帝国領アルブルグ。帝国でもっとも美しい町の南東の森で、
セフィロスは死にかけていた。
リュックを胴を両断した僅かな隙に、
フリオニールの悪あがきをまともに喰らってしまったのだ。
皮膚はぐつぐつと『煮立ち』、所々が『炭化』している。
ただ、神が気まぐれで与えたような美貌と美しい銀髪だけは、どういう具合が全くの無傷だったが。
だが、セフィロスは確信していた。自分は、死なない。
一本の大樹に背を預け、セフィロスは無表情のまま心の中で繰り返した。自分は、死なない。
……なぜ、死なないのだ?
セフィロスの思考が、なにかに引っかかる。
生きたいから『死にたくない』という、なにかに対する哀願でもなく、
あの黒髪と記憶の中の金髪に会って何かを確かめるまで『死ぬわけには行かない』という決意でもなく、
ただ、『死なない』という事実だけが頭を巡っていく。何故だ?
そして…何故『死なない』のだ?死なないで何をするのか?
…何をするかは決まっている。殺すのだ。では、何故殺す?
何故死なない…何故殺す…何故何故何故何故何故何故何故何故…?
セフィロスの心の『何故』という心の声に合わせて、胸がどくんと鳴った。
しかし、それは心臓の鼓動ではあり得ない。
何しろ、彼の胸がどくんと言う音に合わせて彼の胸の中心が十㎝近くと飛び出していたのだから。
セフィロスの止まり賭けた心臓に、何かが寄生していた。
ヌメヌメとした、細胞の塊。狂った科学者はそれを『ジェノバ』と呼んだ。
その細胞が、脈打っていた。セフィロスの胸板を突き破るほどに。
どくんどくんどくんどくんどくん…!
それに耐えられず、セフィロスの肋骨がへし折れて、それでも鼓動は止まらない…!
ぶちっ。
何かが切れる音がして、そして。
『変化』が始まった。
セフィロスの中の『ジェノバ』が、凄まじい勢いで神経細胞の触手を伸ばし、その指先に至るまでに根を張った。
根が張った部分が、急速に再生していく。煮えたぎる皮膚はどんどん冷えていき、ずたずたの筋繊維が以前よりも頑強に再生する。
全てが終わった時、セフィロスの『何故』は消えていた。
何故殺すか?何故生きるか?理由はない。殺す。全て。自分の手で。
そしてそれは、自分の命よりも優先される…。
セフィロスは立ち上がり、アルブルグに向けて歩き出した。正宗以外の全ての荷物を放り捨てたまま。
…セフィロスの『ジェノバ』の触手は、その脳にも達しようとしていた。
【セフィロス 所持品:正宗
最終行動方針:全員殺す。理由は『無い』】
【現在位置:アルブルグに移動中】
※
日本刀と
変化の杖は、アルブルグ南西の森に放置されました
最終更新:2011年07月17日 16:38