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『転校生(デウス・エクス・マキナ)』
番長小屋にて行われる、番長陣営決起集会。
集まった少女達はそれぞれ魔人能力を披露し自分は何ができるのかをアピールしていく。所謂自己紹介だ。
今もまた1人の人物が壇上に上がっていた。尤も少女達の集会には似合わない縦ロール髭を生やしたおっさんというのが気になるが。
「オレの名は怒璃瑠 陸土(どりる らんど)。能力名は『DO☆土☆怒璃陸土』――穴を掘る能力だ!」
彼がそう宣言した瞬間だ。髭の縦ロールが唸りを上げて回転する。その姿はまさしくドリル!
それだけではない、ドリル髭は一瞬にして地面に届かん勢いで伸び――いや、それどころか地面を貫いていく。
ぎゅぃぃぃんという掘削音と共に掘り返されていく土。だが現れたのは大量の土だけではない!
土に紛れて屈強な体を持つ男性が穴の中から姿を現す。何より特徴的なのはツインテ縦ロールのその髪型だ。
「ワシの名は怒璃瑠 盛場(どりる もば)だ。能力は『I掘るマスター~穴掘って埋まってますぅ~』……どういう力かは、見れば分かる」
言うが早いが盛場のツインテ縦ロールが巨大化! それだけではなく、鋼鉄のドリルとなって回転を始めていた。
男が「ふん!」と力を込めると縦ロールドリルは頭から分離し、その辺をぎゅいんぎゅいん飛び交う!
超攻撃力のドリルを飛ばすことによる広範囲殲滅攻撃――これこそが『I掘るマスター~穴掘って埋まってますぅ~』である。
「オレの能力でベンチまでの穴を開け――」
「そこから飛び出したワシが殲滅ドリルで強襲する」
「「これぞ、まさに【絆】の力!!」」
がっしりと腕を組むむさくるしい男2人。そんな彼らの前の地面がもこもこと盛り上がったかと思うと、そこから小さな人影が飛び出す。
ジャージを羽織ったスク水少女。正統派金髪ツインテ縦ロールが男達とは違い実に似合っている。
「そして、この私、怒璃瑠 萌絵がドリル嵐から逃れた敵をずばっと奇襲!」
なんという完璧なコンビネーション。実際、3人は素晴らしく息の合った様子でポーズを決める!
「「「我ら、ドリル三銃士!!!」」」
ババーン!
「決まった……!」
「あー、陸土さんに盛場さん。申し訳にくいんですが……」
「ぬ?」
「今回、【絆】はレギュレーション外なんですよねー」
「な、何ぃ!? しかし、前回のハルマゲドンでは確かに……!」
「虎が……ね。虎はいけない、と私達は学んだのですよ」
「くそぅ、虎め!!」
なんたることか!
ドリル三銃士のうち、陸土と盛場の2人は戦線を離れることになってしまった。
だがしかし、
「陸土……盛場……! あなた達のドリル魂(スピリッツ)、私が受け継いでみせるわ!」
「へっ、あんな小さかったお嬢が言うようになったじゃねぇか……!」
「うむ。……相変わらず、一部は小さいままではあるがな」
「なななな、何を言ってるのか分からないわよ!?」
ドリル魂のある限り、ドリル三銃士は不滅である!
ドリル三銃士、永遠の螺旋(エターナル・スパイラル) ~完~
「いやいやいや、勝手に完結されても困る」
壇上から降りて小芝居を始めたドリル三銃士と入れ替わるように上がった少女の名は意志乃 鞘。
破都宮から依頼を受け妃芽薗に潜入した希望崎学園ヒーロー部の部長である。
彼女が受けた依頼の内容は、友人を助けてくれないかというもの。そこで破都宮陰命が所属していた番長陣営へと参加したのだった。
……それに、事件の裏を探るならどこかに属するのが一番いいからな。
鞘は妃芽薗に潜入してからずっとピリピリとした緊張感を肌に感じていた。
いつ戦いが、殺し合いが起こってもおかしくない雰囲気。過剰なまでの敵対を続ける生徒会と番長。
ハルマゲドンが起こるというのだから、これは仕方ないことではある……とはいえ。
――どうも裏に怪しいものを感じる、な。
事件に関係ない第三者の視点から見てみると、そこかしこに当事者以外の悪意が見え隠れしていることが分かる。
仕組まれたハルマゲドン……そして、黒幕の思惑とは。
そういったことを調べる為にも彼女は番長陣営に所属することを決めたのだ。
……さて、しかし今は目の前の問題だ。
問題という程でもないが、鞘は番長陣営の面々を壇上から見下ろしながら思考する。
基本的には学園の生徒で構成されている番長陣営――この点では生徒会陣営も同様である――において部外者というだけで、訝しんだ目で見られるのは当然であろう。
そんな彼女らに対してどのように挨拶すればよいか、しばらく考えてから……結局いつも通りの自分でいこうという結論に達した。
「私は意志乃 鞘。――“転校生”の『ヒーロー』だ」
いつも通りの自分。ヒーローであることを胸を張って宣言する。
彼女のヒーロー宣言を聞いた者は大抵呆気に取られるか小馬鹿にしていた。厳しい現実にはヒーローなんていないことを知ってる者にとっては、ヒーローを名乗る鞘は実に滑稽な姿に映るからだ。
だが、妃芽薗の少女達は違った。
「“転校生”のヒーロー……!」
「“転校生”がいるなら、私達は勝てるわ!」
「まさに救世主――ヒーローよ!」
……む?
さすがに鞘も反応がおかしいことに気づく。そもそも、彼女らはヒーローの部分より転校生に反応していないだろうか。
まいったな……。
希望崎学園からやってきたという意味で転校生を名乗ったが、もしかしたら最強無敵の上位存在『転校生』と勘違いされている節がある。
「あー、ぬか喜びさせて悪いが――」
誤解は早めに解いた方がいい。そう考え、再び口を開く、が。
……なんだ?
喋るのを止め、自分の手を確かめるように見る。
体の奥底から湧き上がってくる力。それも生半可なものではない。
まるで自分が上位存在に作りかえられていくような――
――まさか!?
そのまさかであった。
仲間達に転校生の助っ人ヒーローという認識をされたことで、鞘の魔人能力『HERO DESTINY』がそれに相応しい力を彼女に与えたのだ。
いや、しかし……と鞘は首を横に振る。
そもそも何故こんな勘違いが起こるのか。何故彼女らは転校生が手助けするという状況を疑問に思わないのか。
その問いを、ぶつける。
「それにしても、君たちは転校生が味方するという状況を随分あっさりと受け入れるのだな」
「前例がありますから」
そう告げた時宮遅過が続けて口にした少女の名は黒姫音遠。転校生でありながら、妃芽薗学園の風紀委員を務める電撃使い。
彼女だけではない。竹取かぐや、桂あJ素――前回のハルマゲドンでは3名もの転校生がどちらかの陣営に属し、戦いを繰り広げたのだ。
そして、転校生がいるのは前回だけではない。
「それに――今回もいますから」
遅過の視線に釣られて、鞘もそちらを向く。
そこに居たのは、
「な――っ!?」
あまりにも予想外の人物。
――未来探偵紅蠍。
スズハラ機関に属する仮面の十三人(マスケーラ・サーティーン)のひとりである。
視線を受けた紅蠍は軽く片手を挙げて挨拶すると、避けるように視線を逸らす。
……今回の事件、スズハラ機関が関与しているのか!?
思わずそんなことを考えてしまうが、鞘はすぐに自らそれを否定する。
仮にスズハラ機関が関与しているのであれば、紅蠍がどこかの陣営に属して状況を動かすなどというあからさまな手は打たないだろう。
では何故?
考えてみるが、どれも憶測の域を出ない。
……結局のところ、この場では受け入れるしかないのだ。
紅蠍も、黒幕の思惑も、この先のハルマゲドンも――。
――ヒーロー補正だけで、転校生の域まで踏み込んでくるか。
様々な手段で人工転校生を作り出していたスズハラ機関が、個人の一能力で同様の事例を成し遂げたことをどう判断したかは分からない。
これより3年後――“ヒロイズム”大銀河 超一郎がスズハラ機関の手により抹殺されるという事実が、これと関わっているかどうかも分からない。
今はまだ……全てが闇の中である。
【粟島五十乃の比翼連理】
「五十乃ー、野球しようぜー」
「ごめーん、今日も用事があってー」
同じクラスのナカジマさんからのお誘いを軽やかに断りながら、私は歩みを続けます。
みなさん、御無沙汰しております。粟島五十乃と申します。
ナカジマさんは私をよく野球に誘って下さいますが、うーん、私別に野球は好きでも
得意でもないんですけどねえ……なんでなんでしょう?
――――って、そうじゃなくて!
用事です。用事があるのです。
私はいつしか慣れていた足取りで番長小屋へと向かいます。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「生徒会との最終決戦、ですか……」
「そう。近く、必ず」
くたびれたソファに腰を預けた私の嫁にして我らが番長・阿鼻狂華せんぱいの口から
語られたのは、先日の偵察戦を経ての生徒会との本格的な衝突についてでした。
動揺を見せる方、覚悟を決めていた方、どちらともいえない方など、番長グループの
方々の反応は様々です。
「言った通り、生徒会は今度こそ本気で捩じ伏せにかかってくる。ここが、正念場」
戦闘終了直後はマインド・ハックやカウンセリングによって頭をやられてしまったのか
甲子園がどうとか言っていたせんぱいも、今は立ち直り、キリリとした眼光を
取り戻しています。素敵!
「申し訳ないけど、偵察や(ピー)ちゃんの諜報で弱点を握られた私たちはもう戦えない」
あっ、その設定は押し通すんですね。
「残ったみんなで、なんとか頑張ってほしい」
「狂華くん。それならば、『番長』はどうするつもりだい?
戦場にリーダーが不在とあっては格好がつかないと思うのだが」
口を出したのは、そう、我らがヒーロー!
『転校生』の意志乃鞘(いしの しょう)せんぱいです!
きゃーっ! (狂華せんぱい程ではないにしても)かっこいいーっ!
「リーダー」
狂華せんぱいは、鞘せんぱいの発言を反芻します。
確かに、リーダーの存在は戦闘における士気に大いに関わることでしょう。
元々『臨時』の番長就任というお話だったようですし、せんぱいが御自身の後継に
誰を選ぶのか、番長小屋に緊張が満ちます。
「…………チギリ」
「なにー?」
せんぱいが呼んだのは、獅子口チギリ(ししぐち-)ちゃんという中等部の子でした。
小さな身体におっきなおっぱい! ……と、ここまでは狂華せんぱいと同じですが、
せんぱいとは異なり元気いっぱいで野性味あふれる、可愛い系の女の子ですね。
127 :あやまだ:2012/09/08(土) 12:07:42 「番長、頼むわね」
「わかったー!」
――――後継者、爆誕!!
「うん、チギリちゃんなら大丈夫じゃないかな。可愛いし」
「私もチギリちゃんなら異論はないよ。可愛いからね」
「ふんっ、あたしほどじゃないけどまあまあ可愛いから、認めてあげなくもないわっ!」
「チリーン!(自転車のベル)」
他のメンバーの皆さんも、口ぐちにチギリちゃんの番長就任を祝います。
もちろん私も文句はありません(まあ部外者なので文句の言い様もないんですけど)。
なにせチギリちゃんが温泉で狂華せんぱい相手に見せた、あの手管……!
野生で培われたであろうそれは、隙の無い狂華せんぱいすらも翻弄する至高の逸品!
「せんぱいをも悶絶せしめたあのテクで、生徒会も軽く揉んでやりましょう!
そう、揉むのです! あの日のせんぱいが如き甲高い嬌声を彼奴等にも――――」
「やめい」
せんぱいの脳天チョップ! 痛い!
その後はひとしきりチギリちゃんの番長就任を祝してのお菓子パーティをしたあと、
新しいフォーメーションの確認などをする皆さんの横でチギリちゃんと遊んでいました。
うふふ、ロリ巨乳……たまらん…………!!
「なにしてんの」
せんぱいのチョークスリーパー! 苦しい! けど背中が至福!
ぜえぜえ……そんなこんなで今日のミーティングは終わりました。
私はせんぱいに耳を思い切り抓られヒィヒィ言いながら、二人で寮の部屋へと帰って
ゆくのでした。
……んっ?
さっき、なにか引っかかることがあったような……?
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「あああーーーーーーーっ!!」
部屋に戻って二人で卒アル用の写真データを整理する最中に、やっと思い出しました。
私が引っかかっていたモノの正体に。
「粟島、うるさい」
しかめっ面で私を咎める狂華せんぱいに抗議の視線を向けます。
せんぱいもジトーっとした目で私を見つめ返します。
「せんぱい、チギリちゃんのこと『チギリ』って呼んでましたよね」
「そうね」
「じゃあなんで私は『粟島』のままなんですかーっ! 『五十乃』って呼んでよーっ!」
ベッドに身を投げ出してぎゃーぎゃー騒ぐ私を、せんぱいが呆れたような目で見ます。
ですが、これは正当な要求のハズです! 私たちは晴れて結婚したわけですから!
どちらがどちらに嫁ぐにせよ、『粟島サン』で特定できる存在など、いないわけです!
128 :あやまだ:2012/09/08(土) 12:08:01 「チギリは、だって、可愛いじゃない。素直だし。あんたと違って?」
言葉を紡ぎながら、狂華せんぱいはその瞳に挑発的な色を滲ませます。
くっ……私のことを試しているつもりでしょうか。しかし、残念でしたね!
こういうあからさまな挑発行為、以前のせんぱいなら絶対にやってきませんでした。
つまり、これはせんぱいなりに私に甘えてきてるのです! 見切ったりィー!
「ふへへへへへへ可愛いなあくっそー! せんぱい可愛いー!」
「ちょっ、ばか……!」
むぎゅうーっと抱き付くと、せんぱいは慌てた声をあげます。
中途半端な力で剥がそうとしても、それは逆効果ですよ? むしろ燃えてきます!
小さなせんぱいをひょいと抱え、ベッドのうえに転がしてマウントをとります。
「な、なによ」
「せんぱい、私たち、初夜がまだです」
私の言葉に、せんぱいは目をパチクリさせます。
困惑しているようですね。
「初夜、って……。あんたの誕生日、一緒に寝たじゃない」
「そうじゃないんですぅー!」
気持ち語尾を上げる感じで言います。
こう、抗議してる感じのニュアンスを醸し出す的なアレですね。
「結婚初夜というのは、お嫁さんが『初めて』を旦那さんに差し上げることを言うのです!
つまり、そのぅ……せんぱいの『初めて』を、私に下さいっ――――!」
間近にあったせんぱいの顔が、一瞬にして、ぼっ、と真っ赤に染まります。
あたふたと口を動かしながら、言葉にならない言葉を吐き出しています。
ふへへ、結婚してからというもの、せんぱいの可愛いところがいっぱい見れて幸せです。
そう、例の温泉での一件で私は確信したのです。
普段凛々しくかっこよく『攻め』ている狂華せんぱいは、一旦『受け』に回ると、
慣れていないためか途端に可愛く変身してしまうのです! つまり、最高なのです!!
「私の『初めて』だって狂華せんぱいにあげたんですから、おあいこですよね……?」
「うっ……だ、だけど……仕事も、まだあるし……」
「ふへへへへ、観念して私におちんちんを渡すのです……!
本気で抵抗してないってことは、せんぱいだって、まんざらでもない癖に……!」
「そん、あっ……あーーーーーっ…………――――!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ハルマゲドンの前半戦、無血の終戦を受けて、私たち卒業アルバム製作委員は
この機を逃すまいと急ピッチで卒アル製作の追い込みをかけました。
連日連夜の残業につぐ持ち帰り業務……その末に、遂に本格的な激突を前にして
卒業アルバムは完成しました。
綴じられた本の中に咲く笑顔については、敢えて言及しようとは思いません。
彼女たちを待ち受ける戦いの結末についても、あまり深く考えたくはありません。
ただ、ひとつ。
製作に携わった方々の名前を刻んだ奥付に、それはあります。
阿鼻狂華
粟島五十乃
並び舞う番いの鳥のように。
重なりひとつになった梢のように。
私たちは、ずっと一緒です――――――――! おしまい
未来探偵紅蠍の事件簿
最終更新:2012年09月08日 18:13