美しく死にたい

ナジミの塔の階下からやや北東のところに、
1人の女性――セーラがひっそりと木の陰に隠れていた。

ゲームが始まるとき、彼女は自分の知っている人がいないか懸命に探したけれど、
誰1人として見つからなかった。
つまり、周りに味方なんていないのだ。
その事実が、彼女をより絶望的にさせた。
頼みの武器も、癒しの杖・・・攻撃能力など皆無に等しい。

だが、不思議と恐怖は感じなかった。
「死ぬ」ということに、あまり実感が湧かないからかもしれない。
ただ――

どうせ死ぬなら、静かに、美しく死にたい・・・)

それが彼女のただ一つの望みであった。
しかしいざ実行となると迷いが生じ、躊躇ったが、あのゾーマという者の訃音――
彼女の煩悶を断ち切るには十分だった。
彼女は暫く歩いてからどこかで安らかに死のうと考えた。

――死ぬ方法はある気ながら考えよう・・・願わくば、誰にも会いませんように・・・
そう欣求しながらナジミの塔付近にきたとき、
機械的に歪んで拡声された声が聞こえた。

彼女は畏敬の念を込めて塔の頂上を見上げた。ことの顛末を見守ろうと思った。
だが、それもやがてあっけなく終わってしまった。
金属的な音が聞こえたあと、声の主は掠れた声で誰かの名――恐らく夫であると予測はついたが――を呟き、
そしてそのまま倒れてしまったのだ。

セーラは尊敬こそしたものの同情する気にはならなかった。
彼女にとって美しい死に際であったろう、死の覚悟があったからこその行動に違いない。
とすれば、これもまた悪いとはいえない――そう解釈したからだった。
もっとも、彼女の率直な感想は「あんな騒々しい死はごめんだ」というものであったが。

避けられない運命を担いながら、抵抗するのはいやだった。
しかし実際に追いつめられたら、果たして自分は抵抗せずにいられるだろうか。
恬淡と死を待つことができるだろうか。

――ああ、急がなければ。ここにはもうすぐ人がくる筈・・・人に会ったら、私の計画もすべて駄目になってしまう・・・
  どこで死のうかしら。そうね、海の見えるところがいいわ・・・


彼女は海の見える所へと歩いていった。
決して彼女の望むことがないであろう、いくつもの夭折した遺体のあるアリアハン最北端の海岸へ・・・・・・


【セーラ 所持品:癒しの杖
 最終行動方針:自殺する】
【現在位置:ナジミの塔からやや北東→アリアハン最北端の海岸へ】


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最終更新:2011年07月10日 15:30
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