冥福

「…終わったな」
「だが、犠牲は大きかったでござるよ…」
ライアンは静かに目を閉じる。散っていった勇者たちに対する黙祷か。
デスピサロは横目でしばらく、それを見ていたが、
「そろそろ移動した方がいい。体温が下がりすぎて立ってもいられなくなるぞ」
「うむ…そうでござるな」

ティーダは、エアリスの元に歩いていった。
エアリスはただ一心不乱に肉の塊を潰している。それが何かがわかって、ティーダはエアリスの手を取った。
「もうやめといたほうがいいッス。それはもう…」
「コレは…どんなにバラバラになっても、リュニオンして元に戻ってしまうわ。
 だから、ちゃんと始末しておくの」
「だとしても、もっと他にやりようがあるだろ。辛いのもわかるけどさ、モノに憎しみぶつけて、それが何になるってんだ」
「………」
エアリスは、手を止めた。頬を流れていた涙は、何時の間にか氷に変わっている。
自分を濡らしたマリベルたちの血も、凍って渇いている。
熱い感情も、死の感触も、じょじょに冷めていく。
エアリスは、はぁと息を吐き出すと、呟くように言った。
「そう――――だね。これだけ、潰しておけば…再生する前に凍って何も出来ないし。
 みんなも、ちゃんと葬ってあげないとね…」

四人は、ロックラグナ、ガウ、マリベルの遺体をそれぞれ背負って、野営地に向かった。
野営地には目覚めたモニカがいた。
死人を運んできたデスピサロたちにモニカは唖然として、続いて激しく脅えたが、
以前のフィールドで会ったエアリスの説明で、事情を理解した。
エアリスは四人を並べて横たえると血糊を拭って彼らの体を綺麗にしている。
こんな状況で何の意味がある、と思わないでもなかったが、共に戦ってきた仲間たちの手向けにこれぐらいのことはするべきかもしれない、とティーダは思う。

マリベルの口元を洗っていたとき。
エアリスはマリベルの服の下に紙があることに気付いた。
エドガーのメモだ。このゲームから抜ける方法があるという、希望がかかれた紙。
だが、それはもうマリベルには何の意味も為さない。それは…悲しいことだ。
涙を堪えながら、エドガーのメモを自分の服にしまうエアリス。
これは、生者にこそ必要なものだから、きっとマリベルも自分が持っていくことを許してくれるだろう――――

「…?あれ、もう一枚…」
エドガーのメモのほかに、別の紙があった。
開いてみる。何か、書き込まれているが読めない……首を捻っていると、
「見せてみろ」
デスピサロがひょいと紙を取った。
なにやら、魔術じみたものがかかれているようで、気になったらしい。

「………ふむ。なるほど」
「わかるの?」
「未完成だが、魔法の唱え方…というよりも術式の概略だな。
 わからないだの、憶えていないだの、そう言った端書も書かれている」
デスピサロは紙をエアリスに渡した。
「術式…?」
「マジャスティス、というらしい。しかし、お前も術師だろう?わからないのか?」
「私の世界はそういうこと、やらないから。マテリアってモノがあって
 …あなたふうに言うなら、術式などの知識が凝縮した結晶を媒体にして発動させるものなの」
ならば、彼女は役に立たんな。デスピサロは思った。
ジタンの説明を信じるなら、儀式は力よりむしろ魔術的なセンスが重要である。
彼女の魔術的なモノは血の力だ、術式もわからない彼女を勧誘しても意味はない。

マリベルは…惜しい事をした、と思う。
空でこれだけのものが書けるなら、才能はあったかもしれない。
しかし、今更悔やんでも仕方ない事である。
「あ、これはわかる人が持っていたほうがいいかな?」
「私は覚えたので必要ない。お前が持っていても問題ないだろう」


そしてエアリスが事を終え、一息ついた後。
話は自然とこれからどうするか、ということになった。
「我等は為すべきことがあるゆえ、早々にここを発つが、お前たちはどうする」
「日が明けたら、みんなを埋葬してあげようと思う…」
デスピサロの問いにエアリスはそう答え、ティーダは肯く。
「その後は」
「そッスねー。会わなきゃいけない奴がいる、かな」
エアリスはティーダを見た。それはおそらくリュックだろう。
そして自分も…会いたい人がいる。
「私も人探しかな。セフィロスはもういないって事、教えてあげたい」

「そうか。ではここでお別れだな。そこの女は」
この人、私を憶えていないんだ…とモニカは思った。
自分はこの男を知っている、何しろもう少しで結婚相手になるところだったからだ。
エンドールで開催されたあの武道大会、もっとも目立ち、残虐非道といわれた男。
聞いた話とはだいぶ印象が違うけれど…
「私は、アーロンさんを探しにいきます」

「アーロン!?そうだ、あれからアンタ、なにしてたんだ?」
ティーダが声を上げる。ほんの僅かだが、ティーダたちは以前モニカたちと合流している。
リュックの暴走で離れ離れになってしまったが…
「私は…アーロンさんと一緒にいて、メルビンさんと、この子に助けられたんですが」
モニカはちらりとガウを見る。もう動かない少年の姿に、涙が滲んだ。
「北の湖にある島でトラブルに巻き込まれて…アーロンさんは湖に落ちて」
あの自然発生のバシルーラか、とデスピサロは思った。
「湖に…本当ッスか?」
ティーダの顔が青くなる。アーロンって、泳げたっけ?
そりゃ、人並みには泳げるだろうけど、零下の湖にいきなり落とされて無事でいられるか?
そんな悪い想像をモニカもしたのだろう、俯くと血をはくような声で口調で言う。
「ええ、私は確かに見ました。嵐に巻き込まれて縄に掴まったアーロンさんをターバンの男が見捨てて…!アーロンさんは湖に落ちたんです!」

「待つでござる、ターバンの男といわれたが、もしかしてとんぬら殿でござるか?」
「とんぬらって…ええと、魔物使いの?」
ティーダの言葉にライアンは肯く。
「うむ。魔物からも慕われる好青年でござる、ワシにはどうにも信じられんでござるよ」
「ですが、事実です!私はこの眼でちゃんと見ましたから!」
モニカの剣幕に、ムゥと気圧されるライアン。
さすがの王宮の戦士も御婦人のヒステリーには成す術もないらしい。

「とにかく、次の目標は決まった。北の湖にいって、アーロンを探す!」
「私もいきます!」
ティーダの宣言に唱和するモニカ。続いてエアリスも。
「私も行っていいかな。彼の居場所もわからないから」
「もちろん歓迎ッスよ」

「今後の事は決まったな。それでは我等は行くが、道を見失ったら神殿に向かうといい」
「了解ッス!」
「とんぬら殿は非道な人となりではないでござる、きっと何かの事情があるでござるよ」
「でもアーロンさんにした仕打ちは変わりません」
「とにかく、会ったら話を聞いてみます、ライアンさん」

こうして、デスピサロとライアン、ティーダとエアリスとモニカは別れた。
セフィロスを倒すという目的を果たして、その先の目的を果たすために。


【ティーダ 所持品:いかづちの杖 参加者リスト 吹雪の剣
 第一行動方針:アーロンを探す
 最終行動方針:何らかの方法でサバイバルを中止、ゾーマを倒す】
【モニカ 所持品:エドガーのメモ(ボロ)
 第一行動方針:アーロンを探す
 第二行動方針:ゲームから抜ける】
【エアリス 所持品:癒しの杖
 第一行動方針:アーロンを探す
 第二行動方針:クラウドを探す
 最終行動方針:このゲームから抜ける】
【現在位置:ロンダルキア南東の森・野営地】

【デスピサロ 所持品:『光の玉』について書かれた本
 第一行動方針:魔法使いを探す
 第二行動方針:腕輪を探す・偵察
 最終行動方針:ロザリーの元に帰る】
【ライアン 所持品:大地のハンマー エドガーのメモ(写し)
 第一行動方針:デスピサロに同行する
 第二行動方針:ソロを探す
 基本行動方針:来る者は拒まず、去るものは追わず】
【現在位置:ロンダルキア南東の森・野営地】


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最終更新:2011年07月18日 01:24
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