大廊下を進みゆくバロモスブロス、それを迎えうつ11人の
参加者たち。
ゲームは終盤に入り大きく様変わりした。運営側が手を自ら手を下さなければいつまで経とうとも
ゲームは終わらない。参加者側、運営側、双方の作為が運命を変えたのだ。
お互い、相手を倒す以外に生き延びる術はない。
バラモスブロスは部屋の前で大きく息を吸った。
「部下たちがここに来るまでに終わらせてやる」
バラモスブロスの大きく裂けた口元が艶やかに赤く染まって、憤怒の色めきあいを帯びた形相に移り変わった。
確認できるだけで七人、まだ他にも物陰に隠れた連中が少なからずいる。
どれもこれも小さい、大した存在ではない、取るに足らない小虫でしかない。こんな連中と自分が
同じ線上に立っているというのか。
バラモスブロスは全身を震わせ、怒り任せに体じゅうに発生させた熱を一点に収束させる。
この城には人間なぞが居て良いような空間などない!
喉の奥から生まれた煮えたぎるもの、目の前にいる人間たちを焼き尽くすに充分な火勢がせりあがってきた。
「人間ども、雑魚どもめ。わらわらと群がる虫ケラどもがあっ」
バラモスブロスは激しい炎を吐き出した。
長い年月をかけて塗り固められた壁がどろどろと溶け出して崩れていく。火炎は部屋すべてを飲み込み、
逃げ場はどこにもないと思われた。
と、淡い光が突然満ちあふれ、炎が行き場を失って追い立てられるようにまわりに弾かれていく。
フバーハの光につつまれた中からひとつの影が飛び出した。
「ぬおっ」
バラモスブロスは足元に鋭い痛みを感じて身悶えた。
クーパーがブロスの足首に剣を埋め込んでいた。
「ぐぉぉおおお」
クーパーは剣を放すタイミングを逸してブロスと一緒に倒れこんだ。大音響とともに地響きがまき起こる。
「クーパー!」
倒れたブロスが暴れて、クーパーがたまらず剣を放した途端、硬い床の上に放り出された。
とんぬらがクーパーを追う、
アイラが剣を抜いて続く。
「バイキルト」
サマンサの声が部屋内に響きわたった。
「この、小うるさい人間ども!」
仰向けになったバラモスブロスは、近よる人間たちを叩き潰そうと両手両足を振り回した。
巨大な腕が、息子に駆け寄るとんぬらの頭上に迫る。
「でぇいっ」
鋭く頭からダイビング、からくも圧殺の手をまぬがれ、クーパーの隣りに滑り込む。
「お父さん、剣が抜けなくて」
「父さんのを貸してやる」
とんぬらがクーパーの手を引いてアイラの姿を探す。
ブロスの手足をかいくぐったアイラが爆発的な豪力を剣に注ぎ込んだ。魔王の胴体の上から、必殺の一撃を
その胸めがけて叩き落す、サマンサのバイキルトの力も上乗せして。これならいかな魔王といえども絶命
するはずである。アイラは床を蹴りつけ大きく飛んだ。
空中で錐揉み一回転、そして
「危ないっ」
そのとき、アイラは目の前に迫り来る太陽が爆発したような幻想的で圧倒的な光景を目にした。
突然首をもたげかけたバラモスブロスが炎を吐き出したのだ。
アイラは放射された灼熱に身を焼かれ、さらに吹き飛ばされた。
――では行くか
部屋の中から歩き出したピサロは外套を羽ばたかせ、内側に収納していた死神の鎌を右手の掌に落としこむ。
この世界に来た時から、ピサロは本来の力を取り戻したような感覚を覚えていた。
ここは魔界に近い空気に満たされている空間だったのだ。
最終更新:2011年07月18日 08:27