虚無と獣王-37

37  虚無と姉


結局ワルドは再び『魔法の筒』の中へと入る事となった。
対外的には『単独任務中』という扱いになっている彼が、突然王宮内で目撃されてはいろんな意味で困る。
「しかしまあ、よく喋ったものです」
年頃の女学生でもあるまいに、と言うマザリーニにヴァリエール公爵はしれっとした顔で言った。
「ああ、麻痺解除薬に『ちょっと素直になるクスリ』を混ぜておいたからな」
有り体に言うと自白剤であり、媚薬と同じく立派な禁制品である。
「まぁどうせそんな事だろうとは思いましたがね……」
マザリーニも予測していたようで、溜息ひとつで流した。彼の娘への愛情を考えれば、毒が混ざっていなかっただけマシというものだ。
「クロコダイン殿、申し訳ありませんが暫くそのマジックアイテムを貸し出しては貰えませんかな」
一両日中には返却しますので、というマザリーニにクロコダインは鷹揚に頷いた。
「それはかまわんが、それまではここにいた方が良いのですかな」
「ええ、できれば。こちらとしてもルイズ嬢と共にお聞きしたい事柄が幾つかありますし」
ただそれは今すぐに、という訳にもいかない。特にルイズには、少なくとも明日までは休息が必要であろう。
「クロコダイン殿はこの部屋でお休みください。追って夕食を用意致します」
別に野宿でも構わないのだが、と遠慮するクロコダインをそういう訳にもいかないと2人がかりで説得する。
ワルドとは違った意味で、彼もまたあまり人目につかない方がいいのだ。
「では私は先に失礼しよう。もうすぐ客が来る頃だ」
そういって部屋を出たのは公爵である。
仇敵と周囲から認識されているマザリーニと仲良く秘密の出入り口から現れるのを目撃されては、これまでの苦労が水の泡だ。
「ああ、宜しくお伝え下さい」
「娘たちにもお前との仲は言ってないのに何をどう伝えろと言うのか」
クロコダインに「ではまた」と手を上げ足早に去る友人を見送り、マザリーニも腰を上げる。既にルイズには関係を明かしているとは言えなかった。
「私もいつもの仕事を片付けにいかねばなりませんが、その前に1つ」
マザリーニは目を輝かせながら言った。
「頼みごとばかりで心苦しいのですが、一度、その手に刻まれたルーンを拝見させては貰えませんかな?」
政治の世界に浸かって長くなるが、それは何ら信仰の妨げになっていない。
むしろ。政に関わってからの方が信仰は増している。
そんな時に現れた始祖の秘術を継ぐ者と、その使い魔なのだ。興味が湧かない方がどうかしていた。
「おお……!」
仮にも教皇候補にもなった身である。
始祖ブリミルに関する知識は基礎中の基礎であり、当然その中には彼の使い魔たちのルーンも含まれていた。
その知識に照らし合わせた結果、クロコダインに刻まれたルーンは間違いなくガンダールヴのものだった。
始祖の4人の使い魔の中でも一番活躍が多いとされる『神の盾』が目の前にいる。興奮するなというのが無理な相談だ。
もっと詳しく調べたいという欲求を抑え、マザリーニは「では」と部屋を出ていった。

トリスタニアを1台の馬車が駆ける。
いつぞや、ルイズたちがフーケ追撃の為に使用した物とは比べ物にならない程豪華なそれは、ヴァリエール公爵家別邸の中へと入っていった。
敷地内で停車した馬車から現れたのは妙齢の女性である。
普段は優雅な所作で知られるその女性は、しかし貴族としての作法などアルビオン浮遊大陸よりも高い空へ放り投げた感じで飛び降り、そのまま邸内へと突入した。
豪奢な長い金髪を揺らし、良く言えばスレンダーな、ストレートに言えば凹凸の控えめな体躯が風を切る。
美しい顔も今は厳しく引き締まり、眼鏡の奥の瞳は爛々と光を放っていた。
廊下をほとんど走り出す寸前の速度で踏破しつつ向かうのは、この別邸の主がいる筈の書斎である。
ここまでノンストップで進んできたその女性は目的地の扉の前で初めて立ち止まり、息を整える間も置かずにノックを2回、向こうからの返事を待たずズバンと開け放った。
「お父様! ルイズの『系統』が明らかになったというのは本当ですか!!」
女性の名はエレオノール・アルベルティーヌ・ル・フラン・ド・ラ・ブロア・ド・ラ・ヴァリエール。
ヴァリエール公爵の長女であり、ルイズにとっては上の姉という事になる。

常になく大慌て状態なエレオノールに、公爵は「まあ落ち着きなさい」と声をかけた。
が、20代も半ばを過ぎた筈の娘はクールダウンの気配など露ほども見せず、「落ち着いてなどいられません!」と返してきた。
「あの! 何を唱えても爆発しか起こさなかったルイズが! ようやく一人前になったのでしょう!?」
その顔に隠しきれない喜びが溢れているのを見た公爵は、(これをもう少し素直に出していれば今頃は初孫とか抱けていたかもしれん)などと思う。
この世界の結婚適齢期は二十歳前後、その常識から考えるとエレオノールは相当スタートラインから遠ざかっている。
もっとも当人が最近『結婚は人生の墓場』などと口にしているのを知れば、公爵はその場で頭を抱えた事だろうが。
「それでルイズはどこにいるのですか? それに何の系統に目覚めたのです!?」
長く続いた家系は目覚める魔法の系統が偏るという傾向が多々みられる。
例えば武の名門として知られるグラモン伯爵家は土系統メイジを多く輩出しており、近年まで代々ラグドリアン湖の精霊との交渉役を勤めていたモンモランシ家の人間は水系統が生まれやすいといった具合だ。
これは別にトリステインに限った話ではなく、隣国であるゲルマニアでもツェルプストー家は火の家系と呼ばれ、キュルケもその例に漏れない。
しかしヴァリエール家は長く続いているにしては系統の固定化が見られていないという珍しい家系であった。
その証拠に先代の公爵は火、現公爵は水、そして娘のエレオノールは土系統のメイジなのである。
これではルイズの系統を予想など出来ない。
愛娘の問いに公爵は表情を厳しくした。
「それを知る前に、まずは落ち着いて欲しいのだ、エレオノール。その事に関し、若くして王立魔法研究所に勤めるお前の知恵を借りたいのだよ」
敬愛する父からの言葉は、エレオノールの心に不安という名のさざ波を走らせる。
魔法学院始まって以来の才媛と呼ばれ、卒業後すぐアカデミーに入った彼女はエリート中のエリートであったが、そのエレオノールの優秀さを持ってしても解けない謎があった。
1つは上の妹、カトレアの病の原因と治療方法。
もう1つが下の妹、ルイズの引き起こす失敗魔法の原因と根治方法である。
とは言え、自分以上にこれらを気に病んでいたのは両親であるのをエレオノールは痛いほど熟知していた。
そんな謎の1つがついに解消されたというのに、何故父は喜ぶ素振りを見せないのか。
表面上はルイズに厳しく接していたが、あれだけ猫可愛がりしたくて仕方なかったこの人が末娘の努力が実ったのを知ったのだから、大々的なパーティーの3つや4つ企画していてもおかしくはないというのに。
そして研究員である自分の知恵を借りたいとは、一体どういう事なのか?
それらの疑問は父からの一言で一気に解決された。
「ルイズは今、王宮で体を休めている。そしてあの子が目覚めたのは失われていた第5の系統──虚無魔法だ」
もっとも、その一言は新たな驚愕と疑問を生み出したのだが。

陽は沈み、双月が天に差し掛かる頃合いになったが、まだ眠る事を許されない者達がいた。
倍加した仕事に文字通り忙殺されるマザリーニ、ワルドへの尋問や長女への状況説明と協力依頼に加え『大掃除』の段取りを練るヴァリエール公爵。
この2人にとってはまだまだ宵の口という感覚だ。
新記録の樹立と同時に魔法衛士隊に捕縛され、中庭の大きな樹に逆さに吊されたグラモン元帥とオスマン学院長。
この2人にとっては割といつもの罰ゲームであり、こっそり助けてくれたド・ゼッサール隊長に礼を言って『魅惑の精霊亭』にでも繰り出そうかという時間である。
そして、普段ならとうに寝ている時間帯にも関わらず色々と説明を求められる少女がいた。
昼の中庭における騒動をいち早く耳にし、何がどうなっているのか自分の母親に問いつめられている人物。
すなわち、今回の騒動の発端であるところのアンリエッタ王女であった。

眠れない者にも熟睡した者にも平等に訪れるのが朝というものである。
普段は座学の予習復習で寝る時間と起きる時間が遅くなりがちなルイズであったが、今日はそうでもなかった。
昨日はかなり早く寝入ってしまったし、なにやら部屋の中で人らしき気配を感じたからである。
それでもまだ頭の半分以上は夢の中の領域であったため、ルイズはぼんやりと眼を開けた。
王宮の貴賓室という慣れない環境、実家では日常だったが寮生活では久しくなかった天蓋つきベッドでも熟睡できるのは余程疲れていたのか、それとも単に大物なのか。
ともあれ、彼女の瞳に最初に飛び込んできたのは黄金色の何かだった。
「ふに……?」
金色のそれは一旦ずざざとルイズから遠ざかり、しかし再び眼前へと立った。
「い、いつまで寝呆けているの! おちび!」
「ふぁい!?」
聞き覚えのある声に、ルイズは一気に目が覚めた。
学院の寮に入ってからはご無沙汰だったが、忘れる訳もない通った声の持ち主。
というか仮にも公爵家令嬢を『おちび』などと呼ぶ人間など、ハルケギニア広しと言えど1人しかいない。
「エ、エエエ、エレオノール姉様ッ!?」
ルイズが愛情と苦手意識を同時に持つ人物、上の姉にあたる才媛は金に輝く長髪をかきあげる。
どうしてこんなところにと混乱するルイズは、だから目覚める寸前まで心配そうに姉が自分を覗き込んでいたり、今も若干頬が赤く染まっている事など気づきようもなかった。
(ああびっくりしたああびっくりしたああびっくりした!)
突然(当人主観)妹が目を覚ましたものだから、それはもうエレオノールは動揺した。
が、ルイズにとって自分は厳しいが凛とした優秀で憧れの姉である(当人主観)。
動揺する姿など見せられる訳もない。とっさに叱責する事で誤魔化せたのは上出来だった(当人主観)。
実際には顔を覗き込む、動揺して飛びずさる、などといった行動を目撃されているのだが、ルイズの寝起きの悪さなどが幸いして認知されなかっただけなのだが。
ともあれ妹が見たところ特に異常はない事に、エレオノールは安堵した。
父から話は聞いていたものの、今回のアルビオン行きはあらゆる意味でイレギュラーづくしだった筈なのだ。
特に虚無魔法を使ったメイジは6000年以上いなかった。どんな副作用があるか知れたものではない。
エレオノールがここにいるのは、その辺りの事をひどく気にしたヴァリエール公爵が依頼したのもその一因だった。
「ようやく眼を覚ましたのね、全くもう……」
安堵のため息を、表向きは妹に呆れているというポーズにしてしまうのがエルオノールという女性の救われない部分である。もちろん自覚はない。
「さあ、早く着替えなさい。今日は忙しくなるのですから」
「は、ははははい! でも姉様、忙しくなるというのは?」
エレオノールの言葉に脊髄反射で返事をしたものの、なぜ急かされるのか分からない様子の妹に、彼女は今度こそ呆れ混じりのため息をついた。
父の話によれば昨日は報告の後、すぐに学院に戻ろうとしたという。全会一致で止められたものの、ルイズ的には今日こそ城を後にするつもりだったのだろう。
要は虚無の担い手という自分の重要性を全く認識していないのだ。
「我こそは虚無魔法の使い手であるぞ」などとふんぞり返られた日には余裕でひっぱたく自信のあるエレオノールだが、こうも自覚がないというのも困りものだった。
「いい? おちび。貴女はこの世界で唯一の『虚無』なのよ? 調べなきゃいけない事が山のようにあるの。
本当に使えるのか、『始祖の祈祷書』の真贋鑑定、指輪と秘宝の使い方、呪文の構成に魔法効果の実践、使い魔のルーン分析および使い魔自身の調査! 上げればまだまだ出てくるわよ」
今日中に終わるとも思えないスケジュールの羅列に眼を白黒させるルイズに、エレオノールはビシッと指を指す。
「分かった? 王立魔法研究所を休んできているのですからね、時間はスクウェア・メイジよりも貴重だと心得なさい」

部屋に運ばれてきた食事を2人で食べた後、姉妹が向かったのはクロコダインがいる隠し部屋であった。
虚無魔法の実演と検証についてはエレオノールの他にも参加する者達がいるのだが、いかんせん地位が高いだけに多忙を極める為、今日の夜に行う予定である。
従ってそれまでに使い魔やガンダールヴのルーンなどを調べなければならない。
ルイズは昨日の騒ぎで休廷内でも話題になっており、またエレオノールもヴァリエール公爵の長女という事で社交界に顔が知られている。
目立つのは極力避けねばならなかった。
幸い父からは、今くらいの時間にどのルートを使えば他人に見られる事なく件の部屋まで辿り着けるか聞かされている。
これは時間ごとにメイドがどの場所にいるのか丹念に調べ上げた某元帥と某魔法学院長の努力の結晶を応用したものであったが、当然そんな事実は知らされていない。
若干話がそれたが、エレオノールとルイズはメイドだの宮廷婦人だのに目撃される事なくクロコダインの元に到着したのだった。

ノックもそこそこに扉を勢いよく開けて、部屋の中心で胡座をかいていた鰐頭の獣人に駆け寄っていく妹を見て、エレオノールは愛玩犬を連想した。
どちらが使い魔かわからないわね、とも思う。絆が深いのは結構な事だが、とは言えこのまま阿呆の様に立ち尽くしていても仕方がない。
わざとらしく咳払いでもしようかと思ったところで、件の獣人から「ルイズ、そちらの御仁は?」との言葉が出た。
どうやら部屋に入った時にはエレオノールの存在に気がついていたようだ。
もっとも、正確には部屋に入る前の段階で気配を感じ取っていたのだが、流石にそこまでは判る筈もなかった。
エレオノールが自己紹介をすると、クロコダインもまた礼儀正しく返事をする。
(貴女の妹君にはとてもよくしてもらっています、ね……)
見た目からは想像の尽かない挨拶に、エレオノールは高い知性を感じ取った。
使い魔としてはかなり異質だが、何にせよ話が通じるのは結構な事だ。ただでさえ訊かなければならない事柄が多いのだから。

エレオノールの質問はまずクロコダイン自身に纏わるものから始まった。
どの様な場所で生まれ育ったのか、何歳くらいなのか、仲間はいるのか、等々である。
この際、彼が遙かサハラを越えた地に存在するという東方ではなく、ハルケギニアとは異なる世界から召還された事も明かされた。
これまでこの事を知っているのは召還主であるルイズとオスマン学院長、コルベール教師の3名であったが、ルイズの実姉であり、また王立魔法研究所の研究員という肩書きを持つエレオノールには話しておくべきだと判断したからである。
エレオノールとしてはにわかに信じ難い話だ。
しかしクロコダインと同種の生物はこれまで確認されておらず、またグレイトアックスに込められた魔法がハルケギニアのものとは若干異なる事、ロマリアや聖地の近辺で見つかる『場違いな聖遺物』の存在など、彼の話を裏付ける要素は幾つかある。
それに、このような嘘をついてもクロコダインにメリットはないと思われるのも事実だ。
となると、俄然探求心がわくのが人情というものである。
特にエレオノールは知識欲が旺盛であり、更に使命感も強い。
加えて現在の王立魔法研究所は始祖に纏わる事柄を研究のメインに据えている。『神の盾』たるクロコダインが異世界の出身であるなら、ブリミルが召喚した4人の使い魔もまた異世界からの来訪者だった可能性があるのだ。
自ずと質問に熱が入る。
月がひとつしかない世界。
天界・地上界・魔界の3つに分かれた世界。
メイジが特権階級ではない世界。
ざっと聞いただけでも異世界だと思わざるを得ない話だ。
凄まじい勢いで聞き取った事を書き残すエレオノールの横では、ルイズがこれもまた真剣な表情でクロコダインの説明を一言一句漏らさぬ様に傾聴していた。
出身が異世界であるのは知っているものの、今まで詳しい話はあまり聞けていなかったのだから無理もないが。
熱心なものだと、苦笑まじりに姉妹を見ていたクロコダインだったが、突然ドアの方へ顔を向けた。
「どうしたの?」
首を傾げるルイズに、頼もしい使い魔は「また来客のようだ」と答える。
直後、扉の向こうからノックの音が響いた。
どうぞと言う暇もあらばこそ、ドアの向こうから軽く手を挙げて現れたのは壮年の男性である。
「やあ、昨日はどうも。しかし、こんな美しい女性達から熱心に迫られるというのは実に羨ましい限りですな」
メイド達に文字通り吊された後で、全く懲りずにほぼ徹夜でしこたま痛飲したとは思えないトリステイン陸軍きっての伊達男、グラモン元帥であった。
元帥にとってルイズやクロコダインは昨日が初対面であったが、エレオノールはパーティー等で幾度となく顔を合わせている。
彼女が王立魔法研究所の研究員であるのもヴァリエール公爵から耳にしていた。というか聞き飽きるほど自慢話をリピートされていた。
流石にここにいるのは予想していなかったが、すぐに(ああ、何のかのと理由をつけて呼びつけたんだなあの親馬鹿)と結論付ける。
「お久しぶりです、グラモンのおじさま。昨年末の夜会以来でしょうか?」
エレオノールも聞き取りを一端中断し、立ち上がって優雅に会釈した。
「ええ。それにしても、ますます美しさに磨きがかかりましたな。こんなありきたりな言葉しか思いつかぬ自分の詩才のなさが恨めしい」
「おじさまも相変わらずお上手ですこと。ところでその台詞は一体何回目ですか?」
「これは心外ですな、初めてですよ ──今日の所は」
相手の皮肉を軽く受け流しながら、伯爵は思う。
気が強いのは母親譲りだが、ここでスクウェア・スペルが飛んでこないのは有り難いもんだ、と。
「昨日はどうも、ご面倒をお掛けしましたな。ギーシュは元気にしていますか」
エレオノールの向こう側からそんな声を発したのはクロコダインだ。
「なに、本来なら凱旋の宴でも開いた方がいい位の戦果を成し遂げておられるのです。面倒などとはとんでもない」
ただでさえ無茶振りにも程がある任務だった上、身内に裏切り者まで出ているのである。伯爵の言葉は全くの本心から出たものだった。
「それと愚息の事なら心配には及びません。碌に戦ってもいない上、肝心な時にはいなかった様ですからな。さっさと学院に戻しましたよ」
肩をすくめる伯爵に、クロコダインは真顔で応じる。
「いや、そんな事はありません。ラ・ロシェールではフーケの作った岩人形に果敢に挑んでいましたし、アルビオンからの脱出時も彼の存在は欠かせないものでしたからな」
事実、礼拝堂からの脱出はギーシュとその使い魔の力が大いに役立っていた。
クロコダインも地中を脱出手段に用いるのは十八番であったが、地下港へと正確にトンネルを掘れる訳ではない。
その点、ヴェルダンデ謹製の脱出路は大変重宝されるものだった。
これだけだと使い魔だけの功績に思われがちだが、ジャイアント・モールの特性を把握し、トンネルの落盤防止に所々を青銅で補強したギーシュも地味に任務に貢献しているのだ。
「そうですか。その言葉を聞けばきっと奴も喜ぶでしょう」
笑顔で答えるグラモン伯爵は、その表情のまま付け足した。
「ですが言う必要はありません。つけあがりますからな、最近のガキは」
ヴァリエール公爵夫人ほどではないが、割とスパルタンな教育方針であるらしい。
「それにしても、何かご用の向きがあるのではないのですか?」
と、これは今までなし崩し的に姉の助手のようになっていたルイズの質問だ。
「ああ、古い友人に公爵家令嬢の様子を見に行け但し俺の娘に手を出したら殺すマジ殺すと言われてましてね」
元気そうで何よりと笑う伯爵に、ルイズとエレオノールはすいませんスイマセンと頭を下げ、クロコダインは大声で笑うのだった。

近来稀にみる速度で仕事を終わらせたマザリーニが隠し部屋を訪れたのは、昼を些か過ぎた頃合いである。 (今回の『大掃除』が終わったら仕事を押しつけられる後継者を育成しなければ)
そんな決意を新たにしながら扉をノック、返事の後に部屋を覗いた彼の目に飛び込んできたのは夥しい数の刀剣類であった。
小は掌に納まる程のナイフから、大は3メイルは優にあるハルバートまでが無造作に床に転がっている。
「おう、早かったじゃねぇか。って手ぶらかよ、なんか手土産とかねえのか。メシとかメシとか、あとメシとか」
まるで部屋の主の様に声をかけるのはグラモン伯爵だ。いつもの事なのでいつもの様にスルーする。
クロコダインとヴァリエール家令嬢2人に一礼すると、マザリーニは残りの1人に声をかけてみた。
「一日来ないだけで素晴らしい部屋の惨状ですな。申し開きがあるなら聞きましょうか犯人」
「あっ、てめえなに人を武器マニアの散らかし屋扱いしてやがんだ! 謝罪と賠償請求すんぞコラ」
「訂正要求がない辺りで語るに落ちているのを自覚して下さい犯人」
社交用の仮面をノータイムでかなぐり捨てた伯爵にルイズとエレオノールは目を丸くしている。
「調べ物の一環とその結果、といったところですかな」
とフォローを入れたのはクロコダインだった。
ガンダールヴの能力は「あらゆる武器を使いこなす」ものだと言われている。
それは剣が得手ではないクロコダインがデルフリンガーを扱えている事からも明らかだった。そこで剣以外のものにも有効なのかと疑問を口にしたのがグラモン伯爵だ。
エレオノールとしては調査に横槍が入った形であるが、ガンダールヴの能力はこの後訪ねようとした事柄の一つであった。
更に伯爵とエレオノールは同レベルの土メイジであったが、こと武器というものに関しては彼に一日の長がある。
「成る程、そういう理由でしたか」
様々な材質の刀剣類を見渡して、マザリーニは納得の表情を浮かべた。
「それで有意義な結果は得られたのですか?」
「応よ。やっぱ馬鹿にしたもんじゃねえんだな、伝説ってのは」
グラモン伯爵の視線の先には、床に突き刺さった剣がある。
正確に言えば刺さっているのは刀身のみで、それも半ばから消失していた。
「そいつは鉄製なんだがな、同じく鉄製の短剣でスッパリ斬れやがった」
なかなか出来ることじゃねえや、と伯爵は感心しきりの様子だ。
エレオノールからすると、クロコダインは右手の指2本で短剣を挟み、無造作に横に薙いだだけにしか見えなかった。  
無論クロコダインの技量の高さはあるのだが、それにしたところで指先に挟むしかない大きさの短剣を使い慣れているとは思えない。
ガンダールヴのルーン効果と考えて間違いはないだろう。
「どうよ」と胸を張るグラモン伯爵にはいはい偉いですねとおざなりな賞賛を送った後で、偉いからさっさと武器を片づけて下さいと告げるマザリーニだった。
ぶつぶつ言いながら刀剣類を真鍮製の薔薇に戻す伯爵を尻目に、エレオノールはマザリーニを交え調査を続行する。
「で、俺っちに聞きたい事があるって訳か」
どこか機嫌良さげにそう言ったのはインテリジェンス・ソードのデルフリンガーだった。
アルビオンの戦いではクロコダインに振るわれる事こそなかったものの、その魔法吸収能力などで勝利に貢献している。
その中でエレオノールが特に注目したのは、デルフリンガーがルイズを虚無の担い手と看破した件だった。
聞けばクロコダインの事も当初から
『使い手』と呼んでいたという。
あくまで自称ではあるが6000年も前に作られたというのは、ルイズはおろか前所有者であるオールド・オスマンですら眉に唾を塗るくらいの与太話だとばかり思っていたのだが、ここへきて俄然真実味が湧いてきた。
始祖ブリミルがこのおしゃべりな剣に関与しているならば、その能力にも納得がいく。
次期教皇候補であったマザリーニや始祖の業績を研究しているエレオノールにとっては、家屋敷を売り払ってでも手に入れたい、恐ろしく価値のある一品であった。
賭けチェスのカタにしたという武器屋の店主が聞けば血の涙を流していたかもしれない。
他方、「伝説の剣」という扱いで学院の宝物庫に放り込んでいたオスマンや、『神隠しの杖』と共にデルフリンガーを盗み出したフーケは結果的に見る目があったと言えるだろう。
実際には、両名ともこの剣に全く価値を見出していなかったのだが。
ともかく、これで伝説の彼方にあった始祖や使い魔たちの事が明らかになるかもしれないわけで、関係者が興奮するのは無理もない話だった。
ところが。
「それで、貴方を作ったのは始祖ブリミルだったのですか?」
「あー、どうだったかな……。その辺ちっと記憶が曖昧でなあ」

「では始祖に近しい他の誰かが作った可能性もあるの?」
「姉ちゃんだって生まれた時の事なんざ覚えてなかろ? ま、ガンダールヴの為に作られたのは間違いないんだがよ」

「始祖と会った事はあるのよね?」
「ああ、あるぜ。あんま覚えてないけど」

「彼の編み出した五系統魔法についてお聞きしても宜しいですかな」
「だからあんま覚えてないんだって……。なんでかね、嫌いな野菜とかは覚えてんのにな」

一事が万事こんな調子で、期待したほどの結果は得られなかったのである。
考えてみれば、幾らインテリジェンス・ソードとはいえ6000年前からの事を逐一覚えている訳もない。
そもそもクロコダインの手に渡った当初は、彼が『使い手』なのは判るのに『使い手』が何か思い出せないという状態だった訳で、それを考えれば記憶障害が回復しつつあるのかもしれない。
それに関してルイズやクロコダインに話を聞くと、どうもデルフリンガーは使い手の危機的状況に応じて、その都度自分の能力や必要な知識を『思い出している』傾向があるのが判った。
記憶の欠落があるのを考えれば魔法吸収や刀身の擬態化以外にも何か能力が隠されている可能性はあるが、だからといって人為的に彼らを危機に陥れる訳にもいかない。
それが妹の、親友の娘の使い魔となれば尚更だ。
それでも流石にガンダールヴの能力については色々な事が判明した。
能力が『心の震え』、つまり使い手の感情によって左右される事。
心の震えが大きいほど強い力を発揮できるが、その分持続時間は短くなる事。
これに関しては対ワルド戦においてクロコダインがその身を持って実証しているのだが、主からはお小言がでた。
あの時クロコダインは全くその様な素振りを見せていなかったのだが、ルイズ的にはそういう時はちゃんと不調である事を教えて欲しかったりするのである。
これは裏返すと使い魔のコンディションを見抜けなかったという自責の念からきている訳だが、実にわかりにくい事この上ない。
もっともかつてのパーティメンバーや同僚にも自分の感情を上手く出せなかったり、目的の為にあえて感情を偽ったりする者がいたので、クロコダインにとっては微笑ましい類の事ではあった。
話がそれたが、他にもガンダールヴは主が虚無魔法を詠唱している間だけ護衛できればいいという、ある意味で博打めいた能力設定になっている事なども判った。
詠唱時間こそ長いが、発動さえしてしまえば問答無用でカタがつくと考えれば、極端なコンセプトでも何とかなるのかもしれない。
現在判明している虚無魔法は『解除』ただ1つであるが、それでも有効範囲はニューカッスル城全体を覆っていたという。
更に恐るべき事に、ルイズは範囲内にある全ての魔法を認識し、なおかつワルド単体にのみ『解除』効果を適用させていた。
やろうと思えば範囲内全ての魔法効果を無効に出来たというのだから、専攻は違えど始祖の研究者たる2人が複雑な面持ちでため息をつくのも無理からぬ話である。
門外漢のグラモン元帥ですら、後日「ほら、ガキの時分に『火・水・風・土系統全てを融合させた極大超魔法』とか考えた事あるだろ。ぶっちゃけアレよりひでえ」と漏らした程だ。
ここまでくるとすぐにでもこの目で確認したいと思うのが普通であるが、残念ながらそういう訳にもいかなかった。
まだここに来ていない人物が、後で盛大に文句を言うのが目に見えていたからである。

その人物、つまりはヴァリエール公爵が現れたのは夕刻を少し過ぎた頃だ。
傍らにはオスマン学院長がおり、更にその後ろには夕食を持った数体のゴーレムが続いていた。
「すまない、遅くなってしまった」
遅参を詫びながら、公爵はマザリーニ及びグラモン元帥に視線を送る。
意味合いとしては、(私のいない間に小さな可愛いルイズの魔法を拝んだりはしていないだろうな? もししてたら決闘)というようなものだ。
対して友人たちは至って真面目な表情で視線を返した。
(うわめんどくせえ。あんま親馬鹿をこじらせるんじゃねえよバカ)
(そう言うと思って待ってましたよ。貸し1ですから今度また例の店で肉料理奢るように。有効期限は1年間です)
長い付き合いなだけあって、アイコンタクトでここまで意志疎通出来るのだが、当人たちは別に嬉しくもなかった。
もっとも、公爵としては末娘の魔法について10年以上も思い悩んでいた訳で、それが(予想外の形ではあるが)解消されたのだから一番に見たいと考えるのは無理もない話である。
ルイズが内外から言いたい様に言われ続け、それでも折れる事なく努力を続けていたのを知っているからこそでもあったが。
そんな外には漏れぬやりとりの後、ヴァリエール公爵は懐から2つの小瓶を取り出しテーブルに置いた。
同時にオールド・オスマンが大切に抱えていた『始祖のオルゴール』をルイズに差し出す。
「あの、なんでしょうか学院長」
「何って、呪文唱えるのに必要じゃろ」
聞いた話では、ルイズは『解除』を一度しか唱えていない。また他の系統魔法と比べ虚無魔法はスペルが長く、詠唱に時間がかかるようだった。
それもあって、オスマンはオルゴールのサポートがあった方が良いと考えたのだ。
「いえ、呪文ならもう覚えてます」
戸惑いながら答えるルイズに、大人たちは「ほぅ」と関心の表情を浮かべた。
それほど表には出していないが、公爵とエレオノールも内心ではかなり鼻が高くなっている。
自分だけでなく使い魔や学友、隣国の王族の命がかかった場面で、しかも敵は操られた婚約者という精神的に追いつめられた状況下での事だ。
よもやスペルを暗記しているとは思いも寄らなかった。
「それでは始めるとしましょう。ルイズ嬢、その小瓶の中には魔法薬が入っています。向かって右の小瓶だけに『解除』をかけて頂きたい」
マザリーニの言葉に、ルイズはコクリと頷き杖を掲げた。
神経を集中させると、自然と呪文が脳裏に浮かび上がる。
スペルを口にするにつれ自分の体内に一定のリズムが生じ、同時に感覚が研ぎ澄まされていくのが判った。
テーブルの小瓶だけではなく父や姉の持った杖やデルフリンガー、グレイトアックスなどのマジックアイテム、また隠し部屋だけではなく上の城内にまで認識は広がっていく。
今回はそこまで感じとる必要はないので敢えて目の前の小瓶に集中し、ルイズは最後の一節を唱え、杖を降り下ろした。

なるほど、これが虚無魔法か。
グラモン元帥は感心しながらも、どこか冷静に一部始終を捉えていた。
というのも、他の面子の大半がいい感じに感極まっているので、自然と冷静になってしまうのである。
マザリーニはブリミル教の信徒として、絶えたと考えられていた虚無魔法を目の当たりにしたのだから、感動するのは当然と言えるだろう。
オールド・オスマンはお世辞にも熱心なブリミル教徒とは言えなかったが、長い間魔法研究と指導、メイジ育成に関わってきていた。
またルイズは無論の事、その姉や、父親ですらがかつての教え子であり、彼らの苦悩や努力も知り得る立場にある。ルイズの魔法成功に感情を動かされるのも無理はない話だった。
エレオノールやヴァリエール公爵に至っては語るまでもない。ただ涙を堪えるのに必死といった風情だ。
クロコダインはこの中で一番ルイズとの付き合いが短いのだが、フーケ戦と今回のアルビオン行を経た今では主と使い魔以上の繋がりで結ばれている。
ルイズの虚無魔法を見るのは二回目とはいえ元より見かけによらず涙もろい彼の事、主の内心を慮んじてその隻眼に涙を浮かべるのも止むなしと言ったところだった。
そんな訳で、『皆が酔っぱらってしまったので冷静にならざるを得ない下戸』状態の元帥は、仕方ねえなあと内心でぼやきつつ小瓶に『ディテクト・マジック』をかける。
結果、指定された右の小瓶のみが探知魔法に反応しない事が判明した。魔法薬が完全に無効化され、只の水になっていたのである。
成功を告げられたルイズは、ほっと胸をなで下ろした。
あの時と同じように体内に独特のリズムが生まれていたし、スペルも一言一句間違えなかった。
しかしギャラリーがギャラリーだけに、緊張を強いられていたのは、まあ無理からぬ話ではあったのだった。
ともあれ上手くいって良かったと思った瞬間、彼女は父親に抱きしめられていた。
「と、ととと父様!?」
驚くルイズの声が聞こえているのかいないのか、謹厳でしられる公爵はお構いなしに末娘の小柄な体を抱き、その耳元に話しかける。
「良かった、よくやったなルイズ……! ついにこれまでの努力が実ったのだな……!」
流石は私とカリーヌの子だ、と手放しに喜ぶ父の言葉に、ルイズの涙腺が緩む。
「……はい、はい父様、ありがとうございます……っ」
これまで魔法が使えない事で家族から疎まれてきたのではないかという恐怖に、ルイズは常に晒されてきた。
だが、そんな長年の懸念は公爵の行動によって一瞬のうちに解消された。
ルイズは鳶色の瞳にいっぱいの涙を溜めながら、真夏に咲く花のような笑みを浮かべたのだった。

さて、そんなこんなで虚無魔法の実演は終了した。
ここで終われば感動的な話として美しい思い出になったのだろうが、そう上手く運ばないのが人生というものである。
続けて細かい条件を変えての『解除』をしたり、同時に複数の対象を『解除』できるか試したりとしていた訳だが、問題はこの後に起こった。
虚無という特殊極まりない属性とはいえ、系統魔法に目覚めたのだから他属性も使えるのではという推論をエレオノールが主張したのである。
確かにメイジは自分の属性以外の系統魔法も使う事ができる。無論属性外故、威力や効果は落ちる訳だが。
で、うきうき気分でルイズが小瓶に『練金』をかけたところ、ものの見事に失敗してテーブルごとずどんと爆発したのである。
「え、えええ? ななななんでどどうして」
これまでがトントン拍子に上手くいっていた為、ルイズの動揺もいつもより大きくなっていた。
あわあわと両手を上下させパニックになるルイズをクロコダインがやんわりと宥める。
その後ろではヴァリエール公爵が、難しい顔で友人と長女に尋ねていた。
「どう思う?」
「正直なところ、サンプルが少なすぎて何とも。しかし伝承では虚無を含めた5つの系統魔法は始祖が編み出したものとされています」
「当然始祖ブリミルはその全てを使いこなしていた筈なのですが……」
ふむ、と公爵は腕組みを解く。
「ミス・ヴァリエール。ひょっとしたら土系統の魔法は相性が良くないのかもしれぬ。違う系統魔法も試してみてはどうかの」
そう提案したのはオールド・オスマンであった。
確かに火系統の術者は水系統の魔法を苦手とする様に、属性と逆の系統は扱いにくい例がある。
それでは、と各系統のドットスペルを唱えてみたルイズであったが、結果は全て爆発というこれまで通りの現象を引き起こしていた。
しかし、駄目で元々とコモン・スペルを唱えてみた所、これが予想に反し爆発などせず見事に成功したのである。
『火竜山脈の天気とタニアっ子の流行』とはトリステインの格言で『変化がめまぐるしい』という意味だが、この時のルイズは正にそんな感じだった。
動揺していたのはどこへやら、ロック、アンロック、ロック、アンロックと繰り返しつつ、扉に向かってエヘヘヘヘヘ、と笑う彼女にエレオノールが「やめなさい、みっともない!」と制止するが、まあ気持ちは判らないでもない。
「虚無以外の系統魔法は全滅だが、コモン・マジックは成功する様になった、か」
「これまでは成功率0だった訳ですから、大きな進歩と言えなくもありませんな」
「使えるようになった理由はマジさっぱりだけどな」
「ところでそろそろ酒とか入れたくなってきたんじゃがの、わし」
真面目にやる気あんのか、と突っ込む元教え子たちに学院長は体育座りでこれみよがしにいじけてみせる。
いいじゃないか少しくらいボケても、真面目に考察とかして疲れんのかお前等、などとぶつくさ呟いているがいつものように総スルーであった。
一応この老人、トリステインでも有数のメイジなのだが。
「まあなんじゃ、自分の系統に目覚めた事によって精神的に何らかの『パス』が開いたのか、あるいはこれまでは力みすぎていて魔力が暴走していたのが成功体験によって落ち着いたというとこじゃろ、多分」
もっともさらりと的を射た指摘をしてみせるあたり、この老人油断がならない。
最初からそうしろという公爵・元帥・枢機卿の言葉は、当然いつものようにスルーされた。

コモン・マジックが成功したところでこの日の集まりはお開きとなったが、それで全て終わった訳ではない。
精神力の回復をしつつ、ルイズは様々な検証をする事となった。
検証は主にエレオノールが担当し、開いた時間にマザリーニや公爵が加わる形で行われ、たまに物見遊山気分の学院長や元帥が加わる場合もあった。
その間に『大掃除』の準備が着々と進んでいたり、娘から事情を聞き出したマリアンヌが密かにマザリーニに難題をふっかけたりしていたのだが、客人扱いのルイズにそんな事は知ろう由もない。
結局彼女が使い魔と共に学院へ戻れたのは、アルビオンを脱出してから丁度1週間が過ぎた頃になったのだった。

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最終更新:2011年07月20日 09:30
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