◇
夜の去り際。
朝焼けのカーテン。
月光のステージ。
蛇腔の闇。
現在、渋谷の空は4色に分けられている。
日の白、薄い青、差し込む黄色、漆黒。
現実の夜を現実の朝が押し流す間際、抗うように月光の夜が再展開され、そこに蛇の漆黒が割り込んで歪なグラデーションを描いている。
そんな、混沌極まる渋谷の上空に、今、煌星満天は射出された。
「うわああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
何も聞かされていなかった。
「ゼロって言われたら思いっきりジャンプすれば良いのかなー」とか呑気に考えていた。実に甘かった。
メフィストのアドリブによって、座席下に仕込まれたエレメント。
その炸裂によって少女は座席ごと直上へ飛び出し、バーサーカーが事前に切り払っていた天井から今、戦場(ステージ)へと強制ポップアップする。
ワルキューレの槍撃がクロスファイアを描き、ロミオの剣が夜に翻る。
遠くのビルから、弓兵による闇色の狙撃が迫りくる。
摩天楼の彼方には、蛇の領域が津波のごとく押し寄せてくるのが見えた。
「ばかああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――!!!!!」
『――――簡易契約!!』
少女の絶叫(シャウト)。
スパルタプロデューサーへの罵詈雑言響き渡る夜空に、二重の詠唱が重ねられる。
真下を走る車両の脇からカラフルなエレメントが複数飛び出し、満天の周囲を旋回し始めた。
人工霊(エレメント)、励起(ウェイク)、記号(コード)=反響(エコー)。
人工霊(エレメント)、励起(ウェイク)、記号(コード)=閃光(フラッシュ)。
なんら戦闘能力の無い、音と光を拡散するだけの粗末な人工霊では合ったが、目的を果たすには十二分。
ギター、ドラム、ベース、キーボード、それぞれ順に前奏開始。
車上ルーフとボンネットをライトアップ。
そして旋回する霊の一体が、上空のセンターアイドルへとそれを届ける。
「ああああああああああああああ―――もう!!」
空中にて反転する姿勢のまま、少女の手は、先端に突起のついた細長い支柱を掴み取った。
「―――やってやる!!」
まず手始めに、目前の路上で呑気に堕落し、流れ弾で死を待つだけの観客(ねぼすけ)から。
「――――起おおおおおおおおきろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!」
投射された音波の過ぎし後、強制的に覚醒状態へと叩き起こされたNPC。
蜘蛛の子を散らすように逃げていく彼らを見送りながら。
ボンネットに着地した満天は、持っていた長物を足元に突き刺した。
反響記号の付与された霊と、機能的に連動するスタンドマイク。
道具作成(偽)スキルによって造られた魔具は、霊(スピーカー)を介して広範囲に熱量(パッション)を届ける特別製。
対空していた数秒間にて、既にコスチュームチェンジも完了済み。
にょきりと、額の左右上部からツノが生える。
ひょこりと、お尻から逆刺のついた尻尾が飛び出す。
変身、完了。同時に、前奏が終わる、よって後は―――
「くらえッ新曲―――!!!!」
その歌声で、疾走するステージに、魂を吹き込むのみ。
「―――『OVERDRIVE』!!」
音を超える速度で飛来する闇色の矢を、白銀の剣が受け止めた。
巡航ミサイルもかくやといった質量炸裂を、細いレイピアの刀身によって拮抗させる。
ありえぬ力技、決して叶わぬ御業であったはずだ。
この戦場において、ロミオのボルテージは上がりきっていなかった。
しかしそれは、先程までの前提における話。
「ふ―――は、ははははははははははッ!!!!!」
―――"きっとなんか忘れてる 大事なことを見落としてる"
―――"(クラクション煩くて エンジン火を吹いて テールランプ目に焼き付いて)"
「ジュリエット、おおおおおジュリエット―――!! やはり君は―――!!」
―――"どうやら私 とっくの昔に詰んでいて けどさ、んなこと全部分かってやってんだ"
―――"(きっと道をまちがえて だからなんだって ハナシだって)"
「君は―――最高だァ――――ッ!!」
一気に肥大化した筋肉によって、またたく間に拮抗が破られる。
白銀の剣が振り切られ、闇色の矢が撃ち返される。
宝具の一撃を、筋力ステータスのみで打ち返す。
などという荒唐無稽な奇跡を実現する。
バーサーカー、ロミオの愛、その力に際限はない。
愛するジュリエットが、帰りを待ってくれているだけでも幸せだったのに。
ましてや、今、自らの隣で―――
「僕の為に、歌ってくれるというのかッ!」
寄り添ってくれるというのなら。
「ああ、ああ、なんて幸せなんだ―――僕は―――ッ!!」
筋力など一瞬で、百倍にもなろうというもの。
―――"正しいルートがあったとして 君に届かなきゃ意味ないね"
Aメロが終わる。
爆音を響かせながら、渋谷の高速道路を移動式の野外ライブステージが疾駆する。
メフィストの策によって、ロミオのボルテージは急上昇し、敵性アーチャーの宝具を落とせるまでに伸び上がっていた。
車両のルーフ上で陣取る狂戦士は今や、生半可な砲撃では退かない。
一方、ボンネットの上で押し寄せる強風に晒されながら、満天はBメロの歌詞を反芻する。
そのとき、彼女は違和感に気づいた。
前より、少しだけ、怖くない、どうしてだろうか。
いや、そもそも、時速100キロの風圧に晒されながら歌えている時点で異様なのだ。
―――"生憎バックミラーなんて 覗き込んでる暇ないよ"
満天の身体能力が、以前よりも遥かに強化されている。
これはおそらく恒星としての才覚ではない。
メフィストとの原初の契約、DDD、知名度補正の賜物だった。
―――"振り返るほどに 君が遠のくなら"
理由なんて、思い当たる節なんて、一つしかない。
例の飛ばし記事、蝗害騒動の主犯として、満天と天梨を詰り、怪物扱いした炎上案件。
だとしたら、悪名は無名に勝る。
なんて、よく言ったものだけど、状況の皮肉さに笑いそうになる。
―――"欲しがる心 欠けた部品も分からずに 酷い故障(むじゅん)を引き摺り走る"
悪魔は前方から殺到する戦乙女(ワルキューレ)の一群に、銃のように構えた指先を向ける。
ファンサの如く。サビ入りとともに。
空に放つ閃光が四方に拡散し、渋谷の夜を七色に染め上げた。
―――"オーバーヒート なんて上等 この身は常に最高速"
初めて、大衆から悪意を向けられた。
天使の抱えてきた気持ちが、やっと少し分かった。
怒りがある。悔しさもある。以前なら、悲しくて潰れてしまっていたかもしれない。
なにより、このうえ更に天使を、憧れを穢されるのは我慢ならなかった。
―――"行く先に断崖 破滅の未来 でも欲しいものは その先にしかないんだよ"
でも、今は、いいさ、好きなように言えばいい。なんて思うことが出来た。
来たる、天使と悪魔の対決ライブ。そこで、この世界の全員が、目にすることになるのだから。
本物の天使を。
輪堂天梨の真の実力を。
全ての愚者を黙らせる、白翼の輝きを。
それが天下に証明されると、信じているから。
―――"駆け抜けろ Highway 後悔する余裕なんて今はないから"
―――"追い越せよ Night Ray 欠けたまま進め 今はそれしか出来ないんだから"
だから、誰にも、その邪魔はさせない。
それが、今の煌星満天を支える、最大のモチベーションだった。
『煌星さん、見えますか』
念話に応える余裕なんてない。
だけど視線はそれを捉えている。
数百メートルの彼方、対向車線からSUVの発するハイビームが瞬いた。
『輪堂さんの車両です。合流まで後15秒―――』
遠方から飛来する闇色の矢。
SUV車両を取り囲んでいる戦乙女の群れ。
天使に迫る、ぽっかりと開いた蛇の口。
―――"ah 諦め悪くて ごめんあそばせ"
―――"(でも走りきったほうの勝ちだから)"
全部まとめて、邪魔だった。
だから歌い上げる、サビのラストフレーズと共に。
―――"いつか恐怖すら振り切って 君のさよならに追いつけるまで"
指先を、突き付ける。
「"Twinkle, twinkle, little star(キラキラひかる、満天の星よ)――――"」
煌星満天の観客達へ、最高速度のファンサを込めて。
「――――『微笑む爆弾・星の瀑(キラキラ・ボシ・ナイアガラ)』!!」
◇
『微笑む爆弾・星の瀑』。
ある種、ロミオの『恋は盲目(ブラインド・アローレイン)』と似たような性質を持つ人工宝具である。
つまりタメがいる。
最高潮のボルテージ。
高めきった熱を全て込めて放つ、天からの大瀑布。
星の花(スターマイン)が連鎖爆撃ならば、星の瀑(ナイアガラ)は絨毯爆撃と言い換えてもいい。
遥か上方の空に待機させていたオレンジ色の火種が一斉に落下し、事前にロックオンした敵を打ち砕く。
これをまともに受けたワルキューレの群れは、またたく間に半壊状態に陥っていた。
更に光の滝は遠方の天津甕星を巻き込み。
一時的とは言え蛇腔の侵攻すら堰き止め、戦場に明確な一石を投じることに成功する。
「かなり揺れます、注意してください」
二台の車両がすれ違う直前。
メフィストは急ブレーキとともに車両を反転させ、天梨の乗るSUVと並走体制に入っていた。
防衛システムを払ったならば、後は迫る蛇腔から離脱するのみ。
彼らはたどり着いた、救援は間に合ったのだ。
並走する車両、窓越しに二人のアイドルの視線が交錯する。
「天梨っ!」
ようやく追いついた少女の姿に、悪魔の気が逸れる。
しかし、煌星満天は未だ未完成。彼女は分かっていなかった。
全力を放った直後こそ、最も危険なタイミングであるのだと。
『煌星さん、回避を―――!』
回り込むように、爆炎の向こうから閃光が走る。
満天の左肩を、燃えるような衝撃が穿いた。
「が―――あ―――!?」
後方に吹き飛んだ少女の身体はフロントガラスを叩き割り、助手席のシートに叩きつけられる。
「ジュリエット―――!」
そこに容赦ない二射目が撃ち込まれ、防がんと駆け寄るロミオであったが。
「そんな、何故――今!?」
瞬時に、全身が淡い光に包まれる。
『―――令呪を以って命ずる。戻って来い、バーサーカー』
有無を言わせぬ強制送還。
よりにもよって、最悪のタイミングで、騎士の守りが失われていく。
「ジュリエットオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
それは狂戦士の意地か。
転移の間際、空間に刻み込まれた斬撃が暫し、漆黒の矢を押し留めるも。
ダメ押しの三射目を防げるものは―――
「―――神機変装(フォームチェンジ)!」
『―――アテナ実行!!』
細剣に代わり割り込んだ大盾が、車両を打ち砕く筈だった矢を弾く。
煙が晴れた後、狂戦士と入れ替わるように。
ボンネットに降り立ったのは鋼の機兵だった。
「よお、アーチャー、久しぶりじゃねえか」
「またアンタ? いい加減しつこいんだけど」
爆煙を越え。
急接近していた天津甕星の声には明確な苛立ちが滲んでいる。
「あんだけボコボコにされて、まだ懲りないの?」
「生憎と、粘り強さが俺の捜査の強みでね。
……嬢ちゃん、立てるかい」
殺意を受け流しつつ、戦場に乱入した鉄騎――雪村鉄志が、満天を引き起こした。
「大丈夫か? 辛いなら車で休んでてもいいぜ」
「……げほ……いえ……ごほ……私も……諦めの悪さが取り柄なんで……」
「そいつは気が合いそうだ。あんた動画で話題になってたアイドルだろ?
ここ切り抜けたらサイン書いてくれよ」
「あ……はい……」
『では当機の分も! 計二枚! お願いします!』
「え……だれ……? 女の子?」
無論、雪村とて状況の全てを掴んでいた訳では無い。
だが彼には確信があった。
少なくとも今、対峙するアーチャーについては。
「てめえは蛇に繋がってる。それだけは確かだからな」
渋谷に侵入した雪村は早い段階で、索敵を上空に絞っていた。
そこをテリトリーにするサーヴァント。
しかも確実にターゲットに繋がる存在に、心当たりがあったからだ。
「張らせて貰ってたぜ。もう逃さねえ」
更に、SUV車両のルーフ上には白の弓兵と黒の悪神が顕現する。
「ち……そっちのサーヴァントだったのかよ、天津神」
新たに登壇した援軍。
雪村鉄志とアルターエゴ、マキナ。
そして、シャクシャインと天若日子。
どれも一対一であれば、今の天津甕星ならば単独で圧倒可能な自信があった。
しかし全員を同時に相手取るとなれば、流石に骨が折れることだろう。
よって彼女は、実にシンプルな手法を取ることにした。
「あーくそ、もういいや。面倒くささが勝ったわ。
ここは退いてあげる。でもね、タダってわけにはいかないから」
「んだと? そりゃどういう―――」
「こういう―――意味だよっ!」
瞬間、車両の背後にて、弱まっていたはずの水子界が、急激に拡大する。
アーチャーからの何らかの念話を受けたのか、蛇の総体が一気に身を捩ったのだ。
「―――!」
「―――!」
一時的に車の時速を超える勢いで拡大する固有結界。
メフィスト、継代のハサン、ハンドルを握る二騎は同時にアクセルを踏み込むも。
前方には、ゲームを決める最後の一射が控えていた。
「滑稽ね、蛇ならずっと、あんたの背後にいるってのに」
雪村の反応が遅れてしまったのは、その言葉が見えざる矢となったからか。
撃ち落とすことが出来たのは、車両を狙った閃光のみ。
彼をもってしても、本命を妨げることは出来なかった。
即ち、真下へ向けた射の軌道。
彼らの車両進行方向。
高架橋道路そのものを打ち崩す、壊滅の一撃である。
「そんなに会いたいなら、今すぐ会ってくれば? 全員まとめて食われてしまえ」
◇
瞬間、様々な事象が同時に発生していた。
高架橋から放り出される二台の車両。
離脱する天津甕星と入れ替わりに、態勢の崩れた一団へと戦乙女(ワルキューレ)の残存部隊が殺到する。
咄嗟の判断において、各サーヴァントは自らのマスターを最優先に保護する。
天若日子はアンジェリカ・アルロニカを連れ、継代のハサンは天梨からミロクを受け取り、それぞれSUVを離脱していた。
この時、サーヴァントのサポートを十全に受けられなかったマスターは二名。
衝撃で車両のボンネットから跳ね飛ばされた煌星満天。
SUVの後部座席に取り残されていた輪堂天梨。
メフィストが車両から脱出した時点で、満天は遥か下方に落下していた。
シャクシャインは戦乙女の群れに囲まれ、SUVに接近することが出来ずにいた。
だがその時、スローモーションに切り替わる視界の中、満天は確かに聴いたのだった。
ぴう、という。よく通る指笛の音を。
崩落の最中。落下する満天の身体が、柔らかな羽毛に包まれる。
視界を覆う粉塵を切り裂いて、白銀の翼が広がっていた。
それは大鷹の霊獣、大戦士の遺した指輪による霊獣喚人。
「あなた―――誰?」
「今は喋んじゃねえよ、舌ぁ噛むぜ」
少女は目撃する。
霊獣に乗って飛行し、空中で己を受け止めた金髪の少女、華村悠灯の姿。
そしてSUVの落下地点に走り込む、青年の姿を。
「ではこれより、世紀の脱出ショーをご覧にいれる」
是なるは"脱出"の起源覚醒者。
一切の魔的なタネはなく、ただ超人的な技巧のみで成し遂げる。
ハリー・フーディーニ、第二生の実演する奇跡。
空中で車両に潜り込んだ青年の姿が、溶けて消えたかに見えた。
次の瞬間にはドアが開き、転げ落ちるように木製の棺が飛び出して、着地した者達の傍らに落下する。
「天梨!」
駆け寄る満天と悠灯の目の前で、棺の蓋が開き。
そこに輪堂天梨が、傷一つない姿で横たわっていた。
崩落した高架橋の下。
安堵に満ちた息を吐き出しながら、満天は棺に一歩近づく。
「大丈夫……だよね……」
「ん……満天……ちゃん……?」
ゆっくりと身を起こした天梨は、まだ状況を把握しきれていないのか。
呆、とした表情で二人を見つめ返していた。
更に一歩、満天は近づく。
天使のアイドルと悪魔のアイドル。
数時間ぶりの再会だった。
港区のホールで分かれて以来。そして後はもう離れることはない。
決着に至るライブを行うまでは、ずっと一緒にいよう。
この美しい天使を倒すその時まで、己が彼女を守り続けよう。
そう、満天は決意して。
踏み出すべく、動かした足が、不意に止まった。
「満天ちゃん……どうしたの?」
「天梨、振り向いちゃ、駄目だ」
満天と悠灯の表情を見、その異様さに気づいたいのか、天梨の顔にも影が差す。
「いったい……何が……っ!?」
天梨の肩に、赤子の腕が乗っていた。
「振り向かずに、慎重に引き剥がして、こっちへ来て」
満天は警戒しつつも、一歩ずつ近づいていた。
黒と黄の境界線。
月光と蛇腔、二つの領域の境目に、天梨は今、立っている。
軽く乗せられていた細い腕に、僅かに力が籠るのが見えた。
天梨はその小さな手のひらを、ゆっくり剥がそうとして、にわかに動けなくなった。
「できない」
「天梨、なんで……?」
「……ごめん、私できない」
顔を上げた天使の表情は蒼白だった。
触れた赤子の手から、いったいなにを感じ取ったのか。
「だってこの子……泣いてる」
「―――お」
「―――おお、お」
その共感が、果たして契機になってしまったのか。
「―――おおおおおおあああああああああああああああああああああああああ!!
―――おあああああああああ!! おあああああああああああああああああ!!
―――おああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
水子の絶叫が響き渡る。
無数の腕が周囲の闇、蛇の口から飛び出し、天使の身体に纏わりつく。
「天梨――ッ!」
「なにやってんだノロマがッ!!」
この時、迷わず天使に駆け寄ろうとしたのは三名。実現したのは内二名。
走り込むアヴェンジャーの剣閃が、天梨に殺到する赤子の身体を引き千切る。
「駄目! アヴェンジャー! 殺したら―――!」
「この期に及んでなに寝惚けたことを―――」
しかし、それは単なる博愛ではなかった。本当に殺してはならなかったのだ。
反駁するように倍加した水子の絶叫と青白い無数の腕が、シャクシャインを引きずり込む。
サーヴァントにこそ絶大な威力を発揮する結界の特性によって、復讐者の動きが強制的に止められる。
「離してよキャスター! 天梨がっ!」
「駄目です! 煌星さん!」
満天は咄嗟に近寄ろうとして、為せなかった。
駆けつけたメフィストによって、羽交い締めに拘束されていたからだ。
「―――マキナ!!」
『あい・こぴー!!』
そして、最後に突入した雪村鉄志だけが、唯一の解答を持っていた。
人とサーヴァントの中間属性を持つ彼だけが、結界の縁で十全に動くことが出来たのだ。
「掴まれ、嬢ちゃん!」
迷いなく自ら蛇の口へと飛び込んだ鉄騎は赤子の群れを押しのけ、天使を漆黒の縁から引き上げる。
自らは入れ替わりに結界の内側に引き込まれてしまったが、少女を縁の外へと押し出すことには成功した。
コンクリートの地面の上に放り出され、倒れ付した天梨が振り返る。
その時、既にシャクシャインと雪村は、身体の半ばまで蛇腔に飲み込まれていた。
「―――構うな、行け!」
「でも、アヴェンジャーが!」
「いいから走れ!! そこもじきに飲まれる!!」
よろよろと立ち上がった天梨は、それでもまだ迷っているようだった。
我慢の限界を迎えた満天が無理やり拘束を破り、メフィストを振り切って走り出す。
「天梨―――っ!!」
「満天ちゃん……!」
「手を―――」
手を、伸ばして。
必死の訴えに、ようやく天梨が腕を上げた。
境界の上、悪魔の手が、天使の手に届く。
その、寸前。
彼女らの後方にて墜落していた戦乙女が、ノイズ混じりの機会音声を吐き出し―――
『―――FW(攻性防壁)、構築完了・即時展開』
半透明の青白い壁が、二人の間に割り込んだ。
「―――は?」
届くはずだった手は、見えざる壁に阻まれる。
非常に薄く、前方の景色すら透けて見える。音もまだ、聞こえている。
しかしそれは、空間遮断に等しい隔絶性をもって二人の間に君臨していた。
「……なに、これ?」
まるで意味が分からない。
あの手を掴むまで、あと一歩だったのに。
「―――なんだよ、これっ!」
満天の問いかけは虚しく宙に消えるばかり。
叩いても、殴りつけても、壁はびくともしなかった。
それは蛇の仕業ではなかった。
半透明の壁は上空や地下すら覆い尽くし、蛇の固有結界を外側から完全に包囲している。
意図は明らかだ。害意に乏しい月光の領域であっても、野放図に振る舞う蛇の蛮行は目に余ったのだ。
よってこれ以上の領地拡大を防ぐため、月の防衛システムは封じ込めを実行した。
「……どう……したら」
出来ることなど、もはや満天には残されていなかった。
壁を叩き続ける彼女の前で、外側に取り残された天梨は、薄く微笑んで。
「はは……ドジっちゃったな、私。
ごめんね、満天ちゃん、せっかく助けに来てくれたのに」
防壁の外へ締め出された天梨に逃げ場はない。
つまりこれで、迫りくる蛇の口に飲まれる定めは絶対となった。
「……天梨……私がっ、私がもっと、早く来れてたら……っ」
「さっきね、電話で言おうとしたことなんだけど」
「……ぇ?」
分かれ道が定まり、半泣きで壁にすがりつく満天とは対象的に。
天梨はどこか、落ち着いた口調で話していた。
「私、ホントはね、ちょっと限界だったんだ。
ホールで別れたあと、色々あってさ。
告白すると、実は一回諦めちゃったんだよ、天使でいること」
新宿での、一時的な堕天。
それはどれほど天梨の心に影を落としていたのか。
「アヴェンジャーにも、満天ちゃんにも、申し訳なくてさ。
しかも、あんな記事まで出て、満天ちゃんにまで……あんな……」
天使は、自分のことを詰られる痛みには慣れていた。
だけど友達のことを言われた時、耐え難い感情があった。
「そしたらさ。
頭の中で、ほら、色々鳴り出して……」
渋谷を支配する月光領域。
満天が飲まれかけた堕落の誘い。
ならば天使は、耐えることが出来ていたのか。
「……もう、諦めっちゃってもいいのかな。
楽になってもいいのかな。
この声に、身を任せてもいいのかなって、思っちゃったんだ」
満天が追い詰められていた、あの時。
同じく、天使もまた―――
「でも、そんな時に、満天ちゃんが電話をくれたから」
「違う……違うよ天梨……それは私が……私の、方が……!」
「ありがとね。さっき本当にカッコよかったよ。
私、満天ちゃんのステージを観れて嬉しかった。
でもね、そしたらもっと欲が出ちゃって……」
透明の壁に触れる悪魔の手のひら。
そこに天使の手のひらが合わせられる。
「絶対、一緒にライブしようね。私、満天ちゃんと、同じステージに立ってみたい」
「うん……うん……っ!」
「泣かないで。また、すぐに会えるんでしょ?」
「うん……絶対! 絶対一緒にライブするから! 絶対……迎えに行くからっ!」
「待ってる。でも、あんまり遅いと、私の方から、迎えに行っちゃうからね」
「駄目だよ、私が行くんだ……! 私が……天梨を助けるんだから……!」
「ふふ、じゃあ競争だね」
刻限を告げる。
赤子の腕が、再び天使の肩にかかる。
「満天、ちゃん……!」
「天梨っ! 天梨―――!」
引き剥がされていく。
防壁の外側が漆黒に染まり、天使の姿が掻き消える。
「すぐに行くよ! 絶対に行くから!」
目指した光が見えなくなっても。
「絶対に、助けに行くからッ!」
取り残された悪魔は、漆黒に染められた壁の前で一人、立ち尽くしていた。
「だから…………待ってて……天梨」
【月光夢幻神界〈渋谷〉・水子界内部/二日目・早朝】
【輪堂天梨】
[状態]:疲労(中)、左手指・甲骨折、全身にダメージ(中)、自己嫌悪(ちょっと落ち着いた)、頭痛(大)
[令呪]:残り二画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:たくさん(体質の恩恵でお仕事が順調)
[思考・状況]
基本方針:〈天使〉のままでいたい。
0:―――。
1:ほむっちのことは……うん、守らないと。
2:……私も負けないよ、満天ちゃん。
3:アヴェンジャーのことは無視できない。私は、彼のマスターなんだから。
4:アンジェさんを信用。誰かに怒られたのって、結構久しぶりかも。
5:ほんと、なんなんだろうなぁ。
[備考]
※以降に仕事が入っているかどうかは後のリレーにお任せします。
※魔術回路の開き方を覚え、"自身が友好的と判断する相手に人間・英霊を問わず強化を与える魔術"(【感光/応答(Call and Response)】)を行使できるようになりました。
持続時間、今後の成長如何については後の書き手さんにお任せします。
※自分の無自覚に行使している魔術について知りました。
※煌星満天との対決を通じて能力が向上しています(程度は後続に委ねます)。
→魅了魔術の出力が向上しています。NPC程度であれば、だいたい言うことを聞かせられるようです。
※煌星満天と個人間の同盟を結びました。対談イベントについては後続に委ねます。
※一時的な堕天に至りました。
その産物として、対象を絞る代わりに規格外の強化を授けられる【受胎告知(First Light)】を体得しました。この魔術による強化の時間制限の有無は後続に委ねます。
※煌星満天からの着信が入っています。
【アヴェンジャー(シャクシャイン)】
[状態]:半身に火傷、疲労(大)、ブチギレ
[装備]:「血啜喰牙」
[道具]:弓矢などの武装
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:死に絶えろ、“和人”ども。
0:殺す。
1:憐れみは要らない。厄災として、全てを喰らい尽くす。
2:愉しもうぜ、輪堂天梨。堕ちていく時まで。
3:以下の連中は機会があれば必ず殺す:青き騎兵(カスター)、煌星満天、赤坂亜切、雪原の女神(スカディ)、囁き女(にーと)。また増えるかも
4:ホムンクルスも殺してぇ……
5:このクソ喧しい声を今すぐ止めろ
[備考]
※マスターである天梨から殺人を禁じられています。
最後の“楽しみ”のために敢えて受け入れています。
※令呪『私の大事な人達を傷つけないで』
現在の対象範囲:ホムンクルス36号/ミロクと煌星満天、およびその契約サーヴァント。またアヴェンジャー本人もこれの対象。
対象が若干漠然としているために効力は完全ではないが、広すぎもしないためそれなりに重く作用している。
【雪村鉄志】
[状態]:疲労(小)、覚悟、高揚と動揺
[令呪]:残り二画
[装備]:『杖』
[道具]:探偵として必要な各種小道具、ノートPC
[所持金]:社会人として考えるとあまり多くはない。良い服を買って更に減った。
[思考・状況]
基本方針:ニシキヘビを追い詰める。
1:水子界を調査する。
2:今後はひとまず単独行動。ニシキヘビの調査と、状況への介入で聖杯戦争を進める。
3:同盟を利用し、状況の変化に介入する。
4:〈一回目〉の参加者とこの世界の成り立ちを調査する。
5:マキナとの連携を強化する。
6:高乃河二と琴峯ナシロの〈事件〉についても、余裕があれば調べておく。
7:神寂祓葉についても静観はできない。調べておくべきだろうな。
8:復讐を終えた後のこと――、か。
[備考]
※赤坂亜切から、〈はじまりの六人〉の特に『蛇杖堂寂句』、『ホムンクルス36号』、『ノクト・サムスタンプ』の情報を重点的に得ています。
※高乃河二達から追加連絡を受け取りました。それ経由で、神寂祓葉の情報も受け取っています。
※アーチャー(天津甕星)の真名を知りました。
※高乃河二経由でレミュリンのメールを読み、蛇の本名を知りました。
【アルターエゴ(デウス・エクス・マキナ)】
[状態]:疲労(小)、不安
[装備]:スキルにより変動
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:マスターと共に聖杯戦争を戦う。
1:マスターとの連携を強化する。
2:目指す神の在り方について、スカディに返すべき答えを考える。
3:信仰というものの在り方について、琴峯ナシロを観察して学習する。
4:おとうさま……
5:必要なことは実戦で学び、経験を積む。……あい・こぴー。
[備考]
※紺色のワンピース(長袖)と諸々の私服を買ってもらいました。わーい。
【渋谷区・???/二日目・早朝】
【アーチャー(天津甕星)】
[状態]:激昂、全身に矢傷(回復中)
[装備]:弓と矢
[道具]:永久機関・万能炉心(懐中時計型。現在は胸部に格納中)
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:優勝を目指す。
0:――水子界の内側で蛇と連携するか、それとも外側で立ち回るか?
1:当面は神寂縁に従う。
2:〈救済機構〉なるものの排除。……だけど、優先度が落ちたらしい。なんじゃそりゃ。
3:今後のことを考える。
4:天若日子を追う? それとも?
[備考]
※キャスター(オルフィレウス)から永久機関を貸与されました。
・神寂祓葉及びオルフィレウスに対する反抗行動には使用できません。
・所持している限り、霊基と魔力の自動回復効果を得られます。
・祓葉のように肉体に適合させているわけではないので、あそこまでの不死性は発揮できません。
・が、全体的に出力が向上しているでしょう。
◇
高架橋の下、瓦礫の山に転がる車両。
砂煙立ちこめるその場所で、メフィストフェレスとホムンクルス36号が直接視線を合わせたのは、ほんの一瞬だった。
『其方はどう見る?』
『残念ながら、武力による突破はまず不可能ですね』
各自が戦闘終了後の接触や治癒を行う中、水面下で二陣営のフィクサーが思考をすり合わせる。
交わされた念話の響きには、ホムンクルスらしからぬ揺らぎがあった。
メフィストもまた、苛立ちを隠し通せている自信がない。
『防壁自体は正攻法で開くタイプの単純な仕組みですが、それ故に堅固だ。私の小細工など一つも通りませんよ』
『業腹ながら同じ見立てだ。術式解析の結果、侵入方法は存在しない』
水子界を包囲したファイアウォール。
それは月の姫(ニート)謹製の引き篭もり障壁である。
月姫真体・堕落恒星(ムーンセル・オートマトン)から直結回路を繋げられた攻性防壁。
これより、内には何人も立ち入れぬ。堕落恒星の在る限り。
本来、侵食固有結界が世界全土を飲み込んだ後に展開するべき防壁を、女神は実に大雑把に扱った。
抑止力への抗体に便乗し、無限に勢力を拡大しようとした水子界を、覆って固めたのである。
まるで臭いものに蓋をするように。
防壁自体に攻撃力が存在しない以上、水子界の内に干渉は出来ない。
が、これ以上、月面が穢されることもない。
今後は相互不干渉の状況が続くだろう。蛇が現状に甘んずる限りにおいては。
『一切の搦手が通用しない以上、術者本人を撃破して解除するしかありません。
しかし、それは、つまり―――』
『神殺し、か』
『ええ、ファイアウォールの展開元を絶つ。即ち恒星を落す。
本末転倒に近い遠回り、当初の目的が手段と化していますが。
とどのつまり、我々が能動的に輪堂さんを救出するには、それしかありません』
展開されたファイアウォールの外側にて、輪堂天梨が水子界に飲まれた。
ミロクはもちろん、メフィストにとっても。
これは完全に予定外かつ、深刻な事態だった。
特にミロクは、絶大の危険を承知で救出に向かいたいと考えている。
メフィストにとっても、神を退け渋谷の平定を成し、彼の星が飛躍に至るためのライブにたどり着いたとして。
その時、悪魔の共演者が、倒すべき天使が、失われてしまっていては意味がない。
あれは今や必要なファクターなのだ。
悪魔の星を完成させるために。
メフィストは己の育てる星の姿を見る。
満天は先程までと変わらず、高架橋の下、閉された壁の前に立ち尽くしていた。
この角度からでは、俯いた少女の表情までは伺えない。
『ならば、我々は……天梨の安全を確保するまで……』
『一次休戦ですね。寝首を掻きあうのは、渋谷の騒動を収めてからでいい』
フローチャートは以下の通り。
これより月光の固有結界、堕落恒星の本丸に乗り込み、天枷仁杜を撃破する。
ファイアウォールの解除を為し水子界に侵入、輪堂天梨を救出する。
言うまでもなく、あまりにも迂遠だった。
率直に言って、その全てを成し遂げるまで、あの水子界で輪堂天梨が生存している可能性は限りなく低い。
それでも、メフィストもミロクも、取れる手段は限られている。
いまは手順通り進むしかない。
愚直に、神に、挑むしかない。
メフィストは絶えず思考を続けていた。咀嚼すべき情報はいくらでもある。
ファイアウォールを代表に、防衛システムの特性から堕落恒星のスペックを推し量るか。
ホムンクルスや、先の戦闘で最後に乱入してきた二人組、金髪の少女と奇術師のような青年、彼らから情報を得るか。
解決するべき課題、仕事は山積みだが。
まず、最初にやるべきことがあった。
これが最も気が重いのだが。
「……煌星さん」
これからのことを、彼女に伝えなければならない。
「…………」
満天は振り向かなかった。
消沈しているのだろう。
薄青の壁の先、漆黒の闇。彼女が嫌う暗黒の方へと、視線を向け続けている。
両の手は、今も壁に当てられていた。
少し前まで、天使の手が重ねられていた位置に。
「煌星さん、一旦ここを離れましょう。留まっていても意味はない」
二度呼びかけても反応がない。
まさか、こんなところで折れたなどと言うまいな、と。
更に踏み出し、肩に手を置いて、三度目の呼びかけを行おうとした時だった。
「煌星さ―――」
「……い」
「……?」
ようやく、彼にもその音が聞こえた。
「―――せない」
「煌星さん?」
溢れ出す感情は、悲しみではなく、怒りだった。
爆発までの導火線。
消沈のフェーズなど、とっくに終わっている。
「……邪魔はさせない」
彼女はただ、その一念のみを、唱え続けていた。
「邪魔はさせない、邪魔はさせない、邪魔はさせない―――」
メフィストフェレスはその光景を目撃する。
「たとえ、カミサマにだって―――」
ありえないことだが、見まちがえでなければ、彼女の指が、
「私たちの―――」
不可侵であった筈の、ファイアウォールの内側へ、僅かに沈み込んで―――
「邪魔は――――!」
少女の角と、逆刺のついた尻尾が、今、この瞬間に光を放ち―――
◇
/mid point δ:『Overlo■■■―――………
「私たちの、邪魔は――――!」
「――てい」
「――おら」
「―――っっっ痛っっったぁっ!?」
◇
メフィストフェレスはその光景を目撃する。
少女の角と、逆刺のついた尻尾が、今、この瞬間―――
「―――ていっ」
角を、横合いからアンジェリカ・アルロニカの電撃デコピンに弾かれ。
「―――おら」
尻尾を、背後から華村悠灯の無遠慮な手に引っ張り上げられ。
「―――っっっ痛っっったぁっ!?」
煌星満天は盛大にすっ転んでいた。
◇
突然の蛮行によって、私は後方にひっくり返る。
頭とお尻に、別方向から同時に衝撃を受け、情けない悲鳴を上げていた。
地面に思いっきり尻もちをつき。
視界には未だに星がチカチカと舞っている。
「な――な――な―――なぁぁ―――!」
すぐに抗議したかったけど、ぜんぜん呂律が回らない。
身体の中で最も敏感な二箇所にピンポイントで不意打ちを決められ、前後不覚に陥っていた。
あまりの衝撃と痛みによって、もともと限界だった疲労がピークに達した。
コケると同時、角と尻尾は塵のように霧散し、変身解除されてしまう。
「なに、すんのぉ……っ!」
頭とお尻を手で擦りながら、私はようやく下手人達の姿を見上げた。
蹲る私を見下ろす、二人の女の子を。
「あのね、それはこっちのセリフ。あんたこそ、いま、何しようとした?」
突然デコピンを食らわせてきた少女。
黒髪に、藍のインナーカラー、額近くのイエローメッシュが鮮やかだ。
凛とした顔立ちの、芯の強そうな女の子だった。顔立ちからして、外国人だろうか。
「わり、でもなんとなく、やべー感じがしたからさ。……あとなんか合法的に触れそうだったし」
隣に立つのは金髪ショートヘアの、日本人の女の子。
金髪のてっぺんがプリンになってきてしまっているけど、無造作な感じが逆に似合っている。
さきほど、私の尻尾を掴み上げ、引っ張ってくれたのがこやつらしい。
「わ、私は……ただ……」
邪魔された。と、咄嗟に思った。
だけど、なにを。
「ただ……あ、あれ……? なんだっ……け」
何を阻まれたのか、自分が何をしようとしていたのか。
言語化できない。
私はただ、天梨を追いかけたくて、ただそれだけを思って。
だから邪魔な壁を――壁を壊すために、どうしようとしたんだっけ。
そんな方法、なにも思い浮かばない、のに。
「私、何を……」
「勝手に暴走しないで。あんた、テンリを助けたいんでしょ?」
「……!」
降ってきた言葉に、背筋が伸びた。
そうだこのひと、天梨と同じ車に乗っていた。
ホムンクルスと同じで、天梨の仲間、なのかな。
「アンジェリカ・アルロニカ。
テンリの……そうね、友人っていうか先輩っていうか、協力者みたいなものよ」
「アタシは華村悠灯。
ただの通りすがりだけど、さっきは成り行き任せとはいえ手ぇ貸したんだ。事情くらい説明してくれんだろ?」
地面に転んだままの私に、二人の少女は一瞬顔を見合わせ。
軽く肩をすくめたあと、すっと左右から手を差し出した。
こちらを見下ろす、二人の少女。
私は少しだけ戸惑って、やっと気づく。
二人の背後には、今も私の様子を見守る、彼の姿があった。
『煌星さん、天使を救いたいと望むなら』
彼はいつも通り容赦なく、私に現実を突き付ける。
次のスケジュールを告げるような、簡素な響きで。
『――神に挑んでください。他に、道はありません』
「…………っ」
ぐちゃぐちゃになったままの、みっともない顔を袖で拭う。
天梨、必ず助けに行くから、それまでどうか無事でいて。
私たちの邪魔はさせない。たとえ、カミサマが相手だって。
「……私は……煌星満天」
針音の街に、くすんだ色の朝が来る。
夜が明けても、空の光は濁るばかり。
憧れた光は目の前で闇に飲まれてしまった。
目の前には絶望的な道のりが広がっている。
希望なんて、今は全然見えなくて。
だけど、それで諦めがつくほど、私は今も、物わかりが良くなくて。
「よ、よろしく……お願い……します」
おずおずと両腕を伸ばし、彼女たちの手を取る。
「そ。じゃあ、よろしく。マンテン」
「よろしくな」
握り返し込められた二人分の力。
どちらも、ぶっきらぼうながら、どこか優しく。
取り残されたままの私の身体を、ゆっくりと引き起こしてくれた。
【月光夢幻神界〈渋谷〉・FW付近/二日目・早朝】
【煌星満天】
[状態]:疲労(小)、気分高揚気味、炎上に対するむかむか、左肩負傷
[令呪]:残り三画
[装備]:『微笑む爆弾』
[道具]:なし
[所持金]:数千円(貯金もカツカツ)
[思考・状況]
基本方針:トップアイドルになる
0:水子界を隔離する障壁を解除するために、月光の神に挑む。
1:魅了するしかない。ファウストも、ロミオも、ノクトも、この世界の全員も。
2:輪堂天梨を救う。
3:……絶対、負けないから、天梨。
4:天枷仁杜には苦手意識。でも、きれいだった。
5:私、なんで忘れてたんだろ?
6:好き勝手言うなよ、私達の何を知ってるんだ。
[備考]
聖杯戦争が二回目であることを知りました。
ノクトの見立てでは、例のオーディション大暴れ動画の時に比べてだいぶ能力の向上が見られるようです。
※輪堂天梨との対決を通じて能力が向上しています(程度は後続に委ねます)。
・『微笑む爆弾・星の花(キラキラ・ボシ・スターマイン)』
拡散と誘爆を繰り返し、地上に満天の星空を咲かせる対軍宝具。
性質上、群体からなる敵に対してはきわめて凶悪な効果を発揮する。
現在の満天では魔力の関係上、一発撃つのが限度。ただし今後の成長次第では……?
・現状でも他の能力が芽生えているか、それともこれから芽生えていくかは後続に委ねます。
※輪堂天梨と個人間の同盟を結びました。対談イベントについては後続に委ねます。
※過去について少し気付きを得ました。詳細は後続に委ねます。
【プリテンダー(ゲオルク・ファウスト/メフィストフェレス)】
[状態]:健康、肩口に傷(解毒・処置済)
[装備]:名刺
[道具]:眼鏡、スキル『エレメンタル』で製造した元素塊
[所持金]:莫大。運営資金は潤沢
[思考・状況]
基本方針:煌星満天をトップアイドルにする
0:渋谷の神(推定:天枷仁杜)を退かし、かの街でライブを行わせる。
1:輪堂天梨との同盟を維持しつつ、満天の"ラスボス"のままで居させたい。
2:ノクトとの協力関係を利用する。が、ライブの実施が現実的になったなら切り捨てを視野に入れる。
3:時間が無い。満天のプロデュース計画を早めなければならない。
4:天梨に纏わり付いている復讐者は……厄介だな。
5:高天小都音とは個人的にパイプを持っておく。
[備考]
ロミオと契約を結んでいます。
ノクト・サムスタンプと協力体制を結び、ロミオを借り受けました。
聖杯戦争が二回目であること、また"カムサビフツハ"の存在を知りました。
高天小都音経由で、〈はじまりの六人〉及び神寂祓葉の情報を知りました。
【アンジェリカ・アルロニカ】
[状態]:魔力消費(中)、疲労(小)、頭痛(大)
[令呪]:残り三画
[装備]:
[道具]:ヒーローのお面(ピンク)
[所持金]:家にはそれなりの金額があった。それなりの貯金もあるようだ。時計塔の魔術師だしね。
[思考・状況]
基本方針:勝ち残る。
1:未来を変える。私は、神を生ませない。
2:神寂祓葉に複雑な感情。
3:蛇杖堂寂句には二度と会いたくない。
4:あー……きっつい、これ……。
[備考]
※ホムンクルス36号から、前回の聖杯戦争のマスターの情報(神寂祓葉を除く)を手に入れました。
※蛇杖堂寂句の手術を受けました。
※神寂祓葉が"こう"なる前について少しだけ聞きました。
※アルロニカ家の魔術刻印と共鳴することで、世界の始点と終点の一部を観測しました。
【アーチャー(天若日子)】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(大)
[装備]:弓矢
[道具]: ヒーローのお面
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:アンジェに付き従う。
1:アサシンもアヴェンジャーも気に入らないが、当面は上手くやるしかない。
2:赤い害獣(レッドライダー)は次は確実に討つ。許さぬ。
3:神寂祓葉――難儀な生き物だな、あれは。
4:星神(天津甕星)とは次に会ったら受けて立つ。私には、その責任がある。
[備考]
※アサシン(継代のハサン)が2回目の参戦であることを知りました。
【ホムンクルス36号/ミロク】
[状態]:疲労(小)、肉体強化、"成長(第二フェーズ)"
[令呪]:残り二画
[装備]:
[道具]:
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:忠誠を示す。そのために動く。
1:輪堂天梨を対等な友に据え、覚醒に導くことで真に主命を果たす。
2:……ほむっち。か。
3:煌星満天を始めとする他の恒星候補は機会を見て排除する。
4:アンジェリカ・アルロニカ――。
[備考]
※天梨の【感光/応答】を受けたことで、わずかに肉体が成長し始めています。
※解析に加え、解析した物体に対する介入魔術を使用できるようになりました。
※輪堂天梨が修羅場を超え、その力が洗練されたことで、ミロクの成長速度も急激に上昇しました。
現在、3~4歳程度の童子の姿まで変異しています。
【アサシン(ハサン・サッバーハ )】
[状態]:霊基強化、運転中、令呪『ホムンクルス36号が輪堂天梨へ意図的に虚言を弄した際、速やかにこれを抹殺せよ』
[装備]:ナイフ
[道具]:
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:マスターに従う
1:さて、どうすんだ、大将? ほんとに神とやりあうのか?
2:大将の忠告を無視する気もないが……ノクト・サムスタンプ、少し気になるな。
3:状況が落ち着いたら新宿の兵隊(機動隊員)の余りをこっちに呼んでみるのもアリだが、さて。
[備考]
※宝具を使用し、相当数の民間人を兵隊に変えています。
※OP後、本編開始前の間に、新宿警察署に集まっていた機動隊員たちを催眠下に捉えていました。
※自身が2回目の参加であること、前回のマスターがノクト・サムスタンプであることを知りました。
※状況が状況なのでホテルに留まることを選びました。新宿の機動隊員たちは、数こそ減ったものの幾らか生き残りがいるようです。
【華村悠灯】
[状態]:人狼化。心臓喪失。永久機関・生死流転(同化完了)、生への渇望
[令呪]:喪失
[装備]:精霊の指輪(シッティング・ブルの呪術器具)、『時計じかけの方舟機構(Perpetuial motion Machine-Mark-Ⅲ(ver:3.3333333333333...))』
[道具]:なし
[所持金]:ささやか。現金はあまりない。
[思考・状況]
基本方針:大人になる。
0:生きる。好きなように、赴くままに。
1:取り急ぎ、ナインと行動を共にする。山越のことは変わらず信用してないが、その目的は利用したい。
2:……ありがとな、キャスター。
3:狩魔さん、ゲンジ――死んじまったのか。
4:あの刺青野郎ってば最悪!!
5:ナイン……お前さ、その……かわいいな……耳とか触っても良――いや待て何言ってんだアタシは!(うがーっ)
[備考]
神寂縁(高浜総合病院院長 高浜公示)、および蛇杖堂寂句は、それぞれある程度彼女の情報を得ているようです。
華村悠灯の肉体は、普通の意味では既に死亡しています。
ただし土壇場で己の真の魔術の才能に目覚めたことで、自分の魂を死体に留め、死体を動かしている状態です。
いわゆる「生ける屍」となります。
強いて分類するなら死霊魔術の系統の才能であり、彼女の魔術の本質は「死を誤魔化す」「生にしがみつく」ものでした。
自覚できていた痛覚鈍麻や身体強化はその副次的な効果に過ぎません。
この状態の彼女の耐久性や、魔力消費などについては、次以降の書き手にお任せします。
→魔力消費の影響をある程度無視できるようです。ただしあくまで誤魔化しているだけなので、度が過ぎると多分死にます。
→華村家の魔術は『死狼魔術』です。
狼信仰をベースとし、死霊魔術や獣性魔術、死徒の細胞などを取り込んで作り上げた継ぎ接ぎのパッチワーク。
覚醒した華村の魔術師は擬似的に人狼化し、超人的な身体能力と再生能力を得ます。
ただし、あくまでも死を誤魔化し、蓋をして無理やりねじ伏せているだけに過ぎません。華村の魔術は失敗作です。
→神寂祓葉から永久機関を手渡され同化中です。
華村悠灯は適応条件を満たさず体内から自壊していますが、死狼魔術により無理やり適応しようとしています。
彼女の永久機関はオルフィレウスの開発していた新たな試作品であり、神寂祓葉に埋め込まれた物とは仕様が異なる可能性があります。
→永久機関への適応を完了しました。
『時計じかけの方舟機構(Perpetuial motion Machine-Mark-Ⅲ(ver:3.3333333333333...))』には自我を無限時計文明の基準に合うよう矯正する機能が搭載されています。
試作品なので働きはまだ限定的ですが、悠灯の意思が弱まれば侵食が進行するでしょう。
また永久機関の影響で、サーヴァント不在のペナルティを無視できます。
【ライダー(ハリー・フーディーニ)】
[状態]:第二生(ツー)、令呪『私が令呪で許可するまで、第一生の棺を開けることを禁ずる』
二生→健康
三生→健康
五生→健康
九生→疲労(小)
[装備]:九つの棺
[道具]:
[所持金]:潤沢(ハリーのものはハリーのもの、そうでしょう?)
[思考・状況]
基本方針:山越風夏の助手をしつつ、彼女の行先を観察する。
0:華村悠灯に同行する。何考えてんだあのバカハリーは。
1:当面は悠灯に従うつもり。
2:神寂祓葉は凄まじい。……なるほど、彼女(ぼく)がああなるわけだ。
[備考]
準備の時間さえあれば、人払いの結界と同等の効果を、魔力を一切使わずに発揮できます。
宝具『棺からの脱出』を使って第三生のハリー・フーディーニと入れ替わりました。
第二生のハリー・フーディーニ:
生前の名は「山越風奇(やまごえ・ふうき)」
一度目の聖杯戦争に"参加しなかった"山越風夏の前世。
"脱出"の起源覚醒者。魔術的な能力を持たぬ代わりに、超抜の技巧と体幹を備える。
第三生のハリー・フーディーニ:
生前の名は「蛇杖堂寂尊(じゃじょうどう・じゃくそん)」、かの蛇杖堂寂句の2人で1人前の「共同後継者の片割れ」です。
蛇杖堂寂句の医術と体術を継いでおり、治癒魔術や治療薬の知識もありますが、治癒魔術の実践はできません。
寂句に自尊心をズタズタにされており、己の能力を過小評価する傾向がありますが、外科医としての腕と格闘術は超一級です。
第五生のハリー・フーディーニ:
神聖アーリア主義第三帝国陸軍所属。第四次世界大戦を生き延びて大往生した老人。
スラッグ弾専用のショットガンを使う。戦闘能力が高い。
ヴァルハラの神々に追われている妄想を常に抱いており話が通じない。
雪村鉄志、琴峯ナシロ、高乃河二、赤坂亜切の現在の動向について聞きました。
[全体備考]
※渋谷東部の一定割合が、固有結界『水子界・支配の蛇』によって取り込まれました。
※内部は『月光夢幻神界』の性質を維持したまま、蛇の固有結界の法則を帯びています。
※外から入ることは可能ですが、中から出ることは不可能に近いようです。
※固有結界『水子界・支配の蛇』の外縁を囲うように月光夢幻神界のFW(ファイアウォール)が展開されました。
※原則、堕落恒星の術者である〈スターゲイザーⅠ(天枷仁杜)〉の撃破なくして突破不能の絶対防壁であり、水子界の侵食を食い止めると同時に外側からの侵入をも阻んでいます。
前の話(時系列順)
次の話(時系列順)
最終更新:2026年05月08日 00:51