虚無と爆炎の使い魔-02-ANOTHER

 ――第2話――ANOTHER?

「あれは!?……まずいわ!ルイズが!?」
 キュルケとタバサが目にしたのは、足がもつれて倒れたルイズに男が魔法を放つ光景だった。
「ルイズーーー!!」
 何十もの白い光球がルイズへと飛び掛かった。キュルケ達はルイズを助けようと一心不乱で魔法を
唱える。が、

 『ぐきっ』

 それがいけなかった。走ってる最中に魔法を唱えようとして躓いたのだ。バランスを崩しキュルケの杖があらぬ方向に向く。キュルケが 「え!?」と思う間も無く完成していた火球が真っ直ぐ飛んで行った。

 ちゅどーーん!!

「ぎゃあああああああ!!!」
 寸分違わず火球がルイズに命中した後、男の放った光球も次々とルイズに炸裂する。メリーポピンズもかくやと言う程、空を色んな方向にぶっ飛びまくったルイズがボロ雑巾の様な姿と化してキュルケ達の足元へ落ちて来た。二人の存在に気づいたルイズは息も絶え絶えな様子でキュルケに手を伸ばそうとする。
「キュ……キュルケ……?どうして……ここへ……?」
「な、何言ってるのルイズ!貴方を助けに来たに決まってるじゃない!しかし貴方さっきの叫びはレディとしてちょっとどうかと思うわよ」
 伸ばされた手をしっかりと握り返し、汗を垂らしながらもしごく真面目な調子でキュルケが答えた。
「そうなんだ……あ、ありがとう。でもおかしいの。最後……目をつむってたからわからないんだけど、まるで背中から魔法を喰らった様な衝撃があったのよ」
「それはキュ――」
 ルイズの疑問に答えようとしたタバサをキュルケが身体ごと突き飛ばした。そのままの姿勢で吹っ飛んだタバサは地面を2、3バウンドして動かなくなる。
「そんなのあいつが攻撃したに決まってるじゃない!!なんていうかこう、魔法がぶわーっとホーミングしたりとかなんとかして」
 不必要に大袈裟なジェスチャーを加えてキュルケが必死に説明して来る。ただし決してルイズと目を合わそうとはしなかったが。
「と、とにかく!あれは間違いなく男の新攻撃よ!決してどこかの誰かの魔法が光球を撃つつもりが足を滑らせて狙いを外れたとかそんな事は……まあ3分の2程の確率で無くもないけど」
「なんか随分高確率ね……けど、そうだったの。ごめんねキュルケ、今まで貴方の事、敵だなんて思ってて……」
「そんな事もういいのよルイズ。間違いは誰にだってあるわ。それに……私達はおともだち、おともだちじゃないの!」
 そう言ってまるで聖母の様な眼差しでキュルケが見つめる。どこかで聞いた様なセリフだがルイズは満足気だった。キュルケの美しい微笑みにちょっと涙ぐむ。

 『ゼロ』の私のピンチに駆け付けてくれる友達ができたのだ。こんなに嬉しい事はない。その想いを限りに声が力を無くしていった。

「さ……最期に……お願いがあるの……」
「ええ。何でも言ってちょうだい親友のルイズ!金と男以外なら何だって用意するわ!」
 前後で脈絡の合わない言葉をキュルケが発するが、(いろんな意味で)幸いにもルイズには聞こえなかった様だ。「こんな私を親友と呼んでくれるのね……嬉しい……」と感激の涙すら零している。

「あ、あの男……を倒して欲しい……の。私が……呼び出しちゃったせいで……このまま野放しにしたら……とんでもない事になっちゃう ……!だから……!」
「いや正直それはム――」
 いつの間にやら復活し、またも何か言わんとするタバサの足をキュルケが華麗に払った。そのまま転倒した姿勢のまま動かなくなる。どうやら後頭部から綺麗に突っ込んだ様だ。
「何も言わないでルイズ。大丈夫よ!大丈夫だから……だからもう、目を閉じてちょうだい!」
「あ、ありがとう……お願い……ね……」
 目は普通開けるものではないかと最期にちょっと思ったルイズだが言われたまま静かに目を閉ざした。きっと親友が焦って間違えたに違いない。ならば素直に従おう。そう思い直す事にして。
「ル……ルイズーーーー!!!!」
 目を完全に閉じた事を確認したキュルケがあらん限りの声で叫んだ。隣を見るとタバサがどこからか取り出したシャベルで穴を掘っている。抜群のコンビネーションだった。

「……ええと、それで、そこの男!よくもルイズをやってくれたわね」
 土から足が一本飛び出した状態の、実に適当そうに埋葬されているルイズの墓標を横目で見たキュルケが声を上げた。足がかすかに動いている気がするがまあじきに見慣れるだろう。男以外は特に誰も気にしてない様子である。
「……ええと。それで敵討ちでお前達が戦うんだな」
「それなんだけどぉ……」
 少し鼻水が出ている男の顔を伺う様に、非常にバツの悪そうな表情でキュルケが答えた。
「いやなんか格好つけて登場したのはいいんだけど貴方の攻撃でルイズは死んじゃうし、かといって戦おうにもレベルが違い過ぎて勝負にならないしね。正直な話、元々私達は貴方と全然関わりないわけだし、なんかもういいかなぁって」
「いや俺は後ろからは攻撃しとらんから。ついでに言えばこういう場合普通は親友の頼みに奮起して戦うべきところじゃないのか!?」
「男と男の約束ってやつかしら?今どき暑苦しいだけよそんなの。そもそも本人が死んじゃったら願いを叶えたって無意味じゃない?」
「だからまだ死んで――」
「さー行きましょタバサ」
「人の話を聞けぇぇぇ!!」
 そんなこんなでキュルケ達が帰って行った後、気絶しているルイズを掘り返したハドラーは目に涙を滲ませ「せめて俺が使い魔にならねば」と、ルイズに心からの同情と忠誠を寄せたのだった。



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最終更新:2008年07月10日 00:24
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