汐名莉弥 プロローグSS「縒れたページをめくるため」

最終更新:

dngsspb

- view
管理者のみ編集可

<汐名莉弥 プロローグSS「縒れたページをめくるため」>









汐名莉弥 プロローグSS「縒れたページをめくるため」






 目を開ける。

 カーテンの隙間から漏れる朝日を左手で遮り、右手を傍らの目覚まし時計へと伸ばす。
 スイッチに指が触れる。一瞬、騒がしいアラームを鳴らしかけた時計は、すぐにその口を噤んだ。
 今回の今朝も(・・・・・・)、同時だ。

「…………はぁ」

 コーヒーの準備の合間に顔を洗い、少しずつ飲みながら身支度を進める。
 今日は一限から授業がある。
 出席が必須というわけではない。それでも、サボる気にはならない。

 たとえこんな事態になっていても、日常に縋らずにはいられない。
 なんてつまらない女だろう、と思いながら、マグカップを空にした。







「――でさ。思い切って問い詰めたら……あの二人、やっぱりデキてたって!!」
「うわーっ、マジかぁ!」
「俺、ちょっと狙ってたんだけどなあ。はー……」

 部室でお昼を囲みながら、何度聞いたのかもわからない衝撃のニュースが披露される。
 申し訳ない気持ちを浮かべながらも、愛想笑いで空虚な言葉を吐く。

「……ビックリだね。今年一番のニュースかも」
「それ! もう今年は何聞いても驚けないよ~~」

 みんなは笑いながら、その言葉に頷いている。



 なら、話してみせようか。

 ある日、突然『魔人相手の殺し合い』をする羽目になったと。
 原因も意味も分からず招かれ、ただ逃げまどい、そして、殺されそうになって。
 私自身も、魔人になって。

 そうして、幾度とない『今日』を繰り返していると――。



「しかしなあ。果たして何ヶ月続くかねえ」

 ね。あと何ヶ月分、続くんだろうね。

「カレシの方、結構束縛するっつーか、しつこい性格って聞いたもんねー」

 そう。しつこいんだよね。いい加減、終わってほしいのに。

「友だちの関係ならまだしも、恋人の関係はなあ……」

 対戦相手。ううん、そんな対等なわけない。狩猟者……死神とかも合うだろう。そんな、今宵のデートの相手。
 この関係の破局を、未だ期待していいのだろうか。

「……でも、とりあえず応援してあげようよ。せっかく巡り合ったんだから……きっと、何かの縁なんだよ」

 そんなわけがない。
 そんな美辞麗句で、私の惨めさを飾らないでほしい。
 一周目の私を呪うなんて、あまりにも不毛なことだけれど。

「それもそうか……やっぱ莉弥はオトナだよなぁ」
「ね! いてくれると安心だわ~~」
「お前それ、もうすぐ試験が近いから言ってるだけだろ」
「何だとっ! ちょっ、おまえーっ!!」

 追いかけっこが始まって、話題は流れていく。
 何度も繰り返したやり取りであっても、自然、笑みが零れてしまう。



 何度も繰り返させられる運命を、呪いはすれど。
 それでも、気の置けないみんなを。私の居場所を再確認する度。

 やっぱり、諦められはしない。
 手放したくない。
 鼻の頭がツンと痛み出すのを、じんわりと受け止める。

 そんな風に、温かな楔が私を縛り付けて。
 今日もまた、あの血の海に沈めていくのだろう。

 部室の窓から空を見上げる。
 もしかしたら、同じ空の下を過ごしているかもしれない、『あなた』は。
 どんな想いで、私を――――。


目安箱バナー