切り札

鼻先に、指が突きつけられている。
ただの指。軽く払えばそれだけで済む。
だが動けない。動けば、どうなるか?
デッシュはちらりと足元を見た。導師のために作った墓が見える。
動けばこうなる。目の前の女は魔法が使える。さっき喰らいかけて肝を冷やしたばかりだ。
とんがり帽子の魔法使い…サマンサに睨み据えられて、デッシュはぴくりとも動けなかった。

「動かないでくださいね……痛いですよ?燃えると」
指をひらひら踊らせながら、サマンサはからかうような調子で言った。
「どっから出てきやがったんだこのヤロォ…」
デッシュの方はと言えば、冷や汗を掻いて、やっとそれだけを呻く事が出来た。
右手に裁きの杖を握ってはいるが、コレを振りかざすよりは相手の魔法の方が早いだろう。死ぬ。
「さて…幾つか聞きたい事がありますが…貴方、何してたんですか?」
「見て分からないのかよ…墓だ、墓」
以前余裕のある…だが決して油断はしていない態度で、サマンサ。
その態度に多少イライラしながら、デッシュは足下の導師の墓を指さした。コレを作っている途中に襲われたのだ。
「…では次です。この神殿の中に生き残っている人間はいますか?」
「2人。俺くらいの男とガキがいる」
「ほぅ…で、敵ですか?味方ですか?その人達と、貴方は?」
「さぁな、定義によるよ……あいつらは寝首をかくようなヤツらには見えなかったがね」
デッシュは吐き捨てるように言った。そう、そんな卑怯で卑劣なヤツらではないような気がする。ハッキリいい奴とは言えないが、絶対に。
「そうですか…ではココまでですね。さようなら」
サマンサは、また明日会う友達に言うように、死刑宣告を放った。
味方として役立ちそうにはない。ならば…
「っと…ちょっと待てよ…!ゲームの脱出方法…知りたくないか?」
デッシュの口から“切り札”が放たれた。

「なん…ですって?」
サマンサの動きが止まる。指先に灯った紅蓮の欠片が消えた。『切り札』の威力は抜群だ。
「脱出方法だ…しかも、手段は二つ」
デッシュはニヤリと笑って、手にしたバッグ…呪術用具の入ったバッグを掲げてみせる。
「呪法と鍵文字…どうだ、乗らないか?」
バッグをふらふらと振る。サマンサが、静かに腕を下ろした。

(大丈夫…みたい)
神殿入り口の柱の陰に隠れたクーパーが、ほっと息を付いた。
バッツに悪いと思いながら、神殿の入り口まで何となく駆けてきて…遭遇した。デッシュとサマンサに。
慌てて柱の陰に隠れて様子を見ていたが…どうやら、和解したように見える。
…何度か飛び出して助けようかとも思ったが、出来なかった。気まずくて。
デッシュの仲間を自分たちで殺したのだから。自分達で。

サマンサとデッシュは二言三言会話を交わす。もう険悪な様子は見られない。
と、雪原の向こうから何かが歩いてくるのが、クーパーに見えた。
直後にはサマンサも気づいたらしい。そちらの方に振り返り…にっこり笑って手を振った。彼女の味方だろうか?
向こうから歩いてくる影は2人。
クーパーは片方の…若い男の方に見覚えがあった。そう、この忌々しいゲームの初日に出会った、バッツを追いかけていた男だ。
ハッキリ覚えている。闇の色をしたその姿。魔と冷酷さに溢れたその瞳。
ただ、あの時とは印象がまるで違う。襲いかかる敵ではないせいか、瞳から冷酷さはそのままに魔の色が抜け落ちかけているせいか?
…多分、小脇にやかましい女の子を抱えているせいだと、クーパーは結論づけた。

その後ろには、剣士がいる。大体パパスと同じくらいの歳か。その背中には…
「!ッ、リディアッ!」
その背中に、緑の髪の少女がいた。クーパーは、思わず入り口から飛び出した。

飛び出してきたクーパーを見て、デッシュは思わず叫んだ。
「何やってんだお前ッ!」
傷の治療をしているんじゃなかったのか?いきなり飛び出すなんて何考えているんだ!
あのデスピサロとか言うサマンサの仲間に狙撃されたって文句は言えないぞ?!
くそ、導師の仇だが、ここで見殺しにするのも目覚めが悪い、どうする…?

サマンサは、声が聞こえた瞬間に後ろに跳んだ。
ピサロとデッシュと飛び出してきたクーパーの3人を視界に入れて立ち止まる。
あの飛び出してきたのは、どうやらデッシュのいっていた子供か。どうやら、敵対者ではないようだが。
(さて…どうします?ピサロ卿…)

「あ…!」
しまった、とクーパーは思った。
思わず飛び出しはしたが、それからどうするのだ?不味い、この状況は不味い…。
悪意こそ抜けているが…バッツを襲っていたのはアイツだ。だが自分はまだ傷が…くそ…どうすれば?
「リディアッ!」
ピサロから多少離れた位置で立ち止まり、もう一度叫ぶ。返事はなかった。

「ピサロどの…?」
ライアンの問いかけ…あまり意味のない問いかけを無視して、ピサロはクーパーを見つめた。
天空の盾と…兜?天空の勇者しか装備出来ない伝説の武具。
ソレを扱える子供がいて、ソロが死んだ今も生き残っている。しかもリディアを知っていて、ゲームに乗ったようにも見えない。
「使える…かもしれんな」
ピサロはニヤリと、笑った。

【デッシュ 所持品:首輪 裁きの杖 ハーゴンの呪術用具一式
 第一行動方針:この場をおさめる
 第二行動方針:首輪を調べる
 第三行動方針:エドガーに会う
 最終行動方針:首輪を解除しゲーム脱出】
【現在位置:神殿入り口外】

【クーパー(多少の後遺症) 所持品:珊瑚の剣 天空の盾 天空の兜
 第一行動方針:思案中
 第二行動方針:アリーナ(アニー)、とんぬら、パパス、エーコの仲間(名前しか知らない)を捜す
 最終行動方針:ゲームを抜け、ゾーマを倒す】
【現在位置:神殿入り口外】

【サマンサ 所持品:勲章 星降る腕輪 手榴弾×1
 第一行動方針:デスピサロに従う
 基本行動方針:デスピサロを手伝う
 最終行動方針:生き残る】
【現在位置:神殿入り口外】

【デスピサロ 所持品:『光の玉』について書かれた本
 第一行動方針:不明
 第二行動方針:魔法使いを探す・腕輪を探す・偵察
 最終行動方針:ロザリーの元に帰る】
【ライアン 所持品:大地のハンマー エドガーのメモ(写し)
 第一行動方針:デスピサロに同行する
 第二行動方針:リディアの保護
 基本行動方針:来る者は拒まず、去るものは追わず】
バーバラ(負傷)
 所持品:果物ナイフ ホイミンの核 ペンダント メイジマッシャー
 第一行動方針:デスピサロに同行する
 第二行動方針:レナの遺言を果たす】
【リディア(気絶中) 所持品:なし
 第一行動方針:?
 第二行動方針:エーコ、バッツたちと合流
 第三行動方針:仲間(セシル?)を捜す】
【現在位置:神殿入り口外】


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最終更新:2011年07月17日 22:52
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