ある日。
いつものようにソファで寝ていた鳴神は、近づいてくる気配で起きた。
だが、それが誰かわかった彼はもう一度意識を閉ざす。
少女は男の隣に座って本を読む。
小さな子供が、わざわざ親の近くまで絵本を持ってきて開くのと同じように――
「……何してるんですか、支部長」
「ん? 何って、本を読んでいるんだけれども」
嘘だった。
「何で、ここで本を読んでるんですかっ!?」
「休憩時間にどこで何してようが私の勝手でしょうが」
男の隣に座っていた少女、
水橋麻耶。少女と称すると怒る。年齢的には少女というより妙齢と言ったほうがいい。私の意志は読まれるわけではないから別にいいが。
普段、そこで本を読もうとする少女。
茅原千草。こっちは年齢的には微妙だが、その外見、性格から少女と称するのがいいだろう。そもそも未成年の女性を少女というから呼称などどうでも。
「ど、どいてくださいよぅ」
「休憩時間にどこで何してようが私の勝手でしょうが」
先ほどと同じセリフを、今度は顔をあげて、楽しそうな笑みを浮かべて言う。
彼女とすごした時期はそれほど長くはないが、性格はある程度理解している。人の嫌がることをして、困っている姿を見ることに喜びを感じる、良い性格ではない。
対して茅原は優しく穏やかな性格だ。笑顔か困惑顔かが多い。良い性格であるのだが、ああいった類の者にいじられる可能性は高い性格だ。今こんなふうに。
「あう、ううぅぅ~」
「……わかったならどこか行けば? 本なんかどこでも読めるでしょうに」
また本に目を落とし、それでも口調は楽しげにしている。ちなみに言っておくが、休憩時間は規定で定められているわけではない。一応普通の企業の体裁を保っているため、一般職員は定められた時間に休憩を取っているが、あの支部長はいつも自分の好きな時間で休憩している。たまに一日中休憩をしているような時もあるが。
「わ、私はここで読みたいんですっ!」
「そう。なら床にでも座って読めば?」
必死な訴えをバッサリ切り落とす。いったい何が楽しいんだろうか。
「そ、そんなことっ!!」
「……彼、静かに寝たいようだけど」
茅原の大声に、鳴神がぴくりと動く。それを見た水橋が、にこやかな笑みを浮かべて彼女に告げる。普通、その言葉にその表情は組み合わない。
「あう、ううぅ……」
本を抱きしめ、恨めしそうに見つめる茅原。水橋はそれをみると、よりうれしそうな表情で本に視線を落とす。
「何やってるんだ、あの二人は……」
人形の研究が進まない中、席を外したと思ったら。
私はため息をつきながら、また研究室に戻った。
最終更新:2011年04月27日 18:09