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生徒会SS1


累積点数 点


SS


【That's one small step for man, one giant leap for a ranger.】



その日、東京の空は蠢く暗雲に覆われていた。
街を行く人々が空を見上げ、次々と指差し、口々に叫ぶ。
それは、幾度も関東を襲った災害の一つ。
その黒雲が過ぎ去った場所は木も、草も、人も喰らい尽くされる。
21世紀も20年近くが経過しようという現代になって、まさかの事態。

――――蝗害(こうがい)。イナゴであった。



健気な少女は一人、迫り来るイナゴの群れに立ち塞がっていた。
彼女の背後にあるのは彼女が育てた緑の木々達。
そして、その木々達を共に育てた、彼女の通う学校の先輩。
少女は木々と先輩を守るため、虫除けを手に前方を睨みつける。
眼前に迫るは言い知れぬ不快な羽音を響かせる黒い虫の壁。
少女は決意していた。
例え他の何を守れなくとも、ここの木々と、先輩だけは守ってみせると。
足元に虫除けをうず高く積み、いよいよイナゴ達とぶつかる。その時。

虫除けを構えた少女の前で、それまで固まっていたイナゴが複数に別れた。



右ではイナゴの群れが木々を齧る。
左ではイナゴの群れが草花を齧る。
少女は必死で駆けまわり、虫除けを振りまいた。
だが、相手はあまりにも数が多かった。
先輩を後ろへと下がらせ、なんとか守ろうと奮戦する少女。
だが、どうしたところで少女は一人であった。
イナゴの群れは枝分かれし、上下左右、分隊となって飛び交った。
一人の少女に、それらの進行をすべて防ぐ術などありはしない。
少女は一人の無力を痛感していた。
少女は思う。
そうだ、初めからわかっていた。
一人の力では、多勢に対抗することなどできないと。
少女は虫除けを片手に、だらりと全身を脱力させていた。
少女の右脇を、左脇を、頭の上を、イナゴの群れが飛び抜けていく。
その先にいるのは、先輩だ。
少女は思う。
やはり駄目なのだ。
一人の力では、先輩一人を守ることすらできない。
少女は言った。

だから――――



「ならダブルスでいくよ」



その瞬間、少女は右のイナゴの群れと左のイナゴの群れを打ち倒していた。
一人の少女では決してできはしない二箇所同時攻撃。
それを実現したのは――――少女の一人ダブルス!高速移動による分身!
いや、それだけではない。おお、見よ!
二人となった少女がそれぞれまた分身し、二人が四人に、四人が八人!
無数の少女が手に手に虫除けを持ち、迫るイナゴの群れを迎え撃つ。
少女は先輩へと迫るイナゴ達を尽く虫除けの煙で燻し殺していった。
時間にしてそれはほんの数秒であったか。あるいは数時間であったか。

周囲にもうもうと立ち込める白煙が、一陣の風によって払われた時。
そこには、無数のイナゴの死骸を睥睨する、一人の勝者がいた。



闘いは終わった。少女は先輩のもとへと歩み寄る。
それまで呆然と見守っていた先輩が、ようやく少女に声をかけた。
少女は、先輩に勝利を報告し、笑顔となった。
自分達の育てた木々は守ることができなかった。
だが、先輩だけでも守ることができたのだから。
少女は勝利に高揚した心で、自分にお礼を言う先輩を見た。
そう、自分にとって大切な先輩を守れたのだから。
少女は先輩に恋をしていた。
だから、少女は高鳴る鼓動を抑えきれず、告白した。
戦場の跡で勝者が一人、凱歌の中で想いを告げる。

――――貴方の事が好きです、と。



「え……助けてくれたのは感謝してるけど、分身する子はちょっと……」



恋に敗れた一人の少女。
その名は片心叶実(かたうら かなみ)という。
こうして少女は失恋をした。
その経験はFSとなり、バリケードを作る精度を上げた。
これは、そんな彼女の過去の出来事。
それは、人類にとっては小さな出来事。

だが、彼女にとっては――――



玉砕戦隊シツレンジャーにとっては、大きな飛躍となるのであった。
<了>

叶実ちゃんカッコ良かったのに!カッコ良かったのに…!
頑張れ、シツレンジャー!!



【仮面セイバー寿鬼 第一話:寿鬼(ことぶき)】

――――ドン・・ドドドドドン・ドン・ドン・・ドン



「きゃあああああああああ!!!」

絹を引き裂くような少女の叫びが月夜の空にこだました。
時は2018年。
妃芽薗学園・旧校舎敷地内にて――――



夜空を漂う雲に月も隠され、闇に支配された旧校舎の裏手。
そこに少女が、身体に不似合いな分厚い本を胸に抱いて震えていた。
少女の前には2体の亡霊が迫り、今にも少女を襲わんとしていた。

「誰か……助けてください!」

少女は恐怖にかられ、悲痛な叫びをあげる。
まさに亡霊の餌食にならんとする少女の名は四之宮百合。
この呪われたハルマゲドンの舞台に召喚された哀れな犠牲者であった。
その間にも亡霊達はジリジリと四之宮へにじり寄る。
もはや四之宮の運命は風前の灯であった。

――――否。

であると思われた。
だが、この呪われた地に呼ばれた四之宮もまた、常人ではなかった。
彼女はその時、手にしていた黒い本を開いた。
それは魔導書。
かつて明るく真面目な中学生であった四之宮を魔人へと変えたノロイの本。
悪魔を召喚するというその本を、四之宮はこの土壇場で紐解いた。

「誰か……私を助けて!」


特殊能力『仲間ガ増エルヨ』発動――――!


空を流れる雲が途切れ、明るい月が顔を出した。
一筋の光が地上に注ぎ、四之宮の周囲をスポットライトのように照らす。
光の輪の中、四之宮の前に、刀を携えた少女が一人、立っていた。



「――問おう。君が僕を召喚したのかい?」



月明かりが差し込む闇夜の中で、闘いが始まっていた。
召喚された仮面の少女は、刀を構えて亡霊達へと立ち向かう。
亡霊達は新手の出現に、慌てる素振りも見せず迎撃姿勢をとる。
今や亡霊達の姿は人のそれではない。
黒く、醜く変形した全身に、針のように尖った腕。
まるで怪人と化した亡霊が口を開き、そこから粘着く糸を発射した。
しかし仮面の少女も身を屈めその糸を素早く躱し、亡霊の懐へ飛び込む。

振り抜かれたのは愛刀『花霞』!

古来、鍛えられた日本刀は魔を祓う力を持つと云う。
召喚儀式による精神消耗から立ち直った四之宮がなんとか立ち上がった時。
青い月光を受け、照らされる仮面の少女のその姿は。
鬼か、あるいは竜か。硬質化し、冷たい燐光を浮かせた手足で刀を納めた。



「僕は言祝(ことぶき)といいます」
「私は四之宮百合(しのみや ゆり)です。ありがとうございました」

闘いを終え、運命の荒波に翻弄されるように出会った少女二人。
二人は互いに名乗りを終え、互いの身の上を語り合った。
呪いの舞台に放り込まれた理由。素性。能力について。

「その本が僕を……でも、召喚できる人は限定されるのですね」
「はい、そうですけれど……あの、なにか?」
「……いや、僕の一番頼りにしている人を召喚できないかと」
「もしかして、ここから助け出してくれるんですか!」
「でも、召喚は無理みたいだね……」

――――具体的には52万9千3百点不足だ。
そうして語り合った後。
なんとか協力してこの場所から生き延びようと決意しあう少女達。
いつの間にか雲も晴れ、夜空に星が瞬いている。

「それにしても、言祝さんはお強いんですね」

戦闘に不向きで、非力な四之宮とは対極の攻撃的身体の言祝。
四之宮が述べた素直な感想に、言祝は立ち止まり、振り返る。
そして、仮面の下でにこりと笑い、力強く言い切った。



「鍛えてますから」



【仮面セイバー寿鬼 第一話:寿鬼(ことぶき)、完】
【次回、仮面セイバー寿鬼 第ニ話:陣営分け、そして別れ】

――――ドドドン<了>※続かない



【恋のキューピッド】


「恋のキューピッドって本当にいるのかなあ」

麗らかな春の昼下がり。
年頃の少女達がそこここを歩き、または座り談笑しているここは学校。
手に持っていた本から目を離し、メガネの少女がほうと溜息をついた。

「どーしたのよハルってば。また白馬の王子様でも探しているのかなー?」
「からかわないでよアキったら」

少女の名はハル。大人しい性格で読書が好きな、メガネっ娘である。
もう一人はアキ。ハルの同級生で、ハルと仲良しの元気っ娘だ。

「でもさ、ねえアキ。もしもいたら素敵だと思わない?」
「白馬の王子様?」
「キューピッド!……そりゃあ王子様も素敵だと……思うけど……」
「ハハッ!ハルは本当に可愛いねえ。
 そんなだから先輩のお姉様方に狙われるんだよ」

今日も今日とて二人は会話で盛り上がる。
主題はもちろん恋の話だ。
何せ年頃の少女達。甘いモノが大好物なのだから。

「ああ、でもさ!」
「なあに?」
「ハルがそんなに可愛いから、
 きっと神様だって天使だっていい相手見つけてくれるよ」
「そ、そんな……私なんて目立たないし、その……アキのほうが……」
「ハルは自信持ちなって!私が可愛いのは当然だし、ハルだって可愛い!」
「アキったら……ふふっ」
「ハルの読んでる恋愛小説に出てくるような素敵な恋人見つかるよ!」
「あうっ!?ここ、これはそのそんな変な本じゃないよ!?」
「アハハハ!私一言もそれが変な本だなんて言ってないよー?」
「うう……あ、そ、それじゃ私、寮に帰らなきゃ!」
「はーい。また明日ねー!」

本を胸に抱え、とたとたと慌てて駆け去るハルの背中を見送るアキ。
アキは知っていた。
隠してはいるが、ハルが読んでいる本が官能小説である事を。
近頃めっきり色気づいてきた親友を思い、アキはどうしたものかと思う。
親友の幸せを祈り、どうかキューピッドさん。早く運命の人を射止めてと。
なぜなら――――

「あの子……先輩にも後輩にもすごい人気だからなあ……
 早く相手見つけて落ち着かないと誰かに押し倒されちゃうよ」

そう。ハルは極度の鈍感であるため気付いていないが彼女は人気者なのだ。
それを一番の身近でよく知るアキは、
ハルが爛れた生活に引きずり込まれないよう、いつも気を揉んでいた。
だから思うのだ。
運命の相手を射抜くというキューピッドさん。
早く仕事をしてください、と。

「……というか、むしろあの子がキューピッドかなあ」

そこまで考えて、ふとアキは呟いた。
周囲に恋の矢を放つ天使キューピッド。
本人は、盲目であるという伝説だ。
もしかすると、恋の騒ぎを周囲に振りまきつつ、それに気付かないハル。
彼女こそ、キューピッドそのものなのかもしれない――――なんて。



「はあ……運命の人かあ……」

アキと別れたハルは、ぼんやりと歩きながら呟いた。
寮に向かう途中、弓道場の脇を歩いていると、足元に弓と矢が落ちていた。
誰かが片づけ忘れたのだろうか。
生真面目なハルはそれらを拾い、道場へ片づけに入った。

「誰もいない……」

人の居ない弓道場。
少し離れた場所にならぶ白黒の的。
ハルが今、手に持つのは弓と、矢。
恋の天使が持つアイテムと同じだ。
少し、ハルの心にイタズラ心のようなものが湧く。
特に弓道などやったこともないハルであるが――――

「どうか、私の運命の人を射抜いてくれますように――――」

構えもなにも知らないが、矢をつがえ、弓をひきしぼり、放つ!

ヒョウ――――

放たれた矢は、なんと過たず中央の的の、中心をばしりと捉えていた。

「あれ……あたっちゃった……?」
「す、すごい!貴女中等部!?高等部!?」
「えっ!?」

ハルが振り返れば、そこにはいつの間にか立っていた弓道部主将。

「貴女ならすぐにでもうちの戦力になれるわ!入部しない?するわよね?」
「え、え、ええっと……?」

弓月張(ゆみつき はる)、まだ魔人能力に目覚めぬ頃の思い出。
キューピッドの矢は、想い人の胸を射たかはわからない。
だが、弓道部の主将の胸を射た事だけは、確かだったらしい――――<了>



【花を贈ろう】




『素敵な恋の仕方を教えてください!』

放課後の、斜陽が机や椅子を橙色に染める教室で、少女が訊いてきた。

『素敵な恋、したいの?』
『はい!それで、唄子さんみたいに格好良い大人になりたいんです!』
『あら、ありがとう』
『唄子さんはいっぱい素敵な恋をしてきたんですよね?』
『そうね……』

鈴を転がすような少女の声が、私と生きてきた時間の違いを際立たせる。
真っ直ぐに見つめる瞳。指先を軽く絡め、胸の前で合わせる期待の仕草。
恋に希望しか見いだせない、純粋無垢な――――恋に盲目な少女。
恋は綺麗なだけじゃない。
けれど、今はそれでいいとも思う。若いのだから。
これから恋を経験して、大人になっていけばよいのだから。
だから、私はあえて希望を穢しもしない。煽りもしない。
ただ少し、大人からのアドバイスをするだけだ。

『昔の人の言葉でね』

教壇に軽く手をつき、体重を預けて、少女に向かって身を乗り出す。

『別れる相手には花を贈ろうって言葉があるの』
『別れる相手?……花?』
『そう。それも花屋でしか見ないようなのじゃなくて道端でよく見る花』
『……?……どういうことですか?』
『そうすればね。
 別れた相手はその花が咲く季節が巡ってきて、
 その花が咲くのを見るたびに、
 貴女のことを思い出すだろうから――――って』

なんとなく納得したような、不満のような、少女の表情。
眉根をよせて、なんとも言い難いと文字で書かれているかのような顔だ。

『なんだか気持ちはわかりますけど……ちょっと暗い話ですね』
『そう思う?』
『はい』
『そう……』
『それに、私は別れるときより、付き合う時のことが知りたいんです!』

予想通り食い下がってくる少女に、私はうんうんと頷いてやった。

『そう……だからね。
 良い人を見つけたら、できるだけ一緒に色んなものを見るの。
 特別に気合をいれなくたっていいから。
 いつも見かける風景の中で、いつもするようなことを一緒にする』
『あ――――』
『そう。
 そうすれば貴女も、お相手も、ちょっとしたことで恋人を思い出せる。
 一緒にいるときでも、いないときでも、相手のことを思っていられる』
『わあ!なんだか素敵ですね!』

話をする内に、教室の外の夕日は、橙色から濃い赤色に変わっていた。

『そうですね……そっか。やっぱり緊張してばかりじゃ駄目ですよね!
 ありがとうございました!私も頑張ってみます!』

そう言って頭を下げ、勢い良く腕を振りながら教室を出て行った少女。
若さの象徴とでも言えそうな、瑞々しい輝きを全身から放っていた。



その少女の墓代わりの瓦礫に、咲いていたツツジの花を供える。
妃芽薗学園旧校舎跡のハルマゲドンの犠牲者には、瓦礫しか墓標がない。

「若い子ばかり先に死なせているわけにはいかないね。
 大丈夫。来年の春に、またツツジが咲いたら供えにくるよ」



<了>


唄子さんのかっこよさ、元気な少女のかわいさが短い中に詰め込まれていて、
読んでいてとても楽しい気分になりました。
それだけに、最後の唄子さんの呟きが重く、切ないものに……。
かっこいいよ唄子さん!




【真夏の夜の夢】


    • [十字架(罪)]--


    • 人は産まれながらに十字架(罪)を背負う--

何処かの神様の崇高なる御神言(オコトバ)だったか。

なら………。

存在そのものが"罪"とされる、私達"魔人"はなんだろうか?

人間が十字架(罪)を一つ背負っているなら、魔人は一体幾つの十字架(罪)を背負ってるのだろうか?

この難問を、君ならどう応えてくれるだろうかな………。

梢………。



    • [地下墓地(カタコンベ)]--


地下墓地(カタコンベ)、それは妃芽薗に眠る"悪意"そのもの…………。

この学園が創設され、現在まで脈絡と受け継がれて来た"血腥い記憶"。

そして------

数え切れない十字架(罪)の数…………。

「やれやれ」

溜め息が漏れた、私は確か寮室に居たはずだ……。

妃芽薗に来てからと言うもの、部分的に記憶が欠落してたり曖昧だったりするな。

「まるで夢遊病だな」

そう------

確かに私は寮室に居たんだ、そこへ………

『災禍』

"彼女"に呼ばれたんだ。



    • [亡霊(梢)]--


無限に思える十字架の一つ、其処に"彼女"は佇んでいた。

歩きながら思考する------

あれは何時だったか、私が"魔人"に覚醒した頃だから………

「会うのはかれこれ八年ぶりかな、梢?」

『細かく言えば八年と三ヶ月と五日かな……』

死人は年齢(とし)取らないとはよく言ったものだ。

それにしても、ここは妃芽薗の"贄"となり、無念の内に死んだ少女達の墓所、なら、この梢は一体………。

『顔に出てるよ災禍、相変わらず解り易いね』

クスクスと笑う梢に、私は戸惑いを隠せないでいた。

だって私は--------

梢を殺した"張本人"なんだから。

「梢は…………」

恨んでるよね、私のこと………。

『災禍は、何も無かった私に"活きる"意味を教えてくれた、そんな貴女を怨むことは出来ないよ………』

梢は昔と変わらず優しくて、妃芽薗に来て"初めて"安心出来た、気付けば私は泣き崩れてしまったのだ--------

今まで我慢してた"色々"が激流となり、涙と共に溢れ出して止まらない。

そんな私を、梢は優しく抱きしめてくれたんだ--------

"亡霊"である彼女は不思議と"暖かった"--------







落ち着きを取り戻した私は、改めて梢に疑問を投げ掛けてみた。

「ここに来てから数え切れない位の怨霊や亡霊を見たわ、その子達は全員"妃芽薗"の生徒だった……」

なら………

「この地下墓地の特殊な力場で造られた、私の想像が産み出した実体を持つ幻影か………」

噂や怪談が独り歩きして骨組みとなり、恐怖は糧へ、徐々に血肉を付け怪物と生る、その類いか------

『災禍って昔からデリカシー無いよね』

梢は少し残念そうに微笑し、私の疑問に応えてくれた。

『答えは至極単純……』

そう------

梢は"あの日"から、ずっと傍で私を見守ってくれてたんだ。

『災禍は見た目より打たれ弱いんだから、私が付いててあげないと』

「うっ…………」

何か、面目無い……。



    • [終夢(目覚)]--


あの日以来、夜な夜な私は監視官の目を盗んでは地下墓地に赴いている。


「こんばんは、梢」


そう、彼女に逢う為だ。


『こんばんは、災禍』


再会を果して一週間、宛ら私達は悠久の刻を越え廻り逢えた織姫と彦星の様。


私達は互いを求めた。


激しく。


情熱的に。


それは宛ら"真夏の夜の夢"。


だが--------


夢は、必ず終わる………。




『災禍』


「ん?」


『私の為に』


死んでくれる?


「………………」


良いよ、梢。


『ありがとう、災禍』


でも………。


『でも?』


やり残した事が有った、すっかり忘れてたよ。


だから------


「やっぱ死ねない」


私は、私がやるべき事を思い出した。


この数日間、それは正に"夢"の様な日々だった。


だから、私は"夢"から醒めないといけない。


この"安寧"は私の"妄想"、"実現"し得ぬ"現実"。


"過去"に怯え"将来"を拒絶してた"私"とはさよなら。

『"夢"から醒めたら、もう逢えないかもしれない』


それでも--------


"悠久"の先再び"廻り逢う"事も有るだろうさ。


そうね。


でも残念、私としては此処でこのまま災禍と過ごしたかった--------


ごめん……。


謝ってばかりね災禍--------


ごめん……。


謝るのはもう御終い、さ、目を覚まして、災禍---------


うん。


災禍------


ん…………


『大好きだよ』



    • [手紙(告白)]--


目覚めると寮室のベッド上だった。

窓からは月明かりが挿し込み、時計は既に深夜を回っていた。

私は監視官の目を盗み、地下墓地へ向かった。

いつもの場所(墓)に----------

「居ない………」

やはり、あの数日間は"夢"だったのか?

ん?

「手紙?」

梢が腰掛けてた墓、其処には花柄の綺麗な便箋が置かれてた。



    • 親愛なる災禍--



災禍と過ごせた数日間、生前の頃より私は充実していたでしょう


ありがとう災禍


そして--------


さよなら


別れても何時か廻り逢うと信じて


梢より------



文面の最期に綴られた告白。

貴女と添い遂げたかった、と----------






この数日後、私は待ちに待った"死刑宣告"を受けるのだった。



【無題】


信じていた仲間は全員死に、敵の銃火の嵐がまさに襲いかかろうとしていた。
銃を扱う術すら知らない少女、煉獄夏辺那にとってそこは死地そのもの。
数多の弾丸のうち1つが彼女の片眼に地獄の炎を叩きつけたとき、夏辺那の脳裏に浮かんだものは強者の存在に対する怒りであった。

内戦に巻き込まれ、両親を失った夏辺那はとある傭兵部隊に拾われた。
女性の傭兵だけで構成されたその部隊は歴戦の勇士というに相応しい腕前を誇っていた。
傭兵というこれまで会ったことのない人種に戸惑いを覚えた夏辺那であったが、彼女たちの気風の良さに徐々に心を許していった。
戦いに加わることはなかったが、食事の準備や洗濯、医療行為など自分にできることで貢献しようと夏辺那は努力した。

夏辺那が部隊に拾われて数年後、ある依頼が部隊に舞い込んだ。
普段の作戦となんら変わらぬありふれた依頼だったが、その依頼は部隊と夏辺那の運命を変えることになる。
単純に言えば、傭兵部隊の存在を疎ましく思った者たちが仕掛けた罠だった。

金にものを言わせた最新鋭の装備の前に仲間たちは次々と倒れていく。
これまで部隊が屠ってきた数々の兵士のことを考えれば、この結末は因果応報と言えるかもしれない。
しかし、目の前で繰り広げている光景はおおよそ戦闘と呼べるものではなかった。
強者による一方的な虐殺。
勝つことが至極当然であるかのように振舞う敵兵士の表情は、夏辺那がこれまでに見たことのない醜悪なものであった。

―かつてアインシュタインは言った、「神はサイコロを振らない」と。
―もしも死ぬ前に願いが1つ叶うならば・・・・・・
―「神よ!サイコロを振れ!」

叫んだ者の名は、確実を許さない魔人、煉獄夏辺那。



【脱衣ポーカー】



――――力が欲しいか。敵を打ち倒す、大きな力が。

「……僕は……僕は力が欲しい!」

その瞬間、言祝(ことぶき)は全裸になった。

* * *

「ポーカーでもいかが?」

始まりはレディー・ジョーカーのその一言だった。
全国に広まる踊り場の鏡の噂。それに引き寄せられるように集められた少女達。
見ず知らずの者達が集まり、突如として陣営を分けられ、命懸けの闘いを行う。
ここは妃芽薗学園・旧校舎敷地。またの名を第二・七指定区域。
呪われた、異常の地であった。
そのような環境において、まっとうな精神を保てる少女は数える程度であった。
このような異常事態に落ち着いていられる人間のほうが、むしろ異常であった。
だが、そんな常・異常を問答している場合ではない。
この場所は、そんな状態でありながら、自分が所属する陣営を勝利に導かねばならない。
なぜならば、陣営の勝利のみこそが、この呪われた地から脱出する術なのだから。
そうした理由からか――――この状況下で落ち着いている少数派、ジョーカーは動いた。
曰く、気晴らしにポーカーでもしないか、と。
闇のギャンブラーとして名を馳せるジョーカー。
このような状況でもトランプを肌身離さず持ち歩いていた。
自陣の勝利のために、まず味方同士の心を和らげ、出来るなら結束を強めよう。
それがジョーカーの狙いであった。
そしてポーカー勝負の幕が開ける。

* * *

「では、次は僕が」

ジョーカーは強かった。
当たり前である。生粋のギャンブラーと、そこいらの女子高生達。勝負にならない。
ポーカーという運の要素が強い勝負で、それでも勝利を重ねるからこそジョーカーだ。
辺りには悶える着ぐるみや、95%の賭けに敗れた者や、敗者達が連なっていく。
次々と勝利を重ねるジョーカーに、続いて挑んだのは言祝であった。

「どうぞ」

言祝は配られた手札を見る。ブタである。運が悪い。
これはどうしようもないだろうかと仮面の下の表情を曇らせる言祝。だが、

「そろそろ私と交代してくれる子はいないのかしら」

ジョーカーの余裕の笑みを見て、ふと普段から世話になっている『英雄』を思う。
あの人ならば、こんな勝負でもファイブカードなど最高の役を作って勝利するだろうと。
そしてまた思う。自分もそんな風に勝利をおさめられる人物になりたいと。

――――勝ちたい。

言祝は強く願った。この前哨戦に勝てずして、この後のハルマゲドンを勝てるものか。
実際のところ、ジョーカーは味方なのでそのように考えるのも変な話ではあるが、

――――勝ちたい!

それでも、言祝はそう願わずにはいられなかった。
その時である。

――――力が欲しいか。敵を打ち倒す、大きな力が。

不意に言祝の頭に、そんな声が響いた。
誰の声であろうか。疑問も湧いた。だが、それ以上に、勝利への渇望が勝った。

「……僕は……僕は力が欲しい!」

言祝がそう言い終わった瞬間である。

――――では、力を授けよう。お前の服と引き換えに。

言祝(ことぶき)は全裸になっていた。
――――はっ!?一瞬、唖然とする言祝。
ジョーカーは眼前の事態にもポーカーフェイスである辺り、流石だった。

「くっ!……でも、ドローだ!」

そして言祝もまたその瞬間は勝負師であった。
訳の分からない事態に陥ったが、よく考えてみれば災難はいつもの事である。
それよりも、今は勝利だけを目指して――――

「勝負!僕はワンペアだ!」
「私はフォーカード。私の勝ちね」

あっさりと玉砕したのであった。

* * *

「あっはっは。面白いものが見れた」

一連の事態を遠巻きに、眼帯の少女、天和七対子(あまわ なつこ)満足気に言った。
言祝の衣服を剥いだ張本人である。天和の能力は遠距離で他人を全裸にするものである。
結果的に、防御とFSが0となることでワンペアを作らせることに助力はしたが、
結果的に、だからといって言祝がジョーカーに勝てるわけでもなかった。
しかし、天和は自分の行いが無駄ではなかったと確信していた。
何故なら、ポーカーが始まった目的、結束の強化には貢献できたに違いないのだから。

「でも、これであの子たちも裸の付き合いってやつができたでしょ!」<了>



【 白河 Zweiの人間体験その1
~斗羅 宇魔子は穏やかに暮らしたい~】


(このSSは白河はじめの学園での日常をゆんるりゆりゆりと描くSSです。
完結に関する過度の期待はしないでください。)


―妃芽薗学園・早朝―

妃芽薗の朝は早い。全寮制で有るこの女子校では悠長に寝坊を仕出かすもの等
そうそういない、それぞれが朝食までの時間、思い思いの早朝を過ごす。
ガ―ディングに水をやる者、武芸に勤しむ者、清掃に心がける者、ニンジャ。
それぞれが思い思いの朝を過ごす。そんな裏側で一つの戦いに決着がつこうとしていた。

そこは暗く薄汚れた小屋であった。

「シュシュシュ。シュシュシュ。」
独特の呼吸音を放ちながら、迫りくる白い影に、白河はじめは選択を迫られていた。

即ち、

―右か左か―

それは『カウンターラビット』ペィン=サンへの対応。

―右だ。―

白河はじめが反射的に右へと舵を切ったその腕は、スカッと空を切った。

妃芽薗学園ウサギ小屋在宅のペィンさん(三才♂)は、とぉうとかけ声をあげ
頭から突っ込んできた白河を華麗な左サイド・ステップですり抜ける。
確保に失敗した白河はじめは、そのままツッぷし動きを止めた。ナムサン!

ヒャハハー!
これで彼の行く手を防ぐものは何もなくなった。
ペィンさん(三才♂)は歓喜に身を躍らせながら、脱兎のごとく
見えない未来に向かって駆け抜ける。そう目指すはウサギ小屋唯一の出口だ。

だが、その快進撃は自ら急カーブをかけ、現れた少女の懐に飛び込む
ことで終わった。少女の手にはなんということだろう、アレが携えられていたのだ。

ヒャハー!餌だー
ぽりぽりぽり、自由への渇望を忘れ、愉悦のまま『ニンジン』を齧るペィンさん
なんという畜生道。まさに世紀末的生きざま。

「確保完了。ちょっと大人しくしていてね」
扉の向う側にいたのは血色の悪い一人の少女だった。長髪を後ろ結びにし、
地味で近寄りがたい印象を与える。懐に飛び込んできた飼育対象を優しく
ひとなですると小屋で頭からつっぷしたままの白河を冷たく見やる。

「無様。」
その声はまさにツンドラ大陸、ただ只管冷たかった。
その声に何かを感じたのか白河のわたわたと手だけが動き、大きめの立派なお尻を
押さえる。
ペィンさんがもし言葉をはっせれたなら、こう感想を持ったかもしれない。
―へへへ、ねぇちゃん、ええけつしてまんな―
あえていうならば、パンZweiまる見えであった。

「このこたちが心許すのは私だけ。貴方では力不足。永劫に。無駄無駄」
兎を撫でながらぼそぼそと呟く陰気な少女。
白河はゆっくりとした動作で起き上ると彼女と向かい合う。

「いやさっきからニンジンだけでなく、ムッチャ斗羅さんの指も噛んでますけど
その兎。」



なんというKY。しばしの間。斗羅さんと呼ばれた少女は

「…これは愛情表現。それにペィンさんはモヒカンザコだから…しょうがない。
…もう帰って。いつも通り私一人で掃除や世話は全部やるから。貴方は邪魔なだけ」

そう切り返した。
そういいつつも彼女は扉の中にはいってこない。白河が中にいるからだ。
その距離はきっちり3m。それ以上は彼女は決して自分に近寄ろうとしない。
それが同業としてコンタクトを取ろうと色々試みた白河のこの一週間の『実績』
だった。冷たい『拒絶の意志』だけを彼女はこちらに伝えていた。

「はい。すいません…斗羅さん、後はお任せします。」

傍目から見てもわかるがっくりさで白河は白旗を上げ、すごすごとウサギ小屋
から引きさがりにかかった。斗羅と呼ばれた少女は後ずさって、それを
睨むように見送る。それはなんとも奇妙な風景だった

そう、あの少女を知る者が見れば、驚愕と奇異の念を抱くだろう。―この一部始終
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
あの斗羅 宇魔子が他人とまともにコミニケしているなんて、一体どんな異常事態なんだと。

†††

先天性魔人である斗羅 宇魔子は知っている。
自分が最初から致命的に間違ってしまっていることを知っている。

最初からというのは、この世に生まれてきてしまったことではない。
致命的な間違いは、それよりも、もっと前
備わった先天性の魔人能力からして誤ってしまっていて、まはや
取り返しがつかなくなってしまっていると今ではもうそう考えてしまっている。

彼女の能力は一種のテレパス&テレパシー能力だ。
対象の心を読み、刺激することで特定の感情を引き出せるというもの。
問題はそれがヒトの地雷部分。相手の心の奥底、一番触れてほしくない、
直視できないものしか引き出せないことであり、
そして、それを”つい”相手に反射してしまう性質も備えてしまっていた。

たぶん、この能力は元々用途が違うのだろう。
例えば相手を直観的に深く理解したり、悩みや問題点を指摘して導いたり
キュピーンとか宇宙空間で魂の会話を行ったりとそういう風に使われるべき
そんな正の方向性を『期待』されて備わった能力なのだろう。そんな

だが自分の能力は負の連鎖しか起こさない。怒りしか。
期待はずれの欠陥品なのだ。人間社会に対して只管、不適合なのだ。
既に終わっているのだ。製品規格外としてその生涯を。
だから彼女はヒトとまじり合うことをもう望まない。

学園でも自身の能力で人払いすることで彼女は動物たちといる小さな自分の
居場所を確保した。
邪魔な人間(同僚の飼育委員達だ)にはこの居場所自体トラウマを想起させる
キーになるようしてある。もう近寄れない。
そして彼女らがどう壊れようが宇魔子には興味がなかった。


だが、奴が来た。そして、追い払おうとしたが失敗した。
何故かアイツだけ上手くいかなかった。

≪白い花が咲く小さなお花畑≫

トラウマのビジョンからしてよくわからなかった。なんだ≪アレ≫は
トラウマのキーとなる言葉も上手く紡げない。
どうしていいか判らなかった。数多くの人間を覗いてきた彼女にしても
かなりレアなケースだったのだ。

そして
能力で彼女の中を覗きこんだ瞬間、彼女もこちらを見た。

気取られた。自分はそう直観した。そして今も確信している

その上でアイツは

――
―――と、斗羅さん…あの、よければ飼育のコツ教えて貰っていいですか?

普通に話しかけてきやがった。

爪をかむ。
なんでアイツのトラウマが上手く言語化できないんだ。
こんなの最近では一度もなかったのに
しかも見えたビジョンが『お花畑』とかフザケてる。トイレの隠語か、黄金体験か
違う違う…思い返せば何か人影が映ったような…なんだアイツは…
なんだあの映像は…このままではこのままでは…私の居場所が…

「…なんとかしなくてはなんとかしなくてはなんとかしなくては、
なんとかしなくてはなんとかしなくてはなんとかしなくては、
なんとかしなくてはなんとかしなくてはなんとかしなくては、
なんとかしなくてはなんとかしなくてはなんとかしなくては…」

只管同じ言葉を繰り返し始めた彼女の瞳に今まで以上に
危険な光が宿り始めていた。


†††

寮への道をとぼとぼと戻る白河。
空を見上げる。まだそれほど熱くはなく、夏の朝の日差しは心地よい。

「うーん距離感が、なんだかなぁ」
何気にぼやく。
その時には既に彼女は背後から迫ってくる気配を感じていたが、取り合えず
見知った”気配たち”だったから危険はないと放置しておく。
そして背後から左右同時に腕を取られ、両腕とも拘束されている形になった。

「とととと」
白河は、たたらを踏むふりをして支点をキープ、絶妙にバランスを取る。
そして倒れないよう両脇からの勢いを調整しヤジロベーのようにぐらりと
大きく揺らいだ。彼女はわりかし長身で有るため、反動で腕に取りついた
二人も若干振り回されることになったが、そちらも慣れたもののようで
まるで気にしていなかった。

「ういーす、はじめちゃん」
「どうかしたかね、悩める青少年」
先ほどとは打って変わって賑やかで華やかな印象の両名。二人は彼女の同級生。
名を神足跳瑠と夢見崎ロルラという。

                            (その2へ)



【とある少女の恋物語】



彼女は愛子といったろうか。恋子だったか。あるいは花子かもしれない。
黒髪だったか、茶髪だったか、眼鏡をかけていたか、背は高かったか。
どれでもあったかもしれないし、どれでもなかったかもしれない。
どこかのだれか。そんな言葉がぴったりな少女がいた。

彼女はごく平穏な日常を、あるいは苛烈な日常を送って育った。
まだ何も知らない無垢な頃。幼馴染の少女と将来を誓う、そんな日常。
恋愛物の物語を読んでは、自分の恋を夢想する、そんな平常。
同性が恋愛対象であるという以外、まさしくスタンダードな生き様だった。


* * *


「ハイッ!***ちゃんにコレあげる!」

幼稚園に通っていた頃、彼女は手作りの首飾りを幼馴染に贈った。
幼馴染の少女は破顔して、それを首にかけて、一緒に笑いあった。

「***ちゃんだーいすき!しょうらいは***ちゃんとけっこんする!」
「わたしもー!」

その当時は、世間を知るには、少女達二人共、幼すぎた。


* * *


小学生になり、彼女はたくさんの友達をつくった。
幼馴染の少女も、たくさんの友達をつくった。
男の子の友達も、たくさんできた。
自分の住む世界を広げ、彼女は自分の恋愛観の『異常』に気づいた。

「***ちゃん、また明日ね!」
「じゃあね***さん!***君、一緒に帰ろー」

彼女は一段、大人への階段を登った。


* * *


中学生になり、彼女は幼馴染の少女と別の学校へ通うことになった。
家が近いため、道端で出くわしたり、休日に遊んだりはする。
しかし、会う時間は確実に減った。
けれど、それでよかったのかもしれない。
彼女は恋愛小説を読み、フィクションの恋物語に浸りながらそう思った。

ある日、彼女が二階の自室の窓から外を見下ろすと、幼馴染を見つけた。
幼馴染の少女は、楽しそうに男の子と並んで歩いていた。
彼女はベッドに潜り込み、無言で枕に顔を埋めた。
その日以来、彼女の休日の読書時間が長くなった。


* * *


「うっそ……***ちゃん!?」
「あれ!?***さんも妃芽薗!?」

再会は唐突だった。
彼女と、なんとなく疎遠になっていた幼馴染との再会は、高校。
その日から、二人はまた一緒に同じ学校で生活することになった。

「***さん!また一緒によろしくね!」
「……うん。……よろしくね!」

高鳴ってしまう自分の胸が情けないと、彼女は心底、思った。


* * *


それから一年――――
女学生の園で、彼女は幼馴染と不自由ない生活を送った。
移転したばかりという綺麗な妃芽薗の学舎。綺麗な先輩達。
そしてそこには、彼女が求めてやまなかった、『異常』への理解があった。
本の中でしか起きないと思っていた恋愛が、現実でも起きていた。
彼女は強く勇気づけられた。

綺麗な月が空にかかる夏の夜。
貧しい少女の願いを叶えるという女神像の建つ、泉のほとり。
彼女は幼馴染と水面を眺めながら、語らっていた。
この日まで、彼女はゆっくりと幼馴染にアプローチをかけていた。
学園で貰った勇気を、振り絞り、優しく迎えてくれる幼馴染へ注いでいた。

この日も、夜まで付き合ってくれる幼馴染に、彼女は胸を熱くしていた。
そして、彼女は気づいた。幼馴染が首にかける、簡素な首飾りに。
それは彼女がかつて幼馴染と将来を誓った時の、あの、約束のペンダント。

「***ちゃん……キスしてもいい?」

彼女の口から、思わず言葉が零れていた。


* * *


何を言ってしまったのかと、彼女は酷く赤面した。
確かに、自分が幼馴染に向けるこの思いは本物だ。
高校生になり、自分の恋愛観の『異常』にも向き合えるようになってきた。
同じ思いを味わってきた先輩達から、アドバイスも貰ってきた。
そしてそれら全てを、穏やかに、けれど確実に幼馴染に向けてきた。
それらは確かなことである。彼女はそう思った。

だが、それでも彼女は、現在の二人の関係性が崩れるのを恐れた。
もしも幼馴染に拒絶されてしまったら、二度と二人一緒にはいられない。
そう思うと足がすくみ、どうしても今まで最後の一歩が踏み出せなかった。

これまでも何度か告白をしようと思ったことは、あるにはある。
だが、いつもその直前に何かが邪魔をして、成功することはなかった。
いや、彼女自身が何かのせいにして、告白から逃げていたのだ。

そんなことをずっと続けて、微妙なバランスを保ってきたのに、どうして。
彼女の思考は加熱し、高速で回転する。
火が出そうな程に顔面が熱く、視界も赤く歪んでいるように感じていた。

――――ああ、どうして私はあんなことを口走ってしまったのだろう。
――――目の前が真っ赤だ。顔も真っ赤だろう。
――――二人きりなのに、水面に白フードの女の子が見える気さえする。
――――それにしても、言ってしまったものはもうどうしようもない。
――――***ちゃんの反応は……?

無限に思える程の刹那の時間を過ごし、彼女はついに顔を上げた。
自分の告白を聞いた幼馴染の返答を聞こうと、意を決してのことだった。
そして顔を上げた先、彼女の視界の中の幼馴染は――――いなかった。

「え……!?」

彼女の口から、再び思わず声が漏れた。
慌てて立ち上がり、辺りを見回す。
すると、彼女は異常事態に気づいた。

自分のいる場所が、さっきまでと違うのだ。
そこは綺麗に整備された新生・妃芽薗学園の敷地内ではなかった。
崩れた学舎。荒れた花壇。
月明かりに浮き上がるその光景は、陰鬱なものであった。

「これは……もしかして神隠し……?」

彼女は学園に広まっていた噂を思い出していた。
鏡にうつる少女。学園で起こる失踪事件。学園七不思議。
何度も目をこすり、頬をひっぱり、彼女は確信した。
自分が失踪事件の当事者になってしまったのだということに。

「嘘……」


* * *


荒れた妃芽薗学園旧校舎を歩きながら、彼女は思う。
もうすぐハルマゲドンが始まる。
なんとか生き延びて、もう一度、幼馴染のもとへ帰ろうと。

そして、もう一つ、思う。
もしもこの宇宙に意志があるとして。
あの時、その大宇宙の意志が、自分の告白を拒んだのだとして。
自分の想いは遂げられないものだと、大宇宙の意志が決定したのだとして。
だとしても――――

「告白しようとしたらハルマゲドンに召喚とか流石に理不尽過ぎるよ……」

この宇宙は理不尽だ、と。<了>



【無題】

「これはいよいよ困った事になった」
目の前で断固として歩く事を拒否している小型犬の事ではない。
彼を抱えて家まで帰るのもそれなりに大変ではあるが、本当に厄介な問題は別にある。

さかのぼる事10分前、犬の散歩に行くため玄関で靴を履いていた時の事。
「正臣君、明日何の日か覚えてる?」
「勿論、覚えているとも」
「なら良いんだけど。じゃあいってらっしゃい」
「行ってきます。おいで、七輪(犬)」
(明日?何の日だったっけ?)

そして現在。
「まいったなぁ、歩いているうちに思い出すと思っていたんだが……」
あれこれ記憶をたどるものの、未だ答えに辿りつけずにいる。
「もし、なにか大切な日だったとしたら唄子さんに嫌われてしまう」
唄子さんはああ見えて記念日だとかそういうのには、すこしだけうるさい。私は一度だけ結婚記念日をすっぽかして、同僚と飲み歩いていた事があった。

「結婚記念日は何月何日?」
「……8月19日です」
「今日は何月何日?」
「8月19日の、26時です」
「……」
「……」
「8月20日でした。すいません……」

右腕で七輪(犬)を抱えながら、声を出さずに呻いていると、正面から2人の女学生が歩いてくるのが見えた。
どこかで見たような制服だ。などと考えていると、左側の子が声をかけて来た。

「あ、正臣さんこんにちは」
「ん?コンニチハ」
「覚えてくれてたんですね」
「勿論、覚えているとも(たぶん、唄子さんの学校の友人だろう)」
「誰?」
「唄子さんの」
「ああ、この人が?」

少女たちと会話するうちに、何か思い出せそうな気がして来た。
あと少しで思い出せる。あと少し、あと少し……
「あ、弓月さんだ!」
「はい?」
突然手を叩いて自分の名を呼ぶ私に、少女は首をかしげた。
なんだ、思い出せそうだったのは、この子の名前か。
「いや、顔は覚えてたんだけど、名前をド忘れしててね」
「あはは、そうなんですか?」
慌てて取り繕う。そして、私は良いアイデアを思いついた。
もしかしたら、彼女たちが唄子さんから明日が何の日か聞いて知っているかもしれない。
「そういえば唄子さんは学校で私の話とかするのかな?」
「ん~あんまりしない……かな?」
「そうなの?たとえば明日は何の日だ。みたいな話とか……」
「いやぁ、聞かないっす」
「そ、そうか……」
「そんなガッカリしないでくださいよー」

「困った、明日は本当に何の日なんだ」
少女らと別れて、いよいよ散歩コースは我が家まで残すところ100m足らずである。
「最後ぐらい自分で歩きなさい」
七輪を地面に下ろしながら、これからどうすべきかを考える。
「やはり、素直に謝るのが一番だなぁ」
「……そうしよう」

「ただいま」
「おかえり。遅かったね」
「ああ、弓月さん(だったっけ?)たちと会ったんだ、ところで……・」
「すまん!」
「は?なにが?」
突然目の前で頭を下げる私に唄子さんは驚いたようだった。
「実は、明日が何の日だったか、私は全然覚えていないんだ!」
「……」
沈黙がわが身に圧し掛かる。やはり、何か大切な日だったのか?
「いや、明日は町内会のお掃除の日だけど……」
「は?」
「別に、何かの記念日とかそいうのでは……」
「な、なんじゃそのベタなオチは!?」
いつの間にか唄子さんの腕に移動した七輪のやつが私に向かってバカにしたように舌を出している。
間の抜けた安堵に包まれる私に、唄子さんがにやりと声をかける。
「ところで、結婚記念日は何月何日だったかしら?」
「そりゃ、勿論覚えてるとも、八月の……」
……あれ?八月の何日だっけ?
「……」
「や、これは本当にド忘れで!本当についさっきまでは覚えてて!」



【後輩二人が鬼畜過ぎる件】



「脱衣麻雀やんね?」

「……………はっ?」

同級生であり、生徒会の仲間である天和七対子のとんでもない提案に呆れていたが、面子を聴いた私は…………

「今すぐやろう!!」

はい、私は馬鹿です。


七対子と私の鬼畜三年組、後輩の弓月と常磐のツインメガネーズ、どちらのチームが総合得点が高いかと言う単純ルール。

端から見て勝敗は明らか、こっちには妃芽薗の雀鬼(ジャンキー)七対子が居る、それに、彼女程では無いが私も麻雀はイケる方なんだ。

「待て待て、そう焦るなよ」

そうだ、今はまだ"生徒会"の勤務時間、ましてや自分は生徒会、建前上"生徒会"メンバーが職務を法規した挙句、後輩達と"脱衣麻雀"をするなど……………。

「やっぱし今やらない?」

結局は生徒会の仕事が終わる迄、私は蛇の生殺し為らぬ"鬼"の生殺しに遭うのだった。

時計は18時を回り、私と七対子は彼女の寮室へ向かった。


「お待たせ~、待った?」
七対子が自室の扉を開けると既にツインメガネーズが雀卓を囲んでいた。

「いえいえ、私達もちょっと前に来たばかりです」

「…………………」

弓月の隣で、この面子内で最年少の常磐が[猿でも解る麻雀ガイド]なる本を黙々と読んでいた。

私達も雀卓に座り、改めて簡単にルール説明と禁止事項、七対子の゙"雀鬼眼"禁止等を決めた。

ちなみに--------

※一発ハコテンを喰らった奴は即全裸

※不正行為を行なった奴は即全裸
(発覚した場合のみ)

親(東)はあたしに決まり、順に(南)常磐→(西)弓月→(北)七対子。

ジャラジャラと牌を混ぜる小気味の良い音が部屋に響き、カツッカツッと静かに牌を列べる……………。

「(マズマズの手牌か……)」

私の手牌は字牌"東"が二枚、萬子の137、筒子の445、索子の4578だった。

「(ここは堅実に一萬と東牌を捨てて、立直、門前、断九、平和って所か…………)」

私は数秒思案し、東牌を切るのだった、が…………

「あ、災禍さんソレ和了です」

「「えっ?」」←※災禍と七対子

満面の笑みを浮かべる弓月の手牌はこうだった………………

1萬1萬東東南南南西西西北北北

そう、既に彼女の手牌は和了牌待ち状態で、災禍は一萬を捨てても東牌を捨ててもツミ状態だったのだ!!

「弓月ちゃん、大四喜ってえげつないな………」

「い、一発ハコテン……」

焦る私とは対象的に苦笑を浮かべる七対子、お前仲間だろ…………

この状況を見兼ねたのか最年少の常磐が立ち上がった。

「これでは災禍先輩が可哀想です!!」

「常磐ちゃん……」

後輩の優しさに感動を覚えていたが、次に発せられた言葉は余りにも衝撃的だった。

「全裸では可哀想です、全裸で"首輪"を嵌めて頂きましょう!!」

お前は馬鹿かぁ~!!


結局は七対子が仇を取り、後輩達は瑞々しい裸体を晒す事になるのだが、その間、私は"全裸"に"首輪"と言うマニア受けする姿で過ごす羽目になったのは言うまでも無かった。


「先輩、良かったら犬尻尾(アOルビーズ付)も着けません?」

「私は犬耳を………」

「なぁーーーーーー!!!!!!(涙)」

<和了>



【爆破少女は二度眠る】


☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆



「ここは私に任せてください!先輩達は離れてて!巻き込んじゃいます!」

 私の掌から勢いよく放たれた爆炎が目の前の敵を包み込む。
 これこそ、私の自慢の魔人能力。今までこの能力で葬ってきた
 モンスターの数はざっと数え切れないほどだ。

「ひゃっはー! 一丁あが、」

 だから、私は慢心していたのかもしれない。
 爆煙の中から伸びる手が私の心臓に突き刺さるに至り、そう思った。

 そして、私は死んだ。



 ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



           爆破少女は二度眠る



 ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



「わあああああ――ッ!」

 逃げ惑う探索者を相手に私は能力を行使する。
 後姿を激しい爆炎が飲み込む。

「はあ……先輩、どこに行ってしまったのでしょう……」

 アイツは物憂げにそう言いながら、私たちと同い年くらいであろう
 少女の顔面を握りつぶす。

(――なんだよ。先輩はもう、私たちとは違う存在じゃん。
 あんたの気持ちを今、一番理解できるのは、同じ存在の私じゃん)

 腹いせ気味に、ミディアムに焼けた探索者を爆破する。

「やっと会えたと思ったら、すぐいなくなっちゃって……ああ、先輩……」

 思えばアイツは、いつも一に先輩、二に先輩だった。
 ニコニコして、私が死んでしばらく二人っきりだったときのことを
 話すんだ。

「夢のようだったなあ……また二人っきりで冒険したいなあ……」

 なんて。

 今、同じ亡霊として一緒に過ごしてるのは、私なのに。



 ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆



「先輩、お久しぶりです!」

 先輩が来た。
 私とアイツは笑顔で先輩を迎え入れる。

「じゃあ先輩!早速ですけど、死んでください!」

 待ってましたとばかりに言い放ち、私は掌を先輩に向けた。

 先輩のことが嫌いなわけじゃない。なかった。
 というか、どちらかと言わずとも好きだった。
 危険な能力を持つ私にも分け隔てなく接してくれた相手を嫌いなはずがない。

「……どうして?」

 だけど。今は。
 ボコボコと泡立つマグマのように。
 私の空虚な胸に憎しみが溢れてきて、どうしようもないのだ。

「憎いんです!先輩だけ生き延びていて、ずるいじゃないですか!」

 理由はそれだけではなかった。
 だけど、『それ』を言うのは、なぜだか憚られた。

「君は、冒険に出る時はいつも死ぬ覚悟はできていたと、思っていたけれど」

「わからないです!死んだら、とにかく全部憎くて憎くて仕方ないんです!」

 そう、何もかもが憎くて憎くて仕方ないのだ。

 アイツの気持ちを独り占めする先輩も。
 ひとの気持ちにいつまでも気付かないアイツも。

 ――いつまでも気持ちを表に出せない、自分にも。

 私は掌に意識を集中させる。
 まず、生きてる先輩を殺そう。それから、亡霊になった先輩を殺そう。
 それで先輩は、跡形もなく消えるはず。

 そうすれば、アイツはやっと私だけを見てくれるかな――?

「――――ごめんなさい」

 アイツの腕が伸び、私の頭を破壊する。
 その光景を、私は知覚出来ていたわけではないけれど。

「……でも、先輩は殺させない……本当に、ごめんなさい」

 結局アイツは、死んでもなお、私を殺すほどに先輩が好きだったんだなあ。
 まあ、私も似たようなものかもしれないけれど。
 悲しくないと言えば嘘になるけど、でも、ある意味嬉しくもあるんだよ。

 最後の眠りは想い人の手で、なんて、なかなか素敵じゃん?


 ☆ 爆破少女は二度眠る おしまい ☆



【天奈瑞のお悩み相談コーナー】



生徒会長、天奈瑞(てんな みず)。
呪われたハルマゲドンを迎える上でのリーダーとして選ばれた少女。
触れたものの心を読み、押しも強く、面倒見もよい。
天奈はトップとしてうってつけの才能を持っていたのだから当然だった。
これは、そんな少女が陣営勝利のために奔走する物語。

* * *

天奈は考えた。現在の生徒会陣営のことである。
妃芽薗学園の生徒が多いため、面識ある者同士もそこそこいる。
しかし、急ごしらえの寄せ集め集団であることに違いはない。
となると、まずそれぞれの人となりを知り、うまくまとめるのが先決。
急場にまず人となりを知る――――常人ならばそんな悠長なと思うだろう。
だが、読心術を持つ天奈には、それが物事を解決するいつもの近道だった。

「それじゃあ後輩達の様子でも見ていきましょうか」

こうして、天奈は生徒会の面々を深く知ることになる……。


* * *


「グドン一匹見たらツインテール二十匹は近くで生息してるって――」
「ああ、うん、はい」

角月こもら。怪獣が(性的な意味で)好きな少女。
なかなか話が弾まないから、読心で得た怪獣の話題について振った結果。

「スペシウム光線って響がエロいよねぇ。スペシウムって……グフフ」
「ああ、うん?」

天奈は頭を抱えた。

* * *

「カキコは別に悩み事なんてないの」
「カキコちゃんはなんでも知ってるんだね。戦闘では頼りにしてるよ」

匿名図書館カキコ。妃芽薗七不思議の一つ、匿名図書館の端末。
端末ってなんだ。端末って。読心すると情報量が膨大で頭が痛い。

「天奈さんは女性なの?」
「うん?ああ、この格好は似合うと思うからしているだけで、女だよ」
「どれどれ、ちょっとお胸とか触らせて舐めさせてもらいますなの」
「ちょ!?」

* * *

神足跳瑠(こうたり はねる)。陸上部は棒高跳びのホープである。
少々、非行のきらいがあるものの、これまでと比較すれば真っ当な……

「ちょっと聞いてよ会長!武々花(ぶぶか)なんだけどさあ」

多居炭(たいたん)武々花とは神足と同じ棒高跳びの選手だ。

「胸!胸のせいでアタシより目立ってさあ!」

胸――――年頃の少女にとってセンシティブでナイーブな話題だ。

「腹立つから巨乳の女神像にアタシも巨乳にしてって頼んだらさあ」

巨乳の女神像とは妃芽薗七不思議の一つ、胸を大きくするという銅像。

「『俎板は私の力も及ばない』だって!!!もー腹立つってーの!」

それは私の手にも余る。天奈はなんと慰めるか頭を捻った。

* * *

「どうすれば私、モテるんですか!?」

頑張れ。読心でどうにもならない質問ばかりするな。
天奈はベテラン失恋ニスト、片心叶実(かたうら かなみ)に思った。

* * *

「えっ?キムチ?」

何をどうすればそう聞き間違えるのか。大宇宙の意思恐るべし。


* * *


「私、リーダーとしてやってけるのかなって……」
「大丈夫よ。しっかり皆から頼られてるじゃないの」
「先輩としての自信ちょっと無くしそう……」
「落ち込まないで。ほら、これでも飲んで」

その日の夜。
天奈は唄子さんの元で飲み明かしましたとさ。


<了>



【弾道これくしょん ~弾これ~】


☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



           弾道これくしょん ~弾これ~



 ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



「――はっ!」

 少女の体が空に舞う。
 揺れるポニーテールは情熱の赤。
 揺れるバストは95cm連装砲。

 天高きバーを飛び越えマットに身体を沈める、妃芽薗学園陸上部所属、
 棒高跳び選手の多居炭武々花の練習風景であった。

「ハァ、ハァ……! 今日も武々花たんの核弾頭は凶悪ですね……!」
「ええ……まさしく空母ヲッパイ級……!」

 そんな武々花を、茂みの中に身を潜めバシャバシャと激写する存在あり。
 彼女たちは陸上部の――中でも武々花のファンであり、こうしてその
 煌く汗を永遠のものにせんと、盗撮まがいの撮影行為に及んでいるのだ。

「やはり武々花たんは『弾むす』の中でも格別のレアね……!」
「早く中破しないかしら……!」
「ふふん、甘いわね、あなたたち!」
「「 !? 」」

 うっとりと語る少女たちに割り込む者がいた。
 武々花のファンは振り返る。そこには、同じくカメラを首から下げた
 少女たちの姿があった。同じ穴の狢――弾むすファンだ!

「あんな脂肪の塊に目が眩むなんて、新規もいいとこだわ、あなたたち」
「へえー、言うじゃない! そういうあなたは誰推しなのかしら?」

 火花を散らせ、挑発的に言葉を交わす両陣営。
 乱入ファンたちは懐から数枚の写真を取り出し、見せ付ける。

「見よ、この美しいフォルム! この子こそが弾むすの完成形ッ!」
「これは――、神足型駆逐“弾”、3番“弾”の神足跳瑠ッ!!」

 そう、武々花と同じ棒高跳びの種目選手、神足跳瑠だった。
 武々花ファンたちは跳瑠の写真を眺め、それからフンと鼻で笑う。

「はんっ! なにかと思ったら、俎板の駆逐弾風情じゃない!
 胸に存在感がなさ過ぎて、いたのに気付かなかったわ!」
「なによっ! あなたたちの推しだって胸にしか特徴のない悪燃費よ!
 目立つものに目が惹かれるなんて、これだから新規は!」
「舞鶴じゃアカンのか! お前だって呉やろ!」
「佐世保ですぅー!」

 ぎゃーすかと騒ぐ弾むすファンたち。
 そんな彼女たちを見て、武々花は溜め息をついた。

「あの人たち、いつにも増してうるさいね……好きで胸が大きいわけじゃ
 ないのに……」
「私は跳べればそれでいいよ!」

 傍らの跳瑠は跳び足りないとばかりにぴょんぴょん跳ねている。
 頭も足りないのでは、などと失礼なことを武々花は思わない。

 むしろ、逆。周りの視線など意に介さずただ目の前のバーを跳ぶ、
 この神足跳瑠という同い年のライバルを尊敬し、憧れていた。
 ああ、私も彼女のように滑らかな流線型フォルムになりたい……!

 しかし、それが叶わぬ望みであることを武々花は知っていた。
 能力『ICBM(Ikinari Cyo-Bakunyu Musume)』。
 胸が大きくなることこそあれ、小さくなることはありえないのだ。

 そして、自身の想いが叶わないこともまた、武々花は知っていた。
 自分は番長グループ。そして跳瑠は生徒会。
 定められた血塗られし運命は、避けようがないものであった。

 やがて来るハルマゲドン、どちらか、あるいは二人とも命を落とすかも
 知れない。
 でも、今このときだけは――。
 無邪気に跳ぶ跳瑠を眩しそうに見つめ、そう思った。


 ☆ 弾道これくしょん ~弾これ~ おしまい ☆