「必殺っ!チョーク手裏剣!!!」
「こらっ、やめろよマコト───」
「こらっ、やめろよマコト───」
些細なことから始まった追いかけっこ。
距離が開いていたための最終手段としてマコトが取った行動だった。もはや『掃除の時間』などという単語は既に彼の頭の中からは消え去っているだろう。
距離が開いていたための最終手段としてマコトが取った行動だった。もはや『掃除の時間』などという単語は既に彼の頭の中からは消え去っているだろう。
だが、そこへ一人の少女が通りかかる。
箒を片手にせっせと教室のごみをかき集めているその頭には、そう・・・あえて形容するならば、泡立てたホイップクリームのようなトンガリが一つ。
標的となったシュウイチとチョークを投げたマコトの直線状を、ちょうどさえぎるようにして少女は立っていた。
箒を片手にせっせと教室のごみをかき集めているその頭には、そう・・・あえて形容するならば、泡立てたホイップクリームのようなトンガリが一つ。
標的となったシュウイチとチョークを投げたマコトの直線状を、ちょうどさえぎるようにして少女は立っていた。
「あっ!チアキ危なっ・・・・あれ?」
「‥‥ん?何だ、マコト」
「い、いやぁなんでも・・・」
「‥‥ん?何だ、マコト」
「い、いやぁなんでも・・・」
チアキの質問に苦笑いで答えつつも、視線はキョロキョロと床をさ迷っている。
ハテナ顔で去っていくチアキを冷や汗ながらに見送って、本当ならば今頃チョーク手裏剣の直撃を喰っていたであろうシュウイチと合流した。
ハテナ顔で去っていくチアキを冷や汗ながらに見送って、本当ならば今頃チョーク手裏剣の直撃を喰っていたであろうシュウイチと合流した。
「おい、投げたチョークはどこに行ったんだ??」
「お、俺もいま目つぶってたから・・・」
「お、俺もいま目つぶってたから・・・」
二人して辺りを見渡す。
あれほどピカピカで、使った形跡すら皆無だった赤いチョークは欠片すらも見当たらない。
あれほどピカピカで、使った形跡すら皆無だった赤いチョークは欠片すらも見当たらない。
「まさかシュウイチ、お前・・・給食のコッペパンじゃ食い足らず、チョークにまで手を出したんじゃねーだろうなっ!!」
「誰があんなもん食うかっ!!そもそもチョークなんて食べられるわけ───」
「誰があんなもん食うかっ!!そもそもチョークなんて食べられるわけ───」
自分が知る限りの世間一般的常識をマコトに叩き込もうとした、その時。
饒舌にまくし立てるシュウイチの口が誰かの手で覆われた。
饒舌にまくし立てるシュウイチの口が誰かの手で覆われた。
ツンツン頭の小さな少年・・・佐藤リョータ。
「ふっふっふ・・・キミタチ、チョークは実は美味しいという事実を知らんのかね・・・?」
「「はぁ??」」
「「はぁ??」」
面白いように揃って首をかしげる二人の目の前に、先ほどなくしたはずの赤いチョークが差し出された。
「なんだよリョータ、いきなり見えすいたウソを言いやがって・・・」
「分かってないねぇ。最近のチョークは安全性を踏まえて、小さい子供が間違って食べてもダイジョーブなように・・・」
「分かってないねぇ。最近のチョークは安全性を踏まえて、小さい子供が間違って食べてもダイジョーブなように・・・」
怪訝な目を向ける二人に向かって、さも美味な食べ物だと言わんばかりにずいずいっとチョークを突き出すリョータ。
「甘くて美味しくて、しかも女性に優しいカロリーオフなのだよ!!」
「ほ、本当かっ!!?」
「ほ、本当かっ!!?」
目をきらきらと輝かせ、いち早くその手からチョークを奪い取ったのはマコトだった。
未知の『食べ物』を前にして、ごくっと唾を飲み込む。
一呼吸おいて、いざかぶりつこうとめいっぱい口を開けた。
未知の『食べ物』を前にして、ごくっと唾を飲み込む。
一呼吸おいて、いざかぶりつこうとめいっぱい口を開けた。
「コラーっ!リョーターっ!!」
「あてっ!」
「あてっ!」
歯とチョークが触れる数ミリ手前の時に横から聞こえたのは、スパーンという小気味いい音。
遠くから投げられた上履きが見事にクリーンヒットし、頭から倒れこむリョータ。
遠くから投げられた上履きが見事にクリーンヒットし、頭から倒れこむリョータ。
踵に書いてある上履きの主の名前。そこには“小泉チカ”と記されていた。
「何ヘンなこと教え込んでるのよ!チョークなんて食べられるわけないじゃない!!」
「何だよ!だいたい最初にチョーク食べられるなんてウソついたのお前だろ!?」
「何だよ!だいたい最初にチョーク食べられるなんてウソついたのお前だろ!?」
自分が投げた上履きをしっかり履きなおしてから、寝そべったままの幼なじみに仁王立ち。
お互い知った仲だからなのか、遠慮の欠片もないすごい剣幕で言い争いを始めた。
お互い知った仲だからなのか、遠慮の欠片もないすごい剣幕で言い争いを始めた。
「アレは引っかかるリョータが悪いのよっ!大体あんなの少し考えたら分かることでしょ?!」
「じゃあ今のだって騙されたマコトが悪いってことになるだろっ!!」
「自分が騙されたからってそれを人にやっちゃいけないの!」
「じゃあお前はオレがどうなってもいいっていうのかよっ??!」
「いいもーん!!リョータなんか、こうしてやるっ!」
「ちょっと待っ、ぐあっ!」
「じゃあ今のだって騙されたマコトが悪いってことになるだろっ!!」
「自分が騙されたからってそれを人にやっちゃいけないの!」
「じゃあお前はオレがどうなってもいいっていうのかよっ??!」
「いいもーん!!リョータなんか、こうしてやるっ!」
「ちょっと待っ、ぐあっ!」
うつ伏せのまま反論し続けていた幼なじみにヒップドロップをかましてそのまま馬乗りになる。
他人が入り込む余地など、ここにはありはしなかった。
周りが口々に「また痴話ゲンカがはじまったよ・・・」と呟く。
他人が入り込む余地など、ここにはありはしなかった。
周りが口々に「また痴話ゲンカがはじまったよ・・・」と呟く。
しかし、その流れを断ち切らんかのごとく、大きく踏み出した一歩の地響きが教室に響いた。
「・・・おい、そこのバカ野郎ども」
ゆらり。
まさにそんな言葉がふさわしい。何やら不気味なオーラに包まれながら、今までおとなしく掃除をしていたはずのチアキが渦中に飛び込んできた。
まさにそんな言葉がふさわしい。何やら不気味なオーラに包まれながら、今までおとなしく掃除をしていたはずのチアキが渦中に飛び込んできた。
「誰がバカ野郎だ!誰がっ!」
「たとえば・・・お前だよ。そこの女の尻に敷かれたハリネズミ」
「オレかよ!!」
「たとえば・・・お前だよ。そこの女の尻に敷かれたハリネズミ」
「オレかよ!!」
普段は一見おとなしく、何を考えているか分からないミステリアスな雰囲気を纏ったチアキは、リョータにとってカズミと並んで苦手な存在だった。
それ故にあまり話したこともなく自分が話を振られることはない・・・と、たかをくくっていたのだが。
それ故にあまり話したこともなく自分が話を振られることはない・・・と、たかをくくっていたのだが。
「お前、さっきのチョーク‥‥いったいどこから取ってきた?」
「え・・・それは、その」
「え・・・それは、その」
リョータは急に気まずそうな顔をする。
それもそのはず。もしかしたら本人の所有物かも知れないものを、その場のノリで勝手に奪い取ったのだから・・・。
それもそのはず。もしかしたら本人の所有物かも知れないものを、その場のノリで勝手に奪い取ったのだから・・・。
「ゴメンナサイっ!南の頭に刺さってたヤツを抜き取りましたっ!!」
「・・・そうか」
「・・・そうか」
呟きながら、チアキは自分の頭にあるホイップの部分に手をやる。
そこには確かに、指が一本入りそうな‥‥チョークがさっきまで刺さっていたような形跡があった。
そこには確かに、指が一本入りそうな‥‥チョークがさっきまで刺さっていたような形跡があった。
「なぁ、南・・・ひとつ聞いていいか」
「何だ」
「その・・・頭にチョークを刺して髪飾り代わりにするのも、お前のファッションのひとつだったのか‥‥??」
「そんなファッションがどこの世界にあるんだこのバカ野郎ッ!!」
「何だ」
「その・・・頭にチョークを刺して髪飾り代わりにするのも、お前のファッションのひとつだったのか‥‥??」
「そんなファッションがどこの世界にあるんだこのバカ野郎ッ!!」
リョータのまるで珍獣を相手にするような、たどたどしい問いかけに呆れつつも答える。
チアキは大きなため息を一つついて、くるりと回れ右。
そこには、チョークを野に放って今回の騒動となる元凶を作り出した張本人がいた。
チアキは大きなため息を一つついて、くるりと回れ右。
そこには、チョークを野に放って今回の騒動となる元凶を作り出した張本人がいた。
チアキの眼力がもう既に言葉を発していた。
『またお前か』・・・と。
『またお前か』・・・と。
「‥‥イヤっ、何でそこでいきなりオレになるんだよチアキっ!!」
「ここまでバカなことをするヤツを、私は二人しか知らない」
「ここまでバカなことをするヤツを、私は二人しか知らない」
グーになったままの右手を出すと、その人差し指と中指でたった二つのカウントを開始する。
「一人は私の愚姉であるカナ・・・だがカナは中学生だ。当然、小学校(ここ)にいるはずもない。となると・・・」
チョキの指を、そのまま目の前の人間‥‥マコトに突き出した。
「お前以外に誰がいるんだよ、このバカ野郎!」
「だから勘違いだって言ってんだろ!!オレはシュウイチにチョークをぶつけようとしただけで・・・・あ」
「だから勘違いだって言ってんだろ!!オレはシュウイチにチョークをぶつけようとしただけで・・・・あ」
隣にいたシュウイチが小さく「バカ‥‥」と呟いて顔を伏せた。
「・・・ポリバケツを持ってこい。今すぐだ」
「イヤソレ無理むりっ!いくら何でも腕が───」
「うるさいよっ!バカでどうしようもないバカ野郎はバカみたいに大きなポリバケツでも持ってればいいんだよこのバカ野郎ーっ!!」
「う・・・うあああぁあああぁああぁぁぁあぁんっ!!!ハルカさぁあーんっ!!」
「イヤソレ無理むりっ!いくら何でも腕が───」
「うるさいよっ!バカでどうしようもないバカ野郎はバカみたいに大きなポリバケツでも持ってればいいんだよこのバカ野郎ーっ!!」
「う・・・うあああぁあああぁああぁぁぁあぁんっ!!!ハルカさぁあーんっ!!」
泣き叫びながら、廊下へと走り去っていくマコト。
「‥‥アイツ、今ハルカ姉さまの名前を口にしたな・・・せっかく空のポリバケツで我慢しといてやろうと思ったんだが、やっぱりいつも通り水も追加しておくか」
「あ、あははは・・・」
「あ、あははは・・・」
遠ざかっていく叫び声を苦笑いで見送る一同。
ふと、聞こえてくるチャイム。
ふと、聞こえてくるチャイム。
‥‥それは授業開始、5分前を告げる予鈴のチャイムだった。
「‥‥ありゃ?」
「このバカ野郎ども・・・今が、いったい何の時間だったか言ってみろっ・・・!」
「このバカ野郎ども・・・今が、いったい何の時間だったか言ってみろっ・・・!」
チアキの獲物は箒。だが他の面々の手には・・・何もない。
戦いで言うならば、戦意喪失。ぶっちゃけ掃除する気なんかありませんよー、という何よりも明確な意思表示でもあった。
戦いで言うならば、戦意喪失。ぶっちゃけ掃除する気なんかありませんよー、という何よりも明確な意思表示でもあった。
「よ、よーし!みんなっ、頑張って掃除をするぞーっ!!」
「「「おーっ!!」」」
「「「おーっ!!」」」
いち早くチアキの怒りを察したチカが号令をかけると、まるで蜘蛛の子でも散らすようにそれぞれの持ち場へと離れていった。
チアキの「まったく・・・」という呟きは、みんなの耳に入ったのか入っていないのか。
チアキの「まったく・・・」という呟きは、みんなの耳に入ったのか入っていないのか。
「チアキちゃん、ごめんね・・・うちのリョータが」
「‥‥いえ、こちらこそうちのマコトが迷惑をかけまして」
「‥‥いえ、こちらこそうちのマコトが迷惑をかけまして」
向かい合ってお辞儀する二人。
一致団結した時の力は小学生といえどもすごいもので、予鈴がなるまでほとんど手付かずだった掃除を瞬く間に終わらせてしまう。
やるべきことをやり終えて一息ついてるチアキの横には、同じく先ほどまで掃き掃除をしてたチカがいた。
一致団結した時の力は小学生といえどもすごいもので、予鈴がなるまでほとんど手付かずだった掃除を瞬く間に終わらせてしまう。
やるべきことをやり終えて一息ついてるチアキの横には、同じく先ほどまで掃き掃除をしてたチカがいた。
「アイツ、昔っからあぁなのよね・・・普段はただのバカなのに、遊びや食べ物のことになると途端に悪知恵を働かせるよーなヤツで」
「マコトなんて何があっても常にバカだぞ」
「あはは・・・でもいいじゃん、分かりやすくて」
「どうだろうな。私の明晰な頭脳にはあのバカは合わないらしい」
「ふふ、どうだろうね‥‥」
「マコトなんて何があっても常にバカだぞ」
「あはは・・・でもいいじゃん、分かりやすくて」
「どうだろうな。私の明晰な頭脳にはあのバカは合わないらしい」
「ふふ、どうだろうね‥‥」
意味ありげな笑みを浮かべながら、またいつもの二人とバカ笑いをしているリョータを一瞥する。
「でもあんなバカなやつだけど、たまに私じゃ思いもつかないようなことをやってたり‥‥なんかアイツといると、飽きないのよね」
「そうか・・・チカは大人だな」
「そうかな?慣れてるだけだと思うよ」
「そうか・・・チカは大人だな」
「そうかな?慣れてるだけだと思うよ」
5の2の教室に本鈴のチャイムが鳴り響いた。
それに伴い、各々教科書やノートなどの勉強道具を準備し始める。
それに伴い、各々教科書やノートなどの勉強道具を準備し始める。
「私も行かなきゃ。じゃ、また後でね!」
軽く右手を上げて自分の席へと走り去っていくチカ。通りすがりにリョータの頭をこつんと小突く姿が見えた。
チアキも席へと歩を進める。マコトはというと、いまだに教室の端で律儀にポリバケツを抱えている。
チアキも席へと歩を進める。マコトはというと、いまだに教室の端で律儀にポリバケツを抱えている。
自分とは全く思考回路が異なる人間。
でもそれゆえに、自分じゃ考えもつかないことを思いついてしまう人間。
でもそれゆえに、自分じゃ考えもつかないことを思いついてしまう人間。
「まぁ、そういう考え方もあるか・・・」
授業が始まる。
5年2組は今日も平和だ。
5年2組は今日も平和だ。
- GJ!!!チカとチアキのコラボ最高すぎる!もうこのままコレでいったほうが良いんじゃねーか? -- 名無し (2009-04-26 04:27:10)