ソルジャー1st

指先の感覚はもう無い。喉の奥がじっとりとして詰まる。眼の奥はどうしようもなく冷たい。
でも、あの時と同じだった。同じ感情だった。彼女が、死んだときと。
どのように死んだ?どうして死んだ?
クラウドは声にならない声を上げ、走っていた。いや、本人は走っているつもりだったが、それは歩いているも同然の速度だった。

一体、どれくらいの時間走ったのか?雪をかき分け、クラウドは走った。目の前の光景も見ることなく走った。
彼が見ているのは、黒髪の美しい女性の姿の、幻影。
彼女はこちらを見ていた。ただ見ていた。何も言わずに、自分を見つめていた。
責めない。慰めない。庇わない。恨まない。怒らない。
いつも、そうだった気がする。ただティファはこちらを優しく見つめて…そう、何も言わなかった。
言葉なんて要らない。2人で一緒にいれば、きっと何も言わなくても分かる。
…そう、2人で一緒に居さえすれば。
一緒に居られなかった。死んでしまった。ティファは死んでしまった。どうすればよかった?俺は、どうすればいい?
目の前の、幻影のティファが倒れ込む。クラウドは両手を広げ、それを抱き留めた。受け止めた反動で身体が止まる。
手の中のティファの胸には、剣で刺し抜かれたような傷が付いていた。ちょうど、あの時のエアリスと同じ具合に。
「…!」
もう声も出ない。クラウドは無言で、その場に膝を突いた。

           ぬちゃり

そんな、嫌な感覚がクラウドの膝にまとわりついた。その冷たい感覚が、クラウドの意識をまともな方向に引きずり戻す。
(……ここは…何処だ?アリーナは……俺は…何をやっているんだ!?)
思考が正常になり、猛烈な後悔が襲い来る。責任は何処へ行った?自分は何を考え、何をやっている?
「くそ…!」
クラウドは地面を殴りつけた。ティファを守れなかった自分に腹が立ち、アリーナを見捨てた自分に頭が来た。
殴りつけた地面からびちゃりと何かが撥ねて、彼の顔を汚す。雪では、無い。
クラウドは不思議に思って地面を見た。

クラウドがその場に立ち止まったのは、『ソレ』に蹴躓いたためだった。
その衝撃を、クラウドは幻影のティファを受け止めたと、勘違いしたのだ。
転がっているのは挽肉だった。ただ、ほんの僅かだけ挽肉でない部分が残っている。
鎖骨から上の部分。焼けた顔面。銀色の髪。知っている顔。英雄。片翼の天使。
セフィロス…」
一度正気に戻ってしまえば、もう再び狂う事もない。クラウドは案外冷静に、その物体を見つめていた。
そうか、ここで死んだのか。ここにエアリスが居たのか。

頭が冷めていく。2人のセフィロスがクラウドの頭を覚ましていく。
英雄はニヤリと笑って落ち着けと言い、片翼の天使はクククと笑ってこちらを見ている。その姿が、クラウドに落ち着きを取り戻す。
2人のセフィロス。憧れと憎しみ。ソレがクラウドの判断力を再構築する。何かが、戻っていく。
クラウドは立ち上がり、振り返った。
探したい。今すぐエアリスを探したい。だけど、だが…。

クラウドは、アリーナの所に戻るべく歩き出した。
その途中、何かが脚にこつんと触れる。クラウドが足元を見ると、それは、正宗だった。
半ばで折れた正宗の、柄。クラウドはソレを拾い上げ、しばし迷ってから…ザックに納める。
今持っている銃のような剣よりは使いやすそうだという判断もあった。
だがそれ以上にその刀は忌々しく、そしてソレにもまして懐かしかった。
今すぐ放り捨てたいと思い、それ以上に持っていたいと思った。


そこから少し離れた野営地で、エアリスは仮眠を取っていた。
見張りにティーダが起きているが、疲労からか注意力はやや落ちている。一緒にいるモニカも、眠っていた。
…あんまりにも意地が悪い、すれ違いだった。いや、幸運だったのかも知れないが。

あの、セフィロスの遺体から地下通路の方にしばらく歩いた場所。ちょうど中間地点まで来たところで、クラウドは遠くに何かを見つけた。
「…アリーナ?」
クラウドは小さく呟いて、前方から駆け寄ってくる影を見た。
暗くて少々分かりづらいが、そのレオタード姿は間違いなくアリーナだ。
……今まで意識していなかったが、寒そうだ。
「クラウド~ッ!
と叫ぶアリーナは見る見るうちにこちらに駆け寄り、目の前まで来ると立ち止まる。
彼女はぜぇはぁと息をあえがせながら、こちらを見ている…何も言わない。

「…悪かった」
クラウドの小さな詫びに、アリーナは何となく違和感を覚えた。
落ち着いて、いる。さっきまで錯乱していたとは思えないほどに。
「…ううん」
なにがううん、なのかは分からないが、とにかくアリーナは返事をした。
それからしばらく見つめ合う。何も言わなくても分かる、なんて訳じゃない。ただ、そうやって分かり合いたかった。

「どうしようか?…これから?」
「…興味ないね」
「へ?」
「冗談だ…勝手に飛び出した俺が言うのも何だが、何度も人が往復する通路に居るのも危ないと思う。体力を消耗しないよう目立たないところに移動しよう」
「う、うん…」
返事をするアリーナは、クラウドに奇妙な違和感を感じていた。冷静になっただけではない。何かが、変わった…?
(なんだが、取っつきづらくなっちゃったかも…)

(感謝するぞ…セフィロス)
進む方向を思案しながら、クラウドは心の中でセフィロスに感謝した。
彼のおかげだ。彼の死を認識して冷静になる事が出来た。
エアリスを殺した彼への憎しみが、責任から逃げる事を拒否した
英雄だった彼が、冷静にならねば生き延びられないと言った気がした。
…今の彼は、ソルジャー1st・クラウドだった。
かりそめではあっても、冷静で強く不敵な、ゲームを生き延びる事の出来るクラウドだった。
…本当の自分は、今はいない。子供のように怯える自分は、今はいない。
エアリスとアリーナとを助けるため、彼はソルジャー1st・クラウドになった。
ティファを見殺しにした自分には、そうするしかないと思ったから。
二度と間違わないためにはそうするしかないと思ったから。
もう、東の空はほのかに白くなっていた。

【アリーナ(軽傷、片目失明状態)
 所持品:イオの書×3 リフレクトリング ピンクのレオタード
 第一行動方針:クラウドと行く
 最終行動方針:不明】
【クラウド(軽傷)
 所持品:ガンブレード 折れた正宗
 第一行動方針:人気のないところに移動
 第二行動方針:アリーナを守る。出来ればエアリスも探したい(?)
 最終行動方針:不明】
【現在位置:地下通路入り口(大陸中央付近)とエアリスの野営地の中間地点】


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最終更新:2011年07月17日 16:03
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