ぶぅん、と
ライアンの
大地のハンマーがうなりを上げる。
さすがの
セフィロスも超重量攻撃を正宗で受け止めるわけにはいかない。
ライアンの攻撃の回避を最優先に、他の者の攻撃は適当にいなす形になった。
ロックを追っていた矢先に受けた襲撃、セフィロスは冷静に受け止めていた。
ロックが何か企んでいる事は明白だったからだ。
それがまさか、こんな大多数で襲い掛かってくるものとは思わなかったが、
それでもこの場を切り抜ける自信がセフィロスにはある。
正宗を横に薙ぎ払う。詰め寄ろうとしていた
ティーダは近寄れずに飛び退いた。
「おわ、あぶねーっ!」
恐ろしく長大な正宗は体を逸らす程度では刃から逃れられない。
完全に刃の軌道から外れるか、間合いを離さなくてはいけない。
それがバトルのテンポを悪くして、セフィロスの望むスタイルにされてしまう、とテイーダは思った。
「まずはあの刀をなんとかしないと!」
「刀…刀か、よーしまかせろ!」
チョコボに乗って走り回っていた
ラグナはそう言ってどこかにいってしまう。
「あ、おい!」
声をかける間も無く、ラグナの姿は闇に消えた。
何を任せるんだってーの。つーか、やっぱ剣が欲しいぜ、と愚痴っていると。
「ティーダくん、これ使って!」
戻ってきた
エアリスが、ティーダに剣を投げてよこした。
ロックの使っていた
吹雪の剣だ。
「やったぁ!こいつでやってやるっての!」
ティーダは受け取るとくるりと剣を一度回し、再びセフィロスめがけて突進した。
「灼熱呪文、あわせろ」
「わかったわ!」
デスピサロと
マリベルの手から、炎の塊が飛び出す。
それは一直線にセフィロスに向かい、そして正宗によって切り払われる。
だが、その僅かな隙を
ギルガメッシュとライアン、ガウは見逃さない。
「小賢しい…!」
「そりゃ光栄の至りだな!」
ギルガメッシュの
正義のそろばんを半身でかわし、正宗の柄を腹部に叩き込む。
「うぐッ…!」
続くライアンの攻撃を飛び退いてかわし、正宗をふるう。
「ぬっ!」
そこにガウが殴りかかるが、左腕で受け止め、逆にガウを殴り飛ばす。
「がうーっ!」
セフィロスは剣を構えると、こちらを睨む者に言う。
「お遊びはこれまでだ、貴様等はここで死ね」
そんなセフィロスの最後通告と、
「いやっほーぅ!!!」
底抜けて明るい声が同時に響いた。
夜の闇から何かが飛んできた。
次の瞬間、それはセフィロスの持つ正宗に張り付く。
「「ラグナぁ!?」」
そう、ラグナは一旦戦場から離脱したラグナは機会を窺っていた。
セフィロスは攻守共に隙がない、だが絶対ではない。
あまりにも刃が長い正宗は近接戦に向かないというのが欠点のひとつだ。
格闘にも長けるセフィロス自身にはそれほど致命的なものではないが、
格闘している間、どうしても正宗が遊んでしまう。
ガウが正宗の範囲内から抜けた、その隙をラグナは見逃さなかった。
チョコボを加速させ、正宗目掛けて飛び込んでいったのである。
ラグナという重りを突然つけられ、正宗は不自然な形で地面に落ちた。
瞬間、正宗の刃は半ばから真っ二つに折れる。
折れた場所はちょうど、
メルビンによって欠けられた場所だった。
呆然とする一同を尻目にラグナは高笑いをする。
正宗にしがみ付く際、刃に触れて切れた傷から血が流れているが、痛みは感じない。
気持ちがハイになっていて、痛覚を凌駕した。ひたすら、愉快だった。
半身が失われ、戦力という意味ではカス同然である自分がセフィロスを出し抜いたことが。
どんなに強くてスカしていようが、一人でいればどこかで付け込まれるんだ。
一人で平気なことは、強さじゃない。他人を拒絶することは、弱さだ。
ラグナはそう思う。それを、勘違いしがちな息子に教えてやりたかった。
「わっはっは、ざまァみやがれってんだ。はっはっはっはガッ!」
そんな、ラグナの高笑いも強制的に終了させられる。
セフィロスは顔にはっきりとした苛立ちを浮かべて、頭蓋半ばで止まった正宗の柄から、放り捨てるように手を離す。
そして、ギラギラと禍々しく光る瞳で一同を見据える。
それを見た誰もが戦慄し、身構えた。
「本気で怒らせたな…許さん」
セフィロスが丸腰になったとて、油断した者はいなかった。
ただ、先生の波状攻撃が上手くいっていてセフィロスが防戦一方だったこと、
ラグナのアクションによって波状攻撃が途切れてしまったこと、
素手になったことでセフィロスの攻撃パターンが変わったことに対応できなかった。
雪を蹴り、突っ込んでくる。
前衛のライアン、ギルガメッシュ、ガウ、ティーダは武器を構えたが、
セフィロスの狙いは彼等ではなかった。
「こちらを狙ってきた!?二人とも、下がれ!」
彼等の合間をぬって一直線に向かってくるセフィロスに、デスピサロはマリベルとエアリスに叫ぶ。
はっと我に返った前衛が武器を手にセフィロスを追う。
だが、遅い。
セフィロスの右指は、呪文で迎撃しようとしたマリベルの咽喉を貫いていた。
咄嗟の事に反応できないエアリス、そんな彼女をセフィロスはギロリと睨む。
「ッ、てッめぇー!何やってんだ!!」
ティーダが吼えてセフィロスに斬りかかる。
セフィロスはマリベルの咽喉から指を引き抜き、
ティーダの剣をかわすと、顔面に強烈なまわしげりを放つ。
その時すぐ側にいたエアリスはブチブチと引き千切られるような音が聞いた気がした…
マリベルは咽喉から血の飛沫を上げつつ、倒れた。
吹き飛ばされ、倒れたティーダは泡を吹いて痙攣している…
「きっさまぁ!」
遅れてギルガメッシュとライアンがセフィロスに攻撃をかける。
さすがに二つ同時にはかわせず、セフィロスはライアンの攻撃をかわすとギルガメッシュの正義のそろばんを腕で受け止める。
守る物のない腕はギシリ、と軋んだ。
続けて、デスピサロが放った火炎球がセフィロスを飲み込む。
「マリベル、マリベルーッ!!」
エアリスはマリベルを抱き起こすと、
癒しの杖を掲げた。
柔らかい光がマリベルを包み、咽喉の傷を塞ごうとする…が、マリベルが咳き込むたびに傷口はどんどん開いてしまう。
「ダメよ、あなた
まだ子供じゃない!私より年下なんだから…だから!」
エアリスは自分の力を解放する。癒しの風がマリベルを包み、傷口を塞いでいく。
だが、効きは弱い。急激にマリベルの生命力が落ちているのだ。
ロックに続いてマリベルにも何も出来ない、打ちひしがれるエアリスの元にガウが駆け寄る。
「マリベル、無事か!?」
「無事、じゃないみたい…傷が塞がらないの」
ガウは肯くと、目を閉じて両手を前に出し、何か呪文を唱え始めた。
「
ホフマンも、メルビンも、ロックも、みんな助けられなかった。
みんな、ガウのなかま。ティーダもマリベルも、みんなみんな、ガウのなかま」
ガウを中心に、
白い風が雪原をめぐる。
「む…この風は?」
「痛みが抜けて…力が漲ってくるでござるよ!」
「こいつはホワイトウィンドか!」
その風に触れたデスピサロ、ライアン、ギルガメッシュの体から疲労が抜け、変わりに力が漲っていく。
泡を吹いていたティーダの口元も和らぎ、ハッと我に返る。
「傷が…癒えていく」
エアリスは信じられないと思いながらふと顔を上げると、
全身を震わせ、風をまとって宙に浮いているガウの姿があった。
まるで、自分の全てを風に換えているかのような…そんな姿。
「ガウ君、もういいわ!みんな治ったから!」
ああ、自分はどうしてこう――――無力なんだろう。
嘆いて、叫ぶことしか、出来ないのか。それが、現実だというのか。
命を削って皆に分け与えるガウを、ただ見ているしかない。
風が、やんだ。
地面に降り立ったガウは、エアリスに満面の笑みを浮かべると、
――――静かに倒れ伏して、二度と立ち上がらなかった。
「――――!!」
倒れて身動き一つしないガウに、言葉にならない悲鳴を上げるエアリス。
と、抱いていたマリベルが身動きする。
「マリベル!大丈夫!?」
マリベルは答えない。
ギルガメッシュたちと肉弾戦を繰り広げるセフィロスに、手のひらをかざす。
続いて聞こえてきたマリベルの声に、エアリスはぞっとした。
少し甲高くて、可愛らしかったマリベルの口から紡がれるその声は、
瀕死の老人のように擦れて、濁っていた。
「マリベル…!」
マリベルはじっとセフィロスを凝視する。
かざした手は微かに震えている、口元からは血の筋がこぼれ始めた。
それでも、止めない。魔力が集まり、マリベルが紡いだ呪文の形に収束していく。
「マリベル、マリベル、マリベル…」
エアリスには、そんなマリベルを後ろから抱きしめる事しか出来なかった。
今にも折れそうな、消えてしまいそうな少女を支えることしか。
全員の不意をつき、一瞬で二人を戦闘不能にしたセフィロスも次第に押され始めていた。
さすがのセフィロスといえど、肉弾戦で無傷というわけにはいかなかった。
相手は武器を持っていたし、戦闘も素人ではない。
先ほどのような一撃必殺は狙えないし、かわしつづける事も難しい。
ライアンを殴り飛ばし、フェイント交えながら斬りつけてくるティーダの剣を捌く。
いうのはカンタンだが、刃に触れないように捌くのは相当な集中力の要る技だ。
そんなタイミングだった。セフィロスの全身を炎が包んだのは。
「ベギラゴン…!!」
呪文が完成し、生まれた灼熱の炎がセフィロスを襲う。
マリベルの存在を既に死んだものをしていたセフィロスは不意を付かれた。
こちらを見るセフィロスに、マリベルはにやりと口元を歪める。
「ざまぁ、な…いわ、ね………!」
ぐふっ、血を吐き出し、マリベルの全身から力が抜けた。
セフィロスに咽喉を掻き毟られた時に、決定的な何かを切られてしまったのだろう。
エアリスとガウの癒しがあったとはいえ、そんな状態で呪文を完成させたマリベル。
見栄っ張りで意地っ張りな彼女は、そんな自分のままで最後を迎えた。
完全に不意を付かれて僅かに戸惑うセフィロス。
見ると咽喉を引き千切って息の根を止めた筈の少女が、こちらに腕を向けている。
バカな、セフィロスは火炎を飲み込まないように口を塞ぎ、飛び離れる…
それが、決定的な隙だった。
「もらったぁ!!」
背後に回り込んでいたギルガメッシュがついにセフィロスを捕らえた。
「しまった、く、離せェッ!」
ギルガメッシュを引き剥がそうと暴れるセフィロス。
だが、ギルガメッシュは人を超えた腕力で暴れるセフィロスを押さえ込む。
「キサマ、ニンゲンではないな…!」
「おお、そうらしいな!もっともテメェにだけは言われたくなかったけどよ!」
ニヤリと笑うギルガメッシュ。
セフィロスの腕が、自分の腕を引き千切って自由になろうとしている。
普通の人間なら、成す術もないだろう、だが自分は……
「死んだはずが、何の因果か幻獣紛いの存在になってな!
曖昧な世界で、ただあいつだけを探していた!
この世界に来て、見つけて、だから浮かれて忘れてたかぁ!?」
「訳のわからぬことを抜かすな…離せ!」
「いいや、ダメだね!…そうだ、ティーダ!」
「へ?」
突然声をかけられ戸惑うティーダに、ギルガメッシュは心底楽しそうに言う。
「そいつで、こいつを串刺しにしてやれ!」
「はぁ!?」
「だから俺ごとこいつをぶち抜いて穴だらけにしてやれ!その剣でな!」
「…!何いってんすか、アンタ!そんな事したら…!」
「いいからやれってんだ!これが最後なんだぞ!これを逃したら後は…ないんだぞ!」
ようやく、ティーダは気付いた。
ギルガメッシュが歯を食いしばり、脂汗を浮かべていることを。
仲間が、たくさんの犠牲の末にようやく作ったチャンス。
いつも、最後のパスを受けて…それをゴールに叩き込むのが自分の役目だった。
ブリッツでもスピラでも、そして今でも!
「わぁぁぁぁぁぁぁーーーッ!」
「バカなことはやめろ!」
「よっしゃ、こいっ!手加減抜きだ、思いっきりやりな!」
突進したティーダの剣がセフィロスに迫る。
表情を歪め、逃れようともがくセフィロス、縛るギルガメッシュ。
ティーダの体がセフィロスにぶつかる。
刃がセフィロスの胸に吸い込まれ、次の瞬間ギルガメッシュの背中から姿を現す。
「ば、バカな、こ、こんな事が…」
「まだだ、まだまだ!中身を掻き回せ、ぐちゃぐちゃに捻れ!」
「もういいって!うだうだ言ってないでさぁ!」
剣を上下させる。捻り、左右に揺さぶる。
そのたびに血飛沫が散り、ティーダの視界を真っ赤に染めた。
「そうだ、それでいい」
はっと、ティーダは顔を上げる。
ギルガメッシュは、相変わらず笑っていた。ただ、その笑みは先程までのとは違う。
戦闘の極限状況から来る繰状態が抜け、どこかすっきりとしていた…
「…前に死んだときもさ、こんな感じだった。身を呈してってのはいい加減流行らんと思うんだが、オレはそういう結末を迎える運命なのかもな」
「あんたが…ただ、目立ちたがりなだけだろ」
「…かもな。
バッツともう一度やりあえる、折角の機会だったのにな」
「………」
「でもな、オレは諦めてねーぜ。また何時か、バッツに会える」
「死んだら…それまでだろ」
「ところがそれまでじゃなかったんだな、このオレは。おまえ等と違って次がある。
だから、恐くないって言うか、まあ痛いのはイヤだけどな」
「どっちだよ!」
「つまり、お前は生きていろってことだ…そして、もしバッツに会えたのなら…
伝えてくれ。必ず会いに行くと。それまでは…死ぬな、とな。
――――離れろ!」
ティーダは無意識の内に剣から手を離し、二人から飛びなれた。
刹那、ギルガメッシュを中心に強烈な爆発が巻き起こり、爆風でティーダは吹き飛ばされる。
雪の上に転がる。痛みはないが、息が少し詰まった。
慌てて顔を上げると、ギルガメッシュがいたところは木っ端微塵で何もない…
「最後までかっこつけてさ」
派手好きで、豪快で、目立ちたがりで、抜けたところがあるのにどこか憎めなくて…
そんなところが…似ていると思って、ティーダは呟いた。
「そういうの……だいっきらいだ」
爆発に巻き込まれたセフィロスの四肢は四散した。
両手両足を失い、胸から下もない。そんな状態でセフィロスは生き残っていた。
そんな状態でも生存できるのがジェノバ細胞だ。もっとも、意識はほとんどないが。
――――不意に、セフィロスは「削られている」と感じた。
視線だけ上に向けると、半ばで折れた正宗を振り下ろす誰かの姿。
何度も何度も…それを繰り返して、砕き、すり潰している。
何を?――――自分を。
どこかで見たような顔だった。自分はコレを知っている。
ああ、そうだ。コレはオレが殺した奴じゃないか。何故生きている?
まぁ。どうでもいい。こと。だが。
抵抗も出来ないまま、セフィロスは思う。
闇夜の中、全身を血で染め、半ばで折れた刀を振るう、女性。
ただ、血走った瞳だけが、赤くて…とても赤くて…
ああ…なんて…
綺麗…なん…だ……と――――
【エアリス 所持品:癒しの杖 折れた正宗】
【ティーダ 所持品:吹雪の剣 いかづちの杖】
【デスピサロ 所持品:『光の玉』について書かれた本】
【ライアン 所持品:大地のハンマー
エドガーのメモ(写し)】
以上、 現在位置:ロンダルキア南東の森、奇襲ポイント
【ラグナ 死亡】
【ガウ 死亡】
【マリベル 死亡】
【ギルガメッシュ 死亡】
【セフィロス 死亡】
【残り 38人】
最終更新:2011年07月17日 14:48