公式HPに掲載されていたみさきの絵日記(現在はサイト閉鎖、以下、Webarchiveより発掘)。全15回
イラスト(一部除きほとんど発掘不可)はいまざきいつき氏が担当。
01 サイテーッ!
2314年2月5日
サイテーッ! 今日は15年生きてきた中で、最悪な日だよ。
よりによって誕生日にバイトをクビになるなんて。気に入ってたんだけどなあ、
うどん屋『SANUKI』。
この時代にバイオ育成してない小麦粉でできた
うどんが食べられるなんて、サイコーなのに。
……ウウン。やっぱ、サイテー!
そりゃあ、割ったドンブリ通算20個越えたし、おつりの計算間違えて、もらったお金より多く渡しちゃったこともあるし、お尻触ったお客さんの顔にお茶ぶっ掛けたこともあるけど。
なにもクビにしなくてもいいんじゃない。プンプン!
やっぱり施設、出るんじゃなかったかな……貧乏には慣れたけど、一人暮らしって、まだ寂しいな。
って、ダメダメ、そんな弱音吐いちゃ。
とにかく、また新しいバイトさがさなくちゃ。
ファイト! ミサキ!
02 もうヤダ。
2314年2月10日
もうヤダ。全然バイトが決まらないよォ。
数えたら、今日のハンバーガーショップで『SANUKI』クビになって15件目だよ。
ファミレスに、喫茶店に、クレープショップに、お好み焼き屋に、居酒屋に(あ、これは私が未成年だから面接の前にボツくらったっけ)とにかく全部ダメ。
やっぱ、食べ物関係に絞ったのが敗因かなあ。でも、お昼ご飯とか夜食とか、魅力的なんだよね。
でも、これって、私を陥れようとする組織のインボーかも……なーんて。ンなわけないない。
あ~あ。どっかに貧乏のない、夢のような世界がないかなぁ。タイタンホールの向こうにもバイトってあるのかな?
帰り道、空を見上げながら、そんなことばっか考えちゃった。なんてロマンチックな15歳。ハハハ。
帰り道と言えば、『SANUKI』で常連だったおじさんにバッタリあったっけ。
バイト探してるんです、なんて言ったら、「それじゃあ、軍隊にでも入ったら? 一生食いっぱぐれないよ」って、おじさん笑ってた。
なんか私のこと、バカにしてない?
私が軍隊なんて……バッカみたい。
03 今日もバイト探し
2314年2月12日
今日も一日バイト探し……のつもりが、どーゆーわけか、連合軍の入隊パンフレットをもらってしまった。
別にゼンゼン興味なんてなかったんだけど、道を歩いてたら、街頭のティッシュ配りのお兄さんに出くわして、
『あ、ラッキー。これでティッシュ代が浮く!』と思って手を出したら、渡されたのが、ティッシュじゃなくて連合軍入隊パンフ。
ナゼ? どーして?? ホワイ???
で、チラホラ読んでみたけど、試験とかあってめんどくさそう。それに、全寮制の士官学校に入らなくちゃいけないみたいだし。それじゃ、バイトできないじゃん。
やっぱ却下だよね。
パンフレット開いてるヒマあったら、預金通帳開いて生活費のやりくり考えなくちゃ。
……でも、お給料はよさそうだな、軍隊って。
04 今日のことは…
2314年2月14日
今日のことは日記に書きたくないなあ………でも、やっぱり書き残しておこう!
二度と浅はかな真似はしないよう、未来の私にケイコクするのだ!
って、偉そうに書き出しても、結局失敗談なんだけど。トホホ。
だいたい一時の気の迷いだったのよ。連合軍の試験を受けちゃったのは。
冷静に考えれば、私が受かるわけないってわかるのにね。
筆記試験は、なに書いたか覚えてないし。
実技試験は、なにやったか覚えてないし。
面接試験は……あれは向こうが失礼よね!
「紅葉ミサキです」って最初に名前を言ったら、面接官の人たち、何も質問しないで「わかりました。もう結構です」だなんて。ムキ~~ッ!
えーえー、どうせ軍隊なんて向いてませんよーだ。
もしかしたら、なんてチラッとでも考えた私がバカでした。
あ~、次のバイトどうしよう。憂鬱だなァ……。
05 キャ~~~~~ッ!
2314年2月21日
キャ~~~~~ッ!受かった受かった受かったよォ!
連合軍の一次試験、合格しちゃったよォ。
まさか受かるなんて思ってなかったのに。冗談みたい。信じられない。
いや、私の日頃の行いを神様が見ててくれたんだ。
もしかしたら貧乏神かも知れないけど、どっちでもいいや。
とにかく、この生活から抜け出せるなら、神様にだって悪魔にだってキスしちゃう!
チュッチュッチュッ
……エヘヘ。連合軍か。ちょっといい響きだよね。
なんたってカッコいいよね。そりゃあ最初は新人だけど、そのうち少尉とか少佐とかに昇進して、最後には将軍になっちゃったりして。
あ、やっぱ将軍はパス。なんか呼び方が可愛くないもん。少佐あたりがグッとくるかな。
ミサキ少佐……カッコいい。なんか、できる女ってカンジ。
お給料もいいだろうし。結婚相手選ぶのだって、軍人さんならよりどりみどりだよね、多分。
なんだか急に人生開けてきたなァ。
軍隊に入ればって勧めてくれた常連のおじさんのお陰よね。感謝してます。
でも、どこの誰かも知らないのよね、おじさんのこと。
ま、いいや。今度会ったらお礼言うから、今は日記に書いておこう。
「ありがとう、おじさん!」
06 この日記書くのも…
2314年3月3日
この日記書くのも、ずいぶん久しぶり。このところ帰ってきても、何もする気が起きなくて、即ベッドだったから。
軍の一次試験を通過したのはいいけど、二次試験がアレだもん。
ウウ…思い出したくもない。あんなのただのイジメ、シゴキ、イジワルだよォォォ!
あの試験官、いきなり20キロの山道、全力疾走しろだって。そんなのムリに決まってるって、私の体見ればわかるでしょ。
たまにやるダイエットだって、いかに楽して痩せるかに命かけてるんだから。
それを竹刀でお尻を叩かれて、ムリヤリ走らされて……アイツ、絶対サディストよ! そうに決まってる! 私が決めた!
でもって、ようやく地獄のマラソンが終わったと思ったら、今度はシミュレーターとか言う機械に乗せられて、何時間もグルングルン回されて……ああ、あのときはホントに天国の入口が見えたわ。
あ~~! どーしてこんな苦しい目に会わなくちゃならないの? 軽い気持ちで試験受けただけなのに!
私、何か悪いことした? ジョーダンじゃないわよ!!!!
……ここまで書いたら、やっとスッキリした。ま、いいや。どーせ私、落ちただろうから。
運悪く合格しちゃった人、がんばってね。
07 二次試験
2314年3月8日
二次試験、通過。合格……だって。ウソでしょ???
08 士官学校に来て…
2314年5月10日
士官学校に来て、もう1ヶ月。
まだ候補生とも言えない訓練生だけど、毎日毎日授業と訓練の繰り返しだ。
クラスでは友達も何人か出来た。
けど、みんな、それなりに目標があって、私みたいにお給料が欲しいから、なんて不純な動機じゃないみたい。
あ~あ。なんだか世界が違うなあ。
09 今日、『量子力学概論』の教室が…
2314年9月10日
今日、『量子力学概論』の教室がわからなくて、学校内を迷ってたら、キレイな(でも、ちょっと怖そうな)女の人が道順を教えてくれた。
私と同期らしいけど、向こうはバリバリのエリートコースで、もう士官候補生になっちゃてるようだ。
制服が全然違うモン。やっぱりカッコよかった。
その人、名前はルクサンドラ。そばにいた友達がそう呼んでるのを聞いたからわかったんだけど。友達の二人もキレイだったな。
士官候補生って、美人が選ばれるのかな? だったら私も……なんて、ウソウソ。
で、その人、教室の場所を教えてくれたのはいいんだけど、『ありがとうございます』ってお礼を言う私に、いきなり大笑い!(ずっと堪えてたらしいけど)
『一つ忠告だけど、教室に行く前に顔を洗った方がいいわよ』だって。
サイテー! 人の顔見て笑い出すなんて!
そりゃあ、さっきまでやってた
野戦訓練の迷彩メイク、落とすの忘れた私がバカだけど、だったら、最初に言ってくれればいいのに!
もう絶対会いたくない、あの人には。会ったら、恥かしくて顔から火が出ちゃうよ。
10 世の中には、ままならないコトが…
2315年4月4日
世の中には、ままならないコトがいっぱいあるのだ。
私もこの歳になって、少しは人生のキビシサを知ったりして。
まずは一つ目。
士官候補生に、なんと私が選ばれちゃったこと。
どーして? なんで? 落第することはあっても、候補生なんかに選ばれることはないと思ってたのに。
てゆーか、そんなこと思わないくらい、落ち零れてたのに。
でもってキビシサの二つ目。
私が候補生に抜擢されたと聞いたクラスメートたちの視線が冷たかったこと。
一緒にいたのは短い時間だったけど、本当の友達だと思ってたのに。
こんなことで友情って消えちゃうんだ。でも、みんなにとっては『こんなこと』じゃあないんだよね。
なんか悲しいな……。
で、ままならないコトの三つ目。
その士官候補生の教室に行ったら、初対面で大笑いされた、あのルクサンドラって人がいたこと。
幸い彼女とは別のクラス(彼女はエリートだからAクラス。私は一番したのクラス・・・・・・成績順にクラス分けだって)みたいだからショックは少ないけど・・・・・・なんでだろ?
私が日記で『こうなりたくない』って書くと、そうなっちゃう確率高すぎだよ。
これって、未来を逆に予言してるのかな。もしかして超能力? 私ってスゴーイ!
……こうでも書かなくちゃ、やってらんないよ。
あ~あ。明日からユーウツだなァ。
11 あ~~~、今日はさすがにバテバテ。
2315年・10月12日
あ~~~、今日はさすがにバテバテ。メチャクチャ眠い。
でも……今夜はガンバッテ日記を書こうと思う。書いとかなくちゃ、今日のサバイバル訓練のことは。
学校のまわりの樹海から、制限時間内に脱出するって訓練。
教官曰く、冷静な判断力とナビゲート能力、さらに屈強な体力と精神力が必要とされ、その上チームをまとめるリーダーシップがウンたらカンたら……。
そんな御託はともかく、いろんな噂だけはさんざん聞かされていた。
毎年何人か行方不明になるとか、訓練中に死んだ候補生がユーレイになって樹海の奥から手招きしてるとか……ヤダヤダ。
でもって、樹海の中に入ったんだけど……これがもうサイアク。
チームメートの子とはぐれちゃうし、地図はなくなっちゃうし、変な野生動物には追いかけられるし、もう勘弁して~!
樹海中走り回ったおかげで疲れて歩けないし、コースもわかんなくなっちゃって、このまま死ぬのかな~とか考えてたら、同じ士官候補生のチーム――ルクサンドラさんたちが通りがかったから助けてもらった……いや、正確には助けてもらおうとした。
そのチームの三人、ものすっごく歩くの早いの! こっちは走ってるのにぜんぜん追いつけないし、なんかヨユウでお喋りしてるしホントに同じ人間? って疑いたくなっちゃう。
んで、必死で追いかけてたらいつの間にかゴール! しかも私の方がチームメートよりも先に着いちゃって、教官にメチャクチャ怒られちゃった。
で、訓練の成績だけど……当然、ビリ。まぁ、しょうがないか。
ちなみに、ルクサンドラさんたちはトップだったみたい。そりゃ、あのスピードでゴールすれば、誰も勝てないって。彼女たちとは根本的になにか違う気がするなぁ。
神様って不公平~
12 明日から地獄の一週間
2316年・7月3日
明日から地獄の一週間。いよいよ学科試験が始まっちゃうのだ。
エ~~ン、こんなことなら日頃から勉強しとけばよかった。
なんて書きながら、来年の今頃もまた同じこと書いてるだろうなァ。
それはともかく、『時空唯物概論?』がチンプンカンプンで、図書室でお勉強。
と、そこには、ちょうどAクラスの三人――ルクサンドラさんとキリさん、スサーナさん……だったかな?――が集まってて、みんなでお勉強中だった。
でも、私には彼女たちがなにを言ってるのかわかりません。
同じ士官候補生のはずなのに、もしかしてクラスごとに授業の内容が違うの?
あのサバイバル訓練の時もそうだけど、『この人たちと私は住む世界が違うんだ』って痛感する。なんたって、Aクラスだしね。
ルクサンドラさんも、キリさんも、スサーナさんも、それぞれ立派な軍人になるって大きな目標を目指しているんだと思う。
私なんて目標も持たずにウロウロしてるだけなのに。
……なんか、凄いな。
13 久しぶりのお休み。
2316年・12月28日
久しぶりのお休み。
あまりに久しぶりすぎて、結局何もしないまま終わってしまった。
時間があると、いろんなことを考えちゃう。
ウロウロしてる間に、こんなところまで来ちゃった。
無事に進級できれば、のハナシだけど、来年にはここも卒業だ。
だからなのか、まわりは結構ピリピリし始めてる。
クラスのみんなも、もうすぐ始まる最終課題そなえて、いろいろ準備してるみたい。
その課題で認められたら、特殊部隊・
セラフィムの候補リストにも入れるって、嬉しそうに話してたっけ。
もっとも、最終課題って何をするのか、まだ知らされてないけど。
セラフィムか……私には関係ないな。
私にとって大事なのは、残りの人生食いっぱぐれないこと。
とにかく資格とか取りたくて、この学校に来たんだから。
けど、いろんな資格や免許、取ったなあ。
小型・大型・特殊免許。
各種航空機免許。
銃器及び火気取り扱い免許。
危険物取り扱い免許。
シャトル船外活動免許。
etc,etc……。
普通の生活してたら、ゼッタイ取れない免許ばっかだよね。
………てゆーか、よく考えたら、これって普通の生活じゃ役に立たない免許ばっかじゃない?
いいの? もっと普通の資格取らなくて。
簿記とか、速記とか、ソロバンとか、ペン習字とか、指圧とか、カイロプラティクとか、フグ料理とか、気象予報士とか、ボイラー技師とか……。
迂闊だった……これってケッコウ手痛いかも。
14 今日、士官学校の最終課題・・・
2317年・1月31日
今日、士官学校の最終課題が終わった。
って書くと、なんだかすごいテストを受けたみたいだけど、全然大したことなかった。
ありきたりの体力測定と、反射テスト、ちょっとした面接。
学科試験も実技試験もなくて、まったく拍子抜け。
始まるまでは、一体どんなムズカシイ試験がでるのかとキンチョーしてたけど、これじゃあ入学テストの方がよっぽどテストっぽかったな。
でも、こーゆー何気ないテストが、それぞれの適性とかがわかるのかも。
ンー、奥が深い……のか?
やっぱ、よくわかんないや。
私は……最終的には、少しでもラクができて、お給料がちょっとでもいい職場につければ、それでOK! あ、あとカッコいい男の人がいれば文句なし。
そんな夢みたいなお仕事にありつけますように。
とにかく! もうすぐ卒業よッッッ!!!
ヤッホ~~~~~~~~~ッ!!!!!
15 激動の3年間だった。
2317年・10月11日
激動の3年間だった。
思えば『SANUKI』をクビになったときから始まったんだな。
あのときは、まさか自分が地球から数光年も離れた宇宙ステーション(本当はもっと別の名前だけどよく覚えてないからこれでいいや)に行くことになるなんて、想像も出来なかった。
お母さんが生きてたらなんて言うだろう?まずはビックリするだろうな。
それから、応援してくれるかな?それとも『あなたにはムリよ』って止めるかな?お父さんだったら……。
………。
でも、取り合えずおめでとう! わたし!
晴れて一人前(って言うのもヘンだけど)のセラフィム候補生になったんだよ!
卒業した後の特別メニューは思い出したくもないけど……
一緒に受かったルクサンドラさん、キリさん、スサーナさんたちとはクラスが別だったし、あんまり面識もなかったけど、きっと仲良くなれる! と、思う。
……ウォーカー教官がついてくるのはどーかと思うけどけど。ハァ、ようやく士官学校を卒業したのに、地獄のシゴキは、まだまだ終わらないのね。
……なんだか最初の私の人生設計とは、少しずつずれてるみたいだけど。気のせいかなあ?
いよいよ明日、タイタンホールを潜って、ウォッチャーズネストに向かう。
何がどう間違って、私がセラフィムの候補に選ばれたのかわからないけど。
ここまで来たら、もう行けるところまで行ってみよう。
とりあえず、どこにいても私らしく。
そこそこ負けないで、めげないで、泣かないで。
がんばれ! みさき!
最終更新:2009年04月07日 22:53