盗賊の本分は盗むこと。
だが、誰一人傷つけずに盗みを成功させる、という不文律が存在するのもまた盗賊である。
盗みのためなら
ナイフで脅すも人を殺すもお構いなし、などという輩はただの強盗だ。
俺たち盗賊はそんなんじゃない。
華があるんだよ。
犯行予告通り、パッとスマートに獲物を盗ってみせる。
誰にも真似できっこない芸当だね。
そんな想いがあるから、
ジタンは盗賊である自分に誇りが持てた。
仕事をしている時の俺の顔はきっと輝いているんだと。
だが、今、ジタンが対峙している相手は、それをはっきり否定するのだ。
その相手とは、意思を持った人形、黒のワルツ3号。
黒魔道士と呼べる風貌だが、ジタンのよく知るビビとはまるで違う、
邪悪そのものの存在。
盗賊の誇りを言うジタンに、黒ワルツはこう吐き捨てたのだ。
「貴様はコソ泥とどこが違うんだ?」
その言葉に、ジタンは心臓が凍るような衝撃を受けた。
そして不覚を取った。
動揺するジタンのスキを突いて、黒ワルツは容赦なく黒魔法を浴びせたのだ。
全身を電撃で撃たれたジタンは、立っていられず仰向けに倒れ込んだ。
黒ワルツは笑い声を上げながら近づいてきた。 逃げようとしたが体がまるで動かない。
「誰も傷つけたくないだと?虫唾が走るわ!」
(傷つけないのは、誇りがあるから・・・)
黒ワルツはジタンの腹部をおもいっきり蹴飛ばした。
「ぐっ・・・!」
必死で痛みを堪えるジタンを黒ワルツは更に責め続ける。
「何が盗賊だ。何が誇りだ。物をかすめ盗るしか能がない、ただのコソ泥にすぎぬわ!」
(コソ泥じゃない・・・!俺は・・・そんなんじゃない・・・)
今度は顔を拳で殴りつけた。 ジタンの顔に血がにじむ。
「自分を飾る言葉が何の役に立つ!、ここでは、殺しができぬ奴はただの負け犬なのだ!!」
(・・・・・・・・・・・・・・・!!!)
…そして、問い掛けてくる。
「貴様に人が殺せるか?」
だがジタンは答えない。
「もう一度聞く。貴様に人が殺せるか?」
それでも何も答えないジタンを、黒ワルツ3号は嘲け笑った。
その顔は、もはや悪魔としか思えないほど醜く歪んでいた。
「くっくっく・・・できまい。貴様はしょせん
臆病者だ。
だが私は違うぞ!」
黒ワルツは舞い上がると急降下し、ジタンの胸に膝を叩き下とした。
「ぐっ、ぐああああぁぁっ!!」
肋骨が数本は折れただろう。ジタンは血を吐いて転げまわった。
黒ワルツは、激痛で胸を押さえるジタンを尻目に、薄ら笑いを浮かべている。
「これで少しは考え直したのではないか?しかしもう遅いな。
貴様はもうすぐ死ぬ。
くくく・・・寂しくはないぞ。貴様の仲間たちもいずれ殺してやるさ。
せいぜいあの世で仲良くするんだな」
(
ガーネット・・・・みんな・・・・・)
黒ワルツはナイフを取り出すと、ジタンの髪を掴み胸に狙いを定めた。
「さらばだ、小僧」
勝ち誇った表情で、黒ワルツはジタンの胸にナイフを突き刺した・・・
かに見えた。
しかし、ジタンはナイフが胸を貫く直前、身を反らせてかわしていたのだ。
「なっ・・・」
黒ワルツは驚き、もう一度胸を狙うためナイフを持つ腕を引き戻そうとしたが、ジタンが脇で黒ワルツの腕を
がっしりと挟み込んだため、それはできなかった。
「ど、どこにそんな力が・・・!?」
黒ワルツはもう片方の腕で殴りかかろうとしたが、それより速くジタンの右腕が伸び、それも制止された。
「俺にも・・・殺しができるさ」
黒ワルツは驚愕の表情を浮かべた。
ジタンの目はギラギラと燃え上がっていた。
「大事な人を守るためなら、何だってやってやる!!」
ジタンは全身の力を振り絞り、脇で挟んでいた腕をおもいっきり締め上げた。
黒ワルツは苦痛の声を上げて、手に持っていたナイフを落とした。
そして、ひるんだ黒ワルツの左胸に、ジタンはその拾いあげたナイフを深く突き刺した。
「こんな・・・バカな・・・」
黒ワルツは自分が死ぬなど信じられないと言った顔つきで、死んでいった。
「大事な人のためなら・・・・・ガーネット・・」
ジタンは意識が遠ざかるのを感じ、そして、気を失った。
【ジタン(瀕死) 所持品:?、
盗賊のナイフ
行動方針:傷の治療】
【現在位置:レーベ北の海岸付近】
【黒のワルツ3号 死亡】
【残り 103人】
最終更新:2011年07月17日 17:55