シータの過去

記憶の欠片~シータの場合~

それはシータがまだ両親と共にエリンディル中を旅して回っていた頃の話―――。

シータは両親に連れられ、エリンディル各地にある様々な遺跡を巡って旅をしていた。
シータの両親であるルイスとミランダは、マジェラニカでは名の知れた優秀な錬金術師であり、彼らは各地の遺跡にて何かの調査を行っているようであった。
当時のシータはまだ6歳という年齢ではあったが、両親から庭園術を習っており、彼女自身も錬金術師の端くれであった。

そうして旅を続けること1年の月日が流れたある日。
シータたちはエリンディル西方にあるライン王国に立ち寄る。
その頃のシータは既に庭園術の基礎を習い終え、幼いながら大人顔負けの庭園師となっていた。
両親によって王国内にある神殿へと連れられてきたシータは、神官長であるリードと出会う。
どうやら彼はルイスとミランダの旧い友人であるらしく、久々の再会に皆、和気藹々(わきあいあい)としていた。
すると突然、両親が驚くべきことを口にした。
なんとシータを一人、この神殿に残していくと言うのである。
無論、シータも付いて行くと言って聞かなかったが、そこで両親はこんなことを言ってきた。
「ごめんね…シータちゃん。パパとママ、まだハネムーンに行ったことがなかったの。シータちゃんももう庭園師として一人前になったことだし、少しだけ、パパとママに二人っきりの時間をちょうだい♪」
「…。」
そんなことをいきなり子供に、しかも陽気な口調で言ってくる実の親を見て、子供ながらにシータは何も言い返すことができず、しぶしぶ両親の言うことに従うことにした。
そうして、両親は二人っきりでハネムーンに旅立ち、シータの神殿での生活が始まった。

それから1年の月日が流れる―――。
シータは神殿でのリードとの生活にも慣れ始め、最近ではリードに神聖魔術を教えてもらったりもしていた。
リードはまだ20代後半といった年齢でありながらも、この神殿の神官長にまで登り詰めた優秀な人物であり、その穏健な人柄からこの国の民に信頼を寄せられていた。
また、シータは両親と手紙のやり取りをしていた。
その文面はいつも楽しげな旅の様子が綴られており、なんとなくいつになったら帰ってくるのかなどとは言い出しづらい雰囲気を醸し出していた。
そうは言っても、リードを始めとするライン神殿の神官たちはシータに優しく接してくれるため、寂しさを感じるようなことはほとんどなかった。

そして、ある日のこと。
シータが毎日の習慣となっている神への祈りを捧げていた時のことだった。
シータは突然、頭に鋭い痛みを感じ、頭をおさえてうずくまる。
すると程なくして、頭の中に誰かの声が響いた。
それからも、時折その声はシータの頭の中に聞こえてくるようになった。
始めはぼんやりと、しかし次第にその声は鮮明なものとなっていき、シータに何かを伝えようとしてくれているのがわかった。
伝えようとしている内容はその時々で異なっていたが、その声はシータ自身や身近な誰かの身の危険を知らせてくれるようなものが多く、事実、その教えによってたびたび危険を免れることもできた。
その声のことをリードに話すと、それはきっと神様のお告げだろうと言っていた。
神様に愛された人間が、時折その声を聞くことがあるのだとリードは話してくれた。
そうしてシータは、いつしか多くの人たちから『神子(みこ)』や『神使(しんし)』などと呼ばれるようになったのである―――。
最終更新:2016年11月06日 21:26