桜場コハル作品エロパロスレ・新保管庫

お正月

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1月1日 オレは電話を握りしめたまま、30分ほど机に向って座っていた。
理由は、南を初詣に誘うためだ。
本当は昨日のうちに誘っておきたかったんだけど、受話器が上がっていたのか何度かけてもつながらなかった。

「カナちゃ……やっぱりカナさんで良いか…」

オレは思い切って南の家へ電話をかけた。
昨日とは違い呼び出し音がなっている……ガチャッ…
向こうが電話に出ると、オレはフライングして話し始めてしまった。

「もしも……」
「あっ、あの…藤岡ですけど、カ…カ……」
「なんだ藤岡か。正月早々なんだよ?」
「…えっと、…もしかして南?」
「はぁ? お前がこの南家に電話したんだろ? 何言ってんだ?」

…そう言えば、3分の1で南が出ることを想定していなかった。
しかし電話は南に繋がった…後は初詣に誘うだけだ。

「あ…あのさ、もし良かったら一緒に初詣いかない?」
「うーん…ヤダ。」

……昨日からあんなに緊張して、やっと繋がったのに…返事は酷いものだった。
どうやら南は、正月の特番を見たいのと、外の寒い空気に当たるのが嫌らしい。
…しかしこんな所で挫ける訳にはいかない、オレはとっておきの作戦にでた。

「あのさ、正月3が日は神社で出店もいっぱい出てて楽しいと思うよ?」
「お前なぁ…出店が出て楽しいのは金持ちだけだろ? お金の無い私が行っても惨めになるだけだろ。」
「…オ、オレお年玉たくさん貰ったから奢るよ!」
「………んー…」

南が悩み始めている…おそらくあと一押しで家から引きずり出せそうだ…。
後は南が喜ぶような…なにか決定的な物が必要だ。

「…う~ん……出店で食べ放題……しかしテレビも……」
「南、冬休みの宿題とか終わった?」
「はぁ? そんなもの終わる前日にやるのが常識だろ?」
「あの…一緒に初詣行ってくれたらオレの宿題見せ……」
「何所に集合だ!?」
「…へ?」
「だから、どこに集合すれば食べ放題で宿題見放題なんだ?!」

…来てくれるのは嬉しいんだけど、食い気と宿題で…複雑な気分だ。
オレは指定の場所を告げ、急いで待ち合わせ場所に向かった。
南は相当張り切って来たのか、宿題が入っていると思われるカバンを片手に、既に目的地で待っていた。
南はこっちに気づいた様子で、クリスマスにあげた手袋を付けた両手をブンブンふっていた。



「おーぃ! 藤岡! ココだココ!!」
「ごめん、おまたせ。…その…手袋使ってくれてるんだ。ありがとう!」
「そんなのいいから早く行くぞ! 私は何も食べて来なかったかったからお腹ぺこぺこなんだ。」
「そんなのって…じゃあ行こうか。」

オレ達は神社に向かって歩き始めた。
神社の前に到着すると、南は神社に目もくれず一目散に出店の方へ走って行った。
オレは南のスタートダッシュに着いていけず、あっという間に人ごみで南を見失ってしまった。
すると人ごみの中で、ぴょんぴょんとジャンプしながら首を伸ばす南を発見…
南もコッチに気づいたのか、凄い形相でこっちに向かってきた。

「コノヤロー! お前何してるんだ! スポンサーがいなけりゃ何も食えないだろ?!」
「スポンサー…?」
「そーだ! 私は奢ってもらえると聞いて、お金はおろか財布さえも持ってきていないんだからな!」
「あぁ…ごめん。」
「まったく…とにかく私から離れるなよ!」

南はそう言うと、はぐれない為にオレの手を掴み目的の店へと走り出した。
南は何も意識していないんだろうけど、オレ達は今手をつないで歩いている…
オレはその事実だけで、今日来て良かったと思っていた。
…しかしその代償……3000円。…しかも食べ物ばかりだ。
食べたものは、南のこの細い体のどこに入って行っているのか…不思議で仕方無かった。

満腹になったのか南は満足そうな顔をして、ついでにお参りしていく感じで神社へ向かった。
今年の目標…オレはもちろん今年こそ南に気持ちが届くように願った。
しかし南は適当に手を合わせ、出店の時とは違い興味なさそうに階段を下りて行った。

「あのさ、南はどんな願い事したの?」
「…ん? 私か? 私は焼肉をお腹いっぱい食べたいって願ったよ。」
「え? …あ、あんなに食べたのに?」
「あんなにって…あれじゃあ腹5分が良い所だよ。」

そう言って南は出店の方を見て、ペロリと舌をだした…どうやら本当にまだ食べる気らしい。
もうどうせ食べるなら…オレは思い切って焼肉を食べに行くことにした。

「南、あの…駅前の焼肉屋は正月もやってるんだけど…良かったら行かない?」
「なに?! 藤岡…焼肉だぞ? あの、網で牛肉を焼くあれだぞ?」
「うん。まだ財布の方も余裕あるから。」

オレがそう言うと南は口を開き、目をパチパチしながらこっちを見つめている。

「お前…やる時はやる男だったんだな。見直したよ! …いや、もう大好きだよ! 焼肉ばんざーい!!」
「ほ…ほんとに?!」
「あー…でもこんなに簡単に願いがかなうなら、もっと考えて願えば良かったよ。」
「あははっ、南らしいけど欲張ってもいい事ないよ?」
「ふーん、そんなもんなのか? …そう言えばお前は何をお願いしたんだ?」
「オレ? …えーっと……オレは…」

思わず黙り込んでしまいそうになったが、こんなチャンスは次いつ来るか…
オレは意を決して口を開いた。

「オ…オレは…南に気持ちが伝わりますようにって…」
「……は?」
「だから…その……前にも言ったけど、オレは南の事が好きって言う……気持ちって言うか…」
「……お前何言ってんだ?」

南は難しそうな顔をしながらそう答えた。
はぁ…はたして南には、いったい何と言えばオレの気持ちが伝わるんだろう……
途方にくれていると南はオレの手を握り、グイグイ引っ張って歩きだした。
上手く表現できないが、出店に向かう時に掴まれたのと違い、手を握ると言った感じだ。

「いいか藤岡、これから焼肉屋に行くんだ。スポンサーのお前とはぐれたら大変だからな。」

そう言ってオレと南は人通りの少ない道を、二人で手をつなぎ歩いていた。
ココでどうやってはぐれるのか…それとももしかしてオレの気持ちに気づいて…?

「…なぁー、藤岡。」
「な…何?」
「私は明日この神社に再び現れ、お寿司を食べたいとお願いしにくるつもりなんだが…お前も来るか?」
「え…っと…行きたいのは山々なんだけど…たぶん焼肉食べたらお金が……」
「…はぁ? 私は願いに来るだけだぞ? ……別に食べに行けるのは後々でいいんだ…。」

これは…デートの誘い的なものと取っていいのだろうか?
考えていると答えるのが遅いオレに対して、南はイライラして来た様に見える…

「い…行く! オレもいくよ!」
「そっか…仕方無い。御共させてやるよ。」
「ははぁ! …ありがたき幸せです。」
「うむ、…で、ソチは何を願いに来るのじゃ?」
「そうだなぁ…御供のお礼にキスでもお願いしようかな。なーんて…」

オレが冗談を言うと、南は手を慌てて離して、顔はみるみる真っ赤になり頭から煙のワッカが出たように見えた。

「ふ、藤岡! そんなの急に無理に決まってるだろ!」
「? 神様に願うだけで、オレもキスは後々でいいんだけどなぁ。」
「え? …そっか……後々…な。…わかった……その、が…がんばってみるよ……。」

南の表情を見る限り、どうやらオレの南への思いは伝わったと思われる…
とりあえずオレは、最高のスタートを切り2008年をスタートする事が出来た。

「藤岡、もたもたするな! 焼肉が待ってるぞ! …それから宿題見せるとか言って家でおかしな事するなよ!」
「なっ…何言ってんだよ! そんな事するわけな……」
「あはははっ、ほら早く来いよ!」

気がつくとずいぶん前を走っていた南が、笑いながら手を差し伸ばしてオレを待っていた。


終わり


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