13 虚無と怪盗
「ちょっと気になってる事があるんだけど」
ウルの月、フレイヤ、虚無の曜日。
休日という事で訓練は無し、と言っていたにも拘らず夕食後になるといつものメンバーが集まってきていた。
虚無の曜日には唯ひたすら怠惰に過ごすと公言して憚らないギーシュまでもが来ていたが、訓練自体は行わず雑談に興じている。
ルイズが王都で買ってきた戦斧用の革紐を渡したり、それを見たキュルケが茶々を入れたり、長大だが流麗なデザインの戦斧をギムリたちが見たがったり。
そんな中で、レイナールがルイズに向かって話し掛けたのが、冒頭の台詞である。
「何?」
「ひょっとして愛の告白?」
「ななななななに言ってるのよキュルケ!」
いつものキュルケのからかいに反応したのはルイズだけで、レイナールはさらっとスルーした。反応すれば相手の思うつぼなのは判っている。
「怒らないで聞いてくれよ。ちょっと言いにくいんだが、ヴァリエールは魔法を使っても常に爆発してしまうんだよな?」
「今わたしはケンカを売られているのかしらよし買ったわ」
キキギ、とルイズの周囲で空気が軋むような錯覚を覚えたレイナールが慌てて言い繕う。
「売ってないものをいきなり買わないでくれないか最初に怒らないでって言ったのに!?」
ルイズは表情を全く変えずに答えた。
「つまり決闘を申し込んでいるのねよし買ったわ」
このままでは話が全く進まないと判断したクロコダインがため息交じりのフォローを入れる。
「少し落ち着けルイズ。それでレイナール、何が気になるんだ」
「なんでそんなに胸が小さいんですか、とか?」
混ぜっ返す事に関しては他の追随を許さないキュルケが絶妙のタイミングで口を挟むが、横で本を読んでいたタバサに杖で軽く頭を叩かれた。
「言い過ぎ」
キュルケは、普段はこういう会話に入ってこない親友がどんな形であれ参加してきた事に驚き、同時に喜びを感じる。
「ごめんね、そりゃタバサも聞いてて余り愉快じゃなかったわよねー。でも大丈夫、タバサはまだ成長期アイタ」
この謝罪はお気に召さなかったようで、また頭を叩かれた。今度はさっきよりも強い。
「続き」
「ん、ああ、えーと、みんな爆発するって言うんだけど、見た事がないからどうも信じがたいんだ。だって魔法理論から言ったっておかしいだろう?」
唐突かつ強引なタバサの路線修正に若干戸惑いながら、レイナールはようやく本題に入る事が出来た。
「おや、君はまだルイズの爆発を見た事が無かったのかい? 違うクラスでも一度くらいは目撃していてもおかしくないだろうに。一度見ておくと危険回避の重要性が理解できるよ」
「正直ぼくたちは見慣れちゃってるからなあ。君の疑問がかえって新鮮だよ。緊急時の対応とか身をもって覚えちゃったし」
同じクラスのギーシュとマリコルヌが好き勝手な事を言うので、ルイズは取り敢えず2人にローキックを放っておいた。
「あいたぁっ!」
「ぼくのふくよかなふとももに鞭のようにしなる蹴撃が!?」
たった一発のローでもんどりうって倒れる様を見て、クロコダインはいい蹴りだと感心するのと同時に仲間の女武闘家を連想した。そういえば髪の色も一緒だな、と。
使い魔にそんな感慨を抱かれているとは露知らず、ルイズはレイナールに向きなおった。彼がからかい目的ではなく純粋に疑問に思っているのは判ったので蹴りは出さずにおく。今のところは。
「あんたが疑問に思うのは当然よ。当のわたしも訳がわからないんだから」
どんな呪文を唱えても爆発してしまう。
四系統魔法はおろかコモンスペルですら例外ではないこの現象は、レイナールが言う通り現在の魔法理論を真っ向から否定するものだ。
そして、そんな事は当のルイズが一番よく理解している事でもあった。
幼い頃は母や姉、雇った家庭教師からもあり得ないと言われ、一縷の希望を託した魔法学院の教師すらも解説できない現象。
入学してから丸一年、自分でも時間の許す限り調べてはみたが、これまで失敗魔法が爆発を引き起こすという事例は見つける事が出来なかった。
そんなルイズにとってレイナールの質問は、理性では理解できても感情では「なに喧嘩売っとるんじゃボケぼてくりこかすぞワリャア」としか反応できないものである。
実際の発言が幾分ソフトなのはまだ理性が働いているからといえよう。
一方のレイナールは、ルイズには悪いと思いながらもどこか納得のいかない表情だった。
実際に目にしていないのに常識外の減少を鵜呑みにするのはどうにも抵抗がある。ルイズたちが嘘を吐いていないのは判っているのだが。
教科書に書いてない事が起きるのはおかしい、そんな頭の固い部分があるのに本人は気付いていない。割と内心が表情に出やすい事にも。
ここで微妙に空気が悪くなるのを感じたキュルケが話題を変えた。
「そういえば聞いた? アルビオンの内戦の話」
「ああ、王党派と貴族派に分裂しているらしいね。戦力は拮抗しているというじゃないか」
ローキックの痛みが和らいだのか、先日の食堂の一件で空気の読めない同級生に煮え湯を飲まされた(あくまで主観上では)ギーシュが話に乗る。
因みにもう1人の犠牲者はまだ転がっていて「たった一言でこの仕打ち! 痛い、でも、ああ……ああ……!!」とか呟いていたが、敢えて無視されていた。
ツッコんだら負け、という認識が何故か全員に行き届いている。VIVA・チームワーク。
「ちょっと、それいつの話よ? 国からの手紙じゃ、貴族派が圧倒的な数で王党派を押してるって話よ。軍人の家系ならもう少し情報を集めた方がいいんじゃない?」
肩をすくめるキュルケにギーシュが反論した。
「待ってくれ、ぼくがこの話を聞いたのは大体2週間くらい前だよ? キュルケこそ、その手紙はいつ貰ったんだ」
「一昨日ね。情報については間違い無い筈よ、実家の商売にも関わる事だし」
2人は顔を見合わせる。お互いの情報が正しいとして、こんな短期間で一方の軍勢が勢力を伸ばせる理由が思いつかないのだ。
「ねね、アルビオンて内戦状態だったの? そんな話聞いてなかったけど」
「ぼくも初耳だよ」
ルイズやギムリの質問に、キュルケはふう、やれやれ的な表情で答える。
「他国相手の商売している連中はとっくに警戒してるわ。まあ学生レベルにはまだ降りてこない情報かしら」
言外に「へー知らないんだーヴァリエール遅れてるー」と優越感を込めつつルイズの愉快な反論を楽しみにしていたキュルケであったが、期待した反応は帰ってこなかった。
つまんないわねどうしたのかしらとそちらを見ると、ルイズは目を点にし汗を流しながらキュルケの後ろを指さしている。
何か言おうとしている様だが口をパクパクさせているだけで言葉が出てこないようだ。
全くもうなんなのよ、と振り向いて、キュルケはルイズと同じ表情になった。
彼女の眼に映ったのは、30メイルはあろうかという巨大なゴーレムが本塔めがけてのっしのっしと歩く姿だったのである。
『土くれ』のフーケは、自らの作りだしたゴーレムの肩に身を伏せながら本塔を睨みつけていた。
神出鬼没の怪盗として名を売る彼女であったが、今回の様に派手な騒ぎを起こす事はこれまでの仕事には無く、正直に言えばモットーに反する。
闇を駆け、影の如く忍び寄り、獲物を捕らえた後は風の様に去る。
盗みに入られる側としてはふざけんなと言いたくなるモットーであるが、一応目撃者を少なくする事で口封じの可能性を減らしたり、護衛に怪我を負わせるのを防いでいる一面もあったりするのだ。
それが何故こんな派手にも程がある行動に出ているのかというと、早急に魔法学院を立ち去らなければならなくなったのである。
当初の予定としては学院の内部に入り込み、ある程度の時間をかけて内部構造を調べ上げた上で、芸術の様に盗んで行く筈だったのだ。
ところが義妹の住む国に内乱が勃発してしまい、色々訳ありの義妹を放置しておく訳にはいかなくなってしまった。
それでも宝物庫から何かちょろまかす時間位はあるかと思っていたら、馴染みの情報屋から「あー、アルビオンな、多分来月まで保たないで、いや王党派ボロ負けやぞ」と今朝がた聞かされた。
もはや一刻の猶予もない、とっとと盗んでさっさとアルビオンに帰らなければとフーケは判断した。
宝物庫の壁にはやたら強力な『固定化』の魔法が掛けられているのはこれまでの調べで分かっている。
その分物理衝撃には弱い、多分弱いと思う、弱いんじゃないかな、まチョット覚悟はしておけと、自分の親くらいの年の癖に変なアプローチをしてくる学院教師から聞き出したのは今日の昼休みの時間。
夕食の後こっそり壁の厚さを確認してみたが、流石に国内有数の宝物庫だけあって自分のゴーレムで破れるかどうかというところだ。
本当ならこの条件下で仕事はしないのだが、もうそんな事を気にしている時間は無かった。
ゴーレムのパンチで壁が破れればそれで良し、破れなくてもこのまま姿を消して故郷に帰ろう。金は無くとも義妹と、共に暮らす孤児たちの護衛くらいは出来る。
そんなことを考えながら、フーケはゴーレムの腕を鉄に『錬金』させた上で塔に殴りかからせるのだった。
「なななななななななによあれ───────────っ!」
ルイズが声を出せるようになったのは、ゴーレムが本塔を殴り始めてからである。
「なんだってあんなゴーレムが魔法学院を攻撃してくるのよ!」
「ぼくが知るもんか!」
ルイズの大声のお陰でキュルケ達も茫然自失状態から復活した。復活しただけで動けはしなかったが。
「ひょっとして『土くれ』のフーケか!?」
そう言ったのはギーシュだが、「でもあんな派手な事するか? 仮にも怪盗だろ」とギムリからの疑問には答えられない。
「ゴーレムが攻撃しているのは多分宝物庫の外壁」
ゴーレムの動きを冷静に観察していたタバサの指摘に、ルイズとレイナールが反応した。
「じゃあやっぱりフーケ!? わたしたちでなんとかしないと!」
「じゃあやっぱりフーケ!? 急いで先生たちに知らせないと!」
180度違う意見に2人は顔を見合わせた。
「ちょっと待って先生たち呼んでくる間に確実に逃げられちゃうわよダメでしょそれは!」
「じゃあ僕たちに何が出来るんだ相手は最低でもトライアングルクラスのメイジなんだぞ!」
がるるるる、と言わんばかりの剣幕のルイズに一歩も引かないレイナール、そんな2人にキュルケが話し掛ける。
「言い争ってる間に動いたら?」
見ればタバサとギムリ、ギーシュは既にゴーレムの方へ向かっており、マリコルヌは逆方向に走っていた。
クロコダインはルイズが動くまで判断を保留しているのか、ゴーレムを警戒しながら主を守るように立っている。
「行くわよクロコダイン!」
ルイズが走り出すのと同時にクロコダインも動く。
「ルイズ、判っているだろうが」
「無茶はしないわ! でも背も向けないわよ!」
フーケは焦っていた。
ゴーレムに渾身の力で攻撃させているにも関わらず、壁には亀裂すら入っていない。
近寄ってきた学生達が魔法で攻撃してくるのは大した妨害にはならないが、逃げ出す時の精神力を考えるとこれ以上時間を掛けたくはない。
教師達を呼ばれて退路を塞がれるのも面倒だ。次の一撃で突破できなかったら逃走しよう。
フーケはゴーレムの手を槍の様に変化させ、助走をつけながら塔へと突き出した。
30メイルもの巨体に通じる魔法は少ない。
ルイズ達はそんな現実を早々に突きつけられていた。
ドットメイジのギーシュ達はともかくとしても、トライアングルクラスのキュルケやタバサの攻撃も碌なダメージを与えられないでいる。
正確にはダメージを与えても、土を補充する事ですぐに回復しているのだ。
一番ダメージを与えているのがクロコダインの戦斧で、振るう度にゴーレムの体が爆発するかの如く吹っ飛ぶのだが、流石に一撃で体を消滅させる事は出来ない様だった。
「まずいね、一旦退いた方がいいんじゃないか?」
「珍しく意見が合うじゃない!」
ギーシュとキュルケの掛け合いに、ルイズは顔を歪ませる。
啖呵を切って駆け付けたものの、魔法の使えない自分はここでは足手まといだ。
クロコダインもゴーレムと戦いながらもこちらを気にしているせいか、全力を出せないように見える。
だが、背を向けて逃げ出すのは嫌だった。若い頃戦場を駆け、数多くの武勲を誇った母親の子として、弱きを守る者こそが貴族と教えてくれた父親の子として。
そんなルイズの目に、ゴーレムの手が鋭く尖って塔に突き出されるのが見える。
ルイズは咄嗟にありったけの力を込めて、フレイムボールの呪文を唱えた。
学院に大きな爆発音が轟く。
「何なんだい!」
悪態をつきながらフーケが前を見ると、塔に突き出した筈のゴーレムの腕が肘から消失していた。
「嘘だろ!? 鉄製に『錬金』しておいたってのに!」
どんな魔法かは判らないが相当な威力なのは確かだ。これはヤバいかともう一度前を見て、しかしフーケはこちらに運があると確信した。
ゴーレムの一撃が効いたのかさっきの爆発のおかげなのか、難攻不落だった宝物庫の壁に見事な大穴が開いていたのだ。
フーケはゴーレムに時間稼ぎを命じると、フードをかぶって宝物庫へと飛び込んだ。
ゴーレムの腕が吹き飛ぶのを、ルイズは信じられない気持ちで見ていた。
自分が唱えたのはフレイムボール、しかし杖から炎は出現しない。だが失敗した筈の魔法は元の魔法とは比べ物にならないほどの凄まじい威力を発揮している。
「ちょっと、やるじゃないの!」
笑顔でキュルケに言われるが、正直実感が湧かない。
「凄いな、でもあれを教室で披露はしないでくれよ? 命に関わるからね」
ギーシュが皮肉交じりに、しかし感心した様子で話しかける。
「やりすぎ」
タバサが無表情に、でもどこか焦った様子で指摘する。
「やりすぎ?」
ルイズ達はそこでようやく壁の大穴に気がついた。
「…………」
一瞬の沈黙の後。ルイズはゴーレムを見上げながら叫ぶ。
「学院の宝物庫に穴を開けるなんて! 敵ながら凄い実力の持ち主だわ!!」
うんまあそういう事にしておこうか、と学友達は思った。
「遊んでいる場合じゃないぞ、気を付けろ!」
再び動き出したゴーレムを見てクロコダインが注意する。
「間合いを取って、魔法で攻撃」
「もう一回派手な失敗頼むわよ、ルイズ!」
「いちいち引っかかる言い方ね!」
颯爽と、機敏に、あたふたと、生徒達はゴーレムから一定の距離をとるのだった。
薄暗い宝物庫の中、フーケは素早く辺りを見回す。人の気配なし、宝物が衝撃で壊れた様子なし、OK、今のところ問題なし。
取り敢えず片っ端から盗んで行く訳にはいかない。大量の盗品を捌いている余裕はないのだ。
だからと言ってサイズの大きな物を持ってはいけない。何か、適度に小さくて尚且つ高く売れそうな物はないか。
そんな彼女の眼に、ある物が映った。30サントほどの黒い筒状の何か。
学院長の秘書をしていたフーケは、それがオールド・オスマンが個人的に納めたというマジックアイテムだという事を思い出した。
使い方は分からないが、マジックアイテムという物は魔力を通せば動くと相場が決まっている。
フーケは筒を懐に入れ、レビテーションで下に降りようとして、
「おでれーた! まさかこんな所に盗みに入る奴がいるたぁ思わなかったぜ!」
突然声を掛けられ動きを止めた。
杖を構えて周囲を見渡すが、人の姿も気配も感じられない。
「おーい、どこ見てんだ。ここだよ、ここ!」
声のする方を見ると、そこには一本の剣があった。
おそらくは壁に飾られていたのだろうが、先ほどの衝撃のせいか床に落ち、鞘から刀身が半ば抜け落ちている。
「なんだ、インテリジェンス・ソードか」
フーケは溜息をついた。武器に意識を与えたインテリジェンス・アームズは別に珍しいものでもない。
「いやいや、そう言わねぇでくれよ。ちょっと姉ちゃんに頼みがあんだ」
「何よ」
「ついでと言っちゃあなんだが、俺も盗んでってくれね?」
「……ハァ?」
フーケがマジックアイテムを盗み出すようになってそれなりの月日が立っていたが、自分から盗んでくれと言いだすお宝は初めてだった。
「ほら、俺ってば見ての通り剣だろ? 斬ってナンボの商売なのにこんな蔵の中にいても仕方ないと思わね?」
言ってる事はもっともだが、刀身に思いっきり錆びの浮いている長剣を盗むメリットをフーケは思いつかなかった。
大体150サントはあろうかという剣など邪魔にしかならない。特にこれから逃げようという時には。
故にお喋りな剣は無視していこうと背を向けたのだが、剣はわざとらしい口調でこんな事を言った。
「あー、このまま置いてかれちゃったらあんたの特徴とかペラペラ喋っちゃうだろうなー、俺」
速攻で床ごと『錬金』してやろうかと思ったが、そんな時間も精神力も惜しい。
フーケは無言で剣を拾い上げると最後に1つお約束の仕事をして、壁の大穴から飛び降りたのだった。
突然ゴーレムが音を立てて崩れ始めた。
30メイルのゴーレムが土の塊に戻るのだから、当然大量の砂埃が舞い上がり、離れた場所にいるにも拘らずルイズ達の視界が塞がれる。
「なによ突然!」
叫び声を上げる彼女達に駆け寄るクロコダインだったが、予想外の現象は更に続いた。
周囲の土が盛り上がり、ドーム状になって彼らを閉じ込めたのである。
「きゃっ!?」
それまで塔から洩れる明かりや月の光で薄明るかったのがいきなり真っ暗になって、ルイズ達は悲鳴を上げた。
「ったくもう!」
キュルケが短く呪文を唱えると、拳大の火の玉が三つ浮かび上がり、辺りを照らす。
攻撃に加わっていた全員が10メイル程のドームの中にいるのが判る。幸い誰も怪我などはしていない様だった。
タバサがドームを杖で叩くと硬質の音がかえってくる。
「多分、鉄製」
土メイジのギーシュもドームに触って材質などを調べ始める。
「これは結構ぶ厚いぞ。土とかに『錬金』するのも時間がかかりそうだ」
「そんな! フーケに逃げられちゃう!」
そんな中、クロコダインは拳で何回かドームを叩いた後、ルイズ達に忠告した。
「今からこいつを破るから出来るだけオレから離れていてくれ。それと耳も塞いでおいた方がいい」
「判った、任せるわよクロコダイン」
主からの信頼の言葉に、クロコダインは太い笑みを返す。
彼女達が反対側の壁まで下がり、タバサが『サイレント』の魔法を唱えるのを見届けると、クロコダインは愛用の戦斧を逆手に持って逆袈裟に斬り上げた。
「唸れ!爆音!!」
グレイトアックスが壁にぶつかるのと同時に魔宝玉に秘められた爆裂系呪文が発動し、鉄製のドームを1/3程も吹き飛ばす。
「うええええええ!?」
「な、なんて威力なの……!」
感心する同級生を尻目に、タバサがドームの外へ出る。
既に外に出て周囲の気配を探っていたクロコダインに、「中を見て来る」と言い残し、『フライ』で宝物庫へと飛んだ。
半ば予想していた事だが宝物庫の中に人の姿は無い。
ぐるりと周囲を見渡して、タバサは壁に何か書いてあるのに気がついた。
[ 神隠しの杖と伝説の剣、確かに領収致しました。 土くれのフーケ ]
流麗な書体で書かれたその署名を見て、タバサは小さく呟いた。
「目立ちたがり」
最終更新:2008年09月04日 16:05