世界を渡る
旅の扉、抜けた先にあったのは銀世界だった。
雪に覆われた山道に自分は立っている。
「…さむ」
吹き付ける風に、マントをすり合わせる
セリス。
辛い事はこれまでにもあった。雪山で剣を振るった事もあった。
でも、その時にはそばに誰かがいてくれた。…『あの人』がいてくれた。
「……
ロック……」
今は誰もいなかった。それが、堪らなく寒かった。
何でも、今自分達は殺し合いをしているのだという。
聞こえてくる放送では、仲間である
セッツァーがすでに誰かの手に掛かったそうだ。
ケフカも、逝ったらしい。
だが、セリスには信じられなかった。仲間たちの強さは自分が一番知っているし、
それに自分は…この『ゲーム』が始まってから、誰にも会っていなかった。
実際にはすぐ側で殺戮が繰り広げられていたのだが、神懸り的な偶然でセリスはそれらに遭遇もしていない。
だが、それは逆にセリスの孤独を煽った。
もう、自分ひとりしかいないのではないか。いや、最初から誰もいないのではないか…
寂しさと不安がセリスを包む。
私は…たった一人で、朽ちていくのだろうか…?
耳の奥で、ケフカの笑い声が聞こえてきた。マリオネットを操る道化師の笑い声だ。
ああ…気が、狂いそうだ。
思い切り叫ぼうとした、そのときだった。
人の気配に気付いたのは。
「…誰」
思わず、口に出していた。
自分の命を狙う者かもしれない。それでも、出さずに入られなかった。
そして、物影から一人の男が現れた。
「こんにちわ。あなたも、今回の事に巻き込まれた人ですよね?」
一見友好的な態度。
ヘンリーだった。
セリスは戸惑った。こんな非常事態に、これまで誰にも会わなかったのに、突然現れた男。
男は何事もなかったように平然としている。まるで、何事もなかったかのように。
もしかして、自分は騙されていたのかもしれない…
ゾーマと名乗る、狂言師に。
何が正しくて、自分は何を信じればいいのだろう。
そんな事を考えているうちに、ヘンリーは歩み寄ってくる。
「そうそう、僕は『とんぬら』というんですよ。あなたは?」
笑顔。だが、後ろ手には幾人もの血を吸った斧が握られている。
後もう少し、そこが必殺の間合いだ。
なにやら考えているトロそうな女を見ながら、ヘンリーは口の中で笑った。
だが、その笑いは、凍りついた。
セリスは、ただ単に不用意に名乗るのはまずいかもしれないと思ったから、偽名を使ったに過ぎない。
『マリア』という名前も自分が初めて使った偽名で、咄嗟に頭に浮かんだからだ。
だが、ヘンリーにとっては違った。その名前はヘンリーにとって無二のもので…奇しくも、セリスと妻、マリアは同じ金髪だった。
硬直するヘンリーに、怪訝そうな表情を浮かべるセリス。
どうかしたのか。そう口を開こうとして、セリスは咄嗟に状態を逸らした。
「何をやっているっ!」
怒声。女のものだ。衝撃と痛みがセリスの頭をシェイクした。
何か、飛礫のようなものをぶつけられたらしい。右肩に当ってしまったが、咄嗟に身を逸らしたおかげで砕けてはいないようだ。
痺れる肩を抱きながら、ヘンリーから飛び離れる。再び飛礫がきたが、避けるまでもなく明後日の方向へ飛んでいった。
着地すると同時に腰に佩いていた剣を抜こうとして…
「え?」
セリスは、足元を見た。崩れる地面、奇妙な浮遊感。
次の瞬間、セリスは宙に投げ出されていた。
「キサマ、やる気あるのか!」
アグリアスは怒鳴った。
ヘンリーは、セリスが落ちていった崖を見ている。その姿は、腑抜けたものに見えた。
――――この男、思った以上に役に立たんかも知れんな。寝首をかく日も遠くないようだ。
しばらくして、ヘンリーは、崖から視線を外した。
「どうする、止めを刺しに行くか」
「この崖を降りて、か?行きたければ一人で行け」
「キサマ…」
「ふん…行くぞ」
ヘンリーは歩き出す。
マリアと名乗ったあの女は、やはり自分の妻であるマリアとは違った。
わかっている、違うことは。
わかっているのに…ヘンリーの内には、小さなしこりが残ったままだった。
【セリス(錯乱?) 所持品:
ロトの剣
行動方針:???】
【現在位置:ロンダルキアの祠西の山岳地帯(崖下へ転落)】
最終更新:2011年07月17日 19:43