奇跡の代償2

「おん…おん…」
「?」
アリーナがその声に気がつくか気がつかないかの間に、その唇はクラウドの唇に塞がれていた。
「!!」

そう、カインの与えた龍の血は、確かにクラウドの命を救った、だがそれはクラウドの身体に潜む
魔晄の力を急激に活性化させたゆえのこと、そして彼はその副作用として、
一時的な魔晄中毒による精神錯乱を引き起こしていたのだ。

「お、おい、やめるんだ」
クラウドの異変に気がついたカインがよろめきながらも、制止しようと近寄る。
「があああっ」
「うぷ」
だが、どこにそんな力が残っていたのだろう?錯乱状態ゆえの限界無視の力で放たれた膝蹴りを、
まともにみぞおちに受け、思わずつんのめるカイン、さらに首筋に手刀を受けて、
成す術もなくカインはその場に昏倒してしまった。

こうして邪魔者をいとも簡単に退場させると、クラウドは間髪入れずアリーナを押し倒す。
その瞳は異様に光り、血走っている。
精神錯乱により、本能がむきだしになり、抑制できなくなっているのだ。

今、クラウドは自分の中に潜む忌まわしき獣にいいように操られるままだった、そして
アリーナのレオタードに手をかけたときだった、いきなりクラウドの手が止まる。
どれくらいの間、そのままの姿勢でいただろうか、クラウドの手がぎくしゃくとレオタードから、
離れる、その手の行く先は……。

「おおっ!」
ぶしゃっという妙な音と共に血飛沫が飛ぶ。
クラウドはなんと自分の傷を自分の手でえぐり取り、そして弾けるようにアリーナから離れたのであった。

呆然としたままのアリーナへと、クラウドは途切れ途切れの言葉を呟く。
「グゲゲ、アリーナ早く逃げ…俺何するか…ガァァァァッ」
さらなる痛みがわずかの時間、クラウドに正気を与えてくれているのだろう。
さらにクラウドは床に頭を打ちつけ、泣きながら己の中の獣欲に抗い続ける。
俺に構うな、逃げろと叫びながら、だがそれでもクラウドの中の獣は目の前の獲物を襲え、喰えと
非常な命令を下しつづける。

「お願いクラウド、自分の中の悪魔に負けないで!」
そうだ、出会ってわずかな間だけど何時だってクラウドは自分を救ってくれた…だから今回も
きっと大丈夫だ、必ず……

再び頭を抱え、悶えるクラウド、そして再び起きあがったとき、その目はまた爛々と輝く、
獣の目になっていた、が、それでも最後の理性を振り絞りクラウドは途切れ途切れの言葉で叫ぶ。
「俺の中の悪魔め…お前の思い通りには決して」
クラウドは震えながら口を開き…舌を伸ばす。そう、彼は舌を噛み切り自ら死を選ぼうとしているのだ

「いけない、クラウド」
アリーナは必死で起きあがり止めようとする。
立ちあがるだけでも激痛が走る身体を引きずり、アリーナはクラウドになんとか飛びつくと
口の中に手を突っ込もうとするが腕が全く動かない、なら。
とっさにアリーナは今度は自分から唇を重ね、クラウドの口を強引に開じさせまいとする。
クラウドの歯がアリーナの唇に、頬に突き立ち、みるみる間にその顔は傷だらけになっていく。

「がぁぁぁぁっっ!」
その最中再び錯乱したクラウドの貫手がアリーナの片目を貫く、眼球を指先でぐりぐりと掻き回され抉られる激痛に耐え
いや、もう身体中激痛だらけで何処が本当に激痛なんだが分かりゃしない。
それでもアリーナはクラウドから離れようとはしなかった。
クラウド…負けないで」

「あああっ…助けて助けてくれぇ!」
クラウドはアリーナの身体をさらには自分の身体をも無茶苦茶にかきむしり、その肌を朱に染めていく
「お願いだ、俺をとめてくれよぉ、やっと見つけたのに」

何時の間にか狂乱は終焉し、クラウドはアリーナの胸の中ですすり泣いていた。
「やっと…やっと出会えた…」
「?」
「好きだ…生きて出会えたら必ず伝えようと思ってた、好きなんだぁ」

(そう…出会えたんだね)
アリーナには理解できた、クラウドは今きっと幻の世界にいるのだろう、そしてそこにいるのは。
彼が求めてやまない最愛の人。
「君は…君はどうなの?俺のこと…好き」
アリーナの頬にぽたぽたとクラウドの涙が落ちる、普段なら不快なはずのその感触も何故か今のアリーナには
心地よく感じられた。

アリーナは自分の血に塗れた手を振るえながらも伸ばし、優しく微笑み、ゆっくりとクラウドを抱きしめる。
いや、そうしたかったがやはり腕が全く動かないのだ…。
(ごめんね、腕が動いたらよかったのに)

「うん…クラウド、私もずっとクラウドのこと好きだったよ…」
(この気持ち…なんだろう?とても不思議でそれでいて暖かい)
「うれしいよ…こんなにうれしいのは産まれて始めてだ」
血まみれの笑顔でクラウドはさらに続ける。
「そういえば…君の名前、随分長い間呼んでないような気がするよ、変だね、たったの3日なのに」

(やめて!その先の言葉は聞きたくないの…自分じゃない事なんて分かっているのに、でも聞きたくないの)
クラウドの言葉に、自分でもわからない恐怖を感じ、思わず耳をふさごうとするアリーナ、だがしかし、
やはりそれでも腕はぴくりとも動かない。

そしてクラウドが今まさにその名前を口に出そうとしたとき。
「貴様、何をしている!」
その背後の声に振り向きもできないまま、その瞬間、クラウドは殴り飛ばされていた。
いつのまにかカインが起きていたのである。
「お前のような人間を救けるんじゃなかった、この恥知らずめ」
カインは容赦なくクラウドを殴りつける、彼自身もとてもじゃないが動ける状態ではないのだが
肉体的な限界を凌駕するまでの怒りが彼を動かしていた。

そう、身動きの取れない女性を力ずくでものにする…人の道を外れた外道のやることだ。
カインはなおもクラウドを殴りつづける、彼にとってクラウドの行った行為はとうてい許せるものではなかった。
「お前は人間の屑だ!この卑怯者め、死ね死ね、死んでしまえ!」
が、怒りに任せめちゃくちゃに拳を振るうカインからかばうようにアリーナがクラウドの身体の前へと移動する。

「いいの…私ならいいの…だから、もうこれ以上、クラウドを傷つけないで」
クラウドをかばいながらアリーナはようやく自分の今抱いた感情が何なのか気がついていた。
(そっかぁ、これがこの気持ちがそうなんだ、だから痛いのにこんなに頑張ることができたんだね)

クラウド、その言葉にカインの拳は止まる、こいつが…こんな男がクラウド…あのエアリスが愛している男。
クラウドのことを語っていたエアリスの顔をカインは思い出す、
その笑顔はまさしく一途に人を愛する者の笑顔、いつかローザセシルのことを話したときに見せた笑顔。

(こんな男に愛される資格なぞあるものか…)
目の前の事実に握った拳がふるふると震える…許せない。
「お前は騙されている…いいかその男は」
そこまで言ってカインはある可能性に気がつく、もしかしてこの女は…。

「お前は全て承知なのか…」
アリーナは、ゆっくりと首を縦に振る。微笑みすら受かべて。
やはりそうだったのかと、思いつつもカインは続ける。
「バカな…お前の進もうとしている道は茨の道だぞ、そこを抜けたところで待っているのは地獄だけだ」
愛するが故の地獄、それはまさにカインならではの、
1人の女性の愛を得るため、悪魔に魂を売り渡し、それでも叶わなかった哀れな男のみに許される表現だった。

その言葉を聞いてなお一層近くへとアリーナはクラウドへと寄りそっていく。激痛に顔をしかめ、
片方の瞳から血の涙を流して。
それでもその笑顔はあくまで美しく、それはまさに慈母と呼ぶにふさわしいものだった。
(お前もまた。俺と同じ道を選ぼうとしているのか…)

力なくへたり込むカイン、微笑みを受かべクラウドを見つめるアリーナ。
そして何も知らずアリーナの肩を枕に寝息を立てるクラウドの息遣いだけが暗闇の中に響いていた。

【カイン 所持品:ビーナスゴスペルマテリア(回復) 天空の兜
 第一行動方針:セシルを止める
 基本行動方針:戦闘は避けたいが、自衛なら戦う】
【現在位置:地下通路(大陸中央付近)】
セフィロスへの苦手意識あり)
(現在著しく体力を消耗しております、戦闘不能)

【アリーナ(重傷、無論戦闘不能・片目失明)
 所持品:イオの書×3 リフレクトリング ピンクのレオタード
 第一行動方針:ソロを止める(倒してでも)
 第二行動方針:クラウドをティファに会わせる
 最終行動方針:ゲームを抜ける】
【クラウド(睡眠中、重傷、戦闘不能、ただし錯乱状態からは回復)
 所持品:ガンブレード
 第一行動方針:エアリス&ティファを探す
 第二行動方針:アリーナを救う
 最終行動方針:不明】
【現在位置:地下通路(大陸中央付近)】

(クラウドが正気を取り戻した際、自分の行動を覚えているか、また忘れている場合
 カインおよびアリーナがクラウドに何が起きたか教えるのかはお任せします)
(アリーナの目はもしかしたら直るかも・・・というレベルの傷です)


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最終更新:2011年07月17日 15:58
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