これは物語。例題であり、御伽噺であり、少女が紡いだ黄昏の詩編でもある。
世界を夢見た少女がいた。あるいは、顔も知らぬ誰かを愛した少女でもあった。
遍く人々、遍く世界に穏やかなる平穏をと願う少女だった。
だがその時既にして地上の世界は、彼女が生まれるよりも遥か昔に滅び去り、
終わってしまった世界の果てで、人はゆっくりと死の時を待つのみであった。
地上は冥府。祈るべき神さえ死に絶えた、人という種に遺された世界の黄昏。
少女は、そこで世界を救う夢を見た。
天国を作り上げた母と、地獄を遠ざけた父との間に生まれた彼女は、
果て無きものを求め必死に手を伸ばし続けた。
そして、全てを失った。
……少女はどうなりますか?
夢を失い、愛を失い、命を失い、形を失い、
その果てに抱いた「生きたい」という願いすら叶うことなく、
救おうとした世界に殺される少女は、ただ諦める他にないというのか。

バルタザールたる私は愛の証明を望む。
メルキオールたる私は可能性の揺らぎを論じる。
カスパールたる私はただ愚かなる者を嘲笑う。
人の世の終わりまで永久に繰り返されるその問いに、
我らは唯一無二の絶対なる解答を探求する。
あなたの/きみの/お前の選ぶ答えを、
その全ては我らは赦そう。



Question:世界の何処にも居場所がない者は、果たしてどうなる?





   ▼  ▼  ▼





 これは夢だ。
 そうに決まっている。そうでなければ辻褄が合わない。
 これは、言わば稚児の夢なのだ。
 あの時こうしていたら、こんなことをしなかったら、あるいはもっと違う道があったのではないか。
 そんなIFをどうしても考えてしまう、その夢がきっとこれなんだ。

「お前はこれを夢だと思うか?」

 はい。
 だって、そうじゃなきゃおかしいじゃないですか。
 あなたはもうどこにもいないのに。夢でしか会えないのに。
 なら、これは、きっと夢です。

「……まあ、お前がどう思おうが俺はどうでもいいけどな」

 ああ、うん。
 おかしいな、やっぱり涙が出てくるや。

「なに笑ってんだお前」

 ああ、いえ。なんでもないんです。
 あなたがあんまりにも記憶のままなので、我ながら都合の良い妄想を見てるんだなぁって。

「……」

 ……ね、妄想さん。
 私はですね、実は結構泣くのが好きなんですよ。

「その割には、俺はお前が泣いてるとこ見たことないんだが」

 見せつけるのは好きじゃありません。涙はどうしても、見ている人まで悲しくさせちゃいますから。
 私が涙を好きなのは、それはいつも泣きやむことと一緒になっているからなんです。
 どんなに悲しくてもつらくても、涙は悲しみと共に流れて心を少しだけ軽くしてくれる。
 きっと、涙は泣きやむその時のために流れてくれるんだと思います。

「ずっと強がってたのか」

 はい。ずっと我慢してました。
 泣きたくなって、逃げたくなって。その度に我慢して、心の奥に押し込めて。
 私は最初からずっと、こんなに弱い人間だったんですね。
 ……笑いますか?

「いいや。ようやく、本当のお前が見えたような気がするよ。
 思えば俺達は、互いのことも大して理解してなかったんだろうな」

 ええ、きっとそうなのでしょう。
 私はあなたのことを、私が知らないことを知っている大人なんだと思ってました。
 どんなことでも折れることがない、それがために英雄になった人なんだと。

「俺はお前を気狂いだと思っていた。
 叶わない理想に人生全部投げ込んで、それを何とも思わず笑って破滅していくような馬鹿だと思っていた」

 でも、あなたは本当は、結構単純で子供っぽくて、信念っぽく見えていた部分も頑固で分からず屋なだけだった。

「でもお前は、こんなに普通の人間で、ただ強がってるだけのガキだった」

 おかしいですね。私達、ずっと互いのことしか見ていなかったのに。

「ああ。ずっとお前だけは助けるって思っていたのに」

 こんなに相手のことすら見えてなかった。
 話してみなきゃ分からない。そんなの言われてみれば当たり前のことなのに。

「そんなもんだ。相手のことを分かった気になって、実は違ったり衝突したり、裏切られたとか逆恨みしてみたり。
 だから話がしたいんだ。俺もお前も、これでようやく本音で向き合えるようになったんだから」

 今更ですよ。
 手遅れとか、私が言えたものじゃないですけど。でも、やっぱり手遅れなんです。

「案外そうでもないさ。だから、な」

 ……。

「たった一言でいい。■■■■を言ってくれ。
 男は馬鹿で単純だからさ。その一言さえあれば、誰だってそいつのヒーローになれるんだ。
 前にも言ったろ? 主人公ってのは無敵なんだぜ」

 ……。

「強がりだったんだろ? ずっと我慢してたんだろ?
 ならもうその必要はない。ガキならガキらしく、好きに我儘を言っていい。
 俺はお前にそれを望む。お前にこそ、それを言ってほしい」

 ……私は。

 私に、それが許されるのだろうか。
 間違い続けて、彷徨い続けた。
 どこまで行っても半端者で、何かを為すこともできなくて。
 でも、それでも。
 それでも、一つだけ我儘を言っていいのなら───

「さあ」

 ……どうか。
 どうか、お願いします。

 一度だけでいい。
 夢でも構わない。それでもいい。
 たった一度だけ、私にも願わせてほしい。

 私を───


















「私を、助けて……っ!」

「───ああ、任せろ!」

























   ▼  ▼  ▼








Answer:知れたことさアルトタス。《世界の敵》が救うまでだ。








 ────────────────────────。





「命を求める叫びを聞いた」



 ガラスの割れる音を聞いた。
 そんなものはどこにもないのに。
 世界を隔てる境目、そこが割れる音。



「世界が、お前を見捨てるなら」



 誰かの影が降りてくる。
 光だけが充ちるこの場所に差す、たった一つの影。



「喪失に、お前が涙を流すなら」



 それはあまりにも眩しい、ひとりの男の姿。



「お前が生を渇望する限り。俺は、世界を裂いて顕れよう」



 周囲の光景が霧散する。
 地面に降り立った彼は、その腕の中に抱いた少女に視線をやり、語りかける。

「よく、頑張ったな」

「セイバー、さん……」

 信じられない光景だった。
 そこにいたのは、見間違うべくもない顔カタチ。
 セイバー、藤井蓮
 死んでしまったはずのアイのサーヴァント。
 その彼が、今確かにここにいて。
 消えるはずだったアイを抱いて降り立っていた。

「言っとくが夢なんかじゃないぞ。これも今更な話だけど、お前に万仙陣は通じないからな。
 れっきとした本物だよ。自分の頭疑うつもりならやめとけ」

 アイの耳にはもう、何も入ってこなかった。
 見えるはずのサーヴァントステータスがまるで見えないこととか、彼の言う「覇道神の触覚」がどうのとか、まるでどうでもよかった。

「……セイバーさん」

 それ以上は何も言えなかった。
 鼻の奥につんと刺激が走り、それはたちまち涙腺にまで及んで、喉からはひうと言葉にならない声が漏れ出た。
 アイは肩を震わせ、頭をセイバーの───今やサーヴァントですらないただの藤井蓮の───胸に預けた。体中の水分を流し尽くしてしまいそうな勢いで、涙は後から後から溢れてきた。叫びすぎては肺を痛め、それでも嗚咽は止められず。激しくせき込んではまた泣き出した。
 箍が外れてしまったように。
 今まで我慢してきた分を、全て出してしまったように。
 蓮は何を言うこともなく、ただそれをじっと見守っていた。

「私、何も分からないんです」

 どれだけ時間が経った頃だろう。
 未だ抑えきれない嗚咽の響きの中で、アイはぽつりとそんなことを言った。

「分からないままなんです。セイバーさんがいなくなった後、私はずっと考えてました。
 世界を救うこと、誰かを救うこと、私のこと、みんなのこと。
 でも分からなかった。これだって思える答えを出して、でも自分でそれを受け入れることもできなくて……迷って、戸惑って、そればかり」

「……」

「私、みんなのことが好きです。でも、私は止められなかった。手を握ってあげることもできなかった。
 お母様は私に幸せになれって言ってくれて、お父様は私に生きろって言ってくれて……それなのに、私にはこんなことしかできない!」

 アイは叫んだ。それは心の澱みだった。綺麗ごとでずっと蓋をしてきた、アイ自身にもどうにもできない鬱屈の群れだった。

「……生きるってなんですか?」

 心が乱れて、声の震えを抑えることができない。
 顔を上げ、涙をこぼした表情で蓮を見上げた。

「人間ってなんですか? 世界ってなんですか?
 私はこの世界が好きで、みんなのことが好きで、誰にも泣いてほしくなくて、幸せになってほしくて……でも、それだけじゃ、何も変えられなかった!」

 無様に迷って、答えを出すことすらできなくて。
 その果てに「そうなのかも」と思った言葉すら、自分で実践することも認めることもできなくて。
 何たる欺瞞。愚かで無知で何の価値もない塵屑。
 そんな小娘の嘆きを、彼はただ黙って聞いてくれて。

 そして。

「……やっぱ相変わらず馬鹿だな、お前は」

 何とも軽い調子で笑い飛ばした。
 アイはそれを見た。目の前にあったのは、強がるでも自嘲するでもなく、ただどこまでも明るくて、誇らしげな笑みだった。

「その場の決意は、その場の答え。一事が万事に通じるようなものじゃない。
 その曖昧さこそが人間。お前はそこから間違えていたんだ」

 迷っていい。定まらずとも構わない。
 愚かで無知で自分に自信を何も持てず、己の瑕疵を認めることさえできずとも。
 ご覧の通りだ。人は例え空虚になろうとも何かが起こってくれるのだと。
 誇るように、あるいは見せつけるように。語るこの人は誰よりも眩しかった。

「だから、そうだな……お前はそれを探すといい」

 穏やかに示したのは、正誤定まらぬ境界線の向こう側。
 果て無き航路を往く旅人たれと告げながら、神様に成り果ててしまった"いつかの私(かれ)"は、羅針盤を授けるように無明の道を口にした。

「答えの貴賤に囚われるな。世界のどこにも居場所がないとしても、自分の立ったその場所こそお前の小さな居場所だよ」

 それだけを言って、蓮はそっとアイから手を離す。まるで独り立ちする子供を見守るかのように。
 アイも同じ気持ちだった。蓮の手から離れ、よろけながらも自分の足で立ち上がる。そして、彼と向かい合う。

「なあ、お前はこれからどうしたい?」

「……さあ。よく分かりません」

 涙はいつの間にか止まっていた。
 目頭はまだ熱いし声も震えたままだったけど。それでも。

「将来の夢とかよく分かりません。私はまだ村の外に出たばかりですし、世界のことなんかまるで分からないんですもの。
 ですから、ええ」

 アイは笑った。強がりでもなく、自嘲でもなく、誇らしげに笑顔を浮かべた。

「これから探してみようと思います。もう少しだけ自信を持って、もう少しだけ他人に頼ってみて」

「ああ」

「ですから私は───生きて、みたい」

「ああ。ああ、そうだな」

 そこでようやく、周りの光景が見えてきた。
 そこは暗がりだった。真っ白で凸凹した地面と、空の全てを覆う漆黒だけが存在する無明の世界。
 空に星々が瞬き、しかし月の明かりはなく。遥か遠くに大きな青い星が見えた。

 そして全てを包むかのように、大気の震えではない声が響き渡る。


 ───ああ、なんと哀れな。救ってやろう。

 ───怒って、悲しんで、傷ついて、我慢して。つらかろうよ、痛かろうよ。

 ───恐れることはない。お前たちは救われるべき人間なのだから。


「なら、こいつをさっさと片付けないとな」

 蓮が静かに告げる。アイはその隣に並び立つ。
 溢れ出るものが見える。それは物質ではない何かとして、夢ではない現実として。
 空を覆い、世界を覆い、尚もアイたちへと迫りくる暴威として。

「夢を見たい。その気持ちは痛いほどに分かります。
 でも夢を叶えられる場所は現実だけだから。まず夢から覚める必要があるんです」

 なんという矛盾だろう。人はどこまでも不出来な代物で、彼の提示する救済を受け入れるにはあまりにも未熟すぎて。
 だからこそ。

「私は生きます。生きて、そして明日へ行きます。
 みんなが生きる世界を、私はこの目で見る! 美しくても、醜くても!
 それが私の───命の答えだ!」


【空費時間終了。世界が目を覚まします】


【アラヤに情報が登録されました】


【クラス】
ビースト

【真名】
黄錦龍@相州戦神館學園万仙陣

【ステータス】
筋力E 耐久EX 敏捷E 魔力EX 幸運E 宝具EX

【属性】
混沌・善

【クラススキル】
獣の権能:A
対人類、とも呼ばれるビーストクラススキル。
英霊、神霊、人間なんであろうと、願いや欲望を持つ者に対して特効性能を発揮する。

単独顕現:A
ビーストクラスのスキル。単独行動のウルトラ上位版。
このスキルは“既にどの時空にも存在する”在り方を示しているため、時間旅行を用いたタイムパラドクス等の攻撃を無効にするばかりか、あらゆる即死系攻撃をキャンセルする。

根源接続:A
其れは人界から生じ、阿頼耶識を辿るもの。
太極より両儀に別れ、四象と廻し、八卦を束ね、世界の理を敷き詰めるもの。
即ち、万能の願望器の証。夢界八層を乗り越えたる衆生の救世主。
このスキルを持つ者にとって、通常のパラメーターは意味のないものとなる。

【保有スキル】
盧生:EX
ある種の"悟り"を開いた人間の証であり、人類の代表者とも称される「阿頼耶識を理解できる」資質を持つ者のこと。
邯鄲の夢から己の思想に沿った神仏・超常的存在を呼び出す「召喚術」の他、
普遍無意識と繋がった窓を介して全人類が無意識下で共有している心の海の過去・現在・未来すべての情報を閲覧する「千里眼」のスキルをも内包する。
後天的な根源接続者であり、阿頼耶識からの無制限のバックアップを得る。
このスキルを持つ者は悟りにより存在階梯を上位に置いているため、疑似的とはいえ同ランクの菩提樹の悟りに匹敵する対粛清防御を纏う。

邯鄲法:EX
夢界において発現する超常現象を制御する術。
大別すると五種、細分化して十種の夢に分類される。邯鄲法を極めた存在であり資質に限界は存在しないが、彼の場合闘争を旨とする戟法と盾法の資質は皆無に等しい。

桃園の殻:EX
彼の精神は彼自身の内的世界に閉じており、外界を認識することはない。
如何なる言葉、如何なる干渉すら彼には届かず、たった一人で自己完結した等身大の宇宙そのもの。
彼が自己以外を認識しない限り、どのような干渉も彼には意味を為さない。

領域支配:EX
陣地作成の上位互換スキル。
最早生態の域で展開される急段・万仙陣は秒で数十億の眷属を生み出し、三日とかからず全世界を己が影響下に置くだろう。
誰もが夢に酔い痴れる爛れた理想郷の創造。とうの黄自身も混じり気のない善意と絶大な人類愛で夢を具現している。
故にその夢は優しく、そして皮肉にも彼の救済の願いは世界を滅ぼすのだ。阿片が齎す幸福の中で焼け落ちた彼の故郷、黄錦龍の原風景のように。

ネガ・デザイア:EX
ビーストとしてのスキル。
あらゆる願いを叶える願望器として在る彼の前では、聖杯に託す願いを持つ者はあらゆる力も輝きも色彩も失ってしまう。

【宝具】
『桃源万仙陣』
ランク:EX 種別:対人理宝具 レンジ:1~99999 最大捕捉:7200000000
第一宝具。原罪のⅤ。ビーストが有する五常・急ノ段。遍く人類を救済する大偉業。あるいは対冠宝具とも呼ぶべき代物。
「衆生よどうか救われてくれ」という人類賛歌に対し、「良い夢を見たい」と合意を示すことで発動条件が成立する。
人は自らの内的世界に沈みこみ、現実を消失することでやがては自我すら解きほぐされ、理性を蕩かされる。
どれほど屈強な肉体、防御装甲があろうと一度合意が成立してしまえば意味を為さず、生まれたばかりの生命であるかのように無力化し、文字通りの羽化登仙となる。
俯瞰的視点に立った場合、世界とは一人が諦めるたびにまた一つ消失していくものだが、この場合は全く別の新たな世界が構築されてしまう。
すなわち無限増殖する人造のシャルノス。苦界である現実から解放されるその末路は、見ようによっては救済と呼ぶこともできるだろう。

『四凶渾沌・鴻鈞道人』
ランク:EX 種別:奉神宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:1000
五常・終ノ段。封神演義において天地開闢以前の混沌の擬人化とされる仙人であり、同時に道(タオ)そのものとも言われる。
最上位の神仙すら意のままにする丹の持ち主であり霊宝天尊・元始天尊・道徳天尊の師であるとも言われているが、これらは後年の創作であり本来なら実在しない架空のもの。
つまりは非実存の存在であり、にも関わらず万民の支持を得て神格にまで昇華された。
その姿は目も、耳も、鼻も、口も存在せず数億もの触手で編みこまれた翼と獣毛の塊としか表現出来ない神格。
沸騰する無限の中核に潜む渾沌の如きおぞましさ。森羅万象、あらゆるものは彼が見た夢にすぎない。
万仙陣と接続し力の供給源となっており、そのため何ら破壊的な活動は行わない。万仙陣を地球全土に広げ、全人類を白痴の王の揺り篭へと誘うのみである。
しかしその神威は圧倒的であり、これに触れた者は同じく七穴を塞がれた盲目白痴の理へと絶頂しながら堕ちていく他に道はない。
永遠を欲し死を恐れ、美しき黄金の日々を求め、遠き日を夢見て果て無き無限に追い縋る。
それは誰もが追い求めてやまぬ場所、すなわち永遠なる今日の具現。
故にこの宝具に対抗できる人類は一切皆無。悟りに達した覚者のみが、この夢を否定し得る。

【人物背景】
人類史においては中華における20世紀最大のマフィア・ギャングスターであり、人理においては歴史より抹消された第四の盧生こそが彼である。
生まれながらに膨大な世界観を有しており、そのため他者と正常な意思疎通を取ることができなかった。幸か不幸か彼の生まれは精神が冒された者ばかりが集う阿片窟の底であり、彼はその場で"幸福"に満ちた幼少期を過ごす。
彼が「人間」という概念を理解した時、生まれたのは疑念だった。何故彼らは外界への感情行為を至上とするのだろう、そこに幸せは何もないのに、と。
元来自己の内にのみ閉じこもって完結するはずだった彼が、「他者」という外界へ意識を向けてしまったこと。それが全ての陥穽であり始まりでもあった。
他者を救うという彼にとって最大最悪の矛盾を至上命題としてしまったことにより、やがて彼は人類救済機構である夢界は八層試練へと到達し、近現代における偽りのセイヴァークラス「盧生」に至る資格を獲得する。
かくて彼は第四盧生として世界に降誕するが、前述したように彼の在りかたには大きな矛盾が存在した。
人は全て自己世界に完結すべきと断言しながら、彼の行動原理は他者を救うという外界へ発露したものとなっている。
万仙陣が真に彼にも適用されるならば、彼が見る彼だけの世界の中で人類は救済されるはずだが、彼は現実における人類の救済こそを望んでしまった。
その在りかたは万能の願望器───聖杯とも酷似したものとなり、第一の聖杯戦争によってもたらされた奇跡は彼という願望成就の器を第二の聖杯として月へと降誕させるに至った。

以上の本性を以て彼のクラスは決定された。
聖杯なぞ偽りの器。
其は個人が到達した、人類を最も端的に救う大災害。
その名をビーストⅤ。
七つの人類悪の一つ、【愛玩】の理を持つ獣である。
最終更新:2020年04月26日 11:32