【多目的ホール】その2
エンジェル・トランペット、夾竹桃、ブーゲンビリア、ハイビスカス、黄胡蝶などが風に揺らぎ咲き、眩しく照りつける太陽────
────のっけからいきなり夏が来た。
薄曇のわずかにたなびく輝くばかりの蒼い空────彼女はそのキラキラと光る眼を上げた。
「ついに────😎✨キラ」
その独り占めのシーサイド・ビーチを亜麻布のワンピースに草を編んだサンダルを履いた舞台衣装で浮かれはしゃいでいる。
「ついに──── !(⸝⸝˃ ᵕ ˂⸝⸝)ワクワク」
────そこは……
「ついに────!! (⸝⸝〇˃ ᵕ ˂〇⸝⸝)ワクワク」
\(゜ロ\)
「みーーうーーにぃぃぃ………」
(/ロ゜)/
「🌊🌊👒\(*≧∀≦*)/🌊🌊キタァァァァアァァァァ────っ‼️」
ザバーン!
そう!
神星翠がいる此処は紺碧のパシフィック・オーシャン────南国の海、沖縄県・石垣島。
「ウヒョー!」
ザブーン!
前髪を作らない長い髪は歌うように揺れ、果てしなく広がる白い砂浜で可憐に咲き誇り、脚を入れる海は澄んで底の砂や小魚まで見透せる。
「きゃあ!冷たい!」
そこで行われるのは楽しいイルカさんたちとのダンス────
「マンボ♪マンボ・マンボ🌪️🦈🌊シャー!🦈🌊🌪️ヘ(≧▽≦ヘ)♪🌪️🦈🌊🦈🌊🌪️サンバ☆サンバ・サンバ!クルクル♪」
「YAーHAー‼️イヤぁぁフゥホォォーーっ🦸‼️」
手に汗握る野生のハブ対マングースの戦い────
(ハーブネッ!)
野生のハブのどくづき!
「危ない!躱せ、マングース!でんこうせっか!」
(グーザーッ!)
マングースのこうげきはハブのきゅうしょにあたった!
そして、神星翠は見た!果たして滅亡したアトランティスの古代文明の正体とは一体!?────
「ニライカナイにぃぃぃ……イッテ、Q!」
「アハハハハハハハハ──────」
……たっぷり愉快な気分になったところで、毒々しい色の小鳥が飛び去る草叢から忽然と姿を現したのは、────
「きゃあ!」
神星翠の愛犬・エクシア。♀の4歳。
エクシアは駆け寄って飛び上がると彼女は抱きしめ、明るい笑みをみせる。
「エクシア~♪久しぶりだね~~元気~~?ヤシガニ食べる?」
エクシアは尻尾を振りながら笑い転げる彼女にペロリと頬を舐めた。
(キャフゥ~ン♥)
彼女はエクシアの顔を見つめて微笑んだ。顔から滴る大量の涎も気にすることなくけたたましく笑いだした。
「やだーー!くすぐったいよぉ!」
そう言いながらも神星は嬉しそうだ。楽しげに笑う。そして、エクシアが待ちきれずに────
「アハハアハハハハハ」
「ハハハハハハハハハ──────」
────彼女の夏は、まだ終わらない。
終幕。
(※ここから先はぷらいべったーを夜間モードにしてお楽しみください)
かしゃあん。と
────世界がまた、白昼夢のルールに染め上げられていく。真っ黒に。
────これからも先は奇妙な因習と敵意ばかりが蠢く別世界。
神にすら拐かされた役者は生贄の祭壇へ────
それを象徴する常闇の舞台の緞帳が、容赦なく開いていった────
神星翠は初めてテーマパークに来た田舎の少女のようなウキウキした表情であった。
▆▇▅▇▇▅の蹂躙にまかせた胸元から乳房が転げ出ている。
一体どんな奇異き物語が、過去どれ程の少年少女の呻きや悲鳴が無情の空間に吸い込まれていったかは容易に想像できるだろう。
吹き出す不気味な風の音もすぐに高らかな笑い声にかき消されてしまった。
「~~~~」
恍惚の声が躍り、水面を揺るがせる。
渦中にひとつの顔が笑っている────勿論、神星翠である。
身に纏うもの何一つが自分を守らないということは初めてだ。
頭には愛欲の紗がかかり、焦点を結ぶ意思が神星には持てなかった。
▇▃▅は目蓋から眉間を通って鼻に移動していた。鼻先に押し当てられた。
「くすぐったいよぉ……もうっ」と神星は最初の洗礼を浴びせられた。
チュルチュルと音をたてて吸いはじめた。両脚の間では▆▇▅▇▅が欲望の行き先を探している。
▇▇▅は局部を食べるのに熱中していた。パンティはすでにぐしょ濡れだ。の唾液のためばかりではない。
闇夜でも輝くばかりの裸身には、回虫そっくりの虫がびっしりと詰り、互いに絡み合交合っている。
緩やかにうねりながら体表を滑っていった。
白い粘液を撹拌せんと進退を続ける────があった。
神星自身が分泌する愛液が、ぬめる染みと甘酸っぱい匂いを放散しているのだ。
▆▇▅▇▃がぷっくりとした乳首を掠めた時、鼻から抜けるような神星の色っぽい声が。
飛び出した乳房をすくい上げるように揉む、乳首はすでに硬く尖ってきた。
舌を口から突き出して
「もうやめてよぉ。何でもするからぁ。言うこと、きいてよぉ」
弄る白い▆▇▅▇▃。音は濡れている。
声に混ざって何やら動物のような唸り声が響きはじめた。
「あ…っ待っ、ぅ、」
嘘のように小さく柔らかくなったそこに戯れのようなキスをし、それを見て嬉しそうに笑う神星。
「じゃあ、お風呂で綺麗にしよっか♡」
興奮のあまり口の端から涎を垂らしていることさえ気づかなかった。
「~~~~~~~~」
「アハハハハハッ──────うわぁ!スゴぉい!また元気になっちゃってるよコレwww」
忍んだその先端で丹念に小さな蕾を嬲り、彼女の全身を痙攣させてから秘所へ潜り込んだ。侵入する間も、ソレは精一杯膨張した蕾を擦り、いたぶり、女に止めどなく絶叫を放たせた。
五体満足でいられることの奇蹟を理解しているのかどうか、この神星翠は、誰も知らない世界へ拉致されて玩弄の限りを尽くされた死の瀬戸際でも笑ってに従うのではあるまいか。
天にも届けとばかり、ああ、ああと叫びながら、もうイモムシのように痙攣するだけの神星を舞台の物陰から覗いていた蓮柄円は細い目を吊り上げ、ため息をつきたくなるのをぐっと堪えていた。
「ぁぁ……ほら見ろ、だから言わんこっちゃない」
大戦時、諜報員のエリート養成機関だった旧“有栖川高等学園”はナチスドイツ研究機関“アーネンエルベ”と共同で『占星術』『魔術』『錬金術』『超能力』『オカルト』をも武器にとして戦争に取り入れようとしていた。
しかし、ポツダム宣言受諾後、この国はGHQの目を欺きながら、名と形式を変えてその秘められた古の魔法と外法は歴史の闇の中へと葬られた。
幽世の境界が秘匿されてより77年、紡がれし悪魔との千の契約と幽世へと繋がる暗黒トンネルは今だ切れず……。
そう、つまりこの姫代学園には────寸分違わぬ地獄があったのだッ!
10月17日 01:20a.m. 姫代学園(裏)
陽は落ちた。
精緻な計算で基いたバロック様式のシャンデリアが時折きい、きい、と耳障りな音を鳴らした。
壁にはまるで結界のように精巧な彫刻たちが群れ囲む。
優雅な天蓋を覆う十二の窓から降り注ぐのはクロームイエローの斜陽とプルシアンブルーの重なった空を見上げて昂然と進む
天の女王。悪霊と剣を交える聖女ジャンヌ・ダルク。神の眼たち。
ただし、窓という窓は黒い闇に閉ざされていた。
現世のような燦々と陽光の入り込む学び舎とはまったく違う色彩。まるで墓場のように。どれも皆も魂のカケラも感じさせないほど動かない。
物音も、人の気配もない。しかし、居る。
ワイン・カラーの絨毯には散らばり腐り果てた木製のテーブルとうず高く積まれた長椅子たち。木霊の燐光がさしめぐむさなかに独りの少女が踞っている。
抱き抱える巨大な鋸鎌と皎いパーカーの衣装と相まって、文字通り魂を連れ去る死神を思わせる異妖で美しい幻想画のよう。
しかし、そのフードの内側では生気の乏しい痩せた貌が黙念と宙を眺めていた。しかも、幼さを残したその顔に浮かぶ表情には殺気に似たものが張りつめ、何やら真言を唱えている。
蓮柄円はその場でただ、待っている。
むっと空気が動く。蓮柄の反応は迅速だった。
地震に似た嫌な揺れを少しすると、漆黒の闇の中を閃光が切り裂いていく。
その暗中に刻まれる異様な分割線から熔けた鉄が火を吹くような音をたてて、裂け目から現れた均整のとれたスーツ姿。
姫代学園の歴史教師、
久柳天兵だった。
普段は鬼畜のPTAも思わず頬を赤らめる典雅な顔立ちは、適度な男臭さとミックスして、彼と同期の科学教師のような軽薄なプレイボーイには見えない。
身につけた品も亜麻色のブレザーに、無印製のYシャツ、グレーのスラックスでアイビーを決め、髑髏の紋章が変に悪目立ちするレジメンタル・タイも彼には騒々しく映らない。
しかし、その自己主張の強い個性たちが一つに統制され、この男を引き立てているところを見るに十分に時間をかけて吟味した証拠であろう。
空中から湧いて出たとしか形容できない出現ぶりにもあるが、髪ひとすじ、呼吸ひとつ乱れていない。当然だ。
亜空間の異界に単身赴く彼はまともでも人間でも、ないのだから。
『まどか……』
『済まない、遅くなった』
久柳は低く詫びた。
「いえ、いつもすみません……」
彼女もひとつお辞儀をして、蓮柄はヨイショと処刑鎌を担ぎ直した。
久柳と蓮柄は辺りの風景に眼をやりながら、ゆっくりと歩いていく。
「現世の神星の様子はどうだったんですか?」
『尋ねた彼女は台所で鍋焼うどんを作って食べていたが、念の為に眠らせて布団で簀巻きにしておいた』
「うわ……」
『彼女の安全の為だ』
「此方の神星の意識は呑気ですが、直に反転します。地上の意識は幽世に塗り潰されて、おそらく────」
『ああ、脳内幸福物質β-エンドルフィンもあれほどの過剰供給でハイになっているのでは、泥酔者にタンクローリーを運転させるのと変わらない。何らかの事故は免れないだろう』
蓮柄の目はあきれたような光が宿っているのに気づかぬまま、久柳は
『実に器用な子だ。普通現世と幽世、活動出来るのはどちらか片方の世界だけだが、彼女のように両方の世界で同時に活動出来る人間はそう多くはない』
蓮柄は生真面目な表情でうなずいた。
『波長の合う霊的感受性の強い者が近くに居れば、ある種の力で強制的に産み出され、特定の場所に呪縛されることは違いない』
『このあいだ貸したあの本にも書いてあったじゃあないか。アレは貴重な品なんだぞ』
賢人アレイスター・クロウリーが書いた魔導書“エイワスの書”の裏本を課題とした短期集中講座を話題にした。
『だから私、イタリア語もラテン語も読めません』
処刑鎌を握りしめて用心深く辺りに神経を尖らせる蓮柄はぶっきらぼうに言いはなった。
『じゃあ、君も昼間は進学クラスで外国語の授業に受ければいいだろう』
「ハ、正気ですか?」
『バレやしない。君は視えないんだから、テストもないし別にいいだろう?』
その瞳の底には、氷のような冷たい炎に燃えている。
「嫌です。死んだ後も、英単語の勉強なんてしたくありません」
────蓮柄の口が尖った刹那、
ギャリン!
世にも美しい音がした。
『残念だが、まどか────勉強は一生だ』
久柳の右手には奇妙な形状の短剣が握られていた。
反りは浅く、直刀に近い銀線を描くそれが、軽く振った久柳のジャケットの右袖から奇術師のトランプのごとく出現し、
その切っ先は蓮柄の顔面めがけまっしぐら……。
「 」喋ることは出来なかった。
宗教画の一場面のような美しさとは裏腹に短剣は空を薙ぎ、蓮柄の顔面はたんと抉られる。
低い呻きと同時に銀刃に顔面を穿たれた蓮柄は立ちすくんだまま、右手を押さえた久柳の手は鋼の強靭さを保っている。
『自分が死ぬのを見るのは初めてだったか?』
応えは、咆哮である。
頭髪は逆立ち爆ぜさせると蛋白質の焦げる耐え難い臭気が、光と闇のしじまに広がる。
白い光とともに声にならない叫びの塊を吐き出し、両眼と口から黒い煙が立ち昇った。
蓮柄は膝から下の力が抜け、へなへなと床に座り込む。久柳の手が、徐々に刃を引き抜いていく。
生命の焔と途切れる断末魔の結合。
蓮柄円の亡骸は、魔性のものが抜け出した途端、それは髪の毛と服を着けた一枚の生皮と変じ、わだかまった。
同じ声が割り込んだのは、直ぐ後だった。
「これが……分身!?」
ボソリ、と呟く今度こそ本物の蓮柄の声は、呻きのようであった。
『いや、今回は────シェイプシフターだ』
足元の生皮を見続ける久柳に蓮柄は得心とうなづいた。
二重幻像、動物モドキ……双つの場所に同時に存在する人間の怪現象は世界中各地にある。どれらも自分まの分身に出会ってしまうと本人の命はない。
特にこのシェイプシフターは非常に厄介で相手のDNAを読み取り姿のみならず記憶や思考をも盗み、変身する判別は非常に難しい怪異だ。
「……こっちに来てください」
『まどか?一体何を見たんだ』
「言えません……いや、分からないんです」
久柳は蓮柄の案内で多目的ホールに足を踏み入れると、なんとも不気味な光景が広がる。
沼の中に女たちが融けていた。そう見える。
元々は150㎡ほどの多目的ホールは濃い霧がかかり、弾性シートの床材はまるで底なし沼へと変わっていたのだ。
女たちは揃って同じ髪、同じ顔、全裸である。
出産時の失血か能力による酩酊のためか、おそらく両方のためだろう。
水底にも生白い手足が
性器の回りは赤く爛れて、パンクした子宮をはみ出させながら神星翠は自分自身を転写した大量のシェイプシフターたちはともに全て死んでいたのだった。
水際からヌラヌラ光るものがいる。
自然にめくれた唇の内側から、長く鋭い牙が覗き、キチキチと音をたてる奇怪な赤子だった。
唇を歪めて、ソレはギィと泣いた。
蜘蛛の脚のような指が死体のふくらはぎを這い上がって、小さな鉤爪で白い両腿に朱い筋が引く。
滑るように、漂うように進むあまりにも禍々しいほど鋭く、歪な巨大な顎が開く。
蓮柄の苦痛の呻きが嘔吐を伴って流れ出る。
『思っていたより事態は深刻だな、この学園は────最悪だ』
這い出たソレを久柳が踏み潰すのは数瞬もかからなかった。
最終更新:2022年10月16日 23:09