.
人が心から恋をするのはただ一度だけである。
それが初恋だ。
◇◇
「――――で、言い訳を聞こうか?」
天空工房、造物神のラボラトリー。
無菌室めいた純白の床と天井は神経質な潔癖さを想起させるが、一方で中は用途も分からない機械パーツでごった返していた。
俗に言うゴミ屋敷状態である。この有様でもどこに何があるかきちんと把握できているというから恐ろしい。
そんな部屋の中で、短い足を組みながらふんぞり返っているオルフィレウス。
彼の前でもじもじと視線を泳がせ、白き現人神が正座している。
「やぁ……だって約束しちゃったし。こっちから提案したのになかったことにするのもアレだし……」
「そのなけなしの誠実アピールのために、人が丹精込めて調整していた施策機を持ち出したと。おまけに授けてやってきたと」
素人はいつだってそうだ。
人がモノづくりにかける手間暇をカジュアルに軽視する。
生前嫌な思い出でもあったのか、黒幕の少年は大層不機嫌な様子だった。いっそ殺してやりたいが、殺しても死なないので余計に腹が立つ。
「はっきり言うが、きみのやったことは捨て猫にブランケットをかけてやったようなものだ。
華村悠灯はどうあがいてもこの世界に何かを生み出せる演者じゃない。無価値、無駄、無意味だ」
「むぅ。あんまり人の友達を悪く言わないでほしいんだけどな」
「知るか、ボクの友達じゃない。
まったく、これなら天津甕星に渡してやる方がよほど有益だった。
同じ実験台でもあっちの方が遥かに優れていて、長期の観察が可能だったというのに」
第三世代型永久機関(Mark-Ⅲ)。
より高度な汎用化と、思想矯正機能を搭載したハイエンド機だ。
祓葉がたまたま試作段階で持ち出したからよかったが、もし完成してしまっていたら悠灯は同化を済ませるなり無限時計文明の尖兵と化していた。
無論、彼女はそれを知らない。そもMark-Ⅲがどういう目的で製造されたのかも理解していない。どこまで行ってもこういう女なのだ。
「うーん、それはどうだろ」
オルフィレウスの辛辣な舌鋒に、祓葉は口へ指を当てて首を傾げた。
「悠灯は面白い子だよ。私は結構期待してるけどな」
「根拠は?」
「え、勘」
「論外」
彼も、華村悠灯と伊原薊美の一連の決闘は観測していた。
それなりに興味深い内容ではあったが、結果は下馬評の通り。
路傍の野良犬は順当に敗走し、神の気まぐれで永らえた。
彼女の生存は単なる偶然の積み重ねでしかない。
よって注視に値せず。試作機の運用データが多少得られれば御の字程度。
造物主は物事を合理的に判断する。しかし祓葉は、悠灯という演者に何かを感じている様子だ。
「何を話したのか知らないが、あまり真に受けるなよ」
さりとて、祓葉の熱しやすさはいつものこと。
記憶に留める価値もないと判断し、華村悠灯に関する思考を打ち切る。
「それよりもだ。やらかした人間が一丁前に反論してくるんじゃない、不愉快だ」
「やっちゃったものはしょうがないじゃーん……。もっかい作ればいいでしょ、ちゃちゃーっと」
「…………」
オルフィレウスの蟀谷に青筋が浮かぶ。
この神は人間臭すぎる。祓葉も祓葉だが彼も大概だ。
「……ボクはボクの仕事をする。きみも、ちゃんと役目を果たしてもらうぞ」
「そこはもちろん。お説教が済んだらまたひと遊びしてくるよ、面白そうなことになってるし――」
月女神・天枷仁杜の覚醒から祓葉を逃したのは、あの変質の瞬間が最も驚異的な出力を実現していたからだ。
恐らく再現性もあるのだろうが、今のところ女神は衆愚の法を垂れ流して君臨することで満足している。
ダダ漏れになっているだけの月光ならば祓葉は呑まれない。
大多数の演者が渋谷に集結しているにも関わらず、ほとんど致命的な影響を被っていないのが証拠だ。
「違う」
しかし、オルフィレウスが言いたいのはそういうことではない。
「きみには、もっと童心に帰って貰わないと困る」
「ほぇ?」
「皆まで言うつもりはない。ボクはこれから当分誰かさんの尻拭いに奔走だ、馬鹿に講釈を垂れてる暇はないんでね」
天枷仁杜は、恒星の器(こども)たちの真価を示した。
世界を塗り潰す感情。新たなる惑星法則(プログラム)を実行させる超巨大な自我。
いずれも、現在確認されている恒星資格者達が普遍的に有する概念だ。
ならば恒星の中の恒星、超越者の中の超越者、最強の資格者たる祓葉がそこに辿り着けない筈がない。
神寂祓葉は、未だ蛹の中にいる。
彼女達にとっての羽化とは成長ならぬ退行。
大人になるのを拒絶して、抱えた幼児性を全肯定することで奇跡は起こる。
スターゲイザーⅠ。英霊ならざる上位種の出現によって恒星のメカニズムは証明された。
彼女達は、大人になってはいけないのだ。
胸に抱いた幼年期と合一し、永劫の少女時代を謳い上げることで創星神話は開闢する。
「分かったら早く行け。大人になるのは嫌だろう?」
さっきは何を話したのか知らないなどとしらばっくれていた癖に、ちゃんと祓葉と華村悠灯の対話を聞いていたらしい。
この科学者にはそういうところがある。要するに、素直じゃないのだ。
「――――へへ、そうだね」
楽しい時間が、明日もその先もずっと続けばいい。
少女の拙い願いは、神の奇跡となって針音の都市を創造した。
彼女こそはネバーランドの王者。未知を愛しながら、同時に停滞を願う矛盾した螺旋。
「ちょうどもうひとつ約束が残ってるし、また頑張ってくるよ」
月の光と、混沌の蛇腔。
新たな炎が本格的に延焼を始めている地上に、白き神が凱旋する。
風のように消えた彼女を見送り、オルフィレウスは嘆息をひとつ零す。
今度のはできの悪い半身に対してではなく、自分自身への辟易だった。
"幼年期の終わり"を標榜しながら、その化身のような女に開花を促す。
自分でも分かるほど筋が通っていない。
第一祓葉が本当に仁杜のように覚醒してしまったなら、もう文明昇華なんて次元ではない事態になる可能性とてあろう。
それなのに自分は、神寂祓葉という極星が至り得る真の輝きを見たいと望んでいる。
これも矛盾だ。矛盾しているのは祓葉だけでなく、オルフィレウスもまたそう。
その陥穽はある意味では付け入る隙であり、またある意味では神話を打破する難易度を跳ね上げる。
道理を無理で蹴飛ばしたがるのは童心を捨てられない者に共通の悪癖。
そして実際に蹴飛ばせてしまったからこそ、彼らは勝者として此処にいるのだから。
奇跡とは当事者以外の全員にとって理不尽である。
誰かを照らしながら誰かを焼き尽くす、あの太陽のように。
◇◇
「ふう、長かったなぁお説教」
神寂祓葉、斯くして地上に再臨す。
すとんと天空から地に降り立つ様は、宛ら熾天使の降臨か。
伸びをし、先鋭化された直感を研ぎ澄まして都市の現状をぼんやりと把握。
「おー……? なんか面白そうなことになってるっぽい?」
単なる勘だが、仁杜の他にも妙な気配を感じる。
自分が席を外していた間にもうひとり、誰かやらかしたようだ。
誰もが恐れる蛇の邪気さえ祓葉にとっては単なる祭り囃子。
さて、どこから喰らおうか。
月。蛇。あるいは敢えて、そのどれでもない戦端を作りに向かうか。
迷いながら歩き出そうとして、そこで――
「あ」
見知った顔を認めて、間抜けな声を出し足を止めた。
「ちょうどよかった。会いに行く手間が省けたや」
破顔する〈この世界の神〉の視線の先には、ひとりの青年が立っている。
一度見たら忘れないだろう、爽やかで非の打ち所がない甘いマスク。
ホストでもアイドルでも、こと女性相手の人気商売ならどの業界でも最前線を張れるに違いない美青年だった。
その男を、神寂祓葉は知っている。
彼女が今日最初に出会い、ある約束を交わした相手だ。
戦乱は拡大し、少なくない数の脱落者まで出た混沌の現在。
かの人物が生き残っていたことに、祓葉は喜びを禁じ得ない。
そうでなくては面白くない。
極星の少女は人懐っこく破顔して、半日と少しぶりにまみえた青年へ手を振った。
「――久しぶり、希彦さん。元気だった?」
香篤井希彦。
神寂祓葉に求婚をするという、狂人達が憤死しかねない所業を初手でやってのけた陰陽師が――神の視界に立っていた。
◇◇
雪村鉄志と別れ、希彦はひとまず目的地を新宿に据えた。
渋谷を通らなかった理由はごくごく単純で、鉄志が追う蛇の怪物と関わり合いになるのを避けるためだ。
結論から言うとその判断は正解だった。
現在、渋谷には月光だけでなくもうひとつ……恐らく〈ニシキヘビ〉に由来するひどく醜穢な結界術が展開されている。
もしアレに取り込まれていたなら、何かしら致命的な事態に追いやられたろうことは想像に難くない。
よって渋谷の外周を伝う形で、迂回しつつなるだけ最短を心がけながら新宿に向かい、様子見と祓葉の捜索を兼ねるつもりだったのだが――
杉並区。青銅王のお膝元で、希彦は想定よりも遥かに早く想い人との再会を果たす運びとなった。
祓葉が空から降ってきたのだ。こう、ぴょこんと。
となると、やはり鉄志の推察通り黒幕(オルフィレウス)の工房は天空にあるのだろう。
だが今はそれどころではない。真備ならいざ知らず、希彦にそんなことを考えている余裕は皆無だった。
「……こちらこそお久しぶりです、神寂さん」
「うん。よかった、お互い生きてまた会えたね」
最初に抱いた感想は、この人はこんなに美しかったろうか、というもの。
美しいのは当然だ。若さも熟れも噛み分けてきた希彦の心を射止めたのだから、そこの部分は前提と言っていい。
しかし人とは、一日足らずのわずかな時間でこうも見違えるものなのか?
昨日の祓葉が名画の中で微笑む女神なら、今の彼女は星の光と共に来臨した宇宙意思の化身のようだ。
何を言っているのかなんて希彦自身も理解していない。
彼女が変わったのか、それとも自分が勝手に魅せられているだけなのか。
それさえ判然としないまま、勝手に乾く喉を唾液で湿らせて、なんとか言葉を紡いでいる有様だ。
「ちゃんと再会できてよかった。貴女のことだから、僕のことなんて忘れているものと思ってましたよ」
「え。そ、そそそそんなことないよ? うん。友達に会ったついでに思い出したとかそんなことないし、ナイシ……」
「忘れてたんかい」
普通ならプライドを傷つけられる場面かもしれないが、この女の言動にいちいち目くじら立てていたら何も話が進まない。
どころか納得もできるのだ。こんな美しい生き物にはきっと、世界のすべてを思うまま振り回すことだって許されるだろうと。
神話の神々がああも気まぐれであるのだから、神寂祓葉にそれが許されないわけがない。大真面目に、希彦はそんなことを考えていた。
「時にですが、神寂さん」
「あ、うん。お返事だよね? その……プロポーズの」
ぽわっと頬を染めて、てれてれ身を捩る姿が可愛くてどうにかなりそうになる。
それをぐっと堪え、希彦は平静を装うために咳払いをした。
「ええ。そのつもりだったんですけどね。
ちょっと僕も色々あって、考えが変わりまして」
「――えっ。もしかして私飽きられちゃった?」
「いやいや、断じてそんなことはありませんよ。これはあくまで、僕の個人的な心根の問題です」
そう、見惚れている場合ではないのだ。
それでは出会ったあの時と変わらない。
奮い立て。畏怖を捨てて自我を貫き通せ。
渋谷を覆い尽くした星のように、己は此処にいると吠え立てろ。
そうでなければ香篤井希彦として生きている意味がない!
「神寂さん」
未だに、本当にこれでいいのかと思う自分がいるのは事実だ。
希彦は人間だ。類稀な才能に恵まれながら、中身はいっそ清々しいほど"人間"なのだとこの一日余りで嫌というほど思い知らされた。
だからこそ、この試練からだけは逃げられない。
襟を正し、視線を合わせて、辿り着いた結論を目の前の想い人へと伝える。
極星は未知に出会う甘美の虜である。
ならばきっとこれこそ、一番の口説き文句になる筈と信じて。
「――――僕と一戦、交えていただけませんか?」
◇◇
「はぁ? 祓葉と戦う?」
鉄志と別れ、杉並に入るかどうかの頃。
つまり現在から数十分前。
希彦が伝えてきた"方針"に、吉備真備は馬鹿げた絵空事を聞いたみたいな声をあげた。
「なんじゃお前さん、気でも狂ったのか」
「本気ですよ。僕だって色々考えたんだ。あんたが人をそっちのけにして王様と一杯やってる間とかにね」
前提。
神寂祓葉は、あらゆる英霊を含めてこの都市における最強生物である。
ウートガルザ・ロキが魅せた再現体さえオリジナルの影も踏めない。
彼女は息を吐くように限界を突破して、総ての運命を駆逐する。
その輝きは万象を魅了し、見る者の心さえ灼き尽くす。
そんな度の外れた怪物王女と事を構えるなど、どう考えても愚の骨頂だ。
希彦とて分かっている。分かっているから、あえてそれを選んだ。
「僕は、あの人のことが分からない」
「小一時間しか絡んでないんだから当然じゃな」
「でも分からなくちゃいけない。僕も男です、吐いた唾を飲む真似はしたくありません」
最初は夢見心地だった。これぞ答えだと信じて、祓葉に求婚を申し入れた。
思えばあまりに無知だったのだ。地上から仰ぐ美しさだけを見て、星のパルサーを軽んじた。
祓葉は厄災だ。触れる者皆破滅へ誘う、大星海のファム・ファタールだ。
口ではこう言っているが、求婚したことを間違いだと思いたくなったのも一度や二度ではない。
それでも希彦は、向き合うことを望んだ。
向き合ってもらうことを、選んだ。
そうして至った彼なりの回答こそ、これである。
――神寂祓葉と、死力を尽くして戦う。
太陽に向けて翔べば灼かれてしまうと理解しながら、蝋の翼を広げて舞おうと。
そんなことを言われたのだ。真備が正気を疑うのも、無理からぬことであろう。
「で?」
「なんですか」
「お前さんが描いた勝算を教えてみぃ。
勝算もなく突っ込むんじゃただの玉砕よ。ま、同じ釜の飯を食ったよしみじゃ。別れの盃くらいは交わしてやってもいいがの」
本当に性格の悪い爺だ。相手を逆撫でしないとモノを喋れないのか。
苛立ちに舌打ちしたが、ちゃんと答えは用意してある。
「――――――――」
彼の発言を繰り返すようだが、希彦も何も考えず過ごしてきたわけではないのだ。
時に屈辱を、時に逡巡を噛み締めながら、香篤井の麒麟はひたすらに考えた。
どうすれば自分は、祓葉という愛しい化物と向き合えるのか。向き合って、もらえるのか。
それを可能とするには何が必要か。リスクは脇に置くべきか、それとも賢しらに保身策を造った上で再会するのか。
「成程、成程。
そうじゃな、確かにそれをされたらあれは堪らんじゃろうな」
思考はやがてひとつの実を結び、今言葉となって真備に伝えられる。
ただし、その果実は――
「莫迦なんかお前。本気で言っとるんなら、お前も立派な狂人じゃぞ」
真備をしてこう言わしめるほど、惨たらしく糜爛して腐り落ちていた。
甘い香りは腐乱の証。熟れすぎた果実はとても甘いが、同時に喰らった者を死に至らしめる毒を含んでいる。
祓葉は狂気の病原だ。
かつて才気溢れる魔術師達を己の衛星に変えた破滅的魅惑は今も健在、どころか輝きを増し続けている。
故にやはり、希彦は先人の例に漏れず灼かれていたのである。
そうでなければこんな思考、とてもじゃないが至れる筈がない。
「もう一度言いますが、僕は本気です。これで駄目なら潔く諦めますよ」
「その無謀が祟って、無様に死に腐ってもか?」
「はい」
迷い悩んだ末に至った狂気の回答。
或いはその逡巡(プロセス)すら、狂人を生み出すロードマップの一環だったのか。
定かではないが、確かなことがひとつだけ。
「僕は、もっとあの人のことを知りたい。気付いたんですよ。そのためには――」
この戦いにおいて、香篤井希彦は死亡する。
彼という演者は、自らに科した負荷に耐えられないから。
「――神寂さんに、僕のことを見てもらう。それが一番でしょう?」
「ふ、ふはっ、ひぃっひっひっひっ!」
これは、恋する男が意中の乙女に奮い立つ聖戦などではない。
単なる傍迷惑な自殺で、それ以上でも以下でもないのだ。
だからこそ真備は笑った。腹を抱えて、ともすればこの都市に現界して以来初めてかもしれないというくらいに笑い転げた。
「あー可笑しい。分かった分かった、その時はさしもの儂も認めてやるわい」
愉快だったからだ。彼の語ったすべてのことが。
痛快だったからだ。彼の描く未来がもし成就したらと考えるだけで。
爽快だったからだ。よりにもよってこの己が、こんな男に召喚されたという事実が。
「もし本当にそれが出来たら、お前はまごうことなき天才じゃよ」
◇◇
「いいの?」
希彦の問いに、祓葉は答えではなく質問を返した。
「私、手加減できないよ?」
その言葉が目の前の男の矜持を傷つけるかもしれないだなんて、恐らく想像もしていないのだろう。
神は人の心が分からない。太陽はただ照らし、燃やすだけだ。
小首を傾げる祓葉に、希彦は思わず肩を竦めた。
悔しいとすら思えなかったからだ。自分はもう、この少女を同じ生き物として見れていない。
「もちろん。むしろ僕のことを慮るなら、ぜひとも本気で来てください」
そして同時に、祓葉も自分を同じ生き物として見ていないのだと思った。
過ぎた力は視座を狂わせる。自我を歪め、人格を超越化させ、かつて揃っていた筈の足並みを少しずつ乱していく。
なればこそ、やはりこの選択は正解だったと心底感じる。
対等な敵(他者)としてすら見られていない砂粒が星との未来を夢想するなんてお笑い種だ。
祓葉を手に入れたいと願うなら、自分も宇宙に行かねばならない。
星などではない、ただの香篤井希彦として。
「貴女の本気で消し飛ばされるなら、僕も男として悔いはありません」
「希彦さんってそういうキャラだっけ?」
「誰のせいだと思ってるんですか」
祓葉は笑ったし、希彦も笑った。
ボーイ・ミーツ・ガールと呼ぶには歳が離れすぎているけれど。
この時ふたりは、屈託のない笑みを交わし合いながら同じ時間を過ごしていた。
されどそれも嵐の前の静けさ。
針音の都市において、星の号を持つ少女は総じて爆弾で。
その導火線に火を点けたのなら、誰であろうと只では済まない。
「じゃあ、お言葉に甘えちゃおっかな?」
「……ッ!」
瞬間、比喩でなく暴風が吹いた。
整えた黒髪が乱れ、肌は粟立って寒気が止まらない。
神の降臨だ。極星のパルサーだ。人が足を踏み入れるべきでない、神話の世界が顕現する。
大げさに掲げられた右手に、白光の聖剣が顕れた。
いざ実際に拝んでみて、希彦は幻術の彼女に慄いていた自分の浅さに辟易した。
これが真作だというのなら、確かにあの写し身は不出来極まりない贋作だろう。
輝きが違う。美しさが違う。目に見え、肌で感じるすべての事象がかけ離れすぎている。
「どうしたの。私と遊んでくれるんでしょう?」
微笑む姿が、先程まで相対していた少女とは別のナニカに見えた。
光を放つ悍ましい怪物。あるいは、宇宙で最も美しい星の冠。
剣を片手に、空いたもう片方で手ぐすねを引く。
「おいで、希彦さん。サーヴァントのお爺ちゃんも」
飛んで火に入る夏の虫、という言葉があるが。
この太陽は、地を這う虫さえ吸い寄せる。
絶対の勝者。全能さえ斬り裂く光輝。
それを前にして、希彦は右の拳に力を込めた。
これまでずっと温存してきた持ち金だが、もう惜しんでいられる余裕はない。
死んでもいいとは言っても、ベストを尽くせずそうなってしまうのは話が違う。
「私に、あなた達の強さ(なかみ)を魅せて?」
刻印が感光する。
三画きりの絶対命令権。
太極図を模した刻印から、上の陰陽魚が消失し。
その姿を見届けるのを待たずして、希彦は己が従僕に叫んでいた。
「令呪を以って命ずる――キャスター、始祖の力を魅せてみろ!」
「あいよ。委細承知」
かくて始まる。
これより始まり、終わり(エンドポイント)に向けた加速が始まる。
「しこたま笑わせてくれた礼をしてやろう。目ん玉かっ開いて見とけや餓鬼共」
古めかしい一冊の本を開き、小柄な好々爺は歯を覗かせて笑った。
次の瞬間、彼の周囲全方位を覆うように無数の札と形代が浮遊する。
皮肉にもその様は、太陽の周りを無数の星々が回転する――天文図のソレによく似ていた。
「神だか星だか知らんがの。儂がこいつを開いた時点で、誰であろうと気持ちよくは戦わせんよ」
彼の名は吉備真備。
安倍晴明より尚古く、蘆屋道満より尚狡猾な"始祖の陰陽師"。
現代の麒麟・香篤井希彦が呼び出した、冠以外すべてを持ち合わせた超人である。
「だから精々、儂に気持ちよく遊ばれてくれや。なぁ?」
◇◇
戦端開幕。
口火を切ったのは、流星群だった。
吉備真備が背後に広げた無数の紙々が、鬼火を思わせる蒼白い光線を数百もの数解き放つ。
祓葉は当然、これに対して回避など選ばない。
片手に握った光の剣を振るい、自身に殺到する陰陽道の凶弾を悉く迎え撃っていく。
流石に数が数、速度が速度だ。
裁ききれなかった分は少女の身体を好き勝手に抉り、撃ち抜いたが、そのどれもが狙ったように急所を外している。
無論、真備が加減しているわけではなかった。
彼と相対する〈この世界の神〉は本能で自分の命脈に届き得る弾を自動的に判別し、一見めちゃくちゃな迎撃に見せかけて的確にそれらだけを撃ち落としているのだ。
「ほう」
興味深そうに口角を上げる真備だが、不滅性や無茶苦茶な立ち回り自体に驚いているのではない。
彼を驚かせたのは、祓葉がそもそも"急所を避ける"という殊勝な行動を取っている事実。
万能の人(ウォモ・ウニヴェルサーレ)と呼ぶには、あまりにもせせこましい行動ではないか。
「僥倖じゃの。どこぞの誰かがやりおったか」
その事実だけで確信する。
神寂祓葉は、もはや不滅の怪物ではない。
誰かが彼女を覆う無敵のヴェールを剥がし、打倒可能な標的に貶めた。
間断のない釣瓶撃ちを続けながら、真備は名も顔も知らない誰かに向けて瞑目した。
希彦は信じられないと思ったろうが、彼は今敬意を表しているのだ。
星に手を伸ばす行為を単なる無駄に終わらせず、命を懸けて届かせた誰かがいる。
一体どれほどの偉業か、考えるまでもなかった。かの医神の成し遂げた成果は、はじまりの陰陽師にさえ得意の茶々を憚らせた。
「――安心して見とれ。御身の志は儂が継いでやろう」
餞を一言。
表情に不敵を戻し、背後の札を一枚手繰る。
「暴れんなや、じゃじゃ馬。大人しくせい」
「……っ?!」
刹那、縦横無尽に駆け回りながら流星を捌いていた祓葉が急に"何かにぶつかったように"足を止めた。
困惑の表情からは思うように動けないことへの戸惑いが覗える。
その反応を見て、真備は一段と笑みを深めた。
「吉凶算定、六合禁圧――光栄に思えや、手前の凶方を儂が決めてやる」
陰陽道は方位判断を重視する体系だ。
所謂方忌み。元は要人の方位禁忌を特定した危険から遠ざける占術の一環だが、それさえ真備にかかれば攻撃用の縛術に化ける。
現在の祓葉は特定の方位へ移動することを強引に封じられ、事実上拘束された状態だ。
今回の凶方は前と左右。祓葉の出力を考えると時間無制限に縛るのは現実的ではないものの、一時でも足止めが利くなら話は容易い。
そして同時に、凶の方位を暴かれた事実はそっくりそのまま、泣き所を暴かれたことに等しい。
「儂にとっては吉方じゃがの。オラ、元気よく死なんかい糞餓鬼」
移動を封じた三方角から、音超えの爆速で呪詛を込めた杭状の凶器が飛来した。
「死なないよーだ!」
しかし、たかが音速に毛が生えた程度。
祓葉の動体視力は、その程度容易に目で追ってのける。
よって決め手には程遠く。振るわれた光剣は、悪意の杭をあっさりと斬り裂く。
「――――って、あれ?」
筈だった。
なのに一瞬の後、祓葉は三本の杭で串刺しにされている。
苦悶を漏らすのも忘れて目を見開く現人神。
都市の最強存在が呆けると聞けばさぞかし凄まじいことのように思えるが、起こった事象自体はごくごくありふれたものだ。
「おいおいどうした、スカしてんじゃねえか。
横着すんなよ、よ~く狙って振らんといかんぞぉ」
祓葉が迎撃を空振って、その結果全弾が彼女に命中した。
起こったことはそれだけ。しかしそれがどれほどあり得ないことかは、無敵の極星を知る者なら誰もが頷くところの筈。
「ま、狙ったところで当たらんがの。そういう風に組み替えたからな」
「ん、ぅ……。ねえお爺ちゃん、私に何かした?」
「宿曜って知っとるか?」
ならば、その失態を誘ったのは相対する宿老を覗いて他に居ない。
証拠に、真備は杭に貫かれ、内から呪いで蝕まれていく祓葉を愉快愉快と笑覧していた。
「ざっくり言えば占星術、星占いの一種よ。厳密に言えば商売敵なんじゃがな、まぁ理屈が似とるなら使わん手はないわ」
吉備真備は陰陽師の極北である。
彼に足りないのは過去と未来を見通す千里眼のみ。
逆に言えば、それ以外すべての分野で彼は冠位の晴明に何ら劣っていない。
ならば当然。可能なのだ。
相対した人間の運勢、星の巡り合わせを強引にずらし、凶運に導くことくらい。
三方の禁圧を済ませると同時に、真備は祓葉の運勢を極端に凶へ傾けて調整した。
今の彼女は現人神の権勢はそのままに、しかし神に愛されていないという矛盾したコンディションに置かれている。
故に狙いは外れるし、当たるものも当たらない。
本気の真備は、世界など簡単に弄ぶ。彼が生前それをしなかったのは、その方が面白そうだったからというだけに過ぎない。
「んー……で、結局どういうことなの。
そのしゅくよー? で私に何かしたってこと?
あ、ちなみに私はみずがめ座だよ!」
「マジかお前。分かっとったが、想像以上のアホじゃな」
香篤井希彦を天才と呼ぶのなら。
吉備真備は、そういう枠組みでさえ推し測れない規格外だ。
荒ぶる神をおちょくり、その上で無傷のまま鎮圧するなど朝飯前。
よって当然、こういうこともできる。
「ま、分からんなら分からんでいいわ。莫迦は莫迦らしく、口開けて黙って見とき」
『真・刃辛内伝金烏玉兎集』の頁が独りでに捲られて。
それに合わせ、金色の魔力光を放ち始めた。
しかして、その輝きは神を穿つ攻撃手段に非ず。
これは徴(ビーコン)だ。遥か天空を舞う"ソレ"に意思を伝達する、ある種の合図に他ならない。
「謹請、日精金烏。
火徳を戴き陽威を垂れ、我が符に随いて天より落ちよ」
爽やかな朝の空に、二つ目の太陽が現出する。
正確には、その威容を模倣した超巨大な呪印だ。
周囲の一帯に影を落とすような大呪印の正体は、俗に言うならある種の召喚陣。
「灼き、穿ち、灰と成せ――――急々如律令」
この世ならざる幽世から、超常の法則を引き出して出力する……陰陽道の仮想言語(プログラム)である。
陣の中から滲み出すように、金色の光が墜ちてきた。
詠唱の通り、生命を痕跡ごと蒸発させて余りある温度の大熱線。
金烏とは太陽の象徴。大陸の神話が、現代にまろび出た新興の神に下す天誅。
威力で言えば対城級に匹敵するだろう一撃に、祓葉は下から光剣の解放で抗おうとするが。
何しろ宿っている熱量が熱量だ。拮抗が成立している時点で驚くべきだが、空気中を伝わる熱だけで人間の脆い身体は独りでに壊れていく。
白い肌が蒸発したように泡立って、見るも無残な火傷で生きながらに爛れ果てる光景を拝むことができた。
生きながら炙り焼きにされているようなものであり、ショック死しない時点でも奇跡というべきだろう。
たとえその末路を避けられたとしても、もう数秒も焼き続ければ脳や内臓も溶け落ちる。
神寂祓葉が今や完全には死を破却できないことに、真備は気付いていた。
シルクを思わす白髪が束になって抜け落ち、肌には白い部分が一箇所もない。
全身が赤く剥けたのなどは早い内で、それが次第に黒く焦げ付き始めてきた頃。
「いぃぃいいぃいっ、たいなぁぁああぁああ!」
金烏の天誅が、現代の神話を前に敗北する。
地から噴き上がった星光の一閃が、天の陣ごと黄金を断ち割った。
ともすれば成層圏まで届いたのではないかというほどの光の軌跡を残しながら、現人神が駆動する。
「どいつもこいつも……よくもまあ、こんな莫迦を拝みたがるもんじゃ」
呆れたように漏らす真備は、祓葉が先程施した禁圧法の影響を押し返し始めていることに驚きもしない。
朝が来て、すっかり太陽の引き立て役に戻った月光を触媒に高い霊的殺傷力を持つ光針を創形。
先のが金烏ならこちらは玉兎、嵐の如くに吹き荒れさせて神の猛進を押し止める牽制として使う。
だが祓葉には通じない。明らかにギアが上がっている。他でもない真備がそうさせた。
月針の雨霰を撃ち落とし、斬り砕き、数十ばかしの致命傷を受けながら進軍。
振るった剣戟の軌道に沿って光の帯が這い、その切っ先が真備の胴を掠めた。
刹那、彼が背後に展開した無数の呪符のおよそ三割ほどが炎をあげて燃え尽きる。
陰陽術の基礎、除災法だ。真備は現在、背後の札すべてに自らの身代わりの役目を与えていた。
今風に言うならば"残機"という奴である。備えあれば患いなし、祓葉に挑むにあたってかけた保険はこうして彼の命を守ったわけだが――
(ひと掠りでこれだけ持っていくかよ。生身で受けりゃ即死じゃな、老体にはちとキツいわ)
出力の上昇が尋常ではない。
怪物相手であるのは百も承知、油断も慢心もなく備えたつもりだったが、この様子ではそれでもまだ不足だった。
小さく口元で何事かを諳んじ、投げた形代から天を衝くような巨人を顕現させる。
鬼だ。祓葉の数倍はあろうかという体格が、鉞状の得物を携えて彼女に突貫した。
見るからに鈍重そうな見た目を裏切り、その接近速度はAランクの敏捷に匹敵している。
単なる体当たりでも祓葉を爆散させられるだろう質量が、剣豪顔負けの技巧を用いて襲ってくるのだから悪夢のような話だ。
「――邪魔っ」
が、そんな式神が一合も付き合って貰えず、唐竹割りにされて飛沫をあげる。
そこには大仰な理屈も、狡辛い計略も存在しない。
ただ持てる力の限りにぶっ叩いた、それだけで陰陽道の極北が敗北する。
「邪魔と言えばこれも、そろそろいいかな」
纏わり付く禁圧、反転した護法が本格的に悲鳴を奏でた。
どんな巨漢をも戒める拘束具があったとして、最高速度で発進するダンプカーにはどうやったって耐えられない。
力とはすべてに勝る理不尽。触れれば折れそうなほどか細い四肢が、音を立てて常識を粉砕した。
「よし、さっぱりした。じゃあ遊ぼっか、おじいちゃん」
「――――!」
同時に焼け爛れた全身の修復を完了し、剥がれた皮膚の残滓を風に散らしながら、祓葉が笑う。
続く一足は彼我の間合いを一瞬で詰め、最古の陰陽師を確殺の圏内に入れた。
綿密な事前準備や設定されたルールというものは、すべてこの少女と相性が悪すぎる。
魔術やその他体系にも言えることだが、陰陽道の根幹もまた科学に似ている。
方角、星辰、暦……この世界に偏在する多種多様な概念の中に再現性を見出し、道具として活用することこそ彼らの商いの真髄だ。
ならば、定義というものが通用しない真性の規格外はまさに天敵。
真備がどんな手立てを引っ張り出してけしかけても、祓葉は必ず後出しで粉砕してくる。
そんな極悪なんて言葉でも生易しい相性差の帰結がこの状況だ。
祓葉の本気を前にすれば、身代わりの法など何の役にも立たない。無邪気なオーバーキルによって、吉備真備は爆散するだろう。
それは誰の目にも明らかな、当然かの陰陽師に解らない筈もない"常識"であったが。
「――――よし来た。いいぞ、胸を貸してやろう」
「え」
その言葉は真備にとっても、唾棄すべき停滞/退屈の象徴だ。
よって吉備真備、逃げず隠れず受けて立つ。
禹歩を一発。次いで踊るようにステップを刻み、死合舞台(リング)となる大地の邪気を払って己にとって清浄となる概念を呼び寄せる。
邪気や重圧は去り。代わりに幸運の相を構築し簡易的な陣地形成を果たすことで神と殴り合う準備を完了。
握った拳は萎びていたが、骨ばったシルエットは一切の衰えを感じさせない。そんな矛盾が、滑稽さを伴うことなく成立していた。
「が――ぶ、ぅッ!?」
星の腹へ、老骨の拳がめり込んだ。
肺腑がひしゃげるような鈍音が鳴り、バケツをひっくり返したような吐血が迸る。
しかし祓葉もさる者だ。
こと個としての性能で言えば、彼女はとうにトップサーヴァントと比べても遜色ないレベルにまで覚醒している。
返す刀で大上段からの振り下ろし。真備は十字に腕を組み、真言(マントラ)を吟じてその直前に防御陣を形成して防いだ。
愚策である。掠めただけで数百枚と用意した身代わり呪符を三割持っていくパワーファイターを相手に、付け焼き刃の防御など意味がない。
よしんば防げたところで、陣越しに伝達される衝撃だけで五体が破裂する筈だ。
皮肉にも先程やったことを返されて、吉備真備はまたも残機を削られる――だが実際には、彼の両足は大地を離れない。
禹歩によって刻んだ歩法が足下に見えざる相を結び、押し寄せてきた衝撃の九割五分を地へ流し落としていたからである。
「な、にそれっ!?」
祓葉の目が丸くなる。自分の一撃が通じた感触は確かにあった。
文字通り、全身を圧し潰してもおかしくない手応えである。
にも拘らず真備は膝すら折らないまま、皺だらけの面に獰猛な笑みを浮かべていた。
「力任せに殴って終わり。猿でも出来るのよ、そんなもんは」
言いざま、老人の掌が祓葉の手首を撫でた。
掴んだのですらない、ただ触れたとしか思えぬ軽さ。
だというのに、次の瞬間――
「せっかくの機会じゃ。どれ、爺がちと教授してやろう」
「ぃぎ……!?」
祓葉の口から、全身を灼かれた時にさえ漏らさなかった苦悶が溢れた。
肩口に走った違和感に反射的に剣を引き戻そうとしたが、利かない。手首の関節を外されたのだ。
「人体っちゅうのはな、どれほど頑丈でも繋ぎ目までは誤魔化せんのよ」
真備は格闘の達人ではない。
歳月費やして拳法を学んだ覚えもなければ、武辺一筋に鍛え上げた兵士でもない。
されど陰陽道とは天地人の理を見て、知って、詳らかに理解する学問だ。
方位に吉凶があるように、骨にも筋にも力の流れにも、必ずそこにはロジックが存在する。
祓葉が左から薙いだ光剣を、真備は半身で紙一重に躱す。
否、躱したのではない。
左足を半歩ずらして彼我の方位を調整した結果、彼女の方が斬撃を外したのだ。
「ほれ、今のは坎。そっちは凶じゃ」
「ぅ゛ー、そういう難しい授業はいらない!」
苛立ち混じりに祓葉が蹴りを放つ。
細い脚から繰り出されたとは思えない破壊の一閃だった。
空気が爆ぜ、遅れて大地が抉れた。
まともに受ければ胴が千切れるだろう。だが真備は着弾までの一瞬の間に、祓葉の軸足へ符を一枚叩きつけている。
「艮に重し」
「っ、うあ……!?」
たったそれだけで、暴力の極みが稚児の駄々に落ちる。
足首に見えない重石でも括り付けられたように祓葉の脚が沈んで、その隙にまた真備の拳が鳩尾を穿った。
「げ、ぅ――!」
老爺の腕力など高が知れている。
実際、肉を潰すほどの威力はない。
だというのに祓葉の喉から空気が漏れ、身体がくの字に折れてたたらを踏んだ。
それもその筈、打ったのは肉ではなく呼吸の巡りそのものだ。
臓腑の動き、横隔膜の収縮、呼吸が切り替わるほんの一瞬の隙間……森羅万象を修め上げた老陰陽師に言わせれば、人体の構造を解きほぐすなど一桁の計算問題にも等しい。
「ほれほれ、不貞腐れるな。お前が遊ぼう言うたんじゃろうが」
「……っ、性格わる……!」
涙目で睨みつけながら、祓葉はがむしゃらに剣を振るい続ける。
縦、横、袈裟、逆袈裟。常人なら視認も叶わぬ光刃の連撃が朝の景色を切り刻んだ。
真備は肘で逸らし、袖で滑らせ、現人神に"気持ちよく戦えない"という初めての体験を教授していく。
「ぁ゛――もうっ! む、か、つ、くぅ――!」
剣の理を読んでいるわけではない。
どの瞬間に力が偏り、どこで意識が前のめるかを読んでいるのだ。
「しっかし下手糞な剣じゃなぁ。餓鬼のチャンバラかい」
「うるさいっ!」
老人の両足が舞う。
再度の禹歩。
半円を描くような不可思議な踏み替えが引き起こしたのは、お互いの立ち位置の反転という超常現象だった。
結果祓葉の剛剣はまたも狙いを外し、勢いを維持したまま前へ流れた。真備はその背へ回り込み、肩甲の間へ掌底を当てる。
「ほうれ、ほうれ。当たっとらんぞぅ下手糞」
「ぁ――ぎゅ、っ!?」
ぽん、と手で押す。やったことはそれだけだ。
なのにそれだけで祓葉の身体がつんのめり、盛大に地面へ突っ込んだ。
けらけら、けらけら。嫌味を隠そうともしない呵々の声が響く。
「ほれ一本。試合ならお前の負けじゃなぁ」
ぐぬぬ、と砂煙の中から唸り声が漏れる。
祓葉は跳ね起きざまに振り返り、唇を突き出して真備を睨んでいた。
が、転んでもただでは起きないのがこの白き神だ。
愚直と謗られても、無尽蔵の活力(ガッツ)を寄る辺にひた走る。
真備はその懐へ潜り込むや否や、骨ばった脛を跳ね上げるように振り抜いた。
「星なんだって? なら相応しい処まで上げてやるわ」
「っ――!?」
老骨の蹴りは軽い。
少なくとも、質量に物を言わせた祓葉の一撃と比べれば児戯のようなものだ。
だが人体の重心線を寸分違わず打ち抜かれた祓葉の身体は、一直線に上空数十メートルまで押し上げられていた。
「っ、くぅ……、……って、えぇ……!?」
「何じゃ。爺が空飛んだら悪いかよ」
「いや、いいとか悪いとかじゃなくて、……えぇえ……?」
真備もまた地上に留まらない。
老人の身体は神を追って、重力への侮辱めいた軽やかさで宙へ昇った。
飛行自在の術。彼を今も護り続ける古い悪友の加護(のろい)が、一念にて宙を舞う不条理な舞空術を可能とする。
鳥のように舞うのではない。天地の理屈へ自らを割り込ませ、そこに"通ってよい道"を無理やり作るのである。
「逃がすかい、じゃじゃ馬。爺をノせると面倒臭えぞぉ」
自由落下に晒される少女へ、正座の態勢のまま浮き上がった老人が肉薄していく。
祓葉が空中で光剣を握り直す。その眼前で、真備は一枚の形代を放った。
符が裂け、月光を凝めたような白色が奔る。
溢れ出したのは獣――兎だ。だが愛玩のための小獣ではない。
証拠に数え切れないほどの白兎が虚空を蹴り、まるで地を走るような勢いで祓葉の四肢へ殺到する。
月の裏側を回るが如くに死角から死角へ潜り込み、足首、膝裏、肘、手首にまで纏わり付いて牙を立てた。
鮮血が噴き出し、神と呼ばれた娘が生きながら踊り食いにされていく。
なのにその苦痛を苦境のスパイス程度にしか認識していない様に見えるのは、彼女が超人である故なのだろう。
「っ、邪魔……!」
祓葉は一閃で数十を薙ぎ払う。
白兎たちは霧のように砕けるが、その断末魔すら呼び水に過ぎない。
消える寸前、彼らは小さな呪印を空中へ刻み残した。
それを起点にまた次の兎が大群となって溢れ出し、また祓葉が喰らわれる無限ループ。
これだけでさえ十分に絶望的な光景なのに、真備の跳梁は止まらない。
「呵々ッ、そうか邪魔か。ようし、ならもっと困らせてやろう」
続けざま、今度は八枚の紙札を円環に打ち並べる。
「紙兵八陣――出でい、益荒男の写し身共よ!」
紙は膨れて捻れ、瞬く間に兵卒の形を取った。
鋼の甲冑を纏い、槍、刀、弓、鎖鎌――それぞれ異なる武装を構えた八体の紙兵が空の只中へ陣を結ぶ。
その様子は真備がいつぞや援助したテーバイの不敗将軍、彼の率いる"神聖隊"の布陣に似ていた。
吉備真備が文官であるのみならず、乱を鎮めた軍略家でもあった実績が、そのまま攻め手へ転化している。
「一番槍、二番抑え、三四で追い込め。五六で封じて、七八は逃げ道を塞いどけ」
命に応じ、紙の兵士たちが乱れなく動く。
二体が正面から槍衾を敷き、別の二体が上方へ回り込んで退路を潰す。
弓兵の矢は祓葉を射殺すためでなく手足の腱を撃ち抜いての反撃封じに勤しみ、確殺を狙う役は鎖鎌持ちの面々が担う。
無論その間も、数百匹の肉食兎達が絶え間なく纏わり付いて肉叢を食み続けているのだ。
個の暴威を封殺する組織立った物量戦。光景は、大柄な芋虫が無数の兵隊蟻に群がられる光景に似ていた。
「もうっ、なんなのこれぇ……!」
癇癪じみた怒声とともに光剣が唸る。
紙兵の一体が袈裟に断たれ、白兎の群れが灼かれて消える。
だが斬れば斬るほど、潰せば潰すほど、祓葉は晒した隙を生き残った兵・獣らに突かれていくのだ。
斬れば誘われ、払えば囲まれる。真備本人は座禅の姿勢のまま蚊帳の外からニヤニヤ眺めているのが尚更フラストレーションを加速させた。
「気付いとるか? さっきから笑顔が消えとるようじゃが」
「――ッ!」
業を煮やした祓葉が真正面から突破を選ぶ。
神速の踏み込み。紙兵二体をまとめて両断し、そのまま真備へ迫る――そこで、今しがた断ち割られた紙兵の片割れが足首を握り潰した。
「ぎ……!?」
反射的に晒した一瞬、いいやそれ未満の停滞。
されども真備は見逃さない。
老人の掌中に金色の魔力が生まれ、細く鋭利に収束していった。
陰陽師らしからぬ、されど陰陽師だからこそ可能な粗削りの創造。魔力を鍛ち、咒いで刃を成した即席の剣だ。
祓葉が光剣を振り上げる。
間に合う、そう判断したのだろう。
だが群れの猛威に阻まれている今に限っては、真備の方が速い。
空を奔る祓葉の疾走を前に、とうとう真備の布陣が壊滅した。
紙兵が燃え尽き、兎達もローストされて金色の粒子に変わっていく。
吉備真備を射程圏内に捉え切るまで、あとほんの須臾。
それだけの時間さえあれば、祓葉は真備に届いていた。
「一寸(ちょっと)は分かったか? 持たざる者の気持ち、っちゅうもんが」
――されど、届かなかった。
悔しさにも似た失意が胸に広がり、次の瞬間それが痛みに変わる。
閃いた金の一線が、朝の空ごと現人神を切り裂いたのだ。
祓葉の右肩から左腹へ、白い肢体に鮮烈な斜線が走る。
次いで遅れて、壮絶なまでの血飛沫が噴き上がった。
この程度の傷珍しくもないが、初めて味わう"思い通りにならない"苦痛に祓葉の瞳が見開かれる。
握る光剣が手から離れ、くるくると回りながら虚空に消えていった。
「どうした。もう終いか、神さんよ」
空の高みにて。
斬られた祓葉が初めて、真備に切羽の詰まった顔を晒す。
が――
「――――――――あは」
此処で終わらないからこそ、彼女は神(ほし)と呼ばれるのだ。
血を噴き上げていた、傷口が。
赤ではなく、金色を噴き出し始める。
砂時計を逆さにしたように癒えていく裂傷。
その回帰に合わせて、惑星の脈動に似た爆発的な生命力が倍々算に膨れ上がっていった。
途端、真備が背にしていた数多の呪符が次々に燃え尽き始める。
攻撃されていない、それどころか触れられてすらいないのにだ。
完全に不明な事態であったが、当の真備は驚かない。
「なんじゃ、気でも触れたか」
「違うよ。まさか、こんなに楽しませてくれるとは思わなくって」
真備は神を識っている。
が、星は知らない。
恒星の資格者などという得体の知れない存在、この針音都市に来到るまで聞いたこともなかった。
ならばあらゆる可能性を想定するべきなのだ。
恒星は究極の純真。故に全能。無限の可能性を有する。
「それにね。何も持ってない人の気持ちは、人並みには分かるつもりだよ」
引力に従って墜落しようとする身体を、光剣からの魔力噴射で無理やり上空に維持。
語る内容は殊勝だが、その芸当は彼女の言葉から一切の説得力を奪っていた。
爆発する可能性。
理不尽の超新星爆発。
上空にて感光した界断ちの剣は、如来の降臨が如し。
「――そういうわけで、さあ、続けよっか!」
両手で柄を握り、相変わらず奇を衒わない一撃を放つ。
が、その威力はもう数瞬前とは次元が違う。
都市が震撼し、空間が罅割れる怪音さえ響き渡った。
世界そのものが、祓葉の出力に耐え切れず悲鳴をあげているのだ。
一閃にして大熱波を生み出し、真備の対魔防壁が展開した端からひしゃげていく。
Aランクの宝具にさえ切った張ったの勝負が可能であろう、陰陽道の大秘術。
それでさえ相手になっていない。いや、わずかな間でも防衛を成立させている事実を褒め称えるべきか。
「……やれやれ、やはりやってられんのう」
真備の苦笑にも何処か力がない。
恐らく数秒後には壁を破られ、閃撃が自分を微塵に砕くだろう。
これは奇跡という名の理不尽だ。
美しく、ドラマチックに、敵対者の死を確約するご都合主義。
嘆きを打破する神の天光――皆殺しのヒロイズム。
祓葉と相対すれば誰もが悪役、世界の敵。よって打ち倒されるだけが運命(さだめ)。
哀れなことだと思う。そうして差し伸べられた無数の手を、悉く振り払ってきたのか。
花畑で燥ぐようにして、輝く地獄に向けて舗装された英雄譚を歩んできたのか。
「つまらんよ、お前は。何が遊びじゃ、やっとることは終始一人相撲じゃろうに」
圧倒的な力で押し込まれながら、真備は尚も軽口を叩き続ける。
既に最終防衛線は綻び、砂壁も同然の有様だ。
天から地へ、打ち上げた側が傾いていく。
もう背後の呪符は一枚残らず燃え尽きていて、その命運を助ける保険はない。
それも当然のこと。
主役が覚醒したのなら、悪役は疾く退場するのが舞台のルールだ。
なるべく無様な、或いは何か悟ったような断末魔をあげ、舞台袖に捌けてそれでお終い。
様式美である。約束された結末が、日の流転のように訪れるだけ。
「つまらん、下らん。あんまりしょうもなすぎてよ……」
防壁が砕け散る。極星の斬光が、陰陽師を飲み込んで叩き潰す。
光に呑まれる最後の一瞬まで、真備は人を喰ったような苦笑を浮かべたままだった。
「――――本当に解り易いわ、お前」
そんな意味深な言葉ごと、閃光の帯が斬り伏せた。
天から墜ちて地に炸裂し、深さ数十メートルはあろうかというクレバスを刻み込む。
青銅王の国土を切り裂き、その余波だけで周辺の構造物が冗談みたいに消し飛んだ。
轟音と呼ぶのも生易しい激震が都市を揺らし、主役(ヒーロー)の逆転劇を壮大に彩っていく。
破壊。崩壊。されど神が為すならただの運命。
壊し尽くされた地上に、遅れて少女が舞い降りた。
「それで?」
小首を傾げ、目の前に広がる巨大な亀裂を見やる。
最後の科白は、きちんと彼女の耳にも届いていた。
だからそう、祓葉はこれだけのことを仕出かしておきながら、真備の消滅を信じていない。
「次は、何を魅せてくれるの?」
からころと弾む声に応えるように、クレバスの最果てで男が座っていた。
「ねえ、お爺ちゃん――」
額から血を流し、息を切らしながら片膝を突いた真備。
胴体にも傷が広がっており、超然のヴェールを剥がされた姿は悲惨を通り越して哀愁さえ感じさせる。
生き延びている時点で驚異だなどという慰めは彼に対して無礼だろう。
晴明よりも博識で、道満よりも狡猾。己が叡智を天下に誇る、陰陽道の父。
そんな大賢者でさえ、結局ご都合主義の前にはただ蹴散らされるしかないのか。
力でも智でも、人は宇宙<ソラ>に届かない。
其処からやってくる恐怖の大王達、その大元締めに、人類が出来ることなんて何もない。
何処からともなく聞こえてきそうな泣き言を。
真備は、変わらぬ不敵で笑い飛ばした。
「仲さんよう」
そうして語りかけたのは、此処にはいない誰か。
「見て、聞いたじゃろ。莫迦だが、なかなか気骨のある餓鬼でな……あんたの眼鏡にも適ってると思いたいんじゃが」
喘鳴混じりの声には血痰が絡んでおり、病床の肺病患者を思わせる。
なのに何故か、欠片ほども弱々しさを感じさせない。
それどころかむしろ、先刻までよりも更に更に更に更に、放つ存在感が増大しているような……
「すまんが一つ、花を持たせてやってくれや。儂とあんたの仲じゃろう」
「ねえ、誰と話してるの?」
「そうか、そうか。悪いのう、いつも骨折らせちまってよ。
埋め合わせはするから……、……何? 履行した試しもないのに言うな?
ほらそれはその、アレよ。具体的な日時を指定しなかったあんたにも落ち度が――」
よく分からないが、分からない何かが来る。
そしてそれこそ、吉備真備の本命だ。
冴えに冴えた戦闘本能が祓葉にそう確信させた。
口角が上がり、聖剣が高揚に合わせて再び感光する。
「……ふう。相変わらず理屈っぽい奴で疲れるわい。おう、待たせたのぅ餓鬼」
「いいよ。それで、そろそろ質問に答えて貰ってもいいかな」
一度目は仕損じたが、二度目はない。
次こそ必ずや、最上の勝利を掴み取ろう。
彼が弄するすべてを超えて、その勇姿を己が輝きで呑み干そう。
「今度は、何を魅せてくれるの?」
「見てりゃ解るさ、阿呆でもな」
血の滴る右腕が、古書を広げ。
その口は、神へ捧げる至高の見世物を紡ぎ上げる。
「南斗北斗・讃歎玉女・左青竜・右白虎・前朱雀・後玄武――急々如律令」
それは、北欧最強の幻術師にさえ脅威を感じさせた偽りの神降ろし。
祓葉はかの大立ち回りを見ていないし知らない。
オルフィレウスであれば観測していたかもしれないが、この現人神がネタバレを知りたがる質でないのはご存知の通りだ。
故に、彼女は気付けなかった。
「神霊外装貸借、相転移――仮想宝具『瞋恚纏身・牛頭天王』」
その祝詞(コマンドワード)が、彼の本来の奥の手とはまるで違うものであること。
荒神の殻を被せて擬神降誕を行う、吉備真備の虎の子とは似て非なる詠唱であること。
純真無垢である故に誰よりも傍若無人な神の子は何も気付かず、悟れもしない。
何故なら祓葉は、"彼"のことなんて見ていなかったから。
あらゆる手を尽くして自分を饗す老陰陽師に夢中になる余り、それ以外のすべてを視野より外していたから。
光剣を瞬かせる彼女は臨戦態勢。真備が何をしてきたとしても、輝ける主役は必ず撃滅するだろう。
けれど。ならば。
「貸し一つじゃ。これだけお膳立てしてやったんだからよ、ちゃんと――」
祓葉が目もくれない、ただのつまらない端役(エキストラ)が相手なら?
「――ぶちかまして魅せェや、なぁ、希彦ォ!」
「…………、…………えっ?」
荒ぶる神威の稲妻が落ちる。
但し轟音は前でなく、後ろから轟いた。
祓葉が振り返ろうとするより速く、"彼"は一閃の雷電と化す。
「言われるまでもないですよ。黙って見とけ、クソジジイ」
ああ――そうだ。いつもの悪い癖。どうして忘れていたんだろう。
私が、誰に戦いを挑まれたのか。誰のために、剣を握ったのか。
祓葉はようやく、己を見据えて啖呵を切った男の顔を思い出した。
少女の背を貫いて、その心臓を鷲掴みにし。
甘いマスクを凄絶な笑みで染め、剥き出しの生命力で破顔する青年がひとり。
彼は、天才。
されど、人間。
宇宙まで届く手は持っていない。
進撃する極星に轢き潰され、振り返られることもない路傍の石に過ぎない。が。
「まれ、ひこ、さん……」
今、香篤井希彦は恋をしている。
恋する男が無敵なことに、理由は要らない。
「よかった。僕のこと、初めてちゃんと見てくれましたね」
◇◇
『貴方の宝具で使う、牛頭天王の"殻"。アレを阿倍仲麻呂じゃなく、僕に被せて欲しいんです』
『全身じゃなくても構いません。流石に、生身で神霊の着ぐるみを動かせると思うほどのぼせ上がってませんから』
『腕――いや、この際手首から先だけでいいです。それだけなら僕でも、やってやれないことはないんじゃないですか』
『お願いしたいのはふたつです。"僕でも"神寂さんに攻撃を通せる状況と、それを可能にするだけの力。
今まで散々顎で使ってくれたんですから、たまには恩を返してください。吉備真備なら、出来るでしょう?』
『そしたら、後は僕がやります。いいや、こればっかりは僕がやらなくちゃいけないんだ』
『そうでないと僕はきっと、この気持ちの本当のカタチすら知ることが出来ないから』
『……、……え?』
『ああ、分かってますよ。言われるまでもないんですよ、ホント、いちいち口うるさい爺だな』
『"その時"は、僕が自分で選びます。ちゃんと、答えを出しますから』
『あんたも黙って、見ててください』
『あんたが馬鹿にしてきた男がどれほどの値打ちか、今に思い知らせてやりますよ』
◇◇
吉備真備は、"万能の人"である。
萬に通ずるその才覚を、遥か唐の国で得た一冊の秘伝書が底上げした。
後に盟友の息子を通じて安倍晴明の手に渡り、編纂されて汎用化された名著の原本。
それは、こと陰陽道というジャンルにおいてひとつの根源の渦にも等しい。
遍く秘術を網羅し、この世に於いて可能なすべてを思うままに描き上げさせる叡智の結晶だ。
名付けるならば真・刃辛内伝金烏玉兎集。
究極を得た万能は、世の術師が何代もかけて成し遂げる奇蹟を指先ひとつで手繰り寄せる。
人を神の領域に踏み入らせることなど――然るべき器さえあるのなら、彼にとっては造作もないことだった。
「あ――ぁ、ぐ――!?」
香篤井希彦の右手が、神寂祓葉の心臓を握り締めている。
その手首から先は、凡そヒトのモノではあり得ない獣の豪腕へと変じていた。
荒神・牛頭天王の手だ。それを更に局所的に分割し、文字通り小手先の鎧として纏い上げたのだ。
神殻の総体からすると切れ端程度のサイズではあるが、それでも希彦は現在身を裂かれるような激痛に発狂しかけている。
彼は天才なれどもあくまで人間。ヒトの身で神に到ろうと思えば、激烈な反動が伴うのは道理。
それでもギリギリ自壊せず持ち堪えられているのは、神童の面目躍如と言ったところだろう。
並の魔術師や陰陽師であれば、装着した時点で手首ごと腕が吹き飛んでいても不思議ではない。
「はっ、ははははは。
なんですかコレ、痛いわ苦しいわで気狂いそうなんですけど。こんなのが楽しくて仕方ないとか、あんたら馬鹿なんじゃないですか?」
だがその苦悶さえ、今の希彦には極上の脳内麻薬になる。
テンションが最高潮(ハイ)に跳ね上がり、現状への自己陶酔が止まらない。
生涯で最も魅入られた女に、死にかけながら無理やりこっちを向かせている、向かせられている事実。
それに希彦は思う存分酔い痴れて、酔い痴れながら毎秒ごとに己の限界を突破する。
どうせ失敗したら死ぬのだ。そうでなくても十中八九は死ぬのだ。
ならば何を出し惜しむ必要があろうか。持てるすべて、目の前の恋路に注ぎ切らなきゃ嘘だろう。
「ねえ、神寂さん。僕はつまらない男でしたか?」
鬼気/嬉々の形相で、剥き出しの情念を込めて問いを投げる。
手の中には愛しい彼女の心臓。
希彦は祓葉への執着を晒しながら、同時にこの命脈を握り潰すことを微塵も躊躇していない。
それが嘘ではないと証明するように、彼は牛頭天王の五指に力を込めた。
真実一切の手加減なく、その口で愛を囁いた少女を永久に葬り去ろうとする。
その矛盾は彼なりの誠意。愛しているから、貴女の望むすべてを差し上げるという美しき献身。
神寂祓葉は未知を愛していて。自分を熱狂させる他者(だれか)を狂おしく求めていると識っているから、殺意すら恋文の代わりになる。
「まあ、ですよね。実は昨日、赤坂亜切に会ったんですよ。
いけ好かないけど、実際一度見たら二度と忘れないような男でした。
他の五人もそうなんでしょう? そんな際物連中と比べられたら、確かに僕なんか霞んでしまうのも分かります。
天才だなんだと褒めそやされておいて、常識一つ破るのにもうじうじ難儀しちゃう程度の器だ。そりゃまあ、退屈ですよね」
でも。
心臓を握る。
血が噴き出し、彼の神(ファム・ファタール)が喀血した。
「でもね、頭では分かっててもやっぱりムカつくんですよ。
僕、人生で苦労ってもんをしたことがないんです。
たとえ相手が貴女でも――僕のことを見ないなんて、許せない」
狂おしく表面化した愛憎は、希彦が理性の奥に秘めていた自我(エゴ)の輝きだ。
鬱屈と焦燥が等身大の思考回路に化学反応を引き起こし、一世一代の大立ち回りをやってのけさせる。
肥大した自尊心が、沸き上がる恐怖を駆逐して。
強制的に主役の肩を引っ掴み、こっちを向かせる。
吉備真備はただの囮役で、かつ祓葉の本質を見抜くための試金石だった。
要するに結局、神寂祓葉にとって香篤井希彦とは優先度の低い存在だったのだ。
極星の神子の根底にあるのは戦闘欲。命を賭けて鎬を削りあい、互いの全てを曝け出す剥き出しの闘争にこそ彼女は魅入られる。
なればこそ、彼女はどんな甘い言葉よりも、己を熱くさせる生き物の方に興味関心を誘導されてしまう。愛だの恋だのでは祓葉の渇きを癒せない。
ならば、どうするのか。
決まっているしもうやっている。
ならばこっちから、彼女の望む土俵に上がってやるまで。
「さあ、今度こそ、ちゃんとときめいてください」
穢され、貶められた神の心臓。
これを破壊できれば、今の祓葉は殺せる。
愛する女を振り向かせるために殺すなど本末転倒だが、希彦にはその覚悟もあった。
そのくらい全力投球でなければ、自分など決して彼女に釣り合えないと分かっているから。
既に手は、少女の体内に侵入している。
後は握り潰すだけ。
力を込める、が――
「――ッ」
牛頭天王の力を借り受けて尚、不条理は容赦なく襲い掛かる。
指が進まないのだ。紛うことなく全力で臨んでいる筈なのに進まない、それどころか気を抜けば押し返される。
心臓自体が超高出力のエネルギーを吹き散らかし、迫る死を拒絶しているのだ。
体内から聞こえる、高速回転する針音の音色がその証拠。
地に墜ちたとしても神寂祓葉は変わらず理不尽の化身で、永久機関の歴代最高適合者だ。
彼女は不死と親和性がありすぎる。もはやその身体は、無尽蔵の生命力で構成された爆弾に等しい。
「は、は、は――」
天を仰ぎたくなる。
なんて滅茶苦茶。なんて荒唐無稽。
「――どこまで魅せてくれるんだ貴女はぁッ!」
過剰分泌されたアドレナリンが歓喜を呼び起こす。
元より希彦は不退転。神童の魂が、その肉体ごと灼けていく。
火花のように飛び散った熱光が半面を焦がし、絶世の美貌を著しく毀損したが。
それでも彼は、目の前の綺羅星から目を離せない。
ああ、やっぱり間違いなんかじゃなかった。
底の浅い一目惚れと笑いたければ笑えばいい。
己が彼女に抱いた想いは真実だったと理解し、香篤井希彦は至高の絶頂に浸る。
「好きです、僕は貴女が好きだ、貴女が欲しい!
振り向かないというなら振り向かせる、力ずくででも、嗚呼、頷かせてみせますとも!」
一部とはいえ神霊の殻を被り、人間を超越した力を手に入れた希彦。
その肉体はどう考えても終わりが見えていて、一秒ごとに終末期めいた崩壊を重ねていくが。
構うものか黙ってやがれと、もう片方の手さえ傷口に突っ込んでこじ開ける。
「神寂さん、僕は、貴女を――!」
この世の何より愛していると。
告白しながら、過去最高の法悦に身を震わせた瞬間。
希彦の視界は、一面の白色に塗り潰された。
「…………、ふぅ」
次の瞬間には、すべてが終わっていた。
背を向けていた筈の祓葉が、振り向いている。
彼女へ触れていた両手は、どちらも手首から爆ぜ飛んでいた。
あまりの熱量に傷口が炭化して血の一滴さえ垂れていない。
「まあ、やっぱり、そう上手くはいきませんか……」
死の間際の限界突破。
堕落以降最も追い詰められた祓葉はまたも天蓋を破壊したのだ。
恒星の核分裂連鎖は臨界を招き、希彦を死の光で蹂躙した。
放射線のように毒で冒すのではなく、只管愚直に壊し尽くす星の暴力。
そういうものが吹き荒れた結果がこれだ。誰も彼女に敵いはしない。
決死の特攻が齎した結末は、蓋を開けてみれば至極順当。
イカロスの翼は溶け落ちて、太陽は何も変わらず輝き続ける。
だというのに希彦は悲嘆するどころか、陶酔したような顔で目の前の少女を見ていた。
祓葉が――僕を見ている。
胸の穴を蠢かせながら、晴れやかな顔で見つめる現人神。
その瞳の色が、しかし先程までとは明らかに違う。
瞳の中に、銀河が広がっていた。
散りばめられた星々のラミネート。海より蒼く闇より昏い深蒼(みあお)色。
神寂祓葉という少女の中に眠っていた進化の可能性が、遂に滲出を開始したその証。
星海の瞳で見つめる彼女の口が、静かに開かれていく。
確かに希彦は、祓葉にとって変わった形の石ころでしかなかった。
だが彼は腐らず、抱いた恋慕を貫くことを選んだ。
最強の恒星に形振り構わず挑むという、正気ではあり得ない手段を取った。
そのことが端役の運命を覆す。総てを賭して自分を見つめ、死をも恐れず吶喊した彼の姿は、その口から紡ぎ出されるどんな口説き文句よりも――
「――かっこいいじゃん、希彦さん」
交わされる相互理解。
希彦はかつてなく陶酔する。
腹に突き立てられた光剣にさえ、彼はもう気付いていない。
他の何かに理解を割くのも惜しかった。
願わくばこの一瞬を永遠に記録して、宇宙が滅ぶまで眺めていたい。
「でしょ。僕ね、かっこいいんですよ」
覚明ゲンジは満たされてしまった。
だから敗北しながらも、満足して去って逝った。
しかし希彦はこの至上の結末にさえ満足しない。
彼の願いは満たされることなく、今も狂おしいほどに輝きを増し続けている。
これにて、香篤井希彦は死亡する。
その命は喪われ、星に灼かれた燃え殻と成り果てる。
斯くして恋慕に憑かれた男は、己の真実(ほんとう)の気持ちを自覚し。
終わり失いながら、ようやっとスタートラインに立った。
光剣が引き抜かれる。
膝が崩折れ、地に臥した。
だというのに男の顔に浮かんでいるのは、まるで勝者のような――
【香篤井希彦 死亡】
◇◇
『香篤井希彦さん。
あなたはその時――――どんな狂気(かお)をするのかな』
◇◇
「……あれ?」
希彦を屠った。
その筈だった。
しかし祓葉は先の熱い戦いを反芻するでもなく、訝しげに眉を顰めることになる。
今しがた殺した筈の希彦の遺骸が、まるで煙のように消えてしまったからだ。
慌てて辺りを見渡せば、いつの間にやら吉備真備の姿もない。
まるで白昼夢を見、独り相撲を取っていたみたいな感覚を覚えた。
「んー? もしかして私、また嵌められちゃった……?」
あの傷で生きているとは思えないが、真備の不敵な微笑がその安直な結論を否定する。
恐ろしい老人だった。結局さっきの戦い、祓葉は終始彼の手のひらの上で踊らされていた。
自分が矢面に立って戦いつつ、希彦が一矢報いて本懐を果たす。
真備の心算は、彼らの計画(プラン)は、本当にそれだけだったのか?
「へへ、まあいいや」
伸びをしつつ、銀河を湛えた瞳を胸元に落とす。
希彦に穿たれた傷口は、もう痕も残らず再生していた。
心臓にも不調は生じていない。それどころか、戦う前よりやたらと具合がいい気さえする。
なのに祓葉は消えた傷の輪郭を確かめるように、指先で優しくそこを撫でた。
「生きてたらまた会おうね、希彦さん。いつでも待ってるよ」
よくよく考えれば、そうあり得ないことでもない。
死んだ人間が生き返ってまた現れる、その実例を自分は識っているじゃないか。
数にしてちょうど、六つほど。
原初の恒星はまたひとつ学び、自己の可能性を肥大させていく。
彼女の担当する終末はΩ。終端を意味するエンドナンバー。
未だ誰にも観測されず、知られぬ、奇蹟の未来。
◇◇
――香篤井希彦は死亡した。
心臓は停止し、失血も致死域。
そうでなくとも度重なる無茶の代償で全身はボロボロ。
仮にあの場で祓葉を討てていたとしても、先行きは永くなかったに違いない。
彼はどうしても、ああなった以上は死ぬ必要があった。
神寂祓葉への恋慕が真ならば、本当の彼女を見てもその魅了が途切れないのならば。
そうすることでしか、次の段階に進むことが出来なかったから。
「おう、済んだぞ。さっさと起きんかい」
「――――――――は、っ」
二度と開かない筈の瞼が開いた。
胸に手をやれば、そこには鼓動が甦っている。
希彦は確かに死んだ。
死者の蘇生など、如何に彼が天才といえど修めている筈がない。
なら、それをやったのは誰か?
決まっている。あの戦いをお膳立てし、〈この世界の神〉を手玉に取った古狸。
「……凄い。いまいち実感なかったんですけど、貴方って本当に吉備真備なんですね」
「まったく老人に無茶させおって。この貸しはでかいぞ、覚悟しとけよ」
規格外・吉備真備。彼の秘術が、根の国へ旅立った希彦の魂を現世へ引き戻した。
その身体も、ほぼほぼ健康体と言っていい状態まで回復している。
それこそ聖杯でもなければ不可能な次元の秘術を、彼は手筈通りにやってのけたのだ。
希彦が真備に持ちかけた、幾つかの依頼。
神寂祓葉の本質を見極めるための囮役。
彼女への逆襲を可能とするだけの力の貸与。
そして、もうひとつ。
神寂祓葉に殺害された後、自分を蘇生させること。
「分かっとると思うが、お前さんはあの時一度死んだ。
儂は消えかけの魂を回収して、修復した器に転写しただけじゃ。
今のお前さんが本物の香篤井希彦かどうか、儂には判断が付かん」
「ああ、なるほど。スワンプマンですか」
「生活続命なんぞ、幾ら儂でも準備なしに出来る芸当じゃないんでの。流石に伯道上人みたいには行かんわ」
安倍晴明の師、伯道上人が彼に授けた秘術――生活続命の法。
その効力は死者の蘇生。真備はこれを、『真・刃辛内伝金烏玉兎集』に内蔵された叡智を捏ね回すことで擬似的に再現した。
但しあくまでも擬似(もどき)だ。準備不足だった上、そもそも英霊などという影法師の身で十全に行使出来る筈もない。
結果として希彦は甦ったが、果たしてこれが元の彼と完全な同一人物なのかは不明となった。
当人に自覚がないだけで、記憶の連続性があるだけの別人になってしまっている可能性は捨て切れない。
だが希彦はそれを嘆くでもなく、口元を緩めて頷いてみせる。
構わない。むしろ、これでいい。そう言わんばかりの態度だった。
「命があるだけ良しとしますよ。それに、これで名実共にあの人達と同じになれたわけですから」
「燃え殻どもか」
「ええ。どうやらやっと、僕も資格ってやつを手にできたみたいだ」
〈はじまりの六人〉、祓葉を囲う六衛星。
彼らはかつて祓葉に滅ぼされ、肉体を失った。
それから彼女の手で蘇生されたが、再誕した人格は星の輝きに焼き焦がされている。
ならば彼らもまた、姿形が同じだけの別人と言えるのではないか。
狂人達には共通点がある。
過去、祓葉に魂を灼かれたこと。
彼女に敗れて死亡し、その上で蘇生されていること。
希彦は今の戦いで、それら両方を満たした。
祓葉への恋情が真実だと確かめ、彼女に殺され、甦った。
以上を以って資格を獲得。更に都合のいいことに、今狂人の椅子はひとつ空いている。
「これでもう、誰にもでかい顔はさせません。身分違いだなんて言わせるものか」
香篤井希彦は――狂人に成った。
もう彼の立ち位置は舞台を彩る端役などではない。
暴君の後釜として星の厄災を延焼させる最悪の六凶、その新顔。
「神寂さんを手に入れる。邪魔をするなら誰であろうと一切鏖殺、待ったなしです」
希彦の半面には、ケロイド化した火傷痕が残っていた。
恐らくあまりに損壊が激しくて、修復の際に繕い切れなかったのだろう。
人一倍己のルックスに気を遣っていた彼が、もうそんなこと気にもしていない。
疵面を歪め恍惚さえ滲ませて嗤う男に、真備は失笑とも苦笑とも付かない呼気を漏らす。
彼もまた、善悪の彼岸に囚われない自由人(フリーマン)だ。
元より清濁入り乱れた混沌の時代を歩み抜いた者。
戦いの形は小綺麗でなければ間違いだなんて狭苦しい思想、彼はとっくに屑籠へ放っている。
「それは結構だが、具体的にどうする心算じゃ。まさか先輩方の真似事に励むとは言わんよな」
「勿論。僕は衛星なんかで満足する気はありません」
問う真備に、希彦は即答。
「オルフィレウスを倒して、世界を救いましょう。
聖杯戦争に勝利して、聖杯と名誉を手に入れましょう。
神寂さんを完膚なきまでに打ち倒して、僕の伴侶に据えましょう。
せっかく此処まで成り上がったんだ、やりたいことは全部やりますよ」
彼はもう、欲しいものを妥協しない。
造物主の理想を砕き、聖杯を手に入れ、神寂祓葉を娶る。
己は衛星でも恒星でもなく、人として銀河を征する者。
なればこそ、視野を狭めないのはもはや前提のようなものだった。
最新型の狂人として、埃被った先人達に倣うつもりなど毛頭ない。
脇役になど甘んじるものか。この人生は己のモノなのだから、その主役もまた希彦(おのれ)以外には不在と断ずる。
「貴方にも、まだまだ働いて貰いますから。無駄に歳食ってるんです、僕に足りないものは全部寄越してください」
「そんで、最後は儂も喰らう気か?」
「――――当然でしょう。やりたいことは全部やる、そう言った筈ですが?」
恋は盲目。
恋する男が強いことに理由は要らない。
「ク。面白え、その気概に免じて付き合ってやるわい」
太陽に自ら身を捧げ、灼け落ちたことで彼の狂気は証明された。
「お前、地獄に堕ちるぞ」
「その覚悟がなきゃ、あんな星(ひと)に惚れませんよ」
始祖の叡智。
統べるは、神童。
〈七人目の狂人〉。
抱く狂気は〈恋慕〉。
【香篤井希彦 再起動】
香篤井希彦。統べるサーヴァントは、陰陽の宿老。
◇◇
【杉並区・住宅街/二日目・早朝】
【香篤井希彦】
[状態]:〈恋慕〉、健康、右顔面に火傷痕
[令呪]:喪失
[装備]:
[道具]:式神、符、など戦闘可能な一通りの備え
[所持金]:現金で数十万円。潤沢。
[思考・状況]
基本方針:総てを手に入れる。
0:全部やろう。僕は、もう妥協しない。
[備考]
※神寂祓葉との戦闘で一度死亡し、真備の秘術によって蘇生されました。
【キャスター(吉備真備)】
[状態]:全身にダメージ(大)、胴体に裂傷(修復中)、魔力消費(大)
[装備]:
[道具]:『真・刃辛内伝金烏玉兎集』
[所持金]:希彦に任せている。必要だったらお使いに出すか金をせびるのでOK。
[思考・状況]
基本方針:知識を蓄えつつ、優勝目指してのらりくらり。
0:さて。儂も、閻魔にどやされる覚悟は決めとくかの。
1:希彦の選択に思うところはあるが、魂から望んだことなら止めはすまい。その上で面白可笑しく愉しむまでよ。
2:カドモスの陣地は対黒幕用の拠点として有用。王様の懐に期待するしかないのう。
3:〈ニシキヘビ〉なる存在への興味。ともすれば非道い難物が出てきそうじゃ、楽しみ楽しみ。
[備考]
※〈恒星の資格者〉とは、冠位英霊の代替品として招かれた存在なのではないかという仮説を立てました。
※まがい物の生活続命の法を用い、香篤井希彦を蘇生させました。
契約のパスが繋がっていることでどうにか出来たウルトラCなので、恐らく再現性はありません。
【杉並区・路上/二日目・早朝】
【神寂祓葉】
[状態]:不死零落、進化の兆候?
[令呪]:残り二画(再生不可)
[装備]:
[道具]:
[所持金]:一般的な女子高生の手持ち程度
[思考・状況]
基本方針:みんなで楽しく聖杯戦争!
0:またね、希彦さん。
1:にーとちゃんは私と似てる。できれば友達になりたかったけど、仕方ない。
2:風夏の舞台は楽しみだけど、私なんかにそんな縛られなくてもいいのにね。
3:もうひとりのハリー(ライダー)かわいかったな……ヨハンと並べて抱き枕にしたいな……うへへ……
4:アンジェ先輩! また会おうね~!!
5:レミュリンはいい子だったしまた遊びたい。けど……あのランサー! 勝ち逃げはずるいんじゃないかなあ!?
6:なんだか、すごく調子がいい気がする。
[備考]
ランサー(ギルタブリル/天蠍アンタレス)の宝具『英雄よ天に昇れ』によって、心臓部永久機関が損傷しました。
具体的には以下の影響が出ているようです。
再生速度の遅滞化。機能自体は健在だが、以前ほど瞬間的な再生は不可。
不死性の弱体化。心臓破壊や頭部破壊など即死には永久機関の再生を適用できない。
令呪の回復不可
『界統べたる勝利の剣』は連発可能ですが、間を空けずに放つと威力がある程度落ちるようです。
最低でも数十秒のリチャージがなければ本来の威力は出せません。
恒星としての進化の兆しが生じています。まだあくまでも片鱗のそのまたごく一部が滲み出た程度。
【天空工房/二日目・早朝】
【キャスター(オルフィレウス)】
[状態]:健康、憤懣やるかたない、知識欲
[装備]:無限時計巨人〈セラフシリーズ〉→セラフ=ゼノン、セラフ=プシュケー
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:本懐を遂げる。
0:セラフシリーズの修復。済み次第Mark-Ⅲの再調整。
1:〈恒星の資格者〉を消す。
2:あのバカ(祓葉)のことは知らない。好きにすればいいと思う。言っても聞かないし。
3:〈救済機構〉や〈青銅領域〉を始めとする厄介な存在に対しては潰すこともやぶさかではない。
4:蛇杖堂寂句。おまえの好きにはさせない。
5:アレが恒星の完成形だとすれば、祓葉にもこの先があるのか?
[備考]
※セラフ=デメテル、セラフ=アルテミスが破壊されました。
※セラフ=アレスは機能停止。月の法則に鹵獲されました。
前の話(時系列順)
次の話(時系列順)
086:[[]]
最終更新:2026年04月08日 00:39