フライヤはレーベ北の海辺にまで移動していた。
なぜここに来たのかは自分でもわからない。
ただ何か胸騒ぎがして、それが彼女をここに運ばせたのだ。
胸騒ぎは今見える現実の光景を、予測していたのだろうか。
浜辺近くに倒れていたのは、まさに
ジタンそのものだった。
「ジタン・・・・・・まさか本当にジタンか!」
フライヤは思わず声を上げた。
少し離れたところには、黒魔道士が斃れている。 ジタンはこの黒魔道士と戦ったのだろう。
壮絶な死闘だったに違いない。 付近にはおびただしい血の跡が見えた。
フライヤはジタンの身体を見て絶句した。
胸は陥没し、折れた肋骨が肺に刺さっているようだ。呼吸が満足にできていない。
「ひどいケガじゃ・・・ くっ、エリクサーがあれば」
だがフライヤはエリクサーはおろかポーション、ハイポーションといった回復薬すら持っていないのだ。
しかしこのままでは、間違いなくジタンは死ぬ。
大切な仲間、真の友と呼べる人間が。
「ジタン・・・・・」
かつて失意のどん底にいた自分を救ってくれたのは、彼ではなかったか。
陽気で飾り気の無い彼の振る舞いは、幾度となくフライヤの心を解きほぐしてくれた。
大切な人を助けるのに何を迷う必要があろう。
フライヤは覚悟を決めた。
「竜よ・・・ 我の
呼びかけに応えよ」
突然フライヤの足元がざっくりと裂け、地の中から巨大な黒い竜が姿を現した。
呼び出された竜は咆哮を上げると、二人を包み込んだ。
ジタンには恩恵を―― 彼の傷を完全に癒やし、
フライヤには試練を与え――
そして地竜は消えていった。
ジタンは再び目を開けた。
「なんでオレは・・・」
ジタンはなぜ自分が生きているのか理解できなかった。
体の痛みはまったくない。 恐る恐る腕を動かす・・・・動いた。
体を起こしてみる・・・・やはり何ともない。
「助かったのか・・・?」
いったい何が起こったのかは依然としてわからないが、素直に喜んでよさそうだ。
――奇跡が起こったのかな、日ごろの行いが良かったから、なんてね。
だが、後ろを振り返ったジタンの目に飛び込んだ光景が、彼の表情を一気に強張らせた。
よく見知った者が地に伏せていた。
・・・え?フライヤじゃないか。
なんでここに?それにどうして倒れているん・・・
それだけで、ジタンは全てがわかってしまった。
「じゃあ、オレを助けてくれたのは・・・」
フライヤが、禁断の技である六竜を使ったとしか思えなかった。
あの技は、時に使用者の命を奪いかねないからだ。
ジタンが駆け寄る。
「・・・・・・」
「どうしてここまでして・・・」
そう思うと堪らなくなって、その手を握った。まだ温かい・・・
死なないでくれと叫ぼうとしたその時、
「早まるでない。目まいがして休んでいただけじゃ」
はっきりと声が聞こえた。
「フライヤ・・・良かった、生きていたのか!」
見る見るうちにジタンの顔は明るさを取り戻す。
フライヤは、当然じゃ、と言う様な表情で顔を上げた。
そしてゆっくりと起き上がると、大きく
ため息をついた。
「魔力を吸い取られてしまったが、体力的には問題ない」
そう言ってフライヤは手を振ってみせる。
少し無理しているようにも見えた。
ジタンが心配そうに見つめると、フライヤは微笑んだ。
「大丈夫じゃ。しばらく経てば回復する。・・・おぬしが元気になってよかった。」
ジタンは感嘆するしかなかった。
もうそこには、いつもの凛としたフライヤがいたからだ。
ジタンはフライヤを抱きしめてやりたかった。 抱きしめて、そっと礼を言いたかった。
過剰な接し方を苦手としている、この古風な女戦士も、今ならそれを許してくれるだろう。
―こんなシチュエーションは滅多にないもんな、フライヤは普段ガードが堅いし。
何やら打算めいたものもあったが――
もちろん感謝の心に偽りはない。
ジタンはしゃがみ込んで、その愛しきフライヤを抱きしめようと手を伸ばした
・・・が、あっさり身をかわされてしまった。
ドサッ
意表を突かれたジタンは、よろめいて倒れた。
唖然としているジタンを見て、フライヤは苦笑した。
「ふ・・・そこまでしてくれなくともよいぞ」
それに、とフライヤは、「私には、ちゃんとそういう相手がおるからの」とも付け加えた。
ジタンはムッとしながら
「なんだよ・・・。オレはそういうつもりじゃなくて、ただ感謝の気持ちを・・」
「おぬしの感謝というのが、どうも下心ありそうな言葉に聞こえてな」
フライヤは少し意地悪そうに微笑み返した。
「そ、そんなわけないだろっ!」
ジタンは慌てて否定したが、本当はそれに心当たりがあるからたまらない。
どうしていいかわからず、ますます狼狽するジタンであった。
【ジタン 所持品:
仕込み杖、
盗賊のナイフ
行動方針:まだ決めていない】
【フライヤ 所持品:
エストック
行動方針:まだ決めていない】
【現在位置:レーベ北の海岸付近】
最終更新:2011年07月17日 18:41