「ここなら大丈夫そうだな。」
例の告知があった時から今までずっと山の中で雨のしのげそうな所を探していた。
だいぶ疲れているみたいだ。それに手に持ったケースの重みがその疲れに拍車を
駆けている。早く休みたい。そう思ってフラフラと中に入っていった。
すでに先客がいることに気付く術は無かった。
幾分ひんやりとした空気が頬をなでる。中を見渡し座り心地のよさそうな所を探す。
そして目に入ったのは誰かのザック…。それと同時に首筋にひんやりとした刃があてられた。
「動くな。少しでも変な動きをしたら斬る。」
幾分声を抑えソロに刃をあてた者…
ラムザは言った。
(くそっ!油断した)
ソロは気を抜いていた自分に悪態をつく。いつもならこんなヘマはしないのに。
このゲームが始まってから一番濃厚に死の香りがする。
「まずそのケースを捨ててもらおうか。」
ソロは足元にケースを置く。ラムザは姿勢を崩さないようにケースを奥の方に蹴った。
「…オレを殺す気なのか?」
声がかすれている。普通の人だったらケースに注意がいった時に反撃できたのだが
少しも隙を見出せない。この状況を自分には打破できない。そう思った。
「君次第だ。」
簡潔に言うと、手馴れた手付きでボディチェックを始めた。
一通り調べるとソロの背中を軽く突き倒した。たまらず数歩前によろめく。
「一つ質問をする。君はやる気なのか?」
殺気はまだ解けてはいない。ソロの目をじっとみつめるラムザの目には
彼には嘘は通用しないと思わせるなにかがあった。
「いや、やる気は、無い。」
なんとか声にだせた。ラムザの目はまだソロをみつめている。
不意にラムザの目から殺気が消え、いつものやさしいかんじになった。
「ごめん。驚かせたみたいだね。」
そういって剣を鞘にしまう。
ソロは緊張が解けたのとかなりの疲労感で、たまらず地面にヘたれこんだ。
「あ~~~。もう。」
いろいろな感情が混ざり合って言葉にならなかった。しかしなぜかこの青年に
対してイヤな感情は持てなかった。先程まで感じていた雰囲気は霧散していた。
「ほんとにゴメン。でもああするしかなかったんだ。」
ソロが怒っていると思ったラムザは必死に弁解していた。そんな姿がソロには
とてもおかしく見えた。
「いや、もういいよ。警戒して当たり前なんだし。」
軽く笑みをうかべそう答えた。彼が悪人とは思えなかった。
「そう言ってくれると助かる。ぼくはラムザ。君は?」
「ソロだ。」
いまだ地面に座っていた自分に差し出された手を強く握り、そう答えた。
「ところでその剣なんだけど・・・。」
「え?この剣か?」
あれから今ままでの事を話し合って一段落ついた時、さっきから気になっていた
ラムザの持っていた剣。かつて自分の使っていた
天空の剣について聞いた。
「前の島で拾ったんだ。重過ぎて全然使えないけどね。」
「それ、前にオレが使ってた剣みたいなんだ。少し貸してくれないか?」
傍らに置いてあった剣に手をかける。見覚えのある形と重さ。もはや手に馴染んだ
グリップの感触がコレが自分のモノだという事を確信させる。
おもいきり剣を鞘から引き抜き、かまえた。………しかし剣は手から落ち、
地面にあたって金属質な音を立てた。手が滑ったワケではない。ただ、鉛のように
重かった。いままで感じたことが無いくらい、とても。
「な?おもいでしょう。こんな剣使える人なんているのかな。」
「…ああ。……そうだな。」 平静を装って剣を鞘に収め、元の位置に戻した。
しかしソロは激しく動揺していた。この剣は間違い無く本物だ。それなのになぜ!
なんでオレがつかえないんだ!!オレは勇者なんだぞ!!!
ソロは気付いていなかった。剣が自ら持ち主を選ぶ事。
そして自分自身が既にこの剣を持つ資格を失っていた事に。
ソロは結論をだした。
この剣はニセモノだ、本物はこんなモノじゃない。と。
最終更新:2011年07月17日 22:27