者であろうとも、能力を示せたならば時に寛大だ。
 しかし、不実と謀は決して赦さない。

「した時点で貴様と要石、更にそれに連なるすべての存在を敵とみなして誅戮する。例外はないと心得よ」
「……おーおー、おっかないことを仰る。そう殺気立たないで下さいや、酒の味も消えちまう」

 おどけたように言う真備だが、この時ばかりは彼も緊張を感じていた。
 この王が本気になれば、自分など吹けば飛ぶような三下でしかない。
 建国王の故郷でその怒りを買うなど、比喩でなく神罰が落ちてくるのと変わらない。
 希彦に令呪を使わせても、果たして撤退が間に合うかどうか。
 天津甕星や雪村鉄志達が味わったのとは次元の違う、竜殺しの英雄の真髄を見ることになるだろう。

「慎んでお答えしましょう。儂も命は惜しい」
「そうか。では問うが、キャスター。――貴様、儂に何をさせようと目論んでいる?」

 神殺しの片棒を担がせたいのは分かった。
 が、真備の自分に対する執着は異常に見えた。
 逆鱗の存在を分かった上でアルマナの話題を出し、あまつさえ助けてやれと進言までするくらいだ。
 そうまでしてでも、自分達に当面生き残って貰わねばならない理由とは何か。

 放たれた問いに、真備は盃を置いて、正面から王を見据えながら言った。

「カドモス王、あんたの宝具は格別です。侵食固有結界、つまり世界を冒す御業だ。
 儂も少し探ってみたが、はっきり言って凄まじい。いや凄まじすぎる。
 今ある大地の表層を塗り替えるなんぞ、本来神霊がやる所業ですよ」
「世辞など望んでいるように見えるか?」
「話は最後まで聞くもんです、王よ。あんたの固有結界はつまるところ癌細胞なわけじゃ。
 これが普通の聖杯戦争だったら、まあ迷惑極まりない御力ですがの。
 しかし神なるモノが支配する、外道の聖杯戦争というなら話は大きく変わってくる」

 この世界は、針音の仮想都市は被造物だ。
 造物主が創造し、今も神たるオルフィレウスが俯瞰している願いの箱庭だ。
 天津甕星を飼う闇の大蛇の真名すらも、彼は当然のように知っていた。
 ここで疑問がひとつ生じる。

 ――何故オルフィレウスは、カドモスによる地脈侵食に気が付けなかったのか?
 地上の手段では監視できない、地中での事象だったから? 確かにそれもあるかもしれない。
 だが、もしもそうでなかったなら。カドモスの芸当が真の意味で、オルフィレウスの箱庭の道理を超えたものだったとしたら?

「あんたは唯一、オルフィレウスの箱庭で領土を持てる。
 神にさえ冒されず暴かれない、栄光の国を拡げることができる」

 カドモスの第三宝具『我が撒かれし肇国、青銅の七門(スパルトイ・ブロンズ・テーベ)』。
 自動拡大する領土という目に見える強さに隠れているが、真に脅威的な要素はその奥にこそ潜んでいる。
 この宝具は世界の修正力を相殺する。言うなれば、現存の法を打ち消しながら侵食し続ける国産み兵器だ。
 たとえ聖杯を戴く造物主に創世された亜空の仮想都市であろうと例外ではない。

 現杉並を始めとし、カドモスの領土はテーバイという名の独立地帯と化している。
 青銅の英雄王が実効支配する地図にない国。そこで起こること、生まれる事態は、この世界の神々達にすら易々とは見通せないのだ。
 緻密な計算のもとにプログラムされた仮想世界に紛れ込んだ青銅製のコンピュータウイルス。
 敵として相対するなら脅威だが、利用しようと考えるならそこには計り知れない値打ちが付く。
 戦に勝つために最も肝要なのは、敵に主導権を握らせないこと。あるいは一度握られたそれを奪い返すこと。

「――――神殺しの拠点として、これ以上に優れた場所はねえでしょう」

 そのための準備をする上で、東京のテーバイは実に使える。
 戦力を結集させるという意味でも、対神の備えを編むという意味でもだ。

「さっきも言ったが、この聖杯戦争はそもそも挑む側が勝てる仕組みになっとらんのですよ。
 あんたも解らんわけではないじゃろう。神様気取りの餓鬼共をどけんことには、にっちもさっちも行かん」
「だから我が国を使わせろと? 侮られたものだ。不敵と驕りを履き違えているようだな」
「その手の禅問答に興味はねえ。あいにくこの性格は幼時分からの悪癖でしてなぁ。やりたいようにやる、生きたいように生きる以外の選択肢を知らんのですよ。儂という男は」

 だが、真備は最初からそれを目当てに杉並くんだりまでやって来たわけではない。
 最初はただの興味本位。杉並の現状を確認しつつ、異変の主の顔をひと目見れれば万々歳。
 そんな軽い見通しで足を踏み入れ、土地霊脈に起こっている異常の仔細を見抜くなりすぐこの発想を萌芽させた。
 であれば後は思いついたが吉日。王の逆鱗に触れることも、それで誅殺されるリスクも何のその。

「とはいえ、今すぐに赦してくれとは言いませんわ。
 新宿のいざこざが片付いた頃にでも、こちらから文を飛ばしましょう。その時に最終決定を下して貰えればそれで善き」
「……断ると言ったなら?」
「その時はそれ、やけ酒の一杯でも呷ってから次を考えるだけじゃ。
 博打の勝ち負けなんざ、呑んで忘れて切り替えるのが一番ですからな。わっはっはっ」

 吉備真備は、畏れは抱いても恐怖などしない。
 彼は常に生粋の探求者。振った賽の出目が悪かったなら、また次を振ればいいと考える質だ。
 希彦が彼を理解できないのも当然の話。
 その精神性は術師よりも、むしろ冒険家や科学者に向いている。

 カップの酒が消えると同時に、真備の気配が朧気に薄れ始めた。
 カドモスは一瞬槍に手を掛けたが、……結局振るいはしなかった。
 それをしても無駄だと判断したのだろう。この老人は交渉が破談になる可能性も、常に視野に入れて行動している。
 であれば空振りの苛立ちを進んで抱えにいく意味もない。

「願わくば息災でまた会いましょう、遠い異国の英雄王よ。
 次は互いの要石も同伴で、楽しく宴でもできるといいんですがの――」

 今も遠い戦地で働いている王の小鳥の幸運を祈るような言葉を残して、真備はカドモスの視界から消失した。
 後に残るのは空のカップだけ。まるで白昼夢でも見ていたかのように、不遜な陰陽師の姿は消え去っていた。

「……、ふざけた男だ」

 小さく息を吐き、カドモスは厳しく目を細める。
 ここが神の箱庭で、自分達が聖杯という林檎を餌に踊らされていることには気付いていたが、それでも王は勝負を捨てられない。
 英雄達の始祖という殻の内側に隠した悲憤の嘆き。それは今も、老いた戦士の心を苛み続けている。
 悲劇は潰えねばならない。たとえすべての栄光を無に帰してでも、流れる涙を根絶しなければならない。

 王は今も迷いの中。
 その証拠に、視線を向けた先は遥か彼方新宿の都。

 ――あんたの小鳥は今のままでは長生きできないでしょう。
 ――やり方は任せますが、あんたなりに助けてやりなされ。

 老人の残した言葉がぐるぐると、彼の頭の中を廻っていた。



◇◇



「……と、いうわけなんだが……」
「……、……」
「いや、分かる。そんな顔になるのも分かるぞ。
 分かるんだが、えっと、大丈夫か?」
「――大丈夫です。ええ大丈夫なんですけど、念のため確認させてもらいますね」

 雪村鉄志の話が終わって。
 香篤井希彦は、なんだかものすごく微妙な顔をしていた。
 だが鉄志も言った通り、その反応になるのも無理はない。
 彼が語って聞かせた内容は、そのくらい荒唐無稽極まりない内容だったから。

「杉並の異変を起こしているのはギリシャ神話のカドモスで、雪村さん達はそいつに襲われて」
「ああ」
「雪村さんはマキナちゃんの宝具で変身してなんとか持ち堪えて」
「うん」
「そしたら何かやたらとやけっぱち気味な和風の美少女が飛んできて、びゅんびゅん飛び回りながら対城宝具を連射して」
「そうだな」
「やばいと思ったら突然巨大ロボに乗った謎のサーヴァントが現れて、そいつが多分この聖杯戦争の黒幕で」
「やばかった」
「で、変身した雪村さんと、実は杉並自体を巨大な自国領にしてたカドモスがふたりがかりでそれを撃退したと」
「そうなんだよ」
「……、……」
「……、……」
「――――ごめんなさい。あの、何を言ってるんですか?」
「じ、事実なんだから仕方ないだろうが! 俺だって話してて"何言ってんだろ俺"って思ってるわ!!」

 ツッコミどころが多すぎる。
 特に重要なのはカドモスの宝具と、突如乱入してきた機神兵器の二点なのだろうが、部外者の希彦からすると鉄志が変身して戦う下りからして既におかしい。
 人間を戦闘要員にして前線で戦わせるサーヴァントなど、普通に考えたらまずあり得ない話だ。
 よしんばそれが可能だとして、得られるメリットに比べてデメリットが大きすぎる。
 ちょっと魔術使いとの戦闘経験がある程度の元刑事が武装した程度で相手になれるほど、境界記録帯は脆弱な存在ではない。
 相手がアサシンやキャスターだったならまだしも、バリバリの三騎士クラスにそれをやるなど荒唐無稽以外の何物でもなかった。

「希彦さん、希彦さん。ますたーは嘘を言っていません。当機の名誉にかけて保証します」
「……いや、なんか色々あって忘れてましたけど、このマキナちゃんもなんかおかしいですよねそういえば」

 鋼鉄の四肢を持つ、なんだかサイバーチックな見た目の少女英霊。
 マスターを変身させ、共に戦うという奇抜どころではない宝具も含め、まったくと言っていいほど真名の見当がつかない。
 強いて言うなら手がかりは"マキナ"という一人称にあるのだろうが……希彦が難しい顔をした瞬間、鉄志が頭を掻きながら「あー」と切り出した。

「正直、バレてどうこうなる真名じゃねえから言っちまうがな。
 マキナの真名はデウス・エクス・マキナだ。いわゆる、"機械仕掛けの神"ってやつだよ」
「は?」
「はい。
 クラス名:アルターエゴ。機体銘:『Deus Ex Machina Mk-Ⅴ』。製造記号:『エウリピデス』。
 ますたーに紹介いただいた通り、真名を『デウス・エクス・マキナ』といいます。よろです、希彦さん」
「な、に、を、言ってるんだ貴方達はぁぁ……っ」

 助けてもらったことへの礼もあるのだろう。
 今後の円滑な関係性にも期待して、鉄志が打ち明けマキナが認めたその名は、希彦の混乱に拍車をかけた。

「"機械仕掛けの神"ってのはアレでしょう? それこそエウリピデスが好んだっていう演出上の技法じゃないですか。
 何をどうしたらそれが英霊になるのかさっぱり分からない。イカれてるんですかこの状況で……!」
「のーぷろぐらむ。……あっ、ちがくて、のーぷろぶれむ。その反応は正しいものです。
 当機は我が父が願いを込め、全人類を幸福にすべく生み出された人造神霊ですから、厳密には正当な英霊ではありません。
 その証拠に今も当機は成長の過程上にあります。ゆくゆくは人類を救済する真の機神として羽ばたくつもりですが」
「…………わかった。わかりましたから、ちょっとだけ思考を整理する時間をください。脳がキャパオーバーを起こしてるので」

 眉間を押さえた希彦が部屋の隅っこにとぼとぼ歩いていって、俯きながら何やらぶつぶつ独り言を言い出した。
 どうなってるんだ、何もわからない、胡乱すぎる、みんな真備(アレ)とおんなじに見えてきた……漏れ聞こえてきたのはこんなところ。
 そのまま十分ほど思考整理に時間を費やすと、こころなしかげっそりした顔で希彦は戻ってきた。
 流石は天才と呼ばれる男。一時は宇宙を背景にしたあの猫みたいな顔になったものの、なんとか折り合いってやつを付けられたらしい。

「お待たせしました」
「お。思ったより早かったな」
「うるさいですよ。……まあ、納得できたかというとまったくそんなことはないんですけどね。いつまでもぴーぴーやってても始まらないので」

 もう一度深いため息をついてから、希彦は続ける。

「ウチのバカキャスターが戻ってきたら、改めていろいろ質問させてもらいます。
 とりあえず情報交換を済ませろって注文はこなせたので、僕らの付き合いの今後についてはその時で。いいですか」
「構わない。……ただその前に、急ぎでひとつ知見を伺いたいことがあるんだが」

 鉄志としても、今後の話は役者が全員揃ってから行うのがいいだろうと思っていた。
 しかし、今すぐにでも聞きたいことがひとつあった。
 自分達全体のための話ではなく、どちらかというと個人として知りたいことだ。
 ただし鉄志にとっては、ともすれば他の何よりも重たい価値を持つ命題。

「さっき話した、俺達を襲った和装のアーチャーについてだ」
「ああ、天津甕星についてですね。正直これも相当ぶっ飛んだ名前なんですが、ロボだの何だの聞かされた後じゃどうしても印象が薄れちゃいますね」
「……、天津甕星?」
「え。あれ、『神威大星・星神一過(アメノカガセオ)』って宝具名だったんですよね?
 だったらそれ以外ないでしょ。まあ普通に天香香背男の方が真名って可能性もありますが」

 希彦は、何を当然のことを言っているのかというような顔で指を立てる。
 鉄志としては灯台下暗しを突きつけられた気分だった。
 確かに考えてみれば当然の話。思わず頭を抱えたくなる、ご丁寧にもあっちから答えを明かしてくれていたなんて。

「天津神の葦原中国平定に抵抗して大暴れした、かなり武闘派の悪神ですよ。
 光の矢を放ちながら飛び回るって特徴も補強になります。
 天津甕星は星神ですからね。夜空の星が信仰を得て擬人化された神格なら、高速移動も流星の矢も"らしい"と言えます」
「――じゃあ、そいつが何か"蛇"に絡む逸話を持ってるってことはあるか?」
「蛇? 
 ……香香背男の"カガ"は確か蛇を意味する古語ですし、まあないことはない、かもしれませんが。どうしてそんなことが気になるんですか?」

 蛇の名を持つ神が、鉄志の追う〈ニシキヘビ〉について知っている。
 偶然とは思えない符号に、男は思わず拳を砕けんばかりに握りしめていた。
 こみ上げるのは焦燥。しかし、脳裏には一縷の光明が射し込んでいる。
 これまでずっと、ただ一握の手がかりも見つけられなかった正体不明の犯罪者。
 それが現実に存在する"誰か"なのだという確信が、今の鉄志の胸の中にはあった。

「俺は〈ニシキヘビ〉という犯罪者を追ってる。そして恐らく、そいつはこの街にいるんだ」
「……それは、特務隊が解散したことと何か関係が?」
「あるかもしれないし、ないかもしれない。だが少なくとも俺は、そのクソ野郎に一人娘を奪われてる」
「この街にいるという根拠は」
「今日だけでふたり、不自然な形で家族を喪ったマスターと出会った。
 詳しくは後で話すが、どうにも偶然とは片付けにくい話でな。
 何しろ片方は武道を収めた魔術師。もう片方は聖堂教会の代行者の夫妻だ。
 後者に至ってはつまらない交通事故って形で命を落としてる。おかしな話だろ」

 思わず早口になっていたが、彼にはそれを自覚する余裕もない。
 希彦がぶつぶつ言っている十分の内に、高乃河二達からのメールを確認した。
 まだ完全に精査はできていないものの、流し見しただけでも目玉の飛び出るような内容ばかりだった。
 自分がのん気に気絶していた時間がひどく惜しい。
 その分だけ自分は出遅れた。切望した運命の結実がようやく影の先端程度見えてきたというのに、何をしているのかと自責のひとつもしたくなる。

「なるほど。痕跡を残さず人を消し、かつ社会的な根回しにも長けた弩級の犯罪者――といったところですか」
「少なくとも俺はそう睨んでる。というか、そうでなかったら説明の付かないことが多すぎてな」

 でも、僕らには関係ない話ですよねそれ。
 そう言われてしまえば終わりだったが、しかしそうはならない。
 何故なら蛇の存在はもはや単なる思考上の仮想存在ではなく、少なくとも"そういうモノがいる"ことは証明されているのだ。
 天津甕星がニシキヘビの単語に反応してくれたことは、そういう意味でもあまりに大きな分岐点だった。
 砂漠の砂をふるいにかけるような途方もない話が、現実に存在する犯罪者を追う追走劇へと変わった。
 そしてそうなれば、もうこれは鉄志達遺族だけの問題ではなくなる。

「……実在するとすれば、確かに厄介ですね。
 わかりました。そこに関しても、キャスターが戻り次第もう少し詳しく聞かせてください」

 蛇は実在する。
 少なくともNPCのような都市の背景としてではなく、魂と英霊を携えた演者(アクター)として今もどこかの藪中に潜んでいる。
 そんな厄介な敵対者の存在を、"どうでもいい"と切り捨てるなど賢明な選択とは言い難い。

 雪村鉄志が天津甕星から引き出した手がかりは、〈ニシキヘビ〉を狩りの場へ引きずり出した。
 特務隊が成し遂げられず、鉄志自身も心血枯れ果てるまで戦って、それでも叶わなかったステージ。
 これからだ。何もかもが、これからだ。血が滲むほど唇を噛んで、鉄志は自分に言い聞かせるように頷いた。



◇◇



【世田谷区・ビジネスホテル(廃墟)/二日目・未明】

【雪村鉄志】
[状態]:疲労(小)
[令呪]:残り二画
[装備]:『杖』
[道具]:探偵として必要な各種小道具、ノートPC
[所持金]:社会人として考えるとあまり多くはない。良い服を買って更に減った。
[思考・状況]
基本方針:ニシキヘビを追い詰める。
0:希彦のキャスター(真備)が帰投次第、これからの話をする。
1:アーチャー(天津甕星)は、ニシキヘビについて知っている……?
2:今後はひとまず単独行動。ニシキヘビの調査と、状況への介入で聖杯戦争を進める。
3:同盟を利用し、状況の変化に介入する。
4:〈一回目〉の参加者とこの世界の成り立ちを調査する。
5:マキナとの連携を強化する。
6:高乃河二と琴峯ナシロの〈事件〉についても、余裕があれば調べておく。
7:今の内に高乃達からの連絡を見ておくか。
[備考]
※赤坂亜切から、〈はじまりの六人〉の特に『蛇杖堂寂句』、『ホムンクルス36号』、『ノクト・サムスタンプ』の情報を重点的に得ています。
※高乃河二達から連絡を受け取りました。レミュリンが彼らへ伝えた情報も中に含まれていると思われます。詳細はお任せします。
※アーチャー(天津甕星)の真名を知りました。

【アルターエゴ(デウス・エクス・マキナ)】
[状態]:疲労(中)、安堵
[装備]:スキルにより変動
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:マスターと共に聖杯戦争を戦う。
0:よかった。よかったぁ……。
1:マスターとの連携を強化する。
2:目指す神の在り方について、スカディに返すべき答えを考える。
3:信仰というものの在り方について、琴峯ナシロを観察して学習する。
4:おとうさま……
5:必要なことは実戦で学び、経験を積む。……あい・こぴー。
[備考]
※紺色のワンピース(長袖)と諸々の私服を買ってもらいました。わーい。

【香篤井希彦】
[状態]:魔力消費(中)、〈恋慕〉、頭の中がぐっちゃぐちゃ
[令呪]:残り三画
[装備]:
[道具]:式神、符、など戦闘可能な一通りの備え
[所持金]:現金で数十万円。潤沢。
[思考・状況]
基本方針:神寂祓葉の選択を待って、それ次第で自分の優勝or神寂祓葉の優勝を目指す。
0:なんだかとんでもないことになっていないか? ええい、さっさと帰ってこいあのバカキャスター!!
1:僕は僕だ。僕は、星にはならない。
2:赤坂亜切の言う通り、〈脱出王〉を捜す。
3:……少し格好は付かないけれど、もう一度神寂祓葉と会いたい。
4:神寂祓葉の返答を待つ。返答を聞くまでは死ねない。
5:――これが、聖杯戦争……?
6:〈ニシキヘビ〉なるマスターが本当に存在するのなら脅威。
[備考]
二日目の朝、神寂祓葉と再び会う約束をしました。


【杉並区・区境近辺/二日目・未明】

【キャスター(吉備真備)】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:『真・刃辛内伝金烏玉兎集』
[所持金]:希彦に任せている。必要だったらお使いに出すか金をせびるのでOK。
[思考・状況]
基本方針:知識を蓄えつつ、優勝目指してのらりくらり。
0:さて、さて。面白くなってきたわい。
1:希彦については思うところあり。ただ、何をやるにも時期ってもんがあらぁな。
2:と、なると……とりあえずは明日の朝まで、何としても生き延びんとな。
3:かーっ化け物揃いで嫌になるわ。二度と会いたくないわあんな連中。儂の知らんところで野垂れ死んでくれ。
4:カドモスの陣地は対黒幕用の拠点として有用。王様の懐に期待するしかないのう。
[備考]
※〈恒星の資格者〉とは、冠位英霊の代替品として招かれた存在なのではないかという仮説を立てました。

【ランサー(カドモス)】
[状態]:全身にダメージ(小)、君臨
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:いつかの悲劇に終焉を。
0:神殺し、か。
1:令呪での招聘がない限り自ら向かうつもりはないが、アルマナに何らかの援護をする?
2:当面は悪国の主従と共闘する。
3:悪国征蹂郎のサーヴァント(ライダー(戦争))に対する最大限の警戒と嫌悪。
4:傭兵(ノクト)に対して警戒。
5:事が済めば雪村鉄志とアルターエゴ(デウス・エクス・マキナ)を処刑。
[備考]
 本体は拠点である杉並区・地下青銅洞窟に存在しています。
 →青銅空間は発生地点の杉並区地下から仮想都市東京を徐々に侵略し、現在は杉並区全域を支配下に置いています。
  放っておけば他の区にまで広がっていくでしょう。

 カドモスの宝具『我が撒かれし肇国、青銅の七門(スパルトイ・ブロンズ・テーベ)』の影響下に置かれた地域は、世界の修正力を相殺することで、運営側(オルフィレウス)からの状況の把握を免れています。



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最終更新:2025年07月21日 23:45