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 /OVER DRIVE


 きっとなんか忘れてる 大事なことを見落としてる

(クラクション煩くて エンジン火を吹いて テールランプ目に焼き付いて)

 どうやら私 とっくの昔に詰んでいて けどさ、んなこと全部分かってやってんだ

(きっと道をまちがえて だからなんだって ハナシだって)

 正しいルートがあったとして 君に届かなきゃ意味ないね



 生憎バックミラーなんて 覗き込んでる暇ないよ

 振り返るほどに 君が遠のくなら

 欲しがる心 欠けた部品も分からずに 酷い故障(むじゅん)を引き摺り走る



 オーバーヒート なんて上等 この身は常に最高速

 行く先に断崖 破滅の未来 でも欲しいものは その先にしかないんだよ

 駆け抜けろ Highway 後悔する余裕なんて今はないから

 追い越せよ Night Ray 欠けたまま進め 今はそれしか出来ないんだから



 ah 諦め悪くて ごめんあそばせ

(でも走りきったほうの勝ちだから)

 いつか恐怖すら振り切って 君のさよならに追いつけるまで






 一歩踏み込んで、すぐ分かった。
 ああ、これ、ダメなやつだって。

『満天ちゃん……どうしたの……?』

 呼びかけに、言葉を返せない。声が、出ない。
 せっかく電話がつながったのに。
 スピーカーから天使の声が聞こえるのに、私は、言葉を発する事ができなくなっていた。

『どう■……し■の? 大■夫……? 聞こ■て■……?』

 スマホを持つ手が震え、喉が潰れたように息を殺す。
 頭の内側がぐわんぐわんと揺れている。
 天使の声に、いま、被せられる音があった。


 ―――ねぇ、どうしてそんなに頑張ってるの?


 耳元でさわさわと囁く、とろけるようなウィスパーボイス。
 脳が液状化するんじゃないかと錯覚するほどに甘い、甘い、甘露な響き。

 深い水底の、堕落へ誘うローレライ。
 いや、違う、真逆だ。沈むんじゃない、心が浮き上がる。
 全ての重力(しがらみ)から解放を促す誘いは、神が布いた月面の法に他ならない。 

 ―――気を張りすぎるのもよくないよぉ。
 ―――そろそろちょっと休憩しよ?
 ―――たまにはさぁ、ゆっくりするのも必要だって。

 無重力。天地の区別ない上空への、ゆるやかな墜落。

 ―――キミは今まで、ずっと頑張ってきたんだから。

 私の、煌星満天の人生を無条件に肯定する。
 それは、優しいカミサマの抱擁だった。

 染み込むような甘言は、私にとって鬼門といっていい。
 最大の地雷であると同時に、覿面な効果を発揮する。

 心が溶かされる。
 うるさい。だまれ。ふざけんなって。手を跳ね除けなきゃ駄目だ。
 一度でも頷いてしまったら私は、二重の意味で破滅する。分かってる、なのに、動けない。

 ―――大丈夫、ちょっと眠るだけだよ。
 ―――少しだけ休んだらさ、また立ち上がればいいじゃん。
 ―――このままだとキミ、潰れちゃうよ。そんなの見てられないんだ。

 そっか、ほんとうに、あの人なんだって、分かる。
 出会ったのはたった一度、ほんの数時間前。
 なのにきっと一生忘れえぬインパクトで、記憶に刻まれた一人の女性。

 天枷仁杜。
 本当にあの人が、これをやってるんだ。

 ―――ときにはさぁ、立ち止まって考えることも必要だよ。
 ―――また歩き出すために休むんだ。

 この領域に踏み込んで、完成した彼女の世界に触れて、理解してしまったことがあった。
 月の女神は、法下の全てを知覚している。
 身内以外には排他的な女神が今、曲がりなりにも喧嘩分かれしたはずの、私に囁きかける意味。

 私の歌を聴いて、手を叩いて喜んでくれた、あの表情を思い出す。
 天使のスキャンダルを聞いて、無邪気に詰り侮辱した、あの表情を思い出す。
 そしていま、囁きかける堕落の誘い。その全てに、一切の欺瞞が無いのなら。

 ああ、この人は、私の本質を知っているのだ。
 天使とは正反対だった月の姫、ならば悪魔と比べてはどうか。
 どうして、あのとき、天枷仁杜に対して、あんなにも腹が立ったのか。
 憧れを侮辱された。だけじゃない、もう一つの理由。それを私は、遅まきに理解する。

 ―――どうしても辛いならさ、諦めちゃえばいいじゃん。
 ―――"辛いなら、忘れてしまっていい"。

 その一言に、脳が燃え上がるほど反発し。
 なのに胸の奥が狂おしいほどに泣いている。
 おかしい、何かが、"混線"している。

 ―――もう頑張らなくていいんだよ。
 ―――"お前はなにもしなくていい、知らなくていい"。

 彼女が語りかけているのは煌星満天、その奥にいる。

 ―――逃げてもいいんだよ。
 ―――"逃げろ"。

 今もずっと、暗い場所で泣いてる。
 全部諦められるときを、恐怖から解放されるときを待ち焦がれる。
 無知で、愚かな、一人ぼっちの。

 ―――"逃げろ、満点"。

『―――満天ちゃん!!』

「―――――っ―――天、梨」 

 溺れかけていた心が、たった一言で水面から引き上げられた。
 天使が、私の名前を呼んだ。
 強く、ハッキリと。それだけで、頬を張られたように、私は私を取り戻す。


 大きく口を開き、酸欠状態の肺へと必死に空気を送り込む。
 実時間にして数秒、だけど体感的には何十分にも感じられたトランス状態を脱し、周囲を再認知する。

 私のいる後部座席を揺らす、車の振動とエンジン音。
 そう、今は移動中。渋谷に侵入した車内で。 
 次第に、絶えていた感覚が戻ってくる。

『……満天ちゃん……どうしたの? なにか、あったの?』
「う、うん、ごめん。もう大丈夫だから、ゴメン……」

 電話越しの呼びかけに、ようやく応えることができた。
 今も声は止まないけど、ちゃんと構えていれば、なんとか耐えられる程度には落ち着いた。

 さっきのは天梨の魔術なのだろうか。
 不意打ち気味に私を飲み込んできた月の狂気を、力のある言葉で晴らしてくれた。
 それとも、単純に気付けてもらえたのか。

 どっちにせよ、助けられたのは変わらないので。
 これから言おうとしていたことを思えば、正直とっっっっても恥ずかしい。

『謝ることなんてないから。落ち着いて、ゆっくり深呼吸してから話して、私はちゃんと聞いてるからね』
「ウン……ゴメンネ」
『ほら、また謝ってる』
「ゴメン……ア……チガウ……アリガト」
『はい、どういたしまして。じゃあ、言ってみて』

 優しいぃ。あとやっぱ声可愛いぃ。
 いや、てか、この流れであれ言うの?
 無理なんだけど。ああ、なんでいっつもこうなんだろ、私って。

 えーっと、ごめんなさい。
 一回電話切って、十分後に仕切り直してもいいでしょうか……あ、駄目ですか、そうですか、ハイ。

 助けを求めて泳いだ視線の先、バックミラー越しに交錯した、運転席に座るファウストの目。
 真っ黒い瞳は相変わらず、ちっとも優しくなかった。
 底冷えするような無神経な目線が、だけど今はなぜか心地よく。脳内で響き続ける甘言の眠気を、更に遠ざけてくれた。

 甘やかすでもなく、諦めるでもなく。
 彼は常通り、一言だけを、視線に込めて寄越している。

『やれますね』

 ああ、もう、分かったっての。
 ここまで来たら、もう逃げられない。

 天使の温かな声。
 ファウストの冷たい視線。
(あと、ずっと考えないようにしきてきたけど、なんかさっきから、隣の座席から少しずつにじり寄ってくるバーサーカーへの恐怖感)。

「天梨」  
『うん』

 逃げ場なんてない。
 そのくらいでいい。
 いろんなものに背中を押されたり、蹴られたりして、ようやく私は一歩進める。


「私たち、LIVEで、決着をつけよう」






「うん、うん……わかった。ふふ……私も一緒……ほんとだよ、ほんとに、楽しみにしてる。
 満天ちゃんも気をつけてね。……ん、そうだけど、それでもだよ……今の渋谷は、なにがあってもおかしくないんだから。
 じゃあ、また、すぐあとで」

 そうして、ようやく、輪堂天梨は通話終了の表示に指をかけ。

「あー、そうだ……んー……いや……やっぱり今はやめとこっかな。
 違う違う。すぐ会えるなら、ちゃんと面と向かって言いたいことなの。
 別に大したことなじゃないから。だから、うん、ふふ、まだ内緒……またね」

 ピロン、と。
 気の抜けたSEが、スマホのスピーカーから鳴り。
 数分にも満たない、天使と悪魔の通話に終わりを告げた。

 揺れる車内に、一瞬の静寂が訪れる。
 膝の上に置いていたスマホの画面から、天梨はゆっくりと顔を上げた。

 自分はいま、どんな表情をしているのだろうと思う。
 なぜだか気恥ずかしい気分で、スピーカーモードの通話中、協定にしたがって沈黙を守っていた同行者達を見回した。

「……と、言うわけでー」

 なんとなく自分が発言しないといけない気がしたので。
 謎の照れをごまかすように。
 天梨は今しがたの通話を総括した。

「宣戦布告、されちゃいました、えへへ」

 そして、それを、言い切るや否や。

「賛成だ」
「反対よ」

 まったく同時、対象的な二つの声が、天梨の両わきから差し込まれた。

「白日青天の下、偽りの星に格の違いを示し、より高みに飛翔する。
 君の輝きを証明するに、実に良い機会だろう。
 にも関わらず……其方は、私の友に『尻尾を巻いて逃げ出せ』というのか、アンジェリカ・アルロニカ」

 天梨の背を押す、ホムンクルス36号/ミロク。

「あのねえ、前に聞いてからずっと思ってたけど、相当怪しいからねその話。
 最初はただのひっそりした対談イベントだったって言うじゃない。
 それが、いつの間にか企画に対決要素を入れるって話が湧いて、気がつけば崩壊後の渋谷を救済する大規模LIVEにまで話が膨らんでる。
 ハッキリ言うけど、担がれてるとしか思えない。そのくらい、あんただって気づいてるんでしょ、ホムンクルス」

 天梨を引き止める、アンジェリカ・アルロニカ。

 真っ向対立した意見によって緊張が走り。
 再び、車内を気まずい空気が支配した。

 現在、3陣営を乗せた車両は渋谷東側からの脱出を目指して走行中。
 今しがた繋がった通話により、先ほど煌星満天の陣営も渋谷入りし、南部から幹線道路を北上中であることが判明した。
 幸い現在位置はそう大きく離れていなかったので、一度合流し、月光の悪影響を強く受けた様子の天梨陣営を最優先で脱出させるべく、支援を取り付けている。

 煌星満天から告げられた、渋谷全域を舞台(ハコ)としたLIVE対決の挑戦状。
 天梨もかねてから、対談イベントにはステージ場でのせめぎ合いを要素に加えるとは聞いていたものの。
 確かに、ここまで大規模な舞台に拡大するとは思いもしなかった。

 崩壊後とはいえ、都市そのものをジャックし、たった二人のアイドルの為のフィールドとして形成するという大胆不敵。
 スポンサーは針音の東京全土、世界そのもの。ライブの様子は造られし世界の、遍く全てに届くよう中継される。
 渋谷総人口24万人を叩き起こし、果ては東京23区1000万人に届かせる歌唱と舞踏、そして魅了の決闘劇。
 いずれにせよ実現すれば、人類至上最大規模のライブ・コンサートになることは間違いない。

 規格外の舞台を形成する下準備に、満天の背後に立つ、キャスター兼プロデューサーが一体どんな魔術を使ったのかは知れない。
 いくら社会に深く食い込むフィクサーと言えど、単独陣営が短時間で成したというのは些か腑に落ちない。
 協力者の存在は不可欠であり、そして彼らはその答えを知っている。

 ノクト・サムスタンプ。始まりの六人、その一人。
 二人の詐欺師が手を組めば、秘匿の概念から解放された世界において、それは決して不可能ではない。
 しかし、だからこそ、天梨の誘われる舞台は剣呑極まる。

「あんた、わたしに会ったとき言ったよね。ノクトって詐欺師に関わるな、関わったやつを信用するなって」
「無論、万全の警戒をもって当たる。確実に罠があるだろう。あの男を信じることなど、絶対に有り得ない、だが……」

 アンジェリカの指摘に、痛いところを疲れたのか、成長したホムンクルスの少年はついと、目を逸らした。
 それはかつて、天梨にも語った論理。詐欺師と関わってはならない、関わったものとも接触するべきではない。
 だが、それでも、あの時、簡素な会議室での対面を経た今の彼は、こう言い切る。

「奴もまた、仮にも星を見初めたならば。その一点に置いてのみ、詐欺師とて嘘をつくことはできない」

 煌星満天を、神寂祓葉を堕とすに足る兵器であると認めたならば、この勝負は本物だ。
 そして、その狂人の理論は、全く同時にミロク自身にも跳ね返る。
 星を賭けてのせめぎ合いから、彼らは降りることが出来ないのだから。

「私にとっても、これは奴からの宣戦布告に等しい」

 ここで逃げ出してしまっては、ミロクが見初めた星が、偽物だったと認める事になる。
 所詮、天使は紛い物であり、ノクト・サムスタンプこそが正しき星を掴み、祓葉を手にするに相応しき狂気であったと。 
 そのような誹りを、ミロクが看過出来るはずもなかった。

「卑小な詐欺師の思惑ごと、煌星満天を打倒しろ、天梨。
 御身こそ、我が星と真に並び立つ存在であると知らしめる為に」

 つまり、そう結局、理由はそこに帰結する。

「ふっざ……けんな……っ」

 ギリ、と。アンジェリカの口元から、歯の軋む音が鳴った。

「あんた……さっきの話きいてなかったわけ!?」 
「あのアンジェさん……さっきのって……?」
「こっちの話! テンリはちょっと黙ってて! ややこしくなる!」
「はい……でもこれ私の話だよね……」
「あんたらの勝手な執着に、これ以上テンリを巻き込むな!」

 アンジェリカは改めて、確かな反感をもってホムンクルスを睨みつける。
 友人を名乗るなら、まずやるべき事があるだろう。

 白でも黒でもいい、どっちでも傍にいる。どちらのあなたも素晴らしいから。 
 ふざけるな、と思う。

「わたしはね、テンリには、ずっと今のテンリのままでいてほしい」
「アンジェさん……」

 アンジェリカにとって、友人とは、どうあって欲しいかを押し付けるに足る人物だ。
 それが原因で友情が壊れてしまったとしても。

 先程の念話で、ホムンクルスに言いたいことは大体言った。
 だからこれは、アンジェリカなりの、天梨への宣誓だった。 

「ほんの短い付き合いだけど。それでも良いやつだって分かったつもりだし、なによりも」

 そしてアンジェは走行する車の窓、そのむこうに広がる惨状を指す。

「少なくとも、あんな存在になるべきなんて、わたしには欠片も思えない」

 渋谷に出現した恒星。
 アンジェリカが出会うことのなかった、彼女に、他の道は無かったのだろうか。

 始まってしまった神の物語。
 終わってしまった人の物語。
 手遅れとなった今、覚醒の後に響く、堕落を誘う月の歌声。
 反駁する怒りとともに、言いようのない悲しみを覚えるのは何故だろう。

「その点は私も同意する。アレは"紛い物"だ。開花にまで至った姿を見て、尚そう思えたことに安堵している。
 堕落の月姫、か。醜い。誰が見出したか知らないが、まったく賛同できないな。
 天梨の至る恒星とは程遠い。御身の翼はもっと―――」

「わたしは……! そういうことをっ……! 言ってるんじゃない!」

 伝わらないもどかしさに、アンジェリカは苛立ちを隠せない。
 どこまでも平行線。分かっていたことだった。
 天梨の膝の上、青髪の少年は落ち着いた様子で見つめかえしている。

「確かに、其方の語る友誼と、私の信じる友誼は決定的にズレているようだ。
 理解できないからと言って、蔑ろにするつもりはない。
 先程の忠告も、しかと憶えておこう。しかし、これだけは伝えておく」

 たとえ、幼子に見えたとしても、彼もまたはじまりの六人、その一人。

「私が、〈忠誠〉を反故にすることだけはない」

 彼は輪堂天梨の友人である前に、神寂祓葉の狂人である。
 その前提がある限り、真の意味で協力を取り付けるのは至難と言えた。

「……そ、よくわかった」

 アンジェリカは会話による理解を一度打ち切り、思考を纏めるため、シートに深く座り込む。
 ならば、どうする。
 恒星の否定者、未来改変を試みる彼女の前途は多難だった。

 先ほど、ノクト・サムスタンプの存在を中心に、様々な否定意見を投げかけたが。
 結局のところ、彼女がライヴイベントに反対する理由は実にシンプルなもの。

 『end point α』。
 血塗られたステージの上、天使の翼が漆黒に染まり、覚醒に至る未来。
 先程のLIVEの話が無関係とは、どうしても思えない。
 想定される最悪へと、事態は吸い寄せられるように、確実に近づいている。
 そんな気がしてならないのだ。

 ホムンクルスは勢力的には味方だが、天使を恒星に至らせないという方針には真っ向から対立している。
 ちらりと窺った天梨のサーヴァントは、今も最後尾の座席で月の甘言に対する罵詈雑言を撒き散らしている。

 ため息を抑えきれない。
 一人でやるしかないのだろうか。
 同じような危機感を共有できる人は、この都市にいないのか。

 アンジェリカ以外に、少なくとももう一人。
 破滅のエンドポイント。それを共有したはずの者、悪鬼に抱えられ遠ざかっていく金髪の少女を思い返す。
 あの手を掴めていれば、と。らしからぬ後悔に顔を顰めながら。

「……あ」

 彼女は、はたと気づく。
 もしも最悪の想像が当たっていたとして。
 今の流れが、あの未来に続いているとしたら。

 惨劇の渦中、血溜まりに倒れ伏していた、悪魔のような出で立ちの黒い少女。
 それが誰であるのかも、必然的に明らかで。
 天使の翼を黒く染める、引き金(トリガー)。

 予定されている合流時刻は僅か数分後。
 もうすぐ、アンジェリカが新たに相対する。
 もう一人の資格者。

 見極める必要がある。
 天梨を救うため、新たな恒星を生まないため、ひいてはバッドエンドを回避するために。

「テンリ」
「……?」

 前提として、問うべきだと思った。

「テンリの意思はどうなの? あんたは……星になりたい?」
「私、は……」

 何故か天梨が逡巡を見せたことは、アンジェリカをいくらか落胆させる。
 だけど続く問いの答えだけは、確信を持っていた。

「たとえ友達を死なせても?」

 否定には言葉すら必要無かった。
 きゅっと目を閉じ、ぶんぶんと振られた少女の首の動きに、可笑しさと安堵が込み上げる。

「あたりまえよね」

 だったら、今はそれで十分。
 まず手始めに、煌星満天を見極め、可能なら説得し、最悪の未来を回避する。

 悪魔を死なせず、天使を堕とさず、全ての恒星を否定する。
 それをもって、あの悲しきカミサマへの答えとする。
 アンジェリカはそう決意し、さて噂の悪魔アイドルとはどんなキャラクターなのだ、と会う前に予習すべく。
 こっそりスマホを取り出そうとしたときだった。

「……?」

 車内に訪れていた異様に気づく。
 妙に静かだった。

 テンリも、ホムンクルスも黙ったまま。それはいい。しかし、後部座席のアヴェンジャーまでもが沈黙している。
 おかしい、先程まで散々に暴れていた復讐者が、今は黙りこくった状態で、車の天井を見つめている。
 理由は、すぐに示された。

「……すまない、見つかったようだ」

 ミロクの呟きと同時。
 甲高い警報音が幹線道路全体に響き渡り、車両をびりびりと振動させる。

『敵性分子を確認』

 警告の発生点は上空に在った。
 渋谷に展開されて以降、じわじわと拡大を続けていた月輪領域。
 その索敵網に引っかからぬよう、回避ルートをアサシンに指示し続けていたミロクの、人知れぬ努力はしかし、ここに限界を見る。

『非常に強い反駁を検知、非堕落因子〈ハードワーカー〉と認定』
『災狼〈フェンリル〉の入力を開始します』

 突然の急ハンドルに、SUVの車体が大きく左方向へと振り切られた。
 かかるGによって、身体をドア側に押し付けられたアンジェリカの視界に、鋭利な薄青が流れ過ぎる。
 それは窓の向こうにて、天より降り注ぐ大量の氷牙だった。

 初撃は、すんでのところで回避せしめる。
 ミロクの魔力感知と念話によるナビゲートによって、ドライバーを務めるアサシンのハンドリングが間に合った。
 吹きかけられた大狼の息吹は車両側面を削ぎ落とし、アスファルトを砕き散らすに留まった。

「―――きゃ―――ぁ――――!」

 激しく揺れる車内にて天梨もまた、ミロクを抱えながら振り回されている。

「天使……? なに……アレ……!」
「月の御使い、一種の防衛システムだ。
 魔術的な解析の結果……幻術に属すことが分かるが……分かったところで対処しきれるモノでもない」

 予定していた道から一本逸れ、左折した車両は広い路地へ、ガードレールに車体を擦り付けながら侵入する。
 無論、襲撃はこれで終わりではない。


 一度見つかってしまった以上、上空に旋回する防衛システムに容赦はない。
 戦乙女(ワルキューレ)はどこまでも追ってくるだろう。
 逃げるばかりではすぐに限界がくる。故に、反撃の必要があった。

「正面戦闘では、アサシンの手に余る。対処しろ復讐者」
「ああ? 誰に指図してんだ、クソ人形(ニポポ)が」

 憎悪が炸裂する。
 SUVの後方、天井が吹き飛び、漆黒の炎が渋谷の上空に駆け上った。

「よくも俺の耳に、散々カスみてえな戯言を塗り込んでくれたな」

 人もサーヴァントも例外なく囁かれる堕落の甘言に、相当苛立っていたのだろう。
 悪態をつきながら、どうやら戦うことに異論は無いようで、アヴェンジャーはとっくに刀を抜いていた。

 拡散する炎が上空の戦乙女を焼き尽くす。
 眩く弾けた閃光の一部が斬風に変じ、車両を囲う敵影を打ち払っていく。

「あ、アヴェンジャー……! だめ、戻って! まだ治りきってないのに!」

 車両を飛び出した復讐者の背に、当惑と危惧に満ちた天梨の声が飛ぶ。
 先の新宿での戦闘で負った消耗は甚大だった筈。
 多少回復したとは言え、アヴェンジャーは未だ本調子とはいい難い。

「心配するな天梨、今の彼の霊基であれば、あの程度の幻影は問題ない」

 ホムンクルスは当然のように滔々と述べる。

「それに、もとを正せば、アヴェンジャーのむき出しの敵意こそが防衛システムを呼び込んでいたのだ。
 責任をとって露払いをさせるのが適当だろう」

 事実、復讐者の力は北欧の幻影を複数相手取り不足を感じさせない。
 疾駆する車両に、猛る黒炎が並走する。
 悪神の血刀が縦横無尽に翻り、追跡してくる北欧の幻影とぶつかり合う。

 負傷をおして出陣したにも関わらず。明らかに、以前より出力が上がっている。
 霊気が強化されているとしか思えなかった。
 その理由もまた、ホムンクルスは理解しているのだろう。

「御身の力だ。誇れ」

【受胎告知(First Light)】。
 新宿での戦闘によって、一時的な堕天を経て齎した強化は絶大であり、魔術の効果時間を過ぎても影響を及ぼし続けている。
 即ちそれは、強化が一時的なバフに非ず、不可逆の霊基干渉であったことを意味する。

 どれほど規格外の事象を成し遂げているのか、天梨本人だけが理解できていない。
 総合的に、未だ治りきらぬ負傷のマイナスを越えた、プラスの強化幅が実現されているのだ。 

「アンジェリカ・アルロニカ、アーチャーを呼び戻せ」
「もうやってるっての!」

 事態は動き続けている。
 にわかに混乱する車内で、それでも彼らの対処は的確だった。

 戦闘が始まってしまったことはよろしくない。
 だが、展望は見えている。
 現状差し向けられた防衛システムは、アヴェンジャーのみで対処できていた。

 無論、このまま続ければ更なる追手が予想されるが、アーチャーの帰還が間に合えば突破の目はある。
 加えて、満天の陣営との合流は僅か数分後に迫っている。
 そこまで逃げおおせれば彼らの協力も得られ、ひとまず渋谷からの脱出は成るだろう。

 アンジェリカもホムンクルスも、そう見立て動き。
 事実として対処できていたのだ。
 そう、月の女神に対してだけであれば。

「―――これは、不味い」

 ミロクの口調に、初めて焦りの色が滲んだ。

「反転だ。アサシン、引き返せ」

「大将!? なんだって!?」

 ミロクの念話に一切の疑義なく従っていたアサシンも、これには流石に戸惑っていた。
 合流目前での反転。今までのナビゲートは何だったのか。
 道理にあわない指示に、聞き返したのも束の間。

「道を引き返せ。三度目は言わない。令呪をもって―――」
「わーーーったよ! おい、全員頭ぶつけねえよう捉まってろ!!」

 それに気づけたのは、ミロクただ一人。
 絶大なる感知能力を有するミロクですら、隠れ潜む蛇の舌音に気づけたのは、噛みつかれる直前であったのだ。

「な―――に―――!」
「う――――ぁ―――!」

 スピンに近い挙動で車体の向きが180度回転する。
 車内の全員が強烈なGに晒される中、幹線道路の先、突如として現れた漆黒の壁。
 天梨も、アンジェリカも、絶句するしかない。
 それは誰にとっても不意打ちとなった、第二の異常事態だった。


 ―――『水子界・支配の蛇(ギャシュリークラム・ナーハーシュ)』。


 目前の漆黒は壁でなく、空間の区切り。蛇の口腔。闇の奥に、無数の赤子の腕が手招いている。
 瞬間、展開された悪意は渋谷の東方面一定割合を、またたく間に切り取って尚余りある規模だった。
 月の異界の内側に、突如として更なる異界の口腔が開く。
 車両のリアガラスに、大量の手形が刻まれて。

「このままだと、飲み込まれる―――!」

 アンジェリカの脳裏に、最悪の想定がチラついたその時。

「遅れて御免!」

 帰還した天若日子が車両後部を蹴り上げ、ギリギリのタイミングで車のターンが間に合った。

「あめわか!」
「発進しろ、アサシン!!」
「言われなくとも―――!」

 踏み込まれたアクセル、今度は後方のシートに、車中の人間の身体が押し付けられる。
 蛇に丸呑みにされる寸前での再発進、しかし水子界の拡大は止まらない。
 東方一体を飲み込んだ固有結界の侵攻は今でこそ車の走行速度を下回っているが、逆に言えば1秒とて足を止めることは許されないのだ。
 つまり―――

『結界内に悪性因子〈ウイルス〉の展開を検知。
 更に非堕落因子〈ハードワーカー〉の反転を検知。
 FWの構築と並行し、非堕落因子〈ハードワーカー〉の排除を最優先で実行』

 来た道を戻る以上、彼らは集結した月面防衛システムを正面突破する必要がある。
 結果的に、水子界の境界付近にいたことが不運だった。
 蛇の結界に追われながら、異分子を排除するべく集結した月面システムによって挟撃されている。

「くそ……がッ!」
「流石に……多いな……! 連戦は堪えるぞ」

 車両の周囲を旋回するアヴェンジャーが、襲い来る戦乙女を切り払う。
 並走するアーチャーが災狼の息吹を迎撃する。
 しかし、キリがない。いっこうに敵の数が減っていない。

 状況は明確に悪化していた。
 そも、アヴェンジャー、アーチャー、共に消耗から回復しきっていない。
 アサシンはそもそも正面戦闘を苦手としており、その宝具も、今の渋谷の状況では有用ではない。
 サーヴァント三体といえど、大群を前に、走行する車両を守りながらの戦闘は至難であった。
 今の戦力では、そう長く保たせることはできないだろう。つまり、早急に他の味方戦力と合流する必要があった。

「大将! こっからどっちに行けばいい!」
「煌星満天のサーヴァントの位置は……いま受け取った。座標は継続して念話で指示する」

 いつの間にか、車両の側面に幾つか、ぼんやりとした輪郭の炎塊がひっついていた。
 ミロクは魔力感知によって、その正体がキャスターの寄越した人工霊(エレメント)、即ち先遣隊であると同時に発信機であることを察する。

 炎塊はミロクにしか感知出来ないほど絞った魔力波によって、常に更新される座標を送り続けていた。
 状況から見て、キャスター陣営の現在位置と見て間違いない。
 なりふり構わず、まっすぐ向かいたい状況であったが―――

「あの大群を突っ切るのかよ……」

 正面、幹線道路の中央には巨大な狼が数体待ち構えている。
 集結したワルキューレの群れの総体は、既に50体に届こうとしていた。

「決して止まるな、アサシン」

 それでも、ミロクは蛇の口に飲まれるよりマシだと判断する。

「後方の結界に飲み込まれたら、全滅と考えていい」

 本来、月光の領域に悪意は備わっていなかった。彼らは異分子を排除しようとしているに過ぎない。
 しかし、蛇腔のそれは違う。
 根本から悍ましき害意に塗れた、殺傷と略奪を目的とした水子界。

 ミロクはその解析結果を詳細に語らなかったが。
 飲まれれば全滅とまで言い切ったこと、普段感情を見せない彼にすら走る嫌悪の響きが、その危険度を物語る。

 天梨もまた、結界の縁を見ただけで、本能的に理解してしまっていた。
 早鐘を打つ心拍が耳に煩い。余りの寒気に総毛立つ。
 あれは、駄目だ。絶対に触れてはならない。
 特に己にとっては、どうしようもなく相容れぬ、恐ろしき概念の集合体であるのだと。

「キャスター陣営(あちら)も最短で接近してくる。結界から逃れつつ敵を突破し首都高に乗れ、高架上で合流する!」

 二つの領域の境目にて、混乱に揺れる車両が路上を疾走する。
 いずれ、こうなっては渋谷脱出までの救援は必要。
 何が何でも、彼らはもう一つの陣営との合流を急がねばならなかった。







「仕度できたかい?」
「ああ、待たせた」

 渋谷の街頭にて佇む猫耳少年を見つけ、華村悠灯は片手を上げながら近づいていった。
 新たな同行者、ライダーのサーヴァント、ハリー・フーディーニ、ナインを名乗る彼の前で足を止める。

「着替えただけでも随分マシになった。本音言っちまえば、ひとっ風呂浴びたかったけどな」
「それは我慢してくれ、渋谷に留まるにせよ、脱するにせよ。行動に移すなら速いほうがいいからね」

 商業ビルから出てきた悠灯の服装は、数十分前とは様変わりしている。
 連戦によってボロボロになっていたジーンズは新品に履き替え、上着は汗と血に塗れたパーカーに代わり、黒いレザージャケットを羽織っていた。
 肩に下げたスポーツバッグから清涼飲料を取り出し、口を濯ぎながら軽く腰を捻ってみる。

 大丈夫だ。動ける。
 悠灯は己の身体の隅々まで神経が通っていることを確認した。
 未だに頭の中では煩わしい月光の声が響き続けているが、それはどちらかと言うと外的要因であり、肉体的な不調はない。

「さて、では聞かせてくれ。もう一つの仕度は、どうだい?」

 旅支度と、もう一つ。
 これから悠灯が選ぶ道、その選択だ。
 大人になる。神寂祓葉に宣告した彼女の宣言。
 彼女は星のせめぎ合いから降り、世界の神を競う戦いから解脱する。

 ならば、その先に立てる方針とは。具体的に、まず何をする。
 ライダー(ハリー・フーディーニ)を送り出した山越風夏(ハリー・フーディーニ)は、敢えて示さなかった。
 君は自由だ。故に君自身が選択しろ、と。試すように。

「あんたのマスターは、脱出の為にアタシを利用するって宣言して、ナインを寄越した」
「そうだね」

 山越風夏には明確な思惑があるらしい。
 針音世界から脱出する為の、明確なヴィジョンが。

 一方で、現段階で悠灯に与える役割は何も無いと言う。
 準備が出来るまで待っていろ。時が来たら使うから、それまで自由にやってくれと。

「だったら自由にやらせてもらう。アタシはアタシで、脱出とやらに向けてナインを利用させてもらうさ」
「それでいいのかい?」
「生憎、ただ待ってるだけ、なんてのは性に合わないんでね」

 悠灯の目には、ナインが少しだけ複雑な表情をしたように映った。
 もしかすると脱出王達は、彼女の答えを予想していたのかも知れない。

「復讐は? 大事な相棒を討った奴等に、憤りはないのかい?」

 試すようなナインの言葉に、悠灯は一瞬表情を翳らせたものの。

「茨の女王サマ、か。まあ、見かけたらブン殴りたくなるだろうが……」

 やがて、再びナインと向き合った。

「縁があったら機会も来るだろ。今はあんたと喋る方を優先する」

 拾った命を上手く使うために。
 その為に今、彼女は問う。

「あんたらこの世界の何を知っていて、何をやろうとしてる?
 協力してやるんだ。全部教えろよ」

 ここが新たな始発点。
 独り立ちした狼は、脱出王の片割れへと、世界の根幹について問いかけた。

「……承知した。
 では悠灯、君は聖杯の正体が何であるか、知っているかい?」
「万能の願望器、願いを叶える器……ってキャスターは言ってたっけ」
「そうだね。概ね合ってる、でもそれは完全な解答じゃあない」

 夜と朝の間、街の中心にて、脱出王はそれを語った。

「本来、願望器にも限界がある。なんでも、とはいかないんだ。
 例えば、限定的であっても『世界の創造』なんて、普通の聖杯に為せる業じゃない」
「いや、だったら……この世界は……」
「そうさ、この世界と、この世界の聖杯は、何かがおかしい」

 彼は相変わらず、帽子の中で耳をピコピコと動かし。
 お尻から垂れ下がった尻尾をユラユラと揺らめかせている。

「そうなのか……キャスターが言ってたから、そういうもんなのかと」 
「君は元々魔術師じゃないから、知らなくて当然だけど」

 悠灯は彼の話に耳を傾けていた。
 つい、揺れる獣要素を、じぃと目で追いながら。

「聖杯についてぼくなりの推測もあるけど、今は主題じゃないからやめとく。
 重要なのは脱出に必要なパーツ、つまり想定される『世界の仕組み』を君に語ろう。
 そこで一つ、わかってほしい前提があるんだけど。
 実のところ、ぼくは自分のマスターが本当の意味で何を目指しているか、確信が無いんだ」

 ライダー、ハリー・フーディーニは、全ての意思をマスターと統一している訳ではない。
 山越風夏は自らのサーヴァント、それも自らと同名存在にすら、何かを伏せている。
 それがナインの見立てだった。

 彼らが完全に同一存在であれば、そういった隠し事は不可能なはずだ。
 なんせ同一人物だから、と彼は言う。
 しかし、彼らには一点、どうしようもなく埋めがたい差異がある。

「ぼくは神寂祓葉に灼かれてない」

 二者の歴史は分岐している。
 同じ存在でありながら、まったく違う存在へと分かつ、それこそが。
 狂気。

 故に、脱出王の目的を聞かれても、完璧に答えられる保証はない。

「だけどぼくは……なあ、おい、ちゃんと聞いてるのか?」

 と、そこで、一旦ストップが掛かった。

「え!? あ、ああ、聞いてるぞ!」
「いやぼーっとしてただろ。君が話せといったんだぞ?」

 悠灯の視線がせわしなく動いていることに、ナインもスルーする限界を迎えたらしい。

「集中できない理由がなるなら言え。碌でもないことじゃなければ聞いてあげるから」
「……わかった……じゃあ、その……」
「どうした」
「尻尾」
「はい?」
「尻尾……触ってみたい」
「碌でもない…………」
「ご、ごめん、冗談だ! 冗談、冗談、ははは」

 お尻に手を当てて、ゆっくりと後ずさるナインに、悠灯は両手を上げて弁解する。

「どうなってるんだ、君。生き返ってからキャラが変だぞ」
「ごめん、アタシなんかつい、目で追っちゃうっていうか。欲望に素直になってしまうというか」
「……で、ぼくが言いたいのはだな」

 色々聞かなかったことにして、ナインは軌道修正を図る。

「つまり、『やろうとしてること』は開示できなくても、『知ってること』なら明かしてしまえる、ってことさ」
「な、なるほど」
「よって、それを語るに適した人物に登壇願う」
「え?」
「交代だ、第二生。コイツの頭が冷えるまで喋ってくれ。ぼくは怖いからちょっと引っ込む」

 そして逃げるように、背後の棺に吸い込まれてしまった。
 悠灯が止める間もなく。
 数秒後、反対側の端から二番目の棺がゆっくりと開き。

「おお! やっと出してもらえた……いやぁ退屈だったなあ!」

 内側から、ひょろりとした線の細い青年が現れた。
 短く切り揃えられた黒髪と、中肉中背、高すぎず低すぎない170センチ程度の背丈。
 高校の学生服に身を包んだ姿は特別な印象を与えない。
 どうやら日本人のようであり、悠灯と同じくらいの年代に見えた。

「アンタ……誰だ?」

「僕は、山越風奇。
 第二生、ツー、山越兄、お兄ちゃん、君の好きな名前で呼んでくれ」

 それはハリー・フーディーニにとって、二度目の人生だった。
 死を抜け出し、いずれ九回に渡る輪廻の旅。
 初代を除けば原点に最も近い存在であり、なによりも。

「僕はね、山越風夏に最も近しい存在なんだ」

 ハリーの人生は分岐している。では分岐点は何処に?
 無論、神寂祓葉との邂逅だ。
 聖杯戦争の参戦有無。その証拠として、彼らのズレは第三生から発生した。

 通算、三度目の生である、マスター、山越風夏に対し。
 サーヴァント、ハリー・フーディーニの第三生は蛇杖堂寂尊(じゃじょうどう・じゃくそん)であった。

 この時点で両者の人生は分かたれている。
 しかし、初代を除けば唯一つ、彼らが共有した人生がある。

「僕は風夏の前世であり、分岐の直前を知る者だ」

 前回の聖杯戦争を語り、世界の仕組みを語るに適任の役者。
 ナインはそのように判断して彼を呼び出した。

「さあ、何でも聞いてくれたまえ悠灯嬢。いくらでも答えてしんぜよう、マジックのタネ以外なら……ん?」
「……なんだよ?」
「心なしか君、テンション下がってないかい? 僕なにかした?」
「別に……気のせいだろ?」

 明らかに気落ちしている悠灯の様子に気づかないふりをして。
 青年は大きく咳払いした。

「わかったわかった。質問コーナーが終わったら、またナインに代わってあげるから」
「おし、じゃさっそく聞くんだが」
「早いなっ。……言ってみて」

 食い気味な質問に面食らいつつ、出てきて早々に不憫な扱いを受ける青年は先を促す。

「ツー。"どうやったら此処から出れる?"。
 結局、話はそこに行き着くんだ。勿体ぶらずに教えてくれよ」

「そう呼ぶのね、まあ良いだろう。
 けど、少しばかり前提説明を入れさせてもらうよ」

 そうして、青年は語る。
 かつてこの世界の前身となった、一度目の聖杯戦争。 

「―――かつて、ここではない東京にて、開催された聖杯戦争があった」

 彼は参加しなかった第二生。よってやはり完全なる同位体とは言い難い。
 それでも神寂祓葉に灼かれる前のハリーであればトレース可能。
 彼は一度目のライダー陣営の思考をつぶさに追うことが出来る。

 青年が分からないのはその結末。
 神寂祓葉というイレギュラーによって灼かれて以降の、己の精神状態、狂気の六人。

「君も聞いたことがあるかも知れないが。それが、始まりの六人。
 僕のマスターを含む、神寂祓葉に壊された狂人達だ」
「…………」
「歴史の授業はいいって顔してるね」
「…………正直な」
「素直だね。本当はもっとじっくり一度目の話をしてあげたいけど、時間もない。本題に移ろうか」
「そうしてくれ」
「つまり重要なのは、ゲーム盤に6体の死人が紛れているってことだ。
 これには額面以上に重要な意味がある、と。僕らは考えている」

 始まりの六人。
 かつて神寂祓葉に討たれた脱落者たち。

「この世界は強固だ。とてつもなく強固なんだ。少女一人の願望によって造られたとは思えないほど、どこにも綻びが見当たらない。
 ゲームスタートから一ヶ月駆けずり回っても、あるはずの要石を一つも見つけられなかった。いくらなんでも異常だ」

 逃げ出す穴なんて、針の先ほども見当たらない。
 どれだけ混沌が都市を覆っても、都市としての機能を損なわない。NPC達は社会活動をやめようとしない。
 核爆発にさらされても法治国家の社会基盤が崩壊しないなど、どう考えても異常に過ぎる。

 あまりにも『聖杯戦争を続けたい』という、少女の願望に従順過ぎる。
 神寂祓葉の世界は、針音都市は完璧だった。あまりにも完璧すぎた。

「よって、僕らは一つの仮説を立てた」

 目に見えない綻びが、生きて動いているとしたら。

「始まりの六人こそが楔だ」

 どうして、これほどまでに、針音の世界は強靭なのか。

「死とは黄泉の国に穿つ楔であり、チェックポイント。
 つまり彼らは皆、僕と同じ第二生といってもいい。
 死は不変だ。不変の属性を帯びた存在が、世界を統べる神の眷属として、6人も配置されている。
 それが世界のどこにも見当たらなかった要石、そのものだったとしたら」

 つまり脱出の鍵とは。

「六凶の脱落によって、ようやく社会基盤は崩壊し、この世界は死に近づく」
「それ、証拠あんのかよ」
「実はね。最近、遂にその一角が落ちたんだ」

 蛇杖堂寂句。
 始まりの六人の中でも、最強格と目された老医師の脱落。

 それが社会に与えた影響は計り知れなかった。
 これまで何人もの主従が脱落して尚、びくともしなかった針音の街に初めて走った軋み。

「最強格が落ちたとは言え、一人じゃまだまだ穴と呼ぶには足りない。
 全滅させろとは言わないけど、半分以上は削らなきゃ駄目だろうね」

「さっきからお前、なに言ってるか分かってんのか?」

「承知してるよ」

 六人の死が、脱出への道。
 それはつまり―――

「僕のマスターを殺すのも、君の選択肢ってことだ。これは伝えても良いってさ」

 脱出王すら例外ではない。


「加えて言えば彼らはいずれも、世界の壁を突破する為に有用な能力を持ち、それが再生に辺り妙に強化されている。
 アギリの眼、ノクトの契約書、ジャックの遺産、脱出王の……おっとこれは秘密だ」

 とはいえ、ジャックの遺産は既に漁ったが、脱出王は該当する手がかりを見つけられていなかった。
 ノクトの勝ち取った義手がそれに当たるのか。
 あるいは"もう一つの隠し場所"に存在するのか。

「いずれにせよ、世界に綻びをつくらなければ始まらない。
 そのために6人を狙うという方法は単純な指標と言えるね。
 丁度、一人欠けている状況も都合がいい」

「なるほどな」

 悠灯は考え込むように、鼻の下を擦りながらうつむいた。
 死人とは言え、知らない奴を殺して回るのは気が進まない。
 しかし、例外もいる。
 ノクト・サムスタンプ、容赦なく己の首をへし折ってくれたあの男なら、借りを返してもバチは当たらないだろうか。
 などと思っていると。

「は? ……あ、あああああっ!」
「うわっ、なんだよ」

 唐突に叫び声を上げた青年に、悠灯はビクッと身構える。

「ごめん、さっきの無しかも。補充された」
「はあ?」
「だから、たった今、綻んでいた地脈がもとに戻ったんだ。
 "新たな狂人"でジャックの空席が埋められたかもしれない。
 いや……そんなのアリかよ……めちゃくちゃだな神寂祓葉」

 悠灯には何を言ってるのかさっぱりだったが。
 先程のプランが振り出しに戻ってしまったらしいことは理解できた。

「でも、僕のマスターは同族殺しに積極的には見えないし、多分こっちはプランBだね」
「って、別プランがあんのかよ」
「まあね」

 ここまでの前提を揺さぶるような転換にコケかけるも、青年はあっけらかんと言い放つ。

「知識が欲しいんだろ。前提を知れ。そういうことさ」
「そんで、なんだよプランAって」
「恒星。聞いたことあるかい?」
「…………ああ」

 恒星。
 この世界、神。神寂祓葉。

 そして、それに届くとされる者達。
 恒星の資格者。
 伊原薊美が目指していた、一等星。
 華村悠灯が選ばなかった、選択肢。

「さっきまでの話は、神の眷属を削ぐ事で神の世界に綻びを作る試み。
 今からする話は、もう一柱神を立て、神と神をせめぎ合わせる試み」

 現の世界の神である神寂祓葉には世界を崩す神威がある。
 今できる状態かは別として、創造を行った以上、可能なポテンシャルはあると見るべきだ。
 そして、彼女に伍する存在を擁立しようとしている者達がある。

 この試みが生み出す存在は、即ち神寂祓葉と同等の力を持つ。
 つまり必然、世界を壊すポテンシャルを秘めている。

「アイツを……祓葉を真っ向から倒せる存在……そんなの有り得んのか」
「なに言ってるんだ。君はもう見て、聞いているじゃあないか」

 こんこん、と。
 ツーは細い指で、軽く頭を叩いて見せる。

「まさか、このフザケた声の主が」
「そう、渋谷を飲み込んだ月光、新たに産まれた神だ」

 悠灯はつい、天を仰ぐ。
 空は夜と朝と夜。
 ありえないグラデーションで染められていた。
 世界はとっくに死に接近している。

「つまり、AでもBでも、結局は……」
「世界を崩壊寸前、瀕死に追い込む必要がある。でも、それでいい」
「どこが良いんだよ」
「決まってるだろ」

 ツーはハリー・フーディーニの棺の中では、比較的明るい方だ。
 しかし他の、どの人生がこの場にいたとして、その解答は変わらなかったろう。

「大脱出とは、いつだって間一髪であるべきさ」

 悠灯は彼の言葉の意味を咀嚼する。
 これでまだ、彼は狂っていないのだ。
 ならば狂気に灼かれたハリー、山越風夏とは如何なる存在なのか。

 かつて相対した彼女の姿を思い出す。
 ひと目で悠灯の末路を見抜いた底知れぬ少女。

「で、あんたのマスターはプランAをメインに進めてるってことか?」
「そうとも言い切れないから難しいんだよ」
「おい、さっきから前提がどんどん覆ってんじゃねえか」
「最初に言ったろ? 僕にもマスターの真意を完全にトレースすることは出来ない。
 彼女も資格者を見定めようとしているのかも知れないけど、それが直接的な脱出方法かと言われると、どうかな?」
「あんたの知らないプランCがあるってことか?」
「さあ……?」

 脱出王、その二生。
 かつての一度目に、参加していたかも知れない青年は、いたずらっぽく笑って言った。

「あるいは君の見つけるプランDに期待してるのかも?」

 次いで、パチン、と。一度手が叩かれる。

「さて今は、ここまでだね」 
「おい、どういう……」
「以上の話を聞いたうえで、君は自由に動くと良い。君の意思で選び、進め」

 地鳴りが聞こえる。

「だが、勘違いすることなかれ。
 自由とは決して満たされることのない渇き。
 世界という、牢の広さを知ることだ」

 渋谷の街頭、幹線道路を振動させ、何かが近づいてくる。

「僕らが、九回生きても満足できなかったように」

 音という、空気の歪み、その連なり。
 北と南、二方向から二台の車が走る音。

 剣閃。炎の雄叫び。氷の絶叫。
 そして、歌唱。
 徐々に接近してくる、異様なる戦場の音波。

「さあ選択肢だ。触れるか、避けるか。君はどうする?」
















『敵性分子を確認』

 輪堂天梨の乗る車両が、月の防衛システムと蛇腔領域の挟撃を受けていた、同時刻。
 煌星満天の乗る車両もまた、防衛システムに検知されていた。

「―――くそ」

 キャスターを騙るプリテンダー。
 ファウストを騙るメフィストフェレスは、軽い舌打ちと共にハンドルを切る。

「掛かってこいッ! 我が恋路を阻む使徒共よッ!!」

 バーサーカーが雄叫びを上げ、立ち回る都度、高級車の天井がボコボコと凹んでいく。

「そうか……嗚呼そうかッ、そんなにも僕のジュリエットは美しいかッ!!
 神さえも嫉妬に狂いッ、天使を差し向けるほどに!!
 嗚呼、嗚呼、そうだろうともッ!! だがしかしッ!」

 上空を旋回するワルキューレの一群が、走行を続ける黒塗り車両に殺到し、ルーフの上に立つロミオの一閃によって、纏めて弾き飛ばされていく。

「例え神であったとしても彼女は渡さん!
 僕らの愛を阻むことはできないッ!
 今こそ我が剣の輝きにて、神域の存在すら貫いて見せようッ!」

 時折、鎧と筋肉の重みがルーフをぶち抜き、ロミオの片足が車両に突っ込まれるも、彼の歯の浮くような台詞回しは一切乱れない。
 走行する車両の上を、白銀の嵐が吹き荒れる。

 次々と槍を構えて突貫してくる戦乙女達を、狂戦士のレイピアが絡め取り貫く。
 べきん、と。運転を続けるメフィストの直上から、ロミオの脚が落下してきた。

「ロミオさん」
「失敬!」

 首を捻ってそれを避けながら、彼は後部座席の少女に警告した。

「煌星さん、姿勢を低くして座ってください。頭を踏み潰されたくなければ」

 言うまでもなく、満天は可能な限り頭を下げ、両手で守る姿勢で蹲っていた。

「不味いな」

 前方に視線を向け、メフィストはアクセルを踏み込んだ。
 当然法定速度など彼方に抜き去っているが、交通安全に配慮している余裕などあろうはずもない。

 路肩に停車し堕落にふける者達を回避しながら、渋谷の幹線道路を疾走する。
 現在の渋谷で、路上を走る車両はこの上なく目立っているのだろう。
 故に見つかったのだろうか。

 月のシステムに、ではない。防衛システムだけならば問題は無かった。
 輪堂天梨の陣営とは違い、彼らはいずれも気配遮断スキルを保持している。
 見つかるリスクも、見つかって以降のリスクも最小限に留まっていたのだ。

 想定外は、二つ。

 渋谷東方に展開された水子界。
 満天の陣営は幸運にもまだ距離があった。
 しかし、数分後に合流予定の天梨陣営が、タイミング悪く月面システムとそれの間に挟まれてしまっていた。
 戦況は悪い。早急に救出する必要に迫られている。

 この点については一刻を争うものの、先行させたエレメントで現在位置を把握済み。
 合流さえ成してしまえば突破口は在る。
 よってメフィストによって、本当に不味いのはもう一つの問題だった。


「――ごめん、私、今すっごい機嫌悪いから」


 たった今、防衛システムとは別に、目視で補足されてしまった敵性存在。
 崩壊した渋谷。
 社会に溶け込むという隠形が許されぬ戦場では、メフィストにって、こういう手合が最も脅威となる。

「ちょっと、手加減できないわ。神威、大星―――」

 渋谷を飛行していたアーチャー、天津甕星。
 天若日子を取り逃がした直後。
 過去最高に気が立っていた彼女は、一切の小手調べなく宝具を発動させている。

 今の渋谷でまともに車両運転が可能な存在など、演者(アクター)かその従者をおいて他にない。
 鬱憤をぶつけられるなら、だれでもいい気分だった。
 撃っちゃ駄目なやつ以外は撃ってしまえ。どうせ誰も彼も、最後には打倒するのだから。 

「―――簡易契約」

 対するメフィストは高速で思考を走らせる。
 逃げの手は打てない。防衛システムを掻い潜れたとしても、アーチャーの視界から逃れるには明確な身代わりが必要だ。
 第一、隠形を為せたとしても、喫緊の課題となっている天梨陣営の救出と並行して達することは不可能だろう。

 では、迎撃するか。
 メフィストの戦闘性能ではお話にならないが、バーサーカーが回収されていない今なら、勝負は出来る。
 しかし、まだバーサーカーのボルテージは上がりきっていない。
 戦闘の都度、リセットされる『恋は盲目(ブラインド・アローレイン)』の強化幅。
 戦乙女をたった数体切り払っただけでは、今、数百メートル先で発動された宝具規模を、迎撃できる領域まで追いつけたとは思えない。

 ならば、どうする、どうする、どうする。
 現在のベットは、おそらくどちらに賭けても没収されるだろう。
 進むも地獄退くも地獄、ならば今、損切りと折り合いつけて逃げ出すか、あるいは―――

「煌星さん」

 ここで、更に掛け金をつり上げるか。

「出番です」 

 さあ、〈プロデュース〉の時間だ。
 蝗害の一件で想定外の本番すら経験した今、ステージに上げることを忌避する理由は存在しない筈だ。
 天使とのリハを終え、パンデモニウムでの初披露を終え、未だに腑抜けたままなんて許さない。
 なにより、他に道がないならば―――

「あ、あの、さ。一応聞いとくけど」
「はい」

 蹲った情けない姿勢のまま、満天は問い返した。

「"この上"で、やれ、ってことだよね」
「ですね。ライブのトロッコみたいなものだと思ってください」

 その声は、まったく震えを隠せていなかった。

「こんな速いトロッコなんて聞いたことないけど」
「私もありません。100キロ超えで走行するトロッコです。おそらく全人未踏でしょう」
「なに、それ……はは、すっごい」

 そして、顔を上げた彼女は――

「すっごい、わ、わくわく、する、なぁ……!」

 震えながら何を嘯く、怖がりめ。
 馬鹿みたいな強がり。見え見えの虚勢であったとしても、メフィストは嗤わなかった。
 ならばそれを、現実に変えてこいと、いつものように背を蹴り飛ばす。

「そうですか。では、カウントします、3」

「あ、あ、ちょ、ちょっと待って! 10からにして! せめて5! 5からでお願い!」

「却下。ロミオさん、車両後方部分の天井を剥がしてくだい。2」

「ああ~~~もう! このドSプロデューサー! 変態、鬼畜、悪魔ッ!」

「人工霊(エレメント)、励起(ウェイク)、記号(コード)=跳躍(ジャンプ)。1」

「……せめて、最後になんか発破かけてよ」

「……」

 まったく世話の焼ける。
 ここで最後までカッコつけられないのが。
 このポンコツ駆け出しアイドルの駄目なところであり。

「他に道はありません。やらねば、我々全員死にますよ?」

「……ん、わかった。じゃあ、行って、くる」

 愛嬌でもあるのだろう。

「行ってらしゃい。煌星さん。―――――0」

 瞬間、後部座席の下部が炸裂し、座っていた少女の五体を、シートごと真上に跳ね飛ばした。

「ええええええぇぇぇぇぇぇぇ――――――!!??????」

 火薬の弾ける音、射出された満天の絶叫と、己を断崖から突き落とした(打ち上げた?)プロデューサーへの悪態。
 その全てを聞き流し、メフィストはアクセルを踏み込んだ。

 賽は投げられた。

 ここで潰されるようなら、それで終わり。
 ならば後は、全力で舞台を賑やかすのみ。

「予定よりちと早いが、先行して魅せてやるよ。寝惚けた愚民ども」

 悪魔はやはり嗤うことなく。
 されど口調を憚る必要もなく宣言した。

「刮目しやがれ、俺の星だ」




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最終更新:2026年04月28日 02:35