葛西希美SS 港河先輩
※このSSは、2年位前に書いた、葛西希美と港河真為香のSSとなります。
葛西希美を流血少女✿に参戦させるにあたっての応援投稿として、また港河真為香のプレイヤーであるほまりんさんの希望がありましたので、公開するに至りました。
今に増して読みにくい部分がありますが、ご了承下さい。
「そう言えば希美ちゃんって港河先輩みたいだよね」
「港河先輩?」
「あっ、希美ちゃんは途中から入ったから知らないか。港河先輩。いつも駅員のような服装をして登校する先輩が前いたんだよ」
「それはまた凄い・・・」
「希美ちゃんはいつも駅員の格好はしないの?」
「あれは戦う時の正装だから普段からするものではないよ」
「私はあの格好好きなんだけどな」
「勘弁してよ。さすがにあの格好で授業は受けたくない」
「冗談だって」
「でもそういう格好をすると言う事は、港河先輩って武道の鉄道をやっていたの?」
「鉄道じゃなくて合気道だったかな?片腕だったけど凄く強かったよ。本人は魔人ではないと言い張ったけどあれは魔人だよ」
時々、私は友達から港河先輩みたいだと言われる。その港河先輩も交通機関の鉄道が好きで、妃芽薗学園に鉄道好きがほとんどいない事から、そう例えられていることが多いみたいだ。ただ、「でも希美ちゃんの方がしっかりしてるよね。港河先輩をなだめていそう」と付け加えて言われる事も多い。
そこまで言われるのなら、是非一度港河先輩に会ってみたいのだが、その話を出すと皆が暗い顔をして話をやめる。おそらくそういう事なのだろう。
ハルマゲドンに巻き込まれたんだと。
私は高校になってから編入した立場であるが、一度学校の雰囲気が明らかにおかしくなった事があった。そしてその後、何名かの生徒がいなくなった。その生徒の事を聞くと、暗い顔をして話を止める者が多かった。
その時はまだ分からなかったが、今考えてみれば、あれはハルマゲドンだったのだろう。港河先輩は、私が入学する前のハルマゲドンでそういう目に逢ったのだと思う。
そして、私もハルマゲドンに巻き込まれた。
私はその時、部長連穏健派としてハルマゲドンを止めようとしていたが、それも叶わず、ハルマゲドンが発生してしまった。
その最中、生徒会の御原さんの槍に貫かれ、私は倒れた。
そこから先の事は記憶が混濁している。過去の思い出が吹き出したような気がする。遠征先で行った記憶のある希望崎学園にいたような気がする。鉄道の強さを証明する機会だと言われ、大会に出たような気がする。ただ、いずれも余りにも現実感が無く、きっとこれは死後の世界を巡っているんだと思った。
気づくと私は列車の中にいた。
鉄ちゃんの癖として、車内を見渡した。山吹色のシート、稲穂の柄のついた扉…。これは…秋田新幹線E6系だろうか?
「希美ちゃん!もうすぐ盛岡だよ!ここではやぶさとこまちが分割されるんでしょ!凄いね!!」
隣の乗客がやけに親しげに話しかけてくる。
「…どちら様でしょうか」
「何言ってるの!希美ちゃん!真為香だよ!港河真為香だよ!」
港河真為香…まさか、目の前の人物が港河先輩だと言うのだろうか?
それを裏付けるように、隣の乗客は駅員のような格好こそしていないものの、港河先輩の特徴である三対の三つ編みをしており、かつ右腕が義手であった。
「港河先輩ってハルマゲドンで…」
「全くあの時は大変だったよ。けど何とかなったからこうして秋田に行けたんじゃない。計画も希美ちゃんが立てたんでしょ!」
そう言うと、港河先輩は紙を渡してきた。なるほど、私の字で秋田と青森を巡る旅のルートが事細かに記されていた。
この旅行計画はいつ立てたのだろうか?どうして会ったことの無い港河先輩と一緒にいるのか?そもそも港河先輩はハルマゲドンを生き抜いたのだろうか?もう訳が分からないが、死後の世界なんだから何でもありだろうと港河先輩を受け入れる事にした。
港河先輩は現在は妃芽薗学園を卒業し、名古屋に暮らしているという。私とはOGとして妃芽薗学園を訪問した時に意気投合し、今度一緒に秋田・青森に行こうという話になったらしい。
港河先輩は聞いた通りの人だった。私と同じで鉄道が好きで、特に新幹線の事となるととても熱くなり、私でも港河先輩の話についていけなくなる程だった。一方、それ以外の知識についてはあまり詳しくなく、クハやモハの違いについて語ると「へーそうなんだ」と言った。
また、ちょっと危なっかしいところもあり、先頭車両にかぶり付き、大声を出そうとしていた港河先輩を必死に止めるような事態もあった。
秋田駅に着いた後、バスに乗り、秋田港にあるセリオンに寄った時には、一緒に広大な景色に感動した。
「うわーっ!海って広いね!って希美ちゃん!何見ているの?」
「秋田港に止まっている貨物列車を見ています」
「そう言えば!こうして見ているとNゲージみたいだね」
セリオンからの帰り、秋田駅での列車の待ち時間では、港河先輩は双子の姉へのお土産を考えていた、
「先輩、何を探しているのですか?」
「お姉ちゃんにお土産を買おうと思っているんだ。甲殻類じゃないけどハタハタでも買って帰ろうかなぁ?」
秋田駅から観光列車のリゾートしらかみに乗った時には、港河先輩が大はしゃぎし、それを止めるのに必死だった。
「何これ!先頭がよく見えるじゃん!出発進行!」
「車内で騒ぐのはやめましょうよ…」
宿の不老ふ死温泉では、温泉を存分に楽しんだ。
「こんなところに露天風呂が!海に近すぎない?」
「先輩…、こっちは混浴ですよ…。大丈夫なんですか?」
「別に?混浴だから入っていいんじゃないの?」
青森駅に着いた後に寄った八甲田丸では、昔の鉄道に思いを馳せた。
「希美ちゃん、船の中に列車があるけどどういうこと?」
「昔はこの船で北海道に列車を運んでいたんですよ。って青函連絡船を知らないんですか!?」
「んー新幹線以外はよく分からないかな」
港河先輩との旅行は私にとって騒がしかったけど、とても楽しいものであった。
青森からの帰りの新幹線はグランクラスで、どうしてこんな豪華な席をと港河先輩に聞いたところ、せっかく遠くまで行くんだからと奮発したようだった。グッジョブ!この旅を計画した自分!
サービスの軽食を口にしながら、のんびりしていると、急に港河先輩が神妙な顔をしてこう話した。
「希美ちゃんは妃芽薗学園にいたいんだよね」
「勿論です!」
「だったら東京駅で私とお別れだね」
「それはそうですよ。そこからのルートは違うんですから」
いきなり何を言っているのだろうか?自分の書いた計画表を目に通した。あれ?最終目的地に名古屋の金城ふ頭と書かれていた。さっき見たときは東京までの計画だったはず…。
慌てて切符を確認する。すると切符入れには見覚えの無い"のぞみ104号 東京→名古屋"という特急券が入っていた。乗車券も名古屋までになっている。
「あれ?こんな切符あったっけ?そもそも下り列車なのに号数が偶数?」
すると、港河先輩は、
「何も疑問を持たずに聞いて欲しい。もし希美ちゃんが妃芽薗学園に戻りたかったら、この切符を東京駅の窓口で払い戻しをして欲しいんだ」
と言った。
「どういうことですか?」
そう言うと、港河先輩は凄く悲しそうな顔をして、急に黙ってしまった。
港河先輩との旅行ですっかり忘れていたが、これはおそらく死後の世界だ。別に東京で別れる事も無いのではないか。切符もあることだし、このまま港河先輩と名古屋に行ってもいいのではないか。
しかし同時に、のぞみ104号に乗ってしまうと、永遠に妃芽薗学園に行けなくなってしまうような気もした。港河先輩との旅をもう少し楽しみたい!けど、もし現世でまたクラスメイトに会えるなら・・・!
悩んでいるうちに列車は東京駅に到着した。
東海道新幹線の乗り換え改札を前に、港河先輩はこう言った。
「決心はついたかな?」
「港河先輩、私は・・・」
とても悲しい選択だったが、
「私はこの切符を払い戻したいと思います」
「それは残念」
「けど、また別の機会で名古屋に行きたいと思います、その時はよろしくお願いします」
「うん、待っているよ!」
そう言うと港河先輩は、東海道新幹線の改札口へと消えていった。すると私は猛烈な眠気に襲われ、その場に倒れてしまった。
「…西さん!葛西さん!」
「…ん…ん…」
「葛西さん!やっと目を覚ましたんですね!」
「あれ…ここは東京駅…」
「何を言っているんですか葛西さん!5日間も意識不明で心配したんですよ!」
「港河先輩は…痛っ!」
「無理しないで下さい!傷が開きますよ!」
周囲を見渡すと、そこは病院のようだった。その横には共に戦った部長連の恋路さんが泣いていた。そして、よく分からない重々しい機器が自分の身体に繋がれているのが分かった。
今まで感じた死後の世界とは異なり、痛みがはっきりと感じられる。おそらくここは生きている世界なのだろう。
港河先輩が戻してくれたの…だろうか?そしてもしこのまま名古屋に行っていたら私はどうなっていただろうか?
その後、お見舞いに来たクラスメイトに港河先輩について詳しく話を聞くと、私が港河先輩に詳しいことに驚きつつも、私が入学する前のハルマゲドンで犠牲になったと話してくれた。名古屋の話を出すと、「港河先輩は新幹線が大好きだったからね、魂はきっと名古屋にある鉄道博物館に行っているんじゃないの」と答えてくれた。
意識は戻ったものの、入院期間は4ヶ月に及んだ。しかし、再び生きてクラスメイトに会えた事が嬉しく、入院生活も苦にならなかった。
入院明けで初登校する前、学校に無理を言って名古屋に旅行する許可を得た。港河先輩に会いに行くためだ。
勿論港河先輩が現世に居ない事は分かっている。それでも、私は行きたかった。
名古屋の鉄道博物館、リニア・鉄道館に。
そこに港河先輩の魂があるという確証がある訳ではない。ただのクラスメイトの推測だ。しかし、港河先輩との旅行の計画表に書いてあった最終目的地はリニア・鉄道館の最寄り駅の金城ふ頭だった。ならば、港河先輩はきっと…!
私は一路、のぞみ9号に乗り、名古屋へと向かった。あの時とは違い、号数が奇数の列車だ。
新幹線の乗車中、ふと、"のぞみ9号 東京→名古屋"と書かれた特急券を見て、こう思った。
"9…、できるだけ早い時間の新幹線を選んだつもりだったけど、こうして見ると苦を連想させる不吉な数字だね。
いや、考えすぎだよね。例えこの先に苦が待っていたとしても、それを乗り越えて、更に大きな幸せを掴むつもりでいかないと!"
早い時間の新幹線だったせいか、リニア・鉄道館には開館直前に着いた。平日ということもあり人もまばらだ。
入館ゲートを通ると、ふと、こんな声が聞こえたような気がした。
「会いに来てくれたんだね」
慌てて周囲を見渡したが、知っている人は誰もいなかった。
けど、私はそれで満足だった。きっと港河先輩が挨拶をしてくれたんだと。
最終更新:2020年07月29日 09:39