――気がつくと、マリベルは不思議な場所にいた。
大地も天空もない、延々と続く白一色の世界。
そして。
『全く、何をやっておるのじゃ』
死んだはずの人間が、目の前に立っていた。
「グレーテ……」
呆然とするマリベルに、彼女――グレーテ姫は、矢継ぎ早に言葉を浴びせた。
『そなた、それでも我がマーディラスを救った英雄の一人か?
我が盟友が今のそなたの姿を見たら、何と思うであろうな』
「あんたに言われたくないわ。それに、参加してないあいつは関係ないでしょ!」
フィッシュベルの幼なじみの姿を思い浮かべ、マリベルは顔を真っ赤にして叫ぶ。
だが、グレーテは彼女の言葉を無視するように、言葉を続けた。
『だが、そなたしか頼める者はおらぬと来ている。
歯がゆいが、そなたの記憶と知識に頼るしか……じゃ……』
その声が、聞き取れないぐらいにかすれていく。
『かつて我…国を………うに、……友を…ってくれ…――』
グレーテの姿が、幻のように薄れていく。
「待って、待ってよ!」
マリベルは彼女に駆け寄った。
だが、その手がグレーテに触れる前に、彼女の姿は虚空に溶けて、消えていた。
――……回復呪文はかけましたけど、大丈夫でしょうか?
――思いっきり、頭打ってたからなぁ。ま、息はしてるし、平気だろ。
近くで、誰かの声が聞こえる。
マリベルがゆっくり目を開けると、そこには二人の男が座っていた。
頼りなさげなヒマワリ頭の少年と、年齢不詳の長髪の男性……
風景もマランダとは一変し、どこかの洞窟といった趣だ。
「おう、気がついたな」
長髪の男が、マリベルに微笑を向けた。その顔から、敵意は感じられない。
だが、彼らがセーラのような人間ではないという保証もない。
「ここはどこ? あんた達は誰?」
もしものために、気付かれないようにいかづちの杖を引き寄せながら聞いた。
「オレはラグナ、んでこっちはアーサー。
ここは『ロンダルキアへの洞窟』って言うらしい。良くは知らねーけど。
で、あんたはあそこらへんから落っこちて、今の今まで気を失ってた、と」
ラグナ、と名乗った長髪男は、天井の一角を指した。
「ロンダルキア?」
「ハーゴン率いる、邪教の総本山……雪と魔物が支配する、人外の地です。
まさか、またこの場所に来るハメになるなんて……
どうせなら、稲妻の剣も元通り置いておいてくれれば良かったのに」
ヒマワリ頭、もといアーサーがため息をつく。
口ぶりからするに、この場所にかなり詳しいようだが。
「ふーん……って、そういえばハーゴンって人、参加者にいなかったっけ?」
「ああ、いたな。そーいや」
「……え゛?」
アーサーはマヌケな声を上げた。
1番早い時期に出発していた彼は、今までハーゴンの存在に気付いていなかったのだ。
唖然とするアーサーに、ラグナはふくろから1冊の本を取り出し、見せた。
「ほら、ここにも乗ってるぜ」
『参加者リスト』と題された本――
そこには、各々の名前と顔写真・支給武器・簡単な経歴が記されていた。
「ホントだ……」
忘れもしない、大神官・ハーゴン。その写真を、アーサーは複雑な表情で睨みつける。
そんな彼の手元から本をひったくり、マリベルはページをめくった。
(いた!)
「エドガー・ロニ・フィガロ……この人が、どうかしたのか?」
後ろから覗きこんだラグナが、怪訝な表情でマリベルを見る。
(この二人は信用しても良さそうだけど……どうしよう)
少しだけ考え込んだ後、彼女はふくろからメモを取り出した。
そこにさらさらと文字を書き加え、二人に手渡す。
「………!!」
二人は驚きを隠しきれないまま、メモと彼女を何度も見返した。
彼女が書き加えたのは、たった1行。
"首輪を解く手掛かりは、もう掴んでる。"
さっきの光景が、夢か幻かはたまた現実なのか……なんて、どうでもいい。
グレーテの言葉が、あの呪文を思い出させてくれた。それだけで十分。
(マジャスティス。……あの呪文さえあれば、脱出も不可能じゃないはず)
「私と手を組まない? 一緒に、この下らないゲームを抜けてやりましょうよ」
強い意思を湛えた瞳を向け、マリベルは手を差し出す。
二人はゆっくりと頷き、彼女の手を取った。
【マリベル 所持品:エルフィンボウ いかづちの杖 エドガーのメモ
基本行動方針:非好戦的、自衛はする
最終行動方針:首輪を外してゲームを抜ける】
【アーサー 所持品:ひのきの棒
最終行動方針:首輪を外してゲームを抜ける】
【ラグナ 所持品:参加者リスト
第一行動方針:マリベルが目を覚ますのを待つ
第二行動方針:スコールの捜索
最終行動方針:首輪を外してゲームを抜ける】
【現在位置:ロンダルキアへの洞窟6階、無限回廊手前】
最終更新:2011年07月17日 17:26