色々思うところはあったが、とりあえず
クーパーとバッツは
オルテガの解呪を行う事にした。
その間に、お互いの情報交換を行う。状況説明と、探し人の手掛りが目的である。
と、そうこうしている内にオルテガの解呪が終わったらしい。
「助かったぞ少年たち!諸君等の善行は必ずや報われよう!」
バッツとクーパーの肩をポンポンと叩いてチョコボに乗り込む。
「あ、あの!」
「では、さらばだ!縁があればまた会おう!」
話を聞いてない。まあ関りたくないから別にそれはそれでいいのだが。
引きとめようと伸ばしたクーパーの手は空を切り、オルテガは再び部屋の向こうへと消えていく。
「……いっちゃった」
これまでほとんど遭遇した事のない奇天烈なパーソナルに、クーパーは呆然とする。
「少年って……俺もか?」
童顔に見られるが、一応二十歳のバッツは呆然と呟く。
「ヘンタイだねぇ」
身も蓋もない
エーコの感想に一堂頷いた。
とりあえず気を取り直して、
「まあ、とりあえず、アレはほっとく事にしよう。それよりこれからの事だが……」
エドガーの露骨な話題転換に
アーロンは頷く。
「外で敵を食い止めている連中への援護と、ここで脱出者を待つ二手に分けるべきだな」
「ああ。
アルスたちと別れてだいぶ経つ。そう簡単にやられはしないと思うが」
それでも不安は残る。何しろ相手は魔王だ。
と、その時。
ゲートが瞬き、その向こうから
ティーダ、
エアリス、
パパスの三人が現れる。
「ティーダか」
「パパスさん!」「パパスおじさん!」「パパスおじさま!」
アーロン、バッツ、クーパー、
アニーが呼びかける。
ティーダは自分の名を呼ぶのが誰か気付いて、その男に詰め寄った。
「アーロン! お前、どこに行ってたんだよ!」
「フッ、相変わらずだな、お前は」
軽くあしらわれて口篭もる。しかし、これがアーロンとの会話だ。
ソレをようやく取り戻せて、何とも不思議な気分になる。
何とも不思議な気分になっていたのは、とんぬらも同じだった。
何かを言わなければいけない。言いたいことは幾らでもあったはずだ。
しかし、それはカタチにならず霧の様に消えていく。
ただ、駆け寄っていった自分の子供たちの頭を撫でる父の姿を見ているだけで、目元が熱くなっていく。
「……父さん」
呟いたのはたった一言。自分を見るクーパー、アニー、そしてパパス。
パパスは妻によく似た、深く静かな瞳の青年を見て、ぽつりと呟いた。
「
とんぬら、か?」
「………っ」
ぽたッ、と大きな涙が零れる。それだけは、どうしても止めようがない。
言葉もなく項垂れる息子に、パパスはなんと声をかければよいのかわからない。
それは彼の子供たちも同じだった。
今まで一度たりとも辛そうな表情を見せなかった父が、
何時だって優しく微笑んでいた父が泣いている。
喚くわけでもなく、悲しむわけでもない。ただ、肩を振るわせ泣いている。
その姿だけは、何時までもきっと忘れないだろうと、クーパーとアニーは思った。
その場の空気は唐突にしんみりとして、口を挟みづらい状況になった。
しかし、その再開が当人にとってどれだけ重要でも、今は優先すべき事がある。
こういうときに割り込むのは、人間ではない自分の役割だろうと
デスピサロは思う。
「すまないが、感動の再開は後にしてくれ。非常事態なのでな」
「……うむ。とにかく、話は後にしよう。良いな?」
「はい」
頷くとんぬらに、アニーはハンカチを渡す。
とんぬらはアニーの頭をそっと撫でてから、目元を拭った。
彼らが落ち着きを取り戻した事を確認してから、エドガーは先ほどの話を続ける。
「――――それで、続きだが……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「ああ、もう今度は何だ!?」
再度話の腰を折られて、エドガーは
デッシュを睨む。
デッシュはそれどころではないといった様子で、オブジェの脇にあるパネルを叩いている。
「動力が急激に低下してるんだ。このままじゃ、止まってしまう!」
「なにっ!?」
見る見るうちに、オブジェに点った光が消えていく。転移ゲートも、霞の様に消失する。
もう幾らパネルを叩こうと反応しない。完全に停止したようだった。
これは全員の脱出を確認した
エビルマージが動力源を止めたのが原因なのだが、それを知る者はこの場にいない。
わかることは、ここにいる者と、戦っているアルスたちと、後まあ一名が、最終的な生き残りであることだけだ。
呆然とする一堂に、デスピサロは呼びかける。
「何にしても行動を開始するぞ。
先程の話どおり、ここにいる面々をアルスたちの援護部隊と、殿の部隊に分ける」
「え? あ、ああ。しかし、もうここを守る必要は……」
「向こうから大きな気配が来る。先程の魔王とは別種だが、同等の力を感じる。
下手に背後を付かれれば全滅する。かといってアルスたちを放ってはおけまい?」
エドガーの問いに、何事もないかのようにデスピサロは答える。
全く、本当に美味しいところだけを持っていく…エドガーは溜息を付いた。
「では早速パーティを分けよう。まず、援護には私が向かう。道を知っているからな」
「アルスが戦ってるなら俺も行くッスよ」
「私も」
「では俺も行こう。放っておいたらまた泣き出すからな」
「誰が泣くか!」
ティーダとエアリス、そしてアーロンが名乗りをあげる。
「
ライアンさんがいるのか……」
「お前は残れ。息子に用があるのでな。お前が行っては子供の勇者も気が気でないだろう」
子供扱いされムっとするクーパーを軽く宥めながら、仕方ないと肩を竦める。
そんな親子にバッツは遠い日の自分の姿を重ねながら言った。
「なら俺が二人の代わりに行く。それでいいか?」
こうしてパーティ分けが決まり、別れる前に三人の首輪の解呪と武器の配分を行って準備を整える。
「なあアーロン。この剣ってあの壁の化け物のときにボロボロにしたヤツ?」
「ああ、無いよりはマシだととっておいた」
「ふむ、ならばこの剣を使ってはどうかね。重いが、そなたなら使えるだろう」
アーロンはパパスから
バスターソードを譲り受け、
「お嬢さん、君の弟さんが着ているあの兜と盾だが」
「
天空の兜と、
天空の盾のこと?」
「実は同じような意匠の鎧を持っていてね。何か関連があると思う」
「……
天空の鎧! これ、貰っていいの?」
「勿論。私には使えないようだしね、お役に立てれば光栄の極みさ」
「これ、クーパーの大切なものなの。捨てないでくれてありがとう」
「どういたしまして、レディ」
クーパーは(アニー経由で)エドガーから天空の鎧を譲り受けた。
こうして準備を整えたエドガー、ティーダ、エアリス、アーロン、バッツの五人はアルスたちの援護に向かい、残りはこの場で別の魔王を迎え撃つことにしたのだった。
最終更新:2011年07月17日 21:25