ベルファストの町から隠し鉱山へと続く田舎道を一台の馬車が行く
それは鉱山への定期便で馬車には町の商店や近隣の農家から徴発した食糧その他
日用雑貨等が積まれている
「しかし勿体無いよなあ」
御者を務める看守が隣に座る相方に話しかける
「あんなイイ女みすみす始末しちまうなんてよう」
「モーティマーの大将もあんだけ恥かかされちゃあ生かしちゃおけねえだろ、
どうせ始末するんだ最後に俺達にもお零れが回ってくるかもしれねえぜ」
「そりゃあいい、たっぷり名残りを惜しませてもらうぜ」
その後マチルダの乳尻太腿をネタにひとしきり盛り上がっている間に山道に
差し掛かると御者役の看守は馬を停める
「どうした?」
「ちょっと“爆撃”してくる」
そう相方に答え看守は道路わきの茂みの中に姿を消す
用足しを終えた男がズボンを上げたところで背後の草むらから灰色の鱗に包まれた腕が
音もなく伸びて看守の頭を鷲掴みにした
強靭な爪が鍛鉄の兜を紙のように貫通し頭皮に食い込むのを感じた男は声も出せずに
立ち竦む
「先刻の話」
男の頭蓋骨を握り潰さないよう指先の力加減に注意しながらクロコダインは言った
「詳しく聞かせてもらおう」
「ひでえ有様だなオイ」
地下牢に繋がれたマチルダの姿を見て思わず顔を歪めるブロンディ
鎖に繋がれ天井から吊り下げられたマチルダの思わずふるいつきたくなるような
裸体には鞭打ちの跡が全身まんべんなく刻まれている
暴れるだけ暴れたうえ自信満々で挑戦してきたモーティマーをタイマンで叩きのめした
あと力尽きて捕えられたマチルダは看守達に入念に“可愛がられて”いた
ブロンディは牢の扉を開けると手際よくマチルダの拘束を解くと
柔らかな女体の手触りに激しく煩悩を刺激されながらマチルダを抱いて牢を出る
「見張りはどうしたのさ?」
「ちょいと“旅に出て”もらった」
マチルダを担いだブロンディは真っ暗な坑道の中を迷わず奥へ奥へと進んでいく
「フーケ」
「なにさ?」
「太ったか?」
「…………………………」
「分かった!俺が悪かった!だから無言で頚動脈を〆るのは止めろ!」
やがてマチルダとブロンディは複雑に枝分かれした坑道の奥のやっと大人一人が
潜り抜けられる程度の裂け目からゆるやかに傾斜する天然の洞窟に入る
その突き当たりは深い縦穴になっていて穴の底では勢いよく流れる水音が轟々と
轟いている
「地下水脈?」
「こんなこともあろうかとこっそり見つけておいた秘密の逃げ道さ」
「逃げ道?」
「お前さんも呑気だねえ、明日処刑されるって知ってんのかい」
「知るもんかね。で、急に仏心が沸いたってわけ?」
「まあね。ただしこの水路の終点はドーバーの大裂溝だ、途中で岸に這い上がりそこねたらそのまま“床下”に真っ逆様」
ブロンディはおおげさな仕草で合掌してみせる
「はっきり言って助かる確率は五分五分だが今となっちゃあ他に手はねえ」
「うれしいねえ。で、本当のところなんでアタシを助ける気になったんだい?」
「おいおい俺にだって善意ってものはあるぜ?」
「ブリミルがエルフだってほうがまだ信じられるね」
ブロンディは観念したといった風情で肩を竦めた
「実はな、ヒュルトゲンのヤマでエグラモア卿にお前を売ったのは俺なんだ」
「この…ドブネズミ!」
繰り出された右ストレートを身を捻ってかわしたブロンディはマチルダの腕を捕ると
見事な一本背負いを決める
「だからこれでチャラにしてくれや」
急流に向って落下しながらマチルダは声を限りに叫んだ
「ド畜生―――――――――――――――――― ツ!!!!」
為すすべも無く激流に翻弄されるマチルダ
何とか岸に向って泳ごうとするが体が言うことを聞かない
一昼夜に渡って加えられた拷問と低温の地下水はマチルダの体力を根こそぎ奪っていた
そのとき下流から流れに逆らい魚雷のような勢いでマチルダに接近する影があった
強力な腕がマチルダを捕らえると楽々と岸に引っ張り上げる
ぼんやりと霞む視界一杯にひろがった鰐面が何かを叫んでいる
「キスなら後にしとくれ…」
マチルダはニヤリと笑うとクロコダインの腕の中で気を失った
最終更新:2008年06月27日 22:44