「あの…
バッツ、隣、いい?」
鞘に収めた剣を抱くようにして座っているバッツの隣に、
バーバラが立った。
バッツは軽く顔を上げ、険しかった顔をわずかにゆるめた。
「ん、別にいいけど」
「バッツは、さ。何か話さないの?」
隣に膝を抱えて座り込むバーバラに聞かれて、バッツはひょいと肩をすくめた。
「今、考えてた。何話すべきか、さ」
バーバラはふうんと返事を返してから、意を決して話を切りだした。
「あのね、こういう事聞くの、レナお姉ちゃんに悪いかもしれないんだけど…
でも、やっぱり、聞いておきたいから」
「?」
バーバラはバッツの顔に、ぐいと顔を近づけた。
「レナお姉ちゃんの手紙、なんて書いてあったの?」
「手紙?なんだ、それ?」
………………沈黙。
「へ?」
「いや、それ、初耳だぞ。手紙って」
困った顔をするバッツ。唖然とするバーバラ。
ふと思い出してみる。ペンダントを渡して、バッツの頬を叩いて、それから泣いていて…
「ごめん。伝えてなかった」
「…まあ、いいけどな。今、聞けたし」
バッツは申し訳なさそうに両手を合わせるバーバラの頭を軽く撫でてやる。
それからレナのペンダントをザックから取り出した。
大空を舞う飛竜をかたどったペンダント。その竜の首を軽く捻ると、ぽん、と軽い音がしてはずれた。
本来は、遺髪などを納めるための物なのだろう。中は空洞になっている。
小さく丸められた紙片が、その中から小さく顔をのぞかせている。
バッツはそれを取り出し広げようとしたところで、隣に座っていたバーバラが離れようとしているのに気づいた?
「ん、どうした?」
「あの…ごめん。近くにいると、聞きたくなっちゃうから」
バーバラは立ち上がりぺこりと頭を下げた。くくった髪が大きく揺れる。
「やっぱり、お姉ちゃんとの約束破れないから…ごめんね」
そう言って、バーバラは少し離れた場所に移動を始める。
「聞かせられる中身なら、後で教えてやるよ。それならルール違反じゃないだろ?」
そのバッツの言葉に、バーバラは背を向けたまま、小さく小さく頷いた。
ぱさり、と髪が擦れる音がする。
十センチ四方ほどの小さな手紙。書いてある文字はさほど多くはない。と言うか、少ない。
バッツはゆっくりと字を目で追い、すぐに読み終わる。
バッツは泣いてはいなかった。泣くわけには行かなかった。
この手紙を呼んだ以上、泣くわけには行かなかった。
“バッツへ。
私は、もうあなたには会えないかもしれません。
だけど、私は、ここにいます。
きっと、ここに、います。”
他に伝えたい事があったはずだ。タイクーンに、
ファリスに、クルルに、自分に。
でも、レナが書いたのはこれだけだ。
レナは、心配性だった。ちょっとした怪我でも、ちょっと危ないところに行くだけでも、とても心配した。
泣いたりしたら、きっと困るだろう。誰かが死んだりしたら、とても傷つくだろう。
だったら、泣けない。泣くわけには行かない。
みんなを守らなければならない。
レナがここにいるのなら、彼女を悲しませ、泣かすわけには行かないのだ。
バッツは手紙を懐に収め、そう、決意を固めた。
最終更新:2011年07月16日 22:26