文禄元年、初夏。
 後の世に安土桃山と記されし、太閤豊臣氏が治めた時代である。
 この日、総州小金原の原野は連日の黴雨によって未だ湿り気こそ中空に漂えど、久方ぶりに天から降り注いだ陽射しによって、草木は珠玉を撒いたかの如く淡い光を反射していた。

 一点の雲も止めぬ蒼天の下、原野の中心にて対峙する男が二人。
 北側、どっしりと構えるように立つ大柄な男の名は小野善鬼。
 南側、ゆらりと漂うにように立つ細身の男の名は御子上典膳。
 どちらも腰に太刀を佩き、剣の道を志す侍であった。

「おう、これは早いな典膳」
「兄者こそ。やはり考えは同じであったか」

 早朝、快活に笑いながら挨拶を交わす両者の間には敵意も害意も、ほんの些細な反意の交錯すら発しない。
 それもその筈、彼らは同じ師の下、一刀流という剣の道を互いに切磋琢磨しながら歩んできた、師を除けば誰よりも信を置き合う無二の兄弟弟子なのだから。

「よせ、よせ、典膳。兄などと、今ばかりはそう呼ぶな、分かるだろう」
「……そうか、うむ、では、善鬼と」
「そうとも、そうでなくては、すっぱり斬れぬぞ、互いにな」

 その兄弟弟子の交わす朗らかな言の葉。平時の調子で進む朝の会話の終点に、どうしようもない流血の惨劇の待ち受けること。
 両者がしかと理解して尚、彼らはこの人気のない原野に、示し合わせることもなくやってきた。
 互いが互いを、敬愛する兄弟弟子を、もはや斬る他無しと覚悟を決めて。

 彼らが誰よりも愛する恩師は告げたのだ。「より強き者を後継者にする」と。
 一刀流相伝。最強と信奉する剣を、しかと継ぐ者こそ己である。
 その役を阻むものは誰であろうと斬る。そしてその役を担えぬ生に意味など無し。
 最も愛する師の剣を継ぐためならば、二番目に愛する兄弟弟子をも斬る、或いは斬られることすら厭わぬ。

 先日、後継を決める名目にて、師の前で披露した木刀による道場仕合い。
 その勝敗に意味が無いことは両者共に承知していた。本当にどちらが強いかを決めるならば。

「やはり之しかあるまいよ、そうであろう典膳」
「うむ、同感だ。師匠も人が悪い、いや、良いのか。妙な処で日和なさるものだ」

 両者同時、太刀の鞘を払い、後方に投げ捨てた。
 抜き身の真剣が朝日に照らされ、二尺六寸の刀身に互いの身体を映し出す。

「そんなところがあの方の可愛さではないか」
「然り、可愛く、そして美しい、分かっておるなあ、善鬼」
「うむ、やはり我らは気が合う、斬るには惜しい奴だて。さりとて、容赦はせんが」

 之より死合うは二人の侍。
 後の世に云う、小金原の決闘である。

「おお、そうだ善鬼、一つ決めておこうぞ。拙者が勝った暁にはお主の希望を継いで、師匠に一戦挑んでやる。代わりに拙者の希望も聞いておけ」
「良いとも、申してみよ」
「―――――」

 共に同じ流派を極めんと突き詰めた仲。取った構えは、やはり全くの同じであった。
 半身をやや低く落とし、刀身を相手の目頭に向け中段に構えた、一刀流清眼。

「承知した。では」
「応、いざ」
「尋常に」

 穏やかな空気から一転、彼らは当たり前のように滑らかに闘争へと移行した。
 急激に張り詰めた空気が極度の緊張を伴って、今正に割れんばかりに膨張し、臨界を迎えるその刹那。
 二人の間に割り込んだ、鈴の鳴るように澄んだ女の声。

「双方、止まれ―――!」

 それこそが皮肉にも、彼らの死合いの火蓋を切って落とす、開戦の号令となったのである。




 コチ、コチ、コチ。
 耳元で鳴る時計の音に、僅かな意識が浮上する。

 妙な夢を見た。
 まるで時代劇のような、二人の侍が決闘する夢。

 時代の雰囲気こそ古かったけど、映像は白黒じゃなくて鮮明なフルカラーだった。
 それに鉄と鉄のぶつかり合う鋭い音や飛散する血の匂いまで、ハッキリと感じ取れる程の濃密なリアリティ。
 呆気にとられるほど見事な剣戟と、彼らを止めようとして叶わなかった女性の悲痛な声とが、まだ目と耳に焼き付いている。

「なんだったんだ、アレ」

 呟いて目を開く。
 どうやら俺はベッドの上で眠っていたらしい。
 点けっぱなしの蛍光灯の光が網膜に染みたけど、数度瞬きを繰り返す内にボヤケた視界が鮮明に整ってきた。

 えっと、俺は、何をやってたんだっけ。
 聖杯戦争、マスターとサーヴァント、仮想都市東京、魔術師、令呪、それから、えっと……。
 記憶の引出しから物を引っ張り出すように、頭の中にある用語を片っ端から取り出してみる。
 聖杯によって頭の中に押し込められた知識、まるで伝奇のような設定の数々。
 決して一般常識とは言えないそれらの意味を理解している。俺は間違いなく、この聖杯戦争のマスターの一人だと自覚している。

 だけど、聖杯が采配する仮想世界の役割(ロール)。
 俺に与えられたそれが何だったか、どうしても思い出せず、いや待て、違う、それ以前の問題だぞこれは。
 そもそも、俺は―――

「俺はどうして、ここに居るんだ?」

 口にして、ようやく、俺は自分の置かれている奇異な状況を自覚した。

「俺は……誰だ?」

 わからない。何も、思い出せない。どいうことだ。
 あまりの事態に飛び起きるように身を起こし、周囲を見渡してもヒントになりそうな物は見当たらない。
 身体を横たえていた簡素なベッドと一般的な家電しか置かれていない、それは凡庸なワンルームマンションだった。
 カーテンの隙間から見える窓の外はどうやら夕方のようで、怪しいオレンジ色の光が一筋部屋に差し込んでいる。

 いったい何が起こっている。何なんだこの状況は。
 パニックになりそうな頭と早鐘を打つ心臓を抑えるように、胸元まで手を動かした時、俺はようやく気がついた。

 俺の両手にそれぞれ何かが握られている。
 右手には古びた懐中時計、左手にはボロボロにくたびれた長財布。

 コチ、コチ、コチ。
 懐中時計は時を刻み続けている。
 これが俺を仮想都市東京に連れてきた、切符になっていたことは知っている。
 なのにどうしても、初めて触れた時のことを思い出せない。

 コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ。
 時計の秒針は動き続けている。
 なぜだ、どうして思い出せない。
 俺は、ここに来る前の俺は―――

 コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ。
 秒針の動きに合わせて音が鳴り続けている。
 俺は、確か――――

 コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ
 時計の音が煩い。
 俺は、あの時――――――

 コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ。
 煩い、煩い、煩い。
 俺は―――

 コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ。

「痛―――ぐ―――――ァ――――!」

 明滅する視界の奥に何かが見えかけたその瞬間、脳裏で狂乱するように鳴り響く時計の音と、頭蓋の砕けるような激痛によって掴みかけたモノを取り落とした。
 駄目だ。考え続けることが出来ない。
 無理に思い出そうとすると、脳みそが自ら拒否するように内側から耐え難い激痛を発する。

 記憶について考えるのを止めた途端、嘘のように鳴り止む音と痛み。
 仕方がないので、代わりに左手に握るボロ財布の中身を確認する事にした。
 入っていた現金は2万3千円。
 キャッシュカードやクレジットカードは見当たらないので、これが俺の全財産ということになる。
 それともう一つ、情報になり得る物があるとすれば、

「ポイントカード、か」

 都内スーパーのポイントカード。記名欄には、『佐藤進(さとうすすむ)』と書かれてあった。
 当たり前だが、カードに写真は付いてないので、俺が佐藤進である証明にはならないし、そもそもこの財布が俺のものである保証もないのだが。
 なんにせよ現状、マトモな手がかりはこれしかない。

「やれやれ、なんだってこんな事に……」

 ベッドから降りて、のそのそと洗面所へと移動する。
 洗面台の鏡に映る俺の姿を見ても、まるでピンとこなかった。
 自分自身の姿を見て尚、他人のように実感が沸かない状況は相当重症だと思う。

 鏡のむこうには、中肉中背、あまり特徴の無い、おそらく十代後半と見られる男子高校生が立っていた。
 高校生と考えた理由は単純に、どこかの高校の制服を着ていたからだ。
 服の意匠に校名などは見当たらないし、やはり思い出せる気配もないが。

「うーん」

 分かっていることを整理しながら洋室に戻ろう。
 まず、ここは魔術師同士の殺し合い、聖杯戦争が開催されている仮想の東京で、俺は参戦したマスターの一人でありながら記憶喪失の憂き目にあっている。
 名前も年齢もハッキリしないし、使える魔術も分からない、そもそも俺は魔術師だったのかすら謎である。

「あ、そういえば」

 と、間抜けな俺が、それに気づいたのはちょうどドアを開き、元いた洋室に戻ってきた時だった。
 俺がマスターで在るならば、自然とこの場所にはもう一人、対になる者が居るはずで。

「え…………」

 部屋には先ほどまでは居なかったはずの、ナニカが立っていた。

「……………」

 幽霊が出た。
 最初にそれを見た時、俺はシンプルにそう思った。
 ボロボロの白い着物に身を包んだ何者か。
 異様なのはその死に装束のような和装ではなく、床について余りあるほどに長く伸ばされた黒髪だった。
 顔面をはじめ、全身をすっぽりと包むように垂れた髪のベールによって、表情どころか体つきすらハッキリと読み取れない。

 まるで天然の黒頭巾。和製ホラーから飛び出してきたかのような不気味な出で立ちに、言葉を失うこと数秒。
 俺はやっと状況を理解する。
 そう、俺がマスターであるならば、ここには従者が存在しているはずだ。

 即ちそれが目の前の彼……彼女……どっちだ?
 大量の髪の毛が織りなすベールと、前傾姿勢なせいでよけい体型が見えにくいけど、隠しきれない凹凸からして、おそらく―――




 1.男性だろうな

 2.女性だろうな





【2.女性だろうな】




 女性だろうな、これは。
 どことは言わなけど体つきの主張は激しめのようで、垂れ下がる黒髪のベールでもってもそれは誤魔化せていない。
 サラシでも巻いていれば完全に分からなかったかも知れないけど。

 とにかく目の前に立つ幽霊のような怪しげな女が、俺の召喚したサーヴァントらしい。
 ていうか、何かさっき、視界に変な文字が過ったような気がしたけど、気のせいだろうか。

 なんにせよ、さっそく交流してみよう。
 殺し合いを生き抜くために、パートナーを理解することは必要不可欠だと思う。
 それに彼女との交流を通じて、俺の記憶を取り戻す取っ掛かりが得られるかも知れない。
 勿論サーヴァントが会話の成り立つタイプであることが最低条件だけど、まあ流石に大丈夫だろう。
 聖杯からもたらされた前提知識によって、一般的な聖杯戦争のルールに関する情報は頭に入っている。
 ランクの高い狂化スキルを付与されたバーサーカーでも引き当てない限り、ひとまず日常会話を行う分には、

「菴輔◇?」

 え、聞き間違いだよな?

「雋エ讒倥?菴輔◇繧?シ溘??蜷阪r蜷堺ケ励l縲?撼遉シ縺ァ縺ゅk縺槫ー冗ォ・縺」

 ……マジかよ。

 おもいっきしバーサーカーじゃねえか。
 自分の置かれた状況の最悪さに目眩がする。

 狂化スキルAランクの狂戦士。それが俺の目に開示された従者のステータスだった。
 髪の幕に覆われた顔がどのような表情を浮かべているかまるで伺えないし、ムニャムニャとしたうわ言のような声は何を伝えたいのかサッパリ不明。
 どことなく機嫌が悪そうな響きを伴っているのが気になるけど、原因も分からないし不機嫌だって確証すらない。
 おおよそ、コミュニケーションが難解を極める相手であることは明らかだ。

 ていうかそもそも相手がバーサーカーなら交流すること自体がリスクじゃないのか?
 相手は理性の欠如した英霊、もし不興を買って暴れだしたら、こっちはひとたまりもないぞ。

 とはいえ記憶すら覚束ない俺に、他に選択肢があるわけもない。
 失った記憶を追おうにも、他のマスターと接触するにしても、自分のサーヴァントを理解できていなけりゃ話にならないだろう。

「やるしかない、か」

 腹を括って、この怪しげな幽霊女と交流する他ない。
 彼女には彼女なりに聖杯を求める理由がある筈だし、相互理解はどうしたって必要だ。


 よし、そのためにも、まずは――――






 1.自己紹介だろう

 2.ご挨拶だろう







【1.自己紹介だろう】



「俺の名前は、えーっと、佐藤進(仮)だ。よろしく、バーサーカー」

 結局のところ他にピンとくる名前も一切浮かばないので、暫定でさっきみたポイントカードの名前を名乗っておいた。
 頼りがいのあるマスターに感じられるよう、なるべく堂々と胸を張っておく。
 さて、反応はいかに、と髪のベール越しにバーサーカーの顔の辺り見つめた。

「辟。遉シ縺ェ」

 やはり何を言っているのかは、さっぱり分からない。

「遉シ繧呈ャ?縺九☆縺ィ縺ッ辟。遉シ蜊?ク」

 でもなんとなく、伝わるモノもある。
 多分だけど、怒ってるよな?

「豁サ繧呈戟縺」縺ヲ髱樒、シ繧貞─縺!!」

 あー……これはやばいぞ。
 完全にミスってる。

 目前の脅威から発される殺気に、大量の冷や汗がぶわりと吹き出して背中を伝った。
 どうしよう、謝ったほうがいいんだろうか、なんて考えてカラカラに乾ききった口を開いた直後。
 黒髪の暗幕の内側で、キチと鉄の擦れる音が鳴ったと、思ったときには既に視界が落下していた。

 ごとんごろごろと、頭蓋が床に衝突する音を遠くに聞く。
 痛みはない、それどころか一切の感覚が断たれていた。
 一太刀に首を落とされたのだと気づいたのは、床に転がった俺の頭が偶然上を見上げていたからに過ぎない。

 俺の首の転がった先、バーサーカーの足元。
 髪のベールの内側、その隠された端正な顔貌を見上げている。

「縺輔i縺ー縺?」

 俺を斬っておきながら、そのとろりとした眼に現実が映っているようには見えなかった。
 手には抜き身の太刀。眠りの狂気に落ちて尚、氷点下の冴えを魅せる夢幻の剣。
 一切の予備動作無く、死の感触すら与えぬままに対敵の生命を断切する至高の一閃。
 美しき無双の剣豪が辿り着いた技の最奥。その名、夢想剣。
 へえ、女性だったとは、知らなかった。

 在りし時代、剣士は皆が狂していたという。
 剣士であれば当たり前のように、剣を極めるという修羅道を歩んでいた。
 殺人剣という流血を幾重にも積み重ねた先、数え切れぬほどの死と業を引き連れ目指す最果て。
 そこに最も近づいたとされる彼女は今も、その狂気の夢の渦中にいる。

 真名を伊東一刀斎景久。
 死の間際、泡沫のように消え往く俺の意識が、命と引き換えに触れた理解がそれだった。








【DEAD END】
【Ending No.2:『無礼討ち』】









 この先はオルフィレウス研究所です。アドバイスを受けますか?


 1.はい

 2.いいえ







【2.いいえ】



 クイックセーブ地点から再開しますか?



 1.はい

 2.いいえ









【1.はい】




 セーブ地点に戻ります。




(βテスト期間中の為、シーンが入れ替わるなどの不具合が発生する恐れもあります。あしからず)


 ―――それでは、良い旅を。






「善鬼……典膳……お前たち、何故こんな……」

 原野に呆と立ち尽くしたまま、見つめる女性の視線の先、そこに一つの残酷がある。
 師の望んだ穏当な道場仕合いを良しとせず、二人の侍が臨んだ死合いは、瞬く間に決着を見た。
 袈裟懸けに両断され、己が血の海に沈んだ一人の男と、それを抱きかかえるもう一人。

「何故? 之は異なことを申される。師匠も我らと同じ立場にあれば、同じようにされたであろうに」 

 死体を抱きかかえる男は、決闘に勝利した侍は、寂しそうに零す。
 可愛がっていた弟弟子の血で刃を濡らし、勝ち残った彼は悲嘆に暮れる師を仰ぎ見た。

「我らの理解とは即ち斬ること。之に勝る得心は御座らぬ。そうであろう」

 勝者、小野善鬼。
 しかしそれは、時代の記録に照らせば、有り得ぬ筈の決着であった。

「そうして今、典膳を斬り、理解した拙者には分かる。この勝負、本来ならば拙者に勝てる道理など無かった」

 後の世に、この決闘の勝者は御子上典膳であると伝えられている。

「未来を変えたのは貴方だ。我が師、伊東一刀斎。貴方の声が運命を狂わせ、典膳を殺したのだ」

 決闘の直前、独断で凶行に及んだ彼らを止めるべく、割り込んだ師の声。
 それこそが運命を分かつ選択の分岐だったとしたら。

「彼奴、本気で愛しておったのだなあ。拙者のそれとはまた違った姿形で、しかしより深く。
 師の声に、ほんの僅かな雑念を振り払えぬ迄に。
 斬ってみて、よう分かった。彼奴は伝授されるまでもなく、奥義を会得しておったのだ」

 奥義を得るための決闘に望む為、彼らは事前に奥義を見取るという矛盾を強いられた。
 それのみが、互いに全ての手を知り尽くす兄弟弟子を凌駕する、唯一の活路であると承知していたが故に。
 結果、より深く師の技を理解していたのは典膳であり、同時により深く思いを寄せていたのも―――

「拙者の負けじゃ。さらば、師よ。典膳を斬った今、拙者もまた奥義を会得したに等しい。伝授は最早不要也」
「待て善鬼、何処へ往くのだ!」

 典膳の骸を背負い、立ち上がる善鬼の背に師の悲痛に満ちた声が飛ぶ。
 されど男は振り返ることもなく、歩を進めながら寂しげに口にするのみであった。

「師よ、我が名もまた、ここに置いて行こう。今日をもって小野善鬼は死んだのだ。
 生きるべきは、典膳であった。それが世の道理であったのだから、拙者の命はそのように使わねばならぬ」 

 残された女性は、握りしめた太刀の鞘を投げ捨て、去りゆく弟子の背に刃を向けて叫んだ。

「待て、善鬼! 往くな! どうしても往くと云う成らば……成らば、おれと立ち会え!」
「ははは、師匠らしい。我が心とて同じであった。典膳が勝っておれば、その望みも叶ったであろうに。
 ……お赦しを。約束したのだ。拙者が勝った暁には、彼奴の願いを叶えるとな」

 後に小野善鬼は御子上典膳と名を変え、更に後に小野忠明と名を改め、江戸の世における将軍家指南役にまで上り詰めた。
 彼が御子上典膳に成り代わって広めた一刀流は隆盛を極め、現代に至るまで多くの派生と文化を生み出す事になる。
 師の剣を後世に伝え、その威光を不朽のものとすること。それが御子上典膳の最期の願いだったとすれば、善鬼は見事約束を果たしたと言えよう。

 一人の剣の師と、二人の弟子。
 その日、分かたれた運命が再び交わることはなかった。

 流血の決闘を見届けた伊東一刀斎はその後、歴史の表舞台に姿を現すことはなく。
 彼女が何処で産まれ、何処で命を終えたのか、正確に記録された資料は残っていない。

 彼女が弟子とともに目指した剣の道、その最果てとは何処にあったのか。
 二人の弟子に賭けていた望み、止められなかった悲劇の裏で、何を願っていたのか。
 察せられるものが居たとするならばやはり、当事者である二人の男のみであったろう。

「――――我が師よ。貴方の願いは叶わない。この時代に、貴方に伍する剣士は現れない。
 拙者も、典膳も、遂に貴方の運命には成れなかった。今は唯、それだけが口惜しいのだ」

 日が落ち、静まり返った小金原。
 流された血潮と、打ち捨てられた二本の刀のみが残る決闘跡地で、一人立ち尽くす彼女は切なげに呟いた。

「嗚呼、どうせこう成って仕舞うなら、一切諸共、斬って仕舞えばよかったな……」






【2.ご挨拶だろう】


「はじめまして」

 とにかく、名乗る前に先ずは挨拶だろう。
 特にこの古風な見た目のサーヴァントに対しては、順序に気を使うことが重要に感じられた。
 焦らず、深く深く、お辞儀して、程よいタイミングで顔を上げる。

「俺の名前は佐藤進、仮で申し訳ないけど、一旦そう名乗らせてほしい。実は俺、記憶が無いんだ」

 相手がバーサーカーで、どこまで汲んでくれるかは分からないけど、誠意が伝わる相手だった場合、逆もまた然りだろうから。

「名前と記憶が分かったら、それが佐藤進だったとしても、違ったとしても、改めてちゃんと名乗るよ。だから、よろしく頼む」

 結局のところ他にピンとくる名前も一切浮かばないので、暫定でさっきみたポイントカードの名前を名乗っておいた。
 ついでに頼りがいのあるマスターに感じられるよう、なるべく堂々と胸を張っておく。
 さて、反応はいかに、と髪のベール越しにバーサーカーの顔の辺りを見つめた。

 彼女は暫く沈黙した後、黒髪のベールの内側で、キチと鉄の擦れるような音を一度鳴らした。
 続いて、すっとベールから現れたのは色白の腕と、二尺六寸の太刀。
 佩刀していたそれの柄に両手を置き、地面に立てた姿勢にて、彼女は小さく呟いた。

「莨頑擲荳?蛻?譁取勹荵」

 それはもしかすると名乗り口上だったのか。
 寝言のような声は何を言っているのか瞭然とせず、はらりと流れた髪の隙間から僅かに見えた彼女の瞳は、やはり俺を映しているようには見えなかったけど。
 それでも、間を置かず霊体化して消え去ったところから察するに、どうやらこの場を乗り切ることには成功したらしい。

 大きく安堵の息を吐き出しながら、ベッドに腰掛ける。
 いきなり名乗るかしっかり先に挨拶するかは俺の中で五分だったけど、結果を見れば当たりを引くことが出来たようだ。
 賭けに勝った成果は、上々とは言えないけど、最低限の基準には達したと言っていいだろう。
 ろくに魔術も使えない俺が、バーサーカーと正面から応対して、サーヴァントの真名とステータスの一部を引き出すことが出来たのだから。

 まだまだ彼女の理解を深める必要はあるけれど、それは今後の課題だろう。
 今日のところは、控えめに評価しても及第点だ。
 うむ、うむ、あれ……………?

 なんで俺、バーサーカーの真名を突き止めたんだっけ?
 アレ、ん、え……アレ……?

「今、何が起こった?」

 春雷の如くに走る剣閃。落ちて転がる首。彼女の足元から、髪のベールの内側に見た美しき顔貌。
 一瞬にして脳裏に浮かび上がった在る筈のない記憶の回想と、同時に吹き出る大量の汗。

「え? 俺、さっき死んだよな?」

 無意識に自分の首に手を当てる。ちゃんと繋がっていた。身体のどこにも傷一つ無い。
 当たり前だ。俺は成功したんだから。なのに、なぜ、失敗した記憶があるんだ。

 まるで外した二択を選び直したかのように。
 時間が巻き戻ったかのように、俺は2つの展開の記憶を得ている。
 まさか、俺の魔術が為した現象なのか。確かに数分ほど前には無かった筈の疲労感が全身に蓄積している。
 これが魔力を消費する感覚なのだとすれば辻褄は合う。

 そう仮定すると、おそらく予兆はあの、不思議な感覚。
 突然視界に文字が現れたように感じた、あの"選択肢"の表示こそが、発動の合図だとすれば。

「チカラの要は、視覚か」

 視界に選択肢が出現したのは、俺がここで目覚めてから2度あった。
 2度目はさっき発生した通りの現象。選択を誤った際の記憶を保持したまま、選び直して窮地を脱した。

 しかし1度目は選択肢こそ見えたものの、やり直したような感覚はなかった。
 まだ裏付けが必要だが、おそらく一度目の際、俺は選択を外さなかったのだと推測する。

 つまりこれは完全な仮定に過ぎない話だが、今ある情報だけで整理すれば以下のように説明できるだろう。
 一定の条件を満たす場面で、俺の眼は選択肢を視る。
 そして選択を誤った際、結果を俺に見せた上で、選び直しの機会を与える。

 失敗の定義を、先程の一回だけで確定することは出来ないが、仮にそれが"俺の死"であるとするならば。
 選択肢の出現状況とは、俺の生命に関わる重要な選択を求められている時……?

 結局、全ては仮定に過ぎない話だ。
 そもそも今の想像なんて全て的外れで、俺が妄想に囚われているだけって可能性もある。
 仮に先程の奇妙な現象が、俺の能力が引き起こしたものだったとしても、仕様についての結論を出すにはまだ早い。
 なにしろサンプルケースが少なすぎるのだから。

 俺はこれから俺の記憶だけじゃなく、能力についても知らなければならない。
 そしてそれこそが、この地で俺が生き残り、目的を達するための条件となるのだろう。
 などと考えて、俺は俺の間抜けさに呆れた。

「……滑稽だな」

 目的だって?
 なにも憶えていない俺に、なんの目的があるという?
 何のためにここに来て、何を聖杯にかける望みとして戦うのか。
 持たざる者である俺の目的……逆説、それを得ることこそ、俺の目的足り得るのか?

 ふと窓の方を視ると、カーテンの隙間から差していた陽光は既に絶え、仮想の東京に夜が到来したことを告げていた。
 不思議と落ち着いた気分のまま、自然に身体は立ち上がり、足は玄関へと向かっていく。

 手掛かりが有るかは分からないけど、手始めに例のポイントカードに記載されたスーパーにでも行ってみるか。
 勿論、外に危険があることは分かっている。
 だがサーヴァントとの可能な限りの交流を終えた今、部屋に引きこもっていても得られるものはない。
 外に出て、現在地と周辺の情報を集める事が次の段階となるだろう。
 それにほら、アレだ、伝奇の舞台といえば、深夜徘徊と相場が決まっているものだし。

「――――は、なんだそれ。俺、伝奇小説とか読むやつだったのかな?」

 自分の発想の中にも、自分を知れるヒントは有るのかもしれない。
 そんなコトを思いながら、俺はマンションの外廊下に出た。
 生暖かい夜の風が不気味な予感を乗せ、俺の首筋を撫でるように過ぎていく。
 無名の表札の上部に書かれた部屋番号を見るに、どうやらここは3階のようだった。



 さて、それじゃあ、さっそくだけど、俺は――――





 1.エレベーターで降りることにした

 2.階段で降りることにした

 3.部屋に戻ることにした



【クラス】
 バーサーカー

【真名】
 伊東一刀斎景久

【属性】
 混沌・狂

【ステータス】
 筋力D++ 耐久D 敏捷A++ 魔力D 幸運C 宝具B

【クラススキル】
狂化(睡):A-
 パラメーターをランクアップさせるが理性の大半を奪われる。
 後述する『夢想剣』が破られた場合、このスキルのランクは大幅に変動する。

【保有スキル】
心眼(真):A
 修行・鍛錬によって培った洞察力。
 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。
 逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

極意五天:C
 達人より伝授された『妙剣、絶妙剣、真剣、金翅鳥王剣、独妙剣』からなる五つの極意。
 何れも対人魔剣足りうる絶技であるが、狂化状態にある現在、往年の冴えには及ばない。
 接近戦において強力な筋力及び敏捷補正を誘発する。

卍の印:D
 一刀流の教え。精神修行の最奥たる心構えを現した印。
 殺人剣と活人剣、双方極めた活殺自在の境地。
 剣を持って向き合いながらも、殺すこと活かすことに囚われず、生死、利害、損失の疑念から開放された明鏡止水の精神。
 高ランクであれば精神干渉を一切無効化するほどのスキルであるが、狂化により相当のランクダウンを受けている。

異説暗幕:B
 史実において彼女が果たした剣の功績に対し、あまりに多い異説と不明点の数々。
 最強とも謳われた剣士が晩年、まるで正確な足取りを残さなかったことに端を発した、人々の憶測と想像。
 それら情報の交錯と陥穽が本人の意思に依らずカタチを為したスキル。
 無造作に伸ばされた長き黒髪がジャミングのベールとなって、彼女の気配とステータス情報の一部を秘匿する。

【宝具】
『真剣・断切落(しんけん・たちきりおとし)』
ランク:C 種別:対人魔剣 レンジ:1 最大捕捉:1
 万物は一刀から万化して一刀に収まる。
 一刀流の真髄の一つ、切落。
 対敵の攻の起こりを見極め、跳ね上げる刀剣によって弾き、一呼吸の間に切り下げる。
 無双の後の先。如何なる陰剣の予兆も見逃さず、防御を貫通して霊核を両断する、正しく剣の絶技である。
 白兵戦においてこの魔剣を破るには、一切の予兆を廃した攻撃を実現するか、剣聖の反応速度を超える一撃をもって挑む他ない。

『秘剣・夢想剣(ひけん・むそうけん)』
ランク:B 種別:対人魔剣 レンジ:1 最大捕捉:1
 長き修行の果て、悟りに至った一刀斎がたどり着いた奥義の一つ。
 無意識に敵を斬殺する迄に高められた絶剣の戦闘勘。その真髄とは無心の究極、即ち入睡に至る夢想の剣。
 彼女は睡っていながらも周囲環境の全てを無意識下で把握しており、向けられる敵意、害意、非礼にフルオートで斬り返す。
 夢想の斬撃は無想であるが故に起こりの存在しない究極の先の先。
 バーサーカークラスの彼女は常時この宝具を展開した状態にある。要するに彼女は常に寝ぼけている。
 この魔剣を破る、即ち眼を覚まさせるものが在るとすれば、彼女に伍する程に道を極めし真の強者のみであろう。

『撃剣・払捨刀(げきけん・ほっしゃとう)』
ランク:C 種別:対人魔剣 レンジ:1 最大捕捉:1
 手にした物体をE~Dランク相当の宝具として武装する。
 対敵から略取した宝具であった場合はそのランクのまま運用可能。
 かつて愛人に裏切られ、無手の状態で複数の刺客に寝込みを襲われた際に体得したもう一つの奥義。
 敵の武装を打ち払い、己の得物として獲得する無手の極意。
 弘法筆を択ばず。彼女には扇一本で唐の刀術名人に打ち勝った逸話があり、扱う武器の範囲は刀剣のみに限定されない。

【weapon】
 無銘の太刀。
 かつて彼女を象徴した宝具〈瓶割刀〉と〈朱引太刀〉はバーサーカークラスにおいては封印されている。
 今はただ、鍛えし剣技を振るい舞い、死合う夢にて睡るのみ。

【人物背景】
 戦国時代後期から江戸時代前期にかけて活躍したとされる剣豪。
 剣道の基礎ともなった一刀流の開祖である。

 生没年、出身地共に明確ではない謎多き人物。
 己が剣の術理や功績を後の世に残すことより、飽く迄も剣の道を極めることに専心する人物であった。

 数ある逸話の内一つには下記のようなものがある。
 三島に流れ着いた14歳の頃より、彼女は比類なき剣士の才能を発揮した。
 三島神社の神主から与えられた宝刀で七人の賊を斬り倒し、瓶に隠れた最後の一人を瓶ごと両断した逸話から、宝刀には瓶割刀の銘が与えられる。

 その後、性別を偽って江戸に渡った彼女は短期間で師を打ち負かすまでに至り、独立後も強者と戦い続けるべく武者修行の旅に出た。
 道中、彼女は後継者たり得る二人の門弟を見出す。それが小野善鬼と御子神典膳である。
 三人は長く旅を続けたが、ある時、一刀斎は二人に告げる。「より強き者に一刀流の極意を相伝する」と。
 そして決闘の末、勝った典膳が継承者となり、敗北した善鬼は落命した。
 善鬼の死に関する詳細は明確に記録されていないが様々な俗説が存在する。
 一刀斎が善鬼を殺したがっていたとされる説や、実は死んだのは典膳であり、善鬼が典膳に成り代わったというような突拍子もない説もある。

 何れにせよ、典膳に一刀流を相伝した後、立ち去った一刀斎の行方はやはり瞭然とせず。
 果たして彼女は何処から来て何処へと去ったのか。
 彼女が最後に抱えた心残り、目指した剣の究極とは如何なる境地であったのか。
 察することの出来た者が居たとすれば、それは彼女を心より慕っていた二人の門弟のみであろう。

 明確な事実は一点。決闘に望むこと三十三、人を斬ること五十七、打ち倒すこと六十二。
 伊東一刀斎は生涯負け無し。紛れもなく、天下無双の大剣豪である。

【外見・性格】
 見窄らしき白の襤褸着物を纏う幽霊のような不気味な風体。
 直立して尚、床に引き摺る程長い黒髪が全身をすっぽり覆っており、顔貌は勿論のこと体格すら不鮮明。
 髪のベールの上からでも薄っすら分かる身体の凹凸から、どうやら女性であるらしい。
 前述の通り、夢想剣を常時展開した彼女の意識は現実に在らず。
 在りし日、剣の道の極点を目指し、己をそこへ至らしめる強者を求め続けた彼女は今尚、血に染まった夢の淵で微睡み続けている。

【身長・体重】
 188cm、77kg

【聖杯への願い】
 心技極めし強者との対決。
 或いは―――  

【マスターへの態度】
 雋エ讒倥′諡呵???繝槭せ繧ソ繝シ縺具シ


【名前】佐藤 進 / Sato Susumu
【性別】男性
【年齢】推定17歳
【属性】???→中立・中庸
【外見・性格】
 中肉中背、平均的な十代後半の男子の体型。
 現在自分探しの真っ最中。
【身長・体重】
 172cm 、59kg
【魔術回路・特性】
 質:E 量:E
 特性:〈選択式未来視〉
【魔術・異能】
 ◇選択式未来視
 彼に備わった未来視の系統は過去視を内包した事象演算型。
 周囲環境及び人物の過去と現在から限りなく正確な未来を逆算すると同時に、並行世界の分岐点を算出し、別軸の可能性を補足する。

 自身の生死を分つ岐路に立った時、未来視は彼が取り得る選択肢を網膜に映写し、選んだ択が彼の運命の終点すなわち死に直結する場合に限り、演算された未来の情景を刹那の一瞬に上映する。
 この一連のシークエンスは本人の視点では未来視というよりも時間を巻き戻すような、擬似的なタイムリープを行なっているかのように体感する。
 尚、死に直結しない選択をした場合、つまり正解の選択肢を選んだ場合は、未来視は発動せず、そのまま時間が進行する。
 未来視が発動するのはあくまで選択を誤った場合に限られる。

 突発的な生命の危機を回避せしめ、尚且つ未来の情報を取得できる優れた能力に思われる反面、明確な弱点が3つ存在する。
 1つ、魔力が不足している場合は未来視を発動することができない。一回毎の消耗は少ないが、本人の魔力量を鑑みれば過度な連続使用には耐えられないと考えられる。
 2つ、本人が決して選び得ない択は網膜に映写されない。よって全ての選択肢が死に直結する状況、つまり正解の選択肢が1つも存在しない"詰み"の事態も起こり得る。
 3つ、この能力で回避できる死は突発的かつ一度の選択肢が左右する運命に因るものであって、複数の選択、因果の積み重ねによる死は回避できない。
 突如確定する死から逃れても、死の可能性の蓄積を見逃せば、容易に2で述べた詰みの状況に行き着くだろう。

 つまり、選択ミスはカバー出来てもフラグ管理ミスはカバーできないという事である。逆説的に、この能力は原則直近の未来しか窺い知ることは出来ない。
 総じて、ゼロから可能性を創り出すものではなく、イチの希望を拾う為の能力といえよう。

【備考・設定】
 佐藤進(仮)。
 正体不明(アンノウン)。
 或いは過去を喪失した未来観測者。

 魔術回路の装填をもってしても微弱な魔力しか持ち得ない才無き一般人であり、自身の過去に関連する一切の記憶を失っている。
 記憶喪失が懐中時計を拾った際に起こったことなのか、仮想の東京に転移して以降に起こったことなのかは不明。
 聖杯によって聖杯戦争のルールや仮想東京の前提知識を得ているが、自分自身の過去を思い出そうとすると、鳴り渡る針音とともに激しい頭痛に苛まれてしまう。
 過去を失った彼に与えられた能力は皮肉にも未来視。
 彼自身、まだこの能力の全貌を把握しきれておらず、失われた記憶とともに使い方を模索する方針。

 彼に与えられた情報を以下に纏める。
 都内ワンルームマンションの一室で目覚めるも、現在に至る過程は一切思い出せない。
 マンションの内装は非常に簡素でベッド、洗濯機、冷蔵庫といった最低限の設備と日用品しかない。
 聖杯戦争と仮想東京の前提知識及び一般知識は備えているが、自身にとっての一般常識が何であるかは未だ手探りで整理している途中。
 どこかの高校の制服を着ているが、どこの高校か思い出すことは出来ない。
 目覚めた当初、右手に古びた懐中時計、左手にボロい財布が握られていた。
 財布の中には現金2万3千円と都内スーパーのポイントカードが入っており、『佐藤進』の記名があったので、ひとまずそれを名乗っている。
 ただしポイントカードには当然顔写真など無く、他に身分を確認する手がかりも見当たらないため、このカード及び財布が彼本人のものである確証はない。

 果たして彼は、強者なのか、弱者なのか、善なる者か、邪なる者か。
 聖杯にかける望みを、忘却した過去に思い出すのか、或いは新たな未来に見出すのか。
 今はまだ、何者でも無いが故に、何者にも成れる。
 過日の設定(しがらみ)から解放されし、仮想の観測者(プレイヤー)である。

【聖杯への願い】
 暫定、とりあえず自分が誰なのか教えてほしい。

【サーヴァントへの態度】
 記憶喪失という非常にマズい状況でスタートしたうえに、言葉が通じないタイプのバーサーカーを引いてしまいかなり困っている。
 とりあえず理性がないように見えて失礼を働いたら殺されると分かったので、今後は丁寧に接しようと思う。



※この候補話が採用された場合、佐藤進(仮)の過去設定については後続の方々に委ねるとします。

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最終更新:2024年07月10日 15:59