『鳥河津 ミサの敗けられない理由(自キャラ敗北プロローグ)』

最終更新:

dngsspb

- view
管理者のみ編集可

<鳥河津 ミサ プロローグSS『鳥河津 ミサの敗けられない理由(自キャラ敗北プロローグ)』>


いったいぜんたい、顔がいい。


「顔がいい」という言葉には、大体の場合裏に「~~から許せちゃう」というニュアンスが込められてると思う。
顔がいいからめっちゃキザなのに許せちゃう、とか。
顔がいいからめっちゃぐうたらなのに許せちゃう、とか。

そんなわけで、今日も私の魚峰 イルカは顔がいいのだ。

===

「なるほどねー。この魔人くんにとっちゃ、自分が何より大切で、世界なんかよりも上位という訳だ」
イルカが見ているのは先日私が対峙した瞬間能力者の映像だ。
私の能力と違い、移動した先を完全に『上書く』タイプだった。

瞬間移動能力には、移動するものと移動先のものが重なることの処理に対して大まかに3タイプが存在する。

1つ、移動するもので移動先を上書くタイプ。
このタイプの術者は自己中心的な者が多い。
そして、魔人はだいたいジコチューなので、結局このタイプが多い。

実際、この映像に映っている奴も、私を犯そうと能力を使ってきたクソ野郎だった。
死んでほしい。というか殺せばよかった。

2つ、移動するものと移動先のものがお互いに"弾く"タイプ。
移動先が空気だけだったら空気を押しのけて普通に移動するだけだけど、
固体だと軽い方が勢いよく弾かれて吹っ飛んだりする。
よくゲームとかで衝突判定がおかしくなってぶっ飛んだ挙動に近い。
逆に、そもそも弾けない場合は移動が不可というパターンもある。

このタイプの術者はなんというかわりと素直なことが多い印象だ。

3つ、そもそも移動するものと移動先のものを入れ替えるので、重なる、という状態にならないタイプ。
このタイプは、空想科学読本とかが好きな、
理屈っぽいくせにそれはそれとしてフィクションも好きな拗らせた奴が多い。
私とかは、まさにその典型だ。
自分で言っていて悲しくなるけれど。


「…別に、瞬間移動系なら珍しくもないでしょ?」
「そうだねー。でも、ここまで攻性なのは結構稀かな。
 多分こいつは、瞬間移動がしたい欲求以上に、世界を自分で上書きたいって想いが強かったんじゃないかなー」
「…たしかに、コイツは瞬間移動できるのは自分自身だけだったしね」

こんな感じで、魔人能力とその術者の性格を紐づけて分析し、体系化するのが私たちの研究だ。
とくに魔人能力は、その効果はもちろんのこと、
現実と能力の間に起こる『矛盾点』をどう解決するか、
という細かいところに術者の性格が顕著に出がちなことが分かってきている。

…非常にニッチな研究だよねホント。

一応魔人犯罪のプロファイリングなどに役立つこともあるらしいけど、
イルカ自身はただ色んな魔人能力を見たいだけの魔人オタクだ。


「さ、次は昨日倒したっていう巨大化魔人との戦いのデータを見せてもらうね!」
「はいはい。どうぞお構いなく」

そうして、私とコードでつながれたパソコンは、また別の映像を映しはじめた。

『D.Liveレコーダー』、魚峰 イルカの能力は、
同意を得た対象の記憶をデジタルな記録へと変換する能力だ。
ちなみに、ただ映像だけでなく、その時のバイタルも詳細にデータ化されるし、
あまつさえ心の声までもデータ化される。
対象のプライバシーはなくなると言っていい。

実際、現在の『D.Liveレコーダー』の対象は私だけだ。


「どうしてあの能力受け入れてるの?嫌じゃないの?」
と、以前ラボメンバーに聞かれたことがある。

「もちろん嫌だけど、私はあの准教授に逆らえなくてね」
と応えると、その子は察して「そうか…大変だね…」と同情してくれた。

…本当に大変なんだよね。
イルカはすぐに私を興味ある魔人のところへ仕向ける。
戦わせられることもままある。

イルカにとって、私はモルモットどころか、
顕微鏡とかそういうツールの類でしかないのだ。

それでも。
私はイルカの願いを断ることができない。


「なるほど、この魔人くんは、『巨大なのに何で自重で潰れないの?』問題に外殻の硬質化でアンサーしてるんだー。
 まっじめー!!」
Youtubeでも見るように、人の死闘の記録を楽しむイルカにイラッときて、その横顔を見やると、
悔しいがやはり美しかった。ほんと腹立つ。綺麗。

===

「魚峰准教授、お先に失礼します」
「うん。ミサおつかれー、今日はハヤシライスの気分」
「…はぁ。分かりました」

研究室を後にする。
データを取ることが役割の私は、研究室を空けることも多い。
明日からも、またしばらく遠出することになる。
それでも、イルカは自分のことしか考えない。ムカつく。

あわれな私は、帰りがてら材料を買い、
狭いアパートの我らが家で、
これでもかというぐらい圧縮鍋で煮込んだハヤシライスをつくる。

とうに完成し、食卓に並べ、私のイライラが爆発しかけたタイミングでLINEが届く。
時刻は23時を回っていた。

『お迎えよろしくー♪』
もちろん、相手はイルカだ。
私はビデオ通話をつなぐ。
この時間なら、研究室にはイルカ以外はいないだろう。

「遅い。それに、お迎えは嫌だって言ってるでしょ」
「そんなケチ臭いこと言わないでよー。ほら、よろしく!」
「はああああぁぁぁ、絶対、動かないでよ」

ビデオ通話をあてに、『トリック R/L』を発動する。
手を軽く掲げ、イルカを包みこむほどの大きさの領域をイメージする。
そして、スマホ越しのイルカを、黒い領域で包み込む。

次の瞬間には、目の前にイルカが立っていた。
能力は無事に成功したようだ。

「ありがとねー。そしてただいま」
「まったく、傷つけないように持ってくるのは結構神経使うんだからね」
手元の領域Rを空気に指定すれば、こんなお迎えも可能ではある。
でも、黒い領域… 移動先の領域Lの指定をミスれば、
イルカが「切断」されてしまうことだってありうる。
顔だけが取り柄なのに危険なことをさせないでほしい。

「大丈夫ー。私はミサを信じてるもん」
そう笑顔で言われると、私は何も言えなくなってしまう。
顔がいいからだ。


私にとって、
魚峰 イルカという女は、
幼馴染みであり、
ひとまわり上のお姉さんであり、
初恋の人であり、
現在進行形で愛する人であり、
追いかけて入った研究室の准教授であり、
押しかけて入った同室の同居人であり、
私の全てを知ってもいい、むしろ知ってほしい存在だ。

自分でも、自身がアレなことは分かっているつもりだ。
それでも。

遅めの晩ごはんをふたりで食べる。
幸せな時間だ。
イルカは本当においしそうに食べるし、
私はイルカがおいしいと思うものをつくることにかけては世界一の自信がある。

「ミサは、次どんな魔人と戦うのかな?」
イルカの興味は、まだ見ぬ魔人に向いている。
私には、あまり興味がない。

だから、たとえ私が負けようと、
私が相手のことをキチンと体感していれば、
―その魔人のことが知れるのなら、
きっとイルカは何も思わない。

それでも私は絶対に負けられない。
だって、
好きな人にはカッコいいところを見せたいからだ。

「できるだけ、相手の魔人のことをいっぱい引き出してね」
イルカは私のことを心配したりしない。
ふつうにひどい話だと思う。
それでも、私は喜びを感じてしまう。末期だ。

結局のところ、惚れた者の負けなのだ。
私は、イルカから出会ってからずっと、
そしてこれからも一生、
無限に彼女に負け続けるのだ。


ウィキ募集バナー