多重

「で?俺達にどうしろって言うんだ?」
言葉に皮肉な調子を込めて、バッツは目の前の闇の貴公子に問いかけた。
バッツの横では、バーバラが一生懸命ホイミを唱えながらダンスを踊っている…何故ダンスなのだろう?
そのダンスのおかげで体力が戻ってきている事には、さすがにバッツも気づかない。
クーパーは壮年の剣士…ライアンと何やら話している。恐らくリディアの事だろう。
デッシュサマンサも、隅の方でひそひそと脱出方法について語り合っている。
ハーゴンの自室の前に、それだけの人間が集合し、そして協力しあおうとしていた。

「嫌われたものだな…脱出したくはないのか?」
ニヤリと笑った闇の貴公子…デスピサロの言葉に、バッツは無言で両手を上げて見せた。
降参のポーズ。実力でも話術でも、どうにもこの男にかなわないような気がする。
「なに、簡単な事だ…役立たずを預かって好きにしてくれればいい」
そう言いながら、デスピサロはリディアを眼で指し示す。
「その過程でゲームに乗った奴でも殺したら、この儀式を行え」
デスピサロは一方的に手にしたメモを押しつけた。クーパーとともに来た彼らは、脱出の方法を知っていると言うが…。
「何々…首を切って魂を封印…?正気か?」
「ハーゴンとやらの呪術にはもう一つ首が必要なのでな」
デスピサロは当然のように言い放つ。彼はデッシュの持っていた呪術用具とハーゴンの残した説明をバッツから聞き、ソレを実行に移す事にしたのだ。
「…うまくいくのか?」
バッツは体力の戻った身体を確かめるように動かした。治療に使った魔法力の消耗はあるが…問題はないだろう。
バッツはバーバラに礼を言い、立ち上がった。そしてデスピサロに問いかける。
「この老人は巧妙だよ。うまくいくだろうな」
そう、巧妙だ。儀式の内容、実行の仕方。そして“罠”。生きていればさぞ役に立っただろうに。

と、デスピサロ達の背後でわあっ、と歓声が上がった。
振り返ると、リディアとクーパーがニコニコ笑いながら手を握りあっている。どうやらようやく眼を覚ましたらしい。
これでいい。とピサロは思った。こいつらもジタンと同じ、守るべき者を持つ事で真価を発揮するタイプだ。
特にクーパーに関しては、子供っぽい恋愛感情も相まって非常によい動きをしてくれるに違いない。
いい加減、足手まといを抱える余裕もピサロにはないわけだし。一石二鳥、と言うところか。

「さて、これからの動きだが…」
デスピサロは小さく呟いてから、顔を伏せて独り言を始めた。何かを考え始めたらしいが。
と、バッツの隣に立っていたバーバラがさっきまで…ダンスを踊っていた時に浮かべていた元気いっぱいの笑顔を潜めている。
「貴方…バッツって名前だったよね?」
「ああ…」
「レナって人…知ってる?」
バッツの顔が強ばった。叫び出しそうになる喉を押しとどめ、バーバラにつかみかかりそうになるのをギリギリで自制する。
「ああ……知ってる。よく知ってる」
「私、レナお姉ちゃんと一緒にいて…最後にコレを、受け取ったの」
バーバラはバックを探ると、中から飛竜を象ったペンダントを取りだした。レナの、ペンダント。
「……っ…っくっ…!」
涙が出そうになる。レナの笑顔が脳裏を駆ける。彼女はもういない。ペンダントだけを残して…。

「ねぇ、バッツ…1つ、聞きたい事があるんだけど」
「あ、あぁ…何だ?」
数分して落ち着いたバッツに、バーバラは深刻な顔で、聞いた。
「下で…死んでいる人が2人…いたでしょ?」
「…あぁ、俺が殺した。」
バッツの頬でぱあん、と、激痛が弾けた。

「っ…!」
「あ…」
その場にいた全員がこちらに注目する。バーバラが呆然と自分の手を…思わずバッツをぶった自分の手を見つめた。
バッツは自分の頬を押さえ、バーバラの方をじっと見る。
「理由くらい言ってくれ…どっちが、知り合いだった?」
バッツは冷静に言った。レナのために泣いて、泣いて、今は頭がスッキリしている。
バッツ、落ち着いて、とレナが言っている気がした。その通りだ。落ち着いて、誤解を生まぬように、なんとか…

テリーまだ子供だったのに…なんとか……何とかならな…っ!」
自分の手を見つめたまま、バーバラが言った。
動揺で、バーバラの声が詰まった。テリー…子供のテリー。何とかならなかったのか?
レナを殺した殺人鬼と一緒にいたとは言え、助けてやれなかったのか?子供なのだ。説得して、何とか…何とか出来なかったのか?
バーバラが揺れる。“レナが好きだった(と思う。多分)バッツ”と“テリーを殺したバッツ”が、同時に目の前に存在する。
どちらを見る?どちらに目をつぶる?
「…悪い。俺、レナほど優しくなれない。レナみたいに誰も彼も助けられない」
バーバラが顔を上げた。バッツは、頬を押さえて独白する。
「ああするしかなかった…って訳じゃないけど…ああしないと…子供でも…誰かを殺せるから」
言葉がまとまらない。どう言えばいい?どう償えばいい?
「俺はああした。俺にはもう、余裕なんて、無かった」
「……」
バーバラはしばらく無言でバッツを見つめ、真っ赤に腫れたその頬にホイミを使った。
「…ごめん」
バーバラはやっとそれだけ言って、バッツのそばから離れた。

悪い人じゃない。でもテリーを殺した。でも、ソレは間違っているのか?
間違ってると思いたい。間違ってると思いたくない。
テリーを裏切りたくない。レナが好きだったバッツを裏切りたくない。
バッツは仕方なく殺したんだろう。でも、完全に割り切る事は出来なかった。バッツはいい人だ。でも、人を殺した。
頼るモノが無くなる感覚を感じて、バーバラは体が震えたような気がした。

子供達は不安そうな顔で2人に歩み寄り、大人達はそれぞれの思考の渦へと戻っていく。
脱出のための戦いが、始まる

【デッシュ 所持品:首輪 裁きの杖 ハーゴンの呪術用具一式
 第一行動方針:ピサロを手伝う?
 第二行動方針:首輪を調べる
 第三行動方針:エドガーに会う
 最終行動方針:首輪を解除しゲーム脱出】
【サマンサ 所持品:勲章 星降る腕輪 手榴弾×1
 第一行動方針:デスピサロに従う
 基本行動方針:デスピサロを手伝う
 最終行動方針:生き残る】
【デスピサロ 所持品:『光の玉』について書かれた本
 第一行動方針:呪術の実行
 第二行動方針:魔法使いを探す・腕輪を探す・偵察
 最終行動方針:ロザリーの元に帰る】
【ライアン 所持品:大地のハンマー エドガーのメモ(写し)
 第一行動方針:デスピサロに同行する
 第二行動方針:リディアの保護
 基本行動方針:来る者は拒まず、去るものは追わず】
【バーバラ(負傷)
 所持品:果物ナイフ ホイミンの核 メイジマッシャー
 第一行動方針:デスピサロに同行する】
【現在位置:神殿ハーゴンの自室の前】

【バッツ@魔法剣士(アビリティ:白魔法)(魔法力やや消耗)
 所持品:ブレイブブレイド グレネード五個 レナのペンダント
 第一行動方針:クーパー達と共に行動する
 第二行動方針:アリーナ(アニー)、とんぬらパパスを捜す
 最終行動方針:ゲームを抜け、ゾーマを倒す】
【リディア 所持品:なし
 第一行動方針:バッツ達と行動する
 第二行動方針:エーコと合流
 第三行動方針:仲間(セシル?)を捜す】
【クーパー(魔法力やや消耗) 所持品:珊瑚の剣 天空の盾 天空の兜
 第一行動方針:バッツと行動する
 第二行動方針:アリーナ(アニー)、とんぬら、パパスを捜す
 最終行動方針:ゲームを抜け、ゾーマを倒す】
【現在位置:神殿ハーゴンの自室の前】


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最終更新:2011年07月18日 07:08
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