『日谷創面・実質エピローグ幕間』(by 日谷創面(SS担当))
会場の一室。窓のない暗い部屋。
男が言葉を発する度、対面する少年が叫び声をあげ、転げまわる。
「インストラクションだ(Install action dat:「インストラクションだ」という意味の英語)」
「ぐ……ああああああああ!!あああ!!あああ!!」
裸エプロン姿の日谷創面が、床に何度も頭を叩きつける。
英検40段を誇る
池松叢雲。その流暢な英語を前にして、日谷創面は手も足も出ない。
過度な英語を前にして、深い絶望や苦痛を味わったことは誰にでもある経験だ。
創面は英語が苦手だった。
そんな創面にとって、池松の英会話は刃物のように創面の言語野に突き刺さり、精神的苦痛を与える。
「この程度でDamageを負うとは。」
池松は椅子に腰をおろす。
「英語の才能は無いようだな。」
「く…はぁ、ああああああああ!!」
「だが、俺のLesssonを受ければ少しは上達する。もっと早くに受けていれば、あの魔人警官に負けることもなかったかもしれん。」
あるいは、それでも不可能だったかもしれないと、池松は思う。あの魔人警官は、そう言う池松自身を打ち負かしたのだ。
日谷創面は、第2回戦第2試合で敗退した。
◇ ◇ ◇
1時間前
トーナメントの合間をみて、池松はあるMissionを実行した。
それは、池松がこの大会に参加した理由の1つでもある。
――小野寺塩素との接触。
彼女は、SLGの会・会長である鈴木三流と一時的に同じグループに所属したことがある。
その際、小野寺は鈴木に対して何らかの『洗脳』に近い行為を行なってる。
この1年間、『SLGの会』会員である池松は、鈴木と対面していない。しかし、一方的な鈴木からの『連絡』は受け取っていた。池松の言語力は、鈴木の言動から不自然さを感じ取る。調査の結果、小野寺塩素にその原因があると確信した。
小野寺が鈴木に何をしたのか。その目的も、ある程度予想できる。
だからこそ、この機会に彼女に接触し、できることならば、鈴木にかけた洗脳を解かせる必要があった。多少手荒なことをしてでも…。
「池松叢雲様……ですね?」
だが、その目論見は失敗する。
池松の行動は、全て読まれていたらしい。
敵に強力な情報能力者がいた――おそらく、小野寺の隣にいた少女がそれだろう。
林水素。報道部部長の彼女は『真実の未来の情報』を操る。
小野寺は、池松にある取引を持ちかけた。
◇ ◇ ◇
「豆腐の日谷家か……。」
池松は床に這いつくばった哀れな少年に目をやる。
少年は、池松が簡単な言葉を発するたびに、雷に打たれたようにびくんと体を震わせる。
「日谷ソーメン。『涅槃』…という会社を知っているな?」
その言葉を聴いて、創面の目が生気を取り戻す。
『涅槃』とは、『雲類鷲≪ウルワシ≫』という製薬会社の傘下にある『豆腐製造会社』である。
優秀な豆腐屋である日谷家は、昔から『涅槃』からの手荒なオファーを断わり続けている。
その結果、創面は母親を亡くしていた。
「ね……はん……それがどうしたってんだ……?」
「知りたいか……?教えてやろう。」
「いや、やっぱいいって!話さなくて!い、いいからああああああ!!」
◇ ◇ ◇
池松の予想通り、小野寺の目的は『雲類鷲≪ウルワシ≫製薬』にあった。
雲類鷲製薬は、日本の巨大な製薬会社である。薬品。それもただの薬品だけではなく、魔人に関する薬品を開発・研究している。
表向きは、合法的な魔人専門の医療品を製造しているが、裏では非合法の危険な魔人薬品を開発しているという。
そして、その魔人薬品の開発の『被験体』あるいは『材料』として用いられるのが、池松らSLG――弱能力者であった。
差別対象にある魔人。その中でも、力をもたない弱能力者は、社会的最底辺に属する。
彼らは人身売買の対象になり、雲類鷲製薬のような会社に買い上げられる。
もっとも、SLGの半数は魔人では無く人間として生活しており、皮肉にも人間として暮らす彼らの社会的地位は決して低くない。
今までは、その『カチグミ』と『マケグミ』なるSLG達がコンタクトを取れることは殆ど無かった。それを可能にしたのが『SLGの会』である。
『雲類鷲製薬』が『SLGの会』当面の敵であることは明らかであった。
一説には、その雲類鷲製薬のボス『雲類鷲 殻(うるわし かく)』自体が魔人。しかもSLG能力者であるというが、真偽の程は定かではない。
「――なるほどな(Naru hotdog now:「なるほど」という意味の英語)」
「……おわかり頂けましたか?」
雲類鷲に反抗できる組織は一握りしかいない。ましてや個人の豆腐屋が、雲類鷲の傘下とはいえ、そのオファーを断り続けるなど、余程の武力がなければ出来ることではない。
そして、2回戦でみせた日谷創面の覚醒。
日谷は、純血の『手芸者』の家系だ。
小野寺は、日谷創面に雲類鷲を暗殺させる気なのだ。
その後、製薬をどうするつもりなのか。小野寺が雲類鷲製薬を吸収し、事態はSLGにとってより悪い方向へ向かうかもしれない。
これは、賭けだ。と池松は感じた。
そして、その賭けに乗ることにした。
「いいだろう。そのLessonを請け負う。ただし、お嬢にかけた『術』は解いてもらうぞ。」
「あら……。僕は鈴木様に何もしておりません。ただ、戯れにちょっと……。」
そう言うと、小野寺は手で宙を払う仕草をした。
彼女は、札束で人を従わせるのが大好きだ。
従わせる内容が無いときは、ただ相手を札束で叩き、その間の記憶を忘れさせるのが…
彼女の趣味である。
◇ ◇ ◇
「――と言うわけだ(Tall you what care down:「そういうわけ」という意味の英語)」
池松の言葉に、創面はもはや反応できない。
「そろそろか…(So low so low cut:「そろそろ」という意味の英語)」
池松は立ち上がる。
創面は、殺虫剤をくらった虫のように痙攣している。
「――――――――ケンが」
池松が口を開く。
「ケンが言いました。『これはペンですか?』クミコが答えます。『いいえ、これはリンゴです。』」
「ぐああああああああぁ―――っっ!?ああああああっ!!」
池松による、ネイティブを超えた流暢な英会話が、創面の精神を蹂躙する。
「ケンが言いました。『しかし、これは赤いです。』クミコが答えます。『そうです。だからリンゴです。』」
「あああああ――――――――!!や、やめっあああああ―――っ!!」
「『あなたはこれがペンに見えるのですか?』『いいえ、私にはこれはリンゴに見えます。』『それでは、この1つのペンを私に下さい。』『いいえ、これはペンではありません。』『ペンはどこにありますか?』『ペンはどこにもありません。』そこにナンシーがきました。『ここにペンがあります。』『いいえ、それはリンゴです。』『いいえ、それはリンゴです。』」
「ああああっあああ―――――――っ!!ぐああああああああああぁぁぁっぁぁ!!」
「『これ…は…赤いペン…です~~~~~ナンシーは~~~が~~~~~を~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~なら、何故~~~~~~~~~し~~~~~~~~~~~~~リンゴ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~なのか?~~~~~~~~~~~~リンゴ~~~~~~~~~ケンが叫び~~~~~~~~~~~~赤い~~が~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~を~~~~~~て…」
池松の英語が、次第に聞き取りづらくなる。
創面が意識を失っているわけではない。
「~~~~~~~~~~~~~~~~が~~~~~~~~~~~~~~~!~~~~~~~~~~~~~~~を~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」
英会話の速度が、上がっているのだ。人間に聴き取れないレベルまで!
もはや創面の体はぴくりとも動かない。
それでも、創面の意識は英会話のショックで、生皮を剥がされ、醤油をかけられ、豆腐のようにすりおろされる苦しみを味わい続けている。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」
池松の高速英会話。それは、禁止された英検の極意。
――――『速読』による『速聴』である。
対象の潜在能力を強引に引きずりだす。最凶のLesson。
短時間で英検の力を授ける危険な教育法。
ともすればそれは、対象の生命を奪いかねない。
だが、池松には確信があった。この男ならば――
◇ ◇ ◇
創面は己の意識が、己の意志に反してはっきりと覚醒していくのを感じた。
そのぶん、苦しみも大きくなる。
『アババババババーーーーッ!!おい!ソメン!早くやめさせろ!俺にまでダメージが伝わってくるじゃねえかあアアババババババーーーッ!!』
創面に取り憑いたロクロが脳内で叫び喚く。
このロクロの声も、以前よりはっきりと聴こえてくる。
意識がクリアになる。
頭脳が複数に分裂する感覚。
苦痛を感じる部分を隔離し、創面は、先程池松の話した内容を思い返す。
『涅槃』が日谷家の敵であることは、創面も知っていた。
母親が、涅槃の刺客によって殺されたことも。
自分が手芸者にならなければ、現在の均衡を保つのが難しいことも。
それでも手芸者になろうとしなかったのは、創面が自分に自信を持てなかったためだ。
しかしこの大会の1回戦で、創面は自分を取り巻く環境に価値を感じた。
そして2回戦で、自分に取り憑いた手芸者・ロクロの力をはっきりと自覚した。
「俺には……姉貴がいる。そして、この豆腐馬鹿の力が――ある!」
気がつくと創面は、畳のある部屋であぐらをかき、座っていた。
眼の前には初めて見る、手芸者・ロクロのもがき苦しむ姿。
『アババーーーーーーーッ!!ババッ!バババババババッ!!バッ!』
「おい、ロクロ。おい。 ……聞け、この馬鹿!」
ロクロの頭を殴りつける。
ロクロの意識を近くに感じる。
こいつにも、ここまでに至る事情があるのだろう。
殺人鬼になった理由も、あるのだろう。
だが、創面はそれを訊く気はしなかった。
『アバッ!!アァー……何しやがる!ソメン。』
「お前に話がある。……取引だ。」
『……ハァ?』
「お前、豆腐が好きだったな……。」
◇ ◇ ◇
「調子はどうだ?」
Lessonが終わった。
池松が声をかけると、創面はゆっくり立ち上がる。
「う……いや、悪くない……。いや、悪いけど……。」
「ふむ。英検『6段』といった所か。上出来だ。」
どうやら創面は、『速聴』によって、心身の制御に成功したようだ。
これで、手芸者としての基本動作、裁縫や匍匐前進などは楽にこなせるだろう。
加えて、豆腐屋としての豆腐を扱う繊細な技術も備えている。
「最終調整。実践で稽古をつけてやる。ついて来い。本気の殺し合いだ。」
池松は扉を開け、廊下へでる。
「あ……ああ。頼むぜ、……『先生』。」
創面はふらふらと進み出ると、扉を使わずに壁へ激突した。
そして、そのまま『アゲンスト・トーフ』でずぶり。と壁に侵入する。
廊下に出た池松が振り返る。
創面が抜け出てきたはずの壁は、
一片の傷の無い豆腐のように、
元通り、綺麗に塞がっていた。
「――ネクスト・インストラクション(Next install action:「次のインストラクションだ」という意味の英語)」
◇ ◇ ◇
「そうめええええ―――――――――――――――っん!!」
創面が廊下を進むと、聞き覚えのある少女の声。
眼の前に創面の姉、奴子が仁王立ちしている。
「あんた!試合に負けたって……本当!?つか、なんて格好してんの!?」
「あ……姉貴。」
体は無事でしょうね。と創面の肩に手をかける。
「あ、ああ……大丈夫だ。まあ、これからまた戦うんだけどな。」
「なに、それ。試合はもう終わったんでしょう!?」
「い……いや、色々あってな。」
ちょっと待ちなさい。と、奴子が腕まくりをする。
創面の体に手を当てると、
ぺたぺたと触り始めた。
「わあああああぁぁ!?あ、姉貴!?何してんだよ!!」
「馬鹿!恥ずかしがっている場合?私の能力で体を硬化させれば……。」
「い、いや。そうじゃくって……。必要ないんだ。それは。」
「……?」
奴子の肩に手をおき、引き離す。
「あー……えっと。戦いつっても。これは、俺の為にするものだから……。」
「……。」
「だから、えーー…。必要ないんだ。ありがとな。姉貴。」
「……そ、そう。」
創面が『自分の為』と言うのを、奴子は初めて聞いた気がした。
この弟は、いつも誰かに何か厄介ごとを押し付けられている。
その弟が、自分自身の為に何かをしようと言うのだ。
池松を追い、歩き出す創面。
と、振り返る。
「あ、姉貴。帰ったら、麻婆豆腐。作ってくれないか?……『普通』の豆腐が入ったやつ。」
「え、う……うん。いいけど……。」
「そっか。良かった。なにしろこれから毎日、豆腐を山ほど食うって。――アイツと約束したからな。」
不思議そうな顔をする奴子を残して、創面は廊下を歩き始めた。
◇ ◇ ◇
『池松叢雲VS日谷創面』へ続く(たぶん)
『のもじTHEアキカン・クイーン・ヘッド』の能力その他のネタバレ、設定です。(by のもじTHEアキカン・クイーン・ヘッド)
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●魔人能力『超強奪拘束裁判~正常VER~』
使用者:ア・キ・カーンX
対象:基本1名
効果:一瞬
謎の異空間能力。
その正体は『対象(被告)』の心の中に特殊空間を作りこみ『対象』の精神と存在を
縛り付けた上でそこに『クイーン』が物理的に”ダイブ”してくるという精神への
強制介入能力である。
- 法廷で衣装が好きに選べるのは「その人の心の中」だから
- 所持品は奪われたのはでなく外部(心の外)から能力で持ち込まれ宝箱にINしてる。
- MAPは能力発動時、対象の目に映っていた景色が反映されている。
- 挿入歌はダイブ中のドライブ感を出す演出で深い意味はない(きっぱり)。
そしてヒトはそこで自分自身や勝ち負けよりも、ある意味、恐ろしい(主に材質的な
意味で)メタルモンスターの”クイーン”と身一つで対峙することになる。
相手の心の上で決められた決まりごとはダイレクトにそのひとの心に刻み込まれ
rock in the herat
人はそこでの判決に異を唱えることができなくなる。
本来は名前の通り、人心全てを掌握し、身も心も女王に膝を折らせるための仕組みだが
頭部だけの現在は、決着でDPを奪うだけという程度にその威力は弱体化している。
(捕捉)
クイーンは事故で活動不可状態まで追い込まれていたが、プロローグSSの一件で
宿主から一部制御を譲り受けることで(というか明らかに突き落としてたけどね!)
能力発動時の法廷では自意識だけでの自律的な行動が可能になっている。
(設定の「通常時はのもじが表人格として行動。能力発動時は精神が入れ替わり女王の
人格が出てくる」というのは上記理由から)
●SSスタイル
実は遠山の金さん方式。
1回戦2回戦とも
”遊び人”ののもじさん活動⇒活劇(桜吹雪という名のDP戦略)⇒(場面転換;挿入歌)
⇒白州で”遠山”クイーン奉行が名裁き
という形式。
なんだかよく判らないけど好きという人は時代劇のお約束が好きというひとだったのかも?
DP戦略以降のノンストップは前半のタメに対するカタルシス昇華を目的としている。
一応準決勝以降は別スタイルを予定していた。
●キャラクター
○アキカン・クイーン
銀河皇帝ア・キ・カーンX。ツッコミ属性のアラサー。趣味は人材登用。現在、頭部のみ
一部誤解があるようだが、こちらが設定上の本体である。
趣味と実益を兼ね、地球圏最強と名高いス○ィーヴン・セ○ールをMY騎士団に勧誘
(無論、能力によるガチンコ勧誘)しようと地球近くまできたところで、無体能力者の
無体な能力発動によって宇宙船ごと墜落させられる。
ある意味凄く不幸な人。
彼女は各々が織りなす法廷における公平な裁判官であり、鋭き断罪の検察官であり、
強き意思のあり方を擁護する弁護士であり、そしてなにより君臨者(クイーン)である。
○阿野次のもじ
件の無体能力者。ザ・フリーダム。
バカの国からバカを広めにやってきたバカの見本のような見事な天才馬鹿。
一部誤解があるようだが(以下略
セガール勧誘後当然のごとく行われていただろう女王の地球侵略をさり気無く未然に防いでるような気がしないでもない。
裏SSスターター『そして運命のベルが鳴る』(by のもじTHEアキカン・クイーン・ヘッド)
姉さん。
本当の地獄はここからだ。
===========『裏トーナメント用』=============
裏SSスターター『そして運命のベルが鳴る』
◆ブザービーター~某大会決勝~
試合終了間際、羽山莉子からパスを受けた尾張籠芽が、放ったシュートは
綺麗な放物線を描き、小気味良い音と共にゴールに吸い込まれる。
同時に鳴るブザー音。
一瞬の静寂の後、
歓声と悲鳴が会場を割れんばかりに包み込んだ。
◆ユキノイベントC会議室
ユキノイベント事務所。
2回戦試合後、謎の仮面紳士ミスターEIKENから呼び出しをうけた羽山莉子は
事務所を訪れると指定された会議室の扉に一度手をやってからノックする。
中から、どうぞと返答がある。
―3m四方の普通の小部屋、音響の仕掛けなし、中に人の気配アリ―
ノック時の音響と感触から中の様子を推察した羽山は、自分の思考に思わず
苦笑いを浮かべる。
大会参加は終わっているし、ここは戦闘区域でもないからそんな警戒の必要
もないのだが、一度身に付いた習性はなかなかとれそうもなかった。
こうなるともうこれは一種の癖のようなものだ。
扉を開けると既に先客が2名、それぞれ思い思いの様子で寛いでいる。
そしてユキノイベントが主催した同じ大会参加者。一人は自分と同じ学園生徒だ。
羽山は自分の記憶を探り、自分の記憶のタンスから先客達の情報を引き出す。
すぐに思い出せよと言われそうだが、魔人にも色々いるそうそう意識に留めて
おきたくない類の情報なのだ。
で、先客一人目。
変なアキカン帽子を被った小柄な少女が、正眼にギターを構え、SEISEI
と竹刀のようにギターを振っている、自己鍛錬中のようだ。
彼女の名は阿野次のもじ。羽山と同じ希望が崎高校の生徒。学年は1年のはず。
所属は斧部…ではなくフリーでシンガーソングライターを自称していたはずだ。
ただし、ちまたの評判はシンガーソングライターとは、かなりかけ離れており、
「スゲえSATUGAIぶりだ。流石クラウザーさんの妹DAZE!」とか
「いや666人目の隠し子って噂だぜ」または「20XX年に究極のデスソング
『大銀河超一郎の一撃で地球滅亡』を完成させ人類を滅亡させるアンゴラモア
大王の正体は奴だ」などと陰日向なくデスなディス武勇伝を更新し続けている。
極力関わりたくない人物評である。
先客二人目は、メガネをかけた中世的な顔立ちの少女。こちらは会議室の
椅子にきちんと腰かけ、文庫本に眼を落とし読み耽っている。
彼女の名前は確か、一・∞。こちらはセーラー服を着こんで入るが所属学校は不明。
当然、学年も不明だ。
彼女は一族中の魔人率が99%を超える戦闘破壊家族、一家(にのまえけ)の
一員であり(もうこの時点で警戒レベルREDゾーン突入だったが)極度の
メガネフェチとして有名である。
しかも本大会に入ってから自らバイであると明言。対戦相手を弄りまくり勝利。
さらに自らの言動と行動を通し極度の露出狂・疑惑をほぼ確定的なレベルで
浮上させていた。羽山としては自分の大切な人たち―特に柏木茉奈のような―
には間違っても接触させたくない危険対象といえる。
つまり極力関わりたくない人物像である。
「ところで君はメガネをかけないのかい。ああ、初めましてだね、僕は一・∞。
よろしく。ところで君は君に合ったメガネをかける気はないかい」
そして後者の人物像のほうが、その社交的メガネを活かし、話しかけて来た。
なぜ同じ内容を2度言うのだろう。
しかも挨拶より先に眼鏡が来ている。どころか後にも眼鏡が迫ってきてる。
第一声だけで既に挟み撃ちだ。恐るべき眼鏡フェチぶりを見せつけている。
この瞬間、羽山の相手に対する警戒心は『私はお前に近づかなぃ!』のレベル
まで達したが、挨拶に全くの無反応という訳にもいかず極力笑顔で返事を返す。
「いや両眼とも視力はいいので。大丈夫だよ」
「∞ちゃん、残念。羽山先輩はバスケ部の名シューティングガードだから
眼すごくよいよ。あ、こないだの決勝!見マシタヨー羽山先輩。
いやーあれは近年まれにみる名試合だったよね。最後の最後まで判らなかったし」
今度は、極力関わりたくない人物像との会話に極力関わりたくない人物評が
割り込んできた。しかも背後を取られた、また挟み撃ちだ。
ただ、羽山もあの決勝の試合と言われて少し警戒を解く。のもじはあの時の
試合を応援しに来てくれてたらしい。そして話しかける表情も明るく言動も素直で
屈託がない。噂に聞くDMC!DMC!な印象は全く見受けられなかった、話だけで
素は意外と自称通りの渋谷系ポップなおしゃれ気質なのかも知れなかった。
「ハハ、最後の『3P』を決めたはわたしじゃないけどね。それに、期待の新人
が入ってきたから、もう私はお役御免。いつまでもロートルの自分がいると
あの子のやる気が”眠ったまま”だから」
そうのもじにウィンクを返す。
少しだけ寂しそうに、それでも本心の笑顔をのっけたままされたウィンク。
それがダイレクトに直撃したのか、おっとと声をあげ、のもじがかくりと揺れる、
帽子がズレ落ちそうになったところを慌てて元の位置に戻す。
文字通り羽山に『くらっと』きたのである。
これが羽山莉子の真骨頂、『無自覚の天然ジゴロ』。彼女も伊達にあの学園で
有名人はやってはいないのである。
「そうか『3P』か…いや寧ろ、この場合1VS3の絡みを推奨とみるべきか。
動機の言語化とか、あまり好きな作業じゃないが…」
その一方、そう怪しげに呟き、メガネでその表情を隠す∞。
ドドドッ…
こいつ…こいつは今絶対違う(3Pの)ことを考えている。
後輩を前にした羽山の∞への警戒心は『俺の…俺の側に近よるな』なレクイエム
レベルまで達した。さり気無くのもじを自分の背を回す位置どりをとる羽山。
だが、∞はまるで気にすることなく億すことなく言葉を続ける。
「ふむ、で、羽山さん。ここに呼ばれた理由は何か聞かれてますか」
「え?」
「え、じゃなくて理由です。やはり聞いてないと」
一人合点する∞
「ああ、そうだね、∞ちゃん、私にも同じこと聞いたね。で答えはNOェ」
これは後ろから、のもじの声。
「となると、一応、推論の条件は満たすか」
読みかけの文庫を机に置くと席を立ち、会議室に備えられた黒板を前にした∞は
何事か箇条書きで書きだしていく。
彼女はメガネカタという戦闘系の強能力者ではあるが、決してパワータイプではない。
確かに変態ではあるが寧ろ、頭脳明晰タイプでトリッキーな戦いを好む変態であり、
それ故に変態ではあるが人並み外れた、鋭い観察眼も有しているのだ。
「まず一点目。これはOKかな」
頷く羽山とのもじ
確かに大会期間は約1ヶ月間。敗退したせいで後半がまるっと空いてしまっている
「2点目。反論の余地ないね」
自分を億面なく美少女という神経はどうかと思うが、これも間違いない。
「3点目。彼は恐らく”呼ばれていない”」
もう予定時刻。彼は5分前行動がきちんとできるイケメンである。
「最後。正体は不明だが声はよかった。」
たしかにそういう呼び込みの職業をしているくらい明瞭でクリエイティブだった。
「以上のことから僕の結論はこれだ…」
一気に一つのセンテンスを書きなぐると、こちらを振り返る
『プロジェクトM』
そして、ふぅとため息をつく。美しい。黙っていれば文学少女として、ライトノベル
の表紙を飾れそうなアンニュイな溜息であった。
「つまりM・I・A・I(meet icha&ichaの略。英語で見合いという意味)
しかも1VS3の不規則な集団見合い…
どうやら僕たちは豆腐屋の息子の花嫁候補として彼の親父様に見染められてしまったらしい…」
「…
「…
「「なっ
なんだってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」」
のもじと莉子の声が綺麗にハモッタ。
これが、あの大事件―
『姉さん事件です。SNOW-SNOWトーナメントオブ女神オブトーナメント番外編 ~第一回
豆腐屋の親父の使いじゃあらへんで秋の渡る世間は嫁ばかりスペシャル~』
の疾風怒濤の始まりであった。
そして
運命(うぇでぃんぐ)のベルが鳴る。
to be continued
―――――――
―――――
――――
―――
――
いや、最後の地の文、全部嘘ッスけどね。
創面「んんんんんんんんんんんんんんなわけぇぇあるううううううるかー
ちょっと企画者、屋上まできやがれ(重度のシスコン、マジ切れちゃぶ台返し)」
メカ珪素「きゃおら!」
ロクロ「あーシスコ…じゃなかったソメン。もういいんじゃね、みんな喰っちまおうぜ」
『次回予告』
謎の仮面紳士ミスターEIKENからの依頼は彼の弟子、創面と
野試合を行ってほしい
というものだった。だが一人だと力不足だから全員または複数で創面と戦えという
格下扱いの内容にのもじの頭上の『女王』がブチ切れる。
クイーン「いい度胸だ。小僧ども。まずはわらわと差しでやってもらおうか!」
一週間待ってください。お前達に本当の能力バトルの醍醐味というものを教えてやる。
しかし、そう啖呵を切った彼女は全くのノープランだったのだ。
のもじ「Y・AMAOKAk~!!(英語でお前はヤマオカですか?という意味の感嘆詞)」
次回『究極VS至高~本物の能力バトルを教えて~』
に 皆のハートをRock ON♪だぞ
SS補足です。
「池松叢雲VS日谷創面」の試合が先に入ってしまったので連戦もきついだろうということで
「スポーツマン羽山莉子 VS 文科系読書家 一・∞」と性格の違う二人が戦う流れとなる
ような下地をいれればようかと思い、ちょっと無理しました。
流れ上、キャラ描写も強引なものとなってます。ごめんなさい。自然体が一番ですね。
○登場人物
バスケット部期待の新人という役割でダンゲロスストック優勝者の籠芽さんをお借りしました。
本来だとWC前にレギュラー専念していけないといけない羽山さんが本大会に
出場している動機付けの一つとして書いています。能力は「ブザービーター」
(初出:ダンゲロスストック)
新キャラ。その正体はまさに謎。
英語検定40段の完全熟達者を想わせる風格。
本場ロンドンやニューヨークを放浪し、英検の真髄に目覚めた男と呼ばれた人に似ている気がする。
ハーフではないかという噂すらあるが、常にオラウータンの面をかぶっているため定かではない。
きゃおら!
寡黙であまりしゃべらないが、己の鍛え上げた英検の腕前に地獄のような高いプライドを持っている。
「英検の極意は一瞬・一閃・一呼吸」という持論があり、連撃ではなく一撃の冴えにすべてを注ぐ。
日谷創面の師匠筋。能力は『統一躯』
台詞例「さあ、ディベートをはじめるか……」
特に意味の無いSS(by 熊野ミーコ)
特に意味の無いSS
それは
何故それを、問うのか。
答えは既に解りきっている事であろう。
でも、それでも、問わねばなりませぬ。
秋の陽は高く、穏やかな陽気である。
(行楽日和というのはこういう事を言うのかな。)
エミリーは空を仰ぎ見て考える。
(洗濯物を干してくれば良かったかな。)
しかし、新聞によるとお昼からの天気は下り坂であるという。
夕立が降るというのだ。
少し信じ難い気もするが秋の空は女心のように変わり易い、と父が良く言っていた事を思い出す。
(今日は大事な用事があるのだから、無駄な事を考えるのは良くないわ。)
たった一言を彼に問い。
たった一言の返事を貰う。
(そう、ただそれだけ。)
それだけの事である。
(下らない事だわ。だって見れば解るじゃない。)
下らない、とエミリーは思う。
事実エミリーの母はこの事を嫌い、家を出たそうだ。
父と母が交通事故で死に祖父に引き取られるまで、母の愚痴を聞いていたエミリーには下らない事に思えていた。
しかし、何十年にもわたり続けられた伝統であるのならば致し方ない。
(相手の名前は何だったかしら?)
見渡す限りの草原に、長い長い道が続く。
道の真ん中に大きな一本の木があり、その下には白いベンチが据えられている。
ここに座っていれば良い、と祖父は言う。
そのうち相手がやってくるさ、たった一言、簡単だ。
(ケンだったかな。それともジョーだったかしら。)
あまりにも何もする事がないので退屈である。
白いワンピースに白い帽子が風に揺れる。
心なしか空気が湿ってきたように思えた。
雨の匂いだ。
(こんなにも下らない事を、全国の人が知ると言うのは一体何故なのかしら)
祖母によると、この儀式は中学生以上の人々なら誰でも知ると言うのだ。
本に載ると言う。
信じ難い話である。
(こんな事を本に載せてどうしようっていうの?)
しかも何十年にもわたって同じ事を繰り返し繰り返し行い、それが毎年のように本に記録される。
(お母さんも嫌がるはずだ。)
エミリーの母であるヨーコはこういう意味の無い伝統を嫌う人であった。
(あら、雨かな。)
気がつくと、辺りは暗くなり、濃い土と草の匂いが立ちこめている。
ぽつり、ぽつり、と。
空から水滴が降ってきた。
(今日は、もう中止ね。雨が降ったのならお爺さんも許してくれるわ。)
帰ろうとしたエミリーであったが傘を持っていない事に気が付いた。
(夕立だっていうし、少し待てば通り過ぎるかもしれないわね。)
ざー、ざー、と降り出した雨ではあるが遠くの空に明るさも見える。
(とんだ一日ね。はやく帰りたいわ。)
ベンチに座って足をぶらぶらとさせながら道の向こう側、丘の上を何となく眺めていると何かが見えたような気がした。
良く見ると誰かが走ってくる。
(傘も持っていないじゃない。ずぶ濡れだわ。)
しかし、どうやら雨は通りすぎる様子で次第におさまってくる。
ばちゃばちゃ、と泥を跳ねながら少年が走ってくる。
その時が近づいたのだ。
(あ、綺麗。)
雨上がりの空には綺麗な虹がかかっている。
しばらくして少年が目の前にやってきた。
(やあ。)
と少年が目で挨拶をする。
酷く濡れているし靴は泥だらけだ。
金髪にそばかすの良く似合う少年だ。
かけたい言葉は色々あるように思える。
(やあ。)
とエミリーも目で挨拶をした。
しかし私達にはやる事があるのだ。
ふと見ると、少年の胸にはマイケルと書かれた札が付いている。
(やっぱり、この子なんだわ。)
エミリーの胸にはエミリーと書かれた札が付いている。
(はじめよう。)
マイケルが頷き。
そっと手を差し出す。
(はじめましょう。)
エミリーは差し出された手を見る。
「これは何ですか?」
「これはペンです。」
秋の日は暮れようとしていた。
全ての英語を志す者達へ。
ようこそ、英検の世界へ。
最終更新:2011年11月20日 22:37