「くっ……。」
通路を幾らも戻らぬうちに若造がわしの術を振り払った。
あれだけの術を使ってもこの程度しかもたぬとはな、わしの衰えは思ったより進んでいる様だな。
現在わしの魔力、生命力の源である闇の力はほぼ枯渇状態にある、補充しようにもわしに力を授けてくださるお方、シドー様は既に身罷っておられる。
従って後はわし本来の人間としての魔力、生命力で勝負するしかないのだが、200年以上生きているわしにそんなものが残っているかは甚だ疑わしいな。
「少々相談したいことがあったのでな、我々が魂を駆集めるのを手伝って貰いたい、報酬はその魂を使ってのゲームからの脱出。」
別に死ぬ事自体はどうでも良い、わしの総てを捧げたお方、シドー様のおらぬ世界に未練なぞ無い。
だが、そんなわしを後悔と絶望しかない現世に呼び戻した連中にはたっぷりと復讐してやる、楽しいゲームをぶち壊しにすることでな。
「誰がそんな話に…」
「良いのか?このままいったら最後の一人になるまで殺し合うしかないのだぞ?どうせ失われる命だ、我々が有効に活用してやった方がまだましだとは思わぬか?」
問題は
マゴットだ、今の中途半端な状態でわしの真実を告げるのは流石に不味い、下手に発狂でもされようものならわしの計画は頓挫せざるを得ない。
それに戦力の問題も深刻だ、今はまだ身体が動くから良いがいずれわしが荷物になるのは目に見えておる。
本来
アルスか
サマンサがベストなのだが、そこまで贅沢を言っている場合でもあるまい。
「無論他に良い方法を知っているならそちらに乗ろう、返答は?」
その時、小さな人影がわしに襲い掛かった。
「それが答えか?」
明らかに術者にしか見えない小僧の攻撃をあっさりと交わす。
そんな工夫もスピードも無い攻撃にわしが当たるものか。
「ビビ?」
どうやら相棒にも意外だった様だな、まあ相手に噛み付こうとする術者は非常に珍しい気がするが。
うん?そうか、そういう事なら遠慮は要らんな。
わしは真空を作るべく大きく杖を振りかざす。
「くっ…」
間に割って入る若僧。
「馬鹿者がぁっ!」
わしは咄嗟に左の拳を叩き付け、あっさりと若僧がそれを避け、そして若僧の首筋を狙っていたビビの顎がわしの左手を食い千切った。
「どうしちまったんだよビビ……。」
わしの左手はそのまま租借されてビビの腹に収まってしまった、こうなると流石にべホマを使っても再生は不可能だな。
「この地方は非常に負の生命力に満ち溢れていてな、死にぞこないを長時間放置しておくとごく稀にアンデット化してしまう事がある。」
そんな特徴が無ければいかに難攻不落とは言えこんな食糧事情の悪い所に大神殿など作らぬよ。
「元に戻す方法は……」
「愚問だな、貴様らはアンデットに会った時にどう対処している?」
それにあそこに有るのはビビという魂を入れていた肉の器に過ぎぬのだがな。
「邪魔だけはするなよ若僧。」
それさえなければただの
ゾンビ風情に我々が負ける筈が無いからな。
最終更新:2011年07月17日 18:03