祈りを捧げて、十字を切る。
幼い頃から、何があっても欠かさなかった習慣。
習慣は人を作る。早寝早起き然り、朝昼晩の食事然り。
変わらない何かを自分の中に用意するというのはすなわち心に柱を作るということだ。
ひどく不確かで、ちょっとした風が吹けば傾いでしまうような脆い心。人間の心を支える、柱。
ほんの些細な偶然で、ほんのわずかな歯車の掛け違えで、何もかもが簡単に壊れてしまうこんな世界だからこそ。
だからこそ、自分の中に据え置く柱だけは不変にしておくべきだ。
それが、
琴峯ナシロ――琴峯教会の一人娘にして忘れ形見でもある少女の人生観だった。
時刻は朝の五時。
未だ日の光も昇らない時間に、無人の礼拝堂で十字を切る。
別に決まった場所である必要はない。
一応は両親の仕事を引き継いでいる身だからこうしているというだけで、重要なのはあくまで後者。十字を切る、というその動作だ。
「よし」
小さく呟くその声は、十七歳の少女とは思えないほど凛とよく通る。
質実剛健。そんな人柄の垣間見える、教会という清らかな場所に相応しい声音。
ナシロの身の上を思えば、彼女がこうも立派に育ってきたことは立派としか言い様がなかった。
彼女が天涯孤独となったのは今から二年前のことだ。
それから今まで、ナシロは誰かの手を借りることこそあれど、一度も道を外れることなく真っ当に生きている。
両親の遺した教会が今もこうして存続していることさえ彼女の勤勉さと責任感の賜物だ。
そうでなければ半世紀以上に渡り街の皆から愛されたこの琴峯教会は、今頃影も形もなくなっていたかもしれない。
ナシロは教会を継いで管理している身だが、実のところキリスト教にそこまで強く懸想しているわけではなかった。
神の在不在、信仰することによってもたらされる恩恵の有無。
そんなもの、ナシロはいい意味でも悪い意味でも話半分くらいにしか信じていない。
かと言って、もういない父母への義理立てのためだけにこうして琴峯教会を守っているのかと言われればそれもまた否だ。
ナシロは信者と不信心者の中間のような人間であるが、それでも彼女なりに意思を持って、今の生活を送っている。
「神さま。あんたが実際のところ"どう"なのかは、私には正直とんと分からんが」
宗教とは、道を違えない限り人にとって明確な柱になってくれる存在だ。
心の拠り所になり、規範になり、生きる意味になる。
無論信じることに狂と妄を乗せればそれは宜しくないが、そうならない限り"信じる"ことはいつだとて人間の味方だ。
このすべてが不確かで、無情な世界の中で。
普遍の柱として聳え続けるその概念が、ナシロは嫌いではなかった。
自分自身、柱に身を委ねて生きている者として。
父が支え、母が寄り添ったこの教会を通じ、ひとりでも多くの心に少しでも〈救い〉らしいものを与えることができるのならば。
「今日も今日とて、あんたのできる範囲で世界に幸福のあらんことを願うよ。――Amen」
それはきっと、とっても素敵なことじゃないか。
故に今日も今日とて、ナシロは十字を切る。神に祈る。
自分ではなく誰かのため。自分のケツは自分で拭けるから、この十字架が示す救いはどこかの〈誰か〉へ。
喪失を越え、孤独に克ち、そうして今日の日を迎えたナシロは強い娘だった。
境遇に腐らず、怠惰に沈まず、自分の人生をまっすぐ保ちながら〈誰か〉の幸せに手を差し伸べる。
そういうことができる、亡き琴峯夫妻の自慢のひとり娘。
それが、
琴峯ナシロ。世界を信じず、神を疑い、されど人が人たることの尊さだけは疑わない女の子。
「……ん」
礼拝堂の、座席。
チャーチチェアの上に、かすかな輝きの反射を見咎めた。
誰かの忘れ物だろう。回収しておかねばな、と思って歩み寄り、手を伸ばして掴み取る。
懐中時計だった。やけに古びているが、時間はちゃんと刻んでいる。
ふと堂内の壁時計を見ると、ものの一秒も時刻がずれていない。
(こんなに古そうなのに、よく手入れされてるんだな……)
さぞや思い入れのある品物に違いない。
願わくば、ここに置き忘れたことに気付いてくれるといいのだが。
そんなことを考え、懐中時計を懐にしまったその瞬間。
「――、……?」
琴峯ナシロの視界は突如として、ひどい目眩によって回転し、程なく暗転。
琴峯教会のうら若き主は自分の身を襲う事態の仔細も理解する暇なく、意識を闇に沈めてしまうのだった。
◇◇
脳内に情報の洪水がなだれ込んでくる。
こめかみを押さえながら目を開くと、そこは変わらず見慣れた礼拝堂だった。
時刻も先ほどまでと完全に同刻を示している。
何もかもが、不変。なのに頭の中は、明確に〈さっき〉と〈今〉が別物であると告げていた。
「なん、だ……? これ、は……」
これを神の試練だなどと思えるほど、ナシロは信心というものに傾倒していない。
怪訝な顔で懐中時計を見つめ、それから顔をあげる。
すると本来なら自分が立っているべき場所に、見知らぬ"モノ"が立っているのを認識した。
ちいさな、おそらくは小学生――大目に見ても中学生くらいであろう少女だった。
長い黒髪はベンタブラックを思わす漆黒を湛え、なのに肌は対照的にひどく白い。
やけに薄汚れた白い外套は見ていて不安になる。顔は、どう贔屓目に言っても美少女と形容できる。
だが彼女の容姿を語る上で重要なのは絶対にそこではない。
そこではなく、その小さなシルエットの背中から生えている、人間には決して存在しないはずの部位だ。
少女には、羽が生えていた。
天使の羽でも、鳥の羽でもない。
透明で、かすかに油膜めいた色を湛えた楕円の羽。
"翼"ではなく"羽"と形容するのが正しいだろう、それは。
不快害虫の代名詞であるところの、蝿のそれによく似ていた。
誰だ、こいつは。
いや、違う。知っている。
知っているのだ、知らないはずなのに。
間違いなく初めて会う得体の知れない相手であるはずなのに、脳内に無理やり押し込められた情報が彼女が自分にとっての何なのかを伝えてくる。
サーヴァント。
マスターたる己が召喚した、人類史の影法師。
聖杯戦争を共に戦う相棒。運命を共に歩む片割れ。
〈針音仮想都市〉にて、唯一信じることの許される――
「可哀想に。そんなに幼いのに、もうひとりぼっちになってしまったんですね」
嗤うような声を、あげて。
事実少女は、"にたぁ"と口元を歪めた。
邪悪。そう断言することのできる、醜穢な笑み。
人間などではありえない、あるはずもないその顔は、まるで。
まるで、そう。ナシロの宗教にて神敵人敵の代表として語られる〈奴ら〉のよう。
〈悪魔〉の、ようで。
悪魔。蝿。悪意。
三種の要素が、ナシロの脳裏で像を結んでいく。
いや、そんな行程などなくとも構わない。
悪魔で、蝿の特徴を持つ――この時点で思いつく名など、ひとつを除いてありはしないのだから。
「あなたはなんにも悪くなんてないのに。
ある日突然、冗談みたいにあっけなく家族を奪われて。
ひとりぼっち、ひとりぼっちひとりぼっちひとりぼっち!
ああ、なんて可哀想なのでしょう! 同情します、このわたしが。
あなたには、〈可哀想な子〉として生きる権利がある!」
ギリッ、という音がした。
ナシロの拳が立てた音だ。
骨が軋んだのか、それとも爪が皮膚を破ったのか。
両方である。ナシロはこの時、完全に両親との死別を乗り越えていたが。
だとしても――
赤の他人以下の相手に、それを揶揄されて腹が立たないほどナシロは聖人ではない。
だが、そんなナシロの言葉を待たずして。〈蝿の悪魔〉たる少女は、手を差し伸べながら言った。
「わたしが力を貸してあげましょう。可哀想なナシロさん」
それはまるで、救世主がそうするように。
神父が、信者に対してそうするように。
だがそれにしてはあまりに胡散臭い、破滅の香りを漂わせていた。
「わたしの手を取りなさい。そうすればあなたは必ずや聖杯に、願いの頂にたどり着けるでしょう。
両親を取り戻す? 孤独の身になった自分に好き勝手な言葉を投げてきた奴らを殺す? ああそれとも巨万の富でイージーモード?
いいでしょう、いいでしょう! 未来はすべてがあなたのもの。わたしはナシロさんの幸せを、どんな形であれ祝福します!」
「……おまえ、喧嘩売ってるのか」
「喧嘩? よしてください、そんな野蛮な。わたしは平和主義者ですよ、とても素朴で善良な――」
「抜かせ。"その羽"で善良を謳う奴に、善玉なんているとは思えん」
睨み付けるナシロに、少女は笑みを深める。
彼女はサーヴァント。幸運/不運にも、懐中時計を手にしてしまったナシロを祝福するモノ。
悪意で人に近づくモノ。双翅持って跳梁する、人類と、そして神の大敵。
「――なあ、糞山の王。今すぐこの礼拝堂から出ろ。ここはおまえみたいな汚物が穢していい場所じゃないんだよ」
「……くふっ。くふ、くふふふ、うふふふふ! さすが、さすがさすが! ご両親の教育はしっかりと行き届いているようで!」
両手を広げて、少女が嗤う。
喝采。あるいは、掛け値なしの嘲笑。
悪魔らしく、どこまでもそれらしく。
嗤いながら、少女はその名を告げた。
世界への。聖なるものへの冒涜たる、その名を!
「ええ、いかにも――わたしこそが蝿の王(ベルゼブブ)!
悪魔の中の悪魔、糞山の王、神の大敵、魔界の大君主!
此度はアサシンのクラスを背負い罷り越しました、魔王〈ベルゼブブ〉ですとも……!」
ベルゼブブ、と、いう。
ナシロの前で高らかに名乗りを上げた少女は、ベルゼブブは、白い歯を見せて笑った。
清廉とは妖艶と紙一重。悪魔はいつだって最初、魅惑的な姿とかたちを取って顕れる。
言わずもがな。教会という聖なる場所には、この上なく相応しからざる存在である。
「けれどそんなに邪険にされたらわたしも傷付いてしまいます。
わたしはこう見えて、善意で此処に立っているのですよ?」
「悪魔が何をほざいてる」
「最終的に破滅しなければいいだけの話じゃないですか。
わたしと契約して勝利を収め、最後に聖杯を掴んで失くしたものを取り戻せさえすれば――!
後はあなたはすべて忘れて、都合よく前だけ向いて生きていけばいい。
そう悪い契約(はなし)ではないと思うのですけどね?」
「もう一度言うぞ、今すぐ消えろ」
ナシロは、既に過去の悲劇を乗り越えている。
思い出して枕を濡らすなんてこともなければ、あの日をやり直せたら、と思うこともない。
だから当然、聖杯戦争などという明らかに"まともではない"儀式に加担して過去を覆したいとも思わなかった。
ましてや甘言の主が悪魔の中の悪魔というなら尚更だ。
悪魔との契約。それはあらゆる物語において語られる、〈破滅〉の代名詞である。
詐欺然り、怪しい懸賞然り、異常に高額なアルバイト然り。
世の中、うまい話なんてそうそうないのだ。
「寂しいでしょう。こんなに広い教会にひとりきり。
あなたをほんとうの意味で助ける人間は、この世界のどこにもいない」
蝿の王は、囀るように笑って言う。
この世の誰とも血の繋がっていない、天涯孤独の身。
自分が頑張らなければ何も成し遂げられない、誰の助けも借りられない生い立ち。
不安に感じたことがない筈がない。そんな心の隙間、わずかな弱さに悪魔は語りかける。悪魔はそれを、見逃さない。
「そんなあなたを、引き上げてあげようというのです。
笑顔に溢れていたあの日々に。誰かに任せるということができた、愛されていたあの頃に。
さあ、わたしの手を取りましょう?
琴峯ナシロさん。神など信じてもいないあなたに、その修道服は似合いません」
琴峯ナシロは、神を信じていない。
半信半疑というやつだ。少なくとも主が起こした奇蹟だとか死後の福音だとか、そういうものは眉唾だろうと思っていた。
だからベルゼブブの言葉は、間違っているというわけでもないのだ。
そんな不信心者が修道服なんて着て、義務感だけで教会を切り盛りしているなど不自然も良いところ。
悪魔の手を取り、神への懐疑と不信を胸に道を踏み外したとしても決して不思議ではない筈。
故にこそ、か。ナシロの答えは、もう決まっていた。
「……本当に、母さん達を生き返らせられるのか?」
「ええ。聖杯さえ手に入るなら」
「後で梯子を外すとか、そういうオチはないんだな?」
「誓って。あなたが自ら足を踏み外さなければ、ですが」
「そっか。じゃあ、わかったよ」
席を立ち、蝿の王たる少女の前へと立つ。
そして、差し伸べられたちいさな手に自らのそれを伸ばして。
微笑む、うつくしい、本当にうつくしい悪魔に向けて――
「先に言った通りだ、全部要らん。地獄へ帰れ」
「きゃ、う……ッ!?」
美味しい話を突き返す言葉と共に、拳を振るった。
少女の顔面に打ち込まれた拳の一撃。
本来なら、一般人が呼び出された英霊、ましてや悪魔を傷付けるなど不可能なのだが――
ナシロに殴り飛ばされたベルゼブブの鼻からは、つうっと一筋の朱が垂れていた。
「……げほっ、ごほっ。ふ、ふふっ。ずいぶん乱暴なのですね?」
「言って分からんセールスには、最悪実力行使もやむなしだ」
ナシロは今、自分の身体に明確な違和感を感じていた。
何か、今までにはなかった線(ライン)が一本通っているのを感じる。
これすなわち、〈古びた懐中時計〉が後天的に植え付けた魔術回路の発露であった。
今や彼女はただの人間に非ず。単なる置物の聖職者に非ず。
その身体には魔力が常に循環(めぐ)り、あまつさえそれを拳から発散して実体を持たないモノを殴り飛ばすことさえできる。
「愚かな。わたしに勝てるとでも思っているのですか。
悪魔の中の悪魔たる、この〈蝿の王〉に……!」
「それなんだがな。私なりにさ、一応いろいろと考えてみたんだが……」
だが、だが。
それでも相手は〈蝿の王〉。
悪魔という概念において、間違いなく最上に近いであろう存在。ベルゼブブである。
付け焼き刃で魔術を覚えたようなナシロでは、どう間違っても太刀打ちできないだろう。
されど、それも。
「おまえ、本当にベルゼブブか?」
「は?」
――相手が本当に、本物の、地獄の大君主であったならの話。
ナシロには、どうにもそうとは思えなかった。
だからこそ一発目、いけ好かないから殴り飛ばすなんて行動に出ることもできたのだ。
そしてそれは確信に変わった。
理由はいくつかあるが、少なくとも自分如きの拳をまんまと受けて鼻血を垂らしている目の前の自称悪魔の姿も根拠としては十分だろう。
「私もそこまで詳しくはないけどな、悪魔ってのはもうちょっと上手く誘ってくるもんじゃないのか。
おまえのはなんていうか……、そうだな、雑だった。雑に相手の過去で揺さぶれば行けるって考えが見え透いてんだよ。
正直、それこそそこらで勧誘やってるセールスマンと何ら大差ない。第一正体明かすのも早すぎるだろ、最初はもうちょっと別なガワとか使って揺さぶれよ。それこそ母さんや父さんの姿に化けるとか、いろいろあるだろ」
「な、なな、ななな……」
わなわなと震える、ベルゼブブ。もといベルゼブブ(自称)。
真っ白な顔面がかっと紅潮する。
人間が知恵で悪魔をやり込めるのも寓話の定番だが、ちょっと言い返されただけで顔を真っ赤にしてたら悪魔は務まらないだろう。
もうナシロは目の前の自称悪魔のことを、欠片たりとも怖いと思えなかった。
「それとだ。マスターって奴は、自分の契約してるサーヴァントのステータスってのが見えるらしいな」
その通りだ。
事実ナシロの目には今も、眼前の彼女の力量がデータ化されて写っている。
それを踏まえた上で、根拠のふたつ目。
「――おまえ、ベルゼブブにしては弱すぎるだろ。筋力Eに耐久Eて。鼻くそじゃないか」
そう、そのステータスである。
筋力E、耐久E。敏捷Cに幸運C。一応魔力はAで宝具はEXだが、それにしたって地獄の大君主様がこれとはずいぶん謙虚な数値ではないか。
「聖書だの神話だのの記述なんて当てにならないのは分かるが、おまえの下手くそすぎる勧誘も合わさって確信が持てたよ。
おまえは少なくとも、どう見たってベルゼブブなんかじゃない。そんな有様で〈神の大敵〉が務まるかよ」
「ち、ちが……! 悪魔っていうのは戦うだけが本分ってわけじゃなくてっ」
「それにしたっておまえとセットで語られるサタンが哀れだろ。あとおまえ、一応実力じゃサタンを超えてる設定らしいぞ。どうでもいいが」
「~~~~~~っ!!!」
おまけに舌戦もこの弱さと来たら、もう言い逃れはできないだろう。
とにかく方針は決まった。こいつの言うことには従わない。
これならまだ、本物の悪魔の言うことを聞いた方がマシだ。
聖杯云々に興味はないが、それでもチープな詐欺師に嵌められて地獄まで真っ逆さまは御免被る。
「……黙って聞いてれば好き放題、言ってくれるじゃないですか……!」
もうロールプレイも脱ぎ捨てて、自称悪魔の少女は青筋を立てた。
その上で、取られることのなかった右手に魔力を横溢させる。
そこに宿るのは、まさに悪魔らしい、禍々しい色彩の魔力光。
完全に舐め腐っていたナシロも、これには兜の緒を締め直すしかない。
理解ったからだ。これに直撃すれば、確実に自分ひとりくらいこの世から跡形も残らず消滅すると。
「ならお話のターンはここまでです。実力で言うことを聞かせることにしますとも、ええ!」
「……やってみろよ」
――呼吸を、整える。
体内を巡る魔力の経路。
それを意識的に頭の中へ描いて、集中を高める。
幼い日の、夢とも現実ともつかない記憶がある。
なにかとても、とても怖い夢を見ていた日。
目を覚ますとそこは礼拝堂で、自分はぺたりとへたり込んで座っていて。
そんな自分の前に、父が立っていた。
いつもはとても優しくて、母にうだつの上がらないそんな男だというのに。
その日の父の背中はなぜかとても、とても大きく見えて。
そしてその両手には、何本もの"剣"が握られていた。
――今なら分かる。あれは剣じゃない、鍵だったんだ。
結局この記憶が何なのかは今でも分からない。
分からないが、ナシロの中での"強さ"のイメージはすなわちそれだった。
鍵。黒く、鋭く、凛と、聖なるものへ仇なす敵を罰する無数の刃。
黒き、鍵――そう。
「おまえの言う通り、ちっぽけで孤独なただのガキだがな。
この魂も、この〈柱〉も、ぽっと出の人外なんぞに譲り渡してやるつもりはないぞ……!」
――〈黒鍵〉。
記憶の奥から武器を引き出して、現実に投影するというその行為が。
一体いかなる意味と価値を持つのかなど、
琴峯ナシロに知る由はなかったが。
だとしてもこの瞬間、ナシロは自分の原風景と戦うかたちを掴んだのだ。
「来い、紛い物……!」
「お互い様でしょう、人間風情が……!」
蝿の少女の細腕に渦巻いた魔力光が、砲弾と化して放たれる。
あれの威力が絶大なのは分かる。だが分かったからと言って負けはしない。
魔力を流し込んで膨張させた黒鍵の断刃(オーバーエッジ)を盾代わりに構えながら、前へ踏み出すナシロ。
光は少女の手を離れ、空を走り、そして――
「…………、…………」
「…………、…………」
ナシロの真横を、ものの見事にすっぽ抜けて。
礼拝堂の扉を、結構な轟音と共にぶち壊した。
それだけに、終わった。
「…………」
「…………、えぇっ、とぉ……」
もじもじ、と。
恥ずかしそうに指をくねくねさせて、撚り合わせて。
なんだかものすごく恥ずかしそうに、少女は言うのだった。
「……テイク2、いいです?」
「偽物の上にクソエイムなのかよおまえはーッ!?」
「ひぎゃ――――ん!!!!」
その横っ面に鉄拳制裁を打ち込むナシロ。
ひゅーん、と少女は真後ろに吹っ飛んでいって。
それでナシロはようやく、本当にようやく理解した。
こいつは悪魔なんかじゃない。うん、絶対に違う。
――こいつたぶん、ものすごいぽんこつのアホなんだ。
そんな認識を、目を回して伸びてる蝿娘を見ながらため息と共に抱く、ナシロなのだった。
◇◇
「〈Tachinidae〉?」
「えと、はい……。あ、日本語では一応〈ヤドリバエ〉とか呼んだりしますぅ……」
琴峯教会から所変わって、琴峯邸にて。
ちゃぶ台の向かい側で、ベルゼブブを名乗った少女はしょぼくれて座っていた。
いよいよロールプレイの続行は無理だと悟ったのか、もう自分が偽物であることを隠そうともしていない。
それどころか、彼女がマスターであるところのナシロに打ち明けた真名。
それはベルゼブブはおろか悪魔でさえない、まったくの予想外のものだった。
「……知らんな。なんだ、おまえ悪魔とかじゃなくて本物の蝿なのか?」
「はい……。あ、えぇっと――アレです、アレ。
飼ってた青虫とか芋虫がさなぎになったと思ったら、なぜかちょうちょじゃなくてちっちゃい蝿が出てきたー……って経験ありません?」
「…………、ある。いや、あるぞソレ。教会の薔薇についてた奴を育てたら、なんかキモい蝿が出てきたことある」
「き、キモいなんてひどい……! わたしたちだって生きてるんですよ、ちゃんと……!」
「――え。おまえマジでそんなんなのか? 英霊の座ってザルなのか? そんなコバエで英霊になれるなら、もう誰でも行けるだろ」
〈Tachinidae〉。
和名で言うところのヤドリバエ。
いわゆる寄生虫、寄生蝿のたぐいである。
ナシロの疑問ももっともだ。ただの昆虫が英霊になれるのなら、英霊の座はとっくにパンクしているだろう。
だがその疑問に対し、少女は講釈するように指を一本立てて答えた。
「マスター……ナシロさんは、ベルゼブブなんてものが本当に聖杯戦争に呼べると思いますか?」
「……呼べないのか?」
「無理です。絶対ムリ。仮にどうにか無茶を通して呼び出せたとして、本物の蝿王様なんて誰にも制御できるものじゃありません。
ズルをしなきゃ呼び出せない上に、呼び出す旨味も特にないんです」
「まあ、分からんでもないが……それとコバエのおまえが出張ってきたことのどこに関係があるんだよ」
「わかりませんか? 〈蝿〉ですよ? 蝿王様の異名はなんでした?」
「……いや待て。マジでそんなこじつけみたいな理由で英霊になってるのかおまえは?」
ベルゼブブなんて呼び出せないし、呼び出すものじゃない。
それは素人に毛が生えた程度なナシロでも確かに頷ける理屈ではあった。
だがその先の理屈ははっきり言って眉唾としか思えない。
そんな馬鹿みたいな理由で"代わり"が決まるなんて、いくら何でもザルすぎるだろう。
「意外と世論に依るんですよ、サーヴァントって。例えば、すごく偉大でかっこいい英雄さまがいたとしますよ。
その人は生前、華々しい戦果を上げまくって民からもすごく愛されました。
けれど後世に残された歴史書や風聞では、その人の負の側面が極端にクローズアップされて、極悪人みたいに伝えられました。
そうやって大勢が"そのイメージ"を共有して、この人はこういう奴なんだ、って思い続けると――座から出てくる英霊にも影響が出る場合がしばしばあるんです」
「……ああ。ヴラド三世とかあの辺りか」
「ひっどいことになっててもおかしくないですね。血ちゅっちゅ魔人が爆誕してても不思議ではないでしょう。
……で、わたしは〈蝿王様〉から紐付けられた〈蝿〉に対する不浄と冒涜のイメージでこんなんなっちゃった一例です。
一応同僚もいるんですよ? ニクバエお姉ちゃんとか、イエバエお兄ちゃんとか……」
「やだな、そんなに蝿がブンブン飛んでる英霊の座……」
――無辜の怪物、という概念が存在する。
イメージにより過去やその在り方を捻じ曲げられ、不可逆の変質を受けてしまった怪物。
本人の意思にもその真実にも関係なく、ただ風評によって真相を捻じ曲げられたものたち。
〈Tachinidae〉も、それの一例だ。
蝿の王ベルゼブブのイメージに引きずられて変質した昆虫の一種。
予期せずしてかたちと汚名と、ベルゼブブの名を賜ってしまった羽虫。
「それにわたし、これでも割と英霊適性はある方なんですよ? 流石に蝿王様パワーがないと登録まではムリですけど」
「なんでだよ」
「わたしたち寄生蝿がいなくなったら、世界中の生態系とか農業とか、どうなると思います?
わたしってこう見えても、だいぶ人類の皆々様に貢献してるんです。人類の味方で、〈昆虫の殺戮者(インセクト・マーダー)〉なんですよ」
Tachinidae、ヤドリバエは多ければひとつの種の個体群の四割以上に寄生し、これを殺害する。
言うなれば彼女たちは人間よりもずっとちいさき者たちに対して働く〈抑止力〉なのだ。
霊長の殺人者ならぬ昆虫の殺戮者。インセクト・マーダー。
なるほど確かに、言われてみればだいぶ"人間寄り"の存在なのだとナシロも納得した。
彼女たちの存在で抑止されているぶんの虫たちがすべて野放しになったなら、人類はどうあっても無関係ではいられない。
「わかったらナシロさんもおとなしくわたしたちの働きに感謝して、このわたしを本物の蝿王様に押し上げるお手伝いをですね」
「断固として断る。何が悲しくてベルゼブブを一匹増やさないといけないんだ、おまえ私を誰だと思ってるんだよ」
「初対面の女の子にいきなり手をあげる乱暴者……」
「よし、ちょっと待ってろ。蚊の季節に備えて買っておいたアースジェットが確かあの棚に」
「わぎゃーっ! 冗談です冗談ですってば! いや今の身体ならそのくらいじゃ死なないですけどそれでもトラウマ的なサムシングがですね!?」
話を戻そう。
Tachinidae――もとい偽・ベルゼブブが語った"願い"。
それは、至極単純なもの。そして同時に、絶対に叶えさせるわけには行かないものであった。
「……ていうかおまえ、なんだって蝿の王なんかになりたいんだよ。
そんな肩書きがなくたっておまえらの種は安泰なんだろ? 理由が分からん」
「はぁ、はぁ……ふん。当たり前じゃないですか、わたしたちにとって蝿王さまは永遠の憧れなんですよ!
強くてかっこよくてずる賢くて、ハエ叩きでぺちんって潰されたくらいじゃ絶対死なない悪魔の中の悪魔!
はああああ……。考えただけでうっとりしちゃいます。まあ会ったことはないんですけどね」
「おまえって本当になんていうか、しょうもないやつだよな」
「何をぉ!? ふん、人間様には所詮コバエの気持ちはわからないんですよ! 聖杯獲ったらぜっったい目に物見せてやるんですからっ」
「獲らせないから安心しろ」
――〈蝿の王〉になりたい。
それはつまり、本家本元のベルゼブブに並びたいという願い。
むろん、看過できるものではない。
本当にベルゼブブだなんて大悪魔が存在するのかどうかは知らないし興味もないが、万一にでも蝿王二号なんてものの誕生を許せば、一体どれほどの不幸が生まれるのか想像するだけで気が遠くなる。
ナシロは神についてはずっと半信半疑だ。
だが、神が見守っているらしいヒトの営みについては尊いものだと思っている。
だからナシロは、両親のいない琴峯教会をひとりで維持し続けているのだ。そういう道を、選んだのだ。
せめて少しでも、ひとりでも多くの人間がこの教会を柱とし、強く明るく生きていけるように。
そんな考え方をする少女が、悪魔の誕生などという願いを許せるわけもない。
「言っとくが、何かちょっとでも妙な真似をしたら容赦なく令呪を切るぞ。私はそもそも聖杯なんてどうでもいいんだ」
「ぬぐぐ……。……ていうかおかしいのはナシロさんの方です。聖杯を手に入れなきゃ死んじゃうんですよ? 分かってるんです?」
「死にたくはないしそれなりには足掻くさ。だが、好き好んで他人を殺し回ってまで生き残ろうとも思えん。
聖杯の獲得とかは論外だ。尊く思ってる大事なものを、血まみれの汚れた手で拾い上げてどうするんだよ」
「ああ言えばこう言う」
「それはおまえな」
故に、彼女の願いは認めない。
ヤドリバエの夢はここで潰えてもらう。
ただし、かと言って彼女に早々死なれては困る。
先も言ったが、聖杯を求めないとはいえ無為に死ぬつもりもないのだ。
令呪を首輪代わりにして、体のいい護身の手段として利用する。
それが
琴峯ナシロの見出した、英霊もどきのベルゼブブへの"向き合い方"だった。
「……まあ、とはいえ私も鬼じゃない。
おまえが何を考えてるにしろ、一方的に利用するだけなんて不誠実な関係性にするつもりはないよ。
それだと私の心に後味の悪いものが残るからな。人間関係……っていうのはおかしいが、何事も対等であるに越したことはないんだ」
「へ? ――で、ではでは! いったいどんな好条件がこのわたしに用意されているのでしょう! 触覚がぴくぴくしちゃいます!」
「うん、そうだな。私からおまえにくれてやる"見返り"は……」
琴峯ナシロは、きわめて実直な人間だ。
不実であることを嫌い、対等であることを好む。
誰も見下さない代わりに、誰にも見下されない。
等身大の正義感を胸に、常に〈正しいこと〉のできる少女。
何の因果か、あるいは必然か。
聖杯戦争という名の蠱毒に放り込まれた彼女であるが、しかしこの修羅場においても彼女は何も変えるつもりはなかった。
常に向き合う。目の前のすべてに。
たとえ分かり合えない相手であろうとも、最後の一線までは破りたくない。
それが人という生き物で、父母が自分に教えてくれた生き方の誠というものであろうから。
「その見るに堪えない考え方と戦い方を、みっちりたっぷり鍛えてやる」
「……ほへ?」
「だいたい何だあのクソエイムは。今日び小学生でももう少しまともな当て勘を持ってるぞ。
私のサーヴァントとして喚ばれたおまえがそんな体たらくでは私の、いや琴峯教会の沽券に関わるんだ。
私に喚ばれた以上、しっかりきっちり鍛え抜いた上で英霊の座に戻してやる」
「い、いやあの。蝿王様の力はわたし、もうばっちり持って」
「だからおまえ自身の問題について言ってるんだよ。飯を食ったら早速鍛錬だ。逃げられると思うなよ、即アースジェットを吹くからな」
「ひ……ひえぇええぇ~~~っ…………!?!?」
だから、こんなトンチキで冗談みたいなやつにでも。
その願いは叶えさせないとしても、一応はできる限りの向き合い方というのを見せてやろうと。ナシロは、そう思っていた。
このやり取りの後、さめざめと泣く彼女にお出しされた卵かけご飯と昨日のあまりの肉じゃが。
それを食べた彼女が踊り出しそうなくらいの有頂天になった後(ヤドリバエは、卵かけご飯や肉じゃがを食べないから)、地獄みたいなスパルタ鍛錬でしなびたバナナの皮みたいになったのは、また別の話である。
【クラス】
アサシン
【真名】
ベルゼブブ(Tachinidae)
【属性】
混沌・中庸
【ステータス】
筋力E 耐久E 敏捷C 魔力A 幸運C 宝具EX
【クラススキル】
気配遮断:A
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
完全に気配を絶てば探知能力に優れたサーヴァントでも発見することは非常に難しい。
ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。
【保有スキル】
無辜の怪物:EX
生前の行いからのイメージによって、後に過去や在り方を捻じ曲げられ能力・姿が変貌してしまった怪物。
生前の意思や姿、本人の意思に関係なく、風評によって真相を捻じ曲げられたものの深度を指す。このスキルを外すことは出来ない。
大悪魔と紐付けられてしまった羽虫。理屈を無視して悪魔らしい力を得、その代償に聖なるものに不利がつく。洗礼詠唱もよく効くぞ。
魔王(偽):B
魔を統べるもの、糞山の王。あるいは病床の子が見る幻。
存在するだけで周りに威圧と恐怖を与え、同ランク以下の使い魔や悪霊に対してバッドステータスを付与する。
アサシンの場合は偽物なので見抜かれると効果が消える。
産卵行動:B+
他生命体に対する接触を通じ、その体内に卵を植え付ける。
魔力消費も隙も大きいが、その分得られる戦果は絶大。対魔力を始めとするスキルで抵抗可能。
昆虫の殺戮者:A++
インセクト・マーダー。
鱗翅目を始めとする様々な種の昆虫に寄生し、多くの場合殺害して羽化する。
生態系の維持者。その性質上、一部昆虫に対してはこの上ない特攻を発揮する。
英霊の座にそんなに虫いないだろとか言ってはいけない。泣いちゃうからね。
【宝具】
『彼の王の顕現は、命羽ばたくその時に(Lord of the Flies)』
ランク:EX(D相当) 種別:対人宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:1
ランクEX。蝿王の称号を借りている事実だけで規格外の特異性を名乗っているが、実際のランクはD相当。
宿り蝿の名の通り、このベルゼブブは命に宿る。命を食い、魂を食って成長し、羽ばたきの時をもって蝿の王を体現する。
スキル「産卵行動」で産卵に成功した対象の体内で幼虫を孵化させ、ベルゼブブの眷属として体外に脱出させる。
体外脱出時のダメージは物理的にもたらされ、並のサーヴァントであれば現界を保てないほどの損害となる。
脱出後の眷属はベルゼブブに従う従順な子として使役されるが、サーヴァントと契約を結んでいる者への産卵はできない。サーヴァントとの契約ラインが抗体になってしまい、レジストされてしまう模様。
【Weapon】
蝿王様の力(偽物)
【設定・備考】
悪魔の中の悪魔、魔王の中の魔王、聖なる者達に対する最大の大敵。
蝿の王、糞山の王、邪教神、魔界の大君主――悪魔ベルゼブブ。
……ではない。
アサシンは『蝿の王』ベルゼブブという存在が独り歩きした結果、人々の恐れや偏見の感情を糧に生み出された実体のない虚構悪魔である。
そもそも本家本元の蝿王をサーヴァントとして召喚するなどどれほど零落させても不可能だし、ともすれば聖杯戦争の破綻にすら繋がりかねない。
要するにまったくのハリボテ、ベルゼブブのネームバリューが凄すぎた結果生まれたパブリックイメージの蝿の王、その一形態。
悪食者のニクバエお姉ちゃん(Sarcophagidae)、ウザさ全一のイエバエお兄ちゃん(Muscidae)に次ぐベルゼブブ界隈の三番手。
正しい真名は『Tachinidae』とするのが正しい。
日本名では『ヤドリバエ』と呼ぶ。「芋虫さんが赤ちゃんを生んだ」現象は半分くらいこいつの仕業。ハチは永遠のライバル。
俗に言う寄生蝿。チョウやガ、バッタやカマキリ、他にも多種多様な昆虫に寄生して体内を食い荒らし、体外に脱出する。
多ければ一つの種の四割以上に寄生し殺害する、霊長ならぬ昆虫の殺人者(インセクト・マーダー)。生態系と環境の維持者であり、従ってベルゼブブ界隈の中では比較的サーヴァント化の適性が高いし、人類に対して友好的。
無辜の怪物補正で高い魔力を持ち、実際それなりの威力の攻撃も放てる。ただし元が寄生だけしか能のないコバエなので戦闘センスが死ぬほどない。要するに力だけはあるがめちゃくちゃ弱い。
イメージとしては廃課金プレイヤーのデータで遊んでいる初心者、といった感じが近い。
【外見・性格】
白くて薄手の外套を纏った黒髪長髪の少女。華奢でちびっ子。背中からは双翅目に類する大きな羽が生えている。ちゃんと飛べる。
本当は気弱なくせして調子に乗って痛い目を見がち。天性のわからされ体質。
蝿王様ロールプレイも基本的にド下手なので、ちょっと本物についての知識がある人間にはあっさり偽物だと見抜かれてしまう。
【身長・体重】
138cm・25kg
【聖杯への願い】
本物の蝿王様になりたいですぅ……(*μ_μ)
【マスターへの態度】
よりによって聖職者(てんてき)に呼ばれてしまうなんて……とほほ……。
悪魔らしく誘惑しつつ、なんとか蝿王様への道を閉ざされないようにしたい。
マスター
【名前】
琴峯ナシロ/Kotomine Nashiro
【性別】女性
【年齢】17
【属性】秩序・善
【外見・性格】
黒髪短髪、修道服に身を包んだ少女。
自他共に認める堅物であり、自己評価と他己評価が"真面目"でおおむね一致している。
スパルタ思考なのでだらけた奴には容赦がない。きわめて真人間的な正義を胸に行動できる、気持ちのいい娘。
【身長・体重】
166cm・55kg
【魔術回路・特性】
質:D 量:D
特性:〈投影〉
【魔術・異能】
投影魔術。ただし投影できるのは現状、〈黒鍵〉のみに限られる。
投影はリスクとピーキーさの際立つ術理であるが、ナシロは分野の限定と記憶の無二さを寄る辺に黒鍵投影という一点においてのみ驚異的な完成度を発揮することができる。
【備考・設定】
都内某所、琴峯教会の管理者にして亡き琴峯夫妻の忘れ形見。
両親を失い、天涯孤独の身となりながらも悲劇を乗り越えたくましく生きている。
日課である朝の祈りの最中に〈古びた懐中時計〉を見つけ、仮想都市へと転移した。
【聖杯への願い】
聖杯に興味はないが、みすみす死んでやるつもりもない。
自分の生き方に背かないように、自分の中の柱に従って生きる。
【サーヴァントへの態度】
アホ。ぽんこつ。どうしようもないやつだと思っている。
ただこんな自分に喚ばれ使われる以上、無碍にしたくない気持ちもある。
たとえ相容れない存在だとしても対等に扱い、ある程度は報いてやりたい。
ただ蝿王二号の誕生は論外。叶えさせるつもりは毛頭ない。
最終更新:2024年06月12日 00:31