水の反応

ロンダルキアの大地は、これまでにない寒さであった。
水の巫女たるエリアにとって、それはある種心地よいものであったかもしれないけれど、
先ほどの悲劇、すなわちファリスの夭折から、自身の無力さにひどく慚愧の念に駆られていた。
物陰ひとつない白銀の寂寥たる世界もまた、それに拍車をかけている。
とはいえ、いつまでも悲しんでいるわけにもいかない。
今自分を惨めな思いにさせている今は亡き彼女は、決してそのようなことを望んでいないだろうし、
エリア本人もまたこれ以上ただ悲嘆にくれることは嫌だった。

一方彼女と同じ時を過ごしたロックはといえば、現在その思考は遙か別の世界へ向かっている。
今になって再び、かつての仲間たちのことが彼の頭を擡げてきたのだ。
彼はこのゲームにおいて、身近な人物の死というものを初めて見た。
これまでにも散々見てきた筈であったのに、それとはまた違う不思議な感覚が彼の身体を駆け巡っている。
それはまさしく、『不安』に相違ない。
どこかにいる筈の仲間は、果たして今何をしているのか、まだ生きているのか、そのような思いが彼の頭を占領しており、
なんといっても自身の死への恐怖さえ彼の心に本格的にわき始めたことは否定する余地がない。
思えば、彼の仲間たるセッツァーの訃音を聞いたとき、いったい自分は何故平然としていられたのか不思議で仕方ない。
自分は何をすべきなのか、彼はここにきてようやく真剣に考え始めたのだ。

そんなロックを忖度してかどうかは定かではないが、
比較的早く心の整理のついていたエリアは彼に話しかけることはなかった。
ただ、目を瞑って、あたりを警戒している様子であった。
だが、ついに沈黙を破るときがきた。
エリアは「あっ」と短く叫んだ後、逡巡し、ゆっくりと言ったのだ。

「水の反応が、消えました」

その瞬間、飛んでいたロックの思考は戻り、目を見開いて絶叫した。

「なんだって!?」
「違いありません。つい先ほどまで感じることができたのですが…」
「…じゃあ、それは、つまり、その、なんだ…」

エリアはこれ以上なにも言わなかった。ただとても、暗い顔をしていた。
北に風を感じ、西には土を未だ感じるが、水はない。これが意味することは――

「北に行きましょう。まだ、風の反応があります。西にも土の反応がありますが、ここからはだいぶ遠いですし」
「…ああ、わかった」

ロックは暫くの間なにか考えたあと、言った。
本来ならもっと慌てふためく状況であるのだろうが、不思議と落ち着いていた。


二人はそのまま無言で歩いていたが、ふとエリアが怪訝な表情になって立ち止まった。

「どうしたんだ?」
「…いえ、なんでもありません」

ロックは妙な顔をしたが、「そうか」とだけいって再び歩き始めた。
エリアが立ち止まった理由――それはひどく奇妙なことに、
以前とはまったく違う、しかし他ならぬ水の反応がまた感じられたからだ。
ただ、それはとても弱く、ちょっと気をぬくとすぐに感じられなくなってしまう。
以前の人物とは違うことは明らかで、 何故かはエリアにはわからなかったが、それは恐ろしいように思えた。
しかし、自分たちよりは遙か西の方向にいる。ちょうど、城の南にある森のあたりだろう。
結局今のところはとにかく北へ向かうことに変わらないのならば、この問題はとりあえず放擲し、騒擾して心配をかけることのないようにしたほうがよい。
水の反応もまた北へと向かっている。相変わらず、反応は弱々しい。

エリアは地平線まで続く白銀の世界に終わりのあることを祈りながら、ただただ歩いていた。


【ロック 所持品:吹雪の剣 クイックシルバー 小型のミスリルシールド×2 フィアーの書×7
 第一行動方針:クリスタルの戦士との合流】
※ロックは今行動方針についてやや考え直していますが、基本的にはファリスの意志を継いでいます
【エリア 所持品:ミスリルナイフ 加速装置 食料2ヶ月20日強分&毒薬 水1,5リットル×2
 第一行動方針:クリスタルの戦士との合流
 基本行動方針:できることをやる】
【現在位置:ロンタルキア東の端の雪原】
※エリアは一度だけ召喚魔法『シルドラ』を行使可能


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最終更新:2011年07月17日 14:17
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