アルブルグ。帝国都市の一つ。
ただひたすら家と石畳が続くこの町は、イオウと鉄の匂いに満ちて…いた。ついこの前までは。
今はもはや、その匂いを生み出すモノは存在し得ず、雨がソレを全て押し流す。
そして今その匂いに取って代わるモノは、濡れた石と血の香りだった。
「ピサロ様、逃げましょう…!」
アルブルグのメインストリートに、声が響いた。
ざあざあと降りしきる雨にまけない声量で
サマンサが叫んだ。
魔道のマントもとんがり帽子も、雨のせいでぐしょぐしょにへたっている。
だが、その隣に立っている暗黒の貴公子は素知らぬ顔で正面の“敵”をにらみ据えている。
その身体は全く濡れていない。水滴の一粒も彼に触れてはいない。まるで彼に触れるのを恐れるかのように。
貴公子の名は
デスピサロ。進化の秘法を求めし闇の帝王。
「ピサロ様…!」
サマンサは重ねて叫ぶ。目の前で立っている“敵”…コイツは…怖い。とんでもなく、とてつもなく!
「黙れサマンサ。コレを掃除せねば安心して秘法を探せん。」
ピサロはサマンサの言葉を一蹴し、“敵”を睨みながら笑って見せた。どこからどう見てもあざけりにしか見えぬ笑みを。
その挑発に乗ったわけでもないだろうが、“敵”は行動を開始した。
う゛ぉんっ!
唸る。風が唸る、雨が唸る、“敵”の手にした巨大な
日本刀が唸る!
十数歩の間合いが…“敵”とサマンサ達との間合いが…一瞬で詰まった。
“敵”のスイングで、日本刀がどんっと言う空気を切り裂く咆哮を上げる。
ソレは、巨大な獣の牙と化してピサロに食らいつく!
「イオナズン!」
日本刀に食らいつかれるが早いか、ピサロは微動だにせずに呪文を解き放った。
日本刀はピサロの服に小さな裂け目を作っただけで、名残惜しそうに爆圧で吹っ飛ばされる。ソレを手にした“敵”の身体ごと。
“敵”の身体が宙を舞い、何度も石畳と左右の家屋にぶつかりながら人形みたいに飛んでいく。
その家と石畳も、爆発の余波で一気に崩れ去る。アルブルグのメインストリートは一瞬で地獄と化した。
「やった…。」
目の前に生まれた瓦礫の山を見て、サマンサが呆然とした声を上げた。
一瞬の出来事で、何が何だかさっぱり分からなかったが…結果だけで見るとどうやら、“敵”を倒す事が出来たようだ…。
「下がれ。最低でも三歩だ。」
突如、ピサロが呟いた。サマンサに向けて。
「…?」
訳も分からず、サマンサはピサロの言葉に従った。正確に三歩、後ずさる。一歩、二歩…三歩。
三歩下がった次の瞬間、目の前にすっ…と日本刀が現れる。ずどおんっ!っという轟音と石畳の砕ける音を、それからしばらくして知覚した。
ついさっきまでサマンサが立っていた場所に、日本刀…正宗と言う銘の刀が投げつけられたのだ。“敵”の持っていた刀が。
「ッ~!」
驚きに声も出せず、サマンサがへたり込んだ。下がらなければ、死んでいた…。
「そこで座っていろ。邪魔だ。」
ピサロはこともなげに呟くと、瓦礫の山の一点に向けて跳躍した。右手に正義の算盤を握りしめて。
ピサロが跳躍していった辺りで瓦礫が弾けた。四方八方にレンガを飛び散らせて、“敵”が立ち上がる。
銀色の髪、死神のような真っ黒な服。立ち上がった“敵”…
セフィロス。
先ほどの大爆発にもかかわらず、セフィロスは全く傷ついていなかった。
否、数カ所ほど打撲痕と焼けただれた皮膚が見える。が、それだけだ。家を根こそぎなぎ倒すような破壊力を受けたハズなのに。
セフィロスは飛びかかってくるピサロを確認すると、右手を無造作に持ち上げた。
まるでその手に吸い込まれるかのように、ピサロの正義の算盤は受け止められる。
その手をぐいっと引っ張ると、ピサロの身体は為すすべもなく宙を泳ぐ。
そのピサロの腹に、セフィロスの弾丸のような拳が思いっきり突き立てられた!
普通に人を殴っても絶対に出ないと思われる、ばごんっ!と言う炸裂音。その音に、サマンサの意識が覚醒する。
少し離れた瓦礫の海で、ピサロがセフィロスに滅多打ちにされている…!
(助けなければ…進化の秘法の事を知るまでは、死なせるわけには!)
そのために、
アルスまで裏切ったのだ…こんなところで死んでもらっては困る!
「ベギラゴン!」
雨のせいで重くなった袖を強引に持ち上げて、呪を紡ぐ。アルブルグをまばゆく照らし出す烈光が、サマンサの手から迸った!
アルブルグの外れの所にある小さな家。
こんな状況にも関わらず、その家にはランプの明かりが灯り、そして暖炉の火がほの暖かい空間を作りだしていた。
「珈琲…飲みますか?」
グランバニア王国近衛兵隊の制服を身に纏った青年…
ピピンが、そう言ってテーブルに盆を置いた。
「ワタシ飲む~♪」
部屋の窓にかじり付いていた
エーコが、にこにこ笑ってテーブルの方に歩いてくる。
ひょいっと手を伸ばして珈琲のカップを手に取ろうとした所で…ピピンに優しく静止された。
「エーコちゃんにはホットミルクを作ってあるから…。」
「え~…ワタシそーゆー子供っぽいのはな~…。」
「子供ッぽいって…エーコちゃんは…。」
「すとーっぷ!それ以上言ったらワタシ怒るよ~?」
そんな、漫才みたいなやりとりをみて、テーブルに備え付けられた椅子に座っていた黒髪の女性…
リノアはクスリと笑った。
「ありがとう…いただきます。」
リノアはカップを手に取ると、その中の琥珀色の液体を少し喉に流し込んだ。
ほろ苦くて、どこか甘い…。そんな味が口の中に広がって、体が少し温まる。
「…おいしい。」
「ありがとうございます。ボク、これだけが取り柄でして…。」
ピピンがそう言って頭をかいた。どうやら照れているらしい。
リノアはクスクス笑いながら、カップをテーブルの上に戻した。
その時、どぉん、と小さな音がして、窓ガラスがビリビリ震えた。どこか遠くで…爆発があったらしい。
「また…誰かが」
リノアは、顔をしかめて何かを言おうとした。
しかしその言葉は、灼熱の閃光と共に部屋に飛び込んできた男のせいで中断された。
……雨のせいでぐしょぬれになった髪の隙間から、光が飛び込んでくる。その後から、爆音。
「……?」
ソレを知覚して、
スコールは顔を上げた。目にかかる髪を払いのけようともせず、今光が瞬いた方を見た。
……何も感じない、何も思わないスコールは、虚ろのみを連れてそちらの方に歩き出した。
【デスピサロ(中程度のダメージ)
所持品:
正義のそろばん 『光の玉』について書かれた本
第一行動方針:セフィロスと戦う
第二行動方針:腕輪を探す
基本行動方針:所持している本を手がかりに進化の秘法を求める
最終行動方針:なんとしてでも生き残る】
【サマンサ 所持品:勲章
第一行動方針:セフィロスと戦う
基本行動方針:デスピサロを手伝う】
【現在位置:アルブルクの街】
【セフィロス(かなりのダメージ) 所持品:正宗(現在手放しています)
最終行動方針:全員殺す】
【現在位置:アルブルクの街】
【スコール(負傷、人形状態?) 所持品:なし
第一行動方針:リノア達の方に移動
最終行動方針:皆殺し】
【現在位置:アルブルクの街】
【ピピン 所持品:大鋏
第一行動方針:???
第二行動方針:
ジタンを探す、できれば他の仲間にも会う】
【エーコ 所持品:なし
第一行動方針:???
第二行動方針:ジタンを探す、できれば他の仲間にも会う】
【リノア 所持品:
妖精のロッド 月の扇 ドロー:アルテマ×1
基本行動方針:スコールに会う】
【現在位置:アルブルグの街外れの家】
最終更新:2011年07月17日 21:31