《午前8時前後》
凍える大地、ロンタルキア。
その東の端に位置する雪原の真ん中で、『勇気の炎』は燃え尽きようとしていた。
「ははは…これってひょっとして……雪か?ラッキーだな、初めて見るよ。冥土の土産にはちょうどいいな。綺麗だ。」
「冥土って…ば、馬鹿な事言わないでください!」
ファリスが辺り一面に広がる雪景色を見て、力のない歓声を上げた。
その彼女の台詞に驚いて、
エリアが怒声を…あまり迫力のない怒声を上げた。
ファリスは、熱い炎のような血潮を胸から溢れさせながら横になっていた。
その血潮も外にあふれ出るやいなや冷えていく。彼女の身体と一緒に。
今は
ロックの
神秘の鎧を着せられてはいるが、それでも傷は塞がらない。ソレが死に至る傷だから。
エリアはその隣で跪き、祈っていた。祈る事しかできなかった。
その後ろには、ロックが立っている。ぎり…と歯を食いしばりながら。
(魔石さえあれば魔法が使えるのに…魔石さえあれば…。)
「二人とも、そんなに難しい顔するなよ。」
雪にその身を半ば沈めながら、ファリスは笑っていた。妙に、穏やかに。
「ファリス…!」
「俺な、『死の直前ってのは奇妙に心が穏やかなものだ』とか『自分の身体の事くらい自分で分かる』って台詞、ウソだと思ってたんだ。」
思わず叫びかけたロックを、ファリスの静かな言葉が押しとどめる。
「職業柄、何度か死にかけたけど穏やかになんてなれなかったし、ほっとけば死ぬような怪我しても「死ぬもんか」って思ってた。
特に今なんか、レナがどっかで大変な目に遭ってるかも知れないんだぜ?それこそ落ち着いてられるもんか。」
ファリスの言葉を、エリアとロックは聞いていた。聞く事しかできなかった。
「でも、今は確かに『死ぬ』って分かるし、二人にレナと
バッツを助けてもらえるなって思うと、確かに穏やかにもなるな。
…勝手な言いぐさだけどさ。」
ファリスの言葉は続いた。全く、途切れない。
「レナは強い。アイツといれば絶対このイカレた状況から抜け出せる。アイツは『諦める』って事を知らないから…。
バッツは…なんかすげえヤツさ。ガキっぽくてバカだけど、最後には必ず何とかするんだ。カッコつかないけどな。」
ファリスの呼吸が穏やかになっていく。安定していく。ただしそれは0の安定にむかってだが。
「エリア……右手、出せ。」
涙を止めどもなく流すエリアに、ファリスは
呼びかけた。
訳も分からずエリアが右手を差し出すと、ファリスがその手をしっかり握った。
そのとたん、暖かい何かがファリスの腕を伝ってエリアの中へと移動した。
「シルドラ、ってんだ。俺、の、トモダ、チ、だ…。多分、いっか、いしか使え、無いから、気を付けろ…。」
声ががくがく震えだした。ファリスは震える肺に無理矢理空気を送り込んだ。
「とにかく、二人に会えば生き残れる。がんばれよ。」
ファリスがキッパリと言った。自信を持って、言い切った。
…息が止まる。肺の収縮が止まり血液の流出が収まる。
視界が暗くなり、その闇の中にぼんやりと何かが見えた。
(死ぬ直前に走馬燈が見えるって言うけど…うそっぱちじゃないか。)
もはや喉を振わせる事を叶わず、ファリスは意識の中で呟いた。
そう。走馬燈なんて見えなかった。見えたのは二人の姿。
頼もしい妹の優しげな笑顔と、一番信頼できる戦友の悪戯っぽい笑顔。
(がんばれよ。)
二人にそう呼びかけた。そのとたんに、全身を覆う雪の冷たい感覚が消失した。
(
アモっさん、悪い。俺、死んだ。)
その意識が、ファリスの最後の意識。
彼女と現世を繋ぐ糸がぷつりと切れた。
「あ…あ…!」
繋がれた手から力が抜けた。ファリスが…死んだ。
声が出ない。喉が凍り付く、体が熱くなる、何もかもが分からなくなる…!
エリアが、握りしめていた手を離した。力を失った手が雪の上に落ちた。
ロックが、顔を伏せたままファリスの身につけさせた神秘の鎧を脱がし、両手を胸の前で交差させてやる。
ぐっ…と、ロックの目から涙が溢れ出す。
ソレを見て、エリアの何かが切れた。
残りの3人を探さなければならない。ファリスもソレを望んでいるはずだ。でも、今は…今だけは。
「あ…あぁぁぁぁぁあぁぁぁっ!」
ファリスの亡骸に顔を埋めて、エリアは泣いた。ただひたすらに、大きな声で。
【エリア 所持品:
ミスリルナイフ 加速装置 食料2ヶ月20日強分&毒薬 水1,5リットル×2
第一行動方針:クリスタルの戦士との合流
基本行動方針:できることをやる】
※エリアは一度だけ召喚魔法『シルドラ』を行使可能
【ファリス 死亡】
【残り 62人】
最終更新:2011年07月16日 23:44