虚無と爆炎の使い魔-04

 ――第4話――

――プロローグ――

 とある広い屋敷の中にある広場にて一人の少女が魔法を唱えた。
 ――結果は爆発。それを横目で見ていた使用人達は互いにひそひそと囁き会う。

「母親のカリン様も、長姉エレオノール様、次姉カトレア様も優秀なメイジなのにねぇ?」
「魔法が全て失敗する貴族なんて聞いた事もないね。……本当に貴族なのかしら?」
「もしかして拾わ…むぐ」
「滅多な事を言うな!誰かに聞かれでもしたら打ち首もんだぞ」

 そんな使用人達の言葉を少女は気にも留めず、淡々と魔法を唱え続けた。だがその努力が報われる事は無く、地面のあちこちに穴を作っていくだけである。
 それでも彼女はいつもの広場で魔法を唱え続けた。雨の日も、風の日も。
 魔法が使えない事で母や長姉に叱責を受け、悲しみの涙を流した日もそれが止む事は無かった。どこかで泣き腫らしたのであろう、赤い目をしながらも少女は、それでもいつの間にか広場で来ては、いつもの様に魔法を唱え始めるのだ。
 最初は影で笑っていた使用人達は、次第に何も言わなくなっていった。その心の内は、少女のひたむきさを哀れむ者。心の中でひっそりと応援の声を上げる者。反応は様々である。
 ある日、彼女の行動にどうしても疑問を覚えた使用人の一人が彼女に質問をした。「何故そこまでするのか」と。
 少女は答えた。「魔法が使えない者など貴族では無いわ。いざという時に民を守る力が無いのならそれは貴族では無い」
 だがその言葉を聞かされても、この物好きな使用人の心は晴れなかった。少女に追って質問する。

「ですが、それは戦があった時のみでございます。一生を平和に暮らした貴族の方々も少なくはありません。それに……」

 少しだけ言葉を発する事をためらった後、使用人が続けた。

「魔法の才無くも、自らの政治的手腕や商才を磨き、名誉ある位まで上り詰めた貴族の方も沢山いらっしゃいます。それに貴方はヴァリエール家の三女。戦に出る様な事などほぼ無いと思うのです。貴方がそこまでして魔法にこだわる理由とは一体何なのですか?」

 黙ってしまった少女を見て使用人は、出過ぎた事を言ってしまったかな?と思った。誰かに知られれば処罰も免れないだろう。
 だがそれについては使用人はあまり気にしていなかった。どうせいつかは家業を継がなければならない身である。少しぐらい早まった所で同じであろうと考え、少女の返答を待った。

 物好きだな、とは思う。この少女がやっている事は単に貴族の気まぐれなのかも知れない。だが――

 自分はこの報われぬ少女を哀れんでいるのだろうか?たかが使用人風情が、大貴族の娘に自分と同じく他の『道』もあるという事を説きたいのだろうか?そんな思いが胸の内に湧き起こる。

 考え込んでいた少女がようやく声を上げた。はっきりと通る、意思の篭った声だった。
「――――」
 少女の意識はそこで途切れた。




 ――第4話――

「……何でだっけ?」
 ついぞ見た夢の内容にルイズは疑問符を浮かべる。だがその問いに答える者は誰もいなかった。仕方なく自分で答えを導き出そうと、まずは襲い来る眠気に抗おうとする。が、
「まぁいいか」
 ルイズは早々に諦めた。夢は確か数年前の内容だ。直前のやり取りから察するに何か青臭い発言でもしたに違いない。そう思い直して再び目を閉じようとする。
「……?」
 上瞼が着地するぎりぎり前にルイズは、部屋に射し込む陽光がやたら明るい事に気付いた。そこから導き出される結論をしばし黙考した彼女が慌てて跳ね起きる。
「――ってこのまま寝たら遅刻じゃないのよ!」
 そう叫び、威勢良く立ち上がった。が、その瞬間全身に違和感を感じる。身体の節々がやたら熱く、筋肉がパンパンに張っている。
 跳ね起きた姿勢のままルイズは凍りついた。全身を脂汗が浮き出し、そして――

「痛だだだだああああ~~!!」

 昨日ルイズが召喚した使い魔との激戦は、彼女の身体を限界以上に酷使していた。
 いかな優秀な水メイジであろうと後から来る痛みは直せない。全身を襲う強烈な筋肉痛にルイズがベッド中をのたうち回った。

 ――シーツが皺まみれの無残な姿に変えられた頃、ようやくの思いでルイズは起き上がった。芋虫の様な動きでよろよろと着替えを完了させる。
 おぼつかない足取りで部屋を出たルイズは、廊下を挟んだ向かい側の部屋の主とばったり対面した。
「お、おはよう。ルイズ」
 対面の主がにこやかに微笑む。が、いつもと違いその顔はぎこちなさに満ち溢れていた。
 笑うだけで精一杯といったその笑みを見て、今の自分と同じ状態なのが一目で判ったルイズは挨拶を返す。
「おはよう。キュルケ。……その分じゃあんたもそうみたいね?」
「当たり前じゃない。……っていうかあんな戦いの後に何も無い方が不思議よ。コルベール先生も未だ回復してないって聞くし」
 キュルケの言葉にコルベールの名前が出た瞬間、ルイズは沈んだ表情になった。自分をかばおうとしてくれた教師の姿が胸に浮かび、申し訳無いという気持ちが湧き上がってくる。
 そんなルイズの顔にキュルケは慌てて取り繕おうとした。
「だ、大丈夫よ。どうやら精神的なものらしくて命には全然別状無いって聞いたから。貴方が無事契約できて先生もきっと喜んでる筈よ」
 そこで一旦切ると笑顔を作り、ルイズの顔を覗き込んでウインクをした。
 それを見てようやく顔を上げたルイズに満足すると、諭すような口調で続ける。
「……だ・か・ら!先生の為にもそんな顔しない方がいいわよ。……ついでに後でもう一度くらいお見舞いに行ってあげなさいな」
 キュルケの口調はまるで子供に言い聞かせる母の様であった。いつものルイズなら「人を子供扱いするな」と、まずは反発して来るに違いない。そんないつもの『お約束』をどこか期待しつつキュルケが反応を待つ。

「……そうね。そうするわ。……あ、ありがとう、……キュルケ」

 だが今日は違った。昨日までは考えられない事であったがルイズは素直にキュルケに感謝の言葉を述べたのである。
 顔を赤くしながら礼を述べたルイズを見て逆にキュルケが慌て出した。ルイズに向けて手を伸ばすと、赤くした顔で「い、いいいいいのよ別に」とそっぽを向く。
「か、かわいい……」
 しおらしい反応を見せたルイズへの素直な感想を独り洩らすキュルケだった。

 ――あのルイズが私に感謝の言葉を述べるなんてね――

 ようやく落ち着いて一息漏らすと、ルイズとの今までの関係を思い出したキュルケがしみじみとする。
 入学してからこっち、事ある毎に二人は衝突した。性格が水と油な上、家が仇敵同士だった事もあり、お互い最初の頃は本気で嫌っていた。

 ――……いつからかしらね?――

 先に態度を変えたのはキュルケだった。性格が合わないながらも、誇り高く、常に努力し続けるルイズの姿にいつしか胸中で応援する様になっていた。
 とは言えそれでこれまでの関係が急変した訳ではない。ルイズへの見方が変わっても、あくまで表面上はルイズをからかっている様な言い回しをする。
 だがその内容はこれまでと違ってルイズを励ましたりハッパを掛ける、といったものになっていた。
 当然の事ながらルイズはそんなキュルケの言外の気持ちには全く気付かず、その後も(表面的に)対立を繰り返す事になる。
 こういった回りくどい方法をとったのは本人曰く「ルイズの反応が面白いから」
 だが本当の所は『急に素直に接するのが照れくさい』というのが最大の理由であった。
 と言う事で、そんな傍から見れば下らない理由で、毎日の様に喧嘩をする二人を眺めていたタバサはやがて『二人は似たもの同士』という結論を出すに至ったのである。
 しかしそんな関係も昨日を境に変化が生じた様だった。

 ――まあ当然か。あの使い魔にとっては貴族だろうが平民だろうが等しく関係無いんでしょうし……。あんな状況で『家が仇敵』だから協力しないなんて言ってられないものね――

 キュルケはそう結論づける事にした。それほど、昨日の体験は強烈なものだったのである。
 ルイズがハドラーを召喚してから戦いが終わるまでの間、あの場にいた者が受けたプレッシャーは並大抵のものでは無かった。それは生物としての根源から来る恐怖感である。

『魔法の有無など関係無い。あの男が本気になれば我々人間など皆平等に無にされるのだろう』

 全員が等しくそういった思いを味わった。
 そんな中をルイズ達は戦った。貴族はおろか、始祖の時代から6000年もの間『この大陸を支配している』という人間としての価値観を根こそぎ剥ぎ取られそうな空間にて共に協力し合い、試練に打ち勝とうとした。
 一つの目的に立ち向かおうとした三人にとって、下らないわだかまりなどいつの間にか無くなっていた。そしてついには契約を成功させる。
 自覚こそ無いものの、あの一日を生き抜いた三人の関係は、今や幾多の戦場をくぐり抜けた戦友のそれへと変化していた。
 表向きこそ変わらないものの、以前と違ってルイズの方からも心の深い所では二人を信頼する様になっていたのである。

「それにしても……」
 ふっ、と目を柔らげたキュルケが独り呟く。
「……ずいぶん可愛くなっちゃったわよねぇ」
「……何の話よ?」
 キュルケの呟きは聞こえていたらしい。ルイズがしかめっ面で問い正した。
「貴方もちょっとは魅力的になってきたって事よ。ルイズ」
「いきなり何言い出すのよ……気持ち悪いわね」
「……まあこっちの魅力は相変わらず絶望的な様だけど」
「喧嘩売ってるのかしら?キュルケ」
 急に自分を褒め出したかと思うと、今度は胸を覗き込むキュルケにルイズは目元をひくつかせる。
「ふふっ、冗談よ。それじゃ先に行くわね」
 当の本人はどこ吹く風だった。
 にこりと微笑んだキュルケはそう言って素早く切り上げると、ルイズに背を向けた。使い魔のサラマンダーを従え、食堂の方向へと向かって行く。
 筋肉痛にはもう慣れたのか、それともやせ我慢なのか。その足取りは、普段通りのキュルケだった。
 そんなキュルケの一方的なやり取りに、ルイズはすっかり言い返す時期を逸してしまった。キュルケの背中を見つめ、喉まで出かかった言葉が虚しく沈んでいく。
「貴方も早く『彼』を連れて来ないと遅刻するわよ~」
 10メイル程先に進んだキュルケが振り返らないまま、ルイズに忠告した。
「わかってるわよ!馬鹿!」
 やり込められたルイズが半ばやけくそ気味に叫ぶ。その声を聞いたキュルケは愉快そうに後ろ手を振ると、そのまま階段を降りて行った。
 キュルケが去った後も、若干頭に血が上っていたルイズはその場に佇んでいた。心を落ち着かせる様、自分に言い聞かせてようやく再起動する。
「いけない!本当に遅れちゃう」
 ルイズは焦るものの、いつまで経っても肝心の使い魔は起きて来なかった。収まった筈の血圧が再び上昇していく。
「……もうっ、ハドラーの奴……。ご主人様より起きるのが遅いなんて、使い魔失格よ!」
 そうは言ってみたルイズだが、同時に仕方無いかな、とも思う。
 あの使い魔の力に比べれば、自分など蟻の様なものだ。契約はできたものの、やはり今のままでは本当の主従関係には程遠い。そう考えて、ついため息を零す。だがその表情は沈んではいなかった。
「まあ、今の私じゃ仕方無いか……。でも、まだこれからよ。見てなさい!いつか成長した私を見て「お前に従おう」って言わせてやるんだから!」
 拳を握ってそう宣言し、気を取り直したルイズが自分の隣の部屋の入り口に立つと、そのまま扉を軽くノックした。

  この扉の向こうがハドラーの部屋だった。当然これには理由がある。
 ルイズは当初、『使い魔と主人は一心同体』の教えを律儀に守り、自分の部屋にハドラーを住まわすつもりだった。
 だが、ルイズに案内されて寮内を歩くハドラーを見た同じ階の生徒達が、詳しく言えば、昨日のハドラーによる大惨事を直に『体験』した者達が、皆一斉に「部屋を変えてくれ」と直訴したのだ。
 その為にルイズの周辺の部屋はキュルケを除き、軒並み空室となった。そのおかげで手近な部屋をハドラーに貸し与える運びとなったのである。
 ちなみに、それでも最初、ルイズは自分の部屋に住まわせようとしたのだが、ハドラーの身体がかなり大きい事、二人っきりで一つの空間にいると心理的なプレッシャーが半端無い事からすぐに断念した。

 ノックにも返事が無かったので、ルイズが試しとばかり扉を軽く押してみた。ギイ、と扉が開く。鍵は掛けていなかったらしい。
「ハドラー……。入るわよ?」
 一つ断るとルイズが部屋に入った。
 部屋の中は全体的に薄暗かった。たが締め切ったカーテンからは幾筋かの陽光が床を照らしており、見えない訳では無い。
 中に入ったルイズは部屋の様子が昨日と違う事に気付いた。

 ――部屋の中はからっぽだった。普段なら入ってすぐ目に入る筈のベッドやテーブル、クローゼット等が軒並み姿を消しており、床と壁、天井だけのがらんとした空洞が広がっていた。その中でルイズは、部屋の奥の中央に見慣れない物を見掛ける。
 椅子だった。元あった簡素な物では無く、王族や一流の貴族が使う様な、ソファに近い立派な造りの物である。
 その椅子にルイズの探していた使い魔――ハドラー――の姿が納まっていた。ひじ掛けに腕を着け、軽く俯いて目を閉じている。陽光差し込む部屋で静かに君臨するその姿は正に一枚絵の様だった。
 あまりに堂に入った光景につい見とれてしまっていたルイズだが、やがてかぶりを振ると、ドラーを起こした。

「ハドラー……起きなさい。ハドラー!」
「……む……」
 ルイズの声にハドラーが目を開いた。意識が覚醒し、その瞼が上がっていくにつれ、歴戦の戦士たる鋭い目つきへと変わっていく。
「何か用か?主よ」
 ルイズの姿を視界に入れたハドラーは静かに言った。落ち着いた様子からして、どうやら寝起きは良いらしい。さっきの眼光に少しだけたじろいでいたルイズは内心安堵した。
「ええ。悪いけどすぐ仕度して。朝食に間に合わないわ」
「朝食……?俺も着いて行くと言うのか?」
 値踏みするかの様にハドラーがじろりと見た。ルイズも負けじと精一杯虚勢を張って対抗する。
「そ、そうよ。貴方の食事も既に用意してあるわ。もしいらなかったのだとしても前もって言ってくれなかった以上は、着いて来るのが当然でしょ?」
 有無を言わせぬ強い口調であったのだが、いかんせんハドラーを見上げて必死に訴えるルイズの状況は、主というより元気のいい部下といった感じだ。それでも主たらんとするルイズの言葉にハドラーはつい苦笑する。
「そういう事か……。なら、ここは主の顔を立てておかねばなるまい」
 やれやれといった感じでハドラーが腰を上げた。対するルイズは些細なやり取りの筈なのにどっと気疲れた様子である。

「……ねぇ。そういえばここに元あった家具はどうしたの?」
 ふと、ルイズがこの部屋に入って以来、ずっと思ってた疑問を口にした。
「ああ、邪魔だったのでな。処分した」
 それが何か?とでも言いた気なハドラーにルイズは戦慄した。
 この学院の家具や調度品は、盗難や生徒達が勝手に部屋をいじくらない様、土のメイジ達によってがっしりと床や壁に溶接されている。
 しかもその上に破損や劣化防止の為に強力な『固定化』の魔法も掛かっていた。並みのメイジでは動かす事はおろか、かすり傷一つ着ける事すら不可能である。
 それが、何をどうすればあの大きさの家具が跡形も無く消えるというのだ?ルイズの精神的疲労が一段と増した。
「そ、そう……。じゃ、じゃあその椅子は?」
 止せばいいのにと思いつつ、ルイズは再度聞いた。半ば恐いもの見たさの心境である。
「俺の寝床が必要だったからな。昨夜色々と探していたのだがこれが一番良さそうだった」
 それを聞いたルイズがハッ、とした。この椅子に見覚えがあったからである。
 確か学院の応接室に置いてあった、高級貴族や王家の者を招待した時に使う特別な物だった筈だ。ついでに言えばあの部屋は普段は魔法で厳重に鎖錠されている。だが、それがここにあるとという事は……。
 自分の知らぬ所で使い魔がとんでもない行動をしていた事に気が付いたルイズはついにキレた。
「何で無断でそんな事すんのよ!もし見つかったら罰則どころじゃ済まないわよ!」
 つい怒鳴ったが、人間のルールなんてこの男にとっては関係無いだろう。実質処分を受けるのは監督不行き届けの自分だけである。
 そんなことを思ってルイズがぜいぜいと息をついた。朝から身も心も疲労しっ放しである。
 だがまだ肝心の動機を聞いていない。ルイズの尋問?はまだ続いた。
「……大体、寝床なら備え付けのベッドがあったでしょ?何でわざわざ椅子を持って来る必要があるわけ?」

「単純な事だがな……」

 ルイズの怒声にもしごく冷静だったハドラーが初めて声を上げた。凛とした、力ある一声である。
 突然空気を変えられてしまったルイズは、それまでの怒りもどこかに吹き飛ばされてしまった様だった。もしかしたらとんでもない理由があるのかも知れない。ごくりと喉を鳴らしてハドラーの言葉を待ち受ける。
「戦いに生きる者にとって柔らかなベッドなどかえって寝心地が悪い。他にも理由はあるが……大方はそんな所だな。それに、だ」
 もったいぶった様にハドラーが切った。
「それに……?」
 つられてついルイズが聞き返す。たっぷりの沈黙を込めた後、笑みを浮かべたハドラーが、冗談とも本気ともつかぬ口調で言い切った。

「――魔王は『椅子』(玉座)で寝る」

 朝食はつつが無く終わった。いつもはルイズが食堂に着くと、皮肉や嘲笑の二つ三つは飛んでくるのだが、今日は違っていた
 ハドラーがルイズと一緒に食堂に入った瞬間に周りのお喋りがピタリと止み、ルイズ達が席に着けば10メイル四方が綺麗に無人になる。
 上級生までもがそれに従っている事から、どうやら昨日の一件は学院中に広まっている様子であった。
 当然ルイズへの悪口等飛んで来よう筈もない。皆視線を合わさない様に下を向き、まるで明日死刑になるのを待つ囚人の様に『つつが無く』朝食を終えたのだった。

 ――これから無理言ってでも毎日来てもらおうかしら?――

 クラスメート達からのちょっかいを受ける事も無く、久々に落ち着いた気分で食事が出来たルイズはそんな事を考えていた。
 にこやかな顔をしながら教室へと向かうルイズだったがその最中、突然ハドラーがルイズを引き止めた。
「ここで一旦別れる事としよう」
「……え?」
 ハドラーの言葉を一瞬理解できなかったルイズだったが、すぐに反対した。
「だ、駄目よ。主人が教室にいる間は使い魔も傍に控えているのが普通なのよ!?」
 ましてや今日は使い魔を呼び出した次の日である。皆喜々として教室に使い魔を連れて来る事は容易に想像出来た。ルイズは焦った様にハドラーの意見を却下する。
 だがそんなルイズに黙ってかぶりを振ると、ハドラーは事実を突き付けた。
「ふむ。……だが、昨日の俺が何をしたのか、忘れた訳ではあるまい?」
「あ!」
 ハドラーに言われてようやくルイズは気が付いた。
 昨日ハドラーが唱えた魔法は非常に大規模であり、死人こそいなかったものの、負傷した者はかなりいた。中には同じクラスの生徒も入っていたかも知れない。
 それ以前に、昨日のハドラーの恐ろしさをを垣間見て平然としている者などまずいないであろう。

「……まあ、それでも着いて来いと言うのであれば「わ、わかった。わかったわよ!」
 どこか愉快そうに喋るハドラーをルイズは全力で遮った。そのまま今日何回目になるのかわからないため息を吐く。
「はぁ……。じゃあ、ここで一旦解散するわ。昼食前にまた落ち合う事にしましょう」
「ああ。ではな」
 ルイズの提案に頷いたハドラーはローブを翻し、そのままルイズとは別の方向へと歩いて行った。
 その背中をルイズは力無く見送った。自分の視野の狭さを自覚してしまい、思わず頭を抱える。
「ああ~もう!……使い魔の方が状況を理解しているなんて、これじゃどっちが主人かわからないわよ!」
 恐ろしく強い上に、冷静で頭も切れる。昨日はああ言ってしまったものの、あの男を本当に自分に従わせられるのだろうか?
 早くも弱気になりかけたルイズはそんな事を考えながら、とぼとぼと教室へ向かうのだった。


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最終更新:2008年07月30日 14:38
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