「ほら、きれいになったよ」
テリーはソロの服に残っていた粉雪を払いながら言った。
二人の足元には、薄汚れた雪とボロボロになった青い布切れが落ちている。
「……ありがとう」
声が聞こえた方向に、焦点の合わない視線を向けて、ソロはわずかに微笑んだ。
相変わらず、彼の世界は暗闇に包まれたままだ。
それなのに、ソロは確かに、安らぎというものを感じていた。
ずっと、ずっと、自分が生まれる前よりもはるか昔に、どこかで会っていたような…
そんな不思議な懐かしさが、心の中にあった。
(なんでだろ)
テリーもまた、不思議な感覚に囚われていた。
ソロといると、なんとなくだがタイジュの人々を思い出すのだ。
もちろんソロとタイジュの国で出会ったことなど、一度もない。
最初はソロの色鮮やかな緑の髪に、タイジュの木の葉っぱを連想したせいかとも思ったが、
どうもそれとは違うような気がする。
(ほんとうに、なんでだろ?)
テリーはしばらく首を傾げていたが、やがて気を取りなおした。
(……ま、いいか)
信じるものを失ってしまった苦しみ、
信じることができずにいた悲しさ。
同じような心の傷を負った者同士、
テリーとソロが惹かれ合ったのは必然なのかもしれない――が。
テリーにとってははるか未来の、そしてソロにとってははるか昔の、
遠い時代の伝説を知る者は、別の考えを抱くかもしれない。
――かつて天空人の先祖を救った英雄の記憶を、その血の中に受け継いでいたとすれば。
夢世界の管理人たちの末裔から、限りなく夢に近い異世界の人々と同じ雰囲気を感じ取っていたとすれば。
少年達の出会いは、因果の糸が手繰りよせた、ゲームマスターの思惑をも超えた偶然だったのかもしれない、と。
今、二人は腰を降ろして、自分達の仲間や故郷、冒険の思い出話に花を咲かせている。
事情を知らない者が見れば、年代を超えた数年来の親友だと思うだろう。
それほどまでに、二人のお互いに対する警戒心はすっかり失せていた。
彼等の胸中にあるのは、なんとも言えぬ懐かしさと、親愛の情と、切な願い……
「――できることならずっと、この『今』が続いてほしい」
ささやかで、どんな夢よりも儚く、そしてあまりにも不相応な願い。
だが冷徹な運命の神が、二人の願いを叶えることはなかった。
最終更新:2011年07月17日 22:32