累積点数 点
【矢達メア増援SS】
出撃メンバーに選ばれなかった時、正直なところ私は安堵した。
殺したいほどに憎んでいた
雨竜院金雨は、優しい子だった。
呪われた能力に苦しみ悩む、かわいそうな子だった。
人に刃を向けることの恐ろしさを知った。殺し合いはしたくなくなった。
しかし
矢達メアは結局、戦場にやってきた。
そして、床に広がる赤い染みと、その中央に力なく横たわる
雨竜院雨を見た。
異臭が立ち込めている。
「この臭い……キムチ……?」
「そう。床の下で偶然キムチが爆発して、巻き込まれたんだ……」
瀕死状態の雨が、苦しそうに答えた。
「大宇宙の意思……恐ろしい……」
「メアちゃん、来てくれてありがとう。でも、まだ迷ってるみたいね」
「何でもお見通しなんですね……」
「ふふ……野生の勘だよ」
正確には勘だけではない。
鮫特有のロレンチーニ器官によって、雨には電磁波が視える。
ゆえに人間とは異なるチャンネルで感情の動きを察することができるのだ。
「でも大丈夫……戦うって……決めたから」
メアは両手で、暗紫色の首刈りパラソルを握り締めた。
既に覆いは外され、死の刃が鈍く光っている。
「頼んだよ。金雨ちゃんを守ってあげてね……」
雨はメアに、自らの願いを託した。
どこかで金雨ちゃんが戦っているはずだ。
優しく怖がりなあの金雨ちゃんが、震える手に武傘を握り締めて。
忌むべき能力を使う事すらためらわぬ、強い決意を小さな胸に秘めて。
殺せる。私は殺せる。
金雨ちゃんを守るためならば血の雨だって降らせる。
何度も自分に言い聞かせながら、メアは走った。
【ジ・エンド・オブ・メア/ジ・エンド・オブ・ザ・ナイトメア #1】
廃校舎の暗く陰鬱な廊下を、矢達メアが走る。
前方にふたつの人影が見えた。
“
人形遣い”と対峙しているのは、外套を羽織り帽子を被った男――
御厨誘気。
「水の因果よ溯りたまえ――」
睨み合うふたりの元へ走りながら、メアは能力の発動準備をする。
ネガ雨乞いエネルギーが集まり、紫色の霧がメアの左手を覆う。
「《リフメア・アセンション》!」
能力発動! 紫のネガ雨乞い波動が床を伝って奔る!
だが波動の向かう先は御厨ではない!
渡り廊下から近付く新たな脅威を察したメアは咄嗟に対象を変更したのだ!
大きな羽根飾りのついた仮面! その手には大小ふた振りの刀!
評価値53万の最強魔人、マスケ・ラ・ヴィータ言祝!
絶望的な強さの召喚能力のみならず、素の戦闘能力だけでも脅威的!
しかし、いかなる強者も先制攻撃を受ければ何もできず死ぬのが魔人の戦い!
《リフメア》弾着!
言祝の体から大量の水分が奪われ、逆雨となって天井を濡らす!
だが言祝は持ち堪えた!
言祝はふた振りの刀を投げ捨てる!
「さあ……僕の冒険譚を君の血で彩ってくれ!」
ミシミシと軋む音を立て、言祝の両腕が鱗に覆われた竜の爪に変質する!
人形遣いが御厨の脇をすり抜け、言祝の元へと向かう!
操り人形の太郎と共に!
無謀だ、勝ち目のない自己犠牲だ、とメアは思った。
「やっぱり私、駄目だった……」
メアは落胆し、呟いた。
殺せなかった。私は守れなかった。
金雨ちゃんを守ることができなかった。
「そんなことはありません!」
「シシシシ、グッジョブだよ!」
いつの間にか、メアの横には“番長”である金剛姉妹が立っていた。
金剛明日火は、妹の掌を強く握り締めた。
金剛月火は、姉の掌を強く握り返した。
常人の身でありながら、魔人に匹敵する戦闘力を誇る連携格闘技能『从術』!
「駄目な能力も、無駄な能力もないっ! そうですよね、グラさん!」
「ああ、そうだな。ふふ、メア君のプラズマ、見事だったよ」
多居炭武々花が威勢の良い声で呼び掛け、グラさん――物理教師・
矢倉三星が応えた。
三星は額に乗せたサングラスを下ろし艶然と笑う。
「さて、君達のプラズマをちょっと拝借するよ」
(つづく)
落胆したメアを励ます矢倉さんと金剛姉妹がかっこよすぎです!
続きが早く読みたい!
勢いがあってカッコいい。メアちゃんは立ち直ることが出来るのか!?
【ジ・エンド・オブ・メア/ジ・エンド・オブ・ザ・ナイトメア #2】
サングラスの奥に隠された矢倉三星の眼が三度、煌めいた。
矢達メアの体から、金剛姉妹の体から、多居炭武々花の体から、光が抜け出す。
三人の能力が、プラズマ状態で抽出されたのだ。
「さあ《プラズマ》たち、ハデに踊りな!」
三星がパチリと指を鳴らすと、三人の上に漂っていた光の球が弾けた。
そしてプラズマの群れは流星雨の如く、マスケ・ラ・ヴィータ言祝へと降り注ぐ!
青白い閃光が視界を覆い尽し――言祝の冒険は唐突に幕を閉じた。
彼女を救う英雄は、現われることはなかった。
だが!“
生徒会”にはまだ別のヒーローが存在する!
「ラブリメーション!」
変身コールと共に、原色スーツのスーパーヒロインが渡り廊下に現われた!
片心叶実の変身する《玉砕戦隊シツレンジャー》だ! 構成員一名!
シツレンジャーは人形遣いの前に立ち塞がり、自陣への帰還を阻む構え!
人形遣いが右に動けば右に! 左に動けば左に! 巧みなフットワークで妨害!
シツレンジャー突破を試みる人形遣いの背後から忍び寄る影。
茶色の三つ編み、伊達眼鏡。左脇に抱えたハードカバー書籍。
匿名図書館カキコは、右手のスタンガンを人形遣いに押し当てて放電!
人形遣いは、文字通り糸の切れた人形となって崩れ落ちる!
「“人形遣いの〈心〉はワイヤー『自由意思のウロボロス』全体に宿る”――」
カキコは、匿名図書館文献の記載を復唱する。
「“ゆえに、全体に余すことなく通電すべし”……うん。書いてる通りなの」
メアは、一学年上のカキコのことを知っている。
今年、高等部に上った、図書委員会の先輩だ。
先輩を殺せるか。メアは自問した。
殺せる。金雨ちゃんを守る。それが、私の望んだ非日常だから。
メアは、カキコをまっすぐに見据え、首刈りパラソルを構えた。
既にメアの中に迷いはなかった。しかし――
「矢達っ! 余所見するな!」
私の名前を叫んだのは、矢倉先生だったろうか。
首筋を冷たい風が通り抜けたような感覚があった。
横を見ると、御厨誘気がいままさに契約書を振り抜いた所だった。
契約書の切っ先が、血に濡れていた。
(つづく)
【ジ・エンド・オブ・メア/ジ・エンド・オブ・ザ・ナイトメア #3】
“債権者代位拳”――それが、御厨誘気の修めた武術の名だ。
契約相手である債務者のパワーを契約書に宿し、硬質の刃と化す。
無数の契約が絡み合う現代社会において、契約書こそが最強の武器なのだ。
契約書斬撃で切り裂かれた矢達メアの首から、だくだくと血が流れ出す。
メアは自分の身に何が起きたのか、まだ理解できていない。
ただ、首筋の燃えるような熱さと、上着を濡らす温かい液体を感じていた。
体に力が入らない。
メアは二歩、たたらを踏んで、そして倒れた。
床に倒れたところではじめて、自分は死ぬのだな、と気付いた。
歯喰舞羽の巨大歯科ドリルが吠え猛るのが聞こえる。
Ms.ステッペン・サーズデイが振るうデコナイフの唸り声が聞こえる。
金剛姉妹が放つ从術の雄叫びが聞こえる。
みんな、とても怒っているのがわかる。
私を殺した、御厨誘気に怒っている。
うふふ、うれしいな。
誰かが私の側に来て、手を握ってくれた。
かすむ視界の端に、沈む夕陽のように真っ赤な髪が見えた。
泉谷夕真さんだ。
大丈夫、死ぬのは怖くないよって、夕真さんは励ましてくれている。
黙っていても夕真さんの言いたいことがわかるのは、私が半分死んでるからかな。
ありがとう、ちっとも怖くないよ。
だって私はひとりじゃないから。
ぽつり。ぽつり。
雨が降り出す音がした。
そして、微かに鼻をくすぐるあのにおい。
金雨ちゃんの雨だ。
また漏らしちゃったんだ。
金雨ちゃんのお漏らし癖には困ったものだなあ。
……もしかして、私のことを見て、漏らしちゃったのかな。
そうだったらいいな。
メアは金雨の姿を探そうとしたが、体が動かなかった。
だから、耳を澄まし、雨音の中に雨竜院金雨を感じることにした。
静かに降る雨が、呪われた旧校舎を優しく包み込んでいる。
あんなに嫌いだった雨の音なのに、今は、とても心地良かった。
(おわり)
【RSS(流血少女S)】
ふと気づくと妃芽薗学園ハルマゲドンを煽ろうと亡霊が襲ってくるが倒し、進んでいくと
御堂筋藍子
「機密機密なので機密機密機密で死ね」
御堂筋藍子は機密機密で機密だが機密機密機密のでナントカ倒した
「許せ機密機密機密機密だったのだ」「悲しい物語だぜ」そして
戦略核兵器が爆発すると妃芽薗学園は崩壊した
【花は桜、君は美し】
「ここは…?」
一三九六(にのまえ・さくら)が目覚めた時見覚えのない場所にいた。
たしか、記憶ではさきほど部屋にいたはずだ。何があったのか思い出せない。
周囲を見渡すと教室らしき部屋が見える。廊下も。
どこかの学校なのか?いやそれにしては様子がおかしい。
周囲の部屋は使われているようには見えないし、なによりおかしいのは死体がところどころぶ見受けられ放置されていることだ。
どこへ来てしまったのだ。
「とにかく情報を集める必要がありますね」
懐から扇子を取り出すと、周囲を警戒しながら移動を開始する。
「お…お姉様ではありませんか!?」
三九六が声がした方へ振り向くと少女が立っていた。
拘束具と特殊な蝋燭を持った長身で鋭い切れ長の目が特徴的な美少女。
同じ風紀委員会の中等部実働部隊長
浮鞭蝋燭(うきぶち・ろうそく)である。
高等部のメンバーの間ではキャンドルちゃんとして親しまれている(本人は不本意なようだが)
「お姉様もこちらに!?」
蝋燭は驚いた様子で言った。
年上の風紀委員長との対話に緊張しているのか顔が真っ赤だ。
「ええ」
三九六が答えた。
「ところで今の状況がよくわからないのですけど」
「では私がわかる範囲で説明させていただきます」
蝋燭が話し始めた。
彼女の話によるとここは立ち入り禁止区域に指定されている妃芽薗の旧校舎らしい。
呪いのせいで、脱出する方法はハルマゲドンを起こし決着をつけるだけだという。
それが彼女が白いフードを着た少女から聞いた話だということだ。
「それでお姉様はどうなさるのですか」
説明を終えた蝋燭が三九六に問う。
「どうって…」
答えは決まっているといった様子で三九六がいった。
「ハルマゲドンしか方法がないのなら、参加するしかないでしょう」
本当にそうだろうか。
本当に方法はないのだろうか。
もしかしたらハルマゲドンなど起こさず、脱出する方法は用意されているのではないか。
もし、一三九六が物語の英雄ならば、探索組のように皆が脱出する方法を模索するのかもしれない。
だが彼女はそうではない。
努めてそうであるかのように振舞っているが、彼女の本質はそうではないのだ。
例え脱出する方法があったとしても、妨害されずに脱出できるのか。
そしてなにより見つかるのはいつになるのか?
これが初めてではなさそうなことを考えれば、あるとして簡単に見つかるものではないだろう。
1年後か?それとも10年後?
それでは意味がない。
彼女が妃芽薗に来たのは兄にふさわしい女性になるため。
脱出できたとしても、もし老婆になっていては意味がないではないか。
無為に月日を過ごすわけにはいかないのだ。
彼女にとって本当に大切なものは兄だけ。
故に彼女にとってそうする必要があるならば、目の前の後輩でも躊躇なく殺すだろう。
いや、時と場合によってはほかならぬ自分自身さえも。
「お姉様…どうかなされましたか?」
返事をしたあと少しぼーっとしていたのか蝋燭が心配層に行った。
「なんでもありません。少し考え事をしていただけですので」
心配する必要はないといった様子で三九六がいった。
「しかしお姉様が一緒ですととても心強いですな」
「あまり買いかぶってもらっても困りますね」
「ご謙遜を。風紀委員会にわれらが風紀委員長殿の活躍を知らぬものなどおりません。
ハルマゲドンもお姉様さえいれば勝ったも同然でしょう」
「そう言っていただけるなら嬉しいですけど」
これは本音だ。理想に近づけているということなのだから
「しかしいつまでもここにいてもしかたありませんね。他の方と合流いたしましょう」
「そうですな」
二人はその場をあとにした。
【四ノ宮百合SS 悪魔召喚前日譚】
午後から降り始めた小雨は、いつの間にか激しさを増していた。
突如天を切り裂いた雷光は、雨の叩きつける窓の奥に少女たちを照らしだす。
部屋の床に浮かび上がった魔法陣の中心には黒い装丁の本が鎮座し、無造作に並べられた生贄を見下ろしていた。
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「凄いことなんだよ!悪魔が召喚できるなんて!」
四ノ宮百合がノロイの本にストーキングされていることを相談すると、クラスメイトは目を輝かせて言った。
「でも私、これ捨てたいんだけど……」
「それを捨てるなんてとんでもない!」
クラスメイトは鼻息を荒げて言った。
「いいですか?悪魔召喚、それは私……いえ、全人類の夢よ!」
話がおかしな方向に進み始めたようだと、慌てて百合は軌道修正を図る。
「いや、少なくとも私はそんなこと……」
「シャァァラッップッ!!」
目を輝かせたクラスメイトは拳を天に向けて突き上げて言った。
「悪魔召喚の儀よ!早速準備を始めなきゃ!オカルト研究会の日頃の研究成果を見せつけてやるわ!」
「ええぇぇぇ……」
クラスメイトに襟首を掴まれて引きづられながら、四ノ宮百合は相談役を間違えたと後悔していた。
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数日後、学園近くの廃屋。
肌にまとわりつくような湿気に満ちた空間で、蝋燭の火が揺らいだ。
顔を頭巾のようなもので隠した少女たちが跪くと、部屋全体がギシギシと音を立てる。
呪われた本に向かって手をかざし、魔人四ノ宮百合はゆっくりと目を閉じた。
能力発動!『仲間ガ増エルヨ』
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天の声1「発動率は……えーっと86%ですね」
天の声2「それでは、だいすろ~る!」
天の声1「出目は87、惜しいっすねぇ……発動失敗です!」
天の声2「はい、じゃあ処理を続行しましょう」
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「……何も起きないね」
「……うん」
チョークで書かれた魔法陣の上にぺたんと座り、二人はノロイの本を見つめていた。
「あぁもう!暑いよこれ!」
クラスメイトの少女は顔に巻いていたカーテンを丸め、部屋の隅に放り投げた。
「生贄がダメだったのかなあ……」
百合が生贄をチラリと見やった。
家庭科室から拝借してきた大皿の上には、ヤギの心臓とカラスの脳みそ……の代用品の豚レバーと焼き鳥(タレ)がち
ょこんと乗っていた。
そこに蠢く黒い影
飛び退く少女達と、思ってもいなかったご馳走にありつこうと集結する異生物たち。不衛生な場所でナマモノを放置し
たためである。
「「キャーーー!!!ゴキブリーーー!!!」」
少女たちの悲鳴が、そろそろ雨の上がり始めた夏の空に響き渡った。
【ジ・エンド・オブ・メア/ジ・エンド・オブ・ザ・ナイトメア #Ex1】
私は死んだ。
私は死んで、世界の真実を、少しだけ知ることができた。
私という存在は、金雨ちゃんと友達になるために、生まれてきたのだ。
金雨ちゃんと出逢った。
金雨ちゃんを憎んだ。
金雨ちゃんを殺そうとした。
それから、金雨ちゃんと一緒に ※機密事項※ して……。
最後に、金雨ちゃんを守って、私は死んだ。
私の人生は、決してつまらないものではなかった。
たった数日だけど、金雨ちゃんの友達として過ごすことができたのだから。
でも、まだ私にはやるべき事が残っている。
“《リフメア・アセンション》――レクイエム”
対象:私の魂。
私の魂に染み込んだ穢れ、《黄金体験鎮魂歌》の因果を遡る――。
気がつくと黄色い、無機質なビルが立ち並ぶ街にいた。
黄色く舗装された地面。
黄色い雲に覆われた空。
周囲に人の気配はなく、その世界は虚ろで、ただ黄色かった。
成功だ。ここは『黄色いお兄さん』の世界だ。
私は黄色いお兄さんを倒すために、ここにやって来た。
黄色いお兄さんを討ち、金雨ちゃんにかけられた呪いを解くために。
目の前の空間が淡い黄金に光りながら歪み、人の象(かたち)をとった。
「はじめまして……矢達メアちゃん」
黄色いマントをはおったその男は、薄い黄色のサングラスをかけてます。
「あなたが『黄色いお兄さん』……」
キツいツリ目で睨みながら、メアちゃんはその人の名前を呼びました。
「ありがとう……金雨の友達になってくれて」
メアちゃんの怖い目つきに怯みもせず、お兄さんは嬉しそうに言いました。
「金雨と一緒にお漏らししたところが、最高にカワイイだったよ……」
これが『黄色いお兄さん』なのです。
せっかく※機密事項※でぼかしたのが台無しになっちゃいました。
いつの間にか“地の文”も支配され、カワイイ三人称になってます。
下品さとカワイイが完全に地続きになってるのが、お兄さんのスゴい所です。
「あなたを倒し、金雨ちゃんを救う……!」
メアちゃんは紫の首刈りパラソルを構えました。
ギラリ。死神みたいな鎌がブキミに光ります。
「それは無理なんだ……ここは『私の世界』だから」
お兄さんのサイバーサングラスに、不吉な『ショウタイム』の文字が現れました。
「例えば君の『尿意』すらも……私の支配下にある!」
(つづく)
【ジ・エンド・オブ・メア/ジ・エンド・オブ・ザ・ナイトメア #Ex2】
メアちゃんは急に内股になってもじもじし始めました。
まゆ毛をハの字にして、切なそうにしています。
「うそ……なんで急に……やだ……」
黄色いお兄さんの魔力で、突然すごくトイレに行きたくなったのです。
「“大”ではないから安心して漏らしなさい……君には綺麗でいて欲しいからね」
お兄さんの“キレイ”とは何なのか、メアちゃんには解りませんでした。
「――《リフメア……アセンション》!」
メアちゃんは自分の膀胱を対象にして、脱水能力を使いました。
コップ一杯ほどの水がメアちゃんから抜け出し、天に昇ってゆきます。
「うぐっ……!」
メアちゃんは苦しそうな声をだしました。
膀胱内の尿だけを狙えるほど、《リフメア》は便利じゃありません。
膀胱や、周囲の体組織からも水分が奪われ、メアちゃんに激痛が走ります。
(だけど……これで動ける!)
メアちゃんはジャンプして、首刈りパラソルでお兄さんに切りかかりました。
ずばっ! お兄さんがまっぷたつ!
でも変です! 手応えが全然ありません!
まっぷたつのお兄さんは霧のように消えました。
「雨竜院雨弓の能力《睫毛の虹》――ではないが、この世界では私も幻術自在さ」
少し離れた場所に現れたお兄さんが、メアちゃんに向けて手を広げ、言いました。
「自分の体は大切にしなさい……治してあげよう」
メアちゃんの下腹部から痛みがウソのように消えました。
お兄さんが、メアちゃんの体組織を修復したのです。すごい!
そして、痛みと入れ替わりに、さっきよりも激しい尿意が襲ってきました。
「あ……ああっ……いやぁ……!」
限界、でした。
メアちゃんの中で解放感と屈辱感がぐるぐると渦巻きました。
リノリウムみたいにすべすべの黄色い舗装の上に、水たまりが広がっていきます。
その真ん中でメアちゃんは、瞳を涙でうるませながら、がっくりと膝をつきました。
「カワイイ! ……カワイイよ!」
黄色いお兄さんはおおよろこびです。
しかし! 黄色いお兄さんは気付いていなかった!
その足元に、一匹の巨大なヨーロッパイチョウガニが現れたことに!
この蟹は刺客だ!
異世界より、黄色いお兄さんを討つために送り込まれた刺客なのだ!
蟹は巨大な鋏を大きく開き、静かに振り上げた!
(つづく)
【ジ・エンド・オブ・メア/ジ・エンド・オブ・ザ・ナイトメア #Ex3】
グシャアッ!
黄色いお兄さんが、メアの姿をもっとよく見ようと踏み出した足が、何かを踏んだ。
それは大きな蟹だった。
蟹を踏み殺したお兄さんは、足を滑らせバランスを崩す。
「むう……蟹? なにゆえ私の世界に蟹が!?」
お兄さんの動揺をメアは見逃さなかった!
水溜まりを蹴って跳躍、お兄さんの肩に飛び乗る!
濡れた布の感触と匂いに、お兄さんの思考が更に鈍る!
メアは全身を後ろに逸らし、お兄さんを前方に引き倒しながら回転!
股ノ富士ちゃん直伝の暗黒スモウ技ウラカン・ラナ・インベルティダ!
一回転し、お兄さんの顔面に馬乗りになって押さえ込む!
いかに世界支配者と言えども、お漏らし直後の中学三年生に顔面騎乗されれば無力!
メアは両手にネガ雨乞いエネルギーを込めて振り上げた。
このままリフメア・モンゴリアンチョップを脳天に叩き込み、脳漿から水分を奪う。
そして、パラソルで首を斬り落とせばすべては終わる。
だが、メアはそうしなかった。
黄色いお兄さんが、真に邪悪な存在ではないことに気付いていたからだ。
メアは黄色いお兄さんに問う。
「あなたは、いつでも私を殺せたはず。なぜそうしなかったのですか?」
「ここは私の世界……ここでは私が望むことなら何でもできる……」
メアの下で、お兄さんがもがもがと答えた。
「ゆえに君を害することはできない……私が望まないからだ」
「《黄金体験鎮魂歌》を授けたのも、本当に、金雨ちゃんのためなんですね」
確かに、血を流さず敵味方の垣根を取り払う力は、優しいあの子に相応しい。
そしてメア自身も《黄金体験》に救われたのだ。
この能力がなければ、メアは雨竜院雨(さめ)と殺し合っていたはずだ。
「私は、金雨が“旧校舎”に引き込まれる運命を知り、助けたかった……」
股の下でもごもご喋られると気持ち悪いので、メアはお兄さんを解放した。
「《神の雫》から無理なく導ける能力は、これしかなかったのだ……」
「……あなたが、金雨ちゃんを大切に思っていることはわかりました」
メアちゃんは、首刈りパラソルを突き付けて言いました。
「だけど今後は、金雨ちゃんに下品な話をするのは許しません!」
「アッハイ」
黄色いお兄さんはそう返事をしながら(人気者は辛いなぁ)と思いました。
(おわり)
【番長G風紀チーム】
妃芽薗で鳴らした私達風紀委員会は、濡れ衣を着せられ旧校舎に召喚されたが、
旧校舎を脱出し、地下にもぐった。
しかし、地下でくすぶっているような私達じゃあない。
筋さえ通ればハルマゲドンでもなんでもやってのける命知らず、不可能を可能にし巨大な生徒会を
粉砕する、私達、
番長G風紀チーム!
私は、番長一三九六 。通称サクラ。
向上戦法と体力上昇の名人。
私のような風紀委員長でなければ百戦錬磨のつわものどものリーダーは務まらん。
私は浮鞭蝋燭。通称キャンドルちゃん。
自慢のルックスに、お姉様はみんなイチコロさ。
ローソク溶かして、攻撃力から攻撃力まで、何でもそろえてみせるぜ。
よおお待ちどう。私こそ泉谷夕真。通称ユウマ。
幽霊としての腕は天下一品!
70%?30%無効化出来ない?だから何。
危険田とまれ。通称とまれ。
交通の天才だ。大統領でも止めてみせらぁ。
でもZOC無視だけはかんべんな。
私達は、道理の通らぬ世の中にあえて挑戦する。
頼りになる神出鬼没の、番長G 風紀チーム!
助けを借りたいときは、いつでも言ってくれ。
【ゴールデンシャワー・オブ・シン】
その日も雨が降っていた。
「ご、ごめんなさい」
小さな少女が、同じくらいの年頃の少女に深々と頭を下げる。
少女――矢達愛雨(やだち めう)――にとって1番仲の良かった友人だった。彼女にも、その父や祖父母にも母が詫びているはずだが、だからと言って自分が平気な顔をしていていいはずが無いと思った。
頭を下げて暫しの沈黙。その後、友人が近づいてくる足音に愛雨は気づく。自分の前で立ち止まり、そのまま30秒程、更に沈黙は続いた。
何か言葉が降ってくるわけでもなく、聞こえるのは雨音のみ。ずっとこうして頭を下げ続けるのは、なんとなく卑怯に思えて愛雨は顔を上げる。友人がどんな表情をしていようと、きちんと正面から見据えなければ。そんな気持ちで顔をあげる。
視界に飛び込んできたのは、迫る友人の掌。
直後、雨音の中に頬を張る乾いた音が響いた。不意打ち気味の衝撃は頭の芯を撃ち抜き、軽い脳震盪を引き起こす。
バシャリと水音を立てて愛雨は尻餅をつき、差していた傘が転がった。
再び、濡れた足音が呆然としていた愛雨の耳に届く。ただし、今度は遠ざかる音。
顔をあげれば、やや足早に去ってゆく後姿。まだ立ち上がって追えば十分間に合う距離だが、それをする気力を今の一発は奪い去っていた。
愛雨が住む山間の小さな町を大規模な土砂崩れが襲ったのは5日前のことだった。数軒の民家と、生徒数100人にも満たない小学校を飲み込んだ土砂は、当然多くの命を奪っていった。直後、関東にて起こった大災害が無ければ、その記憶は多くの日本人の心に深く刻まれていただろう。
愛雨自身は無傷で済んだが、彼女の友人も多く犠牲になり、1番の親友だった少女は教員だった母と弟を亡くした。
単なる自然災害であれば、遺族は悲しみながらもある種の納得が出来たかも知れない。しかし、土砂崩れを引き起こした豪雨は、ある魔人がその能力を以って降らせたものだった。
その男の先祖は明治時代に大陸から渡来してこの町に住み着き、自身の故郷での生業に因んで「矢達」の姓を名乗った。以後、100年以上に渡って彼の一族の雨乞い師は町を支え続け、住民達はいつしか土着の神よりもその一族に対して崇拝に近い感情さえ抱くようになっていた。
その男も自身の能力と一族が得てきた町民からの尊敬に誇りを持っていたし、だから今回雨乞いを町長から依頼された時もやはり誇らしい気持ちになった。
そして、雨を降らせた。結果は失敗、と言うか行き過ぎで、住民が期待した以上の豪雨が数日に亘って降り続き、それによって緩んだ地盤は小さな地震で容易く崩壊した。
土砂崩れの翌日、男は何も言わず、残さず、姿を消した。男は一族の当主であり、愛雨の父だった。
私は、許してもらえるとでも思っていたのだろうか。
メアは全身を濡らす雨の中自問する。
土砂崩れで家族や友人を亡くした者の罵倒を、母は甘んじて受けていた。被害を受けていない、一部の近隣住民による面白半分の嫌がらせにも抵抗はしなかったし、許されなかった。夫がしたことを考えれば当然、と言っていた母だが、娘に当たりこそしないものの家では目に見えて荒んでいた。
「ねえ、愛雨。東京のおじさんのところに行かない?」
1ヶ月を過ぎた頃、夕食の席で母がそう言った。以前はどちらかと言えば太っていた母だが、ここ最近は目に見えてやつれている。
「あなたは成績もいいし、いい学校に行けると思うの。
それに……この町はあなたが一生を過ごせるような場所じゃ無い」
「お母さんは?」と聞きたかったが、それを許さない目を母はしていた。
町を発つ日も、やはり雨が降っていた。叔父の車のガラス越しに、遠ざかる母の姿を愛雨は見つめていた。降り頻る雨は母を、自分たちを責めるかのようだった。母は自分を逃してくれたけれど、きっと生涯この檻のような町で責め苦を受け続けるのだろうと思った。
妃芽薗学園中等部への編入試験に合格し、迎えた入学式の日。
「愛雨、暫く会えなくなるが、頑張るんだぞ。新しい友達だってきっと出来る。
それと、雨竜……」
「おじさん、大丈夫だから」
家を出る際、心配そうにする叔父に愛雨はピシャリと言う。
「後、今日からはその名前で呼ばないで。
私は『メア』。矢達メア――」
雨を愛する、などと言う穢らわしい名を名乗ることに、彼女は耐えられなかった。
雨の音は、匂いは、あの日の記憶を呼び覚ます。否、自分も母と同じくまだあの町で見ているのだ。悪夢の続きを――。
入学から数週間後、その日も雨が降っていた。しかし、ただの雨では無い。
「何、これ……」
不愉快さを隠そうともせず、メアは廊下の窓から見える光景に顔をしかめる。
黄色く染まる世界。うっすらと漂うアンモニア臭。
「うわっ! 何? おしっこの雨?」
同じ廊下を歩いていた女生徒数名が足を止め、誰かが声を上げる。
自然現象では到底あり得ぬ尿の雨。であれば、当然これは魔人能力によるもの。完璧でない高二力フィールドは、時折能力の発動を許すという。
つまり学園内に、尿の雨を降らせる能力者がいる――。
メアにとっては忌々しいが、降雨能力は魔人全体でもそこまで珍しいものでは無く、矢達一族以外にも世界各地にいる雨乞い師の一族はたいていその能力を持つ魔人を擁している。
日本において降雨魔人一族の筆頭と言えば……
「雨竜院家……」
より険しさを増した表情で、憎しみを滾らせながら呟いた。
彼らに直接の恨みがあるわけでは無い。ただ、かつての自分たちのような真似を1000年前から、そして未だ続け、それによって地位を得ていることが許しがたかった。
それも、これほど変態的な能力を。この雨を喜ぶ者がどこにいるのか。
確か、同じ1年生に雨竜院家の生徒がいると聞いている。そいつがきっとこの雨を降らせているに違いない。死ねばいいのに。
そう思った時、小さな人影が数m先の女子トイレから出てくるのが見えた。金髪に、小学生と大して変わらぬ中学1年生として見ても一際小さなその少女は、俯いてすんすんと鼻を鳴らしながら、メアの傍を通り過ぎる。
(この子、泣いてる……?)
メアが彼女を横目でちらりと見て頬に涙の跡を認めた時、ふわりと仄かな香りが鼻孔をくすぐった。
それは、外から漂うのと同じ尿臭。発しているのは無論彼女。
(……お漏らししちゃって泣いてるの?)
角を曲がって見えなくなった少女だが、その泣き顔と残り香はメアの心に焼き付いていた。
この少女の名が「雨竜院金雨」だとメアが知るのは、少し後の話。そこで彼女に抱いた殺意が実行に移されるのは、更に2年後のハナシである。
【後半戦へ】
「発動、しない……??」
小金井 真白(こがねい ましろ)はその時、はっきりと自分の体の変調を感じ取った。
彼女の魔人能力、『ゴールドスリープ』 は実に単純な能力である。
彼女が睡眠すると、それにつられて周囲の人間も眠ってしまう。
そしてつられて眠った人間の目が覚めることは永遠に……、無い。
非常に強力な即死能力であるが、しかしてこの能力が通じるのは精神状態が弱っている者のみである。
始めから狂った魔人や、あるいは精神を削る相方がいる場合はともかく、まだ戦いの序盤で敵の気力が十分にある場合には通じない。
彼女が能力発動の絶好の後期を得たのは戦いの終盤。
彼女が能力を発動しようとする少し前、戦いの趨勢は彼女の所属陣営、生徒会へと大きく優位に傾いた。
この戦いに介入してきた
転校生、蓮柄 円(はちすがら まどか)を生徒会陣営の一斉攻撃によって遂に仕留めることに成功したのである。
(もっとも、彼女の死亡が正確に確認されたのは戦いが終わってからではあるが、その息の根を止めた手ごたえがあったことは明白であった)
転校生殺しは、ハルマゲドンにおいて自陣に大きく優位に作用する。それはこのハルマゲドンのルールとして最初に宣告されたことである。
苦境に立った番長Gはそれでも、あきらめずに生徒会へと向かっていった。
しかし、対する生徒会陣営は犠牲を払いながらも、それを的確に迎え打つ。
戦いの中で、番長陣営側の魔人達の精神が徐々に擦り減っているのを小金井達、生徒会陣営は感じ取っていた。
特に前線に立つ番長Gのリーダー、金剛明日火は既に発狂寸前のようだった。
「今だ……っ!!」
戦いの中、遂に生徒会陣営が決断した。真白の能力を使うことを。
番長陣営に一瞬、隙が開いたように見えたからだ。
今、真白の能力を敵の中心で使えば番長Gの陣形は完全に崩壊し、 生徒会の勝利がほぼ確定する。
生徒会は、一気呵成の攻勢に出た。
まずは生徒会最速の魔人、神足が敵陣の奥へと一瞬で切り込む。そのスピードに番長陣営は反応できず、
能力発動後で動けなかった
ミス・ホワイトゴールドが殺害された。
そして、
小金井真白が、番長G達の眼前へと進撃し――、魔人能力の発動を試みる!!
だが……、肝心の真白の能力が発動しなかった。
「そんな、どうして……?」
何故、眠れないのか?? 能力の発動は確かに行われようとした。だが、それに失敗してしまったのだ。
魔人能力の発動は確かに、100%必ずいつでも発動できるものとは限らないものも多い。能力者の体調、周囲の環境、状況によっては発動が失敗してしまうこともある。
だが、よりにもよって、この局面で……?
その時、真白ははっきりと感じ取った。
彼女は今、自分がどうやっても能力を発動できない状態に置かれているのだ、ということを。
「あれが……まさか……」
確かに違和感は前からあった。戦いの中、先ほど死んだ番長Gの一人、ミス・ホワイトゴールドが少し前に何らかの能力を自らに使っていたのだ。
だがその時点では体に特に変調は無い。能力の発動も試みようと思えばできる。そう思った。
無理をせずに引く選択肢もあったかもしれない。だが、ここは番長Gに止めを刺す絶好の機会。
様々な思慮の元、限られたわずかな時間の中、自分を含む生徒会陣営の総意によって、自分たちは攻撃を選択した。
だが、それは間違いだったというのか……。
複雑な思考が真白の中を駆け巡る。
だが、もう彼女に後悔をする時間は残されていなかった。
「さようなら」
「私の『歯・廻・皇』は…削りとると狂い悶えるのだ、喜びでな!」
真白の眼前に前半戦における番長G最大の攻撃力を持つ魔人、
泉谷夕真(いずみや ゆま)と歯喰 舞羽(はくい まえば)の二人が迫っていた。
真白は生徒会陣営で最大の耐久力を誇る魔人であったが、この二人の同時攻撃を受けてしまってはひとたまりもない。
真白は、一瞬の内に彼女たちが振るうナイフと歯科医用ドリルによって全身をズダズダにされて死亡した。
「一気に捻り潰しちゃえ~~、シシシシ!!」
番長のリーダー、金剛明日火が号令をかける。真白の思わぬ死亡で目論見が崩れた生徒会陣営の魔人達が
一人、また一人と番長陣営に命を狩られていく。
形成は、完全に逆転した。結局戦いはそのまま番長陣営の逆転勝利で終わったのだった。
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「これが、戦い(ハルマゲドン)……」
戦いが終わり、引き合げを始める番長Gの仲間たちを横目に、雨竜院金雨(うりゅういんかなめ)は、まだ戦いの余韻が冷めやらぬ中にいた。
皆、勝利の喜びに浸っている。しかし彼女はそんな喧噪の中で一人まだ実感が沸かずにいた。彼女の仲間たちの死に対して、である。
彼女は去り際、戦場の隅に眼をやった。
そこには打ち捨てられたままの
覇隠瓢湖(はがくれ ひょうこ)の死体がある。
彼女とは、この戦いが始まった時から仲良くなった。互いに姉想いという共通点があることから、二人が打ち解けるのに時間はかからなかった。
わずか数日の付き合いながらも心を通い合わせた親友。しかし、その彼女も今や物言わぬ死体である。
前半戦が始まる少し前、金雨は戦いを前に迷いを抱える自分と瓢湖に対し、瓢湖の姉、流の霊から激励を受けた。
戦いの厳しさ、戦いの残酷さ、それらを教えられ、戦いへの覚悟を問われた。
そして金雨は瓢湖と二人で、例え何があろうと、自分たちはこの戦いを乗り越え、勝利し、自分たちの願いを叶える。
そう誓い合ったのだった。
しかし、皮肉にもこの戦いで真っ先に死んだのは、その親友、覇隠瓢湖であった。
「キムチでもいい?」
戦いの序盤、にらみ合いが続く中、敵陣に切り込んできた生徒会の魔人、
大宇宙意思子。彼女が謎の言葉を発した瞬間
その少し離れた場所にいた覇隠瓢湖は、体内から大量のキムチが爆裂して死亡したのである。
辺りに未だ漂う唐辛子の匂い。その中で見るも無残な姿と成り果てた親友。
金雨は自分の能力に対して、その汚らわしさに嫌悪感を抱いていたが、こんな悲惨な死に方をする能力と比べるとまだマシなのかもしれないと思う。
(相手の屍を踏み越えて進む……。その戦いの残酷さ、冷酷さ、そして、美しさ)
思い出される、瓢湖の姉、流の言葉。ハルマゲドンは一切の容赦の無い、凄惨な殺し合いである。
その戦いの意味を自分たちは分かったつもりでいても、結局はそうではなかったのかもしれない。
相手を打ち倒す覚悟はあった、己の忌まわしい能力を使う決意も固めていた。
だが、自分の大切な者達までも失う覚悟が本当にあったのか。
この戦いで死んだのは、勿論覇隠瓢湖だけではない。
その少し後には援軍として駆けつけた矢建メア……、彼女もまた自分とは深い因縁を持つ少女であったが、彼女もまた、結局は一瞬の攻防の内に死亡している。
ダンゲロスハルマゲドン、前半戦。
生徒会陣営、総勢10名、増援3名。内、死亡9名。内、発狂1名。
番長G、総勢10名、増援3名。内、死亡5名。内、瀕死1名、発狂1名。
(発狂者、瀕死者は後半戦以降不能)
前半戦は生存数優位により、番長Gの勝利。
その数字だけが戦いの結果として得られたものである。
生者と死者を分けるものに、自分との因縁も運命も何も関係はなく、ただ状況によってそれが決まるのみ。
その残酷な現実を彼女は噛みしめていた。
あれ程恐れていた自分の能力も、結局一切発動する機会は無いまま彼女は前半戦を終えたのである。
自分の存在が、一体どれほど戦いに貢献できていたのかは分からない。
せめて敵への牽制程度にはなれていたのではないかと思うが……。
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「じゃあ、瓢湖ちゃん、行ってくるよ」
そして数日後。
彼女は旧校舎跡に作られた覇隠瓢湖の墓の前にいる。
あの後、あのまま戦場に野ざらしにしておくには忍びないと、彼女は前半戦で死亡した仲間たちの死体を、旧校舎の土の中へと埋葬していた。
力の弱い彼女一人では難儀な作業であった。だが、前半戦から間髪入れずに、戦いは後半戦へと進む。準備の忙しい他の魔人たち手伝ってもらうわけにはいかず、
全ての墓が完成したのは後半戦開始の直前である。
既に後半戦に向かう魔人の陣容は決定されている。
後半戦には瓢湖や自分よりもはるかに強力な能力を持つ魔人達が控えている。彼女の名前は、後半戦の出場者の中には無かった。
だがそれで彼女の出番がないと決まったわけではない。必要な状況となれば、彼女も戦場に向かわざるを得ないだろう。
いつても心を決めておかねばならないのは前半戦と変わらない。いや、むしろ強力な魔人が多いことから、更に気を引き締めねばならない。
勿論、自分の『死』に対しても。
「でも、もう怖くないよね……、今はもう私一人だけの戦いじゃないんだから」
ここに眠る少女達。瓢湖とその他の番長陣営の魔人。
そして、自分たちが殺害した生徒会陣営の魔人。
彼女達の死に応えるためにも、もう歩みを止めるわけにはいかない。
「流さん……」
金雨はふと、心の中で瓢湖の姉に祈りを捧げてみた。
瓢湖の姉、流の霊はこの旧校舎全体に漂っているという。もしかしたら瓢湖ではなく、自分の声にも応えてくれるのではないか?
……だが、いくら待っても流の幻影が姿を見せる気配はない。
やはり自分の声ではその霊を呼び出すことはできないのか。
それとも、もう今の自分に声をかける必要ない、ということなのか。
「やっぽり駄目か」
もう後半戦の開始まで時間は無い。
金雨は最後にもう一度墓に眠る死者たちへ声をかけた後、自分の持つ武傘を力を込めて握り、その場を後にした。
「必ず、勝ってくるよ、皆。だから見守っていて」
金雨は旧校舎を見上げる。
果たして、死んだ瓢湖の霊もまた、この旧校舎を漂っているのだろうか?
彼女は、死して姉と再会できたのだろうか。
その答えは分からない。
ただ一つだけ分かっていること。
それはこの戦いに番長Gが勝利し、自分たちの願いを叶えること。
それこそがただ、死んだ彼女達への最大の贐(はなむけ)にになる、ということだけである。
(了)
【無題】
[女の子にはセンチメンタルなんて感情はない]
自分の胸を大きな槍が貫いたその瞬間
そんな言葉が私の頭の中を過った
それはあるゲームのBGMタイトルであり
そしてあの忌々しい私の母親の最後の言葉であった。
思えば私が[彼女]を知るきっかけとなったのは
そんな母の最後の言葉の意味を調べた事であった
始めは母の意味深な言葉が単なる
ゲームBGMタイトルの引用であると知り
ひどくがっかりした気分になった物だが
母の引き出しを探り、幾つかのCDを発見し
[彼女]の描く世界に触れたとき私の中で何かが萌芽したのを感じた
ディストピアと化した東京の僅かな青空の話
自分が破壊の為の機械人形である事に気付いた女性の話
触れれぬ物に触れるため自らを犠牲にする話
死んだ娘の代わりに自分のクローンを作り人類の進化を託す話
音楽と文章によって綴られた[彼女]の世界を知り
私は自分が何者で、何故ここに居るのかについて
何か重大な事を知った気がした。
そして今それを思い出す意味とはなんだろう?
そんな事を考えると今度は高等部のある生徒の顔が浮んだ
直接会話した事は全く無かったがその存在はずっと知っていた
彼女こそが本物の完璧な輝きを持つプラチナ
聞いた話によると彼女もここに呼ばれており
そして彼女は生徒会についたそうだ
私の力では本物である彼女には傷一つ付ける事はできないだろう
しかし私の奇跡と言う名の爪痕を見せる事はできるはず
それを見て彼女はどんな顔をするだろうか?
驚くだろうか?彼女の事だ、慌てふためく事は無いだろう。
苦虫を噛み潰したような顔をしてくれるだろうか?
それとも全く意に介せず涼しい顔をするだろうか?
もしかすると私のチカラなどとっくに想定済みかもしれない。
そんな事を考えていると私はいつの間にか自分が笑っている事に気付いた
ああ、そういう事か
この言葉を最初に聞いた時は40越えた人間が何を言っているのだと思ったし
今も30近い人間がこんな事を考えるのは我ながら滑稽だと思っていたものだが
それはきっと違うのだろう
今現在少女である者は勿論、嘗て少女であった者
嘗て少女でなかった者、少女となり得る者
恐らくこの言葉はここに呼ばれた者すべてに当て嵌まるのだ
私は本物になれなくても良かった。
ただ見られたかった、気付かれたかった、私の偽りの輝きを
ただその目的に向かってずっと進んでいた
茨の道を突き進み傷ついた事もあったが全ては自分が選んだ拷問なのだ
感傷なんてなにも無い、それ故に傷ついても傷はつかない。
[彼女]の言葉を思い浮かべ
借り物や偽りで出来た自分の人生を振り返り
やがて私という存在は崩れ去った
【無題】
対魔人殲滅兵器 ジェイクは焦っていた。
(スタメンに入ったのはいいが、このままでは俺の能力が使えないじゃないか…)
現在の番長G累積点数は655点。ジェイクの評価点数は850点である。
さらに悪いことにジェイクは術師
ステータスであった。能力が使えなければただの足手まとい。
(まだ間に合うはずだ…人を集めて応援を書いてもらえれば…)
ふらふらと校舎へ向かうジェイク。まずは泉谷夕真を探すことにした。
世話焼きの彼女なら協力を仰ぐのも容易いだろう。
「応援ですか―?もう、そういうことは早く言ってもらわないと。今からだと大変だなあ」
などと言いながらいそいそと支度をしてくれている。目論見通りだ。
「じゃあジェイクさんの似顔絵を書いてあげましょうね―」
スカッ
色鉛筆をつかもうとした彼女の手が空を切った。
「あれっ?あれっ?」
70%霊体の泉谷夕真が物質に干渉できる確率は30%しか無いのである。
(注:ゲーム中はそんなことはありません)
こいつじゃ埒があかない…
ジェイクはその場を立ち去ることにした。
自分の製作者ならどうにかしてくれるはずだ。
せっかく作った兵器が動作不良という状況は見過ごせまい。
そう考え、科学部を訪れたジェイクだったが、部室の扉を開ける直前に思いとどまった。
「ふふふ…人体実験。楽しみだなあ」
中からは部長である十須微音の完全にアレな感じの声が聞こえてくる。
彼女は誰よりもハルマゲドン参加を楽しみにしていた1人、だが、スタメンには入っていない。
3戦目を待ちわびている彼女が、はたして生徒会魔人を殲滅する兵器の手助けをしてくれるだろうか…いや、それどころか妨害すらしかねないのでは…
そんなことがあるはずはないと思いつつも、心の奥底からこみ上げてくる疑念を振り払うことができず、ジェイクは科学室を後にした。
リザーバーは信用出来ない。スタメンの味方に当たろう。
職員室の矢倉三星を訪ねることにした。
彼女はジェイクの設計に多大なアドバイスをしたと聞く。つまり彼女も製作者の1人に当たる。うってつけの人材だ。
先生を味方につければ大量の人員を動員してくれることもアテに出来る。
「ふむ。どこか不具合でも生じたということか?」
厳密にはそうではない。むしろ機能は正常といえる。だが、そう。いわば燃料が足りてないとでも言うべきだろうか。
「ほぉ…なるほどそういうことか。ハッハッ、君は私にプラズマの補充をして欲しかったのだな」
プラズマ!?
自分の能力源はプラズマだっただろうか。いや、違う。断じてそうではなかったはずだ。
プラズマ化はまずい。それはおそらく決定的に使い物にならなくされることを意味するだろう。
「どうした、どこへ行くんだ」
ジェイクは逃げた。それはもう必死に。
「おいコラそこの機械」
どこをどう逃げたのかもわからなくなった頃、背後から何者かに呼び止められた。
「てめぇ、交通ルールを守らねえとはいい度胸してやがんな…」
異様に細長い体躯の長身に、手には一時停止の交通標識、頭には赤いカラーコーン
生徒会の危険田とまれだ。その横には同じく浮鞭 蝋燭。
仲間との遭遇に歓喜しそうになったが、だが、どうみても彼らは有効的では無さそうだ。
「てめえみたいなゴツい機械と交差点で衝突でもしたらどれだけ危険かわかってんのかコラ」
「えへ、えへへ…そのとおりですお姉さま。こんなやつ、拘束して蝋燭漬けにしてしまいましょう」
~~~~~~~ッ!!!!?
慌てたジェイクは上空高く浮遊し、辛くも風紀委員の取締から逃げ切った。
まずい、このままでは時間が…
もう時間は11時半を回っている
そしてこのSSもいい加減に仕上げないと採点に間に合わない。
羽原アキ「あー、悪い。いまちょっと艦これがいいところだからあと6時間くらい待って」
喜田村紫「レズセックスで忙しいから」
御堂筋 藍子「作品の提出には機密情報開示許可が必要になる。そして私にはその権限が与えられていない」
疲れ果て、樹の下に横たわるジェイクを、一人の少女が見つめていた。
少女は扇子を口元に当て、呟いた。
「無生物の屍体からも力を吸い取ることはできるのでしょうかね」
果たしてジェイクの運命やいかに
<ダンゲロス流血少女2戦目に続く>
累積点数とか応援を書いてもらうとか、色々メタいですね!
キャラの特徴を生かしてて非常に面白かったです!
最終更新:2013年08月10日 12:12