「あの…私、良いかな?」
バーバラがそこらに座ったところで、
エアリスが軽く手を挙げた。
何人かが頷き、全員が注目する。エアリスは一呼吸ついてから、話し始めた。
「私は、ここに来る前に、一度死にました」
エアリスの第一声に、皆の体が小さく強張った。
死んだはずの人間がゲームにいた、と言う事は、何人かは知っている。
と、言うか、
アーロンと
パパスはそのものズバリ、死人だ。
とんぬらや
ティーダ達から見れば、と言う意味ではあるが。
だがアーロンは元の世界に在った時から“死人”であり、パパスには“自分が死んでいた”という自覚はない。ここに来たのは死ぬ前だから。
だが、彼女は死んでいたと言った。
死人が、このゲームに参加するためだけに、死者の世界から引き上げられ、殺し殺されるためにあの世界を走り回っていたというのか?
「なんて事だ…」
とんぬらがうめく。エアリスは言葉を続ける。
「最初は、生きるか死ぬかなんて実感がなかった。
クラウドに会えたらいいな。なんて事しか考えてなかった」
エアリスの言葉は言葉を不器用につなげたような、まるで小学生の作文を読んでいるようなしゃべり方だった。
頭が回り、口も達者な普段のエアリスとはまるで違う。
エアリスが頭を振る。誰も喋らない。問いかけない励まさない慰めないいたわらない。喋る事すらない。
そのどれかでもしてしまったら、エアリスはきっとそれ以上喋る事ができなくなってしまうだろうから。
エアリスは泣いていない。ただ、歯を小さく食いしばっていた
「目の前で死んだ人もいた。知らない内にいなくなっちゃった人もいた。
…でも、私はまだ生きてる。死んじゃったはずの私はまだ、生きてる」
あの時に、自分の役割は終わったはずなのに。それなのに自分はここにいる。
まだ生きて、果たすべき役割がある人たちは、皆死んでしまったのに。
己を呪いたくもなる。どうして、自分なのだろうか?どうして、残されたのか?
「でも、残されたなら、やるべき事はあると思う。みんなの事、忘れないように、生きて、生きて
みんなの事を知ってる人に、みんなの事を伝えて、生きて行かなくちゃいけないと思う。
ここにいるみんなは生きてる。いなくなっちゃったみんなの事、覚えておかなくちゃいけない。だから」
エアリスはそこで言葉を切った。
ゆっくりとした動作で立ち上がり、皆を見回す。
その声に強い決意をにじませながら、エアリスはきっぱりと宣言した。
「みんなは、死んじゃ駄目。差し違えてとか、命に代えてとかはもってのほかよ!
もうこれ以上、こんな悲しい事が増えるなんて、絶対に駄目なんだから!
そんな事はもう、考えないで!」
クラウドもそうだった。命に代えても自分を守ると思っていたのだろう。あの、最後の行動は。
だが、そんなのは、もう、駄目だ。
“一人だけでも”ではなく、“みんなで”帰らなければ意味なんてないのだ。
だとすればもう、意味はとっくに無くなっているのかもしれないが。
でも、だけど、それでも、想う事で、土壇場で踏ん張る事もできるはずだから。
最終更新:2011年07月16日 22:26