ミカエルコロリ。この世に存在する全てのコロリの頂点に立つとされ、カインエルにも並ぶ力を持つとされるクリーチャーである。コロリ、ハボキ、ポロフら指作品を指揮する指博士は、天上より現れた神たるクリーチャー「カインエル」に対抗すべく、ミカエルコロリの力を探していた。
「……つまり、そのミカエルコロリの加護を受けたコロリを量産して、カインエルを倒すつもりなのね?」
「そうです! ミカエルコロリとなれば、あの憎きカインエルとも対等に渡り合えるでしょう!」
「でも、ミカエルコロリって確か、『天使の血』を持つ者にしか宿らないんじゃなかったっけ? そんな簡単に量産できるものなのかしら?」
「その点はご安心ください。すでに我々が作り出した『天使の血』を持つコロリもございます。それを量産し、カインエル打倒のための切り札とするのです!」
「なるほど……。それで、あなたたちは何をするつもりなの?」
「まずは我々の仲間を増やします。そして、ミカエルコロリへと至る『天使の血』を持った者を選別するのです」
「選別?」
「えぇ。『天使の血』を持つ者は、それだけで特別な存在。その者たちから血液を抜き取り、濃縮すれば、きっとミカエルコロリを生み出すことができるはず……」
「ちょ、ちょっと待って! それじゃあまるで……!!」
「そうですよ、アリス様。あなたの血が必要なんです」
「いやぁあああああっ!!!」
アリスが悲鳴を上げる。しかし、指博士は止まらなかった。
「さぁ、大人しくしていただこうか。抵抗しても無駄なことくらいわかるだろう?」
「嫌よ!! 絶対に嫌ッ!!!」
アリスは必死に抵抗するが、指博士はそれを難なく押さえつけてしまう。
「お待ちなさい!!」
そこに、声が響いた。
「誰ですか!?」
指博士の声に応えるように、部屋の扉が開かれる。そこには、1人の少女の姿があった。
「貴女は……!?」
「あら、私のことを知っているのかしら? まぁいいわ。私はアリスちゃんの友人よ。それより指博士、いったい何をしているの?」
「何って……見ての通りだよ。彼女は『天使の血』を持っているのだ。だから、これから彼女の血を抜いてしまおうと思ってね」
「……へぇ。そうなの、アリスちゃん?」
「えっと……はい。たぶん……」
「指博士、あなたのやり方は間違っているわ。天使の血は、無理やり集めても何の力も発揮できないのよ。」
「そ、そうなのか…」
「だから早く彼女を解放して。乱暴なやり方では、ミカエルコロリを覚醒させることはできないの。」
「むぅ……だが……」
「ほら、行きましょう、アリスちゃん。私についてきて」
「はい……」
「くっ……わかった。今日のところはこれで失礼する。また来るぞ!」
そう言い残して、指博士は去っていった。

「ほら、アリスちゃん。おむすびでもどうぞ。」
「ありがとう…」
そうして、アリスと呼ばれたコロリはおむすびを頬張る。
「しっかし指博士も強引ねぇ。あんなに焦ってもミカエルコロリは応えてくれないのに。」
「ねぇ、マリアさん。」
「ん、どうしたの?」
「マリアさんって、なぜそこまでコロリに詳しいのですか?」
「ああ、私は古い時代の書物とかを読むのが好きでね。クリーチャーが生まれる前の時代とか、その頃の書物は特に大好きなのよ。それで色々読み漁ってたら、ポロフ以外の伝説も覚えちゃったの。」
マリアと呼ばれたポロフは満面の笑顔で語った。
「へぇー、すごいですね!」
「そんなことはないわ。ただ本が好きっていうだけなんだから。」
「いえ、それでもすごいです! 尊敬します!」
「ふふっ、ありがと。」
「ところで、ミカエルコロリについて詳しく教えていただけないでしょうか?指博士から聞いただけのことしか知らなくて。」
「ミカエルコロリというのは、かつてこの世界を治めていた神のことらしいわ。でも、ある日突然姿を消してしまった。そのあと、ミカエルコロリの力を受け継ぐ者が現れた時、ミカエルコロリは再び姿を現すと言われているの。」
「なるほど……。それは、クリーチャーなのですか?」
「クリーチャーが生まれる前の時代から伝承が存在しているから、クリーチャーとは別の存在だと思うわ。でも、クリーチャーとして認識されていなかっただけで、それに近い存在という可能性はあるかもね。」
「なるほど……。ありがとうございます!」
「ううん、気にしないで。それよりも、これからどうするの?」
「ミカエルコロリを探しにいきたいです。その力があれば、カインエルにも、あの「神の僕」にも、立ち向かえるはずですから。」
「なら私も協力するわ。指博士も言っていたように、あなたはミカエルコロリの力を継ぐ存在。何かの手がかりになるかもしれないからね…それに、私も一目見てみたいし。」
「ありがとうございます!…といっても、どこへ行けばいいのか分かっていないのですが…」
「それについては心当たりがあるわ。ついてきて。」
そう言って、マリアは部屋を出ていった。
「……はぁ」
アリスはため息をつく。

どうしてこんなことに……。私は普通に暮らしていたはずなのに……

アリスのつぶやきは、誰にも聞かれることはなかった。

1か月前、天から突如現れた4体のクリーチャー…海指神コロリヴァイアサン、地腐神ゾビーモス、空河神ヘブンカイン、陸河神マイン人。それは突如として現れ、破壊の限りを尽くした。それまで互いにクリーチャーを争わせていた海恩軍、腐蝕帝国、指博士率いる指作品たちは争いをやめ、互いに手を結び神の僕への反逆を始めた。しかし神の僕というだけありそれを倒すのは容易ではなく、各軍団は更なる力を求め研究を始めた。その一つこそ、指博士の追い求めるミカエルコロリだった。

「アリスちゃん、着いたわよ。」
「ここが……?」
そこは小さな小屋だった。
「ええ、ここに『彼』がいるはずよ。さぁ、入ってみましょう。」
マリアは扉を開ける。そこには1人の少年がいた。
「あれ? マリアさんじゃないですか。今日はどうしたんですか?」
「久しぶり、マコ君。ちょっと聞きたいことがあって来たのよ。」
「そうなんだー。あ、そうだ。マリアさん、これ見てくださいよ!」
そう言うと、マコトと呼ばれたコロリの少年は一つの結晶を取り出した。
「これは……?」
「指作品の研究の過程で生まれたものです。なんでも、『天使の血』を活性化させるものらしいですよ。」
「へぇ……これが……!」
「なになに、なんの話してるの?私にも聞かせて!」
いつの間にか入ってきたもう1人のポロフが話に加わる。
「あら、ハロ君もいたのね。実はこの子が面白いものを持ってきたのよ。」
「ふぅん。どんなのだろ。」そう言いながら、ハロルと呼ばれた少女は水晶を眺めている。
「えっと……皆さんは何をされているのですか…?」
「ああアリスちゃん、ごめんね。こっちがマコトで、こっちがハロルよ。2人とも私の知り合いだから安心してね。」
「そうだったのですか。はじめまして、私はアリスといいます。」
「よろしくお願いします。僕はマコトと言います。」
「よろしくー。」
「それで、話を戻すけど……アリスちゃん、あなたはミカエルコロリの力を継いでいる可能性があるわ。」
「私が……?」
「ミカエルコロリの力を継ぐ者が現れる時、ミカエルコロリは再び姿を現すと言われているの。」
「なるほど……。では、そのミカエルコロリというのはどのような方なのですか?やはり強い力を持っているのでしょうか?」
「それはわからないわ。ただ、この世界に現れたという記録しかないからね。」
「そんな……」
「ただ、他のコロリを凌ぐすごい存在ってことは確かだわ。古文書によれば、人々はミカエルコロリを神として崇めていたそうだから。」
「なるほど…でも、どうやってミカエルコロリを呼び出せば良いのでしょう?」
「それには、こちらを使うのです!」
マコトはそう言うと、あの結晶を取り出した。
「この結晶があれば、ミカエルコロリの力とされる『天使の血』を活性化させ、神の力を覚醒させることができるようなのです。この結晶の下で儀式を行えば、ミカエルコロリを生み出すことができるはずです。」
「儀式…ですか。それは大変なのですか?」
「僕の調べによれば、儀式そのものにリスクはなく、器とされた天使の血を持つコロリも死ぬことはないとのことでした。手間は少々かかりますが、他の儀式に比べたら極めて安全なものです。」
「そうなんですね…よかった、てっきり生贄にでもされるのかと…」
このまま神の生贄になって死ぬ、なんてことはないのね。よかった…
「ミカエルコロリは慈悲深い神だそうで、供物は求めても生贄は求めず、また迷える民に道を指し示す者だ…と記載されています。ミカエルコロリそのものへの記述はなく、あくまで民の視点からの話しかないのではっきりとは分かりませんが。」
「…いえ、ありがとうございます。では、その儀式には何が必要なのですか?」
「『天使の血』を持つコロリ、コロリの力を引き出す魔結晶、そしてチンカインとチンゾビポ!それらが集い、民が答えを求める時、そこにミカエルコロリは現れる…」
「ハロルさん、それは?」
「ミカエルコロリの儀式のおはなしだよー。これを全部集めれば、ミカエルコロリを呼び出せるらしいんだー。」
そう言うとハロルは赤い皿を取り出した。その上には小さなカインとゾビッポンが乗っている。
「これが、チンカインとチンゾビポ?」
「そうだよー。この子たちがミカエルコロリをサポートしてくれるんだー。」
「でも、なぜカインとゾビッポンを?」
「えーっと…よくわかんない!おしえて、指ハカセ!」
「仕方ないですね…私が説明しましょう。」
後ろを振り向くと、なんと指博士が目の前に立っていた。
「いやああああ!!来ないで!!」
「今回は乱暴をしに来たわけではありませんよ、アリス様。そこのハロル様から、『マコトがミカエルコロリの古文書の解読終わったから来てくれ』と呼び出されたのです。」
「ハカセと何かあったのー?」
話すと長くなりそうなので、ここはグッと堪えることにした。
「いえ、特には。」
「へんなのー。まいいや、ミカエルコロリの復活にはなんでこの子たちが必要なのか教えてよー。」
「分かりました。このチンカインとチンゾビポは、ミカエルコロリをカインエルと並び立つ神へと昇華させるために必要なのです。」
「と、言うと…?」
「カインエルがコロリヴァイアサン、ゾビーモスという二柱のクリーチャーを連れて現れたことはご存知でしょう。カインエルは自らの化身たるヘブンカイン、マイン人に加え、二柱のクリーチャーを生み出して世界を混沌に満たしました。だがミカエルコロリは違います。この世界の混沌を浄化する神。チンカインとチンゾビポは、コロリヴァイアサンとゾビーモスの代わりです。カイン、ゾビッポン、コロリが並び立つことによる莫大なパワー。その中心をカインからコロリに置き換えることにより、カインエルの天下をコロリと書き換える!そのために必要なのが、このチンカインとチンゾビポなのです。」
「うーーん、よくわかんないや。」
「まあ、これがあるからこそミカエルコロリは神になれる、ということだけ理解していただければ大丈夫です。」
「だいたいわかったー。」
「では早速儀式を…アリス様、よろしいですか?」
「えっ…あ、はい。これで世界は元に戻るのでしょうか…」
「完全に元通り…という保証はございません。ですが、確実によい方向に向かうはずでございます。」
「そう…なんですね…」

これが終わったら、また普通に暮らせるのかな…

「では、準備が整いました。ハロル、皿をこちらに。」
「おっけー!」
研究所の外で、ミカエルコロリ召喚の儀式が始まっていた。アリスの目の前には、チンカインとチンゾビポ、そしてあの結晶が乗った赤い皿が置かれている。
「それじゃ、最終段階を始めましょうか!」
「はい。まずは割り箸を。」
マリアとマコトが、同時に割り箸を割る。
「あとは、これを23591本…」
「ちょっと待って!あれ!」
ハロルが湖の方を指さす。そこには、巨大な影があった。
「なんたる事だ…このような時に…!」
「あ、あれは…!?」
突如として現れたその巨獣。細長く伸びた体が渦を巻き、その口から極零度の水を吐くという最悪のコロリ・クリーチャー。コロリヴァイアサンの姿が、そこにはあった。
しかし、それで終わりではなかった。
「待って、なんだか変な音がしない!?」
「はい、森の方から!」
そうして振り返った森…いや、そこにあったはずの森は、姿を消していた。
そこに姿を見せたその巨獣。その巨体が全てを押し潰し、その口から億万度の炎を吐くという最悪のゾンビ・クリーチャー。ゾビーモスだった。
「あと少しで儀式が終わるというのに、コロリヴァイアサンどころかゾビーモスまで…!なんという事なのだ!」
「まずい、来ちゃう!」
突如としてコロリヴァイアサンが水球を、ゾビーモスが火球を互いに向けて吐き出す。それはぶつかりあい、アリスたちの頭上で大爆発を起こした。
「きゃぁ!」
神の力の衝突に、全てが吹き飛ばされていく。
「あ、皿が…!」
爆風により、皿が吹き飛んでいく。アリスは駆け寄り、皿をキャッチした。
「皆様、大丈夫ですか!?」
「どうにかなってるー…」
「はい、なんとか…」
その瞬間だった。天から光が降り注ぐ。
「ま、眩しいぞ…!」
「ま…まさか、あれって!嘘でしょ!?」
「あ、あれは…そんな…!」
爆風の向こうから差し込む光。煙が晴れ、その正体が明らかになっていく。
水色の肌に、黄色のヒレ。そのエラからは翼が生え、その頭上には黄色い輪を冠した神のサカナ。最凶のクリーチャー…カインエルだった。
"繧上◆縺励き繧、繝ウ繧ィ繝ォ"
「何を話しているのか全く分かりません!」
「ハカセー!そんなんでどうするのよー!」
「待って!これを…」
そう言ってマリアは機械を取り出した。
繧上′縺薙◆縺。
縺九∩縺ョ縺。縺九i縺薙s縺ィ繧縺イ繧阪a縺吶℃
繧上◆縺縺ゅ↑縺縺ィ繧√k
「えっと…なになに…?」
"愚かなりし我が子どもよ
お前たちは神の力で世界に混沌を広めすぎた
だから私はお前たちを止める"
「神の…力…」
「クリーチャーの事でしょうね。昔は神の恵みとか言われてたみたいだけど、本当だったのね…」
「おお神よ…どうか静まりたまえ…!」
"ゾビーモス。コロリヴァイアサン。この世界を浄化せよ"
その言葉と共に、再びコロリヴァイアサンたちが動き出す。

そんな…ここで私は死ぬの…?
なんかもうよくわかんないよ…助けて…!


第1部 完
最終更新:2022年01月13日 12:55